(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1では、静電容量の温度特性を示すX7R特性(EIA規格)およびB特性(EIAJ規格)をいずれも満足することができ、且つ、静電容量および絶縁抵抗の電圧依存性が小さく、絶縁破壊耐力に優れ、内部電極層としてNiまたはNi合金が使用可能な積層セラミックコンデンサなどの電子部品と、その電子部品の誘電体層として用いて好適な誘電体磁器組成物およびその製造方法を提供することを目的としている。このため、150℃での容量変化率が−15%を下回ってしまい、X8R規格を満足することはできない。特に近年、搭載箇所がエンジン部へと集中しつつある車載用の積層セラミックコンデンサでは150℃での保証が求められる傾向が顕著である。
【0010】
また、特許文献2では、BaTiO
3粒子中における、副成分濃度の分布が記述されており、粒子中心部から粒界に向けて副成分濃度が高くなるように調整された誘電体磁器組成物が採用されている。しかしながら、この誘電体磁器組成物においても、容量温度特性はX8R特性を満たさず、改善が望まれていた。
【0011】
また、特許文献3においては比較的平坦な誘電特性が得られているが、150度の高温下の場合には、良好な温度特性は得られておらず、改善の必要がある。
【0012】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、容量温度特性X8Rを満たし、かつ加速寿命の向上が可能な誘電体磁器組成物、およびこの誘電体磁器組成物を誘電体層として有する電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明によれば、
セラミック粒子の焼結体からなり、前記セラミック粒子は、コア部と、
前記コア部を覆うシェル部を有する焼結体より構成される誘電体磁器組成物であって、
前記コア部は、実質的に主成分であるBaTiO
3から構成され、
前記シェル部がBaTiO
3および第一副成分であるMg、Ba、Ca、Srより選ばれる少なくとも一つの元素と、第二副成分であるSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも1つの元素と、第三副成分であるMn、V、Fe、Co、Ni、Crより選ばれる少なくとも一つの元素と、第四副成分であるAl、Si、B、Geより選ばれる少なくとも一つの元素と、第五副成分であるZr、Hf、Nb、Taより選ばれる少なくとも一つの元素と、を有し、
当該誘電体磁器組成物中のTiに対する副成分の濃度を、それぞれ、第一副成分:CP1(at%)、第二副成分:CP2(at%)、第三副成分:CP3(at%)、第四副成分:CP4(at%)、第五副成分:CP5(at%)とした場合に、
0(at%)<CP1<5(at%)、
0(at%)<CP2<15(at%)、
0(at%)<CP3<1(at%)、
2(at%)<CP4<5(at%)、
0(at%)<CP5<1.5(at%)、
であり、前記シェル部における、Tiに対する第二副成分の濃度をCS2(at%)とした場合に、
CS2>10(at%)、CS2/ CP2>2.122
の関係式を満たすことを特徴とする誘電体磁器組成物が提供される。
ここで、「コア部は、実質的に主成分であるBaTiO
3より構成される」とは、コア部には第一〜第五副成分を含んでも良いということである。
【0014】
このような特徴を持つ誘電体磁器組成物は、従来の誘電体磁器組成物に比べ、シェル部が大幅に高濃度化されており、より明確なコア・シェル構造を有している。そのため、静電容量温度変化が小さく、信頼性の高い電気特性が得られる。
【0015】
さらに、前記誘電体磁器組成物の作製に用いる、BaTiO
3原料における、結晶格子のc軸長とa軸長の比であるc/a値は、c/a<1.007という関係式を満たすことが望ましい。
【0016】
この条件を満たすBaTiO
3を原料として用いることによって、シェル部が効率的に高濃度化され、容量温度特性および高温加速寿命がさらに良好となる。
【0017】
また、本発明によれば、誘電体層と内部電極層とを有する電子部品であって、前記誘電体層が、上記誘電体磁器組成物で構成された電子部品が提供される。本発明に係る電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の誘電体磁器組成物は、BaTiO
3を含む主成分に対し、上記特定の第1〜第5副成分を含有し、かつ、誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子が、主成分で実質的に構成されるコア部と前記コア部の周囲にシェル部とを有し、前記シェル部における、Tiに対する第二副成分の濃度をCS2(at%)としたとき、
CS2>10(at%)、CS2/ CP2>2.122
のような関係式を満たすように制限されている。
【0019】
このことにより、シェル部における希土類濃度が大幅に高くなり、より明確なコア・シェル構造が構成される。そのため、容量温度特性および高温加速寿命を優れたものとすることができる。
【0020】
そして、本発明の誘電体磁器組成物は上記特性を有するため、積層セラミックコンデンサなどの電子部品の誘電体層に、このような本発明の誘電体磁器組成物を適用することにより、たとえば、誘電体層を3μm程度と薄層化し、定格電圧の高い(たとえば50V以上)条件で用いた場合においても、高い信頼性とX8Rに該当する容量温度特性を実現することができる。
【0021】
すなわち、小型・大容量化対応で、しかも高い信頼性およびX8Rに該当する容量温度特性を有する電子部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0024】
積層セラミックコンデンサ
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極層3とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。
このコンデンサ素子本体10の両端部には、素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はない。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0025】
内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。また、一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0026】
誘電体層
誘電体層2は、本実施形態の誘電体磁器組成物を含有する。本実施形態の誘電体磁器組成物は、BaTiO
3を含む主成分と、
第一副成分であるMg、Ba、Ca、Srより選ばれる少なくとも一つの元素と、
第二副成分であるSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも1つの元素、
第三副成分であるMn、V、Fe、Co、Ni、Crより選ばれる少なくとも一つの元素、
第四副成分であるAl、Si、B、Geより選ばれる少なくとも一つの元素、
第五副成分であるZr、Hf、Nb、Taより選ばれる少なくとも一つの元素と、を有する。
【0027】
主成分として含有されるBaTiO
3としては、たとえば、組成式Ba
m TiO
2+m で表され、前記組成式中のmが、0.990<m<1.010であり、BaとTiとの比が0.990<Ba/Ti<1.010であるものなどを用いることができる。
【0028】
第一副成分であるMg、Ba、Ca、Srより選ばれる少なくとも一つの元素の含有量は、主成分100モルに対して、元素換算で、0〜5モルであり、好ましくは2.7〜4.5モルである。第一副成分は、主に、主成分であるBaTiO
3の強誘電性を抑制する効果を有する。第一副成分の含有量がこの範囲内であることにより、加速寿命が向上する傾向となる。
【0029】
第二副成分であるSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも1つの元素の含有量は、主成分100モルに対して、元素換算で、0〜15モルであり、好ましくは8〜10モルである。第二副成分は、主に、主成分であるBaTiO
3の強誘電性を抑制する効果を有する。
第二副成分の含有量がこの範囲内であることにより、絶縁抵抗、加速寿命、および温度特性が向上する傾向となる。
【0030】
なお、上記代に副成分は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuから選択されるが、Yb,Tbが特に好ましい。
【0031】
第三副成分であるMn、V、Fe、Co、Ni、Crより選ばれる少なくとも一つの元素の含有量は、主成分100モルに対して、元素換算で、0〜1モルであり、好ましくは0.12〜0.32モルである。第三副成分の含有量がこの範囲内であることにより、絶縁抵抗、加速寿命、および比誘電率が向上する傾向となる。
【0032】
第四副成分であるAl、Si、B、Geより選ばれる少なくとも一つの元素の含有量は、主成分100モルに対して、元素換算で、2〜5モルであり、好ましくは3.2〜4.0モルである。第四副成分の含有量がこの範囲内であることにより、絶縁抵抗、および加速寿命が向上する傾向となる。
【0033】
なお、第四副成分としては、上記各酸化物のなかでも特性の改善効果が大きいという点より、Siの酸化物を用いることが好ましい。
【0034】
第五副成分であるZr、Hf、Nb、Taより選ばれる少なくとも一つの元素の含有量は、主成分100モルに対して、元素換算で、0〜1.5モルである。
第五副成分の含有量がこの範囲内であることにより、容量温度特性および比誘電率が向上する傾向となる。
【0035】
なお、第五副成分であるZrは、Zrのうち一部が、Hfにより置換されたものであっても良い。
【0036】
なお、本実施形態においては、必要に応じて、上記第一〜第五副成分に加えて、その他の副成分を添加しても良い。
【0037】
誘電体層2の厚みは、特に限定されず、積層セラミックコンデンサ1の用途に応じて適宜決定すれば良い。
【0038】
誘電体層の微細構造
図2に示すように、本誘電体層は、主成分であるBaTiO
3で実質的に構成されるコア部11と、前記コア部11の周囲に、第一副成分であるMg、Ba、Ca、Srより選ばれる少なくとも一つの元素と、第二副成分であるSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luから選ばれる少なくとも1つの元素と、第三副成分であるMn、V、Fe、Co、Ni、Crより選ばれる少なくとも一つの元素と、第四副成分であるAl、Si、B、Geより選ばれる少なくとも一つの元素と、第五副成分であるZr、Hf、Nb、Taより選ばれる少なくとも一つの元素が拡散したシェル部12とを有する。
【0039】
本発明では、前記シェル部12における第二副成分の濃度をCS2(at%)と定義する。CS2(at%)は、
図2中のEDS観察点13における定量分析によって算出する。シェル部は、拡散成分がほぼ均一に拡散した単一の相であっても良く、あるいは、異なる拡散成分から形成される複数の相であっても良く、さらには、拡散成分の含有割合が粒子内部に向かって除々に変化する態様であっても良い。
【0040】
本実施形態におけるコア部とシェル部の境界は、
図3に示すような誘電体粒子のTEM写真によって判断する。例えば
図3および
図4に見られる、シェル部である明部14とコア部である暗部15の境界により判断する。また、
図3および
図4中の黒点16は、BaTiO
3内部に存在するポアである。
【0041】
本実施形態では、
図2における斜線部と定義した、誘電体粒子のシェル部のTiに対する第二副成分の濃度CS2(at%)が10(at%)を上回るように制御されている。ここで、第二副成分の濃度CS2(at%)が10(at%)を下回る場合では、室温での静電容量が過度に増加し、容量温度特性が悪化する。つまり、X8R特性を満足しなくなる。
【0042】
容量温度特性は、下式で定義される。
容量温度特性 =
{(目的の温度における静電容量−25℃における静電容量)/
(25℃における静電容量)}
×100(%)
【0043】
また、当該誘電体磁器組成物中のTiに対する第二副成分の濃度CP2と、上記誘電体粒子のシェル部におけるTiに対する第二副成分の濃度CS2(at%)は、CS2/ CP2>2.122の関係式を満たすように制御されている。これらの関係式を満たすのは、
図5における、直線CS2=2.122×CP2を上回る領域である。ここで、前記CS2およびCP2が、CS2/CP2≦2.122である場合には、シェル部とコア部の差異が少なくなってしまい、明確なコア・シェル構造が形成されない。このため、容量温度特性または、高温加速寿命が悪化する。
【0044】
また、本実施形態においては、原料としてc/a値が1.007を下まわるBaTiO
3を用いることが好ましい。
【0045】
上記のような、BaTiO
3を用いることによって、希土類のシェル部における濃度が高まり、より明確なコア・シェル構造が形成される。
【0046】
上記のような、明確なコア・シェル構造を形成することによって、容量温度特性および高温加速寿命が向上する傾向となる。
【0047】
内部電極層
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0048】
外部電極
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0049】
積層セラミックコンデンサの製造方法
本実施形態の積層セラミックコンデンサは、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0050】
まず、誘電体層用ペーストに含まれる誘電体原料(誘電体磁器組成物粉末)を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。主成分の原料として結晶格子のc軸長とa軸長の比であるc/aが、それぞれc/a=1.006,1.002,1.007,1.011のBaTiO
3粉末を用意した。
【0051】
本発明の効果を得るための主成分の原料としてのBaTiO
3粉末は、いわゆる固相法の他、各種液相法(たとえば、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など)により製造されたものなど、種々の方法で製造されたものを用いることができ、それぞれの結晶性が低くなる条件を用いて製造する。
【0052】
上記のBaTiO
3粉末基材を用意した後、副成分の原料として、MgO、Tb
2O
3.5、Yb
2O
3、MnO、SiO
2、ZrO
2を最終製品の副成分濃度が表1または、表2になるように混合し、誘電体磁器組成粉末を得た。
【0053】
なお、表1および表2中の試料番号1、5、6、12、13、16、17、20、21、24、27、28、31、32,35、36、39、40は、本発明の範囲外である。
【0054】
誘電体層用ペーストの調製は、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0055】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0058】
本実施形態では、有機系の塗料を用いて、誘電体層用ペーストを調整した。
すなわち、前記誘電体磁器組成物粉末と、溶媒としてのアルコール:100重量部、バインダとしてのポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジブチルフタレート(DOP):5重量部と、を混合し、それぞれ誘電体ペーストを得た。
【0059】
上記で得られた誘電体ペーストを用いて、PETフィルム上に、セラミックグリーンシートを成形する。
本実施形態では、ドクターブレード法によりグリーンシートを成形し、乾燥後の厚み4.0μmの矩形のセラミックグリーンシートをそれぞれ得た。
【0060】
その後、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層し、所望の形状に切断してグリーンチップとする。
【0061】
内部電極層用ペーストは、銀、ニッケルなどの導電性金属やそれらを含む合金からなる導電材粉末と、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
本実施形態では、ニッケル導電性ペーストを用い、印刷法にてグリーンシート上に導電性ペースト膜を形成した。
【0062】
前記導電性ペースト膜を印刷したセラミックグリーンシートを、切断後に導電性ペースト膜が端部に交互に引き出されるように11枚重ね、加圧接着することで積層数が10層の積層体を作製した。接着条件は、温度100℃、圧力1MPaの条件で接着した。
また、積層体を所望の形状に切断し、幅1.4mm、長さ2.2mm、厚み1.4mmのグリーンチップを得た。
【0063】
得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理を施した後に焼成を行う。
脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間とする。
焼成条件としては、昇温速度を好ましくは50〜500℃/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間とする。また、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、N
2 とH
2 との混合ガスを加湿して用いることができる。
【0064】
還元性雰囲気中で焼成した後、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0065】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0066】
本実施形態では、脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0067】
焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1200〜1350℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:N
2 +H
2 +H
2 O混合ガス(酸素分圧:10
−12MPa)とした。ここで、焼結完了する温度は、使用する基材の大きさおよび副成分の量に依存するため、保持温度は実施例毎にそれぞれの最適温度にて焼成した。
【0068】
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1050℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:N
2 +H
2 O混合ガス(酸素分圧:10
−7MPa)とした。なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0069】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、たとえばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0070】
評価方法
本発明を実施するにあたり、主成分としてのチタン酸バリウム粉末、得られる誘電体磁器組成物の評価方法、及び、それを用いて作製される積層セラミックコンデンサの評価方法について説明する。
【0071】
得られた各積層セラミックコンデンサ試料について、誘電体粒子のコア部およびシェル部の有無および、シェル部における第二副成分のTiに対する濃度CS2(at%)、比誘電率εs、絶縁抵抗(IR)、容量温度特性(TC)、高温加速寿命(HALT)を下記に示す方法により測定した。
【0072】
シェル部の第二副成分(希土類元素)の濃度
シェル部の第二副成分(希土類元素)の濃度は、元素分析機器(EDS)を付設した透過走査型電子顕微鏡(STEM)を用いて調べた。試料は積層セラミックコンデンサを誘電体層に対して垂直な面で切り出し、FIB加工により作製した薄片をTEM試料とした。
【0073】
またTEM観察直前には低加速Arイオン研磨装置を用いてTEM試料表面のアモルファス層を除去した。
【0074】
そのようなTEM試料についてSTEM観察を行い、チタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子が、他の結晶粒子と重なることなく明瞭に観察できる粒子で、且つSTEM暗視野で観察したときにシェル部とコア部のコントラストが明瞭に識別できる粒子を選択した。
図3に観察例を示す。このような結晶粒子50個について、コア部とシェル部のコントラストが急峻に変化する部分と結晶粒界との中間点(EDS観察点13)でEDS元素分析を行い、これを各結晶粒子で10点ずつ測定した。これらの結果を平均化し、これをシェル部の第二副成分(希土類元素)の濃度CS2とした。
【0075】
比誘電率εs
積層セラミックコンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)にて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの信号を入力し、静電容量Cを測定した。
そして、比誘電率εs(単位なし)を、誘電体層の厚みと、有効電極面積と、測定の結果得られた静電容量Cとに基づき算出した。
比誘電率は、本実施例では900以上を良好とした。
【0076】
絶縁抵抗(IR)
IR測定器にて、50V/μmの測定電圧を30秒間印加した後、測定を行った。測定はチップ10個で行い、平均値を求めた。絶縁抵抗は、5.0E+9Ω以上を良好とした。
【0077】
容量温度特性(TC)
積層セラミックコンデンサ試料に対し、−55〜160℃における静電容量を測定し、基準温度(25℃)における静電容量に対する変化率を算出した。
本実施例では、150℃での容量変化率が+15%〜−15%(X8R特性)を満足するものを良好とした。
【0078】
高温加速寿命(HALT)
積層セラミックコンデンサ試料に対し、200℃にて、35V/μmの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、寿命時間を測定することにより、高温加速寿命(HALT)を評価した。
本実施例においては、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を寿命と定義した。
また、この高温加速寿命は、20個の積層セラミックコンデンサ試料について行った。
評価基準は、80時間以上を良好とした。
【実施例1】
【0081】
試料番号1〜24
結晶格子のc軸長とa軸長の比であるc/a値がc/a=1.006であるBaTiO
3を主成分原料として用いた試料1〜24についてまず説明する。
【0082】
主成分であるBaTiO
3に対して、第一副成分としてMg、第二副成分としてTbおよびYb、第三副成分としてMn、第四副成分としてSi、第五副成分としてZrをそれぞれについて、酸化物または炭酸化合物を選択する。
【0083】
最終製品におけるBaTiO
3と第一から第五副成分の組成比が、BaTiO
3が100(at%)、第一副成分であるMgが3.7(at%)、第二副成分であるTbとYbが、それぞれ3.8(at%)、5.3(at%)、第三副成分であるMnが0.23(at%)、第四副成分であるSiが3.2(at%)、第五副成分であるZrが1.2(at%)となるように、ボールミルによる混合粉の作製を行った。
【0084】
なお、ここで、前記の最終製品におけるBaTiO
3と第一から第五副成分の組成比を基本組成と定義する。
【0085】
前記ボールミルによって作成した混合粉に、有機バインダを加えてスラリーとした後シート化し、内部電極とともに誘電体シートを交互に積層し、チップ化した後焼成し、所望の積層セラミックコンデンサのサンプルとした。
【0086】
試料番号1〜5
表3の試料1〜5では、第一副成分としてMgを取り上げ、Mg元素の添加量を表1のように変え、検討を行った。また、この検討においては、他の副成分濃度を、前記の基本組成に固定した。その結果、0(at%)<CP1(表2および3ではMgの濃度)<5(at%)を満たす試料2〜4で、高温加速寿命は良好な値を示している。
Mg濃度が0(at%)の場合には、酸素欠陥の生成が抑制されず、高温加速寿命が低下する。またMg濃度が5(at%)より高い場合には、粒界部にかかる電圧が、高くなりすぎてしまい、高温加速寿命が低下する。
【0087】
試料番号6〜12
表3の試料6〜12では、第二副成分としてTbとYbを取り上げ、Tb元素とYb元素の添加量を表1のように変え、検討を行った。また、この検討においては、他の副成分濃度を、前記の基本組成に固定した。その結果、0(at%)<CP2(表2および3ではTbの濃度とYbの濃度の和)<15(at%)を満たす試料7〜11で、絶縁抵抗、高温加速寿命および容量温度特性は良好な値を示している。
【0088】
TbまたはYb濃度が低い場合では、焼結が過度に進みすぎ、容量温度特性の悪化と、高温加速寿命の低下が起こる。これに対して、TbまたはYb濃度が高い場合では、ドナー性イオンが増加することによって、絶縁抵抗の低下が起こり、同時に、酸素欠陥の増加によって、高温加速寿命の低下が起こる。
【0089】
試料番号13〜16
表3の試料13〜16では、第三副成分としてMnを取り上げ、Mn元素の添加量を表1のように変え、検討を行った。また、この検討においては、他の副成分濃度を、前記の基本組成に固定した。その結果、0(at%)<CP3(表2および3ではMnの濃度)<1(at%)を満たす試料14〜15で、比誘電率、絶縁抵抗および高温加速寿命は良好な値を示している。
【0090】
Mn濃度が低い場合では、酸素欠陥の生成が抑制されず、絶縁抵抗および高温加速寿命が低下する。対して、Mn濃度が高い場合では、シェル部の割合が過度に増加し、比誘電率が低下させる。また同時に、粒界にかかる電圧も増加するので、高温加速寿命も低下する。
【0091】
試料番号17〜20
表3の試料17〜20では、第四副成分としてSiを取り上げ、Si元素の添加量を表1のように変え、検討を行った。また、この検討においては、他の副成分濃度を、前記の基本組成に固定した。その結果、表3の試料17〜20において、2(at%)<CP4(表2および3ではSiの濃度)<5(at%)を満たす試料18〜19で、絶縁抵抗および高温加速寿命は良好な値を示している。
【0092】
Si濃度が低い場合では、十分な焼結状態を得られないため、絶縁抵抗が低下する。これに対して、Si濃度が高い場合では、過度に粒成長が促進し、高温加速寿命が悪化する。
【0093】
試料番号21〜24
表3の試料17〜20では、第五副成分としてZrを取り上げ、Zr元素の添加量を表1のように変え、検討を行った。また、この検討においては、他の副成分濃度を、前記の基本組成に固定した。その結果、0.0(at%)<CP5(表2および3ではZrの濃度)<1.5(at%)を満たす試料22〜23で、高温加速寿命および容量温度特性は良好な値を示している。
【0094】
Zr濃度が0.0(at%)の場合では、Tiの3価への価数変化が抑制されず、格子定数が変化する。このことによって、比誘電率の低下および容量温度特性の悪化が起こる。これに対して、Zr濃度が1.5(at%)を上回る場合では、Zrの偏析が生じて、比誘電率の低下および容量温度特性の悪化が起こる。
【実施例2】
【0095】
試料番号25〜40
次に、結晶格子のc軸長とa軸長の比であるc/a値がc/a=1.002、1.006、1.007、1.011であるBaTiO
3を主成分原料として用いた試料25〜40について説明する。
【0096】
実施例1と同様に、主成分であるBaTiO
3に対して、第一副成分としてMg、第二副成分としてTbおよびYb、第三副成分としてMn、第四副成分としてSi、第五副成分としてZrをそれぞれについて、酸化物または炭酸化合物を選択する。
【0097】
最終製品におけるBaTiO
3と第一から第五副成分の組成比が、BaTiO
3が100(at%)、第一副成分であるMgが3.7(at%)、第二副成分であるTbとYbが、それぞれ0.1〜3.8(at%)、0.2〜5.3(at%)、第三副成分であるMnが0.23(at%)、第四副成分であるSiが3.2(at%)、第五副成分であるZrが1.2(at%)となるように、ボールミルによる混合粉の作製を行った。
【0098】
なお、第二副成分の濃度は、試料番号25〜28では、Tbが0.1(at%)、Ybが0.2(at%)、試料番号29〜32では、Tbが1.9(at%)、Ybが2.9(at%)、試料番号33〜36では、Tbが2.4(at%)、Ybが3.7(at%)、試料番号37〜40では、Tbが3.8(at%)、Ybが5.3(at%)、とそれぞれなるようにする。
【0099】
なお、用いるBaTiO
3のc軸長とa軸長の比であるc/a値は、試料番号25、29、33、37、では、c/a=1.002、試料番号26、30、34、38では、c/a=1.006、試料番号27、31、35、39では、c/a=1.007、試料番号28、32、36、40では、c/a=1.011とする。
【0100】
前記ボールミルによって作成した混合粉に、有機バインダを加えてスラリーとした後シート化し、内部電極とともに誘電体シートを交互に積層し、チップ化した後焼成し、所望の積層セラミックコンデンサのサンプルとした。
【0101】
表4より、同一の組成比で誘電体磁器組成物を合成したにもかかわらず、シェル部での第二副成分濃度CS2および、CS2とCP2の比であるCS2/CP2には差異が現れた。なおここでいう同一の組成比とは、試料番号「25〜28」の一組、「29〜32」の一組、「33〜36」の一組、「37〜40」をそれぞれ指す。
【0102】
BaTiO
3を原料のc/a値が減少すると、CS2およびCS2/CP2は増加した。
【0103】
c/a<1.007を満たすBaTiO
3を原料とした試料番号25、26、29、30、33、34、37、38は、CS2>10(at%)、CS2/ CP2>2.122を満足しているため、容量温度特性および高温加速寿命が良好であった。
【0104】
これに対し、c/a≧1.007を満たすBaTiO
3を原料とした、試料番号27,28、31,32,35,36、39、40では、CS2>10(at%)、CS2/ CP2>2.122が満足されず、容量温度特性または加速寿命が、基準値(容量温度特性:+15%〜―15%、高温加速寿命:80時間以上)に達しなかった。
【0105】
なお、表4のように、試料番号25〜40のサンプルは、比誘電率および絶縁抵抗の基準値を全て満たしている。
【0106】
以上より、低結晶基材を用いることによって、シェル部における希土類の濃度を高濃度化した焼結体から構成される誘電体磁器について説明した。このように、希土類が高濃度となるシェル部を構成することにより、寿命特性、温度特性が向上する。
【0107】
本発明による誘電体磁器を用いることで、寿命特性、温度特性に優れた積層セラミックコンデンサを製造することができる。また、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。