【0008】
以下では、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
本実施形態によるPBNZT強誘電体膜は、ABO
3で表されるペロブスカイト構造強誘電体からなるものである。ペロブスカイト構造強誘電体は、AサイトイオンとしてPb
2+を含み、かつBサイトイオンとしてZr
4+及びTi
4+を含むPZT系強誘電体であり、AサイトにAサイト補償イオンとしてBi
3+を含み、BサイトにBサイト補償イオンとしてNb
5+を含む。
詳細には、強誘電体膜は、酸素イオン欠損を含むABO
3で表されるペロブスカイト構造強誘電体からなるものであり、ペロブスカイト構造強誘電体は、AサイトイオンとしてPb
2+を含み、かつBサイトイオンとしてZr
4+及びTi
4+を含むPZT系強誘電体であり、AサイトにAサイト補償イオンとしてBi
3+を含み、BサイトにBサイト補償イオンとしてNb
5+を含み、Aサイト補償イオンによるAサイト全体における過剰価数と前記Bサイト補償イオンによるBサイト全体における過剰価数の合計が、前記酸素イオン欠損の量に対応する不足価数と同じもしくは当該不足価数より小さい。
酸素イオン欠損の量は、ペロブスカイト構造強誘電体の化学量論的組成に対して20mol%以下であることが好ましい。また、Aサイト補償イオンの含有量は、ペロブスカイト構造強誘電体の化学量論的組成に対して10mol%以下であることが好ましい。また、Bサイト補償イオンの含有量は、ペロブスカイト構造強誘電体の化学量論的組成に対して 10mol%以下であることが好ましい。
具体的には、強誘電体膜は、(Pb
1−XBi
X)((TiZr)
1−YNb
Y)O
3で表わされるペロブスカイト構造強誘電体からなるものである。
Xは1〜10mol%であることが好ましく、Yは1〜10mol%であることが好ましい。
上記実施形態によれば、Biは安定価数が+3価であることにより、Aサイトイオンより+1価多い価数を有し、かつNbは安定価数が+5価であることにより、Bサイトイオンより+1価多い価数を有する。このため、余剰価数が+2価となり、酸素(−2価)イオンの欠損を確実に防止することができる。つまり、添加されたBiイオンでAサイトイオンを置換するとともに、添加されたNbイオンでBサイトイオンを置換すると、酸素イオンの欠損を防止することができ、完全酸化に近づけることができ、ペロブスカイト構造中における電荷中性を成立させることができる。例えば、ABO
3で表されるペロブスカイト構造強誘電体がPZT系強誘電体である場合、Aサイト補償イオンの添加による過剰価数+1価((Bi:+3価)−(Pb:+2価)=(+1価))と、Bサイト補償イオンの添加による過剰価数+1価((Nb:+5価)−(Ti:+4価)=(+1価))の合計(Bi添加量×(+1価)+Nb添加量×(+1価))が、酸素イオン欠損量に対応する不足価数(酸素イオン欠損量×(−2価))以下となるように強誘電体膜が形成される。
次に、本実施形態による強誘電体膜の製造方法について詳細に説明する。この強誘電体膜は、(Pb
1−XBi
X)((TiZr)
1−YNb
Y)O
3で表わされるペロブスカイト構造強誘電体からなり、Xが1〜10mol%であり、Yが1〜10mol%である。
[1]基板
例えば6インチSiウエハのような基板上に所定の結晶面に配向した下地膜を形成する。この下地膜には、例えば(111)配向させたPt膜またはIr膜が用いられる。
[2]ゾルゲル溶液
基板との接触角が40°以下、好ましくは20°以下であるゾルゲル溶液を用意する。
ゾルゲル溶液は次のようにして作製される。
(1)セラミック前駆体(PZT縮重合体)の作製
詳細には、無水酢酸鉛Pb(CH
3COO)
2、ジルコニウムイソプロポキシドZr(O−i−C
3H
7)
4、およびチタンイソプロポキシドTi(O−i−C
3H
7)
4を出発原料として、2−メトキシエタノール中での蒸留および還流による酢酸鉛と金属アルコキシドの反応およびアルコール交換反応によって得られたゲルをPZTセラミックス形成用前駆体原料とする。
(2−1)元素添加1
PZTセラミックス形成用前駆体原料にオクチル酸Nbかオクチル酸Biのどちらか一方または両方のオクチル酸塩を添加する。どちらか一方を添加する場合は10mol%以下で添加し、両方を添加する場合はそれぞれ5mol%以下添加することが好ましい。そして更に、Mo、V、W、Al、Ta、B、Si、P、S、Ge、As、Fe、Mn、Coのオクチル酸塩の中から一つ以上を其々3mol%以下で添加することが好ましい。
(2−2)添加元素2
上記の添加元素の等容量以上の2価カルボン酸又は2価カルボン酸エステルを溶媒に添加する。2価カルボン酸としては、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸などを用いることが好ましく、2価カルボン酸エステルとしては、コハク酸エステル、マロン酸エステルおよびマレイン酸エステルから選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これらのエステルの具体例としては、コハク酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、マロン酸ジメチルを挙げることが出来る。これらの2価カルボン酸エステルは、アルコール存在下で解離して2価カルボン酸としての働きを示す。
上記の2価カルボン酸エステルは、ヘテロイオンとして例えばMn
2+を含むヘテロポリ酸イオンを含有することが好ましい。
上記のゾルゲル溶液は、分子構造が非中心対称化され、非線形を発現しているケギン型構造を有するヘテロポリ酸イオンを構成要素とし、前記ヘテロポリ酸イオンのポリ原子が少なくとも1つ欠損しているか、または、ヘテロポリ酸イオンの一部のポリ原子が他の原子で置換されているヘテロポリ酸イオンを強誘電体セラミックスの前駆体構造の一部として含むものである。
前記ヘテロポリ酸イオンが、次の一般式:[XM
yM′
12−yO
40]
n−(式中、Xはヘテロ原子、Mはポリ原子、M′はMとは異なるポリ原子、nは価数、y=1〜11である。)で表されるケギン型構造を有するものであり、上記のヘテロポリ酸イオンを強誘電体セラミックスの前駆体構造の一部として含むものである。
また、前記ヘテロポリ酸イオンが、一般式:[XM
11O
39]
n−(式中、Xはヘテロ原子、Mはポリ原子、nは価数である。)で表されるケギン型構造を有するものであっても良く、上記のヘテロポリ酸イオンを強誘電体セラミックスの前駆体構造の一部として含むものである。
また、前記ヘテロポリ酸イオンが、次の一般式:[XM
zM′
11−zO
39]
n−(式中、Xはヘテロ原子、Mはポリ原子、M′はMとは異なるポリ原子、nは価数、z=1〜10である。)で表されるケギン型構造を有するものであり、上記のヘテロポリ酸イオンを強誘電体セラミックスの前駆体構造の一部として含むものである。
前記ヘテロポリ酸イオンの内、ヘテロ原子が、B、Si、P、S、Ge、As、Mn、Fe、Coからなる群より成り、ポリ原子が、Mo、V、W、Ti、Al、Nb、Taからなる群より成ることも可能であり、上記のヘテロポリ酸イオンを強誘電体セラミックスの前駆体構造の一部として含むものであっても良い。
上記のゾルゲル溶液は極性溶媒類を含有することが好ましい。極性溶媒類は、メチルエチルケトン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ジクロロメタン、ニトロメタン、トリクロロメタン、ジメチルホルムアミド、モノメチルホルムアミドの何れかまたは複数の組み合わせである。
(3)厚膜化(高粘度多価アルコール)
PZTセラミックス形成用前駆体原料に高粘度多価アルコールを添加する。これにより、ゾルゲル溶液を塗布する際に厚膜化が可能となる。なお、高粘度多価アルコールは、エチレングリコール及びジエチレングリコールのどちらか一方または両方を全体の1/2以下の容積で添加することが好ましい。
(4)脱気(不飽和脂肪酸)
上記のゾルゲル溶液は不飽和脂肪酸を総容量の1/3以下で含有することが好ましい。これにより、ゾルゲル溶液を塗布した塗布膜内を脱気することができる。
不飽和脂肪酸は、モノ不飽和脂肪酸、ジ不飽和脂肪酸、トリ不飽和脂肪酸、テトラ不飽和脂肪酸、ペンタ不飽和脂肪酸およびヘキサ不飽和脂肪酸のいずれかまたは複数の組み合わせである。
モノ不飽和脂肪酸としては、例えば、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸が挙げられ、これらのいずれかまたは複数の組み合わせとして用いても良い。
ジ不飽和脂肪酸としては、例えば、リノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸が挙げられ、これらのいずれかまたは複数の組み合わせとして用いても良い。
トリ不飽和脂肪酸としては、例えば、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、ミード酸、ジホモ−γ−リノレン酸、エイコサトリエン酸が挙げられ、これらのいずれかまたは複数の組み合わせとして用いても良い。
テトラ不飽和脂肪酸としては、例えば、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、アドレン酸が挙げられ、これらのいずれかまたは複数の組み合わせとして用いても良い。
ペンタ不飽和脂肪酸としては、例えば、ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、オズボンド酸、イワシ酸、テトラコサペンタエン酸が挙げられ、これらのいずれかまたは複数の組み合わせとして用いても良い。
ヘキサ不飽和脂肪酸としては、例えば、ドコサヘキサエン酸、ニシン酸が挙げられ、これらのいずれかまたは複数の組み合わせとして用いても良い。
(5)難溶解成分用溶剤(グリコールエーテル)
上記のゾルゲル溶液に難溶解成分用溶剤としてグリコールエーテルを添加することが好ましい。これにより、ゾルゲル溶液中の難溶解成分を溶解させることが可能となる。グリコールエーテルには、メチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、ヘキシル、そして2−エチルヘキシルの脂肪族、二重結合を有するアリル並びにフェニル、ベンジルの各基をベースとするエチレングリコール系エーテルとプロピレングリコール系エーテルがある。これらは無色で臭いも少なく、分子内にエーテル基と水酸基を有しているので、アルコール類とエーテル類の両方の特性を備えた液体である。つまり、この液体は、難溶解成分の溶剤としての働きに加え、アルコールとしての働きを持ち、またアルコールとしての働きは基板との濡れ性を向上させる働きである。中でもジアルキルグリコールエーテルは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの末端の水素をアルキル基で置換したもので、分子内に複数のエーテル基を有し、非常に溶解性を重視する為の溶剤として用いられる。また、酢酸とのエステルは溶解性向上としての目的で使用され、アクリル酸やメタクリル酸とのエステルは粘度調整剤としての目的で使用される。
上記のグリコールエーテルの内、いずれかまたは複数の組み合わせを用いることが好ましい。また、不飽和脂肪酸が溶解するまでグリコールエーテルを添加することが好ましい。
(6)Pt/Si基板上に安定塗布(低級アルコール)
上記のゾルゲル溶液に低級アルコールを添加することが好ましい。これにより、Pt/Si基板上にゾルゲル溶液を安定して塗布することが可能となる。低級アルコールとしては、特に炭素数が4個以下のアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノールのいずれかまたは複数の組み合わせであることが好ましい。このアルコールはPt電極との相性が良い。ゾルゲル溶液を基板上に塗布した際、塗布膜の基板との接触角が1〜40°(好ましくは1〜20°)になるように低級アルコールの添加量を調整することが好ましい。低級アルコールの添加量を増やしすぎると塗布膜の一層当たりの膜厚が薄くなり過ぎてしまうため、添加量は全体容量の3倍以下が望ましい。
(7)溶液安定化(塩基性アルコール)
上記のゾルゲル溶液に溶液安定化のための塩基性アルコールを添加することが好ましい。これにより、ゾルゲル溶液を安定化させることが可能となる。
詳細には、塩基性アルコールであるアミノアルコールの内、2−アミノエタノール、2−(2−アミノアチルアミノ)エタノール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、5−アミノ−2,3−ジヒドロフタラジン−1,4−ジオン、2−アミノ−3−フェニル−1−プロパノール、2−アミノ−1−ブタノール、4−アミノ−1−ブタノールの中から一つ以上をゾルゲル溶液に添加して、pH5〜7になるように調整するのが好ましい。
[3]基板上へのゾルゲル溶液の塗布
6インチSiウエハの表面に(111)配向させたPt膜が形成された基板上にゾルゲル溶液を塗布し、このゾルゲル溶液の基板との接触を測定した結果は20°以下であった。なお、基板との接触角は1〜40°(好ましくは1〜20°)であれば良い。
ゾルゲル溶液を基板上にスピンコート法により塗布することにより、この基板上に塗布膜を形成し、この塗布膜を25〜450℃の温度(好ましくは450℃の温度)で仮焼成し、この塗布膜の形成及び仮焼成を複数回繰り返すことにより、基板上に複数の塗布膜からなる強誘電体材料膜を成膜する。なお、本実施形態では、ゾルゲル溶液をスピンコート法により塗布しているが、スピンコート法に限定されるものではなく、他の塗布法、例えばドクターブレード法、スクリーン印刷法、ディップコート法、スプレーコート法、蒸着法、大気圧プラズマCVD法などにより塗布することも可能である。
[4]結晶化方法
強誘電体材料膜を450〜800℃の温度(好ましくは700℃の温度)で熱処理することにより、その強誘電体材料膜を結晶化することができる。この際の熱処理条件は、加圧酸素雰囲気2〜9.9atm、100〜150℃/secの昇温速度で、1〜5min焼成することである。また、強誘電体材料膜を一括で結晶化する際の強誘電体材料膜の膜厚は300nmを超えた厚さであることが好ましい。
このようにして作製された強誘電体膜は、膜厚500nm以上の厚い膜であっても気泡をほとんど含まない。言い換えると、このようにして成膜することにより、良好な厚い膜を形成することができる。その理由は、殆ど膜厚方向に有機成分が消失するような構造からなっており、基板面内では殆ど収縮せず、酸化による膨張と相殺される程度である。したがって殆ど基板に反りはないのである。
なお、上記の強誘電体材料膜の成膜及び結晶化を繰り返すことにより、膜厚2μm以上の強誘電体膜を形成することも可能である。
また、本実施形態では、(Pb
1−XBi
X)((TiZr)
1−YNb
Y)O
3で表わされるペロブスカイト構造強誘電体からなり、Xが1〜10mol%であり、Yが1〜10mol%である強誘電体膜を製造する方法について説明しているが、本実施形態によるゾルゲル溶液または成膜方法を用いれば、上記の強誘電体膜以外の強誘電体膜であって比誘電率400以上(より好ましくは比誘電率600以上)の強誘電体膜を製造することが可能となる。
【実施例】
【0009】
(実施例1)
6インチSiウエハ上に酸化シリコン膜を介して10〜30nmのTi膜をスパッタ法により成膜する。詳細には、RFスパッタリング方法により、形成した。Ti膜は白金と酸化シリコンの密着層の役割をしている。Ti膜の成膜条件はアルゴンガス圧0.2Pa、0.12kWの電源出力で20分の成膜時間で形成した。基板温度は200℃で行った。
次に、RTA(Rapid Thermal Anneal)によりTi膜に650℃の温度で5分間の熱処理を施す。酸素雰囲気で9.9atm、100℃/sで行った。
次に、Ti膜上に100nmの第1のPt膜をスパッタ法により550〜650℃の温度で成膜する。アルゴンガス圧0.4Pa、DCパワー100Wの電源出力で25分の成膜時間で形成した。
次に、第1のPt膜上に100nmの第2のPt膜を蒸着法により常温で成膜する。3.3×10
−3Torr、10kVの電源出力で4分の成膜時間で形成した。
次に、RTAによりSiウエハに650〜750℃の温度で1〜5分間の熱処理を施す。このようにして表面に(111)配向させたPt膜を形成した6インチSiウエハを用意する。
次に、6インチSiウエハとの接触角が40°以下、好ましくは20°以下であるゾルゲル溶液を用意する。詳細には、ゾルゲル溶液は、Pb、Bi、Nb、Zr及びTiを含むヘテロポリ酸を含む原料溶液と、極性溶媒類と不飽和脂肪酸類を含有する。
PBNZT強誘電体膜形成用原料溶液は、ヘテロポリ酸との混合からなり、ヘテロ原子が金属酸素酸骨格に挿入された(X
lM
mO
n)
x−型のポリ酸である。ポリ原子:M=Mo,V,W,Ti,Al,Nb,Taからなり、ヘテロ原子はHおよびC以外の元素を意味し、好ましくは:M=B,Si,P,S,Ge,As,Fe,Co,Biからなる酸化物膜形成用ゾルゲル溶液である。
極性溶媒類は、メチルエチルケトン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ジクロロメタン、ニトロメタン、トリクロロメタン、ジメチルホルムアミド、モノメチルホルムアミドの何れかまたは複数の組み合わせである。
不飽和脂肪酸類は、モノ不飽和脂肪酸として、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸が挙げられ、ジ不飽和脂肪酸として、リノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸が挙げられ、トリ不飽和脂肪酸として、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、ミード酸、ジホモ−γ−リノレン酸、エイコサトリエン酸が挙げられ、テトラ不飽和脂肪酸として、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、アドレン酸が挙げられ、ペンタ不飽和脂肪酸として、ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、オズボンド酸、イワシ酸、テトラコサペンタエン酸が挙げられ、ヘキサ不飽和脂肪酸として、ドコサヘキサエン酸、ニシン酸が挙げられる。
次に、6インチPt電極を被覆されたSiウエハ上にゾルゲル溶液をスピンコート法により塗布することにより、このSiウエハ上に1層目の塗布膜が形成される。詳細には、500μLのゾルゲル溶液を塗布し、0〜500rpmまで3secで上昇させ、500rpmで3sec保持した後、2500rpmで60sec回転後、停止させた。
次に、ホットプレートにより1層目の塗布膜を175℃の温度で1分間加熱し、その後、450℃の温度で5分間仮焼成する。これにより、Siウエハ上に膜厚100nmの1層目の強誘電体材料アモルファス膜が形成される。
次いで、1層目の塗布膜と同様の方法で、1層目の強誘電体材料膜上に2層目の塗布膜を形成する。次いで、1層目の塗布膜と同様の方法で、2層目の塗布膜を加熱し、仮焼成する。これにより、1層目の強誘電体材料膜上に膜厚100nmの2層目の強誘電体材料膜が形成される。
次いで、2層目の塗布膜と同様の方法で、2層目の強誘電体材料膜上に3層目の塗布膜を形成する。次いで、1層目の塗布膜と同様の方法で、3層目の塗布膜を加熱し、仮焼成する。これにより、2層目の強誘電体材料膜上に膜厚100nmの3層目の強誘電体材料膜が形成される。
次いで、1層目の塗布膜と同様の方法で、3層目の強誘電体材料膜上に4層目の塗布膜を形成する。次いで、1層目の塗布膜と同様の方法で、4層目の塗布膜を加熱し、仮焼成する。これにより、3層目の強誘電体材料膜上に膜厚100nmの4層目の強誘電体材料膜が形成される。
次いで、1層目の塗布膜と同様の方法で、4層目の強誘電体材料膜上に5層目の塗布膜を形成する。次いで、1層目の塗布膜と同様の方法で、5層目の塗布膜を加熱し、仮焼成する。これにより、4層目の強誘電体材料膜上に膜厚100nmの5層目の強誘電体材料膜が形成される。このようにして5層からなる膜厚500nmの強誘電体材料膜を成膜することができる。
次に、加圧RTAにより強誘電体材料膜に熱処理を施すことにより、強誘電体材料膜を結晶化して強誘電体膜を形成する。この際の熱処理条件は、酸素分圧9.9atmで加圧された酸素雰囲気中で、昇温速度120℃/secで、温度が700℃まで瞬時に昇温し、1min保持することにより結晶化を行ったのである。
次に、この強誘電体材料膜の上に、上記と同様の方法で、塗布膜の形成、加熱、仮焼成を繰り返して5層からなる膜厚500nmの強誘電体材料膜をさらに成膜し、この強誘電体材料膜を上記と同様の方法で結晶化して強誘電体膜を形成し、この強誘電体材料膜の成膜及び結晶化を上記と同様の方法でさらに2回繰り返す。これにより、膜厚2μmの厚い膜からなる強誘電体膜をSiウエハ上に形成したサンプル1を得ることができる。
次に、強誘電体膜をSiウエハ上に形成したサンプル2及びサンプル3を作製する。サンプル2及びサンプル3それぞれは、強誘電体材料膜を結晶化する際の熱処理条件がサンプル1と異なる以外はサンプル1と同様の方法で作製される。
サンプル2の熱処理条件は、酸素分圧5atmで加圧された酸素雰囲気中で、昇温速度120℃/secで、温度が700℃まで瞬時に昇温し、1min保持することにより結晶化を行ったのである。
サンプル3の熱処理条件は、酸素分圧7.5atmで加圧された酸素雰囲気中で、昇温速度120℃/secで、温度が700℃まで瞬時に昇温し、1min保持することにより結晶化を行ったのである。
図1は、サンプル1の強誘電体膜を示す写真である。
図2は、
図1に示すサンプル1と比較するために、3インチSiウエハ上に形成された膜厚1μmの従来のPZT膜を示す写真である。
図1に示すサンプル1の強誘電体膜は干渉色がないのに対し、
図2に示す比較例のPZT膜は干渉色がある。
図3のAは、
図2に示す比較例のPZT膜のSEM断面像を示す図であり、
図3のBは、
図1に示すサンプル1の強誘電体膜のSEM断面像を示す図である。
図3のAに示す比較例のPZT膜は、気泡が入っており、膜質が悪いことが分かる。これに対し、
図3のBに示すサンプル1の強誘電体膜は、柱状結晶構造を有しており、膜厚2μmの厚い膜であるのに気泡をほとんど含まないため膜質が非常に良いことが分かる。
図4(A)は、サンプル1の強誘電体膜についてのリーク電流密度を測定した結果を示す図であり、
図4(B)は、サンプル2の強誘電体膜についてのリーク電流密度を測定した結果を示す図であり、
図4(C)は、サンプル3の強誘電体膜についてのリーク電流密度を測定した結果を示す図である。
図4に示すように、サンプル1〜3それぞれのリーク電流密度は10
−9A/cm
2、10
−10A/cm
2、10
−10A/cm
2であり、サンプル1〜3のいずれにおいても極めて少ないリーク電流密度であることが確認された。
次に、サンプル1〜3それぞれの強誘電体膜のマイクロビッカース硬度を測定したところ、すべて800〜1000Hvであった。
次に、サンプル1〜3それぞれの強誘電体膜の比誘電率を測定したところ、すべて600以上であった。
図5及び
図6は、本発明の本実施例のPBNZT強誘電体膜と従来のSiを添加したPZTとのヒステリシス評価を行った結果を示す図である。
図5に示す本発明のヒステリシスは、Biを5mol%添加し、Nbを5mol%添加したPBNZT強誘電体膜のものであり、このPBNZT強誘電体膜は
図3のBに示すサンプルに対応する。
図5に示す従来例のSiを添加したPZTのヒステリシスは、Siを5mol%添加し、Nbを5mol%添加したPZTのものである。
図6に示す本発明のヒステリシスは、Biを10mol%添加し、Nbを10mol%添加したPBNZT強誘電体膜のものである。このPBNZT強誘電体膜は本実施例の作製方法によって作製されたものである。
図6に示す従来例のSiを添加したPZTのヒステリシスは、Siを5mol%添加し、Nbを20mol%添加したPZTのものである。
図5及び
図6に示すように、本発明の強誘電体膜は、従来のSi添加PZTと比べて優れたヒステリシス特性を有することが確認された。なお、従来のPZTのヒステリシス特性が本発明に比べて悪い理由は、Siでは酸素イオン欠損防止機能を十分に果たすことができず、Siの添加により強誘電性が劣化するためと考えられる。以下に詳細に説明する。
本発明のPBNZT(Bi:5mol%、Nb:5mol%)と従来のSi,Nb添加(Si:5mol%、Nb:5mol%)を比較したところ、従来例の場合、Siを2mol%以上添加すると、ヒステリシスは
図5のように、大きく劣化した。つまり、Siは低誘電率層として働いてしまい、印加電圧の何割かは低誘電率層に印加されているため、ヒステリシス特性が劣化したと考えられた。
次に本発明の通り、Biを10mol%、Nbを10mol%添加し、比較のため、従来例では、20mol%のNb添加が効果的であるので、20mol%Nbと5mol%のSiを同時に添加してみた。その結果、
図6のように、明確に差が出た。Nb添加量が異なるため、抗電界が異なるため、やはりSiの影響と思われる残留分極値に大きく差がみられた。
(実施例2)
下記式のように原料液を添加して、pH6.8、粘度80cps、Ptに対する接触角25°のPBNZT強誘電体膜形成用原料溶液を作製した。
[{(25mol%PZTゾルゲル溶液(溶媒:エタノール、過剰鉛25%)+5mol%オクチル酸ニオブ+5mol%オクチル酸ビスマス+3mol%オクチル酸マンガン+15mol%のコハク酸ジメチル)+1/2容量2nブトキシエタノール}+1/8容量(オレイン酸60%+リノール酸30%+αリノレン酸9%+ステアリン酸0.4%+ステアロオレイン酸0.3%+エルカ酸0.3%)+1/8容量エチルメチルエーテル]+1/5容量ジメチルアミノエタノール ・・・(式)
なお、上記式中の「容量」とは、ある容器に収められた量を体積で表したものをいい、単位は立方メートル(m
3)、リットル(l)などがある。
次に、実施例1と同様の方法により、表面に(111)配向させたPt膜を形成した4インチ又は6インチSiウエハを用意し、Pt電極を被覆されたSiウエハ上に上記のPBNZT強誘電体膜形成用原料溶液をスピンコート法により塗布する。これにより、このSiウエハ上に1層目の塗布膜が形成される。詳細には、4インチSiウエハでは1.5cc(6インチSiウエハでは3cc)の本溶液を塗布し、0〜500rpmまで3secで上昇させ、500rpmで5sec保持した後、1500rpmで90sec回転させ、3000rpmで30sec回転後、停止させた。
次に、ホットプレートにより1層目の塗布膜を250℃の温度で30sec間加熱して乾燥させ、その後、450℃の温度で30sec間仮焼成した。これにより、Siウエハ上に膜厚250nmの1層目の強誘電体材料アモルファス膜が形成された。
次いで、1層目の塗布膜と同様の方法で、塗布、乾燥、仮焼成を3回繰り返すことで、4層からなる膜厚1μmの強誘電体材料膜を成膜した1μm−PBNZT厚膜サンプルを作製した。
また、上記と同様の方法で、6層からなる膜厚1.5μmの強誘電体材料膜を成膜した1.5μm−PBNZT厚膜サンプルを作製し、8層からなる膜厚2μmの強誘電体材料膜を成膜した2μm−PBNZT厚膜サンプルを作製し、12層からなる膜厚3μmの強誘電体材料膜を成膜した3μm−PBNZT厚膜サンプルを作製し、16層からなる膜厚4μmの強誘電体材料膜を成膜した4μm−PBNZT厚膜サンプルを作製し、20層からなる膜厚5μmの強誘電体材料膜を成膜した5μm−PBNZT厚膜サンプルを作製した。
次に、加圧RTAにより強誘電体材料膜に熱処理を施すことにより、強誘電体材料膜を結晶化して強誘電体膜を形成する。この際の熱処理条件は、酸素分圧9.9atmで加圧された酸素雰囲気中で、昇温速度100℃/secで、温度が650℃まで瞬時に昇温し、1min保持することにより結晶化を行った。更に、保持時間を1.5min、2min、3min、4min、5minそれぞれに変えて結晶化を行ったサンプルも作製した。
図7(A)は、5μm−PBNZT厚膜4インチウエハのサンプルを示す写真であり、
図7(B)は、1.5μm−PBNZT厚膜6インチウエハのサンプルを示す写真である。
図8は、新開発と示す図が2μm−PBNZT厚膜のTEM断面像であり、従来品と示す図が実施例1の比較例のPZT膜(
図3のA)のTEM断面像である。
図8の従来品は、気泡が入っており、膜質が悪いことが分かる。これに対し、
図8の新開発に示すサンプルの強誘電体膜は、柱状結晶構造を有しており、膜厚2μmの厚い膜であるのに気泡をほとんど含まないため膜質が非常に良いことが分かる。
図9(A)は、1μm−PBNZT厚膜のSEM断面像を示す図であり、
図9(B)は、1.5μm−PBNZT厚膜のSEM断面像を示す図であり、
図9(C)は、2μm−PBNZT厚膜のSEM断面像を示す図であり、
図9(D)は、3μm−PBNZT厚膜のSEM断面像を示す図であり、
図9(E)は、4μm−PBNZT厚膜のSEM断面像を示す図であり、
図9(F)は、5μm−PBNZT厚膜のSEM断面像を示す図である。
図10(A)は、3μm−PBNZT厚膜のヒステリシス評価を行った結果を示す図であり、
図10(B)は、4μm−PBNZT厚膜のヒステリシス評価を行った結果を示す図であり、
図10(C)は、5μm−PBNZT厚膜のヒステリシス評価を行った結果を示す図である。
図10に示すように、本発明の強誘電体膜は、優れたヒステリシス特性を有することが確認された。
本実施例のPBNZT厚膜の特性を評価した結果は以下のとおりであった。この結果によって本実施例のPBNZT厚膜が3μm−Pb(Zr
0.52Ti
0.48)O
3の特性と比較しても極めて優れていることが確認された。
[1]評価結果
d33=470pm/V
d31=148pm/V
ポアソン比=0.31
tanδ≦0.01
Tc350℃
なお、d定数とは、圧電体に電界(V/m)を印加した場合に、どれだけ変位するかを表す係数である。dは変位(Displacement)のdを意味している。電界方向と変位方向の関係によってd33やd31〔単位 m/V,C/N〕等で表現される。通常、分極処理をした軸を3で表し、他の軸を1、2として表現し、分極処理をしたセラミックスで独立なd定数はd31、d33で表される。つまりd33は、33方向の電界当たりの機械的変位割合であり、d31は、31方向の電界当たりの機械的変位割合を意味する。また、誘電体に交流電界(E)を印加すると、実際には電気エネルギーの一部が熱として失われる。この損失の尺度を表すものとして、一般に誘電体損失(tanδ)が用いられる。誘電体損失は、誘電損失係数や“誘電損失の正接”と表現されている時もある。ここで、δとは交流電界に対する電気分極の位相の遅れを示しており、つまり損失角度を意味している。現実には、tanδは、誘電体の良否を表す目安として使用され、一般にはこの値が小さいと、コンデンサの発熱が抑えられると考えていい。普通、tanδ=0.03とか、3%という形で表現される。
(実施例3)
下記式のように原料液を添加して、pH6.5、粘度40cps、Ptに対する接触角10°のPBNZT強誘電体膜形成用原料溶液を作製した。
[{(25mol%PZTゾルゲル溶液(溶媒:エタノール、過剰鉛25%)+5mol%オクチル酸ニオブ+5mol%のオクチル酸ビスマス+3mol%オクチル酸マンガン+15mol%コハク酸ジメチル)+1/2容量2nブトキシエタノール}+1/8容量(ラウリン酸45%+ミリスチン酸18%+パルミチン酸10%+カプリル酸8%+オレイン酸8%+カプリン酸7%+ステアリン酸2%+リノール酸2%)+1/8容量エチルメチルエーテル]+1/5容量ジメチルアミノエタノール ・・・(式)
次に、実施例1と同様の方法により、表面に(111)配向させたPt膜を形成した4インチ又は6インチSiウエハを用意し、Pt電極を被覆されたSiウエハ上に上記のPBNZT強誘電体膜形成用原料溶液をスピンコート法により塗布する。これにより、このSiウエハ上に1層目の塗布膜が形成される。詳細には、4インチSiウエハに1.5ccの本溶液を塗布し、0〜500rpmまで3secで上昇させ、500rpmで5sec保持した後、1000rpmで90sec回転させ、3000rpmで30sec回転後、停止させた。
次に、ホットプレートにより1層目の塗布膜を250℃の温度で30sec間加熱して乾燥させ、その後、450℃の温度で30sec間仮焼成した。これにより、Siウエハ上に1層目の強誘電体材料アモルファス膜が形成された。
次いで、1層目の塗布膜と同様の方法で、塗布、乾燥、仮焼成を5回繰り返すことで、6層からなる膜厚1μmの強誘電体材料膜を成膜した1μm−PBNZT厚膜サンプルを作製した。
次に、加圧RTAにより強誘電体材料膜に熱処理を施すことにより、強誘電体材料膜を結晶化して強誘電体膜を形成する。この際の熱処理条件は、酸素分圧9.9atmで加圧された酸素雰囲気中で、昇温速度100℃/secで、温度が650℃まで瞬時に昇温し、1min保持することにより結晶化を行った。更に、酸素分圧を5atm、7.5atmそれぞれに変えて結晶化を行ったサンプルも作製した。
図11(A)〜(C)は、本実施例のPBNZT厚膜をXRD回折で結晶性を評価した結果を示す図である。
図11(A)は、酸素分圧9.9atmで加圧された酸素雰囲気中で結晶化を行ったサンプルの結果であり、このサンプルでは配向性を(001)に制御できることが確認された。
図11(B)は、酸素分圧5atmで加圧された酸素雰囲気中で結晶化を行ったサンプルの結果であり、このサンプルでは配向性を(110)に制御できることが確認された。
図11(C)は、酸素分圧7.5atmで加圧された酸素雰囲気中で結晶化を行ったサンプルの結果であり、このサンプルでは配向性を(111)に制御できることが確認された。
図11(A)〜(C)の結果により、Pt(111)基板上であっても結晶化の際の酸素分圧によっては配向性を制御できることが分かり、PBNZT厚膜を適用するデバイス別に配向性を制御することによって最適な特性を得ることが可能になる。
図12は、(001)、(111)、(110)それぞれに配向したPBNZT厚膜の結晶を示す模式図である。
図12に示すように、酸素分圧9.9atmで結晶化させて(001)に配向したPBNZT厚膜の結晶当たりの酸素の数は2個であり、酸素分圧7.5atmで結晶化させて(111)に配向したPBNZT厚膜の結晶当たりの酸素の数は1.5個であり、酸素分圧5atmで結晶化させて(110)に配向したPBNZT厚膜の結晶当たりの酸素の数は1個であることが分かる。
図11(D)は、
図11(A)のPBNZT厚膜のヒステリシス評価を行った結果を示す図であり、
図11(E)は、
図11(B)のPBNZT厚膜のヒステリシス評価を行った結果を示す図であり、
図11(F)は、
図11(C)のPBNZT厚膜のヒステリシス評価を行った結果を示す図である。
図11(D)〜(F)に示すように、本発明の強誘電体膜は、優れたヒステリシス特性を有することが確認された。