(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基布を袋状に縫合することにより縫合部が形成され、前記縫合部により囲まれた箇所が膨張部とされたエアバッグを備え、膨張用ガスが前記膨張部に供給されて同膨張部が膨張されるとともに、前記縫合部が複数の縫合構成部からなり、隣り合う前記縫合構成部の一方が第1縫合構成部とされ、他方が第2縫合構成部とされ、さらに、前記基布について前記膨張部の中心に近付く側が内側とされ、同中心から遠ざかる側が外側とされたエアバッグ装置であって、
前記第2縫合構成部は、前記第1縫合構成部の形成後に形成されるものであり、
前記第2縫合構成部において、前記第1縫合構成部側の端末と、同端末から離れた箇所の被交差部との間の領域は被オーバラップ部とされており、
前記第1縫合構成部の前記第2縫合構成部側の端部には、前記被オーバラップ部の内側において同被オーバラップ部に沿って延びて、前記被交差部で前記第2縫合構成部に交差するオーバラップ部と、前記オーバラップ部の前記被交差部との交差部から前記第2縫合構成部よりも外側へ延びる延出部とが設けられており、
前記オーバラップ部は湾曲した状態で前記交差部において前記第2縫合構成部の前記被交差部に交差し、前記延出部は前記交差部から湾曲した状態で前記第2縫合構成部よりも外側へ延びていることを特徴とするエアバッグ装置。
前記第1縫合構成部は、前記延出部から前記被オーバラップ部の前記端末側へ折り返され、前記オーバラップ部とともに前記被オーバラップ部を挟み込んだ状態で、同被オーバラップ部に沿って延びる補助延出部をさらに備える請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、膨張部86,87が膨張用ガスによって膨張する際には、縫合部Aのうち、膨張部86,87に面している部分(取り囲んでいる部分)が膨張用ガスの圧力を直接受ける。例えば、上記縫合構成部84,85については、端部84A,85A(交差部89よりも外側の部分)を除く部分が、上記圧力を直接受ける。
【0008】
一方で、特許文献1に記載されているように、縫合部Aが複数の縫合構成部84,85からなる場合、それらは異なるタイミング(例えば、縫合構成部85が先のタイミング、縫合構成部84が後のタイミング)で形成される。そして、これらの縫合構成部84,85が互いに交差している場合には、縫合構成部84を形成するために、縫針が、先に形成された縫合構成部85を刺す(通過する)ときに、その縫合構成部84を形成している糸を傷付けるおそれがある。糸に傷が付くと、その箇所、すなわち、先に形成された縫合構成部85において、後に形成された縫合構成部84との交差部89の強度が低くなる。
【0009】
そのため、上記縫合部Aに対し、上記膨張用ガスの圧力が直接加わると、先に形成された縫合構成部85が交差部89において切断され、この交差部89を起点として、
図7(C)において二点鎖線で示すように、縫合構成部85がほつれていく。そして、このように糸がほつれて、基布83の縫合されていない箇所が生ずると、そこから膨張用ガスが膨張部87の外部へ漏れ出るおそれがある。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、隣り合う縫合構成部の交差部近傍から膨張部の膨張用ガスが漏れ出るのを抑制することのできるエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、基布を袋状に縫合することにより縫合部が形成され、前記縫合部により囲まれた箇所が膨張部とされたエアバッグを備え、膨張用ガスが前記膨張部に供給されて同膨張部が膨張されるとともに、前記縫合部が複数の縫合構成部からなり、隣り合う前記縫合構成部の一方が第1縫合構成部とされ、他方が第2縫合構成部とされ、さらに、前記基布について前記膨張部の中心に近付く側が内側とされ、同中心から遠ざかる側が外側とされたエアバッグ装置であって、前記第2縫合構成部は、前記第1縫合構成部の形成後に形成されるものであり、前記第2縫合構成部において、前記第1縫合構成部側の端末と、同端末から離れた箇所の被交差部との間の領域は被オーバラップ部とされており、前記第1縫合構成部の前記第2縫合構成部側の端部には、前記被オーバラップ部の内側において同被オーバラップ部に沿って延びて、前記被交差部で前記第2縫合構成部に交差するオーバラップ部と、前記オーバラップ部の前記被交差部との交差部から前記第2縫合構成部よりも外側へ延びる延出部とが設けられて
おり、前記オーバラップ部は湾曲した状態で前記交差部において前記第2縫合構成部の前記被交差部に交差し、前記延出部は前記交差部から湾曲した状態で前記第2縫合構成部よりも外側へ延びていることを要旨とする。
【0012】
上記の構成によれば、膨張部が膨張用ガスによって膨張する際には、縫合部のうち、膨張部を取り囲む部分が膨張用ガスの圧力を直接受ける。第1縫合構成部及び第2縫合構成部の交差部の近傍では、オーバラップ部が被オーバラップ部の内側において同被オーバラップ部に沿って延びていて膨張部に面し、被交差部で第2縫合構成部に交差している。そのため、オーバラップ部が膨張用ガスの圧力を直接受ける。
【0013】
一方、第1縫合構成部が第2縫合構成部よりも先に形成されている請求項1に記載の発明では、第2縫合構成部を形成するために、縫針が第1縫合構成部を刺す(通過する)ときに、その第1縫合構成部を形成している糸を傷付けると、その箇所、すなわち、第1縫合構成部の交差部の強度が低くなる。
【0014】
そのため、上記第1縫合構成部に対し膨張用ガスの圧力が直接加わると、オーバラップ部が交差部において切断され、この交差部を起点としてほつれていくおそれがある。
しかし、たとえオーバラップ部が上記のようにほつれたとしても、そのオーバラップ部の外側に位置する第2縫合構成部の被オーバラップ部に対しては、オーバラップ部ほど高い膨張用ガスの圧力は加わらず、同被オーバラップ部はほつれずに残りやすい。そのため、オーバラップ部の少なくとも一部が被オーバラップ部の内側でほつれずに残れば、その箇所の外側にも、ほつれた箇所の外側にも第2縫合構成部の被オーバラップ部が位置することとなる。膨張部内の膨張用ガスは、ほつれずに残ったオーバラップ部と被オーバラップ部との間の隙間を通らなければ膨張部の外部へ流出することができない。その結果、膨張部の膨張用ガスは、第1縫合構成部及び第2縫合構成部の交差部近傍から漏れ出にくくなる。
また、第1縫合構成部では、オーバラップ部においても延出部においても、交差部に近い箇所が湾曲していて、徐々に向きを変えている。そのため、第1縫合構成部の形成のための基布の縫合作業がしやすい。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記被オーバラップ部は、15mm以上の長さを有していることを要旨とする。
第2縫合構成部の被オーバラップ部が15mm以上の長さを有している場合には、通常起こり得る状況下であれば、オーバラップ部が交差部で切断されてほつれたとしても、オーバラップ部の少なくとも一部は被オーバラップ部の内側でほつれずに残る。オーバラップ部において、ほつれた箇所の外側にも、ほつれずに残った箇所の外側にも、第2縫合構成部の被オーバラップ部が位置することとなり、上記請求項1に記載の発明の効果が得られる。
【0018】
請求項
3に記載の発明は、請求項
1又は2に記載の発明において、前記第1縫合構成部は、前記延出部から前記被オーバラップ部の前記端末側へ折り返され、前記オーバラップ部とともに前記被オーバラップ部を挟み込んだ状態で、同被オーバラップ部に沿って延びる補助延出部をさらに備えることを要旨とする。
【0019】
上記の構成によれば、オーバラップ部がほつれても、そのオーバラップ部の外側に位置する第2縫合構成部の被オーバラップ部に対しては、上述したように、オーバラップ部ほど高い膨張用ガスの圧力は加わらない。第1縫合構成部において、被オーバラップ部よりも外側に位置する補助延出部に対しては、膨張用ガスの圧力が一層加わりにくい。
【0020】
そのため、被オーバラップ部に加え、補助延出部もまたほつれずに残りやすい。従って、膨張用ガスは、オーバラップ部においてほつれた箇所を通過できても、ほつれずに残った箇所と、被オーバラップ部及び補助延出部との間を通らなければ膨張部の外部へ流出することができない。その結果、補助延出部のない場合に比べ、膨張部の膨張用ガスが、第1縫合構成部及び第2縫合構成部の交差部近傍から漏れ出にくくなる。
【0021】
請求項
4に記載の発明は、請求項
3に記載の発明において、前記補助延出部は、前記被オーバラップ部の前記端末よりも、前記被交差部から遠ざかる側へ延びていることを要旨とする。
【0022】
上記の構成によれば、補助延出部は、被交差部から遠ざかる側へ被オーバラップ部よりも長い。このことから、膨張用ガスの圧力により、万が一、第1縫合構成部がオーバラップ部の全体でほつれたり、オーバラップ部を越えてほつれたりしても、そのほつれた箇所の外側に補助延出部が位置する場合が生ずる。この場合には、膨張用ガスは、ほつれた箇所を通ることができても、第1縫合構成部においてほつれずに残った箇所と、補助延出部との間を通らなければ膨張部の外部へ流出することができず、膨張部の膨張用ガスは、第1縫合構成部及び第2縫合構成部の交差部近傍から漏れ出にくくなる。
【0023】
請求項
5に記載の発明は、請求項1〜
4のいずれか1つに記載の発明において、前記縫合部は
、前記膨張部を少なくとも2つに区画する区画部をそれぞれ有する2本の前記第1縫合構成部を備え、前記第1縫合構成部毎の前記
区画部は、
前記少なくとも2つに区画された膨張部間を連通させる連通部を形成するように設けられた連結部から互いに接近した状態で延びて、前記第1縫合構成部毎の前記
オーバラップ部に繋がっていることを要旨とする。
【0024】
ここで、縫合部が、膨張部を少なくとも2つに区画する区画部を有する2本の第1縫合構成部を備えるものである場合、その区画部を両第1縫合構成部に共通するものとし、第1縫合構成部毎のオーバラップ部を、共通の区画部から分岐させることも可能である。しかし、この場合には、区画部を介して互いに隣り合う膨張部の一方に面するオーバラップ部が交差部において切断されてほつれると、その影響が共通の区画部を通じて他方の膨張部に面するオーバラップ部に及ぶおそれがある。
【0025】
この点、請求項
5に記載の発明によれば、2本の第1縫合構成部は、互いに接近した状態で延びて膨張部を少なくとも2つに区画する区画部をそれぞれ有しており、第1縫合構成部毎のオーバラップ部は、第1縫合構成部毎の区画部に繋がっている。そのため、両区画部を介して互いに隣り合う膨張部の一方に面するオーバラップ部が交差部において切断されてほつれたとしても、その影響は他方の膨張部に面するオーバラップ部に及びにくい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、縫合部が第1縫合構成部と、その第1縫合構成部の形成後に形成される第2縫合構成部とを備えるエアバッグ装置にあって、第1縫合構成部として、オーバラップ部及び延出部を備えるものを採用したため、膨張部の膨張用ガスが第1縫合構成部及び第2縫合構成部の交差部近傍から漏れ出るのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を車両用のサイドエアバッグ装置に具体化した一実施形態について、
図1〜
図5を参照して説明する。
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方(車両前方)として説明し、車両の後進方向を後方(車両後方)として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味する。さらに、車両の幅方向(車幅方向)については、その中央部を基準とし、中央部に近付く側を「車内側」とし、中央部から遠ざかる側を「車外側」とするものとする。
【0029】
図1及び
図2に示すように、車両10においてボディサイド部11の車内側(
図2の上側)の近傍には、乗物用シートとして車両用シート12が配置されている。ここで、ボディサイド部11とは、車両10の側部に配置された車両構成部材(乗物構成部材)を指し、主としてドア、ピラー等がこれに該当する。例えば、前席に対応するボディサイド部11は、フロントドア、センターピラー(Bピラー)等である。また、後席に対応するボディサイド部11は、サイドドア(リヤドア)の後部、Cピラー、タイヤハウスの前部、リヤクォータ等である。
【0030】
車両用シート12は、シートクッション(座部)13と、そのシートクッション13の後側から起立し、かつ傾き調整機構(図示略)により傾斜角度を調整されるシートバック(背もたれ)14とを備えている。車両用シート12は、シートバック14が車両前方を向く姿勢で車両10に配置されている。このように配置された車両用シート12の幅方向は、車幅方向と合致する。
【0031】
シートバック14内には、その骨格をなすシートフレームが配置されている。
図4(A)に示すように、シートフレームの一部は、シートバック14内の車外側(
図4(A)では下側)部分に配置されており、この部分(以下「サイドフレーム部15」という)は、金属板を曲げ加工することによって形成されている。サイドフレーム部15を含むシートフレームの前側には、ウレタンフォーム等の弾性材からなるシートパッド16が配置されている。また、シートフレームの後側には、合成樹脂等によって形成された硬質のバックボード17が配置されている。なお、シートパッド16は表皮によって被覆されているが、
図4(A)ではその表皮の図示が省略されている。後述する
図4(B)についても同様である。
【0032】
シートパッド16内において、サイドフレーム部15の車外側近傍には収納部18が設けられている。収納部18の位置は、車両用シート12に着座した乗員Pの斜め後方近傍となる(
図2参照)。この収納部18には、サイドエアバッグ装置の主要部をなすエアバッグモジュールAMが組み込まれている。
【0033】
収納部18の車外側かつ前側の角部からは、斜め前車外側に向けてスリット19が延びている。シートパッド16の前側の角部16Cとスリット19とによって挟まれた箇所(
図4(A)において二点鎖線の枠で囲んだ箇所)は、後述するエアバッグ40によって破断される破断予定部21を構成している。
【0034】
上記シートバック14に組み込まれるエアバッグモジュールAMは、インフレータアセンブリ30及びエアバッグ40を主要な構成部材として備えている。
次に、これらの構成部材の各々について説明する。ここで、本実施形態では、エアバッグモジュールAM及びその構成部材について「上下方向」、「前後方向」というときは、
図1に示すように、車両用シート12のシートバック14を基準としている。シートバック14の起立する方向をエアバッグモジュールAM等の「上下方向」とし、シートバック14の厚み方向をエアバッグモジュールAM等の「前後方向」としている。上述したように、通常、シートバック14は後方へ多少傾斜した状態で使用されることから、エアバッグモジュールAM等の「上下方向」は厳密には車両の上下方向(鉛直方向)と合致しておらず、多少傾斜している。同様に、エアバッグモジュールAM等の「前後方向」は、車両の前後方向(水平方向)と合致しておらず、多少傾斜している。
【0035】
<インフレータアセンブリ30>
図3及び
図4(A)に示すように、インフレータアセンブリ30は、ガス発生源としてのインフレータ31と、そのインフレータ31の外側に装着されたリテーナ32とを備えている。本実施形態では、インフレータ31として、パイロタイプと呼ばれるタイプが採用されている。インフレータ31は略円柱状をなしており、その内部には、膨張用ガスを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。インフレータ31の長さ方向についての一方の端部(本実施形態では下端部)には、膨張用ガスをインフレータ31の径方向外方へ向けて噴出するガス噴出部31Aが設けられている。インフレータ31の長さ方向についての他方の端部(本実施形態では上端部)には、同インフレータ31への作動信号の入力配線となるハーネス(図示略)が接続されている。
【0036】
なお、インフレータ31としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスを噴出させるタイプ(ハイブリッドタイプ)が用いられてもよい。
【0037】
一方、リテーナ32は、膨張用ガスの噴出する方向を制御するディフューザとして機能するとともに、上記インフレータ31をエアバッグ40と一緒にサイドフレーム部15に締結する機能を有する部材である。リテーナ32の大部分は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって略筒状に形成されている。リテーナ32には窓部33が設けられており(
図3参照)、ガス噴出部31Aから噴出された膨張用ガスの多くが、この窓部33を通じてリテーナ32の外部へ噴き出される。
【0038】
リテーナ32には、これを上記サイドフレーム部15に取付けるための係止部材として、複数本のボルト34が固定されている。表現を変えると、複数本のボルト34が、リテーナ32を介してインフレータ31に間接的に固定されている。
【0039】
なお、インフレータアセンブリ30は、インフレータ31とリテーナ32とが一体になったものであってもよい。
<エアバッグ40>
図1及び
図2に示すように、エアバッグ40は、車両10の走行中等に側突等により衝撃が側方からボディサイド部11に加わったときに、インフレータ31から膨張用ガスの供給を受ける。この膨張用ガスの供給を受けたエアバッグ40は、自身の一部(後部)を上記収納部18内に残した状態で同収納部18から略前方へ向けて飛び出し、車両用シート12に着座した乗員Pの上半身とボディサイド部11との間で展開膨張することにより、上記側突の衝撃から乗員Pの上半身を保護する。
【0040】
図3は、エアバッグ40が膨張用ガスを充填させることなく展開させられた状態(以下「非膨張展開状態」という)のエアバッグモジュールAMを模式的に示している。
図3に示すように、エアバッグ40は、基布(パネル布とも呼ばれる)41を、その中央部分に設定した折り線42が後方側となるように、同折り線42に沿って二つ折りして車幅方向に重ね合わせ、その重ね合わされた部分を袋状となるように結合させることにより形成されている。
【0041】
ここでは、エアバッグ40の上記の重ね合わされた2つの部分を区別するために、膨張時に乗員P側(車内側)に位置するものを「車内側布部43」といい、同じく膨張時に上記車内側布部43を挟んで乗員Pとは反対側(車外側)に位置するものを「車外側布部44」というものとする。基布41においては、車内側布部43及び車外側布部44の外形形状が、折り線42を対称軸として互いに線対称の関係にある。
【0042】
なお、
図3では、車内側布部43についても図示するために、車外側布部44の一部が破断された状態で図示されている。
上記基布41としては、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸やポリアミド糸等を用いて形成した織布等が適している。車内側布部43及び車外側布部44の形状・大きさは、エアバッグ40が車両用シート12及びボディサイド部11間で展開膨張したときに、車両用シート12に着座している乗員Pとボディサイド部11との間で、腰部PP、胸部PT等に対応する領域を占有し得るように設定されている。
【0043】
車内側布部43及び車外側布部44の上記結合は、糸で縫合することにより形成された縫合部Aにおいてなされている。
図3では、縫合部Aは、車外側布部44が破断されていない箇所では太い破線で示され、車外側布部44が破断されて車内側布部43が表出している箇所では、二点鎖線で示されている。
【0044】
車内側布部43及び車外側布部44間において、上記縫合部Aによって囲まれた箇所は、膨張用ガスによって膨張する膨張部Bとされている。本実施形態では、膨張部Bは、互いに上下に隣り合う胸保護膨張部45及び腰保護膨張部46からなる。胸保護膨張部45は、エアバッグ40における上側の部分によって構成されており、標準的な体格を有する乗員P(大人)が、標準的な姿勢で着座しているときの胸部PTの外側方で膨張してその胸部PTを保護する。腰保護膨張部46は、エアバッグ40における下側の部分によって構成されており、標準的な体格を有する乗員P(大人)が、標準的な姿勢で着座しているときの腰部PPの外側方で膨張して同腰部PPを保護する。
【0045】
ここで、基布41について、膨張部B(胸保護膨張部45、腰保護膨張部46)の中心に近付く側を「内側」とし、中心から遠ざかる側を「外側」とするものとする。
図3及び
図5(A)に示すように、胸保護膨張部45の縫合部Aは、第1縫合構成部47と、その第1縫合構成部47の形成後に同第1縫合構成部47の上側に形成された第2縫合構成部48とを備えている。これらの第1縫合構成部47及び第2縫合構成部48は互いに交差することで繋がっている。
【0046】
第2縫合構成部48は、車内側布部43及び車外側布部44の周縁から内側へ一定距離離れた状態で、同周縁に沿って延びている。第2縫合構成部48において、第1縫合構成部47側(下側)の端末48Aから斜め後ろ上方へ長さL1離れた箇所は、第1縫合構成部47との被交差部48Bとされている。また、第2縫合構成部48の第1縫合構成部47側(下側)の端部であって、端末48Aと被交差部48Bとの間の領域は、直線状をなす被オーバラップ部48Cとされている。この被オーバラップ部48Cの長さL1は、後述するオーバラップ部47Cがほつれても、その外側に同被オーバラップ部48Cを位置させる観点から、15mm以上であることが必要であり、30mm以上であることが確実性の点で望ましい。本実施形態では、長さL1が30mmに設定されている。
【0047】
第1縫合構成部47は、第2縫合構成部48側(上側)の端部に延出部47A及びオーバラップ部47Cを有している。オーバラップ部47Cは、第2縫合構成部48の被オーバラップ部48Cの内側において同被オーバラップ部48Cに沿って延びている。オーバラップ部47Cの大部分は被オーバラップ部48Cに対し平行(間隔が均一)となっていて、その被オーバラップ部48Cの長さ方向に重なっている(オーバラップしている)。オーバラップ部47Cの上部は、斜め後ろ上方へ膨らむように湾曲した状態で延びており、自身の交差部47Bにおいて、前記被交差部48Bで第2縫合構成部48に交差している。
【0048】
延出部47Aは、上記交差部47Bから斜め後ろ上方へ膨らむように湾曲した状態で、第2縫合構成部48よりも外側(前側)へ延びている。延出部47Aは、ここでは車内側布部43及び車外側布部44の周縁に達する位置まで延びていないが、達する位置まで延びていてもよい。
【0049】
第1縫合構成部47は、上記オーバラップ部47Cよりも後側に区画部47Dを有している。区画部47Dの前部を除く部分は、前側ほど低くなるように傾斜した状態で延びている。区画部47Dの前部は、前下方へ膨らむように湾曲しており、その湾曲部分の上端部において上記オーバラップ部47Cに繋がっている。
【0050】
図3及び
図5(B)に示すように、腰保護膨張部46の縫合部Aは、第1縫合構成部51と、その第1縫合構成部51の形成後に同第1縫合構成部51の下側に形成された第2縫合構成部52とを備えている。これらの第1縫合構成部51及び第2縫合構成部52は互いに交差することで繋がっている。
【0051】
第2縫合構成部52は、車内側布部43及び車外側布部44の周縁から内側へ一定距離離れた状態で、同周縁に沿って延びている。第2縫合構成部52において、第1縫合構成部51側(上側)の端末52Aから下方へ長さL2離れた箇所は、第1縫合構成部51との被交差部52Bとされている。また、第2縫合構成部52の第1縫合構成部51側(上側)の端部であって、端末52Aと被交差部52Bとの間の領域は、直線状をなす被オーバラップ部52Cとされている。この被オーバラップ部52Cの長さL2は、後述するオーバラップ部51Cがほつれても、その外側に同被オーバラップ部52Cを位置させる観点から、15mm以上であることが必要であり、30mm以上であることが確実性の点で望ましい。本実施形態では、長さL2が30mmに設定されている。
【0052】
第1縫合構成部51は、第2縫合構成部52側(下側)の端部に延出部51A及びオーバラップ部51Cを有している。オーバラップ部51Cは、第2縫合構成部52の被オーバラップ部52Cの内側において同被オーバラップ部52Cに沿って延びている。オーバラップ部51Cは被オーバラップ部52Cの長さ方向に重なっている(オーバラップしている)。オーバラップ部51Cの大部分と被オーバラップ部52Cとの間隔は、それらの長さ方向に略均一となっている。オーバラップ部51Cの下部は、斜め後ろ下方へ膨らむように湾曲した状態で延びており、自身の交差部51Bにおいて、前記被交差部52Bで第2縫合構成部52に交差している。
【0053】
延出部51Aは、上記交差部51Bから斜め後ろ下方へ膨らむように湾曲した状態で、第2縫合構成部52よりも外側(前側)へ延びている。延出部51Aは、ここでは車内側布部43及び車外側布部44の周縁に達する位置まで延びていないが、達する位置まで延びていてもよい。
【0054】
第1縫合構成部51は、上記オーバラップ部51Cよりも後側に区画部51Dを有している。区画部51Dの前部を除く部分は、上述した区画部47Dに接近し、かつ前側ほど低くなるように傾斜した状態で延びている。区画部47D,51Dは互いに略平行の関係にある。両区画部47D,51Dは、膨張部Bを上記胸保護膨張部45及び腰保護膨張部46に区画している。区画部51Dの前部は、前方へ膨らむように湾曲しており、その湾曲部分の下端部において上記オーバラップ部51Cに繋がっている。
【0055】
図3に示すように、各区画部47D,51Dの後端は、上記折り線42(インフレータアセンブリ30)から前方へ離間した箇所に設けられた連結部55に繋がっている。この構成により、エアバッグ40の後部(折り線42と連結部55との間)に、胸保護膨張部45及び腰保護膨張部46間を連通させる連通部56が形成されている。
【0056】
車内側布部43及び車外側布部44において、区画部47D,51D及び連結部55によって囲まれた部分は、膨張用ガスが供給されず膨張しない非膨張部57となっている。
上記第1縫合構成部47,51は、第2縫合構成部48,52よりも複雑な形状をなしていることから、作業者がミシンを操作して、正確に第1縫合構成部47,51を形成することが難しい。そこで、第1縫合構成部47,51は、プログラム式電子ミシンによって形成されている。このプログラム式電子ミシンは、縫製開始点から縫製終了点に至る縫製経路を特定するのに必要な諸条件に基づいて事前に作成された、縫製時に必要な縫製プログラムに従って、布送り機構や縫針駆動機構の動作を自動制御するタイプのミシンである。
【0057】
これに対し、第1縫合構成部47,51に比べて形状が簡単な第2縫合構成部48,52は、作業者がミシンを操作することにより形成されている。これは、プログラム式電子ミシンでは、精度よく縫合を行なうことができる反面、縫合に時間がかかるのに対し、作業者がミシンを操作して縫合を行なう場合には、縫合を短時間で行なうことできるからである。
【0058】
なお、エアバッグ40は、互いに独立した一対の基布41を車幅方向に重ね合わせ、車内側に位置する基布41を車内側布部43とし、車外側に位置する基布41を車外側布部44とし、両布部43,44を袋状となるように縫合することにより形成されてもよい。また、エアバッグ40内には、膨張用ガスの熱及び圧力から基布41等を保護する目的で補強布が用いられてもよい。
【0059】
そして、インフレータアセンブリ30の大部分がエアバッグ40(膨張部B)内の後部に収容され、同インフレータアセンブリ30の上部が基布41に形成されたインフレータ挿通口61を通り、エアバッグ40の外部に露出している。リテーナ32のボルト34は車内側布部43に挿通されており(
図4(A)参照)、この挿通により、インフレータアセンブリ30がエアバッグ40に対し位置決めされた状態で係止されている。このように係止された状態では、インフレータ31のガス噴出部31A及びリテーナ32の窓部33が連結部55の後方に位置している。
【0060】
さらに、腰保護膨張部46から胸保護膨張部45への膨張用ガスの流入を規制する逆止弁65が、エアバッグ40内の上記連通部56に設けられている。逆止弁65は、織布等の布により上下両端を開放した筒状に形成されている。
【0061】
上記エアバッグモジュールAMは、非膨張展開状態のエアバッグ40(
図3参照)が、例えば
図4(A)に示すような形態に折り畳まれることにより、コンパクトな収納用形態にされている。これは、エアバッグモジュールAMをシートバック14における限られた大きさの収納部18に確実に収納するためである。
【0062】
上記収納用形態にされたエアバッグモジュールAMは、リテーナ32のボルト34がサイドフレーム部15に挿通され、ナット35が締め付けられることにより、同サイドフレーム部15に固定されている。
【0063】
なお、リテーナ32は、上述したボルト34及びナット35とは異なる部材によって車両(サイドフレーム部15)に固定されてもよい。
サイドエアバッグ装置は、上述したエアバッグモジュールAMのほかに
図1に示す衝撃センサ71及び制御装置72を備えている。衝撃センサ71は加速度センサ等からなり、車両のボディサイド部11(
図2参照)等に取付けられている。衝撃センサ71は、ボディサイド部11に外側方から加えられる衝撃を検出する。制御装置72は、衝撃センサ71からの検出信号に基づきインフレータ31の作動を制御する。
【0064】
上記のようにして本実施形態のサイドエアバッグ装置が構成されている。次に、このサイドエアバッグ装置の作用について説明する。
このサイドエアバッグ装置では、側突等によりボディサイド部11に対し側方から衝撃が加わらないときには、制御装置72からインフレータ31に対し、これを作動させるための作動信号が出力されず、同インフレータ31から膨張用ガスがエアバッグ40の膨張部Bに供給されない。エアバッグ40は、収納用形態でインフレータアセンブリ30とともに収納部18に収納され続ける(
図4(A)参照)。
【0065】
これに対し、車両の走行中に、側突等によりボディサイド部11に所定値以上の衝撃が加わり、そのことが衝撃センサ71によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置72からインフレータ31に対し、これを作動させるための作動信号が出力される。この作動信号に応じて、インフレータ31では、ガス発生剤が高温高圧の膨張用ガスを発生し、これをガス噴出部31Aから噴出する。噴出された膨張用ガスの一部は、エアバッグ40における胸保護膨張部45に供給される。また、膨張用ガスのうち、胸保護膨張部45へ供給されるものよりも多くが、開弁した逆止弁65を通じて腰保護膨張部46へ供給される。
【0066】
上記のように膨張用ガスが供給されると、胸保護膨張部45及び腰保護膨張部46はそれぞれ膨張する。ここで、膨張部Bを両膨張部45,46に区画する区画部を両第1縫合構成部47,51に共通するものとし、第1縫合構成部47,51毎のオーバラップ部47C,51Cを、上記共通の区画部から分岐させることも可能である。しかし、この場合には、区画部を介して互いに隣り合う胸保護膨張部45及び腰保護膨張部46の一方に面するオーバラップ部47C,51Cが交差部47B,51Bにおいて切断されると、その影響が共通の区画部を通じて他方の膨張部46,45に面するオーバラップ部51C,47Cに及ぶおそれがある。
【0067】
この点、本実施形態では、2本の第1縫合構成部47,51は、互いに接近した状態で延びて膨張部Bを胸保護膨張部45及び腰保護膨張部46に区画する区画部47D,51Dをそれぞれ有している。第1縫合構成部47,51毎のオーバラップ部47C,51Cは、第1縫合構成部47,51毎の区画部47D,51Dに繋がっている。そのため、両区画部47D,51Dを介して互いに隣り合う胸保護膨張部45及び腰保護膨張部46の一方に面するオーバラップ部47C,51Cが交差部47B,51Bにおいて切断されてほつれたとしても、その影響は他方の膨張部46,45に面するオーバラップ部51C,47Cに及びにくい。
【0068】
そして、上記胸保護膨張部45及び腰保護膨張部46の膨張により、エアバッグ40の折り状態が解消される。
図4(B)に示すように、エアバッグ40は、自身の後端部を、インフレータアセンブリ30とともに収納部18内に残した状態でシートバック14から車両の前方へ飛び出す。その後も膨張用ガスの供給されるエアバッグ40は、
図2に示すように、車両のボディサイド部11と車両用シート12に着座した乗員Pとの間で車両の前方へ向けて展開膨張する。腰保護膨張部46は腰部PPの側方で展開膨張し、胸保護膨張部45は胸部PTの側方で展開膨張する。このエアバッグ40が、乗員Pと、車室内に侵入してくるボディサイド部11との間に介在する。ここで、胸保護膨張部45へは腰保護膨張部46よりも少ない量の膨張用ガスが供給されることから、胸保護膨張部45は腰保護膨張部46よりも低い内圧で展開膨張する。
【0069】
胸保護膨張部45及び腰保護膨張部46がそれぞれ膨張した状態で、上記衝撃によりボディサイド部11が車内側へ進入し、エアバッグ40が乗員Pに対し車幅方向内側へ押し付けられると、その乗員Pはエアバッグ40によって拘束される。ボディサイド部11を通じて乗員Pへ伝わる側方からの衝撃がエアバッグ40によって緩和される。より詳しくは、腰部PPに伝わる衝撃が腰保護膨張部46によって緩和され、胸部PTに伝わる衝撃が胸保護膨張部45によって緩和される。
【0070】
この際、上述したように、胸保護膨張部45は腰保護膨張部46よりも低い内圧で膨張する。従って、一般に、人体側部の耐衝撃性においては、腰部PPの方が胸部PTよりも勝っているところ、エアバッグ40の展開膨張によって乗員Pに作用する衝撃が、胸部PTにおいて腰部PPよりも小さくなる。
【0071】
インフレータ31からの膨張用ガスの供給が停止されると、腰保護膨張部46及び胸保護膨張部45間で生じた内圧差により、逆止弁65が閉弁する。この閉弁により、逆止弁65内の流路が閉塞され、インフレータ31から噴出されて一旦腰保護膨張部46に流入した膨張用ガスが、逆止弁65を通じて胸保護膨張部45に流入(逆流)することを規制される。
【0072】
ところで、
図3及び
図5(A)に示すように、胸保護膨張部45が膨張用ガスによって膨張する際には、縫合部Aのうち、胸保護膨張部45を取り囲む部分が膨張用ガスの圧力を直接受ける。第1縫合構成部47及び第2縫合構成部48について、交差部47Bの近傍では、オーバラップ部47Cが被オーバラップ部48Cの内側において同被オーバラップ部48Cに沿って延びていて胸保護膨張部45に面し、被交差部48Bで第2縫合構成部48に交差している。そのため、オーバラップ部47Cが膨張用ガスの圧力を直接受ける。
【0073】
一方、第1縫合構成部47が第2縫合構成部48よりも先に形成されている本実施形態では、第2縫合構成部48を形成するために、縫針が第1縫合構成部47を刺す(通過する)ときに、その第1縫合構成部47を形成している糸を傷付けると、その箇所、すなわち、第1縫合構成部47の交差部47Bの強度が低くなる。
【0074】
そのため、上記第1縫合構成部47に対し膨張用ガスの圧力が直接加わると、オーバラップ部47Cが交差部47Bにおいて切断され、この交差部47Bを起点として
図5(A)において矢印で示すようにオーバラップ部47Cが前下方へほつれるおそれがある。
【0075】
しかし、たとえオーバラップ部47Cが上記のようにほつれたとしても、そのオーバラップ部47Cの外側に位置する第2縫合構成部48の被オーバラップ部48Cに対しては、上記オーバラップ部47Cほど高い膨張用ガスの圧力は加わらず、同被オーバラップ部48Cはほつれずに残りやすい。そのため、オーバラップ部47Cの少なくとも一部が被オーバラップ部48Cの内側でほつれずに残れば、その箇所の外側にも、ほつれた箇所の外側にも被オーバラップ部48Cが位置することとなる。胸保護膨張部45内の膨張用ガスは、オーバラップ部47Cのうちほつれずに残った部分と被オーバラップ部48Cとの間の隙間を通らなければ胸保護膨張部45の外部へ流出することができない。
【0076】
腰保護膨張部46が膨張用ガスによって膨張するときについても、上記と同様である。すなわち、このとき、たとえ第1縫合構成部51におけるオーバラップ部51Cの一部が、
図5(B)において矢印で示すように、後ろ上方へほつれたとしても、その外側の第2縫合構成部52の被オーバラップ部52Cがほつれずに残りやすい。そのため、腰保護膨張部46内の膨張用ガスは、ほつれずに残ったオーバラップ部51Cと被オーバラップ部52Cとの間の隙間を通らなければ腰保護膨張部46の外部へ流出することができない。
【0077】
なお、実験によると、各被オーバラップ部48C,52Cが15mm以上の長さL1,L2を有していると、通常起こり得る状況下であれば、オーバラップ部47C,51Cは第2縫合構成部48,52との交差部47B,51Bで切断されてほつれたとしても、少なくとも一部が被オーバラップ部48C,52Cの内側でほつれずに残ることが判った。
【0078】
従って、長さL1,L2がともに15mm以上(30mm)に設定された本実施形態では、オーバラップ部47C,51Cにおいて、ほつれた箇所の外側にも、ほつれずに残った箇所の外側にも、被オーバラップ部48C,52Cが位置することとなる。胸保護膨張部45内及び腰保護膨張部46内の各膨張用ガスは、ほつれずに残ったオーバラップ部47C,51Cと被オーバラップ部48C,52Cとの間の隙間を通らなければ、胸保護膨張部45の外部及び腰保護膨張部46の外部へ流出することができない。
【0079】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)第2縫合構成部48,52が第1縫合構成部47,51の形成後に形成されるエアバッグ40を対象とする。第2縫合構成部48,52において、第1縫合構成部47,51側の端末48A,52Aと、同端末48A,52Aから長さL1,L2離れた箇所の被交差部48B,52Bとの間の領域を被オーバラップ部48C,52Cとする。第1縫合構成部47,51の第2縫合構成部48,52側の端部には、被オーバラップ部48C,52Cの内側において同被オーバラップ部48C,52Cに沿って延びて、被交差部48B,52Bで第2縫合構成部48,52に交差するオーバラップ部47C,51Cを設ける。さらに、第1縫合構成部47,51の第2縫合構成部48,52側の端部には、オーバラップ部47C,51Cの被交差部48B,52Bとの交差部47B,51Bから第2縫合構成部48,52よりも外側へ延びる延出部47A,51Aを設けている。
【0080】
そのため、第1縫合構成部47,51に対し膨張用ガスの圧力が直接加わり、オーバラップ部47C,51Cが第2縫合構成部48,52との交差部47B,51Bにおいて切断され、この交差部47B,51Bを起点としてほつれたとしても、第2縫合構成部48,52の被オーバラップ部48C,52Cをほつれさせずに残すことができる。その結果、胸保護膨張部45及び腰保護膨張部46の膨張用ガスが、交差部47B,51Bの近傍から漏れ出るのを抑制することができる。
【0081】
また、仮に、延出部47A,51Aが交差部47B,51Bから第2縫合構成部48,52よりも内側へ延びていると、すなわち、胸保護膨張部45内及び腰保護膨張部46内に入り込んで車内側布部43及び車外側布部44を縫合していると、同膨張部45,46の膨張時の厚みが小さくなる。その結果、膨張部45,46による衝撃吸収性能が低下する。
【0082】
しかし、本実施形態では、上述したように延出部47A,51Aが交差部47B,51Bから第2縫合構成部48,52よりも外側へ延びている。延出部47A,51Aが膨張部45,46の外側で車内側布部43及び車外側布部44を縫合している。そのため、膨張部45,46の膨張時の厚みが延出部47A,51Aによって小さくなることがなく、衝撃吸収性能の低下を招かない。
【0083】
(2)第2縫合構成部48,52のいずれについても、被オーバラップ部48C,52Cの長さL1,L2を15mm以上に設定している。
そのため、通常起こり得る状況下であれば、オーバラップ部47C,51Cが第2縫合構成部48,52との交差部47B,51Bで切断されてほつれたとしても、オーバラップ部47C,51Cの少なくとも一部を、被オーバラップ部48C,52Cの内側でほつれさせずに残すことができ、上記(1)の効果を得ることができる。
【0084】
(3)第1縫合構成部47,51のいずれについても、オーバラップ部47C,51Cを、湾曲させた状態で交差部47B,51Bにおいて第2縫合構成部48,52に交差させている。また、延出部47A,51Aを、交差部47B,51Bから湾曲させた状態で第2縫合構成部48,52よりも外側へ延ばしている。
【0085】
このように、第1縫合構成部47,51では、オーバラップ部47C,51Cにおいても延出部47A,51Aにおいても、交差部47B,51Bに近い箇所を湾曲させていて、徐々に向きを変えている。そのため、第1縫合構成部47,51の形成のための基布41の縫合作業をしやすくすることができる。
【0086】
(4)縫合部Aが、互いに接近した状態で延びて膨張部Bを胸保護膨張部45及び腰保護膨張部46に区画する区画部47D,51Dをそれぞれ有する2本の第1縫合構成部47,51を備える。そして、第1縫合構成部47,51毎のオーバラップ部47C,51Cを、第1縫合構成部47,51毎の区画部47D,51Dに繋げている。
【0087】
そのため、両区画部47D,51Dを介して互いに隣り合う胸保護膨張部45及び腰保護膨張部46の一方に面するオーバラップ部47C,51Cが交差部47B,51Bにおいて切断されてほつれたとしても、その影響が他方の膨張部46,45に面するオーバラップ部51C,47Cに及ぶのを抑制することができる。
【0088】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。
<第1縫合構成部47,51について>
・
図6(A)に示すように、胸保護膨張部45に面する第1縫合構成部47には、延出部47Aから第2縫合構成部48の端末48A側(前下側)へ折り返され、オーバラップ部47Cとともに第2縫合構成部48の被オーバラップ部48Cを挟み込んだ状態で、同被オーバラップ部48Cに沿って延びる補助延出部75がさらに設けられてもよい。
【0089】
このようにすると、オーバラップ部47Cがほつれても、そのオーバラップ部47Cの外側に位置する被オーバラップ部48Cに対しては、上述したように、オーバラップ部47Cほど高い膨張用ガスの圧力は加わらない。第1縫合構成部47において、被オーバラップ部48Cよりも外側に位置する補助延出部75に対しては、膨張用ガスの圧力が一層加わりにくい。
【0090】
そのため、被オーバラップ部48Cに加え、補助延出部75もまたほつれずに残りやすい。従って、膨張用ガスは、オーバラップ部47Cにおいてほつれた箇所を通過できても、ほつれずに残った箇所と、被オーバラップ部48C及び補助延出部75との間を通らなければ胸保護膨張部45の外部へ流出することができない。その結果、補助延出部75のない場合よりも、胸保護膨張部45の膨張用ガスが交差部47Bの近傍から漏れ出にくくなる。
【0091】
さらに、上記補助延出部75は、第2縫合構成部48の端末48Aよりも、被交差部48Bから遠ざかる側(前下側)へ延びていてもよい。すなわち、補助延出部75は、被交差部48Bから遠ざかる側へ被オーバラップ部48Cよりも長く形成されてもよい。
【0092】
このようにすると、膨張用ガスの圧力により、万が一、第1縫合構成部47がオーバラップ部47Cの全体でほつれたり、オーバラップ部47Cを越えてほつれたりしても、そのほつれた箇所の外側に補助延出部75が位置する場合が生ずる。この場合には、膨張用ガスは、ほつれた箇所を通ることができても、第1縫合構成部47においてほつれずに残った箇所と、補助延出部75との間を通らなければ胸保護膨張部45の外部へ流出することができず、交差部47Bの近傍から漏れ出にくくなる。
【0093】
なお、上記の変更は、胸保護膨張部45に限らず、腰保護膨張部46に面する第1縫合構成部51についても、同様に行なわれてもよい。
・
図6(B)に示すように、胸保護膨張部45における第1縫合構成部47には、延出部47Aから、第2縫合構成部48に沿って、同第2縫合構成部48の端末48Aとは反対側(斜め後ろ上側)へ延びる補助延出部76がさらに設けられてもよい。
【0094】
この場合にも、オーバラップ部47Cの上端部は湾曲した状態で交差部47Bにおいて第2縫合構成部48に交差し、延出部47Aは交差部47Bから湾曲した状態で第2縫合構成部48よりも外側(前側)へ延びるようにする。この湾曲している部分の曲率を小さくすることで、オーバラップ部47C及び延出部47Aがともに徐々に向きを変えることとなり、第1縫合構成部47の形成のための基布41の縫合作業がしやすくなる。
【0095】
なお、上記の変更は、胸保護膨張部45に限らず、腰保護膨張部46に面する第1縫合構成部51についても、同様に行なわれてもよい。
・オーバラップ部47C及び被オーバラップ部48C間の間隔は、必ずしもそれらの長さ方向に均一でなくてもよい。すなわち、オーバラップ部47Cは被オーバラップ部48Cに対し、必ずしも平行でなくてもよい。オーバラップ部51C及び被オーバラップ部52C間の間隔についても上記と同様のことが言える。
【0096】
・第1縫合構成部47,51は、区画部47D,51Dが連結部55によって連結されないものであってもよい。この場合、区画部47D,51Dは、互いに交差することで繋がってもよい。また、区画部47D,51Dは、互いに接近した状態で延びるが、繋がらないものであってもよい。
【0097】
<被オーバラップ部48C,52Cについて>
・被オーバラップ部48C,52Cの長さL1,L2は、15mm以上であることを条件に変更可能である。この場合、長さL1,L2は互いに同一であってもよいし、異なってもよい。
【0098】
<縫合部Aについて>
・縫合部Aは、3つ以上の縫合構成部からなるものであってもよい。この場合、隣り合う一対の縫合構成部のうち、先に形成されるものが第1縫合構成部とされ、後に形成されるものが第2縫合構成部とされる。
【0099】
縫合部Aは、例えば、1本の第1縫合構成部と、その第1縫合構成部の両端部に交差することで同第1縫合構成部に繋がる2本の第2縫合構成部とからなるものであってもよい。
【0100】
また、縫合部Aは、上記とは逆に、1本の第2縫合構成部と、その第2縫合構成部の両端部に交差することで同第2縫合構成部に繋がる2本の第1縫合構成部とからなるものであってもよい。
【0101】
・縫合部Aが2本の第1縫合構成部を備えるものである場合、各第1縫合構成部は互いに接近した状態で延びて膨張部Bを3つ以上に区画する区画部をそれぞれ有するものであってもよい。
【0102】
・縫合部Aは、膨張部Bを区画することなく、基布41を袋状に縫合するものであってもよい。
<インフレータアセンブリ30について>
・サイドエアバッグ装置は、インフレータアセンブリ30の全体がエアバッグ40内に収容されたものであってもよいし、その逆に、インフレータアセンブリ30の全体がエアバッグ40の外部に配置されたものであってもよい。後者の場合には、インフレータ31と膨張部Bとがパイプ等によって繋がれ、インフレータ31から噴出された膨張用ガスが、パイプ等を通じて膨張部B内に供給されてもよい。
【0103】
<収納部18について>
・車両用シート12のシートバック14に代えて、ボディサイド部11に収納部18が設けられ、ここにエアバッグモジュールAMが配設されてもよい。
【0104】
<その他の事項>
・本発明は、エアバッグが1つ又は3つ以上の膨張部を有するエアバッグ装置にも適用可能である。
【0105】
・上記実施形態では、乗員Pの主として腰部PP及び胸部PTを保護するサイドエアバッグ装置を例に説明したが、本発明は、乗員Pの側部について、腰部PP以外の部位、又は胸部PT以外の部位を側突等の衝撃から保護するサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【0106】
・本発明は、シートバック14が車両の前方とは異なる方向、例えば側方を向く姿勢で車両用シート12が配置された車両において、その車両用シート12に対し側方(車両の前後方向)から衝撃が加わった場合に、同衝撃から乗員Pを保護するサイドエアバッグ装置にも適用可能である。
【0107】
・本発明は、車両の乗員に接近した箇所でエアバッグを膨張させて、その乗員を拘束するものであることを条件に、サイドエアバッグ装置とは異なる種類のエアバッグ装置にも適用可能である。この場合、インフレータとして、シリンダ状とは異なる形状をなすものが用いられてもよい。
【0108】
・本発明のエアバッグ装置が適用される車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
・本発明は、車両以外の乗物、例えば航空機、船舶等における乗物用シートに装備されるエアバッグ装置にも適用可能である。