(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5903998
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】沸騰冷却器用媒体及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/04 20060101AFI20160331BHJP
【FI】
C09K5/04 D
C09K5/04 B
C09K5/04 H
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-95246(P2012-95246)
(22)【出願日】2012年4月19日
(65)【公開番号】特開2013-221137(P2013-221137A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152593
【弁理士】
【氏名又は名称】楊井 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100108671
【弁理士】
【氏名又は名称】西 義之
(72)【発明者】
【氏名】西口 祥雄
(72)【発明者】
【氏名】岡本 覚
(72)【発明者】
【氏名】佐久 冬彦
【審査官】
増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−130183(JP,A)
【文献】
特開2009−045969(JP,A)
【文献】
特開2001−055564(JP,A)
【文献】
特開2006−307170(JP,A)
【文献】
特開2010−065879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−メトキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンとシクロペンタンの混合物のみからなる沸騰冷却器用媒体であって、2−メトキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンの含有割合が65〜95質量%であり、シクロペンタンの含有割合が5〜35質量%である沸騰冷却器用媒体を収容した沸騰冷却器を、該沸騰冷却器への入力熱量が20〜300Wにおいて、該沸騰冷却器内部の圧力が0.05〜0.30MPaで作動させる、沸騰冷却器用媒体の使用方法。
【請求項2】
沸騰冷却器用媒体が、2−メトキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンの含有割合が66.58質量%であり、シクロペンタンの含有割合が33.42質量%からなる、請求項1に記載の使用方法。
【請求項3】
沸騰冷却器が、自動車のPCU用冷却器である、請求項1又は請求項2に記載の使用方法。
【請求項4】
沸騰冷却器の材質が、アルミニウム成分を含む金属であり、沸騰冷却器用媒体の水分量を50ppm以下とすることを特徴とする、請求項3に記載の使用方法。
【請求項5】
沸騰冷却器が、ヒートパイプである、請求項1又は請求項2に記載の使用方法。
【請求項6】
沸騰冷却器が、電子機器の冷却器である、請求項1又は請求項2に記載の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−メトキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFE−356mmz)を主成分として含む沸騰冷却器用媒体及びその使用方法に関する。
【0002】
ヒートパイプなどの熱交換器に封入した作動媒体の蒸発潜熱を利用して半導体素子や電子機器等を冷却する沸騰冷却型の熱交換器が知られている。なお、本明細書において、沸騰冷却器用媒体を、単に作動媒体と呼ぶことがある。
【0003】
従来、潜熱を利用した沸騰冷却型の熱交換器に使用する作動媒体としては、水、エタノール、フロン、アンモニア等が用いられていた。水は、液体潜熱が大きく、取り扱い性がよく、安全性が高いなど点で優れた作動媒体であるが、作動安定性が悪く、凝固点が高くて、寒冷地では凍結するので実用上問題がある。
【0004】
アンモニアは、銅の容器を損傷させ、又、漏洩時の悪臭、毒性に問題がある。エタノールはアルミニウム容器およびステンレス容器を損傷させる。フロンは、熱伝達効率に優れ、比較的安定性のある作動媒体として使用されてきたが、フロンが大気中でオゾン層を破壊する環境への負荷の観点から、将来的に使用することが懸念されている。
【0005】
このような背景のもと、代替フロンとして、オゾン層破壊係数や地球温暖化係数など環境への負荷が小さい炭化水素系の作動媒体が知られている。例えば、特許文献1には、n−ペンタンなどの炭化水素類をアルミニウム製のヒートパイプの作動媒体として使用することが開示されている。
【0006】
また、その他の代替する作動媒体として、HFE(ハイドロフルオロエーテル)系の化合物をヒートパイプ用の作動媒体として用いる各種検討がされている。
【0007】
例えば、特許文献2には、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(HFE−347pc−f)などのHFE(ハイドロフルオロエーテル)をヒートパイプなどの熱交換器に用いること、および、熱交換器の作動方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、コンテナ内に、HFC−134aとHFE−347pc−fとの混合物からなる作動媒体(作動液とも呼ぶ)が封入されており、作動媒体におけるHFC−134aとHFE−347pc−fとの混合比率が、常温においてHFC−134a、100vol%に対して、HFE−347pc−fが0.5〜1.5vol%であるヒートパイプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−55564号公報
【特許文献2】特開2006−307170号公報
【特許文献3】特開2010−65879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜3には、炭化水素類やHFE系の化合物を作動媒体に用いることについて開示されているが、これらの化合物は、環境への負荷、不燃性、毒性、作動媒体の冷却性能、作動媒体の作動圧力などの観点から総合的に未だ十分なものがないのが現状である。
【0011】
そこで、本発明は、新規な沸騰冷却器用作動媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、2−メトキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(以下、HFE−356mmzと呼ぶ)を主成分として含む、沸騰冷却器用媒体である。なお、本明細書において、HFE−356mmzは2−メトキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンを意味する。
【0013】
また、本発明の沸騰冷却器用媒体は、自動車のPCU(パワーコントロールユニット)用冷却器の作動媒体として好適に適用できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、環境への負荷、不燃性、毒性、作動媒体の冷却性能など総合的に優れた沸騰冷却器用媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例及び比較例に用いた実験装置の概略図である。
【
図2】入力熱量(W)と作動液の熱抵抗(℃/W)の関係を示すグラフである。
【
図3】入力熱量(W)と作動圧力(MPa)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の作動媒体が適用可能な沸騰冷却器について説明する。本明細書における「沸騰冷却器」とは、作動媒体の蒸発、沸騰、凝縮等の現象において、作動媒体の蒸発潜熱を利用する冷却システムを意味する。
【0017】
沸騰冷却器は、耐圧性の密閉容器などの内部に貯留する作動媒体(液)が、発熱体の熱を受けて沸騰する受熱部と、この受熱部で沸騰した作動媒体(蒸気)の熱を外部に放出する放熱部とを有する冷却システムである。原理としては、作動媒体の沸騰及び凝縮による相変化で冷却効果を発現する(後述の実施例1〜3参照)。なお、本発明おいて、沸騰冷却器における作動液を循環させる駆動力は、重力または毛管力を利用する方式、ポンプなどの機械仕事を用いる方式など、特に限定されるものではない。
【0018】
次に、HFE−356mmzについて説明する。
【0019】
<HFE−356mmz>
HFE−356mmzは、分子内にエーテル酸素を含み、水酸基ラジカルとの反応性が高いため、オゾン破壊係数(ODP)や地球温暖化係数(GWP)が極めて小さく環境負荷が小さい。また、HFE−356mmzは微燃性又は難燃性であり、毒性がない。なお、HFE−356mmzの沸点は、大気圧下において50℃、大気寿命は2.0ヶ月(The Journal of Physical Chemistry A 2005,109,4766−4711)、地球温暖化係数(GWP)は、25(Environmental Science & Technology 2008,42,1301−1307)である。
【0020】
HFE−356mmzは、文献記載の公知の化合物であり、例えば、アルカリ存在下、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロアルコールとジメチル硫酸との反応により得ることができる(米国特許3,346448号)。また、3,3,3−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−2−メトキシプロピオン酸メチルを出発原料として有機塩基を触媒として加熱分解して得ることもできる(特開2011−116661号公報)。
【0021】
HFE−356mmzは、単独でも使用できるが、本発明の作動媒体の効果を損じない範疇において、適宜必要に応じて、他の化合物を添加することもできる。HFE−356mmzは、作動媒体中(100質量%)、主成分として、質量%以上、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、含むことが望ましい。50質量%未満である場合、本発明の作動媒体の効果(作動媒体の安定性、冷却性能等)が十分得られにくくなるため好ましくない。
【0022】
HFE−356mmzに添加するその他の化合物としては、その他のフッ素化エーテル類、フッ素化オレフィン類、ハロカーボン類(HC)、ハイドロフルオロカーボン類(HFC)、アルコールや飽和炭化水素などの炭化水素類、潤滑油、安定剤、など他の添加化合物を添加するようにしてもよい。また、これらの添加化合物は以下に列挙する単体もしくは2種以上の混合物として使用することができる。なお、これらの化合物は、作動媒体中、50質量%以下にすることが好ましい。
【0023】
以下に、他の添加化合物について説明する。
【0024】
<フッ素化エーテル類>
その他のフッ素化エーテル類としては、トランス−1−メトキシ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CF
3CH=CHOCH
3: 沸点62℃)、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−メトキシエタン(CF
2HCF
2OCH
3: 沸点37℃)、2,2,2−トリフルオロエチルトリフルオロメチルエーテル(CF
3CH
2OCF
3: 沸点6℃)、3H−ヘキサフルオロプロピルトリフルオロメチルエーテル(CHF
2CF
2CF
2OCF
3: 沸点23−34℃)、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルトリフルオロメチルエーテル(CF
3CF
2CH
2OCF
3: 沸点26℃)、へプタフルオロ−1−メトキシプロパン(CF
3CF
2CF
2OCH
3: 沸点34℃)、ヘプタフルオロプロピル−1,1,2,2−テトラフルオロエチルエーテル(CF
3CF
2CF
2OCHFCF
3: 沸点41℃)、ジフルオロメチル−2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルエーテル(CF
3CF
2CF
2OCHF
2: 沸点46℃)、1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロプロピル−ジフルオロメチルエーテル(CF
3CHFCF
2OCHF
2: 沸点47℃)、1,2−ジクロロトリフルオロエチルトリフルオロメチルエーテル(CF
2ClCFClOCF
3: 沸点41℃)、オクタフルオロ−3−メトキシプロペン(CF
2=CFCF
2OCF
3: 沸点10℃)、を挙げることができる。
【0025】
<フッ素化オレフィン類>
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(cis−CF
3CH=CHF:沸点9℃)、トランス−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(trans−CF
3CH=CHCF
3:沸点9℃)、シス−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテン(cis−CF
3CH=CHCF
3:沸点33℃)、トランス−1,1,1,3−テトラフルオロ−2−ブテン(trans−CF
3CH=CFCH
3:沸点17℃)、シス−1,1,1,3−テトラフルオロ−2−ブテン(cis−CF
3CH=CFCH
3:沸点49℃)、1,1,2,3,3,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブテン(CHF
2CF
2CF=CF
2:沸点21℃)、3−(トリフルオロメチル)−3,4,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン((CF
3)
2CFCH=CH
2:沸点23℃)、2,4,4,4−テトラフルオロ−1−ブテン(CF
3CH
2CF=CH
2:沸点30℃)、3,3,3−トリフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−1−プロペン((CF
3)
2CH=CH
2: 沸点14℃)、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(trans−CF
3CH=CHCl:沸点19℃)、シス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(cis−CF
3CH=CHCl:沸点39℃)、トランス−1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(trans−CF
3CCl=CHCl:沸点60℃)、シス−1,2−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(cis−CF
3CCl=CHCl:沸点53℃)、1−クロロ−ペンタフルオロプロペン(CF
3CF=CFCl:沸点8℃)、2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(CF
3CCl=CH
2:沸点15℃)を挙げることができる。
【0026】
<ハロカーボン類(HC)、ハイドロフルオロカーボン類(HFC)>
ハロカーボン類としては、ハロゲン原子を含む塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ハイドロフルオロカーボン類としては、ジフルオロメタン(HFC−32)、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン(HFC−125)、フルオロエタン(HFC−161)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−236ea)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245eb)、1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245ca)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソブタン(HFC−356mmz)、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(HFC−43−10−mee)等を挙げることができる。
【0027】
<アルコール類>
アルコール類としては、炭素数1〜4のメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、ペンタフルオロプロパノール、テトラフルオロプロパノール等を挙げることができる。
【0028】
<炭化水素類>
炭化水素類としては、炭素数3〜8のプロパン、ブタン、ペンタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンを挙げることができ、種々の異性体が適用可能であり、具体的には、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、ネオペンタン、n−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素から選ばれる少なくとも1以上の化合物を混合することができる。これらのうち、特に好ましい物質としてはネオペンタン、n−ペンタン、i−ペンタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0029】
上記の炭化水素類を加えるにおいて、炭化水素類を混合する際の好ましい組成比は、作動媒体の地球温暖化係数(GWP)と沸騰冷却器の使用における作動圧力(作動媒体の沸点)を考慮して調整することが好ましい。好ましい組成比については、HFE−356mmzの含有割合が、50〜95質量%、より好ましくは、65〜90質量%であり、炭化水素の含有割合が、5〜50質量%、より好ましくは、10〜35質量%にすることが好ましい。
【0030】
上記の炭化水素のうち、HFE−356mmzと共沸組成物又は共沸様組成物を形成する観点から、炭化水素は、シクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサンを用いることが特に好ましい。これらの組成物は本発明の沸騰冷却器用作動媒体として特に好適に使用できる。共沸組成物又は共沸様組成物を形成することによって、作動媒体の蒸発、凝縮時の温度変化、気液の組成変化を最小にし、作動媒体の安定性を向上と、熱伝達効率の低下を防ぐことができる。
【0031】
なお、本明細書において、共沸組成物とは、一定圧力下で液体と気相の組成間に差がなく、あたかも一つの物質のように挙動する組成物であり、蒸発、凝縮を繰り返した後の組成物の組成に変化を生じないものである。一方、共沸様組成物とは、その蒸気組成と液体組成とがほぼ同一であり、蒸発、凝縮を繰り返した後の組成物の組成変化が無視できる程度のものである。
【0032】
共沸組成物又は共沸様組成物の具体的な組成比としては、HFE−356mmzが65〜95質量%及びシクロペンタンが5〜35質量%からなる組成物、HFE−356mmzが80〜95質量%及びn−ヘキサンが5〜20質量%からなる組成物、HFE−356mmzが85〜95質量%及びシクロヘキサン5〜15質量%からなる組成物を用いるとよい。中でも、上記の組成物を沸騰冷却器用作動媒体に用いた場合、作動液の熱抵抗が低く、優れた熱伝達特性を得ることができる(後述の実施例参照)。
【0033】
<安定剤>
熱安定性、耐酸化性等を改善する安定剤としては、ニトロ化合物、エポキシ化合物、フェノール類、イミダゾール類、アミン類等が挙げられる。また、α―メチルスチレンやp−イソプロペニルトルエン、イソプレン類、プロパジエン類、テルペン類等の炭化水素等を含有してもよい。これらの化合物は一般公知のものを使用するとよい。
【0034】
安定化剤は、予め作動媒体に添加してもよく、また、単独で沸騰冷却機内に添加してもよい。このとき、安定化剤の使用量は、特に限定されないが、主作動媒体(100質量%)に対して、0.001〜10質量%が好ましく、 0.01〜5質量%がより好ましく、0.02〜2質量%がさらに好ましい。
【0035】
本発明の作動媒体は、液体の蒸発潜熱を利用するヒートパイプなどの冷却システムに広く適用でき、例えば、半導体や電子機器等の冷却器などに利用でき、中でも特に、ハイブリッド車や電気自動車等の車両に搭載されたPCU(パワーコントロールユニット)用冷却器の作動媒体として好適に利用できる。以下に、ハイブリッド車や電気自動車等の車両に搭載されたPCU(パワーコントロールユニット)の冷却器について説明する。
【0036】
電気自動車、燃料電池自動車、内燃機関(エンジン)と電気モーターとの両者を有して走行するハイブリッド車両等は、通常のガソリン車に加えて、モーターやPCU(パワーコントロールユニット)、電池などのユニットが追加されているため、重量は重く、居住スペースは狭く、価格は高くなっているのが現状である。
【0037】
PCU(パワーコントロールユニット)は、モーターを駆動制御するインバータと電池電圧を昇圧するコンバーターなどで構成されており、ハイブリッド車や電気自動車などの次世代環境車の普及には、インバータの小型化・低コスト化、高性能化が重要となる。車載用インバータを小型化するためには、発熱によるエネルギーロスの抑制が課題となっており、多くのパワー半導体が集積されているパワーモジュールの冷却性能を高めること(冷却器の高性能化)が必要となる。
【0038】
PCU用冷却器の使用において、作動媒体の要求される具体的な性能としては、冷却性能の向上に加えて、1)オゾン層破壊係数がゼロ(ODP=0)であること。2)地球温暖化係数が小さいこと(GWP<150)。3)可燃性や毒性が極めて少ないこと。4)熱的安定性が高く、分解、変化しないこと。5)熱交換器の材質との適合性が良いこと(例えば、作動媒体と熱交換器の材質との反応性)などが挙げられる。
【0039】
PCU用冷却器(熱交換器)の冷却性能向上には、熱伝達効率を向上させるために、標準沸点の低い作動媒体を使用すればよいが、沸点が低すぎると熱交換器の内部圧力が高くなり、熱交換器の容器に対する負担が大きくなる。そのため、装置の気密性、耐圧性能の観点から、大掛かりな装置が必要となり、コスト高に繋がる。一方、作動媒体の沸点が高くなると、入力熱量が少ない場合に蒸発しにくくなり熱抵抗が増加する(熱伝達効率が悪くなる)。
【0040】
例えば、材質として強度的に懸念のあるアルミニウム製の熱交換器を使用する場合、気密性、耐圧性の問題から熱交換器の設計変更による装置のコスト高が懸念される。そのため、熱交換器の容器に対する負担の観点から、PCU用冷却器の使用において、適切な作動圧力を維持することが可能な作動媒体を用いることも重要な要素である。適切な作動圧力の目安としては、作動圧力が微減圧から微加圧の範囲が好ましく、例えば、0MPa〜4MPa(絶対圧)、特に好ましくは、0.05MPa〜0.5MPaの範囲である。
【0041】
従来の炭化水素類やHFE系の作動媒体では、上記の1)〜5)の性能を両立させた沸騰冷却器用媒体は、現在のところ報告されていないのが現状である。特に、HFEの化学構造が異なれば作動媒体としての性能は当然異なるため、特定の用途に応じて使用可能な化合物の特定は容易でない問題点もある。
【0042】
本発明のHFE−356mmzを主成分とする作動媒体は、地球温暖化係数など環境への負荷が小さく(ODP=0、GWP<150)、微燃又は難燃性であり安全性が高く、種々の金属材料に対して、熱的、化学的安定性が高く適合性が良好であり(実施例、熱安定性試験参照)、さらに、熱交換器に対して大きな負担を与えることなく、適切な作動圧力を維持することが可能なため(実施例1〜4参照)、上記の1)〜5)の性能を両立するものである。したがって、本発明の作動媒体は、ハイブリッド車や電気自動車等の車両に搭載されたPCU(パワーコントロールユニット)の冷却器に好適に使用することができる。
【0043】
なお、本発明の作動媒体を用いる場合、PCU用冷却器(熱交換器)の材質としては、種々の金属材料を使用することができ、例えば、純アルミニウムやアルミニウム合金などのアルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、鉄、銅など汎用的な金属材料を挙げることができる。また、アルミニウム成分を含む金属を使用する場合、作動媒体と金属の反応性から、作動媒体内の水分量を極力少なくする(例えば、50ppm以下)ことが好ましい。
【0044】
<使用方法>
本発明の作動媒体を用いた沸騰冷却器は、入力熱量に対応する作動温度が−50〜150℃、特に好ましくは、0℃〜100℃、で作動させることができる。例えば、上記の作動温度範囲において、熱交換器の内部圧力を0MPa〜4MPaとすることができ、熱交換器に対して大きな負担を与えることなく、適切な作動圧力を維持することが可能となる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。比較例1としては、従来の一般的な沸騰冷却装置に使用される水とエタノールを混合した二成分冷媒を作動媒体として使用した。また、比較例2としては、HFE系の作動媒体として、HFE−347pc−fを使用した。なお、実施例において、作動媒体を作動液と呼ぶことがある。
【0046】
[実施例1]
外径16mm、肉厚1.0mm、長さ800mmのパイプ状のSUS316製コンテナによって形成された沸騰冷却器のコンテナ内にHFE−356mmzとシクロペンタンとの混合物からなる作動液30mLが封入した。なお、作動液におけるHFE−356mmzとシクロペンタンとの混合比率は、質量比で66.58:33.42である。
【0047】
図1に示すように、沸騰冷却器100の一端側の略半部にシーズヒーター1を巻回し、均温化を図るために断熱材5で覆って蒸発部20とした。また、沸騰冷却器100の他端側の略半部に、シーズヒーター1と沸騰冷却器100の長さ方向に間隔をおくように水冷ジャケット3を装着して凝縮部40とした。沸騰冷却器100における蒸発部20と凝縮部40の間の部分が断熱部である。
【0048】
蒸発部20と凝縮部40には、それぞれ蒸発部温度計2と凝縮部温度計4を設置して温度を測定した。沸騰冷却器100内の圧力を測定するために圧力計8を設置した。また、蒸発部20への入力熱量をスライダックより制御した。
【0049】
図1に示すように、蒸発部20が下方、凝縮部40が上方とし、沸騰冷却器100を鉛直に設置し、シーズヒーターにより沸騰冷却器100の蒸発部20を加熱しながら、水冷ジャケット3内に冷却水(入口温度=25℃、供給速度=8.5g/sec)を供給、循環させて凝縮部40を冷却した。シーズヒーターによる入力熱量(W)を種々変更し、入力熱量(W)と沸騰冷却器100内での作動液熱抵抗(℃/W)との関係を求めた。その結果を
図2に示す。なお、
図2における入力熱量(W)において、対応する作動温度は、0W〜300Wにおいて、沸騰冷却器内部の温度は、およそ30〜70℃である。
【0050】
作動液熱抵抗(℃/W)は、蒸発部中心部における内部温度と、凝縮部中心部における内部温度との差をシーズヒーターの入力熱量で除することにより求めた。シーズヒーターによる入力熱量(W)を種々変更し、入力熱量(W)と沸騰冷却器内での作動圧力との関係を求めた。その結果を
図3に示す。
【0051】
[実施例2]
作動液を、HFE−356mmzとn−ヘキサンの混合組成物とし、混合比率は、質量比で82.08:17.92とする以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0052】
[実施例3]
作動液を、HFE−356mmzとシクロペンタンとの混合組成物とし、混合比率は、質量比で76.0:24.0とする以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0053】
[実施例4]
作動液として、HFE−356mmz単独の媒体を使用する以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0054】
[比較例1]
作動液を、水とエタノールの混合組成物とし、混合比率は、質量比で50.0:50.0とする以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0055】
[比較例2]
作動液として、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル(HFE−347pc−f)単独の媒体を使用する以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0056】
[参考例1]
また、参考例として、シクロペンタン単独の媒体を使用する以外は、実施例1と同じ条件とした。
【0057】
図2に示す結果から、比較例1においては、シーズヒーターの入力熱量が50W以下では熱抵抗が急激に増加していることから、入力熱量が少ない場合に作動液が蒸発しにくくなり、熱輸送が効率的に行われていないことがわかる。これに対し、実施例1から4においては、シーズヒーターの入力熱量が20から300Wの範囲において熱抵抗の急激な変化はなく、かつ広い入力熱量の範囲において、比較例1よりも熱抵抗が小さいことから、熱伝達が効率的に行われていることがわかる。また、実施例1〜4の作動媒体は比較例2よりも熱伝達効率が優れていることもわかる。
【0058】
図3に示す結果から、比較例1においては、入力熱量が20から300Wの範囲において、沸騰冷却器内部が常に大気圧以下すなわち負圧であることがわかる。これに対し、実施例1から4にて、シーズヒーターの入力熱量が20から300Wの範囲において、沸騰冷却器内部の圧力は、0.05〜0.30MPaであり、沸騰冷却器を構成する材料の耐圧性能の観点からも良好な作動圧力であるといえる。特に、HFE−356mmzとシクロペンタンを所定の組成比で混合することによって、適切な作動圧力を示していることが分かる(実施例1、3)。
【0059】
また、
図4の作動液熱抵抗の結果から、HFE−356mmz単独(実施例4)とシクロペンタン単独(参考例1)では、それぞれ単独では、同等の作動液熱抵抗である。しかしながら、驚くべきことに、実施例1及び実施例3に示すように、HFE−356mmzとシクロペンタンを所定の組成比で混合することによって、格別顕著に、作動液熱抵抗が低下しており、沸騰冷却器として使用した際の熱伝達特性が向上していることが分かる。
【0060】
また、以下に示す作動媒体を用いて熱安定性試験を行った。
【0061】
実施例1:HFE−356mmz/シクロペンタン=66.58:33.42(混合比率は質量比)
実施例3:HFE−356mmz/シクロペンタン=76.0:24.0(混合比率は質量比)
実施例4:HFE−356mmz
JIS−K−2211「冷凍機油」のシールドチューブテストに準拠して、作動媒体1.0gと金属片(鉄、銅、アルミニウムの各線)をガラス試験管に封入し、175℃に加熱して2週間保持した。2週間後の作動媒体の外観、純度、酸分(F
−イオン)を測定し、熱安定性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【表1】
【0062】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の作動媒体は熱安定性に優れており、鉄、銅、アルミニウムとの相性に優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0063】
100 沸騰冷却器
20 蒸発部
40 凝縮部
1 シーズヒーター
2 蒸発部温度計
3 水冷ジャケット
4 凝縮部温度計
5 断熱材
6 ジャケット冷却水入口
7 ジャケット冷却水出口
8 圧力計