(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、薄板軽量形鋼造の耐力壁と基礎との接合構造として、
図15、16に示すように、耐力壁(パネル)210における縦枠材208をホールダウン金物220における縦部分223にドリルねじにより固定し、ホールダウン金物220を下枠材209から浮かした状態で、ホールダウン金物220の下部横部分225および下枠材209にアンカーボルト221の上部を挿通し、座金およびバネ座金を装着すると共にナット216を緊締して、アンカーボルト221を介してコンクリート基礎202に固定する接合構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ちなみにアンカーボルト221の本数は、通常1本で構成されるが、特にこの薄板軽量形鋼造(スチールハウス)が4階建て以上になる場合には、耐力を増加させる観点からアンカーボルト221の本数を2本で構成する必要も出てくる。アンカーボルトを2本配置する際には、中央の縦枠材208aの両側に2つの縦枠材208bをそれぞれ設ける。そして、ホールダウン金物220を各縦枠材208bに取り付けることにより、中央の縦枠材208aを中心としてこれを両側に配置し、上述のように縦枠材208aを中心として両側に位置するアンカーボルト221の下端をコンクリート基礎202に埋め込む。
【0004】
これにより、
図17に示すような地震時の水平力あるいは風荷重(設計外力)が建物に作用した場合、縦枠材208の軸力をコンクリート基礎202へ伝達する構造とすることが可能となる。このとき、縦枠材208には曲げモーメントが付加されることになるが、中央の縦枠材208aを中心として両側からアンカーボルト221で固定しているため、かかる曲げモーメントによる回転拘束がかかることとなる。その結果、
図17に示すように、中央の縦枠材208aを中心として両側に設けられたアンカーボルト221−1、221−2には、互いに不均一な軸力が付加されることとなる。
【0005】
特に4階建て以上になる薄板軽量形鋼造(スチールハウス)に地震時の水平力あるいは風荷重が付加した場合には、縦枠材208に付加される曲げモーメントがより大きくなるところ、アンカーボルト221−1、221−2間における軸力の不均一性がより大きくなるという問題点がある。そもそもアンカーボルト221を2本配置する目的は、上下方向に作用する大きな軸力を各アンカーボルト221で負担させることにあるが、このような地震による水平力が付加された場合には、アンカーボルト221−1には引張力が、アンカーボルト221−2には圧縮力が作用する分、結局1本のアンカーボルト221でしか荷重を担っていないことになる。即ち、上述した形態においては、2本のアンカーボルト221について不均一な荷重が作用するため、2本分のアンカーボルトを設けることによる効果を最大限生かしきっていないという問題があった。また、アンカーボルト221間において不均一な荷重が付加された場合、大きな引張力が付加されたアンカーボルト221がこれに耐えられなくなり、結局のところ地震に対する耐力を向上させることができないという問題点があった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態として、4階建て以上のスチールハウス等の建築構造物等に適用される薄板軽量形鋼造の耐力壁の固定構造に関し、図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0015】
本発明を適用した耐力壁の固定構造が適用される薄板軽量形鋼造は、薄板軽量形鋼からなる枠材を建物全体の主架構要素とし、必要に応じて部分的に木製枠材や構造面材を薄板軽量形鋼製の枠材に組み合わせて構成される。この薄板軽量形鋼の枠材は、いずれも板厚0.4mm以上、2.3mm未満の薄鋼板を折り曲げ加工することによりウェブとその両端にフランジを一体に連設させた溝形鋼で構成されている。
【0016】
図1は、本発明を適用した薄板軽量形鋼造の耐力壁の固定構造10の斜視図であり、
図2はその正面図を示している。
【0017】
耐力壁の固定構造10は、上階の耐力壁5aを構成する薄板軽量形鋼からなる縦枠材52、形鋼11と、下階の耐力壁5bを構成する薄板軽量形鋼からなる縦枠材53、形鋼12とを、例えば、普通ボルトや高力ボルト等からなるボルト71、72を介して連結するものである。
【0018】
上階の耐力壁5aは、構造面材51aと、縦枠材52と、形鋼11とを有している。この縦枠材52と、形鋼11はそれぞれ薄板軽量形鋼で構成されるものである。即ち、この耐力壁5aは、2本の薄板軽量形鋼を組み合わせることで柱体を構成したものである。縦枠材52は、中央面板61の両側に側面板62、63が折り曲げられて構成された、断面コ字状の枠材で構成されている。ちなみに図示はしていないが側面板62、63の先端を内側に折り曲げたリップが形成されていてもよい。この縦枠材52における一の側面板62又は形鋼11には、構造面材51aが取り付けられている。この縦枠材52、形鋼11に対する構造面材51aの取り付け方法は、ボルトや、ドリルねじ等の図示しないねじ止め固着具を介して取り付けられている。なお、図示は省略しているが、この構造面材51aの下縁部に沿って断面コ字状の下枠材が設けられ、その下枠材に内挿されるように縦枠材52、形鋼11が所定間隔をもって立設された構成とされるのが一般的である。形鋼11は断面矩形状に限定されるものではなく、断面コ字状の枠材で構成されていてもよいし、その他いかなる形状とされていてもよい。
【0019】
構造面材51は、何れも鋼製の折板又は平板で構成される。 縦枠材52は、
図3の平面図に示すように中央面板61を介してもう一つの形鋼11を当接させて固定される。
【0020】
また、この縦枠材52には、ホールダウン金物54が取り付けられる。このホールダウン金物54は、
図4に示すように、縦枠材52における中央面板61に対してねじ止め固定具14等を介して取り付けられる、いわゆる立ち上がり部としての添接板15と、この添接板15の下端から略水平方向に突設されている水平部16とを有している。この水平部16には、連結ボルト71(72)を挿通させるための挿通孔16aが開口している。
【0021】
即ち、このホールダウン金物54には、2つの連結ボルト71、72が取り付け固定される。このうち連結ボルト71は、構造面材51aに対してより近接しており、連結ボルト72は、構造面材51aに対してより離間している。このように、連結ボルト71、72は、構造面材51aに対して近接する側と離間する側にそれぞれ1つずつ設けられる。
【0022】
なお、このホールダウン金物55は、あくまで縦枠材52のみに設けられるものであって、もう一方の形鋼11には設けられるものではない。
【0023】
下階の耐力壁5bは、構造面材51bと、縦枠材53と、形鋼12とを有している。この縦枠材53と、形鋼12はそれぞれ薄板軽量形鋼で構成されるものである。即ち、この耐力壁5bは、2本の薄板軽量形鋼を組み合わせることで柱体を構成したものである。縦枠材53は、中央面板64の両側に側面板65、66が折り曲げられて構成された、断面コ字状の枠材で構成されている。ちなみに図示はしていないが側面板65、66の先端を内側に折り曲げたリップが形成されていてもよい。この縦枠材53における一の側面板64又は形鋼12には、構造面材51bが取り付けられている。この縦枠材53、形鋼12に対する構造面材51bの取り付け方法は、ボルトや、ドリルねじ等の図示しないねじ止め固着具を介して取り付けられている。なお、図示は省略しているが、この構造面材51bの下縁部に沿って断面コ字状の下枠材が設けられ、その下枠材に内挿されるように縦枠材53、形鋼12が所定間隔をもって立設された構成とされるのが一般的である。形鋼12は断面矩形状に限定されるものではなく、断面コ字状の枠材で構成されていてもよいし、その他いかなる形状とされていてもよい。
【0024】
また、この縦枠材53には、ホールダウン金物55が取り付けられる。このホールダウン金物55は、ホールダウン金物55は、
図5に示すように、縦枠材53における中央面板64に対してねじ止め固定具14等を介して取り付けられる添接板25と、この添接板25の上端から略水平方向に突設されている水平部26とを有している。この水平部26には、連結ボルト73(74)を挿通させるための挿通孔26aが開口している。連結ボルト73(74)の上端はナット77が固定される。
【0025】
即ち、このホールダウン金物55には、2つの連結ボルト71、72が取り付け固定される。このうち連結ボルト71は、構造面材51bに対してより近接しており、連結ボルト72は、構造面材51bに対してより離間している。このように、連結ボルト71、72は、構造面材51bに対して近接する側と離間する側にそれぞれ1つずつ設けられる。
【0026】
なお、このホールダウン金物55は、あくまで縦枠材53のみに設けられるものであって、もう一方の形鋼12には設けられるものではない。
【0027】
このようにホールダウン金物54、55があくまで縦枠材52、53側にのみ設けられるものであり、形鋼11、12側には設けられない。このため、このホールダウン金物55に取り付けられる連結ボルト71、72も縦枠材52、53側にのみ配設され、形鋼11、12側には配設されない構成とされている。
【0028】
次に、本発明を適用した薄板軽量形鋼造における耐力壁の固定構造10の動作について
図6を用いて説明をする。
【0029】
例えば、地震が発生した場合に薄板軽量形鋼造には大きな水平力が付加されることとなる。かかる場合には、上階側が下階側よりも大きく水平方向に変形することに伴い、上階側から下階側にかけてせん断力に基づく軸力が伝達されてくることとなる。そして、その軸力はボルト71(72)に付加されることとなるが、ボルト71、72の2本で構成されていることから、この軸力を十分に担うことが可能となる。
【0030】
また、縦枠材52、形鋼11からなる柱体には、曲げモーメントが付加されることとなるが、あくまで、この連結ボルト71、72は、縦枠材52側にのみ配設され、形鋼11側には配設されない構成とされている。このため、
図6に示すように耐力壁5aを正面から視認した場合において、縦枠材52、形鋼11からなる柱体は、連結ボルト71、72を介して片側から固定されるものとなる。このため、上述のような曲げモーメントが付加される場合に、かかる連結ボルト71、72を介して回転拘束がかかることなく、連結ボルト71、72の取り付け位置を基点として比較的に自由な回転が可能となる。また、連結ボルト71、72は、縦枠材52側にのみ配設されていることから、ほぼ同程度の軸力が付加されることとなり、互いに不均一な軸力が付加されることも無くなる。
【0031】
特に4階建て以上になる薄板軽量形鋼造(スチールハウス)に地震時の水平力あるいは風荷重が付加した場合には、縦枠材52、形鋼11からなる柱体に付加される曲げモーメントがより大きくなるが、本発明によれば、連結ボルト71、72間における軸力の不均一性を解消することが可能となる。また、2本の連結ボルト71、72において均一な荷重を負担することが可能となることから、いずれか一方の連結ボルト71、72に対して大きな引張荷重が付加されることも無くなり、局部座屈耐力を向上させることも可能となる。
【0032】
更に本発明によれば、ホールダウン金物54が固定された
薄板軽量形鋼側、即ち縦枠材52側において、有効断面積がより大きくなるように調整されていてもよい。例えば
図3に示すように、ホールダウン金物54が縦枠材52側のみに設けられていることで、形鋼11側よりも縦枠材52側の有効断面積が大きくなっているのが分かる。このため、形鋼11と縦枠材52とにより構成される柱体の重心をより縦枠材52側に近づけることが可能となり、その結果、連結ボルト71、72の軸心と柱体の重心との偏心量をより小さくすることが可能となる。この偏心量を小さくすることができれば、地震等による曲げモーメントが形鋼11と縦枠材52とにより構成される柱体に付加された場合に、その偏心曲げ量を軽減させることが可能となり、局部座屈耐力を更に向上させることが可能となる。
【0033】
上述した実施の形態においては、あくまで2本の連結ボルト71、72を配設する場合を例にとり説明をしたが、これに限定されるものではない。連結ボルトが3本以上の場合であっても、縦枠材52側のみに設けられたホールダウン金物54に取り付けられるものであればよい。
【0034】
なお、本発明は
薄板軽量形鋼造の2階以上における耐力壁の固定構造のみならず、例えば
図7に示すように、コンクリート基礎147に対して耐力壁5aを固定する際においても適用可能である。
【0035】
かかる場合において、上述した連結ボルト71、72の代替として、アンカーボルト144を設ける。このアンカーボルト144の下端はコンクリート基礎147に埋設されている。この1階部分においても同様にホールダウン金物54は、縦枠材52側のみに設けられ、形鋼11側には設けられていない。このため、アンカーボルト144も縦枠材52側にのみ配設され、形鋼11側には配設されない構成とされている。なお、構造面材51aの下縁に沿って下枠材が設けられるが、図示は省略している。アンカーボルト144は、図示しない下枠材を挿通させてこのコンクリート基礎147に埋め込まれる。アンカーボルト144は、3本以上であっても同様の効果を奏することとなる。
【0036】
また、コンクリート基礎147に対して耐力壁5aを固定する際においても、上述した動作を同様に発揮しえるものでとなる。即ち、地震が発生した場合に上階側から下階側にかけてせん断力に基づく軸力が伝達されてくることとなる。そして、その軸力はアンカーボルト144に付加されることとなるが、これは縦枠材52側にのみ配設されているものであることから回転拘束がかかることが無くなり、しかもアンカーボルト144の取り付け位置を基点として比較的に自由な回転が可能となる。また、アンカーボルト144は、縦枠材52側にのみ配設されていることから、ほぼ同程度の軸力が付加されることとなり、互いに不均一な軸力が付加されることも無くなる。即ち、2本のアンカーボルト144において均一な荷重を負担することが可能となることから、いずれか一方のアンカーボルト144に対して大きな引張荷重が付加されることも無くなり、局部座屈耐力を向上させることも可能となる。
【0037】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、更に下記の技術思想が反映されるものであってもよい。
【0038】
図8は、本発明を適用した薄板軽量形鋼造における上下階の連結構造1の斜視図であり、
図9はその正面図を示している。
【0039】
この上下階の連結構造1において、上述した耐力壁の固定構造10と同一の構成要素、部材に関しては、同一の符号を付すことにより、以下での説明を省略する。
【0040】
上下階の連結構造1は、上階の耐力壁5aを構成する薄板軽量形鋼からなる第1の縦枠材52と、下階の耐力壁5bを構成する薄板軽量形鋼からなる第2の縦枠材53とを、連結部材8を介して連結するものである。
【0041】
また、この縦枠材52には、ホールダウン金物54が取り付けられる。このホールダウン金物54には、2つの連結ボルト71、72が取り付け固定される。このうち連結ボルト71は、構造面材51aに対してより近接しており、連結ボルト72は、構造面材51aに対してより離間している。このように、連結ボルト71、72は、構造面材51aに対して近接する側と離間する側にそれぞれ1つずつ設けられる。
【0042】
縦枠材53には、ホールダウン金物55が取り付けられる。このホールダウン金物54には、2つの連結ボルト73、74が取り付け固定される。このうち連結ボルト73は、構造面材51bに対してより近接しており、連結ボルト74は、構造面材51bに対してより離間している。このように、連結ボルト73、74は、構造面材51bに対して近接する側と離間する側にそれぞれ1つずつ設けられる。
【0043】
連結部材8は、上フランジ82と、上フランジ82から下方向に延長される中間ウェブ81と、この中間ウェブ81の下端に取り付けられる下フランジ83とを有する、いわゆるH形鋼で構成されている。上フランジ82には、連結ボルト71、72を挿通するための挿通孔101が穿設されてなり、また下フランジ83には連結ボルト73、74を挿通するための挿通孔102が穿設されている。そして、この挿通孔101から下側に突出した連結ボルト71、72の下端には、ナット76が螺着固定されてなり、この挿通孔102から下側に突出した連結ボルト73、74の下端には、ナット77が螺着固定されている。
【0044】
なお、中間ウェブ81は、上フランジ82における連結ボルト71、72の各挿通位置を隔てるように取り付けられている。同様に、この中間ウェブ81は、下フランジ83における連結ボルト73、74の各挿通位置を隔てるように取り付けられている。
【0045】
ちなみに、この連結部材8には、
図8に示すような補強部材68が上フランジ82としたフランジ83の間に介装されていてもよい。この補強部材68は、例えば断面コ字状に折り曲げられた金属製の枠材とされていてもよい。補強部材68は、例えば中間ウェブ81を介して隔てられた上フランジ82と下フランジ83間のうち、構造面材51から離間する側に設けられていてもよい。
【0046】
また、この連結部材8自体が、
図8に示すような溝形鋼からなる転び止め部材69をフランジ間に介装されていてもよい。
【0047】
次に、本発明を適用した薄板軽量形鋼造における上下階の連結構造1の動作について
図10を用いて説明をする。
【0048】
例えば、地震が発生した場合に薄板軽量形鋼造には大きな水平力が付加されることとなる。かかる場合には、上階側が下階側よりも大きく水平方向に変形することに伴い、上階側から下階側にかけてせん断力に基づく軸力が伝達されてくることとなる。ちなみに、この
図10に示す矢印が応力の伝達経路を示している。この上階で発生する軸力は、上階側の構造面材51aに沿って伝達する。その伝達されてくる軸力は、連結ボルト71、72を介して下階へと伝達されるが、特に構造面材51aに近い連結ボルト71に多くの軸力が流れ、構造面材51aから離れた連結ボルト72にはあまり多くの軸力が流れないという現象が生じることとなる。即ち、この連結ボルト71、72間において伝達すべき軸力の不均一性は大きい。しかしながら、この連結ボルト71、72に伝達された軸力は、何れも中間ウェブ81を通じて下方向に向けて伝達されることとなる。このため、各連結ボルト71、72から伝達される軸力は、この中間ウェブ81において合わさることとなる。そして、この中間ウェブ81において合わさった軸力は、そのまま下方向に伝達され、下フランジ83、或いは連結ボルト73、74においてほぼ均等に分離することとなる。そして、この分離した軸力がそのまま下方向へ伝達されていくこととなる。
【0049】
図11は、本発明を適用した耐力壁の固定構造10のように連続した連結ボルト71、72で上下階を連結する場合と、上下階の連結構造1のように連結部材8を新たに設ける場合について、上階から下階への軸力の分散度合を連結ボルト毎にモデル化したものである。この
図11において、N
4は4階から下階へ付加される軸力、N
3は3階から下階へ付加される軸力、N
2は2階から下階へ付加される軸力、N
1は1階から基礎へ付加される軸力である。
【0050】
このモデルにおいて、左側に示す、上下階を連結ボルト71(72)で連結する方式では、先ず4階部分において、構造面材41に近い連結ボルト28aに0.8N
4、構造面材41から遠い連結ボルト28bに0.2N
4が付加する。同様に、3階部分において、構造面材41に近い連結ボルト28aに0.8N
3、構造面材41から遠い連結ボルト28bに0.2N
3が新たに付加され、4階から伝達されてきた力が加算されるため、3階から2階へ力が伝達される過程では、連結ボルト28aには、0.8N
4+0.8N
3が、連結ボルト28bには、0.2N
4+0.2N
3が付加されることとなる。このようなメカニズムが繰り返されることにより、最終的に1階から基礎へ力が伝わる過程では、連結ボルト28aには、0.8N
4+0.8N
3+0.8N
2+0.8N
1が、また連結ボルト28bには、0.2N
4+0.2N
3+0.2N
2+0.2N
1が伝達されることとなる。即ち、左側に示す、上下階を連結ボルト71(72)で連結する方式では、特に1階部分と基礎とを連結する連結ボルト28a、28b間において付加する軸力が不均一となる。
【0051】
これに対して、右側に示される、連結部材8を使用する方法では、先ず4階部分において、構造面材51に近い連結ボルト71に0.8N
4、構造面材51から遠い連結ボルト72に0.2N
4が付加するが、中間ウェブ81においてこれらが合わさり、ほぼ均等に分離され、連結ボルト73、74には、それぞれ0.5N
4ずつほぼ均等に軸力が伝わることとなる。3階部分において、構造面材51に近い連結ボルト71に0.8N
3、構造面材51から遠い連結ボルト72に0.2N
3が新たに付加され、4階から伝達されてきた力が加算されるが、これらは互いに均等に分離しているため、3階から2階へ力が伝達される過程では、連結ボルト71には、0.5N
4+0.8N
3が、連結ボルト72には、0.5N
4+0.2N
3が付加されることとなる。このようなメカニズムが繰り返されることにより、最終的に1階から基礎へ力が伝わる過程では、連結ボルト71には、0.5N
4+0.5N
3+0.5N
2+0.8N
1が、また連結ボルト72には、0.5N
4+0.5N
3+0.5N
2+0.2N
1が伝達されることとなる。即ち、連結部材8を使用する方法では、特に1階部分と基礎とを連結する連結ボルト71、72間において付加する軸力をより均一化させることが可能となる。
【0052】
上述したように、上下階の連結構造1では、2本の連結ボルト71、72を中間ウェブ81を介して隔て、また2本の連結ボルト73、74を中間ウェブ81を介して隔てる構成を採用することで、上階から伝達されてくる不均一な軸力を中間ウェブ81において合わせ、これを下階へ伝える際にほぼ均等に分離することができる。
【0053】
このため、上下階の連結構造1では、4階建て以上の高層建築物とされている場合で、しかも大きな地震が発生した場合においても、上階から伝達されてくる応力をほぼ均等に分離して連結ボルト71、72において伝達させることが可能となり、何れか一方の連結ボルト71、72に大きな軸力(せん断力)が付加されることもなくなり、連結ボルト71、72の破損を防止することができることから、地震に対する耐力を向上させることが可能となる。
【0054】
なお、上述した実施の形態においては、あくまで2本の連結ボルト71、72を中間ウェブ81を介して隔て、また2本の連結ボルト73、74を中間ウェブ81を介して隔てる構成を例にとり説明をしたが、これに限定されるものではない、連結ボルトが3本以上の場合であっても、中間ウェブ81を介して隔てられるものであればよい。
【0055】
また、上述したように、中間ウェブ81を介して隔てられた上フランジ82と下フランジ83間のうち、構造面材51から離間する側に補強部材68を設けることにより、
図12に示すように上階から伝達されてくる軸力が不均一であっても、構造面材51から離間する側において軸力を集中させることが可能となる。また、転び止め部材69の内部に連結部材8を介装させることにより、上階から伝達されてくる不均一な軸力により発生する抵抗モーメントに対して当該転び止め部材69が対抗することも可能となる。
【0056】
本発明は、4階建て以上の薄板軽量形鋼造ではなく、いわゆる立体混構造に対しても適用するようにしてもよい。この立体混構造は、いわゆるピロティ式構造である。この立体混構造において一階部分は柱を中心に構成されているが、上階と下階の連結構造を示したのが
図13である。この連結構造6において、上述した連結構造1と同一の構成要素、部材に関しては同一の符号を付すことにより以下での説明を省略する。
【0057】
鉄骨梁180は、ピロティ式構造における1階部分の上端を構成するものである。この鉄骨梁180は、H形鋼からなり、ウェブ181の上端に上フランジ182が、また下端には下フランジ183がそれぞれ設けられている。
【0058】
この鉄骨梁180の上面には、連結部材170が取り付けられている。この連結部材170は、上フランジ172、中間ウェブ171、下フランジ173からなる断面H形状で構成される。
【0059】
連結部材170における上フランジ172には、連結ボルト191が挿通され、その上端が、縦枠材52に取り付けられたホールダウン金物54にナット76を介して固定される。連結部材170における下フランジ173には、連結ボルト192が挿通される。連結ボルト192は、上述した鉄骨梁180の上フランジ182の下面から上方に向けて突出させてなり、これを連結部材170の下フランジ173に挿通させて上端をナット76で固定される。これにより連結部材170は、鉄骨梁180に対して強固に固定されることとなる。このとき、連結ボルト192の挿通位置は、連結部材170における中間ウェブ171により隔てられる位置とされている。また、連結ボルト191の挿通位置も同様に中間ウェブ171により隔てられる位置とされている。
【0060】
このため、このような立体混構造においても、2本の連結ボルト191を中間ウェブ171を介して隔て、また2本の連結ボルト192を中間ウェブ171を介して隔てる構成を採用することで、上階から伝達されてくる不均一な軸力を中間ウェブ171において合わせ、これを下階へ伝える際にほぼ均等に分離することができる。
【0061】
このため、このようなピロティ式構造を採用する連結構造6においても、4階建て以上の高層建築物とされている場合で、しかも大きな地震が発生した場合においても、上階から伝達されてくる応力をほぼ均等に分離して鉄骨梁180に伝達させることが可能となり、何れか一方の連結ボルト191に大きな軸力(せん断力)が付加されることもなくなり、地震に対する耐力を向上させることが可能となる。
【0062】
図14は、この立体混構造を採用する連結構造6における他の実施形態を示している。この他の実施の形態においては、連結部材170、鉄骨梁180の構成は上述と同様であるが、連結ボルト191、192の代替として、連結ボルト195を使用する点が相違する。
【0063】
鉄骨梁180における上フランジ182、及び連結部材170における下フランジ173、上フランジ172にかけて連結ボルト195が相通されている。この連結ボルト195の上端は、上フランジ172から突出され、これにナット76が螺着されている。また、この2本の連結ボルト195の挿通位置は、中間ウェブ171により隔てられる位置とされている。
【0064】
このような連結構造6における他の実施形態についても同様に上述した効果を奏することとなる。
【0065】
更に、上フランジ172と下フランジ173の間には縦リブ197を介装させるようにしてもよい。この縦リブ197では、例えば鋼板等で構成されるものであり、その上端が上フランジ172に溶接等により固着され、またその下端が下フランジ173に溶接等により固着されている。
【0066】
このような縦リブ197を挿入することにより、上下方向から付加される圧縮力をこの縦リブ197自身が担うことが可能となる。