(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5903993
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】通信システム
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20160331BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20160331BHJP
B60L 11/18 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
H02J7/00 P
H02J7/00 301B
H01M10/44 Q
B60L11/18 CZHV
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-84954(P2012-84954)
(22)【出願日】2012年4月3日
(65)【公開番号】特開2013-215059(P2013-215059A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2014年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】岡田 遼
(72)【発明者】
【氏名】萩原 剛志
(72)【発明者】
【氏名】泉 達也
(72)【発明者】
【氏名】二井 和彦
(72)【発明者】
【氏名】高田 陽介
【審査官】
横田 有光
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−034484(JP,A)
【文献】
SURFACE VEHICLE RECOMMENDED PRACTICE,米国,SAE,1996年10月,URL,http://www.evenergystations.com/j1772.pdf
【文献】
ノイズ対策ノウハウ集,日本,村田製作所,2001年 7月,P.26-30,URL,http://www.murata.co.jp/products/emc/knowhow/pdf/26to30.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00− 7/12
H02J 7/34− 7/36
H01M 10/42−10/48
B60L 1/00− 3/12
B60L 7/00−13/00
B60L 15/00−15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電対象に対する充電の制御に用いる制御信号を伝送する制御用線と、基準電位に接続
する基準電位線とを媒体として、前記制御信号と異なる通信信号を伝送することにより通
信する通信システムにおいて、
前記制御用線及び基準電位線に接続され、前記制御信号により、充電を制御する充電制
御装置と、
前記制御用線及び基準電位線から夫々分岐する2本の分岐線に接続され、前記通信信号
による通信を行う通信装置と、
前記制御用線及び基準電位線に介装された一対の誘導素子と
を備えることを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記一対の誘導素子は、前記充電制御装置と、前記2本の分岐線の分岐部との間に位置
することを特徴とする請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記一対の誘導素子は、コモンモードチョークコイルであることを特徴とする請求項1
又は2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記充電対象である蓄電池、並びに前記充電制御装置、前記通信装置及び前記一対の誘
導素子を車両内に配設したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の通信シス
テム。
【請求項5】
前記車両は、外部の配線を、前記制御用線及び基準電位線に接続させるためのコネクタ
を備え、
前記一対の誘導素子は、前記コネクタ内に設けられている
ことを特徴とする請求項4に記載の通信システム。
【請求項6】
前記充電制御装置、前記通信装置及び前記一対の誘導素子を、前記充電対象に対して電
力を供給する給電装置内に配設したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の
通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、充電対象に対する充電の制御に用いる制御信号を伝送する制御用線と、基準電
位に接続する基準電位線とを媒体として、前記制御信号と異なる通信信号を伝送すること
により通信する通信システ
ムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モータ及びバッテリ等の装置を搭載し、バッテリに蓄積した電力にてモータを駆動することで走行する電気自動車及びハイブリッド自動車が普及し始めている。電気自動車は外部の給電装置からの給電によりバッテリに対する充電を行う。また、ハイブリッド自動車であっても、外部の給電装置からバッテリへの充電を可能としたプラグインハイブリッド自動車が実用化されている。なお、外部の給電装置とは、一般家屋、商用の給電ステーション等の施設に設置された給電装置である。給電装置から車両への給電に際しては、給電装置に接続されている充電ケーブルの先端のプラグを、受電コネクタとして車両に配設された給電口に接続する。そして、充電ケーブルに内包された給電線を介して給電装置から車両への給電が行われ、バッテリが充電される。
【0003】
なお、充電ケーブルには、給電線だけでなく、接地線、制御用線等の他の配線も内包されている。制御用線とは、蓄電装置の給電制御に用いるコントロールパイロット信号等の制御信号の伝送に用いられる配線である。制御用線を介して、給電装置及び車両間で制御信号を送受信することにより、充電ケーブルの接続状態、充電可否の状態、充電の状態等の様々な状態を検知し、検知した状態に応じた充電制御が行われる。
【0004】
さらに、電気自動車、ハイブリッド自動車等の外部からの給電を要する自動車の実用化に際しては、給電制御のための情報、及び、給電量又は課金の管理等を行うための通信情報を、車両及び給電装置の間で送受信する通信機能が求められる。
【0005】
そこで、制御信号に通信信号を重畳して、車両及び給電装置間で送受信するinband通信等の通信の規格化が進められている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0006】
図6は、規格化が進められているシステムの構成例を示す説明図である。
図6中1000は、車両であり、車両1000は、給電装置2000から給電を行う場合に、充電ケーブル3000にて給電装置2000と接続される。充電ケーブル3000は、電力供給線として用いられる一対の給電線3001、3002、接地用の導線である接地線3003、及び充電制御に用いるコントロールパイロット信号(CPLT)等の制御信号を伝送する制御用線3004を内包している。
【0007】
充電ケーブル3000の一端は、給電装置2000側に接続されており、他端側に設けられたプラグ3005を車両1000側の給電口に接続部として配設されている受電コネクタ1001に接続することにより、給電が可能となる。
【0008】
給電装置2000は、交流電力を供給する電力供給装置2001と、充電制御に係る通信を行う充電制御装置2002と、通信信号の送受信を行う通信装置2003と、接地線3003及び制御用線3004に対して通信信号の重畳及び分離を行う重畳分離器2004とを備えている。
【0009】
充電制御装置2002は、コンデンサC2、抵抗R2等の各種素子、発振回路O等の各種回路を備え、コンデンサC2及び発振回路Oは、接地電位に接続されている。
【0010】
重畳分離器2004は、接地線3003及び制御用線3004に両端を接続する一次コイル2004aと、通信装置1005に両端を接続する二次コイル2004bとを備え、一次コイル2004a及び二次コイル2004bは、電磁的に結合する。
【0011】
そして、重畳分離器2004は、接地線3003及び制御用線3004に対して各種通信信号を重畳し、また、重畳された各種通信信号を分離する。重畳分離器2004が、通信装置2003から出力される各種通信信号を重畳し、また、分離した各種通信信号を通信装置2003に入力することで、通信装置2003の通信が行われる。
【0012】
車両1000は、受電コネクタ1001と、バッテリ1002と、バッテリ1002に対する充電を行う充電装置1003と、充電制御に係る通信を行う充電制御装置1004と、通信信号の送受信を行う通信装置1005と、接地線3003及び制御用線3004に対して通信信号の重畳及び分離を行う重畳分離器1006とを備えている。
【0013】
充電制御装置1004は、コンデンサC1、抵抗R1、ダイオードVd等の各種素子を備え、コンデンサC1及び抵抗R2は、接地電位に接続されている。
【0014】
重畳分離器1006は、接地線3003及び制御用線3004に両端を接続する一次コイル1006aと、通信装置1005に両端を接続する二次コイル1006bとを備え、一次コイル1006a及び二次コイル1006bは、電磁的に結合する。
【0015】
そして、重畳分離器1006は接地線3003及び制御用線3004に対して各種通信信号を重畳し、また、重畳された各種通信信号を分離する。重畳分離器1006が、通信装置1005から出力される各種通信信号を重畳し、また、分離した各種通信信号を通信装置1005に入力することで、通信装置1005の通信が行われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】「SURFACE VEHICLE RECOMMENDED PRACTICE」、J1772 JAN2010、ソサエティ・オブ・オートモーティブ・エンジニアズ・インク(Society of Automotive Engineers, Inc. ),1996年10月(2010年1月改訂)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、
図6に例示した従来のシステムでは、接地線3003及び制御用線3004上に発生したコモンモードノイズが、通信装置1005又は通信装置2003に流入し、誤動作等の異常を引き起こす事があるという問題がある。
【0018】
図7は、コモンモードノイズの模擬実験の一例を示す回路図である。
図7は、
図6に示したシステムの車両1000側において、コモンモードノイズに対する評価試験として実施されるBCI試験の等価回路を示している。BCI試験等の評価試験においては、接地線3003及び制御用線3004に対し、ノイズ発生源となるプローブからコモンモードノイズが印加される。
図7中4000は、プローブを用いたノイズ発生源の等価回路となる模擬ノイズ源であり、模擬ノイズ源4000は、接地線3003及び制御用線3004に対し同相のコモンモードノイズを印加する。
【0019】
模擬ノイズ源4000からコモンモードノイズとして接地線3003及び制御用線3004に印加される電圧Vgnd 及びVcpltは、本来、振幅が等しい同相の信号であるため、重畳分離器1006の一次コイル1006aで打ち消しあい、通信装置1005へ流入することはない。
【0020】
ところが、充電制御装置1004内では、接地(GND)経由で流れ出るノイズに起因して、接地線3003側の電圧Vgnd 及び制御用線3004側の電圧Vcpltに差異が生じて非平衡な状態となる。また、充電制御装置1004内の回路構成に基づく接地線3003側と制御用線3004側との非平衡な状態は、線路インピーダンスの差異にも繋がる。その結果、接地線3003及び制御用線3004に印加されたコモンモードノイズは、ノーマルモードノイズに変化することになり、重畳分離器1006の一次コイル1006aで打ち消し合わず、通信装置1005へ流入し、誤動作等の異常を引き起こす事がある。同様の状況は、給電装置2000側の通信装置2003でも生じ得る。
【0021】
本発明は斯かる事情に鑑みて成されたものであり、制御用線及び接地線に一対の誘導素
子を介装することにより、コモンモードノイズを抑制する通信システ
ムの提供を主たる目的とする。
【0022】
さらに、本発明は、一対の誘導素子を、充電制御装置の手前に配置することにより、コ
モンモードノイズがノーマルモードノイズに変化することを防止して、通信装置等への影
響を排除する通信システ
ムの提供を他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に係る通信システムは、充電対象に対する充電の制御に用いる制御信号を伝送する制御用線と、基準電位に接続する基準電位線とを媒体として、前記制御信号と異なる通信信号を伝送することにより通信する通信システムにおいて、前記制御用線及び基準電位線に接続され、前記制御信号により、充電を制御する充電制御装置と、前記制御用線及び基準電位線から夫々分岐する2本の分岐線に接続され、前記通信信号による通信を行う通信装置と、前記制御用線及び基準電位線に介装された一対の誘導素子とを備えることを特徴とする。
【0024】
本発明に係る通信システムは、前記一対の誘導素子は、前記充電制御装置と、前記2本の分岐線の分岐部との間に位置することを特徴とする。
【0025】
本発明に係る通信システムは、前記一対の誘導素子は、コモンモードチョークコイルであることを特徴とする。
【0026】
本発明に係る通信システムは、前記充電対象である蓄電池、並びに前記充電制御装置、前記通信装置及び前記一対の誘導素子を車両内に配設したことを特徴とする。
【0027】
本発明に係る通信システムは、前記車両は、外部の配線を、前記制御用線及び基準電位線に接続させるためのコネクタを備え、前記一対の誘導素子は、前記コネクタ内に設けられていることを特徴とする。
【0028】
本発明に係る通信システムは、前記充電制御装置、前記通信装置及び前記一対の誘導素子を、前記充電対象に対して電力を供給する給電装置内に配設したことを特徴とする。
【0030】
本発明では、コモンモードノイズに対してハイインピーダンスとなる一対の誘導素子を配置することにより、コモンモードノイズを抑制する。
【0031】
特に前記充電制御装置と、前記2本の分岐線の分岐部との間に一対の誘導素子を配置した場合に、充電制御装置等の装置の影響でコモンモードノイズがノーマルモードノイズに変化することを防止する。
【発明の効果】
【0032】
本発明では、一対の誘導素子が、コモンモードノイズに対してハイインピーダンスとなるため、コモンモードノイズの進入を防止するので、コモンモードノイズを抑制することが可能である等の優れた効果を奏する。
【0033】
さらに、本発明では、一対の誘導素子が、コモンモードノイズに対してハイインピーダンスとなるため、接地線に印加される電圧及び制御用線に印加される電圧が平衡となる。このため、コモンモードノイズがノーマルモードノイズに変化することはなく、コイルの両端にコモンモードノイズとして印加された信号の電圧は互いに打ち消し合う。従って、ノイズが通信装置内へ流入することを防止することが可能である等の優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る通信システムの構成例を示す説明図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る通信システムにて用いられるコモンモードチョークコイル及びローパスフィルタの一例を示す回路図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係る通信システムにおけるコモンモードノイズの模擬実験の一例を示す回路図である。
【
図4】本発明の実施の形態2に係る通信システムの構成例を示す説明図である。
【
図5】本発明の実施の形態3に係る通信システムの構成例を示す説明図である。
【
図6】規格化が進められているシステムの構成例を示す説明図である。
【
図7】コモンモードノイズの模擬実験の一例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
【0036】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る通信システムの構成例を示す説明図である。
図1は、本発明の通信システムを、電気自動車、プラグインハイブリッド車等の車両1が備えるバッテリ(蓄電装置)10に対し、充電スタンド等の給電装置2から給電する形態に適用する例を示している。
【0037】
車両1及び給電装置2の間は、充電ケーブル3により接続することが可能である。充電ケーブル3は、電力供給線として用いられる一対の給電線31、32、接地電位等の基準電位に接続する接地線(基準電位線)33、及び充電制御に用いるコントロールパイロット信号(CPLT)等の制御信号を伝送する制御用線34を内包している。充電ケーブル3の一端は、給電装置2側に接続されており、他端側に設けられたプラグ30を車両1側の接続部位となる車載給電口として配設されている受電コネクタ11に接続することができる。充電ケーブル3の他端のプラグ30を受電コネクタ11に接続することにより、充電ケーブル3内の給電線31、32、接地線33及び制御用線34の端部に設けられた接続端子が、受電コネクタ11内に設けられた接続端子と接触し、
図1に例示する回路構成となる。
【0038】
給電線31、32は、交流電圧が印加されるAC線である。制御用線34は、コントロールパイロット信号等の制御信号を送受信する信号線であり、給電装置2及び充電制御装置13間が接続された場合に送受信される制御信号に基づいて充電制御が行われる。また、接地線33及び制御用線34は、車両認証、充電管理、課金管理等の管理を行うための情報、その他各種情報を伝送する媒体として用いることも可能である。即ち、車両1及び給電装置2は、接地線33及び制御用線34を媒体として通信信号を重畳及び分離することにより通信を行うことが可能である。
【0039】
給電装置2は、交流電力を供給する電力供給装置20と、充電制御に係る通信を行う充電制御装置21と、通信信号を送受信する通信装置22と、接地線33及び制御用線34に対して通信信号を重畳及び分離する重畳分離器23と、一対の誘導素子を用いたコモンモードチョークコイル24と、通信信号を遮断するローパスフィルタ25をとを備えている。
【0040】
電力供給装置20には、給電線31、32の一端及び接地線33が接続されている。充電制御装置21には、制御用線34の一端及び接地線33が接続されている。給電装置2内の配線は、給電装置2外部の充電ケーブル3に内包された給電線31、32、接地線33及び制御用線34に接続された延長線として機能する内部導線ということになるが、以降の説明では、便宜上、内部導線として配設された延長線部分も含めて、給電線31、32、接地線33及び制御用線34として説明する。
【0041】
充電制御装置21は、例えば、充電制御に関する国際規格に準拠した出力側の回路であり、コントロールパイロット信号等の制御信号を送受信することにより、接続確認、通電開始等の様々な状態における充電制御を行う。
【0042】
充電制御装置21は、コンデンサC2、抵抗R2等の各種素子、発振回路O等の各種回路を備えている。コンデンサC2、抵抗R2等の各種素子のパラメータは、送受信される制御信号に係る帯域等を考慮して適宜設計される。例えば、1kHzの矩形波によるコントロールパイロット信号を制御信号として用いる場合には、2.2nFのコンデンサC2及び1.0kΩの抵抗R2が用いられる。
【0043】
通信装置22は、接地線33から分岐した分岐線及び制御用線34から分岐した分岐線に、重畳分離器23を介して接続されており、接地線33及び制御用線34を媒体として通信信号を送受信する。
【0044】
重畳分離器23は、接地線33から分岐した分岐線及び制御用線34から分岐した分岐線にカップリングコンデンサを介して接続されている。カップリングコンデンサは、制御信号に対しては、ハイインピーダンスとなり、通信信号に対しては、ローインピーダンスとなる。カップリングコンデンサとしては、例えば、静電容量が1nFのコンデンサが用いられる。
【0045】
重畳分離器23は、各分岐線を介して接地線33及び制御用線34に両端が接続される一次コイル231と、一次コイル231に電磁的に結合される二次コイル232とを備えるカップリングトランス(電磁誘導式の信号変換器)等の回路である。そして、二次コイル232は、通信装置22に接続されている。
【0046】
重畳分離器23は、接地線33及び制御用線34に対して各種通信信号を重畳し、また、重畳された各種通信信号を分離する。重畳分離器23が、通信装置22から出力される各種通信信号を重畳し、また、分離した各種通信信号を通信装置22に入力することで、通信装置22の通信が行われる。
【0047】
通信信号は搬送波(サブキャリア)に重畳した電磁波として送受信される。通信信号に係る搬送波に用いられる周波数の帯域としては、数10kHz〜数100kHz、例えば30kHz〜450kHzの帯域が低速通信用の帯域として用いられる。また、数MHz〜数十MHz、例えば2MHz〜30MHzの帯域が高速通信用の帯域として用いられる。なお、制御信号は、1kHzの発振器から出力されるので、通信信号より低周波の信号となる。
【0048】
コモンモードチョークコイル24は、接地線33及び制御用線34に介装され、充電制御装置21と、重畳分離器23を介して通信装置22に接続する2本の分岐線の分岐部との間に位置する。コモンモードチョークコイル24は、接地線33及び制御用線34上に発生するコモンモードノイズに対してハイインピーダンスとなる。
【0049】
ローパスフィルタ25は、制御用線34に介装されている。そして、ローパスフィルタ25は、所定の周波数より低周波数の帯域、例えば、制御信号に用いられる帯域の信号を透過し、高周波数の通信信号を遮断する遮断部として機能する。
【0050】
図1では、ローパスフィルタ25が、充電制御装置21とコモンモードチョークコイル24との間に位置する形態を示しているが、充電制御装置21と、ローパスフィルタ25との間にコモンモードチョークコイル24が位置するように配置しても良い。
【0051】
また、
図1では、充電制御装置21と、コモンモードチョークコイル24及びローパスフィルタ25を夫々異なる構成として示しているが、充電制御装置21がコモンモードチョークコイル24及びローパスフィルタ25を備えるようにしても良い。例えば、充電制御装置21の内部又は外部に、コモンモードチョークコイル24及びローパスフィルタ25を一体化する等の構成とすることができる。
【0052】
車両1は、バッテリ10及び受電コネクタ11の他、バッテリに対する充電を行う充電装置12と、充電制御に係る通信を行う充電制御装置13と、通信信号を送受信する通信装置14と、接地線33及び制御用線34に対して通信信号の重畳及び分離を行う重畳分離器15と、一対の誘導素子を用いたコモンモードチョークコイル16と、通信信号を遮断するローパスフィルタ17とを備えている。
【0053】
車両1の受電コネクタ11に充電ケーブル3のプラグを接続することにより、充電ケーブル3に内包された給電線31、32の他端、接地線33の他端及び制御用線34の他端に夫々設けられた接続端子が、受電コネクタ11内に設けられた接続端子と接続される。
【0054】
受電コネクタ11は、接続端子を介して給電線31、32、接地線33及び制御用線34に接続される内部配線を備えている。給電線31、32に接続された内部配線の他端は、車両1内の内部に配設されたAC線を介して充電装置12に接続されており、充電装置12によりバッテリ10に対する充電が行われる。接地線33に接続された内部配線の他端は、車両1内の内部配線又は車体接地(body earth)を介して充電装置12及び充電制御装置13、更にはバッテリ10に接続されている。制御用線34に接続された内部配線の他端は、車両1内の内部配線として配設された延長線を介して充電制御装置13に接続されている。なお、以降の説明では、各内部配線、AC線、延長線をも含めて、給電線31、32、接地線33及び制御用線34として説明する。
【0055】
充電制御装置13は、例えば、充電制御に関する国際規格に準拠した入力側の回路であり、給電装置2の充電制御装置21と通信可能となった場合に、コントロールパイロット信号等の制御信号を送受信することにより、接続確認、通信開始等の様々な状態における充電制御を行う。
【0056】
充電制御装置13は、コンデンサC1、抵抗R1、ダイオードVd等の各種素子を備えている。コンデンサC1、抵抗R1等の各種素子のパラメータは、送受信される制御信号に係る帯域等を考慮して適宜設計される。例えば、1kHzの矩形波によるコントロールパイロット信号を制御信号として用いる場合には、1.8nFのコンデンサC2及び2.74kΩの抵抗R2が用いられる。
【0057】
通信装置14は、接地線33から分岐した分岐線及び制御用線34から分岐した分岐線に、重畳分離器15を介して接続されており、接地線33及び制御用線34を媒体として通信信号を送受信する。
【0058】
重畳分離器15は、接地線33から分岐した分岐線及び制御用線34から分岐した分岐線にカップリングコンデンサを介して接続されている。カップリングコンデンサは、制御信号に対しては、ハイインピーダンスとなり、通信信号に対しては、ローインピーダンスとなる。カップリングコンデンサとしては、例えば、静電容量が1nFのコンデンサが用いられる。
【0059】
重畳分離器15は、各分岐線を介して接地線33及び制御用線34に両端が接続される一次コイル151と、一次コイル151に電磁的に結合される二次コイル152とを備えるカップリングトランス等の回路である。そして、二次コイル152は、通信装置14に接続されている。
【0060】
重畳分離器15は、接地線33及び制御用線34に対して各種通信信号を重畳し、また、重畳された各種通信信号を分離する。重畳分離器15が、通信装置14から出力される各種通信信号を重畳し、また、分離した各種通信信号を通信装置14に入力することで、通信装置14の通信が行われる。
【0061】
コモンモードチョークコイル16は、接地線33及び制御用線34に介装され、充電制御装置13と、重畳分離器16を介して通信装置14に接続する2本の分岐線の分岐部との間に位置する。コモンモードチョークコイル16は、接地線33及び制御用線34上に発生するコモンモードノイズに対してハイインピーダンスとなる。
【0062】
ローパスフィルタ17は、制御用線34に介装されている。そして、ローパスフィルタ17は、所定の周波数より低周波数の帯域、例えば、制御信号に用いられる帯域の信号を透過し、高周波数の通信信号を遮断する遮断部として機能する。
【0063】
図1では、ローパスフィルタ17が、充電制御装置13とコモンモードチョークコイル16との間に位置する形態を示しているが、充電制御装置13と、ローパスフィルタ17との間にコモンモードチョークコイル16が位置するように配置しても良い。
【0064】
また、
図1では、充電制御装置13と、コモンモードチョークコイル16及びローパスフィルタ17を夫々異なる構成として示しているが、充電制御装置13がコモンモードチョークコイル16及びローパスフィルタ17を備えるようにしても良い。例えば、充電制御装置13の内部又は外部に、コモンモードチョークコイル16及びローパスフィルタ17を一体化する等の構成とすることができる。
【0065】
図1に示すように本発明の通信システムを構成することで、重畳分離器15、接地線33、制御用線34、重畳分離器23及びその他の配線、素子、回路により通信信号を伝送するループ回路が形成される。これにより、車両1内の通信装置14及び給電装置2の通信装置22間で、接地線33及び制御用線34に対して通信信号を重畳するinband通信を実現することが可能となる。
【0066】
図2は、本発明の実施の形態1に係る通信システムにて用いられるコモンモードチョークコイル16、24及びローパスフィルタ17、25の一例を示す回路図である。
図2は、
図1に示した車両1が備えるコモンモードチョークコイル16及びローパスフィルタ17並びに充電制御装置13を示している。なお、給電装置2が備えるコモンモードチョークコイル24及びローパスフィルタ25並びに充電制御装置21も同様の配置となるので、
図2では、それらの符号を併記し、併せて説明する。
【0067】
コモンモードチョークコイル16、24は、一対の誘導素子又はその等価回路を用いて構成され、コモンモードノイズに対してはハイインピーダンスとなるが、通信信号、制御信号等の信号に対してはローインピーダンスとなる。
【0068】
ローパスフィルタ17、25は、
図2に示すように、例えば、インダクタンスが1.5mHであるコイル及び1.0kΩの抵抗を並列に配置した回路、又はその等価回路として構成される。なお、同様の特性を得ることができるのであれば、他の回路を用いて構成しても良い。また、ローパスフィルタに用いる素子の値は一例であり、他の値の素子を用いても良い。
【0069】
図3は、本発明の実施の形態1に係る通信システムにおけるコモンモードノイズの模擬実験の一例を示す回路図である。
図3は、
図1に示した通信システムの車両1側において、コモンモードノイズに対する評価試験として実施されるBCI試験の等価回路を示している。BCI試験等の評価試験においては、接地線33及び制御用線34に対し、ノイズ発生源となるプローブからコモンモードノイズが印加される。
図3中4は、プローブを用いたノイズ発生源の等価回路となる模擬ノイズ源であり、模擬ノイズ源4は、接地線33及び制御用線34に対し同相のコモンモードノイズを印加する。
【0070】
模擬ノイズ源4からコモンモードノイズとして接地線33及び制御用線34に印加される電圧Vgnd 及びVcpltは、振幅が等しい同相の信号である。コモンモードノイズに対してコモンモードチョークコイル16はハイインピーダンスとなるため、接地線33及び制御用線34に印加される電圧Vgnd 及びVcpltは、充電制御装置13内の回路による線路インピーダンスの影響を受け難くなる。そして、コモンモードノイズは、充電制御装置13内に流れることなく、振幅が略等しい同相の信号として、重畳分離器15へ一次コイル151の両端から流入する。即ち、コモンモードノイズは、ノーマルモードノイズに変化することなく重畳分離器15に印加される。一次コイル151の両端から流入したコモンモードノイズは、振幅が略等しい同相の信号であるため、一次コイル151内で打ち消し合い、通信装置14へ流入することはない。従って、通信装置14へのノイズの流入による誤動作等の異常が発生することを防止することができる。
【0071】
同様の状況は、給電装置2側でも同様であり、通信装置22へのノイズの流入による誤動作等の異常が発生することを防止することができる。
【0072】
実施の形態2.
実施の形態2は、実施の形態1において、更に受電コネクタにもコモンモードチョークコイルを追加する形態である。なお、以降の説明において、実施の形態1と同様の構成については、実施の形態1を参照するものとし、その説明を省略する。
【0073】
図4は、本発明の実施の形態2に係る通信システムの構成例を示す説明図である。
図4は、
図1に示した実施の形態1に係る通信システムにおいて、コモンモードチョークコイル18を更に追加した構成である。
図4に示す構成例において、受電コネクタ11の筐体内には、一対の誘導素子を用いたコモンモードチョークコイル18が組み込まれている。コモンモードチョークコイル18は、受電コネクタ11内において、接地線33及び制御用線34に接続される内部配線に介装されている。
【0074】
受電コネクタ11内に組み込まれたコモンモードチョークコイル18は、接地線33及び制御用線34上に発生するコモンモードノイズに対してハイインピーダンスとなるため、実施の形態1より、コモンモードノイズに対する耐性を向上させることができる。なお、コモンモードチョークコイル18は、受電コネクタ11と一体化したものであれば、筐体外に配設しても良い。
【0075】
図4に示すように本発明の通信システムを構成することで、重畳分離器15、接地線33、制御用線34、重畳分離器23及びその他の配線、素子、回路により通信信号を伝送するループ回路が形成される。これにより、車両1内の通信装置14及び給電装置2の通信装置22間で、接地線33及び制御用線34に対して通信信号を重畳するinband通信を実現することが可能となる。
【0076】
実施の形態3.
実施の形態3は、実施の形態2から、充電制御装置と重畳分離器を介して通信装置に接続する2本の分岐線の分岐部との間に位置するコモンモードチョークコイルを省いた構成である。なお、以降の説明において、実施の形態1又は2と同様の構成については、実施の形態1又は2を参照するものとし、その説明を省略する。
【0077】
図5は、本発明の実施の形態3に係る通信システムの構成例を示す説明図である。
図5は、
図4に示した実施の形態2に係る通信システムにおいて、コモンモードチョークコイル16を省いた構成である。
図5に示す構成例において、受電コネクタ11の筐体内には、一対の誘導素子を用いたコモンモードチョークコイル18が組み込まれており、コモンモードチョークコイル18は、受電コネクタ11内において、接地線33及び制御用線34に接続される内部配線に介装されている。
【0078】
受電コネクタ11内に組み込まれたコモンモードチョークコイル18は、接地線33及び制御用線34上に発生するコモンモードノイズに対してハイインピーダンスとなるため、車両1内に流入するコモンモードノイズを抑制する。また、車両1内の装置にて生じたコモンモードノイズが車両1外へ流出することを防止する。コモンモードチョークコイル18は、受電コネクタ11と一体化したものであれば、筐体外に配設しても良い。
【0079】
図5に示すように本発明の通信システムを構成することで、重畳分離器15、接地線33、制御用線34、重畳分離器23及びその他の配線、素子、回路により通信信号を伝送するループ回路が形成される。これにより、車両1内の通信装置14及び給電装置2の通信装置22間で、接地線33及び制御用線34に対して通信信号を重畳するinband通信を実現することが可能となる。
【0080】
前記実施の形態1乃至3は、本発明の無数に存在する実施例の一部を開示したに過ぎず、目的、用途、仕様等の様々な要因を加味して適宜設計することが可能である。例えば、前述の形態では、制御用線及び接地線から分岐した分岐線に重畳分離器を介して通信装置を接続する形態を示したが、制御用線等に重畳分離器等を介装し、介装した重畳分離器等に通信装置等を接続する形態であっても良い。
【0081】
また、車両が備えるバッテリ以外の充電対象に対する充電に係るシステムに適用することも可能である等、様々な形態に展開することが可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 車両
10 バッテリ(蓄電装置)
11 受電コネクタ
12 充電装置
13 充電制御装置
14 通信装置
15 重畳分離器
151 一次コイル
152 二次コイル
16 コモンモードチョークコイル(一対の誘電素子)
17 ローパスフィルタ
18 コモンモードチョークコイル(一対の誘導素子)
2 給電装置
20 電力供給装置
21 充電制御装置
22 通信装置
23 重畳分離器
24 コモンモードチョークコイル(一対の誘電素子)
25 ローパスフィルタ
3 充電ケーブル
31、32 給電線
33 接地線
34 制御用線