(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して一実施形態に係る接着芯地1について説明する。図面の説明において、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る接着芯地1を衣料用生地2に接着させた衣料用布地を拡大して示す概略断面図である。
図1では、接着芯地1に、衣料用生地2が貼り合わされた状態を示している。
図2(A)は、
図1の接着芯地1に含まれる基布3を拡大して示した平面図、
図2(B)は、基布3における経糸群31と緯糸群35との交錯部分における経糸33と緯糸37との交錯点の浮沈関係によって形成される織組織の組織図である。
【0020】
図1に示すように、接着芯地1は、基布3と、基布3の一方の表面に固着した樹脂R1からなる下層樹脂部4と、この下層樹脂部4の表面に固着した樹脂R2からなる接着樹脂部(接着部)5と、基布3の他方の表面に形成された樹脂R3からなるドット状の目止め樹脂部7と、を備えている。
【0021】
図2(A)に示すように、基布3は、経糸群31と緯糸群35とによって製織された布帛である。経糸群31は、複数本の経糸33を一組として構成することができ、3本〜30本の範囲で設定される。また、緯糸群35は、複数本の緯糸37を一組として構成することができ、3本〜30本の範囲で設定される。
図2(A)は、3本の経糸33を一組とした経糸群31及び3本の緯糸37を一組とした緯糸群35によって構成された基布3の一例を示している。
【0022】
経糸群31及び緯糸群35を構成するための一組の本数は、5本〜30本が好ましく、5本〜24本が更に好ましく、6本〜16本がより好ましい。なお、経糸群31及び緯糸群35を構成するための一組の本数が、30本を超えるとモアレの発生頻度が上がるという傾向がある。これは、経糸と緯糸とによって製織される基布が、通常の織組織の構成に近くなるためだと考えられる。
【0023】
基布3は、捲縮糸からなる複数の経糸33を束にした経糸群31と、捲縮糸からなる複数本の緯糸37を束にした緯糸群35と、によって製織された模紗織組織39(
図2(B)参照)を有している。
図2(A)に示すように、第1実施形態の接着芯地1では、経糸群31と緯糸群35との交錯部分における経糸33と緯糸37との交錯点の浮沈関係によって形成される織組織39Aが、
図2(B)に示すように、平織組織状となっている。
【0024】
経糸群31を構成する経糸33及び緯糸群35を構成する緯糸37の番手は、例えば、7〜333dtexの番手であり、ファスナー現象を低減するという観点からは、20〜333dtexが好ましく、30〜333dtexであることがより好ましい。さらに、ファスナー現象を低減しつつ、薄手表地と組み合わせた場合の模紗織組織視認性を低減するという観点からは、経糸33及び緯糸37の番手は、20〜222dtexであることが好ましく、30〜167dtexであることがより好ましく、30〜90dtexであることがさらに好ましい。
【0025】
経糸群31を構成する経糸33及び緯糸群35を構成する緯糸37のフィラメント数は2以上が好ましい。モノフィラメントでは、モアレ防止効果が大きく落ちてしまうからである。フィラメント数の上限値は特にないが、実用上は144フィラメント程度である。
【0026】
基布3の織密度は、通常、接着芯地1に用いられる程度の密度であれば特に限定されるものではない。経糸33の織密度は、50〜150本/25.4mmに設定することができる。また、緯糸37の織密度は、20〜100本/25.4mmに設定することができる。
【0027】
基布3の経糸33及び緯糸37は、捲縮糸から構成されている。捲縮糸の例には、仮撚り加工糸が含まれる。仮撚り加工糸は、仮撚り機で加工された加工糸である。仮撚り加工糸は、捲縮加工糸の主流であり、仮撚り糸ともいう。経糸33及び緯糸37の素材の例には、合成繊維、再生繊維、及び天然繊維などが含まれる。合成繊維の例には、ポリエステル、ナイロン、ポリアクリルニトリル、ポリエチレン及びポリプロピレンなどが含まれる。再生繊維の例には、ポリノジック、レーヨン及びキュプラなどが含まれる。天然繊維の例には、綿、麻、絹及び毛などが含まれる。仮撚り糸として用いる素材の例としては、ポリエステル、ナイロンなどの合成繊維が用いられる。
【0028】
基布3の一方の表面に固着している樹脂R1からなる下層樹脂部4(以下、接着ドットということもある)は、基布3に対して樹脂R2を良好に固着させ接着樹脂部5を形成するために設けられる。樹脂R1の例には、ポリウレタン、アクリル、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、EVA系樹脂及びPVA系樹脂などが含まれる。樹脂R1の例には、熱可塑性樹脂と、熱及び紫外線で硬化する硬化性樹脂とが含まれるが、熱により架橋する熱硬化性樹脂がより好ましい。
【0029】
下層樹脂部4の表面に固着した接着樹脂部5を形成する樹脂R2は、通常ホットメルトと呼ばれる、熱により可塑化されて冷却後に接着能力を発揮する熱可塑性樹脂が用いられる。樹脂R2としては、融点が80〜140℃の熱可塑性樹脂が好ましい。樹脂R2の例には、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン及び変性エチレン酢酸ビニル共重合体などが含まれる。
【0030】
なお、樹脂R1及び樹脂R2には、必要に応じて、重合開始剤、架橋剤、顔料、染料、乾燥抑制剤、及びその他改質剤の少なくとも1つが含まれていてもよい。
【0031】
接着芯地1では、下層樹脂部4の平均粒子径(ドットの粒子径)は0.05mm以上、2.0mm以下であることが好ましい。接着芯地1の下層樹脂部4の個数割合は、1個/25.4mm以上、70個/25.4mm以下である。下層樹脂部4のドットの個数が1個/25.4mmより少ない場合には、接着芯地1の接着力が不足し剥離するおそれがある。下層樹脂部4のドットの個数が70個/25.4mmより多い場合には、接着芯地1が硬くなり、接着芯地1を衣料用生地2と貼り合わせて衣服にした場合、衣服の着用感を損ねることになる。
【0032】
基布3の他方の表面にドット状に固着している樹脂R3からなる目止め樹脂部7は、接着芯地1同士が、基布3の一方の表面に形成されている下層樹脂部4及び接着樹脂部5が引っかかるファスナー現象の発生を抑制するために設けられる。ドット状の目止め樹脂部7の直径は、80〜400μmに設定されている。
【0033】
経糸群31及び緯糸群35が5本〜30本の経糸33及び緯糸37によって構成されている場合には、基布3の他方の面に対するドット状の目止め樹脂部7の占有率を0.5%〜10%の範囲で設定することができる。占有率が10%を超えると風合いが固くなるので好ましくない。また、占有率が0.5%を下回るとファスナー現象が発生することが多くなる。
【0034】
また、経糸群31及び緯糸群35が5本〜30本の経糸33及び緯糸37によって構成されている場合には、目止め樹脂部7(以下、背面ドットということもある)のドット数を20〜50個/25.4mmと設定することができ、27〜39個/25.4mmであることが好ましい。目止め樹脂部7のドット数が50個/25.4mmを超えると、風合いが固くなり過ぎ、20個/25.4mmを下回るとピリングが発生することが多くなる。ここで、この範囲に目止め樹脂部7を設定した場合、接着力と風合いのバランスから下層樹脂部4(接着ドット)の個数割合は16〜60個/25.4mmとすることができ、16〜50個/25.4mmとすることが好ましい。
【0035】
目止め樹脂部7による目止め処理により、接着芯地1を延反する際の基布3の一方の面(ホットメルト:樹脂R2塗布部分)と基布3の他方の面との引っ掛かりによる作業性不良を解消することができる。その結果、模紗織特有の延反性不良及び/又は裁断性不良を軽減することができる。
【0036】
以上に説明した第1実施形態に係る接着芯地1では、
図2(A)に示すように、基布3が、捲縮糸からなる3本(複数本)の経糸33を束ねた経糸群31と、捲縮糸からなる3本(複数本)の緯糸37を束ねた緯糸群35とによって製織されている。すなわち、この構成の接着芯地1の基布3は、経糸群31と緯糸群35とによって模紗織されている。このため、経糸33と緯糸37とが、経糸群31と緯糸群35とに疑似化され、みかけの糸の密度が減少する。また、経糸(33)1本と緯糸(37)1本とによる交錯点はピンポイントに形成されるのに対して、経糸群31と緯糸群35とに交錯点は、幅のあるもの同士の広い範囲に形成されることになり、その位置がぼやかされる。これにより、経糸群31と緯糸群35とを用いて製織された基布3を備える接着芯地1は、表地と芯地を重ね合わせたときに生じる光の干渉によるモアレの発生を抑制できる。また、この接着芯地では、原糸段階での特殊な加工や、リップストップ組織を形成するための特殊な製織が不要であり、コストの増加につながることはない。これにより、コストを抑制しつつも、モアレの発生を抑制できる。
【0037】
また、第1実施形態に係る接着芯地1では、基布3の他方の表面に形成された樹脂R3からなるドット状の目止め樹脂部7が設けられているので、接着芯地1同士が、基布3の一方の面に形成されている樹脂R2からなる接着樹脂部5が引っかかる延反時でのファスナー現象の発生を抑制できる。これにより、経糸群31と緯糸群35とを用いて製織することにより、例えば基布3の凹凸が大きくなった場合であっても、ファスナー現象の発生を抑制できる。また、目止め樹脂部により接着布すなわち衣料品となってから発生するファスナー現象の抑制ができる為、消費段階におけるトラブルを抑制できる。
【0038】
また、第1実施形態に係る接着芯地1では、経糸群31は、3本以上30本以下の経糸33から形成され、緯糸群35は、3本以上30本以下の緯糸37から形成されているので、モアレの発生をより効果的に抑制できる。
【0039】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る接着芯地101について説明する。第2実施形態に係る接着芯地101の構成が、第1実施形態に係る接着芯地1の構成と異なるのは、経糸群31と緯糸群35との交錯部分における経糸33と緯糸37との交錯点の浮沈関係によって形成される織組織139Aの構成であり、その他の部分は同じである。ここでは、上述した異なる構成の部分のみ説明し、その他の第1実施形態の接着芯地1と同一の構成の部分については説明を省略する。
【0040】
図3(A)は、
図1の接着芯地101に含まれる基布103を拡大して示した平面図、
図3(B)は、経糸群31と緯糸群35との交錯部分における経糸33と緯糸37との交錯点の浮沈関係によって形成される織組織の組織図である。
【0041】
基布103は、捲縮糸からなる複数の経糸33を束にした経糸群31と、捲縮糸からなる複数本の緯糸37を束にした緯糸群35と、によって製織された模紗織組織139(
図3(A)参照)を有している。この点は、第1実施形態の基布3と同様である。第2実施形態の接着芯地101は、
図3(A)に示すように、経糸群31と緯糸群35との交錯部分における経糸33と緯糸37との交錯点の浮沈関係によって形成される織組織139Aが、
図3(B)に示すように、平織組織状以外の綾織組織状(非平織組織状)となっている。
【0042】
この構成の接着芯地101の基布103が、経糸群31と緯糸群35との交錯部分における経糸33と緯糸37との交錯点の浮沈関係によって形成される織組織139Aが非平織組織状に形成されていることで、経糸33及び緯糸37の交錯点の配置(格子)の規則性を乱すことができるので、より一層モアレの発生を抑制できる。
【0043】
なお、第2実施形態の接着芯地101の基布103では、経糸群31と緯糸群35との交錯部分における経糸33と緯糸37との交錯点の浮沈関係によって形成される織組織139Aが、平織組織状以外の綾織組織状(非平織組織状)となっている例を挙げて説明したが、朱子織組織などの3原組織の他、うね織及びななこ織といった変化組織、伸び斜文及び曲がり斜文といった変形斜文織、蜂の巣織及びハック織などといった特別組織で表される組織、また、これらの組織を適宜組み合わせたような組織などであってもよい。この場合であっても、経糸33及び緯糸37の交錯点の配置(格子)の規則性を乱すことができるので、より一層モアレの発生を抑制できる。非平織組織状の織組織としては、交錯点の配置の規則性の乱し易さと生産性が両立されることから、綾織、朱子織、ななこ織が好ましく、綾織又は朱子織がより好ましく、朱子織がさらに好ましい。
【0044】
(実験例1)
次に、接着芯地1(101)における基布3が経糸群31と緯糸群35とによって製織された模紗織組織39(139)を有する場合に、モアレの発生を抑制できる点について、実験例1に基づいて説明する。なお、本発明の接着芯地は、以下に示す実施例1〜3によって作成されるものに限定されるものではない。
【0045】
実験例1に用いる経糸及び緯糸として、以下の物性の経糸及び緯糸を準備した。
・ポリエステル仮撚り加工糸:17dtex12f
・生機織密度は、それぞれ経糸(79本/25.4mm)、緯糸(58本/25.4mm)となるように織り上げ、精練及び染色などを行なった後、防縮工程及びドット工程を行い、芯地密度は、それぞれ経糸(99本/25.4mm)、緯糸(69本/25.4mm)とした。
【0046】
次に、上記経糸及び緯糸を用い、以下に示す実施例1〜3及び比較例1〜5の基布を作成した。
(実施例1)
実施例1では、8本の経糸を束(引揃え本数8本)にした経糸群と8本の緯糸を束(引揃え本数8本)にした緯糸群とによって製織された模紗織組織を有する基布を作成した。このとき、経糸群と緯糸群との交錯部分における経糸と緯糸との交錯点の浮沈関係によって形成される織組織(模紗組織A)が、平織組織状(
図2(B)参照)となるようにした。次に、基布の一方の表面に、接着樹脂部となる直径100μmの接着ドットを30個/25.4mmの密度で配置して接着芯地を作成した。なお、接着ドットの占有率は1.0%である。
【0047】
(実施例2)
実施例2では、経糸群と緯糸群との交錯部分における経糸と緯糸との交錯点の浮沈関係によって形成される織組織(模紗組織B)が、綾織組織状(
図3(B)参照)となるようにした点以外、実施例1と同様の方法で接着芯地を作成した。
【0048】
(実施例3)
実施例3では、経糸群と緯糸群との交錯部分における経糸と緯糸との交錯点の浮沈関係によって形成される織組織(模紗組織C)が、朱子織組織状(
図4参照)となるようにした点以外、実施例1と同様の方法で接着芯地を作成した。
図4は、基布における経糸群と緯糸群との交錯部分における経糸と緯糸との交錯点の浮沈関係によって形成される織組織によって形成される織組織の組織図である。
【0049】
(比較例1)
比較例1では、経糸と緯糸とによって製織された織組織が平織組織となるように基布を作成した。次に、この基布の一方の表面に、接着樹脂部となる直径100μmの接着ドットを30個/25.4mmの密度で配置して接着芯地を作成した。なお、接着ドットの占有率は1.0%である。
【0050】
(比較例2)
比較例2では、経糸と緯糸とによって製織された織組織が綾織組織となるように基布を作成した点以外、比較例1と同様の方法で接着芯地を作成した。
(比較例3)
比較例3では、経糸と緯糸とによって製織された織組織が朱子織組織となるように基布を作成した点以外、比較例1と同様の方法で接着芯地を作成した。
【0051】
(比較例4)
比較例4では、経糸と緯糸とによって製織された織組織が梨地織組織となるように基布を作成した点以外、比較例1と同様の方法で接着芯地を作成した。
(比較例5)
比較例5では、経糸と緯糸とによって製織された織組織がリップストップ組織を有するように基布を作成した点以外、比較例1と同様の方法で接着芯地を作成した。なお、リップストップ組織内部の織組織は平織とした。
【0052】
実施例1〜3及び比較例1〜5として作成されたそれぞれの接着芯地について、衣料用生地となる表生地(モアレが発生しやすいサテン、シフォン、ジョーゼット及び高密度タフタなど)を貼り合わせて、表生地側からモアレの発生状況を目視にて確認した。このようにして目視にて確認した結果を
図5の図表に示す。
図5における「◎」、「○」、「△」、「×」に該当する評価の内容は以下のとおりである。
◎:表生地でモアレが確認されなかった
○:9割以上の表生地でモアレが確認されなかった
△:6割以上〜9割未満の表生地でモアレが確認されなかった
×:4割以上の表生地でモアレが確認された
【0053】
上記実施例1〜3及び上記比較例1〜5における接着芯地の評価結果により、経糸群と緯糸群とによって製織された模紗織組織を有している基布を備える接着芯地が表生地に貼付されることにより、モアレの発生を抑制することが可能であることが確認できた。また、
図5に示す実施例2と実施例3とは、モアレの発生状況の評価は「◎」で同じであるが、朱子織状の模紗組織Cを有する接着芯地の方が、綾織状の模紗組織Bを有する接着芯地よりもモアレの発生をより抑制できていることが確認できた。
【0054】
なお、経糸と緯糸とが梨地織組織を備える比較例4の接着芯地と、経糸と緯糸とがリップストップ組織を備える比較例4の接着芯地とは、モアレの発生を比較的抑制できていることが分かったが、接着芯地が備える両基布とも特殊な製織が必要となるので、コストが高くなる傾向がある。梨地織組織を備える比較例4の接着芯地の場合は、糸の交点が非常に少ないことから、精練及び染色時においてメヨレ及びピリングなどの欠点が生じやすく、商業上利用できるレベルのものが製造できないという問題がある。リップストップ組織を用いる場合には、リップストップ部の糸番手のみを太くしたりするため部分的に生地に凸部ができる。この生地を加圧すると、凸部のみに圧力がかかり、凹部には圧力がかからない。このため、芯地製造時には凹部にドットが転写しない、又は、芯地使用時には凹部に圧力がかかりにくい為、実用上必要な接着力が得られにくいなど実用上の問題が発生した。なお、模紗織組織は、凸部が過半を占めるため、上述したような問題が発生しなかった。
【0055】
また、上記実施例1〜3における接着芯地の評価結果により、接着芯地の基布が、経糸群と緯糸群との交錯部分における経糸と緯糸との交錯点の浮沈関係によって形成される織組織が非平織組織状に形成されている(実施例2及び3)場合には、平織組織状に形成されている(実施例1)場合と比べ、より一層モアレの発生を抑制できることが確認できた。
【0056】
(実験例2)
次に、基布が接着芯地における基布が経糸群と緯糸群とによって製織された模紗織組織を有すると共に、基布において接着樹脂部となる接着ドットが配置される面とは反対側の面に、樹脂からなるドット状の目止め部が形成されることにより、モアレの発生を抑制できると共に、ファスナー現象の発生を抑制できる点について、実験例2に基づいて説明する。なお、本発明の接着芯地は、以下に示す実施例11〜14によって作成されるものに限定されるものではない。
【0057】
(実施例11)
実施例11では、8本の経糸を束にした経糸群と8本の緯糸を束にした緯糸群とによって製織された模紗織組織を有する基布を作成した。このとき、経糸群と緯糸群との交錯部分における経糸と緯糸との交錯点の浮沈関係(緯糸が浮となる場合をP201、経糸が浮となる場合をP202とする)によって形成される織組織(模紗組織C)が、朱子織組織状(
図4参照)となるようにした。次に、基布の一方の表面に、接着樹脂部となる直径100μmの接着ドットを30個/25.4mmの密度で配置して接着芯地を作成した。なお、接着ドットの占有率は1.0%である。
【0058】
(実施例12)
実施例12では、接着樹脂部となる接着ドットが設けられる表面とは反対側の面(他方の面)に、目止め樹脂部となる直径100μmの背面ドットを5個/25.4mmの密度で配置して接着芯地を作成した点以外、実施例11と同様の方法で接着芯地を作成した。なお、背面ドットの占有率は0.1%である。
【0059】
(実施例13)
実施例13では、接着樹脂部となる接着ドットが設けられる表面とは反対側の面(他方の面)に、目止め樹脂部となる直径100μmの背面ドットを30個/25.4mmの密度で配置して接着芯地を作成した点以外、実施例11と同様の方法で接着芯地を作成した。なお、背面ドットの占有率は1.0%である。
【0060】
(実施例14)
実施例14では、接着樹脂部となる接着ドットが設けられる表面とは反対側の面(他方の面)に、目止め樹脂部となる直径100μmの背面ドットを50個/25.4mmの密度で配置して接着芯地を作成した点以外、実施例11と同様の方法で接着芯地を作成した。なお、背面ドットの占有率は3.0%である。
【0061】
(実施例15)
実施例15では、経糸及び緯糸の繊度(番手)を22dtex24fとした点以外、実施例11と同様の方法で接着芯地を作成した。
(実施例16)
実施例16では、経糸及び緯糸の繊度を33dtex12fとした点以外、実施例11と同様の方法で接着芯地を作成した。
【0062】
(実施例17)
実施例17では、経糸及び緯糸の繊度を83dtex36fとした点以外、実施例11と同様の方法で接着芯地を作成した。
(実施例18)
実施例18では、経糸及び緯糸の繊度を167dtex48fとした点以外、実施例11と同様の方法で接着芯地を作成した。
【0063】
実施例11〜18として作成されたそれぞれの接着芯地について、衣料用生地となる表生地(モアレが発生しやすいサテン、シフォン、ジョーゼット及び高密度タフタなど)を貼り合わせて、表生地側からモアレの発生状況を確認すると共に、ファスナー現象の発生状況を自動延反機での延反性及び作業性を目視にて確認した。このようにして目視にて確認した結果を
図6の図表に示す。
図6におけるモアレの発生状況を示す「◎」、「○」、「△」、「×」に該当する評価の内容は実験例1と同様である。
図6におけるファスナー現象の発生状況を示す「○」、「△」、「×」に該当する評価の内容は以下のとおりである。
○:ファスナー現象の発生が確認されなかった
△:ファスナー現象が僅かに発生したが、延反時に生地の修正などが不要な程度の軽微なレベルであった
×:ファスナー現象が発生し、延反時に生地の修正などが必要であった
【0064】
また、上記実施例11〜18における接着芯地の評価結果によれば、接着樹脂部となる接着ドットが設けられる表面とは反対側の面(他方の面)に、目止め樹脂部となる背面ドットが設けられることにより、ファスナー現象の発生を抑制できることが確認できた。また、目止め樹脂部となる背面ドットを適度に設けることにより、より効果的にファスナー現象の発生を抑制できることが確認できた。
【0065】
さらに、
図6に示されるように番手が太くなるにつれてファスナー現象が改善される傾向がみられた。ただし、番手が222dtexを超えると、薄手表地と貼り合せた場合に、模紗組織が見える場合があることが確認された。
【0066】
(実験例3)
次に、経糸群及び緯糸群における適度な引き揃え本数が、モアレの発生をより一層抑制することができる点について、実験例3に基づいて説明する。なお、本発明の接着芯地は、以下に示す実施例21〜26によって作成されるものに限定されない。
【0067】
(実施例21)
実施例21では、3本の経糸を束にした経糸群と3本の緯糸を束にした緯糸群とによって製織された模紗織組織を有する基布を作成した。このとき、経糸群と緯糸群との交錯部分における経糸と緯糸との交錯点の浮沈関係によって形成される織組織(模紗組織C)が、朱子織組織状(
図4参照)となるようにした。次に、基布の一方の表面に、接着樹脂部となる直径100μmの接着ドットを30個/25.4mmの密度で配置して接着芯地を作成した。なお、接着ドットの占有率は1.0%である。
(実施例22)
実施例22では、経糸及び緯糸の引き揃え本数を5本とした点以外、実施例21と同様の方法で接着芯地を作成した。
【0068】
(実施例23)
実施例23では、経糸及び緯糸の引き揃え本数を8本とした点以外、実施例21と同様の方法で接着芯地を作成した。
(実施例24)
実施例24では、経糸及び緯糸の引き揃え本数を16本とした点以外、実施例21と同様の方法で接着芯地を作成した。
【0069】
(実施例25)
実施例25では、経糸及び緯糸の引き揃え本数を24本とした点以外、実施例21と同様の方法で接着芯地を作成した。
(実施例26)
実施例26では、経糸及び緯糸の引き揃え本数を32本とした点以外、実施例21と同様の方法で接着芯地を作成した。
【0070】
実施例21〜26として作成されたそれぞれの接着芯地について、衣料用生地となる表生地(モアレが発生しやすいサテン、シフォン、ジョーゼット及び高密度タフタなど)を貼り合わせて、表生地側からモアレの発生状況を確認した。このようにして目視にて確認した結果を
図7の図表に示す。
図7におけるモアレの発生状況を示す「◎」、「○」、「△」、「×」に該当する評価の内容は実験例1と同様である。
【0071】
以上、第1及び第2実施形態及び実験例1〜3について説明したが、本発明は、上記実施形態及び実験例に限られるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0072】
上記実施形態及び実験例におけるそれぞれの接着芯地では、基布の経糸群及び緯糸群を構成する経糸及び緯糸の本数(引揃え本数)をそれぞれ3〜32本とする例を挙げて説明したが本発明はこれに限定されるものではなく、複数本の経糸及び緯糸からそれぞれ構成されればよい。
【0073】
上記実施形態及び実験例におけるそれぞれの接着芯地では、経糸及び緯糸の両方を捲縮糸とする例を挙げて説明したが本発明はこれに限定されるものではない。例えば、経糸及び緯糸を捲縮糸以外の延伸糸、短繊維からなる紡績糸などとしてもよい。また、経糸及び緯糸の少なくとも一方を捲縮糸としてもよく、織物の配列が糸の捲縮により乱されるので、より一層モアレの発生を抑制することができる。
【0074】
上記実施形態においては、接着芯地1の一方の面に形成されている衣料用生地2への接着部分が、樹脂R1からなる下層樹脂部4と樹脂R2からなる接着樹脂部5との2層に構成された例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、樹脂R2からなる接着樹脂部5のみの単層に構成されていてもよい。