特許第5904304号(P5904304)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5904304
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】金属の欠陥検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/20 20060101AFI20160331BHJP
【FI】
   G01N33/20 N
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-512450(P2015-512450)
(86)(22)【出願日】2014年4月7日
(86)【国際出願番号】JP2014060117
(87)【国際公開番号】WO2014171361
(87)【国際公開日】20141023
【審査請求日】2015年10月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-86496(P2013-86496)
(32)【優先日】2013年4月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】谷 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】福永 新一
(72)【発明者】
【氏名】瀬々 昌文
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−060743(JP,A)
【文献】 特開2011−203201(JP,A)
【文献】 特開2008−210947(JP,A)
【文献】 特開2011−220810(JP,A)
【文献】 DIXON B,An improved technique for the macrophotography of cracked specimens,Prakt Metallogr,1983年,Vol.20, No.6,p.306-309
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/20
G01N 21/88−21/958
G01B 11/30
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素濃度が0.5質量%以下の鋼である金属試料の検査面を上向きにして、前記検査面の全面がエッチング液で覆われるように前記検査面の上部にエッチング液を保持して欠陥を現出させ、前記検査面の上部の前記エッチング液の厚みを0mm超10mm以下とし、この状態で撮像装置によって前記検査面を撮像する
ことを特徴とする金属の欠陥検出方法。
【請求項2】
前記エッチング液の中に前記金属試料を浸漬させる
ことを特徴とする請求項1に記載の金属の欠陥検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属試料の検査面をエッチング処理して欠陥を現出させ、撮像装置によって検査面を撮像することにより欠陥を検出する金属の欠陥検出方法に関する。
本願は、2013年4月17日に、日本に出願された特願2013−086496号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
金属材料、特に鋼片や鋳片内部の割れや偏析といった欠陥部の検出と評価は、鋳片の品質管理及び鋳片の製造プロセスの適正化と操業管理を行う上で不可欠である。金属材料内部の品質評価方法として、従来はサルファプリント法やエッチプリント法が用いられてきた。いずれも、金属材料から試料を切り出し、金属材料の断面を検査面として研磨し、評価を行う。
【0003】
サルファプリント法では、臭化銀を含む転写用印画紙に硫酸水溶液を浸して検査面に貼りつけ、試料中の硫黄の偏析状況を印画紙上に現出する。このサルファプリント法によれば、鋳片の中心偏析部や割れ部に硫黄が偏析する性質を利用し、鋳片の中心偏析や内部割れの評価を行うことができる。サルファプリント法は金属材料中の硫黄濃度が高い材料に対して用いられるが、硫黄濃度が低い極低硫鋼などでは適用することができない。
【0004】
エッチプリント法は、検査面の中心偏析部や割れ部に元素が偏析する性質を利用し、検査面をエッチングして元素の偏析部を現出し、試料にワセリンを塗り込んだ上で再研磨することにより、偏析、割れを可視化する技術である。このエッチプリント法は、硫黄濃度が低い材料に対しても用いることができる。
【0005】
近年の金属材料の高品質化、高純度化にともない、金属材料の欠陥検出のさらなる高精度化が求められている。サルファプリント法については、使用する印画紙の安定供給に問題が生じており、そもそも極低硫鋼にはサルファプリント法が適用できない。エッチプリント法については、作業全体に数時間を要し、欠陥検出の迅速化が求められている。
【0006】
金属材料の検査面にエッチングを施した上で、検査面を直接カメラ等の撮像装置で撮像して画像として記録することができれば、エッチプリント法と異なって迅速に欠陥検出ができるので好ましい。この場合、欠陥部はエッチングが進行して深く掘れていることから、深く掘れた欠陥部を暗部とし、それ以外の正常部(非欠陥部)を明部として欠陥検出を行う必要がある。ところが、検査面をエッチング(マクロ腐食)し、検査面を撮像装置で撮像するに際し、照明として自然光やライト照明で撮像したのでは、正常部の明度が低いために欠陥部と正常部との明度コントラストが小さいという問題がある。
【0007】
これに対し特許文献1においては、金属試料の検査面を一方向に研磨し、当該金属試料にエッチング処理を行って金属試料中の欠陥を現出させる。そして、線状に連続した光源又は複数の点光源を線状に配置した光源(線状光源)を用いて所定の配置位置から検査面を照射し、撮像装置によって検査面を撮像する。これにより、検査面撮像画像における正常部の明度を均一かつ明るくし、欠陥部を明瞭に検出することを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特開2011−203201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の方法は、あくまで正常部の明度を上げることにより、欠陥部と正常部のコントラストを増大しようとするものであり、欠陥部の明度を下げるものではない。従って、コントラストの増大にも自ずと限度がある。また、光源の種類が線状光源に限定されており、さらに光源の設置方法、具体的には線状光源の線状方向と研磨方向との関係、及び研磨方向に対する照射角度が限定されており、欠陥検出作業の効率をより向上させたいとのニーズが存在した。
【0010】
本発明は、金属試料の検査面をエッチング処理して欠陥を現出させ、撮像装置によって検査面を撮像することにより欠陥を検出する金属の欠陥検出方法において、欠陥部の明度を下げることによって欠陥部と正常部のコントラストをより増大し、かつ光源や検査面の研磨方向に限定を加えることなく、欠陥部を明瞭に検出することのできる金属の欠陥検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)本発明の第一の態様は、炭素濃度が0.5質量%以下の鋼である金属試料の検査面を上向きにして、前記検査面の全面がエッチング液で覆われるように前記検査面の上部にエッチング液を保持して欠陥を現出させ、前記検査面の上部の前記エッチング液の厚みを0mm超10mm以下とし、この状態で撮像装置によって前記検査面を撮像する金属の欠陥検出方法である。
(2)上記(1)に記載の金属の欠陥検出方法では、前記エッチング液の中に前記金属試料を浸漬させてもよい。
【発明の効果】
【0012】
金属試料の検査面をエッチング処理して欠陥を現出させ、撮像装置によって検査面を撮像することにより欠陥を検出する金属の欠陥検出方法において、検査面上に少なくとも検査面全面がエッチング液で覆われるようにエッチング液を保持し、エッチング液除去の前に撮像装置によって検査面を撮像する。これにより、偏析部には明度の暗い溶出元素もしくは溶出元素の化合物が残存しているため、周囲の正常部と比較してコントラストが強くなるので、偏析領域が狭くあるいは偏析部の溶出元素濃度が高くない場合であっても、光源や検査面の研磨方向に限定を加えることなく、撮像装置による撮像で偏析部の検出が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】金属材料の検査面付近の部分断面図であり、偏析部の所在を示す概念図である。
図1B】金属材料の検査面付近の部分断面図であり、エッチング終了時の概念図である。
図1C】金属材料の検査面付近の部分断面図であり、エッチング後にエッチング液を除去する状況を示す概念図である。
図1D】金属材料の検査面付近の部分断面図であり、エッチング液除去後の状況を示す概念図である。
図2A】本発明の1実施形態を示す斜視概念図である。
図2B】本発明の1実施形態を示す断面図である。
図3】本発明の1実施形態を示す斜視概念図である。
図4】撮像装置と光源を含め、本発明の1実施形態を示す斜視概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
金属材料中の偏析部には、溶出元素が正偏析している。図1Aに示す金属試料1において、偏析部3a、偏析部3bには溶出元素が正偏析している。このような金属試料1の検査面にエッチング液5を接触させると、正常な金属材料が露出している正常部4についてはエッチング速度が遅く、溶出元素が偏析している偏析部3(欠陥部)はエッチング速度が速いので、エッチング深さに差が生じ、図1Bに示すように、偏析部3a、偏析部3bなどの欠陥部は深くエッチングされ、窪み9a、9bが生成する。
【0015】
欠陥部については、このようにエッチング速度に差が生じる以外にも、エッチングによって生成した溶出元素もしくは溶出元素の化合物の明度にも特徴を有することがわかった。偏析部3で生成する溶出元素もしくは溶出元素の化合物は、一般に黒色といっていいほどに暗い明度を有している。従って、図1Bに示すように、偏析部などの欠陥部(偏析部3a、3b)に形成された窪み(9a、9b)には溶出元素もしくは溶出元素の化合物(8a、8b)が存在する。これら溶出元素もしくは溶出元素の化合物をそのまま欠陥部に残存させることができれば、欠陥部の明度が暗くなるので、明るい正常部との明度差(コントラスト)が強烈となり、撮像装置によって検査面を撮像したときに欠陥部をより一層際だたせることができる。ところが、エッチングが進行した後に、従来はエッチング液を除去して検査面を洗浄しているため、図1Cに示すように、暗い色合いの溶出元素もしくは溶出元素の化合物(8c、8d)も洗い流されてしまい、欠陥検出に利用することができなかった。洗浄後の検査面は、図1Dに示すように窪み(9a、9b)が残るのみであり、正常部も欠陥部も明度は同一であるため、窪み9aのように深く窪んだ欠陥部のみが、明度が暗くなることによって正常部と差別化できることとなっていた。偏析部3bについては、もともと偏析領域が狭く、あるいは偏析部の溶出元素濃度が高くないため、窪み9bの深さも浅くなり、正常部との明度差が小さいために欠陥として検出することが困難となる。
【0016】
本発明においては、検査面にエッチング液を接触させてエッチングを行った後、エッチング液を洗浄・除去せず、さらにはエッチング液を検査面上で流動させることもせず、エッチング生成物である溶出元素もしくは溶出元素の化合物を偏析部に残存させたままの状態を保持して撮像装置で検査面の撮像を行う。具体的には、図2A図4に示すように、検査面2を上向きにして、検査面上に少なくとも検査面全面がエッチング液5で覆われるようにエッチング液5を保持し、この状態で撮像装置12によって検査面2を撮像する。図1Bに示すように、偏析部3には明度の暗い溶出元素もしくは溶出元素の化合物8が残存しているため、周囲の正常部4と比較してコントラストが強くなるので、撮像画像において偏析部は暗い部分として認識することが可能となる。その結果、図1Aの偏析部3bのように、もともと偏析領域が狭く、あるいは偏析部の溶出元素濃度が高くない場合であって、エッチング後の窪み9bの深さが浅い場合であっても、窪み9bに明度の暗い溶出元素もしくは溶出元素の化合物8bが残存しているため(図1B)、撮像装置による撮像で偏析部3bの検出が可能になる。さらに、偏析を伴う割れも検出することができる。
【0017】
検査面にエッチング液を接触させてからエッチングが進行するのに必要な所定の時間だけ保持する。そしてこの保持中においても検査面へのエッチング液の接触を継続し、なおかつエッチング液の流動を起こさせないことが必要である。
【0018】
検査面に接触するエッチング液の必要最少量としては、撮像装置で撮像する時点において、少なくとも検査面全面がエッチング液で覆われる程度に存在していればよい。具体的には、検査面全体がエッチング液で濡れている状況が保持されていればよい。
【0019】
一方、検査面の上部を覆うエッチング液の厚みHが厚すぎると(エッチング液表面から検査面までの深さが深すぎると)、図1Cに示すように、検査面上部のエッチング液の流れ7が発生しやすくなる。この流動によって偏析部から溶出元素もしくは溶出元素の化合物8が流出してしまうと偏析部の明度を暗く保持することができなくなる。エッチング液の流れ7は、例えば検査面温度とエッチング液温度に温度差が存在してエッチング液の対流が発生することによる流動、あるいは検査面上にエッチング液を注ぎ込む際の流動が考えられ、これらはいずれも、検査面上のエッチング液の厚みHが厚くなるほど顕著となる。本発明においては、検査面上のエッチング液の厚みHを10mm以下とすることにより、エッチング液の流れ7を有効に抑制し、溶出元素もしくは溶出元素の化合物8を偏析部3に保持することが可能となる。検査面上のエッチング液の厚みHは、好ましくは7mm以下であり、より好ましくは5mm以下であり、更に好ましくは3mm以下である。検査面上のエッチング液の厚みHの下限値としては、検査面の全面がエッチング液で覆われていればよいことから、0mm超である。ただし、偏析部を好適に溶出させるために、0.3mm以上、あるいは0.5mm以上としてもよい。
【0020】
検査面の上部にエッチング液を保持する方法として、図2A図2Bに示すようにエッチング用容器10中のエッチング液中に金属試料1を浸漬させる方法を採用することができる。この場合、エッチング用容器10に金属試料1を入れ、そのあとにエッチング液5を注ぎ込む方法、あるいはエッチング用容器10にエッチング液5を入れ、そのあとに金属試料1を浸漬させる方法のいずれを採用しても良い。また、図3に示すように、金属試料1の検査面2の周囲にエッチング液流出防止板11を設置し、検査面2とエッチング液流出防止板11で形成される枠内にエッチング液5を注ぎ込む方法を採用しても良い。
【0021】
検査面上のエッチング液の厚みHが10mm以下であることを確認するための方法について説明する。図2A図2Bに示す方法を用いる場合であれば、エッチング用容器10の側面に長さ測定のスケールを設置して、このスケールでエッチング液の水位を測定する。事前に金属試料1の厚みを把握しておけば、エッチング用容器内に金属試料1の底部が接する高さとエッチング液の水位の差を計測し、この計測値から金属試料1の厚みを減算することにより、エッチング液の厚みHを算出することができる。また図3に示す方法を用いる場合であれば、エッチング液流出防止板11の内側の側面にスケールを設置して、エッチング液の厚みHを測定することができる。
【0022】
本発明のエッチング処理で用いるエッチング液としては、通常に用いられるエッチング液のうちから、偏析部で生成する溶出元素もしくは溶出元素の化合物の明度が暗い濃色(例えば黒色)となるものを容易に採用することができる。例えば、過硫酸アンモニウム水溶液や、ピクリン酸水溶液などが好適に用いられる。この他、偏析部もしくは偏析部を伴う割れ部から、濃色(例えば黒色)の溶出元素もしくは溶出元素の化合物を生じさせるエッチング液であれば、いずれの液を用いても良い。また、検査面をエッチング液に浸漬してから撮像するまでの保持時間については、使用するエッチング液について通常用いられている保持時間とすればよい。
【0023】
本発明においては、正常部(非欠陥部)を明るい明度とし、偏析部などの欠陥部を暗い明度として、正常部と欠陥部の明度差(コントラスト差)によって欠陥を検出するものである。従って、正常部を明るい明度とすることが必要である。本発明では欠陥部の明度を暗い濃色とすることができるので、正常部については、通常の研磨面とすることによって十分な明度を確保することができる。具体的には、検査面をJIS R6252(2006年)に規定する1000番以下100番以上の粗さを有する研磨手段を用いて研磨を行えばよい。これにより、検査面の粗さを好適な粗さとすることができる。研磨の方向は特に限定する必要はない。研磨手段として、研磨紙、研磨布、研磨材のいずれを用いても良い。
【0024】
撮像のために研磨面を照らす照明についても、特に限定はない。撮像装置で撮像するのに必要な明るさが確保できればよい。撮像装置から検査面を観察し、検査面が鏡面であると仮定したときに、観察する検査面に照明光源が写り込むような位置は避けた方が好ましい。検査面が乱反射面であるとしても、検査面の上のエッチング液面が正反射面であり、光源の像が液面に反射して撮像画像に写り込むからである。
【0025】
撮像装置12としては、検査面を撮像できる撮像装置であれば、フィルムカメラ、デジタルカメラのいずれも使用可能である。半導体撮像素子などを用いた撮像装置を用いれば、撮像画像データを画像処理装置に取り込んで欠陥部の画像解析を行うことができるので好ましい。図4に示すように、検査面2の幾何学的中心Cの鉛直上方に撮像装置12を配置すると好ましい。なお、この場合でさらに光源高さが撮像装置高さと同じである条件では、光源13の配置位置としては、検査面2の2倍の幅と長さを有する領域14を想定し、この領域14の幾何学的中心を撮像装置12とし、この領域14の外側に光源13を配置することとすれば、撮像画像中の検査面部分に光源の直接反射光が写り込まないので好ましい。
【0026】
撮像終了後に、金属試料1を洗浄することによって検査面2からエッチング液を除去する。
【0027】
金属試料中の含有不純物、例えば含有炭素量が多くなると、偏析部以外の正常部であっても、エッチングに際して金属中に正常に含有する元素が溶出元素としてふるまい、正常部についても溶出元素もしくは溶出元素の化合物が発生して正常部の明度を暗くする作用を及ぼす。正常部の明度があまりにも暗くなり過ぎると、偏析部などの欠陥部との明度差が認識しづらくなる。金属試料が炭素鋼である場合、鋼中の炭素濃度が0.5質量%以下である場合には、正常部の明度がさほど暗くなり過ぎず、本発明を好適に用いることができる。
【実施例】
【0028】
炭素濃度の異なる3水準の炭素鋼として、表1に示す成分を有する3種類の炭素鋼について本発明を適用した。それぞれの鋼種の連続鋳造鋳片(幅1200mm、厚み250mm、長さ5000mm)を、長さ方向(鋳造方向)に垂直に切断して長さ方向50mmの金属試料を切り出し、さらに幅方向に2分割して、600mm×250mm×50mmの金属試料1を切り出し、前記連続鋳造鋳片の長さ方向に対する垂直断面を検査面2(サイズ:600mm×250mm)とした。検査面2について、JIS R6252に規定する300番の研磨紙を用いて研磨を行った。研磨方向については何ら意識せず、ランダム方向に研磨を行った。
【0029】
【表1】
【0030】
検査面の上部にエッチング液を保持する方法として、図2A図2Bに示すようにエッチング用容器10中のエッチング液中に金属試料を浸漬させる方法を主に用い、図3に示すように、金属試料1の検査面2の周囲にエッチング液流出防止板11を設置し、検査面2とエッチング液流出防止板11で形成される枠内にエッチング液5を注ぎ込む方法を1例だけ採用した。エッチング液5として過硫酸アンモニウム10%水溶液を用い、金属試料1をエッチング用容器10内に配置した上でエッチング液を供給した。図2A図2Bに示す方法では、エッチング用容器10の内側の側面にスケールを設置して、エッチング用容器中の金属試料1が無い部位でのエッチング液の厚みを測定し、事前に測定した金属試料厚みを減算して、検査面上部のエッチング液の厚みHを評価した。検査面が全面に濡れていない場合の厚みHは測定値が得られなかった。
【0031】
撮像装置としてはデジタル一眼レフカメラ(撮像画面サイズ:22.3mm×14.9mm、有効画素:約1510万画素、レンズ:焦点距離28mm)を、図4に示すように、検査面2の重心(幾何学的中心C)の直上1.5m離れた位置に設置した。また、照明用の光源13として、図7に示すように撮像装置12の位置を重心として検査面2と平行な正方形(1.5m×1.5m)の4角に定格消費電力500Wの電球を4個配置した。光源13の配置位置として好ましくない領域14は、1.2m×0.5mの範囲であるから、光源13はいずれも領域14の範囲外に配置されており、撮像画像の検査面の領域には光源の反射像は写り込まない。
【0032】
種々の条件のもとで、60秒間のエッチング処理と検査面2の画像撮像を行った。表2に処理条件と評価結果を示す。表2において、実施例1〜5、参考例1、比較例1〜5は図2A図2Bに示す方法を用いた場合であり、実施例7は図3に示す方法を用いた場合である。本発明範囲から外れる条件にアンダーラインを付している。エッチング液と金属試料の温度は常温とした。
【0033】
【表2】
【0034】
各検査水準について、撮像装置で撮像した撮像画像を画像解析し、明度のしきい値を定めて画像を2値化し、2値化後の黒色部を欠陥と判断した。検査面2における欠陥個数をカウントした。次いで、実施例1〜4および比較例1〜3については評価した欠陥個数を比較例1において評価した欠陥個数で規格化し、実施例5および比較例4については評価した欠陥個数を比較例4において評価した欠陥個数で規格化し、参考例1および比較例5については評価した欠陥個数を比較例5において評価した欠陥個数で規格化し、各条件における欠陥個数NNLを算出した。このNNLから、下記判断基準に従って検査状況を評価し、表2に記入した。
1.6<NNL ・・・かなり良い
1.3<NNL≦1.6 ・・・良い
1.0<NNL≦1.3 ・・・良いが少し劣る
0.7<NNL≦1.0 ・・・劣る
NNL≦0.7 ・・・かなり劣る
【0035】
実施例1、比較例1については、比較例1を基準とし、検査面2の撮像タイミングを変化させたものである。エッチング液除去後に撮像した比較例1は評価結果が「劣る」という結果であったが、エッチング液除去前に撮像した実施例1は「かなり良い」という結果であった。
【0036】
実施例1〜4、比較例2と3は、実施例1と基準とし、検査面とエッチング液の濡れ状況、検査面上に保持するエッチング液の厚みを変化させたものである。検査面がエッチング液で全面に濡れており、かつエッチング液の厚みHが10mm以下であれば、良好な評価結果を得ることができる。また、図3に示す方法を用いた実施例7についても良好な結果を得ることができた。
【0037】
比較例1、4、5は、比較例1を基準と同様とし、鋼種を変化させたものである。実施例1、5、及び参考例1は、実施例1を基準と同様とし、鋼種を変化させたものである。金属材料中の炭素含有量が0.50%を超えると、評価結果が「良いが少し劣る」に低下している。
【0038】
表2において、基準となる実施例1と比較例1については、比較を容易にするために各実施例群について重複して掲載している。
【0039】
表2において、本発明例はいずれも評価結果が「かなり良い」から「良いが少し劣る」の範囲に入っていることがわかった。
【0040】
なお、本発明は、前述の実施の形態及び実施例に具体的に記載された形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に規定する範囲内での変更は可能であり、例えば、前記したそれぞれの実施の形態、実施例や変形例の一例又は全部を組み合わせて、本発明の金属中、特に鋼片中の欠陥部を、高精度かつ迅速に検出する方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、欠陥部を明瞭に検出することのできる金属の欠陥検出方法を提供することが出来る。
【符号の説明】
【0042】
1 金属試料
2 検査面
3 偏析部
4 正常部
5 エッチング液
7 エッチング液の流れ
8 溶出元素もしくは溶出元素の化合物
9 窪み
10 エッチング用容器
11 エッチング液流出防止板
12 撮像装置
13 光源
14 領域
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3
図4