特許第5904301号(P5904301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5904301
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/12 20060101AFI20160331BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20160331BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   C08L71/12
   C08J5/18CEW
   C08J5/18CEZ
   C08L27/12
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-142366(P2015-142366)
(22)【出願日】2015年7月16日
(65)【公開番号】特開2016-29164(P2016-29164A)
(43)【公開日】2016年3月3日
【審査請求日】2015年7月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-148074(P2014-148074)
(32)【優先日】2014年7月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仲西 幸二
(72)【発明者】
【氏名】上田 有希
(72)【発明者】
【氏名】増田 晴久
(72)【発明者】
【氏名】酒見 和樹
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−274073(JP,A)
【文献】 特開2005−307090(JP,A)
【文献】 特開平03−151220(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/088964(WO,A1)
【文献】 特開2007−043597(JP,A)
【文献】 特開平01−149699(JP,A)
【文献】 特開2010−268033(JP,A)
【文献】 特開2012−158682(JP,A)
【文献】 特開昭61−055674(JP,A)
【文献】 特開2008−266428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08J 5/00−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)及びフッ素樹脂(II)を含むフィルムであって、
芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の結晶化度が15%以上である
ことを特徴とするフィルム。
【請求項2】
フッ素樹脂(II)は、テトラフルオロエチレン及び下記一般式(1):
CF=CF−Rf (1)
(式中、Rfは、−CF又は−ORfを表す。Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の共重合体である請求項1記載のフィルム。
【請求項3】
芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)とフッ素樹脂(II)との質量比(I):(II)が40:60〜99:1である請求項1又は2記載のフィルム。
【請求項4】
フッ素樹脂(II)が芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)中に粒子状に分散している請求項1、2又は3記載のフィルム。
【請求項5】
芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)中でのフッ素樹脂(II)の平均分散粒子径が、3.0μm以下である請求項4記載のフィルム。
【請求項6】
芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)とフッ素樹脂(II)との溶融粘度比(I)/(II)が0.01〜5.0である請求項1、2、3、4又は5記載のフィルム。
【請求項7】
フッ素樹脂(II)は、メルトフローレートが0.1〜100g/10分である請求項1、2、3、4、5又は6記載のフィルム。
【請求項8】
芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)は、ポリエーテルエーテルケトンである請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のフィルム。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載のフィルムを含むスピーカー用振動板。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載のフィルムを含むスラストワッシャー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリエーテルケトン樹脂のようなエンジニアリングプラスチックは、高い耐熱性や、高度の機械的強度や寸法安定性を備えている熱可塑性樹脂であるため、種々の用途に使用されている。
【0003】
一方、フッ素樹脂は、摺動性、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、耐候性、柔軟性、電気的性質等の特性に優れ、自動車、産業機械、OA機器、電気電子機器等の幅広い分野で使用されている。しかしながら、結晶性の耐熱性熱可塑性樹脂に比べ、機械的特性や荷重たわみ温度で示されるような物理的な耐熱性に劣る場合が多く、また非晶性の耐熱性熱可塑性樹脂に比べて寸法安定性に劣っている場合があり、使用範囲が限定されているのが実情である。
【0004】
このような状況下、熱可塑性樹脂とフッ素樹脂とを併用する技術が検討されている。例えば、特許文献1では、低い動摩擦係数及び高い限界PV値を兼ね備えた成形品を得ることを目的として、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)及びフッ素樹脂(II)を含む樹脂組成物であって、フッ素樹脂(II)がテトラフルオロエチレン及び特定のパーフルオロエチレン性不飽和化合物の共重合体であり、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)とフッ素樹脂(II)との質量比(I)/(II)が95:5〜50:50であり、溶融粘度比(I)/(II)が0.3〜5.0であり、フッ素樹脂(II)が芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)中に粒子状に分散しており、フッ素樹脂(II)の平均分散粒子径が3.0μm未満であることを特徴とする樹脂組成物が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、導体(A)と、導体(A)の外周に形成される絶縁層(B)とを有する絶縁電線であって、絶縁層(B)が芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)及びフッ素樹脂(II)を含む樹脂組成物から形成され、フッ素樹脂(II)がテトラフルオロエチレン及び特定のパーフルオロエチレン性不飽和化合物の共重合体であり、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)とフッ素樹脂(II)との溶融粘度比(I)/(II)が0.3〜5.0であることを特徴とする絶縁電線が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/088964号
【特許文献2】国際公開第2013/088968号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)及びフッ素樹脂(II)を含む樹脂組成物から形成される従来のフィルムは耐摩耗性が十分とはいえなかった。また、スピーカー振動用フィルム等に要求される機械的強度が充分なものではなく、優れた機械的強度と耐磨耗性とを併せ持つフィルムは得られていなかった。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、機械的強度及び耐磨耗性に優れるフィルムを提供することを目的とする。また、音響特性に優れたスピーカー用振動板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは優れた機械的強度及び耐磨耗性を併せ持つフィルムについて鋭意検討した結果、従来の技術では何ら検討されていなかった芳香族ポリエーテルケトン樹脂の結晶化度に着目した。そして、特定範囲の結晶化度を有する芳香族ポリエーテルケトン樹脂とフッ素樹脂を含むことによって、フィルムの機械的強度が飛躍的に向上し、更に、優れた耐磨耗性をも付与することができることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)及びフッ素樹脂(II)を含むフィルムであって、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の結晶化度が10%以上であることを特徴とするフィルムである。
【0011】
フッ素樹脂(II)は、テトラフルオロエチレン及び下記一般式(1):
CF=CF−Rf (1)
(式中、Rfは、−CF又は−ORfを表す。Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の共重合体であることが好ましい。
【0012】
本発明のフィルムは、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)とフッ素樹脂(II)との質量比(I):(II)が40:60〜99:1であることが好ましい。
【0013】
本発明のフィルムは、フッ素樹脂(II)が芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)中に粒子状に分散しているものであることが好ましい。
【0014】
本発明のフィルムは、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)中でのフッ素樹脂(II)の平均分散粒子径が、3.0μm以下であることが好ましい。
【0015】
本発明のフィルムは、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)とフッ素樹脂(II)との溶融粘度比(I)/(II)が0.01〜5.0であることが好ましい。
【0016】
上記フッ素樹脂(II)は、メルトフローレートが0.1〜100g/10分であることが好ましい。
【0017】
上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)は、ポリエーテルエーテルケトンであることが好ましい。
【0018】
本発明は、上記フィルムを含むスピーカー用振動板でもある。
【0019】
本発明はまた、上記フィルムを含むスラストワッシャーでもある。
【発明の効果】
【0020】
本発明のフィルムは、上記構成を有することによって、機械的強度及び耐磨耗性に優れる。また、本発明のスピーカー用振動板は、音響特性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のフィルムは、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)及びフッ素樹脂(II)を含むフィルムであって、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の結晶化度が10%以上である。
本発明のフィルムは、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の結晶化度が10%以上であることによって、機械的強度及び耐磨耗性が著しく向上する。
本発明のフィルムは、更に、優れた機械的強度及び耐磨耗性を有するにも関わらず、優れた伸び特性をも有している。
以下に本発明を詳述する。
【0022】
本発明のフィルムは、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)及びフッ素樹脂(II)を含む。
【0023】
上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の結晶化度は、10%以上である。芳香族ポリエーテルケトン樹脂の結晶化度を10%以上にすることによって、フィルムの機械的強度が飛躍的に向上し、更に、優れた耐磨耗性をも兼ね備えるフィルムとなる。機械的強度及び耐磨耗性をより向上させることができることから、上記結晶化度は、12%以上であることが好ましく、13%以上であることがより好ましく、15%以上であることが更に好ましく、17%以上であることが特に好ましく、19%以上が殊更に好ましい。
また、フィルムの伸び特性が優れることから、上記結晶化度は、30%以下であることが好ましい。より好ましくは、25%以下である。
なお、上記結晶化度は、フィルム中の芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の結晶化度であり、原料の芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の結晶化度を意味するものではない。
上記結晶化度は、X線回折装置を用い、走査角5〜40度の範囲で広角X線回折を測定し、下記式により求めることができる。
結晶化度(%)=100×(芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の結晶に由来するピーク面積)/(全体のピーク面積)
より具体的には、RIGAKU社製UltimaIII X線回折装置を用い、出力40kV−40mA、走査角5〜40度の範囲で広角X線回折を測定し、解析ソフト RIGAKU社製 JADE6.0を用いて、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の結晶に由来するピーク面積及び全体のピーク面積を算出し、上記式から結晶化度を算出することができる。
上記全体のピーク面積は、走査角5〜40度の範囲で測定した全回折強度を積算した面積(但し、フッ素樹脂(II)の結晶に由来するピーク面積は除く)である。
フッ素樹脂(II)の結晶に由来するピーク面積は、例えば、2θ=17.7度付近に観察されるピークの面積である。
芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の結晶に由来するピーク面積は、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の結晶に由来するピークの面積を合計した面積である。
芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の結晶に由来するピークは、その種類によって異なるが、例えば、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)がポリエーテルエーテルケトン(PEEK)である場合、PEEKの結晶に由来するピーク面積は、2θ=18.7度、20.4度、22.3度及び28.6度付近に観察されるピークの面積の合計である。2θ=18.7度付近に観察されるピークは(110)面に由来するピークであり、2θ=20.4度付近に観察されるピークは(111)面に由来するピークであり、2θ=22.3度付近に観察されるピークは(200)面に由来するピークであり、2θ=28.6度付近に観察されるピークは(211)面に由来するピークであると推測される。
【0024】
また、本発明のフィルムは、フッ素樹脂(II)の結晶化度が30〜35%であることが好ましい。フッ素樹脂(II)の結晶化度が上記範囲であると、本発明のフィルムは機械的強度、耐磨耗性及び伸び特性に優れる。フッ素樹脂(II)の結晶化度は、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)と同様の方法で、フッ素樹脂(II)の結晶に由来するピーク面積及び全体のピーク面積を算出し、下記式により求めることができる。
結晶化度(%)=100×(フッ素樹脂(II)の結晶に由来するピーク面積)/(全体のピーク面積)
上記全体のピーク面積は、走査角5〜40度の範囲で測定した強度を積算したもの(但し、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の結晶に由来するピーク面積は除く)である。
フッ素樹脂(II)の結晶に由来するピーク面積は、フッ素樹脂(II)の結晶に由来するピークの面積を合計したものである。
【0025】
上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)としては、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン及びポリエーテルケトンエーテルケトンケトンからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であることが好ましく、ポリエーテルケトン及びポリエーテルエーテルケトンからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であることがより好ましく、ポリエーテルエーテルケトンであることが更に好ましい。
【0026】
上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)は、60sec−1、390℃における溶融粘度が0.25〜1.50kNsm−2であることが好ましい。溶融粘度が上記範囲であることにより、加工特性が向上し、更に、優れた機械的強度及び耐磨耗性を有するフィルムが得られる。溶融粘度のより好ましい下限は0.80kNsm−2である。溶融粘度のより好ましい上限は1.30kNsm−2である。
上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の溶融粘度は、ASTM D3835に準拠して測定する。
【0027】
上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)は、ガラス転移温度が130℃以上であることが好ましい。より好ましくは、135℃以上であり、更に好ましくは、140℃以上である。上記範囲のガラス転移温度であることによって、耐熱性に優れたフィルムを得ることができる。上記ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)装置によって測定される。
【0028】
上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)は、融点が300℃以上であることが好ましい。より好ましくは、320℃以上である。上記範囲の融点であることによって、フィルムの耐熱性を向上させることができる。上記融点は、示差走査熱量測定(DSC)装置によって測定される。
【0029】
上記フッ素樹脂(II)としては、溶融加工性のフッ素樹脂であることが好ましく、テトラフルオロエチレン/パーフルオロエチレン性不飽和化合物共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニルからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0030】
上記パーフルオロエチレン性不飽和化合物は、下記の一般式(1):
CF=CF−Rf (1)
(式中、Rfは、−CF又は−ORfを表す。Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表される化合物である。
【0031】
上記フッ素樹脂(II)は、テトラフルオロエチレン(TFE)及び下記の一般式(1):
CF=CF−Rf (1)
(式中、Rfは、−CF又は−ORfを表す。Rfは、炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の共重合体であることが更に好ましい。フッ素樹脂(II)としては、1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。上記Rfが、−ORfである場合、上記Rfは炭素数が1〜3のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
上記フッ素樹脂(II)を用いることによって、優れた機械的強度及び耐磨耗性を有するフィルムを得ることができる。
例えば、非溶融加工性のポリテトラフルオロエチレンを用いた場合には、フィルムの機械的強度が低く、また、充分に低い磨耗特性を有するフィルムを得ることができないおそれがある。
【0032】
一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物としては、より優れた機械的強度及び耐磨耗性を有するフィルムを得ることができることから、ヘキサフルオロプロピレン、及び、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種であり、更に好ましくは、ヘキサフルオロプロピレン及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種である。特に好ましくは、ヘキサフルオロプロピレンである。
【0033】
上記フッ素樹脂(II)は、80〜99.5モル%のTFE及び0.5〜20モル%の上記一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物から構成されることが好ましい。上記フッ素樹脂(II)を構成するTFEの含有量の下限は、85モル%がより好ましく、87モル%が更に好ましく、90モル%が特に好ましく、93モル%が殊更に好ましい。上記フッ素樹脂(II)を構成するTFEの含有量の上限は、97モル%がより好ましく、95モル%が更に好ましい。
また、上記フッ素樹脂(II)を構成する上記一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の含有量の下限は、1モル%がより好ましく、1.5モル%が更に好ましく、4モル%が特に好ましい。上記フッ素樹脂(II)を構成する上記一般式(1)で表されるパーフルオロエチレン性不飽和化合物の含有量の上限は、15モル%がより好ましく、13モル%が更に好ましく、10モル%が特に好ましい。
【0034】
フッ素樹脂(II)としては、より優れた機械的強度及び耐磨耗性を有するフィルムが得られることからパーフルオロポリマーであることが好ましい。フッ素樹脂(II)は、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。さらにテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
フッ素樹脂(II)としては、また、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/単量体α共重合体であって、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/単量体αのモル比が80〜98.5/1.5〜20/0〜0.9である共重合体も好ましい。フッ素樹脂(II)が上記共重合体であると、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)中にフッ素樹脂(II)を微小粒子状に分散させることが容易であり、従って、フィルムの成形性、並びに、機械的強度及び耐磨耗性をより一層向上させることができる。上記共重合体は、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)を1モル%以上含むテトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体と比べても、これらの効果を奏する点で優れている。単量体αは、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンと共重合可能な単量体である。単量体αとしては、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)が挙げられる。
【0035】
上記フッ素樹脂(II)は、60sec−1、390℃における溶融粘度が0.3〜3.0kNsm−2であることが好ましい。溶融粘度が上記範囲であることにより、加工特性が向上するとともに、より優れた機械的強度及び耐磨耗性を有するフィルムを得ることができる。溶融粘度のより好ましい下限は、0.4kNsm−2である。溶融粘度のより好ましい上限は2.5kNsm−2であり、更に好ましくは2.0kNsm−2である。
上記フッ素樹脂(II)の溶融粘度は、ASTM D3835に準拠して測定する。
【0036】
上記フッ素樹脂(II)は、372℃、5000g荷重の条件下で測定したメルトフローレート(MFR)が0.1〜100g/10分であることが好ましく、5〜40g/10分であることがより好ましく、10〜40g/10分であることが更に好ましい。MFRが上記範囲であることにより、本発明のフィルムの動摩擦係数を低くすることができるとともに、機械的強度及び耐磨耗性をも向上させることができる。MFRの殊更に好ましい下限は12g/10分であり、特に好ましい下限は15g/10分である。動摩擦係数の低減、機械的強度及び耐磨耗性向上の観点から、MFRの殊更に好ましい上限は38g/10分であり、特に好ましい上限は35g/10分である。
上記フッ素樹脂(II)のMFRは、ASTM D3307−01に準拠し、メルトインデクサーを用いて測定する。
【0037】
上記フッ素樹脂(II)の融点は特に限定されないが、成形する際に用いる芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)が溶融する温度で既にフッ素樹脂(II)が溶融していることが成形において好ましいため、上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の融点以下の温度であることが好ましい。例えば、フッ素樹脂(II)の融点は、230〜350℃であることが好ましい。フッ素樹脂(II)の融点は、示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めたものである。
【0038】
上記フッ素樹脂(II)は、公知の方法によりフッ素ガス処理したものであってもよいし、アンモニア処理したものであってもよい。
【0039】
機械的強度及び耐磨耗性をより向上させることができることから、本発明のフィルムは、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)とフッ素樹脂(II)との溶融粘度比(I)/(II)(芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)/フッ素樹脂(II))が0.01〜5.0であることが好ましい。溶融粘度比(I)/(II)は、0.1〜4.0であることがより好ましく、0.3〜3.0であることが更に好ましく、0.5〜2.5であることが特に好ましい。
【0040】
本発明のフィルムは、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)とフッ素樹脂(II)との質量比(I):(II)が40:60〜99:1であることが好ましい。フッ素樹脂(II)の含有量が芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)との質量比で60を超えると、強度が劣る傾向があり、1未満であると耐磨耗性が低下するおそれがある。より好ましい範囲は、50:50〜95:5であり、さらに好ましい範囲は、60:40〜90:10である。
【0041】
本発明のフィルムは、フッ素樹脂(II)が芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)中に粒子状に分散しているものであることが好ましい。このようにフッ素樹脂(II)が粒子状に分散していることによって、フィルムの機械的強度及び耐磨耗性が優れたものとなる。
【0042】
本発明のフィルムは、フッ素樹脂(II)の平均分散粒子径が3.0μm以下であることが好ましい。平均分散粒子径が3.0μm以下であることによって、成形性に優れ、更に、より優れた機械的強度及び耐磨耗性を有するフィルムとなる。平均分散粒子径が大きすぎると充分な機械的強度及び耐磨耗性が得られないおそれがある。
より優れた機械的強度及び耐磨耗性を有するフィルムを得ることができるとともに、成形性が優れたものとなることから、フッ素樹脂(II)の平均分散粒子径は2.0μm以下であることがより好ましく、1.0μm以下であることが更に好ましく、0.3μm以下であることが特に好ましい。
平均分散粒子径の下限は特に限定されないが0.01μmであってよい。
【0043】
本発明のフィルムは、フッ素樹脂(II)の最大分散粒子径が10μm以下であることが好ましい。最大分散粒子径が10μm以下であると、機械的強度及び耐磨耗性が向上する。
成形性がより優れたものとなり、機械的強度及び耐磨耗性が向上することから、フッ素樹脂(II)の最大分散粒子径は5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが更に好ましく、0.5μm以下であることが特に好ましい。
【0044】
フッ素樹脂(II)の平均分散粒子径及び最大分散粒子径は、本発明のフィルムを共焦点レーザー顕微鏡にて顕微鏡観察を行ったり、本発明のフィルムから作製されるプレスシートから超薄切片を切り出し、当該超薄切片を透過型電子顕微鏡(TEM)にて顕微鏡観察を行ったりして、得られた画像を光学解析装置にて二値化処理することにより求めることができる。
【0045】
本発明のフィルムは、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)及びフッ素樹脂(II)を含むものであるが、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては特に限定されないが、チタン酸カリウム等のウィスカ、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、セラミック繊維、チタン酸カリウム繊維、アラミド繊維、その他の高強度繊維等の繊維状の強化材;炭酸カルシウム、タルク、マイカ、クレイ、カーボン粉末、グラファイト、ガラスビーズ等の無機充填材;着色剤;難燃剤等通常使用される無機又は有機の充填材;ミネラル、フレーク等の安定剤;シリコーンオイル、二硫化モリブデン等の潤滑剤;顔料;カーボンブラック等の導電剤;ゴム等の耐衝撃性向上剤;その他の添加剤等を用いることができる。
【0046】
本発明のフィルムは、例えば、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)とフッ素樹脂(II)とを含む樹脂組成物を成形してフィルムを得る成形工程、を含む製造方法により製造することができる。
【0047】
上記樹脂組成物は、成形用組成物を調製するために通常用いられる配合ミル、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機等の混合機を用いて、通常の条件により製造することができる。フッ素樹脂(II)の平均分散粒子径を小さくすることができることから、混合機としては二軸押出機が好ましく、二軸押出機のスクリュウ構成はL/D=35以上が好ましく、更に好ましくはL/D=40以上であり、特に好ましくはL/D=45以上である。なお、L/Dは、スクリューの有効長さ(L)/スクリュー直径(D)である。
上記のことから、上記樹脂組成物は、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)及びフッ素樹脂(II)を、L/Dが35以上であるスクリュウ構成の二軸押出機で混合することにより得られるものであることが好ましい。
【0048】
上記樹脂組成物を製造する方法としては、例えば、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)及びフッ素樹脂(II)を、溶融状態で混合する方法が挙げられる。
芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)とフッ素樹脂(II)とを充分に混練することによって、所望の分散状態を有する樹脂組成物を得ることができる。分散状態はフィルムの機械的強度及び耐磨耗性、並びに、成形性に影響を与えるので、樹脂組成物から得られるフィルムにおいて所望の分散状態が得られるように、混練方法の選択は適切に行われるべきである。
【0049】
上記樹脂組成物を製造する方法としては、例えば、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)及びフッ素樹脂(II)を適切な割合で混合機に投入し、所望により上記他の成分を添加し、樹脂(I)及び(II)の融点以上で溶融混練することにより製造する方法等が挙げられる。
上記他の成分は、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)及びフッ素樹脂(II)に予め添加して混合しておいてもよいし、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)及びフッ素樹脂(II)を配合するときに添加してもよい。
【0050】
上記溶融混練時の温度としては、用いる芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)、フッ素樹脂(II)の種類等によって適宜設定すればよいが、例えば、340〜400℃であることが好ましい。混練時間としては、通常、1分〜30分である。
【0051】
上記成形工程において、樹脂組成物を成形する温度は340℃以上であることが好ましい。また、成形温度は、上記フッ素樹脂(II)の分解温度と上記芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の分解温度のうち低い方の温度未満の温度であることが好ましい。このような成形温度としては、例えば340〜400℃であることが好ましく、360〜400℃がより好ましい。
上記成形工程は、340℃以上の温度で樹脂組成物を成形した後、成形されたフィルムを冷却するものであることが好ましい。上記冷却は、例えば、150℃未満の温度まで行ってよい。
【0052】
上記樹脂組成物を成形する方法としては、目的とするフィルムの種類、用途、形状などに応じて、溶融押出成形、カレンダー成形、プレス成形、流延成形等が挙げられる。均一な薄膜が得られる観点からは、溶融押出成形が好ましい。
【0053】
溶融押出成形は例えば、Tダイフィルム成形機を使用して、上記樹脂組成物を溶融させ、ダイから溶融したフィルムを吐出、その後、冷却ロールにて巻き取ることによって行うことができる。Tダイフィルム成形機のシリンダー温度は、上記樹脂組成物が溶融する範囲で設定できるが、例えば340〜400℃で成形することができる。また、冷却ロールの設定温度は任意に設定することができるが、150〜270℃の範囲が好ましく、180〜220℃の範囲がより好ましい。冷却ロールの設定温度が150℃未満、または270℃を超える時は、当該樹脂組成物のフィルムにおける結晶化度が上がらない場合がある。ダイから吐出された溶融したフィルムが冷却ロールと接触する時間は、例えば、1〜30秒の範囲で調整することができる。
【0054】
上記製造方法は、フィルムを更に結晶化させる目的で、成形して得られたフィルムに加熱処理(アニール処理)を施す工程を含むことも好ましい。当該加熱処理は、例えば、上記フィルムを金型の中に設置し、金型全体をオーブン等に入れ、加熱することによって行うことができる。加熱温度は、結晶化を進めるため、150〜270℃の範囲が好ましく、180〜220℃の範囲がより好ましい。また、加熱時間は、例えば0.05〜100時間とすることができる。
上記のような条件でフィルム成形、場合によっては更に加熱処理を施すことによって、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(I)の結晶度が10%以上のフィルムを製造することができる。
【0055】
本発明のフィルムの厚みは、目的とする用途等により適宜設定すればよいが、通常、0.001〜1mmである。取扱いのしやすさの観点から、フィルムの厚みは、0.01mm以上であることが好ましく、0.05mm以上であることがより好ましい。また、0.7mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。
【0056】
本発明のフィルムは、優れた機械的強度及び耐磨耗性を有すると共に、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、強度、剛性、薬品低透過性、寸法安定性、難燃性、電気特性及び耐久性にも優れるため、種々の用途に利用可能である。例えば、スピーカーの振動板用フィルムや、スラストワッシャー、コネクター、プリント基板、電線のラッピングフィルム、断熱材バッグ、絶縁テープ、RFIDカバー、バッテリー保護フィルム、スペーサー用フィルム、ベアリング、メンブレンスイッチ、離形フィルム等に好適に使用できる。特に、スピーカーの振動板用フィルム、スラストワッシャー用のフィルム等として好適である。
【0057】
本発明のスピーカー用振動板は、上記フィルムを含むものである。従来のスピーカー用振動板は破れやすく、機械的強度の向上が求められていた。しかしながら、音響特性に優れ、かつ機械的強度にも優れたスピーカー用振動板は得られていなかった。
本発明者等が、音響特性に優れるスピーカー用振動板について鋭意検討したところ、上記優れた機械的強度及び伸び特性(柔軟性)を有する上記特定の構成を有するフィルムを含むことによって、スピーカー用振動板が優れた音響特性を有しながら、フィルムの機械的強度に起因して優れた機械的強度をも有することを見出し、本発明は完成したものである。
すなわち、本発明は、優れた機械的強度と優れた柔軟性を有し、上記特定の構成を有するフィルムを含むことによって、音響特性特性だけでなく、更に機械的強度にも優れるという未知の属性を発見し、上記フィルムがスピーカー用振動板への使用に特に適することを見いだしたことに基づく発明である。
本発明のスピーカー用振動板は、スピーカーやイヤホン等の振動板(振動膜)として用いられる。
本発明はまた、上記スピーカー用振動板を備えるスピーカー又はイヤホンでもある。
【0058】
本発明のスピーカー用振動板は、通常、厚みが10〜100μmである。
【0059】
本発明のスピーカー用振動板は、上記フィルムのみからなるものであってもよいし、他の基材と上記フィルムとからなる2層以上の積層構造を有するものであってもよい。
振動の減衰性の観点から、本発明のスピーカー用振動板は、他の基材の片面又は両面に上記フィルムが積層されたものであることが好ましく、他の基材の両面に上記フィルムが積層された3層構造を有するものがより好ましい。
本発明のスピーカー用振動板が上記3層構造を有するものであると、特に周波数特性の安定に優れる。上記3層構造を有するスピーカー用振動板は、スピーカーとしての性能と強度の観点から、他の基材の厚みが5〜50μmであり、他の基材の両面に設けられる上記フィルムの厚みが2〜20μmであることが好ましい。
上記他の基材としては、一般に振動板の材料として用いられているものが使用でき、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ウレタン系重合体等からなる基材が挙げられる。
【0060】
本発明のスラストワッシャーは、上記フィルムを含むものである。従来のスラストワッシャーには、割れやすい、高荷重で摩耗しやすいという課題があったが、本発明のスラストワッシャーは、上記フィルムを含むことによって、優れた機械的強度及び耐磨耗性を有し、上記課題を解決することができる。
本発明のスラストワッシャーの具体的態様としては、スラストワッシャー形状の成形体の表面に上記フィルムを備えるものが挙げられる。上記スラストワッシャー形状の成形体の材料としては、一般的にスラストワッシャーの材料として用いられているものが使用でき、例えば、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド等からなる基材が挙げられる。
【実施例】
【0061】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
以下、実施例及び比較例における各数値の測定方法について記載する。
【0063】
<芳香族ポリエーテルケトン樹脂の結晶化度の測定方法>
結晶化度は、X線回折装置を用い、出力40kV−40mA、走査角5〜40度の範囲で広角X線回折を測定し、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(1)の結晶に由来するピーク面積及び全体のピーク面積を算出し、下記式により求めた。
結晶化度(%)=100×(芳香族ポリエーテルケトン樹脂(1)の結晶に由来するピーク面積/(全体のピーク面積)
上記全体のピーク面積は、走査角5〜40度の範囲で測定した回折強度全回折強度を積算した面積(但し、フッ素樹脂(2)の結晶に由来するピーク面積は除く)である。
芳香族ポリエーテルケトン樹脂(1)の結晶に由来するピーク面積は、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(1)の結晶に由来するピークの面積を合計した面積である。
上記フッ素樹脂(2)の結晶に由来するピーク面積は、2θ=17.7度付近に観察されるピークの面積である。
実施例及び比較例で用いたPEEKの結晶に由来するピーク面積は、2θ=18.7度、20.4度、22.3度及び28.6度付近に観察されるピークの面積の合計である。2θ=18.7度付近に観察されるピークは(110)面に由来するピークであり、2θ=20.4度付近に観察されるピークは(111)面に由来するピークであり、2θ=22.3度付近に観察されるピークは(200)面に由来するピークであり、2θ=28.6度付近に観察されるピークは(211)面に由来するピークであると推測される。
【0064】
<引張弾性率、上降伏点応力、引張破断伸びの測定方法>
実施例及び比較例で得られたフィルムをASTM V型ダンベルを用いて標線間距離7.6mmのダンベル上試験片に打ち抜き、得られたダンベル状試験片を用いて、ASTM D638に準拠して、25℃、チャック間距離24.5mm、引張り速度50mm/minで引張弾性率(MPa)、上降伏点応力(MPa)、引張破断伸び(%)を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
<摩耗量の測定方法>
実施例及び比較例で得られたフィルムに対して、リングオンディスク型の摩擦磨耗試験機により、荷重500N/cm、回転速度0.5m/秒、60分の条件で、S45C(外形20.5mm、内径16.5mm)のリングを用いて摩擦摩耗試験を行い求めた。
【0066】
<動摩擦係数の測定>
実施例及び比較例で得られたフィルムに対して、リングオンディスク型の摩擦磨耗試験機により、荷重50N/cm、回転速度0.5m/秒、10〜15分の条件で、S45C(外形20.5mm、内径16.5mm)のリングを用いて摩擦摩耗試験を行い求めた。
【0067】
<溶融粘度の測定方法>
芳香族ポリエーテルケトン樹脂の溶融粘度は、60sec−1、390℃において、ASTM D3835に準拠して測定した。
フッ素樹脂の溶融粘度は、60sec−1、390℃において、ASTM D3835に準拠して測定した。
【0068】
<MFRの測定>
ASTM D1238に従って、メルトインデクサーを用いて、372℃、5000g荷重下で内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)を求めた。
【0069】
<音響効果>
実施例及び比較例で得られたフィルムの音質の評価は、JIS C5532に準拠して周波数特性を測定することで行った。
【0070】
実施例及び比較例では、下記の材料を用いた。
芳香族ポリエーテルケトン樹脂(1):ポリエーテルエーテルケトン(溶融粘度:1.19kNsm−2。)フッ素樹脂(2):テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(プロピロビニルエーテル)=87.5/11.5/1.0(組成重量比)。MFR;23g/10分。融点;260℃、溶融粘度;0.55kNsm−2
【0071】
実施例1〜8
芳香族ポリエーテルケトン樹脂(1)およびフッ素樹脂(2)を表1に示す割合(質量部)で予備混合を行い、二軸押出機を使用して、シリンダー温度390℃、スクリュウ回転数300rpmの条件下で溶融混練し、樹脂組成物を製造した。
得られた樹脂組成物のペレットを、フィルム成形用Tダイ押出機に供給し、シリンダー温度380℃、ダイ温度380℃、スクリュウ回転数7rpmの条件で、かつ表1に示す冷却ロールの温度条件で厚み25μmのフィルムを成形した。この際、押出されたフィルムは冷却ロールに1〜10秒接触する。
その後、100℃に設定した冷却ロールで成形したフィルムでは、表1に示すアニール条件にて、結晶化処理を施した。具体的には成形したフィルムを120mmφの金型に挟み、220℃で0.1〜3時間、オーブンに入れ、アニールした。
その後、得られたフィルムを用いて、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(1)(PEEK)の結晶化度、フィルムの引張弾性率、引張破断伸び、上降伏点応力、摩耗量、動摩擦係数、音響効果を測定した。
【0072】
また、フッ素樹脂(2)単体のフィルムを実施例のフィルムと同様にアニールしたフィルムの結晶化度について、芳香族ポリエーテルケトン樹脂(1)と同様に求めたところ、フッ素樹脂(2)単体フィルムの結晶化度は30〜35%であった。この結果から、実施例1〜8で得られたフィルムにおいて、フッ素樹脂(2)の結晶化度は30〜35%であると推定される。
【0073】
比較例1〜2
取り出したフィルムをオーブンでアニールしなかった点以外は、実施例1と同様にフィルムを作成し、その後得られたフィルムを用いて、PEEKの結晶化度、フィルムの弾性率、伸び、上降伏点応力、摩耗量、摩擦係数、音響効果を測定した。
【0074】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のフィルムは、優れた機械的強度及び耐磨耗性を有するため、特に、スピーカー用振動板や、スラストワッシャー等を構成するフィルムとして好適に利用可能である。