(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0014】
(1)構成
図1は、本実施形態に係る粒子線ビーム照射装置1の構成例を示した図である。粒子線ビーム照射装置1は、ビーム生成部10、出射制御部20、X用電磁石30a及びY用電磁石30bを有するビーム走査部30、線量モニタ部40、位置モニタ部(センサ部)50、リッジフィルタ60、レンジシフタ70、制御部80、ビーム形状算出部90、記憶部97、表示部98等を備えて構成されている。制御部80はその内部構成として走査制御部81及び異常判定部82を有している。またビーム形状算出部90はその内部構成としてメディアン処理部94及び重心位置算出部91を有している。
【0015】
粒子線ビーム照射装置1は、炭素等の粒子や陽子等を高速に加速して得られる粒子線ビームをがん患者100の患部200に向けて照射し、がん治療を行う装置である。粒子線ビーム照射装置1では、患部200を3次元の格子点に離散化し、各格子点に対して細い径の粒子線ビームを順次走査する3次元スキャニング照射法を実施することが可能である。具体的には、患部200を粒子線ビームの軸方向(
図1右上に示す座標系におけるZ軸方向)にスライスと呼ばれる平板状の単位で分割し、分割したスライスZ
i、スライスZ
i+1、スライスZ
i+2等の各スライスの2次元格子点(
図1右上に示す座標系におけるX軸及びY軸方向の格子点)を順次走査することによって3次元スキャニングを行っている。
【0016】
ビーム生成部10は、炭素イオンや陽子等の粒子を生成すると共に、シンクロトロン等の加速器(主加速器)によってこれらの粒子を患部200の奥深くまで到達できるエネルギーまで加速して粒子線ビームを生成している。
【0017】
出射制御部20では、制御部80から出力される制御信号に基づいて、生成された粒子線ビームの出射のオン、オフ制御を行っている。
【0018】
ビーム走査部30は、粒子線ビームを第1の方向(X方向)及び第1の方向と直交する第2の方向(Y方向)に偏向させ、スライス面上を2次元で走査するものであり、X方向に走査するX用電磁石30aとY方向に走査するY用電磁石30bの励磁電流を制御している。
【0019】
線量モニタ部40は、照射する線量をモニタするためのものであり、その筐体内に、粒子線の電離作用によって生じた電荷を平行電極で収集する電離箱や、筐体内に配置された二次電子放出膜から放出される二次電子を計測するSEM(Secondary Electron Monitor)装置等によって構成されている。
【0020】
リッジフィルタ60は、ブラッグピークと呼ばれる体内深さ方向における線量のシャープなピークを拡散させるために設けられている。ここで、リッジフィルタ60によるブラッグピークの拡散幅は、スライスの厚み、即ちZ軸方向の格子点の間隔と等しくなるように設定される。
【0021】
レンジシフタ70は、患部200のZ軸方向の照射位置を制御する。レンジシフタ70は、例えば複数の厚さのアクリル板から構成されており、これらのアクリル板を組み合わせることによってレンジシフタ70を通過する粒子線ビームのエネルギー、即ち体内飛程を患部200スライスのZ軸方向の位置に応じて段階的に変化させることができる。レンジシフタ70による体内飛程の大きさは通常等間隔で変化するように制御され、この間隔がZ軸方向の格子点の間隔に相当する。なお、体内飛程の切り替え方法としては、レンジシフタ70のように粒子線ビームの径路上に減衰用の物体を挿入する方法のほか、ビーム生成部10の制御によって粒子線ビームのエネルギー自体を変更する方法でもよい。
【0022】
位置モニタ部50は、ビーム走査部30によって走査された粒子線ビームが正しい位置にあるかどうかを識別するためのものである。線量モニタ部40と類似した電荷収集用の平行電極を有している。位置モニタ部50の電荷収集用電極は、線状電極(例えば複数の短冊状の電極や、複数のワイヤからなる電極)がX方向及びY方向に夫々並列に配列されている。複数の短冊状電極が配列されたものはストリップ型と呼ばれ、複数のワイヤ電極が配列されたものはマルチワイア型と呼ばれる。
【0023】
図2は、ストリップ型の位置モニタ部50の構成例を示す図である。
図2に示すように、位置モニタ部50は、複数の短冊状電極(複数の第1の線状電極50a)がX軸方向(第1の方向)に並列配置され、複数の短冊状電極(複数の第2の線状電極50b)がY軸方向(第1の方向と直交する第2の方向)に並列配置されている。
【0024】
ビーム形状算出部90は、メディアン処理部94及び重心位置算出部91を有する。メディアン処理部94は、第1及び第2の線状電極50a、50bから出力される複数の信号の値からメディアンを求める。また、重心位置算出部91は、求めたメディアンから粒子線ビームの重心位置を算出する。メディアン処理部94及び重心位置算出部91のより詳しい動作については後述する。また、ビーム形状算出部90は、位置モニタ部50から出力される信号に基づいて粒子線ビームの形状を走査プロファイルとして算出している。
【0025】
制御部80は、走査制御部81と異常判定部82を有している。走査制御部81は、予め計画された基準走査位置に基づいてビーム走査位置をビーム走査部30に対して指示する。また、異常判定部82は、重心算出部91で算出された重心位置と予め設定された基準走査位置との誤差が所定値よりも大きいか否かを判定し、誤差が所定値よりも大きいときは、粒子線ビームの出射を停止させるようにインターロック信号を出射制御部20に出力している。また、制御部80は、ビーム照射装置1全体の制御を行う他、格子点毎(スポット毎)の照射線量測定、出射制御部20に対するビーム出射のオン、オフ制御、レンジシフタ70に対するスライス変更に伴うレンジシフタ厚の制御等を行っている。
【0026】
制御部80とビーム形状算出部90の各種の機能は、本装置1が具備するプロセッサ(図示せず)に所定のプログラムを実行させて実現することができる。或いは、ASIC等のハードウェアで構成してもよいし、ハードウェアとソフトウェアとを組み合わせて実現してもよい。
【0027】
(2)基本動作
図3は、スライス上の走査パターンの一例を示す図である。左上の開始格子点から右下の最終格子点に到る軌跡パターンが治療計画で予め定められ、この軌跡パターンにそって一方向に順次粒子線ビームが走査されていく。
【0028】
前述したように、スキャニング照射法には、スポットスキャニング照射法とラスタースキャニング照射法がある。本実施形態では、どちらの照射法も実施可能に構成されている。スポットスキャニング照射法のときには、スポット位置(
図3に丸印で示す照射格子点の位置)を変更する時にビーム出射を一時的に停止させ、次のスポット位置への移動が完了したのちにビーム照射を再開する。一方、ラスタースキャニング照射法の場合には、スポット位置を変更する時にもビーム出射を一時停止させず、スポット位置変更中もビーム出射を継続する。なお、スポットスキャニング照射法とラスタースキャニング照射法のいずれにおいても、スライスを変更するときにはビーム出射を停止する。
【0029】
図4は、本実施形態の粒子線ビーム照射装置1の動作例を示すフローチャートである。照射手順に必要となる各諸元は、例えば照射パターンファイルと呼ばれるデータファイルに記述され、治療照射の開始前に制御部80に転送される。照射パターンファイルには、格子点毎に、スライス位置を与えるレンジシフタ厚、格子点(X、Y)に対応するビーム位置(基準走査位置)を与えるX用電磁石30aやY用電磁石30bの駆動電流値、各格子点に対する照射線量等が照射順に記述されている。
【0030】
制御部80は、転送された照射パターンファイルを読み出して、ステップST1以下の処理を開始する。
【0031】
まず、患部をビーム軸に対して複数のスライスに仮想的に分割し、分割されたスライスの1つが選択される。最初は例えば患部の最も深い位置にあるスライスZiが選択される。また選択されたスライスの位置に応じて粒子線ビームの入射エネルギーとレンジシフタ70におけるアクリル板の組み合わせが選択、設定される(ステップST1)。
【0032】
次に、最深スライスにおける患部形状に応じて粒子線ビームを照射する格子点の数Mと格子点の位置(Xi、Yi)[i=1〜M]、即ち照射対象のスポットが選択され、ビーム走査部30によりスライス上の格子点位置(Xi、Yi)に粒子線ビームの向きが設定される(ステップST2)。その後、粒子線ビームの出射が開始される(ステップST3)。ビーム走査部30から出力された粒子線ビームは、リッジフィルタ60によって、体内飛程分布幅がスライス幅に対応するようエネルギー分布がZ軸方向に拡大される。
【0033】
格子点(Xi、Yi)に対する照射線量は線量モニタ部50により監視され、対象格子点に対する照射線量が計画した線量に達すると線量満了信号が制御部80に出力され、制御部80はこの信号を受信する(ステップST4)。
【0034】
ステップST5では、スポットスキャニング法及びラスタースキャニング法のいずれの方法であるかを判定し、スポットスキャニング法の場合には、一旦ビーム出射を停止し(ステップST6)、次のスポットへビーム位置を移動させる。この処理を対象とするスライスの最終スポットまで繰り返す(ステップST7)。
【0035】
一方、スポットスキャニング法ではない場合、即ちラスタースキャニング法の場合にはビーム出射を停止することなく最終スポットまでビーム出射を継続する。
【0036】
1つのスライスに対する照射が終了すると(ステップST7のYES)、スポットスキャニング法及びラスタースキャニング法のいずれの場合も一旦ビーム出射を停止し(ステップST8)、ステップST1に戻って次のスライスを選択すると共にレンジシフタ70の設定を変更する。以上の処理を最終スライスに達するまで繰り返す(ステップST9)。
【0037】
図5は、スポットスキャニング法の基本動作を示すタイミングチャートである。
図5(a)、(b)に示す2つの電磁石の励磁電流は、2軸方向(X、Y)の位置設定値に対応する。スポット位置を変更するときは、スポット切替指令(
図5(f))が出され、励磁電流IX、IYが変化する。スポット位置が設定値に達すると、スポット切替完了信号が出される(
図5(g))。スポットスキャニング法では、スポット位置の切り替え中はビーム出射が停止し、スポット位置の切り替え完了後に再度ビーム出射が開始される(
図5(c))。ビーム出射開始後、線量モニタで計測される線量(線量モニタ積算線量、
図5(d))が設定値に達すると線量満了信号(
図5(e))が出力され、次のスポット位置へ切り替えるためのスポット切替指令(
図5(f))が出される。
【0038】
前述したように、本実施形態に係る粒子線ビーム照射装置1では、粒子線ビームの通過に伴って位置モニタ部50から出力される信号を用いて、粒子線ビームの重心位置を算出している。
【0039】
図6は、重心位置算出の概念を模式的に示した図である。
図2に示すように、位置モニタ部50では、ストリップ状の電極がX方向とY方向に多数並べて配置されており、通過する粒子線ビームの線量に対応するレベルの信号が各ストリップから出力される。粒子線ビームのビームは複数のストリップに跨っているため複数のストリップから信号が出力されるが、各信号は、各ストリップの位置における粒子線ビームの形状に対応する強度をもつ。
【0040】
ビーム形状算出部90の重心位置算出部91は、各ストリップから出力される信号を用いて、重心位置、即ち、粒子線ビームのピークの位置を算出する。
【0041】
図7は、ビーム形状算出部90の細部構成を示すブロック図である。位置モニタ部50のX電極50a、Y電極50bの数(チャンネル数)は、特に限定するものではないが、以下では、X方向、Y方向のチャンネル数が共に120チャンネルである場合を例として説明する。
【0042】
X電極50aの出力電流は、電流電圧変換(IV変換)回路911aで電圧に変換され、増幅器912aで適宜の電圧に増幅された後、AD変換器(ADC)92aでデジタル信号に変換される。次段のデータ補正処理部93aにてこのデジタル信号に対してオフセット補正処理が行われる。さらに次のメディアン処理部94aでは、後述するメディアン処理が行われ、その後重心位置算出部91aに入力される。
【0043】
上記のIV変換回路911a、増幅器912a、ADC92a、データ補正処理部93a及びメディアン処理部94aは、X電極50aの夫々に対して設けられており、本例では、120チャンネル分としている。
【0044】
Y電極50bの夫々に対しても、同様に、120チャンネル分のIV変換回路911b、増幅器912b、ADC92b、データ補正処理部93b及びメディアン処理部94bが設けられており、メディアン処理部94bの各出力は重心位置算出部91bに入力される。
【0045】
重心位置算出部91a、91bでは、オフセット補正処理やメディアン処理が施されたX方向、Y方向の各チャンネル信号の振幅値から、粒子線ビームのX方向の重心位置と、Y方向の重心位置を夫々算出している。
【0046】
1次元ビーム形状(X)抽出部95aは、算出されたX方向重心位置の周辺の複数のXチャンネル信号の振幅値からX方向の1次元ビーム形状を求めている。例えば、
図6に示すように、重心位置に最も近いチャネルとその前後の5つのチャネルの合計11チャネルの信号値を抽出して、X方向の1次元ビーム形状を求めている。1次元ビーム形状(Y)抽出部95bも同様にY方向の1次元ビーム形状を求めている。
【0047】
2次元ビーム形状算出部96は、上記のようにして得られたX方向及びY方向の夫々の1次元ビーム形状F(Xi)とF(Yj)の積から2次元ビーム形状G(Xi,Yj)を求めている。
【0048】
算出された2次元ビーム形状G(Xi,Yj)は記憶部97に転送される。記憶部97では、
図8に模式的に示すように、2次元ビーム形状G(Xi,Yj)を、位置(Xi,Yj)に対応付けて累積的に記憶することによって線量プロファイルを生成する。記憶部97に累積記憶された線量プロファイルは、例えばスライス単位で表示部98に送られ、記憶部97の記憶領域に対応する表示部98の画面Wにスライス単位の線量プロファイルが視認容易に表示される。
【0049】
また、算出された重心位置は制御部80の異常判定部82にも出力される。異常判定部82では、算出された重心位置と予め設定された基準走査位置との誤差が所定値よりも大きいか否かを判定している。そして、誤差が所定値よりも大きいときはインターロック信号を出射制御部20に出力して、粒子線ビームの出射を停止させるようにしている。重心位置の算出は、
図5(h)に示すように一定の周期、例えば、5μs毎に行われる。
【0050】
(3)第1の実施形態(時間方向のメディアン処理)
位置モニタ部50では電極間に数kVの高電圧をかけることによって通過する粒子線ビームの大きさを検出している。このため、
図9に示すように、電極の一部で放電が発生することがある。放電が発生した電極には大電流が流れるため、
図9に示すように、その電極からは粒子線ビームが通過していないにも関わらず非常に大きな信号(誤信号)が出力されることになる。
【0051】
上述したように、粒子線ビームの重心位置は、位置モニタ部50のX電極50a、Y電極50bから出力される信号の大きさを用いて算出している。このため、放電が発生すると、算出される重心位置は実際に照射されている粒子線ビームの位置からずれた位置となる。
【0052】
特許文献1等が開示する従来の粒子線ビーム照射装置では、AD変換したX電極50a、Y電極50bの信号に対してオフセット補正をし、その後時間軸方向に平均化処理を行っている。そして、時間軸方向に平均化された各チャネルの信号から重心位置を算出している。しかしながら、時間軸方向に平均化処理する従来の方法では、放電が発生した場合に誤った重心位置を算出することになる。
図10は、この事象を模式的に説明する図である。
【0053】
図10では、説明の便宜上、電極の数(チャネルの数)を12とし、時間軸方向に平均するサンプリング数を1回目から10回目の10としている。
図10のTB1の横方向がチャネル方向、即ち空間方向であり、縦方向が時間方向である。そして、TB1の中の数値は、各チャネルから出力される信号の大きさを表している。
図10に示す例では、1回目から10回目のサンプリング期間中ずっと、粒子線ビームがチャネル“9”の近傍を通過するものと想定している。一方、放電は、通常、ある1つの電極(1つのチャネル)において、極めて短時間の間のみに発生する。そこで、
図10のTB1に示す例では、放電がチャネル“2”の7回目のサンプリングにおいて発生したものと設定している。また、放電による誤信号の値は、通常、粒子線ビームの通過によって検出される値よりも大きいため、
図10のTB1では、放電によって生じる誤信号の値を「100」という大きな値に設定している。
【0054】
図10のTB2は、TB1に示す各チャネルの信号の値を時間軸方向に平均した値である。そして、TB2の各チャネルの時間平均値から算出した重心が、TB2の右側に示す値「7.6」である。この結果は、チャネル2の大きな放電信号の影響を受けて、重心がチャネル2側にシフトしたことを意味している。
【0055】
一方、
図10のTB3は、放電が無かったとしたとき、即ち、TB1のチャネル“2”の7回目のサンプリングの信号の値を0としたときの時間平均値を示す。そして、TB3の各チャネルの時間平均値から算出した重心が、TB3の右側に示す値「9.1」である。つまり、放電が無かったとしたときの本来の重心測定値が「9.1」である。
【0056】
このように、平均化処理を用いる従来の方法では、放電の有り無しによって重心の算出結果に大きな差が生じてしまい、放電による誤検出を取り除くことは難しい。平均化処理の母数を増やせばある程度誤検出を抑えることは可能である。しかしながら、平均化処理の母数を増やすと、ビーム位置の異常が実際に発生したときの検出感度が鈍くなるため、好ましい解決法ではない。
【0057】
そこで、本実施形態の粒子線ビーム照射装置1では、従来の時間平均値を求める手法ではなく、X電極50a、Y電極50bから出力される複数の信号の値からメディアンを求め、求めたメディアンから重心を算出する構成にしている。
【0058】
第1の実施例として、時間方向のメディアン処理について
図11を用いて説明する。時間方向のメディアン処理は、X電極50a、Y電極50bの夫々から時系列で出力される複数の信号の値から時間方向のメディアン、即ち中央値を求める処理である。
【0059】
より具体的には、X電極50a、Y電極50bの夫々から出力される所定数(母数)の信号の値を小さい順に並べ、小さい順に並べたときの中央に位置する値を時間方向のメディアンとして選択する処理である。
【0060】
図11のTB4に示す例では、1回目から3回目までの3つのサンプリングデータ(即ち、母数が3)に対するメディアンを求めている。TB5に示す値が求めたメディアン値である。例えば、チャネル“11”では、1回目から3回目の値を小さい順に並べると、「1」、「2」、「3」となり、中央の値、メディアン値は「2」となる。また、チャネル“10”では、1回目から3回目の値を小さい順に並べると、「9」、「9」、「10」となり、メディアン値は「9」となる。同様に、チャネル“2”では、1回目から3回目の値を小さい順に並べると、「0」、「0」、「100」となり、メディアン値は「0」となる。
【0061】
メディアン処理は、データを小さい順に並べたときの中央に位置する値を抽出する処理であるため、放電のような突発的なノイズを除去することが可能である。このため、平均処理よりもメディアン処理の方が、重心位置の算出において放電による誤差を低くすることができ、誤ったインターロック信号による出射停止を防止することができる。
【0062】
また、平均化処理において放電による大きな信号の影響を低減するためには平均の母数を大きくする必要があるが、メディアン処理では比較的小さな母数で突発的な誤信号を除去することが可能である。このため、実際のビーム位置の異常が発生したときの検出感度を高くすることができる。
【0063】
なお、
図11に示した例では、母数を3としているがこの数に限定されるものではない。例えば、放電等による突発ノイズの継続時間等に応じて、メディアン処理の対象とする母数を変更できるように構成するのが好ましい。
【0064】
(4)第2の実施形態(空間的メディアン処理)
前述した第1の実施形態で行う時間方向のメディアン処理は、各チャネルから時系列で出力される複数のデータに対するメディアンを求める処理である。これに対して、以下に説明する第2の実施形態で行う空間的メディアン処理は、上述した時間方向のメディアン処理に換えて、あるサンプル時刻において複数のチャネルから同時に出力される複数データに対するメディアンを求める処理である。
【0065】
図12は、第2の実施形態に係るビーム形状算出部90の細部構成例を示す図である。第1の実施形態(
図7)との相違点は、チャネルごとに個別に設けられたメディアン処理部94a、94bに換えて、複数チャネルに跨ったメディアン処理部99a、99bを設けた構成としている点である。第1の実施形態のメディアン処理部94a、94bが時間方向のメディアン処理を行うのに対して、第2の実施形態におけるメディアン処理部99a、99bは空間的メディアン処理を行う。第2の実施形態においても、データ補正処理部93a、93bにおいてオフセット補正処理を行った後、直ぐに空間的メディアン処理を行う。
【0066】
図13は、メディアン処理部99a、99bで行う空間的メディアン処理の概念を説明する図である。この空間的メディアン処理では、複数のX電極50a、Y電極50bのうち、注目する電極のチャネルを中心とする所定の大きさの窓の範囲に並列配列されている複数チャネルから出力される信号の値からメディアンを求める。より具体的には、窓内の複数チャネルから出力される信号の値を小さい順に並べ、小さい順に並べたときの中央に位置する値を前記注目するチャネルの空間的なメディアンとする処理である。したがって、チャネル方向(即ち空間方向)の窓の大きさがメディアン処理の対象となる母数の大きさになる。
【0067】
図13のTB6は、空間的メディアン処理を行うまえの各チャネルからの出力信号の値を例示している。TB6の上段は放電が無かったとしたときの信号値であり、下段は、チャネル“2”に放電があったとしたときの信号の値である。TB6の右側に示すように、放電無しの場合に算出された重心が「9.0」であるのに対して、放電があったときの重心は「3.9」となり、大きな誤差をもっている。
【0068】
図13のTB7とTB8は空間メディアン処理の具体的内容と結果を夫々示すものである。
図13の例では、窓の大きさを3として、前述した空間メディアン処理を行っている。例えば、注目チャネルを“8”とすると、チャネル“8”を中心とする窓内の3つのチャネル“7”、“8”、“9”の信号の値を小さい順に並べると、「1」、「10」、「15」となり、中央の値、メディアン値は「10」となる。したがって、注目チャネル“8”に対する空間的メディアン値は「10」となる。また、注目チャネルを“9”とすると、チャネル“9”を中心とする窓内の3つのチャネル“8”、“9”、“10”の信号の値を小さい順に並べると、「9」、「10」、「15」となり、中央の値、メディアン値は「10」となる。したがって、注目チャネル“9”に対する空間的メディアン値は「10」となる。
【0069】
同様に、注目チャネルを“2”とすると、チャネル“2”を中心とする窓内の3つのチャネル“1”、“2”、“3”の信号の値を小さい順に並べると、「0」、「0」、「100」となり、中央の値、メディアン値は「0」となる。したがって、注目チャネル“2”に対する空間的メディアン値は「0」となる。このように、空間メディアン処理前の放電電流によるチャネル“2”の異常な信号値「100」が、空間メディアン処理によって正常な信号値「0」に置き換えられる。
【0070】
粒子線ビームはある広がりをもつため、実際の粒子線ビームの通過では連続したチャネルで信号が検出される。これに対して、放電は、通常、ある1つチャネルに発生することが多い。このため、上記の空間的メディアン処理を行うことにより、放電による誤信号を除去することが可能となる。この結果、時間平均処理を行う従来の方法よりも、放電等の誤情報に基づく誤ったインターロック信号による出射停止を防止することができる。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。