特許第5903487号(P5903487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5903487
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】無段変速機及びその油圧制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20160331BHJP
   F16H 59/48 20060101ALI20160331BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H59/48
   F16H61/662
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-507528(P2014-507528)
(86)(22)【出願日】2013年2月21日
(86)【国際出願番号】JP2013054414
(87)【国際公開番号】WO2013145974
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2014年9月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-74925(P2012-74925)
(32)【優先日】2012年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】江口 岳
(72)【発明者】
【氏名】歌川 智洋
(72)【発明者】
【氏名】石鍋 雄太
(72)【発明者】
【氏名】泉 徹也
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆浩
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−128370(JP,A)
【文献】 特開2010−276153(JP,A)
【文献】 特開2007−224992(JP,A)
【文献】 特開2008−157404(JP,A)
【文献】 特許第2990801(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02
F16H 59/48
F16H 61/662
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリプーリと、セカンダリプーリと、これらの間に巻き掛けられるベルトとを備え、プーリ押し付け力が前記プライマリプーリに供給されるプライマリ圧及び前記セカンダリプーリに供給されるセカンダリ圧によって決まる無段変速機であって、
車両減速時に前記無段変速機の変速比を最Lowに向けて変更するLow戻し変速を行っているか判断するLow戻し変速判断手段と、
車両の減速度及び前記無段変速機の変速比に基づき前記ベルトが実際に滑り始めるプライマリ圧実測下限値を算出する実測下限値演算手段と、
を備え、
前記Low戻し変速における前記プライマリ圧の目標値の下限値を前記プライマリ圧実測下限値に設定する、
無段変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の無段変速機であって、
前記Low戻し変速を行っていると判断された場合に、
前記無段変速機の変速比を維持するのに必要な必要セカンダリ圧を演算し、
伝達トルク、前記プライマリプーリのシーブ角、前記ベルトと前記プライマリプーリとの間の摩擦係数及び前記ベルトと前記プライマリプーリとの接触半径に基づき演算される前記プライマリ圧の下限値であるプライマリ圧理論下限値と前記プライマリ圧実測下限値との差分を演算し、
前記必要セカンダリ圧に前記差分を加算することで補正後必要セカンダリ圧を演算し、
実セカンダリ圧が前記補正後必要セカンダリ圧になるように前記実セカンダリ圧を制御し、
前記実セカンダリ圧から前記プライマリ圧の目標値を演算する、
無段変速機。
【請求項3】
請求項2に記載の無段変速機であって、
車速が下がって停車直前若しくは変速比が最Lowである状態が検知された後は、前記プライマリ圧を前記プライマリ圧理論下限値に制御する、
無段変速機。
【請求項4】
プライマリプーリと、セカンダリプーリと、これらの間に巻き掛けられるベルトとを備え、プーリ押し付け力が前記プライマリプーリに供給されるプライマリ圧及び前記セカンダリプーリに供給されるセカンダリ圧によって決まる無段変速機の油圧制御方法であって、
車両減速時に前記無段変速機の変速比を最Lowに向けて変更するLow戻し変速を行っているか判断し、
車両の減速度及び前記無段変速機の変速比に基づき前記ベルトが実際に滑り始めるプライマリ圧実測下限値を算出し、
前記Low戻し変速における前記プライマリ圧の目標値の下限値を前記プライマリ圧実測下限値に設定する、
油圧制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の油圧制御方法であって、
前記Low戻し変速を行っていると判断された場合に、
前記無段変速機の変速比を維持するのに必要な必要セカンダリ圧を演算し、
伝達トルク、前記プライマリプーリのシーブ角、前記ベルトと前記プライマリプーリとの間の摩擦係数及び前記ベルトと前記プライマリプーリとの接触半径に基づき演算される前記プライマリ圧の下限値であるプライマリ圧理論下限値と前記プライマリ圧実測下限値との差分を演算し、
前記必要セカンダリ圧に前記差分を加算することで補正後必要セカンダリ圧を演算し、
実セカンダリ圧が前記補正後必要セカンダリ圧になるように前記実セカンダリ圧を制御し、
前記実セカンダリ圧から前記プライマリ圧の目標値を演算する、
油圧制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の油圧制御方法であって、
車速が下がって停車直前若しくは変速比が最Lowである状態が検知された後は、前記プライマリ圧を前記プライマリ圧理論下限値に制御する、
油圧制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機の油圧制御に関する。
【背景技術】
【0002】
プライマリプーリとセカンダリプーリとの間にベルトを巻き掛け、両プーリの溝の幅を変更することによって変速比を無段階に変更する無段変速機(以下、「CVT」という。)においては、車両減速時に変速比を最Lowに向けて変更するLow戻し変速が行われ、これにより、車両の再発進性を確保している(JP63−74736A)。
【発明の概要】
【0003】
CVTを搭載した車両の燃費を向上させる方法の一つとして、変速機の油圧源であるオイルポンプを小型化する方法がある。オイルポンプを小型化すれば、オイルポンプの駆動に消費されるエンジンの動力が少なくなり、また、オイルポンプの吐出圧が下がることによって、オイルポンプ及び変速機内部のフリクションが小さくなり、車両の燃費を向上させることができる。
【0004】
しかしながら、オイルポンプの小型化を進めていくと、上記Low戻し変速において、変速速度が遅くなり、変速比が最Lowまで変更できない、又は、最Lowまで変更するのに要する時間が長くなるという問題(Low戻し不良)が生じることがわかった。
【0005】
この問題が生じる理由について図6を参照しながら説明する。図6は、時刻taでブレーキペダルが踏み込まれて車両が減速し、Low戻し変速が行われる様子を示している。
【0006】
この例では、まず、CVTの変速比に応じて、当該変速比を維持するのに必要なセカンダリ圧である必要セカンダリ圧が演算される。そして、プライマリプーリとセカンダリプーリの受圧面積比に基づき必要セカンダリ圧をプライマリバランス圧に換算し(図中X1)、プライマリバランス圧から変速に必要な必要差推力分を減じて目標プライマリ圧を演算する(図中X2)。
【0007】
目標プライマリ圧が、ベルト滑り限界から決まるプライマリ圧下限値よりも低くなると(時刻tb以降)、目標プライマリ圧がプライマリ圧下限値に制限される(図中X3)。そして、この制限によって不足する差推力を補うために、必要セカンダリ圧が増大補正される(図中X4)。
【0008】
ここで、油量収支が十分で実セカンダリ圧を補正後必要セカンダリ圧まで上げることができれば必要差推力が得られ、Low戻し不良が発生することはない。
【0009】
しかしながら、オイルポンプ吐出能力が低く、油量収支が不足する場合は、実セカンダリ圧が補正後必要セカンダリ圧まで上がらず(図中X5)、必要差推力が得られない。また、プライマリ圧下限値は、理論上のトルク容量式(後述)に基づき、走行条件によらず、最低圧を所定の値に制限してしまっていた。この結果、油量収支が実際に不足する場合には、変速速度が遅くなり、変速比が最Lowまで戻ることなく車両が停車してしまう(図中X6)。
【0010】
本発明の目的は、Low戻し変速を行う無段変速機において、LOW戻り性を向上させつつ、オイルポンプの小型化によって燃費をさらに向上させることである。
【0011】
本発明のある態様によれば、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、これらの間に巻き掛けられるベルトとを備え、プーリ押し付け力が前記プライマリプーリに供給されるプライマリ圧及び前記セカンダリプーリに供給されるセカンダリ圧によって決まる無段変速機であって、車両減速時に前記無段変速機の変速比を最Lowに向けて変更するLow戻し変速を行っているか判断し、車両の減速度及び前記無段変速機の変速比に基づき前記ベルトが実際に滑り始めるプライマリ圧実測下限値を算出し、前記Low戻し変速における前記プライマリ圧の目標値の下限値を前記プライマリ圧実測下限値に設定する、無段変速機が提供される。
【0012】
本発明の別の態様によれば、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、これらの間に巻き掛けられるベルトとを備え、プーリ押し付け力が前記プライマリプーリに供給されるプライマリ圧及び前記セカンダリプーリに供給されるセカンダリ圧によって決まる無段変速機の油圧制御方法であって、車両減速時に前記無段変速機の変速比を最Lowに向けて変更するLow戻し変速を行っているか判断し、車両の減速度及び前記無段変速機の変速比に基づき前記ベルトが実際に滑り始めるプライマリ圧実測下限値を算出し、前記Low戻し変速における前記プライマリ圧の目標値の下限値を前記プライマリ圧実測下限値に設定する、油圧制御方法が提供される。
【0013】
これらの態様によれば、プライマリ圧の下限値を低下させることにより、相対的にLow戻し変速時のセカンダリ圧を下げることができ(若しくは、充分なセカンダリ圧の確保ができなくても、変速に必要な差推力を得ることが可能となり)、LOW戻り性を向上させつつ、オイルポンプの小型化によって燃費をさらに向上させることができる。
【0014】
本発明の実施形態及び本発明の利点については、添付された図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、無段変速機の概略構成図である。
図2図2は、無段変速機の変速マップである。
図3図3は、Low戻し変速時の油圧降下制御の内容を示したフローチャートである。
図4図4は、必要セカンダリ圧を演算するためのテーブルである。
図5図5は、Low戻し変速時の油圧降下制御が行われるときの様子を示したタイムチャートである。
図6図6は、比較例のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、無段変速機(以下、「CVT」という。)1の概略構成を示している。プライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3が両者の溝が整列するよう配置され、これらプーリ2、3の溝にはベルト4が掛け渡されている。プライマリプーリ2と同軸にエンジン5が配置され、エンジン5とプライマリプーリ2の間には、エンジン5の側から順に、トルクコンバータ6、前後進切換え機構7が設けられている。
【0017】
トルクコンバータ6は、エンジン5の出力軸に連結されるポンプインペラ6a、前後進切換え機構7の入力軸に連結されるタービンランナ6b、ステータ6c及びロックアップクラッチ6dを備える。
【0018】
前後進切換え機構7は、ダブルピニオン遊星歯車組7aを主たる構成要素とし、そのサンギヤはトルクコンバータ6のタービンランナ6bに結合され、キャリアはプライマリプーリ2に結合される。前後進切換え機構7は、さらに、ダブルピニオン遊星歯車組7aのサンギヤ及びキャリア間を直結する発進クラッチ7b、及びリングギヤを固定する後進ブレーキ7cを備える。そして、発進クラッチ7bの締結時には、エンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転がそのままプライマリプーリ2に伝達され、後進ブレーキ7cの締結時には、エンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転が逆転され、プライマリプーリ2へと伝達される。
【0019】
プライマリプーリ2の回転はベルト4を介してセカンダリプーリ3に伝達され、セカンダリプーリ3の回転は、出力軸8、歯車組9及びディファレンシャルギヤ装置10を経て図示しない駆動輪へと伝達される。
【0020】
上記の動力伝達中にプライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3間の変速比を変更可能にするために、プライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3の溝を形成する円錐板のうち一方を固定円錐板2a、3aとし、他方の円錐板2b、3bを軸線方向へ変位可能な可動円錐板としている。
【0021】
これら可動円錐板2b、3bは、ライン圧を元圧として作り出したプライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecをプライマリプーリ室2c及びセカンダリプーリ室3cに供給することにより固定円錐板2a、3aに向けて付勢され、これによりベルト4を円錐板に摩擦係合させてプライマリプーリ2及びセカンダリプーリ3間での動力伝達が行われる。
【0022】
変速は、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psec間の差圧により両プーリ2、3の溝の幅を変化させ、プーリ2、3に対するベルト4の巻き掛け円弧径を連続的に変化させることによって行われる。
【0023】
プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecは、前進走行レンジの選択時に締結する発進クラッチ7b、及び後進走行レンジの選択時に締結する後進ブレーキ7cへの供給油圧と共に変速制御油圧回路11によって制御される。変速制御油圧回路11は変速機コントローラ12からの信号に応答して制御を行う。
【0024】
変速機コントローラ12には、CVT1の実入力回転速度Ninを検出する入力回転速度センサ13からの信号と、CVT1の出力回転速度、すなわち、車速VSPを検出する車速センサ14からの信号と、プライマリ圧Ppriを検出するプライマリ圧センサ15pからの信号と、セカンダリ圧Psecを検出するセカンダリ圧センサ15sからの信号と、アクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ16からの信号と、セレクトレバー位置を検出するインヒビタスイッチ17からの選択レンジ信号と、ブレーキペダルの踏み込みの有無を検出するブレーキスイッチ18からの信号と、エンジン5を制御するエンジンコントローラ19からのエンジン5の運転状態(エンジン回転速度Ne、エンジントルク、燃料噴時間、冷却水温TMPe等)に関する信号とが入力される。
【0025】
変速機コントローラ12は、図2に示す変速マップを参照して、車速VSPとアクセル開度APOに対応する目標入力回転速度tNinを設定し、実入力回転速度Ninが目標入力回転速度tNinに追従するように、また、エンジントルク及びトルクコンバータトルク比によって決まるCVT1の入力トルクを伝達するのに必要なプーリ押し付け力が得られるように、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecを制御する。
【0026】
このとき、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecには、次式で演算される下限値(以下、「理論下限値」という。)が設定されており、プライマリ圧Ppri及びセカンダリ圧Psecは、通常は理論下限値よりも低くならないように制限される。
【0027】
理論下限値=(Tcosθ)/(2μR)
T:伝達トルク
θ:プーリのシーブ角
μ:ベルトとプーリとの間の摩擦係数
R:ベルトとプーリとの接触半径
【0028】
そして、一方が理論下限値に制限される場合は、他方の圧を上げて、プライマリプーリ2とセカンダリプーリ3との間で変速に必要な差推力が確保されるようにする。
【0029】
さらに、アクセルが解放されて、ブレーキが踏み込まれる、又は、登坂時等で、車両が減速し、図2のAPO=0/8の線に沿ってCVT1が最Lowに向けてダウンシフトするLow戻し変速時であって、停車直前または変速比が変動しない変速定常時(最Low)には、プライマリ圧理論下限値よりも低下させることによって発生する可能性のあるベルト滑りを抑制するために、停車直前または変速比が変動しない変速定常時を除き、プライマリ圧Ppriを上記理論下限値よりも下げることが可能である。
【0030】
そこで、変速機コントローラ12は、以下に説明するLow戻し変速時の油圧降下制御を行うことにより、プライマリ圧Ppriを上記理論下限値よりも下げ、これによってCVT1が搭載される車両のLOW戻り性を向上させつつ、オイルポンプの小型化によって燃費をさらに向上させることが可能となる。
【0031】
図3は、変速機コントローラ12が行うLow戻し変速時の油圧降下制御の内容を示したフローチャートである。これを参照しながら本制御の内容及びその作用効果について説明する。説明中、適宜、図5に示すタイムチャートを参照する。図5に示すタイムチャートは、Low戻し変速時の油圧降下制御が行われるときの様子を示している。
【0032】
まず、S1では、変速機コントローラ12は、Low戻し変速中か判断する。アクセル開度ゼロかつブレーキペダルが踏み込まれている場合、又は、アクセル開度ゼロかつ車両の減速度が所定値よりも大きい場合(登坂時)は、変速機コントローラ12はLow戻し変速中であると判断し、処理がS2に進む。そうでない場合は処理が終了する。
【0033】
S2では、変速機コントローラ12は、ロックアップ中か判断する。ロックアップクラッチ6dは、車速VSPが所定のロックアップ開始車速よりも高くなると締結され、車速VSPが所定のロックアップ解除車速(<ロックアップ開始車速)よりも低くなると解放されるので、車速VSPに基づきロックアップ中か判断することができる。
【0034】
ロックアップ中と判断された場合は、プライマリ圧Ppriをプライマリ圧理論下限値よりも下げるべく、処理がS3以降に進む。ロックアップ中でないと判断された場合は、S3以降の処理でプライマリ理論下限値未満に下がったプライマリ圧Ppriをプライマリ圧理論下限値まで戻すべく、処理がS9に進む。
【0035】
図5では、時刻t1でブレーキペダルが踏み込まれ、Low戻し変速が開始されている。
【0036】
S3では、変速機コントローラ12は、プライマリ圧理論下限値を演算する。プライマリ圧理論下限値は、上記の通り、伝達トルク(=エンジン回転速度Ne及びアクセル開度APOに基づきエンジントルクマップを参照して演算されるエンジン5のトルク)、プライマリプーリ2のシーブ角(固定値)、ベルト3とプライマリプーリ2との間の摩擦係数(固定値)、ベルト3とプライマリプーリ2との接触半径(変速比に応じて決まる値)によって演算することができる。
【0037】
S4では、変速機コントローラ12は、プライマリ圧実測下限値を演算する。プライマリ圧実測下限値は、ベルト3が実際に滑り始めるプライマリ圧Ppriであり、車両の減速度と変速比とに基づき、予め実験によって求めておいたマップを参照して演算される。プライマリ圧実測下限値は、車両の減速度が大きいほど、また、変速比がLow側であるほど低い値に設定される。
【0038】
S5では、変速機コントローラ12は、その時点の変速比を維持するのに必要なセカンダリ圧Psecを図4に示すテーブルを参照して演算する。なお、図4には必要プライマリ圧も図示されているが、Low戻し変速時の油圧降下制御では使用しない。
【0039】
S6では、変速機コントローラ12は、プライマリ圧理論下限値とプライマリ圧実測下限値との差(図5中Y1)を必要セカンダリ圧に加算し(図5中Y2)、補正後必要セカンダリ圧を演算する。そして、変速機コントローラ12は、セカンダリ圧Psecが補正後必要セカンダリ圧になるように、セカンダリ圧Psecを制御する。具体的には、セカンダリ圧Psecを調圧するソレノイドバルブを制御する。
【0040】
S7では、変速機コントローラ12は、S6でセカンダリ圧Psecを制御した結果、得られる実セカンダリ圧Psecをセカンダリ圧センサ15sによって検出し、これとプライマリプーリ2とセカンダリプーリ3の受圧面積の比とに基づきプライマリバランス圧に換算する(図5中Y3)。
【0041】
S8では、変速機コントローラ12は、プライマリバランス圧からダウンシフトに必要な差推力分(必要な差推力をプライマリプーリ2の受圧面積で割った値)を引き、目標プライマリ圧を演算する(図5中Y4)。目標プライマリ圧は、プライマリ圧理論下限値よりも低くなるが、プライマリ圧実測下限値よりも高いため、プライマリ圧実測下限値によって制限されることはない。そして、変速機コントローラ12は、プライマリ圧Ppriが目標プライマリ圧になるようにプライマリ圧Ppriを制御する。具体的には、プライマリ圧Ppriを調圧するソレノイドバルブを制御する。
【0042】
図5では、時刻t1からt2までは、油量収支が実際に不足していないため、実セカンダリ圧を補正後必要セカンダリ圧まで上昇させる。これは、プライマリ圧理論下限値をプライマリ圧実測下限値に変更することにより、目標プライマリ圧をプライマリ圧実測下限値まで低下させることが可能であるが、プライマリ圧を低下させることによって発生する懸念のあるベルト滑りの発生を抑制するために、油量収支が実際に不足するまでの間、実セカンダリ圧を上昇させ、実セカンダリ圧Psecから必要となる差推力を得るためのプライマリ圧Ppriを算出することを目的としている。
【0043】
時刻t2以降、油量収支が実際に不足することにより、実セカンダリ圧Psecが補正後必要セカンダリ圧まで上がらなくなっているが、ここから必要な差推力分を引いて得られる目標プライマリ圧はプライマリ圧実測下限値よりも高いので、プライマリ圧Ppriを目標プライマリ圧まで下げることができる。
【0044】
すなわち、S3〜S8の制御によれば、プライマリ圧の下限値を低下させることにより、相対的にLow戻し変速時のセカンダリ圧を下げることができ(若しくは、充分なセカンダリ圧の確保ができなくても、変速に必要な差推力を得ることが可能となり)、これによってオイルポンプの小型化が図れ、燃費向上が達成できる。
【0045】
また、S3〜S8の制御によれば、実セカンダリ圧Psecから目標プライマリ圧を算出することで、実セカンダリ圧Psecを可能な限り高められる領域では、プライマリ圧を低下させずに必要な差推力を確保しつつ、油量収支が実際に不足し、実セカンダリ圧Psecが補正後必要セカンダリ圧まで上がらなくなるような状況(図5中時刻t2〜t3)になっても、プライマリ圧を下限値まで低下させることで必要な差推力を確保することができ、CVT1の変速比を速やかに最Lowまで戻すことができる。
【0046】
一方、S2で、停車直前または変速比が変動しない変速定常時と判断されて進むS9では、変速機コントローラ12は、目標プライマリ圧をプライマリ圧理論下限値に所定のランプ勾配で近づけるとともに、補正後必要セカンダリ圧を必要セカンダリ圧に所定のランプ勾配で近づけることで、それぞれプライマリ圧理論下限値、必要セカンダリ圧に制御する。
【0047】
これによって、変速比が変動する変速過渡時には、プライマリ圧下限値を低下させた場合であっても、ベルトとプーリとの間の動摩擦係数の影響で、ベルトとプーリとの間の相対的な滑りが抑制されるが、停車直前または変速比が実際に変化しない変速定常時(最Low)の場合においては、ベルトとプーリとの間の摩擦係数が、動摩擦係数から静摩擦係数へ移行することで、プーリとベルトとの間に相対滑りが発生する可能性があるため、本領域でプライマリ圧下限値を理論値より低下させることによって発生する懸念のあるベルト3の滑りを防止しつつ、LOW戻り性を向上させることができる。図5では、時刻t3〜t4が対応する。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0049】
本願は日本国特許庁に2012年3月28日に出願された特願2012−74925号に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6