(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5903443
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】固体酸化物燃料電池とその製造方法および燃料極製造のためのテープキャスティング装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20160331BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20160331BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20160331BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20160331BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
H01M4/86 U
H01M8/12
H01M8/02 E
H01M4/88 T
H01M4/90 B
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-547344(P2013-547344)
(86)(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公表番号】特表2014-501437(P2014-501437A)
(43)【公表日】2014年1月20日
(86)【国際出願番号】KR2011010250
(87)【国際公開番号】WO2012091460
(87)【国際公開日】20120705
【審査請求日】2014年10月7日
(31)【優先権主張番号】10-2010-0136730
(32)【優先日】2010年12月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ベ、 ホンユル
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ジュン フン
(72)【発明者】
【氏名】アン、 ジン ス
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ユン ミン
【審査官】
守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−032343(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/119771(WO,A1)
【文献】
特開2008−108647(JP,A)
【文献】
特開平07−045293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 4/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と空気極および燃料極を含む固体酸化物燃料電池において、
前記燃料極は、供給された燃料の改質反応を誘導するシート状の触媒活性層を含み、
前記触媒活性層は、触媒含有量が互いに異なる複数のスラリーによって形成され、
前記触媒活性層内の触媒含有量は、燃料の流れ方向に沿って漸進的に高くなる固体酸化物燃料電池。
【請求項2】
前記触媒活性層は、ニッケル(Ni)触媒を含む、請求項1に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項3】
前記触媒活性層は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)とニッケル(Ni)の複合体から形成される、請求項2に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項4】
前記燃料極は、前記電解質膜に密着する機能層と、前記機能層と前記触媒活性層の間に位置する支持層とをさらに含み、
前記支持層は、前記機能層よりも大きい厚さおよび大きい気孔率を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の固体酸化物燃料電池。
【請求項5】
電解質膜シート、機能層シート、支持層シート、および触媒活性層シートを製造する段階と、
前記電解質膜シート、前記機能層シート、前記支持層シート、および前記触媒活性層シートを順に積層してスタックを形成する段階と、
前記スタックを焼結して電解質膜と、機能層と支持層および触媒活性層を含む燃料極とを製造する段階と、
前記電解質膜上に空気極を形成する段階とを含み、
前記触媒活性層シート内の触媒含有量は、一方向に沿って漸進的に変化する固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項6】
前記電解質膜シート、前記機能層シート、前記支持層シート、および前記触媒活性層シートは、スラリーを利用したテープキャスティング法により製造される、請求項5に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項7】
前記触媒活性層シートは、
触媒含有量が互いに異なる複数のスラリーを準備し、
隣のスラリーとの境界部で隣のスラリーと混合されて漸進的に変換する組成勾配を有する複数のスラリーをベースフィルムの上に並んで塗布した後に乾燥させ、
前記ベースフィルムを除去する過程により製造される、請求項6に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項8】
前記複数のスラリーは、前記ベースフィルムの上に触媒含有量が高い順に配列されて並んで塗布される、請求項7に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項9】
前記複数のスラリーは、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末と酸化ニッケル(NiO)粉末を含み、前記ベースフィルムの上に酸化ニッケル(NiO)粉末の含有量が高い順に配列されて並んで塗布される、請求項8に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項10】
前記スタックの焼結温度は、1,300℃以上1,400℃以下である、請求項5に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項11】
互いに向かった一面に窪んだ貯蔵空間を形成し、互いに結合される上部ケースおよび下部ケースと、
前記上部ケースと前記下部ケースの側面に結合して前記貯蔵空間を密閉させる一対のサイドダムと、
前記下部ケースの内面に設置されて前記貯蔵空間を複数の領域に分離する複数の分離膜と、
前記上部ケースと前記下部ケースのうちのいずれか一つに互いに距離を置いて設置されて前記貯蔵空間の各領域に触媒含有量が互いに異なる複数のスラリーを提供する複数のスラリー注入ノズルとを含み、
前記上部ケースと前記下部ケースは、一側に前記貯蔵空間と連結されたスラリー吐出口を形成する燃料極製造用テープキャスティング装置。
【請求項12】
前記複数の分離膜は、前記スラリー吐出口の最上端よりも低い高さに位置して前記複数のスラリーのうち隣接した二つのスラリーが互いに混合された後に前記スラリー吐出口を通じて排出されるようにする、請求項11に記載の燃料極製造用テープキャスティング装置。
【請求項13】
前記複数の分離膜は、前記下部ケースに分離可能な着脱式で結合して高さが異なる分離膜に交換されたり設置位置が変更される、請求項12に記載の燃料極製造用テープキャスティング装置。
【請求項14】
前記複数のスラリー注入ノズルのうち最外郭に位置する2つのスラリー注入ノズルは、前記一対のサイドダムに設置される、請求項11に記載の燃料極製造用テープキャスティング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物燃料電池に関し、より詳しくは、運転中における温度偏差を低減させるために燃料極の構造を改善した固体酸化物燃料電池とその製造方法および燃料極製造のためのテープキャスティング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物燃料電池は、酸素イオンを通過させる電解質として固体酸化物を使用し、現在開発された多様な種類の燃料電池のうち最も高い温度(700℃〜1,000℃)で作動するため、電力変換効率が最も高い。
【0003】
固体酸化物燃料電池は、メタン、天然ガス、石油ガス、およびガソリンなどの炭化水素系燃料を利用する。水素は、製造と貯蔵および運搬に多くの制約があるため、炭化水素系燃料を高純度の水素リッチガスに改質して使用する。燃料改質は、外部装置(改質器)を利用した外部改質と、運転中における高温を利用して燃料電池内部で行われる内部改質方式に分類される。
【0004】
外部改質方式によりメタンを改質して使用する固体酸化物燃料電池は、平均850℃の作動温度でほぼ150℃の温度偏差を示す。また、メタンのような湿潤天然ガスを内部改質方式により改質して使用する固体酸化物燃料電池の場合、外部改質方式よりも急激な温度偏差を示す。これは改質反応が吸熱反応であることから、燃料を提供される領域で急激な改質反応により温度低下が発生するためである。
【0005】
このような温度偏差は、燃料電池の機械的、化学的耐久性を低下させ、高温部で燃料電池の機械的故障および過度な化学的反応を誘発して性能低下を起こす。また、湿潤天然ガスの代わりに乾燥ガスを使用する場合には、カーボンが生成されて電気化学的反応を阻害するカーボン被毒現象が発生するため、燃料電池の性能を低下させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、燃料電池に投入された燃料が漸進的に改質されるように燃料極の構造を改善して燃料電池全体の温度偏差を低減させることによって、機械的、化学的耐久性と発電性能を高めることができる固体酸化物燃料電池とその製造方法および燃料極製造のためのテープキャスティング装置を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態による固体酸化物燃料電池は、電解質膜と空気極および燃料極を含み、燃料極は、供給された燃料の改質反応を誘導する触媒活性層を含む。触媒活性層は、触媒含有量が互いに異なる複数のスラリーを利用したテープキャスティング法により形成され、触媒活性層内の触媒含有量は、燃料の流れ方向に沿って漸進的に変化する。
【0008】
触媒活性層内の触媒含有量は、燃料の流れ方向に沿って漸進的に高くなることができる。触媒活性層は、ニッケル(Ni)触媒を含むことができる。触媒活性層は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)とニッケル(Ni)の複合体から形成され得る。
【0009】
燃料極は、電解質膜に密着する機能層と、機能層と触媒活性層の間に位置する支持層とをさらに含み、支持層は、機能層よりも大きい厚さおよび大きい気孔率を有することができる。
【0010】
本発明の一実施形態による固体酸化物燃料電池の製造方法は、電解質膜シート、機能層シート、支持層シート、および触媒活性層シートを製造する段階;電解質膜シート、機能層シート、支持層シート、および触媒活性層シートを順に積層してスタックを形成する段階;スタックを焼結して電解質膜と、機能層と支持層および触媒活性層を含む燃料極とを製造する段階;および電解質膜上に空気極を形成する段階を含み、触媒活性層シート内の触媒含有量は、一方向に沿って漸進的に変化する。
【0011】
電解質膜シート、機能層シート、支持層シート、および触媒活性層シートは、スラリーを利用したテープキャスティング法により製造され得る。
【0012】
触媒活性層シートは、触媒含有量が互いに異なる複数のスラリーを準備し、隣のスラリーとの境界部で隣のスラリーと混合されて漸進的に変換する組成勾配を有する複数のスラリーをベースフィルムの上に並んで塗布した後に乾燥させ、ベースフィルムを除去する過程により製造され得る。
【0013】
複数のスラリーは、ベースフィルムの上に触媒含有量が高い順に配列されて並んで塗布され得る。複数のスラリーは、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末と酸化ニッケル(NiO)粉末を含み、ベースフィルムの上に酸化ニッケル(NiO)粉末の含有量が高い順に配列されて並んで塗布され得る。
【0014】
スタックの焼結温度は、1,300℃以上1,400℃以下であってもよい。
【0015】
本発明の一実施形態による燃料極製造用テープキャスティング装置は、互いに向かった一面に窪んだ貯蔵空間を形成し、互いに結合される上部ケースおよび下部ケース;上部ケースと下部ケースの側面に結合して貯蔵空間を密閉させる一対のサイドダム;下部ケースの内面に設置されて貯蔵空間を複数の領域に分離する複数の分離膜;および上部ケースと下部ケースのうちのいずれか一つに互いに距離を置いて設置されて貯蔵空間の各領域に触媒含有量が互いに異なる複数のスラリーを提供する複数のスラリー注入ノズルを含む。上部ケースと下部ケースは、一側に貯蔵空間と連結されたスラリー吐出口を形成する。
【0016】
複数の分離膜は、スラリー吐出口の最上端よりも低い高さに位置して複数のスラリーのうち隣接した二つのスラリーが互いに混合された後にスラリー吐出口を通じて排出されるようにすることができる。
【0017】
複数の分離膜は、下部ケースに分離可能な着脱式で結合して高さが異なる分離膜に交換されたり設置位置が変更され得る。
【0018】
複数のスラリー注入ノズルのうち最外郭に位置する2つのスラリー注入ノズルは、一対のサイドダムに設置され得る。
【発明の効果】
【0019】
本実施例による固体酸化物燃料電池によると、特定領域で燃料が急激に改質されず、流れ方向に沿って均一に改質されるようにして単位電池の温度偏差を最少化することができる。したがって、単位電池の機械的、化学的耐久性を高め、発電性能を向上させることができる。また、燃料極の触媒活性層は、一回のテープキャスティング工程で製造されて製造過程を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明による固体酸化物燃料電池の構成図である。
【
図2】
図1に示した固体酸化物燃料電池中の触媒活性層の正面図である。
【
図3】本発明による固体酸化物燃料電池の製造方法を示す工程フローチャートである。
【
図4】本発明による燃料極製造用テープキャスティング装置を示した分解斜視図である。
【
図5】
図4に示したテープキャスティング装置の結合状態斜視図である。
【
図6】
図5に示したテープキャスティング装置中のスラリー吐出口を示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による固体酸化物燃料電池用単位電池について説明する。参考までに、本発明を説明するにあたって、関連した公知の機能または構成に関する具体的な説明が本発明の要旨を不明確にすると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0022】
図1は、本発明による固体酸化物燃料電池の構成図であり、
図2は、
図1に示した固体酸化物燃料電池中の触媒活性層の正面図である。
【0023】
図1と
図2を参照すると、固体酸化物燃料電池は、複数の単位電池100を含み、それぞれの単位電池100は、電解質膜10と、電解質膜10の一面に形成された燃料極20と、電解質膜の他の一面に形成された空気極30とを含む。燃料極20と空気極30の外側には分離板(図示せず)が位置し、分離板に形成された流路を通じて燃料極20と空気極30に空気と燃料がそれぞれ提供される。
【0024】
固体酸化物燃料電池に投入される燃料は、メタン、天然ガス、石油ガス、およびガソリンなどの炭化水素系燃料であって、改質されていない状態で供給される。固体酸化物燃料電池は、運転中における高温を利用して燃料電池内部で燃料を改質する内部改質方式で作動する。
【0025】
電解質膜10は、緻密に構成されて燃料ガスと空気の透過を遮断し、電子伝導性はないが酸素イオン伝導性は高い物質で形成されなければならない。反面、空気極30と燃料極20は、多孔質で構成されて空気と燃料ガスが良好に拡散供給されるようにし、高い電子伝導性を有さなければならない。
【0026】
空気極30では酸素の還元反応が起きて酸素イオンが生成され、電解質膜10を通じて燃料極20に移動した酸素イオンは燃料極20の水素と反応して水蒸気を生成する。この時、燃料極20では電子が生成され、空気極30では電子が消耗されるため、二つの電極20、30を連結する外部回路に電気が流れる。
【0027】
燃料極20は、単位電池の機械的強度を高めるための支持層22と、提供された燃料を漸進的に改質して温度偏差を低減させるための触媒活性層23とを含む。つまり、燃料極20は、電解質膜10と接触して電気化学反応が起こる機能層21と、機能層21に接合された支持層22と、支持層22に接合された触媒活性層23とを含む。
【0028】
機能層21と支持層22および触媒活性層23は共にイットリア安定化ジルコニア(YSZ:Yttria−Stabilized Zirconia)とニッケル(Ni)の複合体からなることができる。
【0029】
支持層22は、機能層21および触媒活性層23よりも大きい厚さに形成されて単位電池100の機械的強度を高め、機能層21よりも大きい気孔率を示して機能層21に向かった燃料ガスの供給能力を高める。触媒活性層23は、燃料極20のうち電解質膜10と最も遠く位置し、分離板の流路と向き合って燃料を最も先に提供される。
【0030】
燃料極20と向き合う分離板の流路は、燃料注入口および燃料排出口と連結される。燃料排出口では未反応燃料と電気化学反応の副産物である水蒸気が排出される。触媒活性層23には燃料注入口から燃料排出口に向かう一定した燃料流れ方向が存在する。
【0031】
燃料極20内のイットリア安定化ジルコニア(YSZ)は酸素イオンを伝達する役割を果たし、ニッケル(Ni)は電子を移動させる役割を果たす。また、ニッケル(Ni)は優れた触媒効果により円滑な内部改質反応を起こす。したがって、燃料極20に提供された燃料は、触媒活性層23を移動しながら水素リッチガスに改質され、水素リッチガスは支持層22を経て機能層21に供給される。
【0032】
触媒活性層23は、燃料の流れ方向に沿って触媒含有量が漸進的に変化するように形成される。つまり、触媒活性層23は、触媒含有量が互いに異なる複数の領域を含むが、複数の領域は隣の領域と境界が区分されないように漸進的に変換する組成勾配を有する。
【0033】
触媒活性層23内の触媒含有量は、燃料の流れ方向に沿って漸進的に高くなる。したがって、触媒活性層23のうち燃料注入口と最も近い領域では触媒含有量が最も低く、燃料排出口と最も近い領域では触媒含有量が最も高い。この時、触媒は、ニッケル(Ni)を意味する。
【0034】
前述した触媒含有量の差により触媒活性層23のうち燃料を最も先に提供される領域では燃料の改質反応を抑制し、燃料排出口に向かうほど燃料の改質反応を活性化して燃料が流れ方向に沿って漸進的に改質されるようにする。燃料の改質反応は吸熱反応であるため、改質反応の程度により温度低下が発生する。
【0035】
本実施形態の固体酸化物燃料電池では、燃料が特定領域で急激に改質されず、流れ方向に沿って均一に改質されるため、単位電池100の温度偏差を最少化することができる。したがって、固体酸化物燃料電池全体の温度分布を均一化されて単位電池100の機械的、化学的耐久性を高め、発電性能を向上させることができる。
【0036】
もし、触媒含有量が互いに異なる領域を繋ぎ合せて触媒活性層を形成する場合を仮定すると、領域間の境界部位で急激な組成変化が発生するため、燃料が移動しながら急激な改質反応の変化を起こす。しかし、本実施形態では、触媒活性層23に不連続的な境界が存在しないため、均一な改質反応を誘導することができる。
【0037】
図3は、本発明による固体酸化物燃料電池の製造方法を示す工程フローチャートである。
【0038】
図3を参照すると、固体酸化物燃料電池の製造方法は、電解質膜シート、機能層シート、支持層シート、および触媒活性層シートを製造する第1段階(S100)と、電解質膜シート、機能層シート、支持層シート、および触媒活性層シートを順に積層して積層体を形成する第2段階(S200)と、積層体を焼結して機能層と支持層および触媒活性層を含む燃料極と電解質膜を製造する第3段階(S300)と、電解質膜上に空気極を形成する第4段階(S400)とを含む。
【0039】
第1段階(S100)で、電解質膜シート、機能層シート、支持層シート、および触媒活性層シートのそれぞれはテープキャスティング法により製造され得る。テープキャスティング法は、ベースフィルムの上にスラリーを塗布した後に乾燥してシートを作り、ベースフィルムとシートを所望の大きさに切断および加工した後、ベースフィルムを除去する過程からなる。
【0040】
電解質膜シートの製造のためのスラリーは、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末を含むことができる。機能層の製造のためのスラリーは、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末と酸化ニッケル(NiO)粉末を含むことができる。支持層の製造のためのスラリーは、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末と酸化ニッケル(NiO)粉末および気孔形成剤粉末を含むことができる。
【0041】
電解質膜シートと機能層シートおよび支持層シートは単一の組成のスラリーを利用して製造される。したがって、電解質膜シートと機能層シートおよび支持層シートは、燃料の流れ方向に関係なく単一の組成を示す。反面、触媒活性層シートは、触媒含有量が互いに異なる複数のスラリー、好ましくは3つ以上のスラリーを利用し、一回のテープキャスティング工程により製造される。
【0042】
図4と
図5は、それぞれ
図1に示した固体酸化物燃料電池中の触媒活性層の製造のためのテープキャスティング装置を示した分解斜視図と結合状態斜視図であり、
図6は、
図5に示したテープキャスティング装置中のスラリー吐出口を示した正面図である。
【0043】
図4〜
図6を参照すると、テープキャスティング装置200は、上部ケース41、下部ケース42、一対のサイドダム43、および複数の分離膜44を含む。
【0044】
上部ケース41には、長さ方向に沿って互いに距離を置いて複数のスラリー注入ノズル45が設置される。そして、上部ケース41の内面と下部ケース42の内面には、提供されたスラリーを貯蔵する窪んだ貯蔵空間46が形成される。貯蔵空間46は、上部ケース41と下部ケース42の長さ方向に沿って上部ケース41と下部ケース42の内面全体に形成される。
【0045】
一対のサイドダム43は、上部ケース41と下部ケース42の側面に結合して貯蔵空間46を密閉させる。上部ケース41と下部ケース42の一側には、スラリーを吐出するスラリー吐出口47が形成される。スラリー吐出口47の長さは、上部ケース41および下部ケース42の長さと同一に形成されてもよい。
【0046】
複数の分離膜44は、下部ケース42の貯蔵空間46で互いに距離を置いて配置されて下部ケース42の貯蔵空間46をスラリー注入ノズル45の個数と同一な複数の領域に分離させる。分離膜44は、下部ケース42のスラリー吐出口47に向かって拡張された拡張部441を形成することができる。分離膜44と拡張部441は、スラリー吐出口47の最上端よりも低い高さに位置して分離膜44と拡張部441の上部で隣接した2つのスラリーが互いに混合されるようにする。
【0047】
図6で、分離膜と拡張部441の最上端位置をh1で表示し、スラリー吐出口47の最上端位置をh2で表示した。分離膜と拡張部441は、スラリー吐出口47の最上端よりも低い高さに位置して分離膜と拡張部441の上部で隣接した二つのスラリーが互いに混合され得る空間を提供する。
【0048】
図4と
図5では、3つのスラリー注入ノズル45を例に挙げて示したが、スラリー注入ノズル45と分離膜44の個数は示した例に限定されない。
【0049】
また、
図4と
図5では、スラリー注入ノズル45が上部ケース41に設置された場合を例に挙げて示したが、スラリー注入ノズル45は下部ケース42に設置されることもできる。この場合、スラリー注入ノズル45は、図面を基準にスラリー吐出口47の反対側、つまり、下部ケース42の裏面に設置され得る。また、複数のスラリー注入ノズル45のうち最外郭に位置する2つのスラリー注入ノズルは一対のサイドダム43に設置され、中間のスラリー注入ノズルは上部ケース41と下部ケース42のうちのいずれか一つに設置され得る。
【0050】
複数のスラリー注入ノズル45を通じて触媒含有量が互いに異なる複数のスラリーをテープキャスティング装置200に投入する。図面を基準に左側と中間および右側のスラリー注入ノズル45にそれぞれ第1スラリーと第2スラリーおよび第3スラリーを投入する場合を仮定すると、触媒含有量は第1スラリーと第2スラリーおよび第3スラリーの順に高いか、または第3スラリーと第2スラリーおよび第1スラリーの順に高い。
【0051】
投入された複数のスラリーは、貯蔵空間46に臨時貯蔵された後、スラリー吐出口47を通じてベースフィルムの上に塗布される。この時、複数の分離膜44が貯蔵空間46をスラリー種類別に分離させているが、分離膜44はスラリー吐出口47の最上端よりも低い高さに位置するため、隣接した2つのスラリーは互いに混合された後にスラリー吐出口47に排出する。
【0052】
したがって、ベースフィルムの上に並んで塗布された複数のスラリーは、隣のスラリーと境界が区分されないように混合されて漸進的に変化する組成勾配を示す。前述したテープキャスティング装置200を利用して触媒含有量が漸進的に変化する触媒活性層シートを一回のテープキャスティング工程により容易に製造することができる。テープキャスティング工程は大量生産が可能であり、十分な厚さのシートを製造するのに適する。
【0053】
複数の分離膜44は、下部ケース42に分離可能な着脱式で結合して高さが異なる分離膜に交換されたり、設置位置が変更され得る。したがって、分離膜44の高さを調節してスラリーが混合される程度を制御することができ、分離膜44の位置を変更して各スラリー塗布領域の大きさを調節することができる。
【0054】
再び
図3を参照すると、第2段階(S200)で、電解質膜シート、機能層シート、支持層シート、および触媒活性層シートは、自動積層器を利用して順に積層され、加圧装置を利用して予備圧縮され得る。積層体で電解質膜シートと機能層シートは一枚で備えられ、支持層シートと触媒活性層シートは2枚以上で備えられ得る。
【0055】
第3段階(S300)で、スタックは焼結炉に装入されて同時焼結される。スタックの焼結温度は、1,300℃以上1,400℃以下であってもよい。焼結温度が1,300℃未満であれば積層体が十分に焼結されず機械的強度が低下し得、電解質膜の緻密度が落ちて漏れが発生し得る。一方、焼結温度が1,400℃を超えれば積層体が過焼結されて焼結体内の気孔度が低くなって燃料ガスの伝達効率が低下し得る。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0057】
〔実施例〕
イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末に溶媒、結合剤、可塑剤、および分散剤を混合粉砕して電解質スラリーを製造し、テープキャスティング法を利用して5μm〜10μm厚さの電解質シートを製作した。イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末としては、8mol%のイットリア(Y
2O
3)が含まれている8−YSZを使用した。
【0058】
イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末と酸化ニッケル(NiO)粉末に溶媒、結合剤、可塑剤、および分散剤を混合粉砕して機能層スラリーを製造し、テープキャスティング法を利用して10μm〜30μm厚さの機能層シートを製作した。イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末としては、8mol%のイットリア(Y
2O
3)が含まれている8−YSZを使用した。
【0059】
イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末と酸化ニッケル(NiO)粉末および気孔形成剤粉末に溶媒、結合剤、可塑剤、および分散剤を混合粉砕して支持層スラリーを製造し、テープキャスティング法を利用して50μm〜200μm厚さの支持層シートを製作した。イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末の比率は、25wt%〜50wt%であり、酸化ニッケル(NiO)の比率は、40wt%〜70wt%である。気孔形成剤粉末は、カーボンブラックと黒鉛のうちの少なくとも一つを含む。
【0060】
イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末と酸化ニッケル(NiO)粉末および気孔形成剤粉末に溶媒、結合剤、可塑剤、および分散剤を混合粉砕して複数の触媒活性層スラリーを製造し、前述したテープキャスティング装置を利用して一方向に沿って触媒含有量が漸進的に変化する触媒活性層シートを製作した。気孔形成剤粉末は、カーボンブラックと黒鉛のうちの少なくとも一つを含む。
【0061】
複数の触媒活性層スラリーとしては、互いに異なるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)含有量と酸化ニッケル(NiO)含有量を有する三種類のスラリーを使用した。イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉末と酸化ニッケル(NiO)粉末および気孔形成剤粉末の総重量を100とする時、第1スラリーと第2スラリーおよび第3スラリーのそれぞれに含まれているこれら三つの粉末の比率を下記表に示した。
【表1】
【0062】
触媒活性層シートの厚さは、10μm〜50μmであり、三種類のスラリー塗布領域の間に不連続的な境界が発生しなかった。
【0063】
製作された電解質膜シート、機能層シート、支持層シート、および触媒活性層シートを自動積層器を利用して順に積層した後、温間等方圧プレス(warm iso−static press)を利用してスタックで一体化した。電解質膜シートと機能層シートをそれぞれ1枚ずつ積層し、支持層シートと触媒活性層シートをそれぞれ2枚以上積層し、各シートの大きさは縦45cm、横36cmである。
【0064】
前述したスタックを焼結炉に装入して1,300℃〜1,400℃で同時焼結を行った。同時焼結による収縮率は、横方向と縦方向共にほぼ18%であり、焼結体の周縁を除去した後に最終的に縦32cm、横25cm、断面積800cm
2の大きさを有する単位電池を製作した。
【0065】
複数の単位電池を組み合わせて燃料電池スタックを製造した。この過程で単位電池は触媒活性層のうち触媒含有量が最も低い領域が分離板の燃料注入口と近く位置し、触媒含有量が最も高い領域が分離板の燃料排出口と近く位置するように組立てられる。したがって、触媒活性層は、燃料の流れ方向に沿って燃料を漸進的に改質して単位電池の温度偏差を最少化する。
【0066】
以上で本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲と発明の詳細な説明および図面の範囲内で多様に変形して実施することが可能であり、これも本発明の範囲に属すること当然である。