(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
まず、
図1および
図3を用いて、本実施形態に係る熱処理装置の基本的な構成例について説明する。ここで、
図1は、本実施形態に係る熱処理装置の基本的な構成例を示す概略図である。また、
図3は、本実施形態に係る熱処理装置の焼終りにおいて第一冷却水放出部および第二冷却水放出部により冷却水を放出した状態を説明するための概略図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係る熱処理装置100は、環状のワークWを載置することができるテーブル11と、ワークWの周面を熱処理加工するための一対の熱処理加工部20(20a,20b)と、を有して構成される。
【0016】
ワークWは、熱処理加工が施される加工材料である。本実施形態におけるワークWは、例えば、旋回軸受を構成する外輪や内輪などであり、断面視が略台形状もしくは略矩形状となっている。また、熱処理加工は、旋回軸受の転動体転走面に対して行われる。
【0017】
テーブル11は、ワークWを載置することができるものであり、本実施形態に係るテーブル11は、平面視略円形状となっている。そして、ワークWを後述するクレーン17によってテーブル11上に載置し、固定することで、熱処理加工を行うことができる状態とすることが可能となっている。そして、テーブル11は、テーブル11の中心を回転中心軸として回転可能となるように構成される(ただし、本実施形態では、熱処理加工を行う際にテーブル11は回転させず、固定された状態としている。)。
【0018】
熱処理加工部20は、ワークWの周面を熱処理加工するためのものであり、ワークWを加熱するための加熱コイル21(21a,21b)と、ワークWを冷却するための第一冷却水放出部23(23a,23b)と、ワークWを冷却するための第二冷却水放出部25(25a,25b)と、を備えて構成されている。そして、熱処理加工部20は、テーブル11に対して相対的に旋回移動が可能な旋回アーム30に設置され、ワークWの周面に対して熱処理加工を行うことができるようになっている。
【0019】
加熱コイル21は、ワークWの周面に対して対向配置可能となるように構成される。そして、ワークWの周面を加熱することができるようになっている。
【0020】
第一冷却水放出部23は、加熱コイル21に併設されるとともに冷却水を放出することができるように構成される。そして、第一冷却水放出部23は、例えば
図3にて示されるように、加熱コイル21が併設されている第一冷却水放出部23の側面とは反対側の第一冷却水放出部23の側面に複数の孔を開けて、冷却水を放出することとすることができる。また、第一冷却水放出部23のワークWと対向する面に複数の孔を開けて、冷却水を放出することができることとしても良いし、第一冷却水放出部23の側面と、第一冷却水放出部23のワークWと対向する面との両部材に、複数の孔を開けることとしても良い。
【0021】
第二冷却水放出部25は、例えば
図3にて示されるように、加熱コイル21と重畳する位置に設置されるとともに冷却水を放出することができるように構成される。そして、第二冷却水放出部25のワークWと対向する面に、例えば、複数の孔を開けることで、冷却水を放出することができるようにすることができる。また、例えば、加熱コイル21のコアに複数の孔を開け、冷却水を放出することができるようにしても良い。そして、例えば、加熱コイル21の銅管と銅管との間であって、ワークWと対向する面に、第二冷却水放出部25の複数の孔が位置するように配置することができる。
【0022】
さらに、
図1に示すように、本実施形態に係る熱処理装置100は、熱処理加工部20をワークWの焼終り箇所から退避させた後にワークWを冷却するための冷却装置26が、ワークWの焼終り箇所となるテーブル11上に固定設置される。この冷却装置26は、例えば、旋回軸受の外輪や内輪となるワークWと対向して設置され、ワークWと対向する面に複数の孔を開けて、冷却水を放出することができるようにすることができる。
【0023】
以上、本実施形態に係る熱処理装置100の基本的な構成例について、説明した。次に、
図2および
図3を用いて、本実施形態に係る熱処理装置の基本的な動作例について、説明する。ここで、
図2は、本実施形態に係る熱処理装置の状態を示す概略図であり、図中の分図(a)が焼始めの状態を示す概略図であり、図中の分図(b)が焼始めと焼終りとの間の状態を示す概略図であり、図中の分図(c)および分図(d)が焼終りの状態を示す概略図である。なお、
図2において、網掛けされている部分は、本実施形態に係る熱処理装置100によって熱処理加工が完了したワークWの部分を示している。
【0024】
本実施形態に係る熱処理装置100では、焼始めにおいては、
図2の分図(a)に示すように、一対の熱処理加工部20(20a,20b)は、互いに隣接して配置される。
【0025】
そして、紙面左側の熱処理加工部20aは、ワークWの周面に沿って紙面左上方向に移動しながら、熱処理加工部20aに含まれる加熱コイル21aがワークWを加熱することとなる。そして、加熱コイル21aによって加熱されたワークWは、第一冷却水放出部23aによって順次冷却されることとなる。より詳しくは、熱処理加工部20aは紙面左上方向に旋回移動しながら、熱処理加工部20aと対向する面のワークWの周面を加熱コイル21aが加熱し、その後に加熱されたワークWに対して、第一冷却水放出部23aが冷却水を放出することによって、ワークWは冷却され、熱処理加工(焼入れ)が行われることになる。
【0026】
一方、紙面左側の熱処理加工部20aと同様に、紙面右側の熱処理加工部20bは、ワークWの周面に沿って紙面右上方向に移動しながら、熱処理加工部20bに含まれる加熱コイル21bがワークWを加熱し、加熱されたワークWは、第一冷却水放出部23bによって順次冷却されることとなる。より詳しくは、熱処理加工部20bは紙面右上方向に旋回移動しながら、加熱コイル21bが熱処理加工部20bと対向する面のワークWの周面を加熱し、その後に加熱されたワークWに対して、第一冷却水放出部23bが冷却水を放出することによって、ワークWは冷却され、熱処理加工(焼入れ)が行われることになる。
【0027】
このような動作により、一対の熱処理加工部20(20a,20b)は、ワークWの周面の全周にわたって熱処理加工(焼入れ)を施していくこととなる。
【0028】
そして、
図2の分図(b)に示すように、焼始めと焼終りとの略中間の位置に一対の熱処理加工部20(20a,20b)が移動してくると、ワークWの略半分が熱処理加工(焼入れ)されたことになる。
【0029】
図2の分図(b)に示された熱処理装置100では、紙面左側の熱処理加工部20aは、ワークWの周面に沿って紙面右上方向に旋回移動しながら、熱処理加工部20aに含まれる加熱コイル21aによってワークWの周面を加熱し、加熱されたワークWは、その後に旋回移動してくる第一冷却水放出部23aから放出される冷却水によって順次冷却されることとなる。
【0030】
また、紙面右側の熱処理加工部20bは、ワークWの周面に沿って紙面左上方向に旋回移動しながら、熱処理加工部20bに含まれる加熱コイル21bによってワークWの周面を加熱し、加熱されたワークWは、その後に旋回移動してくる第一冷却水放出部23bから放出される冷却水によって順次冷却されることとなる。
【0031】
以上のように熱処理加工を進めることで、一対の熱処理加工部20(20a,20b)は、
図2の分図(c)に示すように、互いに隣り合う位置まで移動することになる。
【0032】
そして、一対の熱処理加工部20(20a,20b)は、焼終りに近づくと、移動速度を緩めながら旋回移動することで、熱伝導によりワークWの焼終り部分を加熱することができる構成を有している。
【0033】
一対の熱処理加工部20(20a,20b)が互いに隣り合う位置まで移動し、加熱コイル21(21a,21b)の移動が停止したときには、第一冷却水放出部23(23a,23b)から放出される冷却水による冷却に加え、第二冷却水放出部25(25a,25b)から放出される冷却水による冷却を含めて、冷却を実施することになる。より詳しくは、例えば
図3にて示すように、第一冷却水放出部23(23a,23b)の側面から放出される冷却水と、加熱コイル21(21a,21b)と重畳する位置に設置される第二冷却水放出部25(25a,25b)から放出される冷却水とによって、焼終り箇所におけるワークWの周面全域の冷却が行われることとなる。
【0034】
そして、第二冷却水放出部25(25a,25b)によって適切にワークWの冷却が実施された後、一対の熱処理加工部20(20a,20b)を焼終り箇所から退避させ、
図2の分図(d)に示すように焼終り箇所に固定設置された冷却装置26によってワークWの冷却を更に進めることとなる。なお、一対の熱処理加工部20(20a,20b)の焼終り箇所からの退避は、熱処理加工を行った熱処理加工部20(20a,20b)の移動方向とは逆方向に一対の熱処理加工部20(20a,20b)を移動させれば良い。
【0035】
ところで、従来技術では、一対の加熱コイル21(21a,21b)が隣り合う位置まで移動することで、加熱コイル21(21a,21b)の旋回移動が停止する状態となったときに、第一冷却水放出部23(23a,23b)が位置する箇所に対向するワークWの周面部分以外の箇所は、第一冷却水放出部23(23a,23b)では、冷却が十分に実施されないことになる。そこで、従来技術では、焼終り箇所に対して別途の冷却装置を設置し、焼終り箇所の中央部分に向けて冷却水を放出することを行っていた。しかしながら、このような冷却方法では、第一冷却水放出部23(23a,23b)による冷却箇所と、別途の冷却装置による冷却箇所との境界部分に十分な冷却ができない箇所が生じてしまい、当該箇所にて、ワークWの内部からの熱伝導による再度の昇温箇所が発生してしまい、焼鈍しが起き、所望の性質を有するワークWを得ることが難しい場合があった。
【0036】
そこで、本実施形態に係る熱処理装置100では、加熱コイル21(21a,21b)によって加熱されたワークWの周面の冷却を、第二冷却水放出部25(25a,25b)から放出される冷却水を含めて実施することによって、焼終り箇所における高い冷却効果を維持することが可能となった。すなわち、本実施形態では、第二冷却水放出部25(25a,25b)を設置することによって、ワークWの内部からの熱伝導による再度の昇温を効果的に防止することが可能となった。
【0037】
また、焼終りに近づいたときに、一対の熱処理加工部20(20a,20b)の移動速度を緩め、加熱コイル21(21a,21b)によって加熱されたワークWを、第一冷却水放出部23(23a,23b)、第二冷却水放出部25(25a,25b)および冷却装置26によって冷却することによって、焼始めから焼終りまでの全領域について順次焼入れを行うことができるようになり、焼割れを防ぐことができるようになった。ここで、焼割れは、ワークWの焼入れを行った際の熱膨張に起因して発生するものであるので、本実施形態のように、ワークWが焼始めから焼終りまで順次焼入れされることで、ワークWの焼割れを好適に防止することができることとなる。
【0038】
したがって、本実施形態に係る熱処理装置100によれば、ワークWの周面の全周にわたって熱処理加工が行われることとなり、全周にわたって一様な硬化層が形成された環状のワークWを得ることができるようになる。
【0039】
一対の熱処理加工部20(20a,20b)の移動速度を緩める位置に関しては、例えば、一対の熱処理加工部20(20a,20b)が、ワークWの中心を回転軸として172°移動したときとすることができる。すなわち、本実施形態に係る熱処理装置100では、焼終り箇所の近傍の8°+8°=16°の範囲を減速しながらの熱処理加工部20(20a,20b)による加熱領域に設定することが好適となっている。
【0040】
ただし、本発明の範囲は、これらに限定されることはなく、焼始めから焼終りまで順次焼入れが行われ、所望の性質を有するワークWが得られれば、どの様な条件を用いても良く、加熱・冷却条件やワークWの組成などによって適宜調節することができる。
【0041】
以上、本実施形態に係る熱処理装置100の基本的な動作例について、説明した。次に、本実施形態に係る熱処理装置100の全体の構成例について、
図4〜
図6を用いて、説明する。ここで、
図4は、本実施形態に係る熱処理装置100の全体の構成例を示す図であり、
図5は、本実施形態に係る熱処理装置のテーブルを説明するための概略図であり、図中の分図(a)は、本実施形態に係る熱処理装置のテーブルの平面図であり、図中の分図(b)は、本実施形態に係る熱処理装置のテーブルの側面図である。そして、
図6は、本実施形態に係る熱処理装置の加熱コイルを説明するための概略図である。
【0042】
図4に示すように、本実施形態に係る熱処理装置100は、テーブル11などの基礎となるベース13と、テーブル11を回転させるための回転部15と、回転部15に載置されるテーブル11と、テーブル11に対して相対的に旋回移動が可能な一対の旋回アーム30と、一対の旋回アーム30にそれぞれ設置される一対の熱処理加工部20と、を有して構成される。
【0043】
ベース13は、本実施形態に係る熱処理装置100の基礎となるものである。そして、ベース13上に回転部15が設置される。
【0044】
図4および
図5の分図(b)に示すように、回転部15は、軸受14を介して固定ケーシング16の内部に立設して設けられている。この回転部15は、モータ12とギア接続されることで、モータ12からの伝動により回転可能となっている。また、
図4および
図5の分図(b)に示すように、回転部15の上方にはテーブル11が固定設置されており、回転部15の回転中心軸とテーブル11の中心とが一致した状態となっている。したがって、モータ12からの伝動により回転部15が回転すると、回転部15の上方に設置されたテーブル11が回転運動することとなる。また、固定ケーシング16の外周側には、軸受34が設置されており、後述する旋回アーム30の下側アーム33が軸受34を介して接続されている。
【0045】
テーブル11は、
図5の分図(a)に示すように、平面視略円形状となっており、テーブル11上には、ワークWを取り付けるためのクランプ機構19が設置され、クランプ機構19によってワークWをテーブル11に取り付けることができるようになっている。
【0046】
クランプ機構19は、環状のワークWの直径などに合わせて伸縮することができるように構成されている。そして、
図5の分図(a)に示すように、例えば、最小直径1500mmのワークWminから最大直径3100mmのワークWmaxに対応し、ワークWminやワークmaxをテーブル11の上に載置するとともに固定し、熱処理加工をすることができるようになっている。
【0047】
ワークWをテーブル11上に載置し、クランプ機構19によって固定するためには、電動のクレーン17を用いることができる。本実施形態に係るクレーン17は、I形鋼に引っ掛けられて構成されている。ここで、クレーン17は、ワークWを水平方向および垂直方向に移動させることができるものであれば良い。
【0048】
旋回アーム30は、テーブル11に対して相対的に旋回移動が可能なものであり、モータ35とタイミングベルト等を介して接続されることで、モータ35からの伝動により回転可能となっている。この旋回アーム30の下側を構成する下側アーム33の上にトランス41などを介して熱処理加工部20が設置される。モータ35からの伝動により旋回アーム30がテーブル11に対して相対的に旋回移動すると、旋回アーム30に含まれる下側アーム33上に設置された熱処理加工部20も旋回移動することとなる。したがって、この旋回アーム30により、熱処理加工部20は、環状のワークWの周面に沿って移動することができるようになり、ワークWの周面に対して熱処理加工を行うことができるようになっている。
【0049】
図4に示すように、旋回アーム30は、旋回アーム30の上側を構成する上側アーム31と、上側アーム31と略垂直に接するように配置される垂直アーム32と、下側アーム33と、から構成され、外観が側面視で略コの字形状となっている。
【0050】
下側アーム33は、
図4に示すように、軸受34を介して固定ケーシング16に旋回可能な状態で接続される。そして、下側アーム33を含む旋回アーム30は、回転部15(すなわち、テーブル11)とは別々に回転をすることができるようになっている。すなわち、回転部15が回転していても、下側アーム33を含む旋回アーム30は停止していることができるようになっている。また、回転部15が回転していなくても、下側アーム33を含む旋回アーム30は、回転することができるようになっている。なお、本実施形態に係る熱処理装置100では、回転部15(すなわち、テーブル11)は、モータ12からの伝動により回転し、下側アーム33を含む旋回アーム30は、モータ35からの伝動により回転する構成となっている。
【0051】
そして、下側アーム33は、その上面に運動案内装置の軌道部材としてのスプライン軸を組み込んで構成することができる。一方、後述するトランス支持部43は、運動案内装置の移動部材としてのスプラインナットを組み込んで構成することができる。このような構成により、トランス支持部43、トランス41およびトランス41に接続して設置される熱処理加工部20を、環状のワークWに対して直径方向に移動させることができ、種々の直径を有する環状のワークWの焼入れを行うことができるようになっている。
【0052】
下側アーム33上には、
図4に示すように、熱処理加工部20に含まれる加熱コイル21の電流を調整するトランス41が、トランス41を支持するトランス支持部43を介して設置される。
【0053】
トランス41は、加熱コイル21に流れる電流を調整するためのものである。そして、本実施形態に係るトランス41は、横幅が小さく薄い外形形状を有している。このような構成により、一対の旋回アーム30の互いの距離を小さくすることができるようになっている。
【0054】
そして、
図4および
図6に示すように、トランス41には、加熱コイル21を取り付ける又は取り外すことができるようにするための加熱コイル取付部27が設置される。
【0055】
本実施形態に係る加熱コイル21は、加熱コイル取付部27に対して、取付けおよび取外しが可能な構成になっている。したがって、加熱コイル21を取り替えるだけで、環状のワークWの外周側や内周側など、ワークWのあらゆる箇所を熱処理加工することができるとともに、種々の形状を有するワークWの熱処理加工を行うことができるようになっている。
【0056】
例えば、断面視略台形状となっているワークWを加熱するためには、
図6の分図(a)に示すように、台形状に沿った形状を有する加熱コイル21cを用いることが好適である。また、断面視略くの字形状の切欠きを有する略矩形状のワークWを加熱するためには、
図6の分図(b)に示すように、ワークWの切欠きの断面視略くの字形状に対応するように、ワークWに近接する部分が、断面視三角形状に形成されている加熱コイル21dを用いることが好適である。
【0057】
そして、上述したように、加熱コイル21には、第一冷却水放出部23が併設されるとともに、加熱コイル21と重畳する位置には、第二冷却水放出部25が形成・設置される。
【0058】
以上説明したような具体的な装置構成を有する熱処理装置100によって、
図2および
図3を用いて説明した熱処理加工が実現できる。
【0059】
本実施形態に係る熱処理装置100によって熱処理加工が施されたワークWは、例えば、旋回軸受の外輪や内輪として用いられる。
図7および
図8を用いて、旋回軸受について、説明する。ここで、
図7は、旋回軸受の一部断面を含む斜視図であり、
図8は、旋回軸受の断面図である。
【0060】
図7および
図8は、旋回軸受用スペーサを組み込んだ旋回軸受を示すものであり、外輪55および内輪56それぞれにはV字形の転走面55a,56aが形成され、この転走面55a,56aの間で断面略四角形、例えば略正方形状のローラ転走路57が構成されている。ローラ転走路には複数のローラ58a,58b…がその傾斜方向を互い違いに交差させながら配列・収納されている。
図7中斜線で示す旋回軸受用スペーサ59(以下、スペーサという)は、この複数のローラ58a,58b…間に介在され、ローラ58a,58b…を所定の姿勢に保持している。
【0061】
外輪55は、その内周にV字形の転走面55aが形成される。V字形の開き角度は略90度に設定される。この外輪55は、一対の環状のワークWから構成され、ローラ58やスペーサ59の充填のために上下に2分割される。外輪55には、その周方向の一ヶ所に、外周から外輪転走面55aまで延びる給油孔75が形成されている。
【0062】
内輪56は、外径を外輪55の内径に略合わせて、外輪55の内周側に嵌め込まれる。内輪56の外周には、外輪転走面55aに対向させて内輪転走面56aが形成される。内輪転走面56aもV字形で、開き角度は略90度に設定される。外輪転走面55aと内輪転走面56aとで、断面略正方形状のローラ転走路57が構成される。
【0063】
ローラ転走路57において、ローラ58a,58b…はスペーサ59と交互に配置されている。ローラ58a,58b…は、その高さが自らの外径よりも僅かに小さく設定される。スペーサ59の左右に隣接するローラ58a,58b…は、その軸線が互いに直交し、外向きローラ58aと内向きローラ58bとに分類される。外向きローラ58aは、スペーサ59によって、その軸線60が外輪55および内輪56の回転中心線P上に位置する旋回中心点P1を向くような姿勢に保持されている。内向きローラ58bも、スペーサ59によって、その軸線61が回転中心線P上に位置する旋回中心点P2を向くような姿勢に保持されている。したがって、ローラ58a,58b…の軸線はローラ転走路57に対して常に直角を保ち、各ローラ58a,58b…は均等なすべりを保ちながら転走する。
【0064】
このように本実施形態に係る熱処理装置100によって熱処理加工されたワークWを組み合わせて、外輪転走面55aと内輪転走面56aとでローラ転走路57を形成することができる。ローラ転走路には、複数のローラが配列・収納され、この複数のローラの間にはスペーサが配置される。そして、ローラは、ローラ転走路内を転走することとなる。本実施形態に係る熱処理装置100によって熱処理加工された断面視略台形状の環状のワークWを上下に配置して構成されることとなる。そして、この内輪は、本実施形態に係る熱処理装置100によって熱処理加工された断面視略くの字形状の切欠きを有する略矩形状のワークWから構成されることとなる。
【0065】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0066】
例えば、本実施形態に係る熱処理装置100は、一対の熱処理加工部20を一組だけ備えて構成されているが、本発明に係る熱処理装置には、一対の熱処理加工部20を複数組設置することが可能である。すなわち、
図9の分図(a)で示すように、一対の熱処理加工部20を三組配置する場合には、それぞれの熱処理加工部20は、環状のワークWの略1/6ずつを焼入れすることができる。また、
図9の分図(b)で示すように、一対の熱処理加工部20を四組配置する場合には、それぞれの熱処理加工部20は、環状のワークWの略1/8ずつを焼入れすることができる。
【0067】
したがって、一対の熱処理加工部20を複数組設置することで、一対の熱処理加工部20を一組用いる場合よりも焼入れ時間を短縮することができ、生産性の高い熱処理装置を実現することができるようになる。また、一対の熱処理加工部20を複数組配置することによって、ワークWの歪みの蓄積を防ぎ、焼入れされたワークWの歪みを減らすことができるようになる。
【0068】
また、例えば、本実施形態に係る熱処理装置100は、加熱コイル21と第一冷却水放出部23とが、熱処理加工部20の移動方向に対して隣り合って併設されているが、本発明の範囲はこれに限定されない。すなわち、熱処理加工装置100の通常の使用状態の方向において、例えば、加熱コイル21の上に第一冷却水放出部23が設置され、併設されることとしても良い。
【0069】
また、例えば、本実施形態に係る熱処理装置100は、焼入れだけではなく、焼戻しや焼鈍しなどに適用することができる。ワークWの焼戻しを行う場合には、例えば、加熱コイル21によって適当な温度まで加熱した後、第一冷却水放出部23又は第二冷却水放出部25によって冷却することとすることができる。ワークWの焼鈍しを行う場合も、例えば、加熱コイル21によって適当な温度まで加熱した後、第一冷却水放出部23又は第二冷却水放出部25によって徐々に冷却することとすることができる。
【0070】
また、例えば、上述した実施形態では、ワークWをテーブル11上に固定し、旋回アーム30によって熱処理加工部20を旋回移動させることで熱処理加工が行われる場合を想定して説明を行ったが、ワークWと熱処理加工部20との相対的な位置関係は、
図2および
図3で説明した熱処理装置の基本的な動作例を実現できるものであれば良く、テーブル11上のワークWを回転させながら旋回アーム30によって熱処理加工部20を旋回移動させるように熱処理装置100を稼働させても良い。
【0071】
さらに、本実施形態に係る熱処理装置100では、ワークWとして旋回軸受の構成部材に対して熱処理加工を行う例を挙げたが、本発明はこれに限定されず、あらゆる環状のワークに対して用いることができる。
【0072】
なお、本実施形態に係る熱処理装置100は、下側アーム33に運動案内装置を設置し、下側アーム33が含まれる旋回アーム30を環状のワークWに対して直径方向に移動可能としているが、例えば、上側アーム31にもその下面に運動案内装置の軌道部材としてのスプライン軸を組み込むとともに垂直アーム32に運動案内装置の移動部材としてのスプラインナットを組み込んで構成することとすることができる。
【0073】
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。