特許第5904314号(P5904314)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5904314
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】HNBR組成物及びHNBR架橋体
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/00 20060101AFI20160331BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20160331BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   C08L15/00
   C08K3/04
   C08K7/04
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-553969(P2015-553969)
(86)(22)【出願日】2015年3月20日
(86)【国際出願番号】JP2015058613
(87)【国際公開番号】WO2015146862
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2015年11月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-67872(P2014-67872)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(72)【発明者】
【氏名】饗庭 貴文
(72)【発明者】
【氏名】村上 英幸
(72)【発明者】
【氏名】内田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】守尾 亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博明
【審査官】 上前 明梨
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3982536(JP,B1)
【文献】 特開2004−043786(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/011263(WO,A1)
【文献】 特開2004−217851(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/057663(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ニトリルゴム100重量部に対して、硬質充填材 としてカーボンファイバーまたはウォラストナイト繊維を3〜20重量部含有し、 平均粒子径が40〜50nm、ヨウ素吸着量が35〜49g/kg、かつDBP吸油量が100〜160ml/100gであるカーボンブラックを72〜87重量部含有してなることを特徴とするHNBR組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラックが、FEFカーボンブラック又はFEF−LSカーボンブラックであることを特徴とする請求項1記載のHNBR組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のHNBR組成物を架橋して得られるHNBR架橋体。
【請求項4】
請求項3記載のHNBR架橋体の、CVT用プーリ部におけるシール材としての使用。
【請求項5】
請求項3記載のHNBR架橋体を成形して得られるCVT用プーリ部におけるシール材。
【請求項6】
前記シール材がDリングであることを特徴とする請求項5記載のCVT用プーリ部におけるシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はHNBR組成物及びHNBR架橋体に関し、詳しくは、耐摩耗性、耐圧性に優れたHNBR組成物及びHNBR架橋体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低炭素化社会を背景に、自動車への低燃費化の要求が強くなっている。それに伴い、自動車のトランスミッションは、CVT(Continuously Variable Transmission)(無段変速機)車が増加する傾向にある。
【0003】
CVTとは、2つのプーリと1本のベルトで構成された無段変速機の一種である。プーリ部はプライマリ(入力側)とセカンダリ(出力側)の組み合わせで構成されており、その間をベルトでつなぐ構造になっている。プーリの幅を変化させることで、プーリとベルトの接触半径が変わり、ベルトの回転半径が変化し無段階に変速する機構を持つ。
【0004】
このプーリ部の幅の変動による、変速の際に、プーリ部は高速回転・往復動を行なう。プーリ部に使用されるシールも一緒に回転及び往復動を行なう。そのため、シール性能の向上は、燃費向上に貢献できる。例えば、電動オイルポンプの廃止(ユニット重量の削減)、アイドルストップ機構の適用や被牽引対応などの効果が期待される。
【0005】
シール性能の向上は、ゴム製スクィーズパッキンを用いることで、簡単且つ低コストで実現できる。しかし、CVTプーリ部では、シールがベルト回転に伴って微振動するため、ゴム製スクィーズパッキンが摩耗し易い環境にあり、シール性能に加え、耐摩耗性に優れることが要求される。
【0006】
一般的には、CVT用プーリ部シールとしてはシールリングが主流である。従来のシール目的は、プーリを作動させ、油圧を保持することである。
【0007】
しかし、シールリングは流体の外部漏れ抑制を目的としたものではなく、油圧回路内での流体の圧力を保持することを目的としたシールである。そのため、シール性が悪く電動オイルポンプ廃止でのアイドリングストップシステムを成立させることができないことが問題であった。
【0008】
一方、Dリングはシールリングよりもシール性を確保することができることから、CVT用プーリ部シールにDリングを用いることが検討されている。
【0009】
CVT用プーリのシール部は、入力側のプライマリ部と出力側のセカンダリ部の2箇所ある。上述したとおり、プライマリ部、セカンダリ部ともにベルト回転に伴う微振動があるため、Dリングとハウジングが密着している箇所において高い摩擦力が生じており、Dリングには耐摩耗性が求められている。
【0010】
また、プライマリ部とセカンダリ部ではシール圧が異なり、セカンダリ部の方が高圧な環境である。そのため、セカンダリ部において、R部へのはみ出しに起因した過大摩耗が発生し、はみ出し部が破損してしまい、その結果Dリングの形態を構成しなくなってしまうおそれがある。よってCVT用プーリ部シール材として用いるDリングには耐圧性が求められている。
【0011】
以上のことから、耐摩耗性、耐圧性に優れた材料が求められている。
【0012】
これに対して、特許文献1に記載されているように、従来、耐摩耗性等の摺動特性を改善させるために、カーボンファイバーを含有させる技術が一般的に用いられてきた。特許文献1の配合処方としては、水素化ニトリルゴム100重量部当たり65〜200重量部のカーボンファイバーを配合している。
【0013】
また、特許文献1には、耐摩耗特性を向上させるためにカーボンブラックを含有させる旨も開示されている。
【0014】
特許文献2、特許文献3、特許文献4にも、耐摩耗特性を向上させるために、カーボンファイバーに加えてカーボンブラックを用いてもよい旨開示されている。
【0015】
また、特許文献5には、高弾性で耐亀裂成長性、反発弾性に優れた、熱伝導率の高いゴム組成物を得るために、天然ゴムおよび/または合成ゴムに、気相成長法炭素繊維、カーボンブラックを配合した旨が開示されている。配合処方としては、天然ゴムおよび/または合成ゴム100重量部に対して、気相成長法炭素繊維3〜60重量部、および重量比で前記気相成長法炭素繊維(平均直径0.01〜4μm)の0.1〜13倍のカーボンブラック(DBP吸油量90〜140ml/100g)である。気相成長法炭素繊維とカーボンブラックを含有させることで、気相成長法炭素繊維の末端の応力の集中が緩和されるので、気相成長法炭素繊維が本来有している耐亀裂性調整が充分に発揮されるようになる。
【0016】
特許文献6には、摺動を伴うシール部に用いられるシール部材に用い、適度な硬度と成形性と耐摩耗性に優れたシール部材として、水素化ニトリルゴム、カーボンブラックB、並びにカーボンブラックC及び/又は炭素繊維を含有するゴム組成物を加硫してなるゴム成形品が開示されている。カーボンブラックBをDBP吸油量250〜450ml/100gのものに特定することで、適切な硬度、耐摩耗性に優れた成形品を得られる旨開示されている。また、DBP吸油量200ml/100g以下に特定されたカーボンブラックCを配合することで、適切な硬度と良好な成形性を維持しながら、優れた耐摩耗性に優れた成形品を得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第4124338号公報
【特許文献2】特許第4779068号公報
【特許文献3】特許第5261735号公報
【特許文献4】特許第5150920号公報
【特許文献5】特開平1−287151号公報
【特許文献6】特許第5158917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかし、前述した従来の材料では、硬質の水素化ニトリルゴム(HNBR)材を用いていたとしても、プーリ部シール材Dリングとして用いた際に、油膜切れによる過大摩耗によって所望の耐摩耗性を獲得することができなかった。また一方で、カーボンファイバーの添加によって、耐圧性を悪化させてしまう問題があった。
【0019】
そこで、本発明は、耐摩耗性、耐圧性に優れたHNBR組成物及びHNBR架橋体を提供することを課題とする。
【0020】
また本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題は以下の各発明によって解決される。
【0022】
1.水素化ニトリルゴム100重量部に対して、硬質充填材としてカーボンファイバーまたはウォラストナイトを3〜20重量部含有し、
平均粒子径が40〜50nm、ヨウ素吸着量が35〜49g/kg、かつDBP吸油量が100〜160ml/100gであるカーボンブラックを72〜87重量部含有してなることを特徴とするHNBR組成物。
【0023】
2.前記カーボンブラックが、FEFカーボンブラック又はFEF−LSカーボンブラックであることを特徴とする上記1記載のHNBR組成物。
【0024】
3.上記1又は2記載のHNBR組成物を架橋して得られるHNBR架橋体。
【0025】
4.上記3記載のHNBR架橋体の、CVT用プーリ部におけるシール材としての使用。
【0026】
5.上記3記載のHNBR架橋体を成形して得られるCVT用プーリ部におけるシール材。
【0027】
6.前記シール材がDリングであることを特徴とする上記5記載のCVT用プーリ部におけるシール材。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、耐摩耗性、耐圧性に優れたHNBR組成物及びHNBR架橋体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0030】
<HNBR組成物>
本発明における耐摩耗性、耐圧性に優れたHNBR組成物は、水素化ニトリルゴムポリマーに、硬質充填材としてカーボンファイバーまたはウォラストナイトを所定量配合し、平均粒子径が40〜50nm、ヨウ素吸着量が35〜49g/kg、かつDBP吸油量が100〜160ml/100gであるカーボンブラックを所定量配合することで得られる。
【0031】
1.ポリマー
HNBRは、NBR中の炭素-炭素二重結合のみを選択的に水素化することにより得られるゴムであり、ニトリルゴムと比較して耐熱老化性、耐候性、耐化学薬品性が改良されているといった特徴がある。
【0032】
市販品のHNBRポリマーも使用でき、具体的には日本ゼオン社製「Zetpol 2010(ヨウ素価11)」などが挙げられるが、一般的に使用可能なものであれば特に限定されない。
【0033】
2.硬質充填材
本発明では、硬質充填材として、カーボンファイバーまたはウォラストナイトを用いる。
【0034】
硬質充填材としてカーボンファイバーまたはウォラストナイトを添加することで、製品の摺動面に凹凸を付与することができる。凹凸の付与によって、十分な油膜厚さを形成させることができ、流体潤滑による摩擦係数の低下によって摩耗し難くなる。
【0035】
一方、一般的に使用されているカーボンブラックなどの充填材は、摺動によって均一に摩耗し、表面に十分な凹凸を形成させることができない。凹凸がなく平坦な摺動面は、十分な油膜厚さを形成させることができず、油膜切れによる混合潤滑もしくは境界潤滑領域での摺動となり、摩擦係数が大きく過大摩耗が発生してしまう。
【0036】
カーボンファイバーまたはウォラストナイトを添加することで、耐摩耗性が良化するものの、それ自体が大きいことから、従来使用するカーボンブラックよりも補強性が小さいため、耐圧性は悪化してしまう。この問題に対しては、後述する特定のカーボンブラックの添加によって解決する。
【0037】
カーボンファイバーまたはウォラストナイトの配合量は、水素化ニトリルゴム100重量部に対して、3〜20重量部の範囲であり、好ましくは7.5〜15重量部の範囲である。
【0038】
3〜20重量部の範囲を満たさない場合は、耐摩耗特性、耐圧特性が悪化するため、好ましくない。
【0039】
カーボンファイバーとしては、算術平均繊維長30〜80μm、算術平均繊維径10〜15μmのものを好ましく使用できる。
【0040】
市販品も使用でき、具体的には三菱化学産資製品「ダイアリードK6371M」などが挙げられるが、一般的に使用可能なものであれば特に限定されない。
【0041】
ウォラストナイトとしては、算術平均繊維長20〜40μm、算術平均繊維径5〜10μmを好ましく使用できる。
【0042】
市販品も使用でき、具体的には巴工業製品「NYAD−400」などが挙げられるが、一般的に使用可能なものであれば特に限定されない。
【0043】
3.カーボンブラック
本発明で用いられるカーボンブラックは、平均粒子径が40〜50nm、ヨウ素吸着量が35〜49g/kg、かつDBP吸油量が100〜160ml/100gであるカーボンブラックであり、好ましくは、平均粒子径が40〜50nm、ヨウ素吸着量が40〜49g/kg、かつDBP吸油量が110〜120ml/100gであるカーボンブラックである。
【0044】
本発明で用いられるカーボンブラックとしては、FEF系カーボンブラックが好ましく、本発明においてFEF系カーボンブラックとは、FEF(Fast Extruding Furmace)カーボンブラック、FEF−LSカーボンブラック、FEF−HSカーボンブラックを指し、これらの中から1種又は2種を選択し使用できる。中でも好ましいのはFEFカーボンブラック、FEF−LSカーボンブラックであり、さらに好ましくはFEFカーボンブラックである。
【0045】
ここで、ヨウ素吸着量およびDBP吸着量は、カーボンブラックの特性を示す代表的な指標であって、ヨウ素吸着量は、JIS K6221に基づいて測定された値であり、DBP吸油量は、JIS K6221のA法(機械法)に準じて測定される値である。
【0046】
ヨウ素吸着量は、窒素吸着比表面積と並び、カーボンブラックの細孔を含む全比表面積の指標となる。DBP吸油量は、ストラクチャーと正の相関がある個々のアグリゲート間の空隙率を測定することで、ストラクチャーを間接的に定量するものである。ヨウ素吸着量、DBP吸着量は、それぞれこの特性値の高低がゴム組成物に配合した場合の補強性や押出特性、分散性、着色力、粘度、導電性に大きな影響を与える。
【0047】
また、平均粒子径とは、カーボンブラック凝集体を構成する小さな球状(微結晶による輪郭を有し、分離できない)成分を電子顕微鏡写真により測定、算出した平均直径であり、これはカーボンブラック協会発行カーボンブラック年鑑1998、NO.48に、粒子径の定義として記載してあるものと同一である。また、本発明での平均粒子径を算出する際には、算術平均が用いられる。
【0048】
本発明において、平均粒子径が40〜50nm、ヨウ素吸着量が35〜49g/kg、かつDBP吸油量が100〜160ml/100gであるカーボンブラックを使用することは、耐摩耗特性、耐圧特性を得るために好ましい。
【0049】
本発明のHNBR組成物は、カーボンファイバーまたはウォラストナイトを添加することで、耐摩耗性が良化するものの、それ自体の粒子径が大きいことから、従来使用するカーボンブラックよりも補強性が小さくなってしまうため、耐圧特性は悪化してしまう傾向にある。この問題に対して、平均粒子径が40〜50nm、ヨウ素吸着量が35〜49g/kg、かつDBP吸油量が100〜160ml/100gであるカーボンブラックを添加することによって解決することができる。
【0050】
本発明において好ましく使用することができるカーボンブラックは、市販品として入手することができ、具体的には東海カーボン製品「シーストG−SO」(平均粒子径:43nm、ヨウ素吸着量:45g/kg、DBP吸油量:115ml/100g)、旭カーボン製品「旭#60」(平均粒子径:45nm、ヨウ素吸着量:43g/kg、DBP吸油量:114ml/100g)等が挙げられるが、一般的に使用可能なものであれば特に限定されない。
【0051】
カーボンブラックの配合量は、水素化ニトリルゴム100重量部に対して、72〜87重量部の範囲であり、好ましくは、75〜85重量部の範囲である。
【0052】
72〜87重量部の範囲を満たさない場合は、耐摩耗特性、耐圧特性が悪化するため、好ましくない。
【0053】
4.有機過酸化物
HNBR組成物は、好ましくは、HNBR100重量部あたり1〜6重量部配合される有機過酸化物によって架橋される。
【0054】
有機過酸化物としては、第3ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、第3ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ(第3ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル2,5−ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、1,3−ジ(第3ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなど、一般にHNBRの架橋に使用可能なものであれば特に限定することなく使用することができる。
【0055】
5.その他の配合剤
また、加硫促進助剤(例えば酸化亜鉛、活性亜鉛華、表面処理亜鉛華、複合亜鉛華、酸化マグネシウムなどの金属酸化物;炭酸亜鉛などの金属炭酸塩;水酸化カルシウムなどの金属水酸化物;ステアリン酸などの有機系活性剤など)、加硫促進剤(例えばスルフェンアミド系、チウラム系等)、老化防止剤(例えばアミン系、フェノール系など)、軟化剤及び可塑剤(例えばパラフィン系軟化剤、芳香族系軟化剤、ナフテン系軟化剤など)、補強剤又は充填剤(例えばカーボンブラック、シリカなど)、加工助剤(例えばステアリン酸などの滑剤など)などゴム工業で一般的に使用されている配合剤が必要に応じて適宜添加されて用いられる。
【0056】
<HNBR架橋体>
1.HNBR組成物の調製
本発明において、HNBR組成物の調製は、インターミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機またはオープンロールなどを用いて混練することによって行われる。
【0057】
2.加硫
混練物の加硫は加硫プレス、圧縮成形機、射出成形機等を用いて、一般に約150〜200℃に約3〜60分間程度加熱することによって行われ、必要に応じて約120〜200℃で約1〜24時間オーブン加硫(二次加硫)することも行われる。
【0058】
3.HNBR架橋体の用途
本発明のHNBR架橋体(架橋ゴム)は、シール用材料として用いられ、耐圧用、摺動用又は運動用の何れか一つ以上のシール用材料として用いられることが好ましい。なお、シール材料には、静的シールおよび動的シールのいずれも含み、中でも、特にCVT(無段階変速機)用プーリ部Dリングに好ましく用いられ、その他には、DCT(Dual Clutch Transmission)用Oリングなど、が挙げられる。
【実施例】
【0059】
本発明の実施例について説明する。かかる実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
水素化ニトリルゴム(日本ゼオン社製「Zetpol 1020」)
100重量部
カーボンブラック(新日化カーボン社製「旭#60」;平均粒子径:45nm、ヨウ素吸着量:43g/kg、DBP吸油量:114ml/100g)
80重量部
カーボンファイバー(三菱化学産資社製「ダイアリードK6371M」;算術平均繊維長:55μm、算術平均繊維径:11μm)
10重量部
加硫剤(ジクミルパーオキサイド)(日本油脂社製「パーブチルP」)
4重量部
【0061】
以上の各成分を、ニーダおよびオープンロールにて混練し、混練物を加硫プレスにより180℃8分間の加硫を行ない、JIS規定円形試験片(直径120mm、厚さ2mm)、JIS規定ダンベル4号試験片(長さ100mm、幅15mm、厚さ2mm)を得た。
【0062】
<評価方法>
(1)耐摩耗特性(摩耗特性試験)
試験片に以下の条件下で砥石を擦り付け、JIS K6264−2(2005)に準じてテーバー摩耗試験を行い、テーバー摩耗量(mg)によって耐摩耗特性を評価した。
・試験片形状:JIS規定円形試験片(直径120mm、厚さ2mm)
・試験温度:25℃
・周波数:1Hz
・荷重:1N
・摩耗回数:1000回
摩耗前後における試験片の重量差から摩耗量を算出し、摩耗量が110mg未満の材料を良好、110mg以上の材料を不良として評価した。
【0063】
(2)耐圧特性(ヒステリシス・ロス評価試験)
島津製作所製オートグラフ「AG−IS 100kN」を用いて、ストレス・ストローク曲線(s−s曲線)を求め、変形時・回復時の弾性エネルギーを算出した。
試験片を、以下の条件において一定応力まで変形させた後、元に戻すことを繰り返し行なった。
・試験片形状:JIS規定ダンベル4号試験片
・試験温度:150℃
・最大応力:5MPa
・繰り返し回数:50回
変形時の弾性エネルギーの総和から回復時の弾性エネルギーの総和を減じてヒステリシス・ロスを算出し、ヒステリシス・ロスが3.2J未満の材料を良好、3.2J以上の材料を不良と評価した。
CVT用シール材DリングとしてHNBR架橋体を用いた際に、ヒステリシス・ロスが抑えられることによって、はみ出し部のエグレ発生を抑えることができると評価できる。
【0064】
(実施例2)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、75重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表1に示した。
【0065】
(実施例3)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、85重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表1に示した。
【0066】
(実施例4)
実施例1において、カーボンファイバーの配合量を、7.5重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表1に示した。
【0067】
(実施例5)
実施例1において、カーボンファイバーの配合量を、15重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表1に示した。
【0068】
(実施例6)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、75重量部と変更し、カーボンファイバーの配合量を、7.5重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表1に示した。
【0069】
(実施例7)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、75重量部と変更し、カーボンファイバーの配合量を、15重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表1に示した。
【0070】
(実施例8)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、85重量部と変更し、カーボンファイバーの配合量を、7.5重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表1に示した。
【0071】
(実施例9)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、85重量部と変更し、カーボンファイバーの配合量を、15重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表1に示した。
【0072】
(実施例10)
実施例1において、カーボンファイバー10重量部を、ウォラストナイト(巴工業社製「NYAD 400」;繊維長:35μm、繊維径:7μm)10重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表2に示した。
【0073】
(実施例11)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、75重量部と変更し、カーボンファイバー10重量部を、ウォラストナイト(巴工業社製「NYAD 400」;繊維長:35μm、繊維径:7μm)10重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表2に示した。
【0074】
(実施例12)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、85重量部と変更し、カーボンファイバー10重量部を、ウォラストナイト(巴工業社製「NYAD 400」;繊維長:35μm、繊維径:7μm)10重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表2に示した。
【0075】
(実施例13)
実施例1において、カーボンファイバー10重量部を、ウォラストナイト(巴工業社製「NYAD 400」;繊維長:35μm、繊維径:7μm)7.5重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表2に示した。
【0076】
(実施例14)
実施例1において、カーボンファイバー10重量部を、ウォラストナイト(巴工業社製「NYAD 400」;繊維長:35μm、繊維径:7μm)15重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表2に示した。
【0077】
(実施例15)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、75重量部と変更し、カーボンファイバー10重量部を、ウォラストナイト(巴工業社製「NYAD 400」;繊維長:35μm、繊維径:7μm)7.5重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表2に示した。
【0078】
(実施例16)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、75重量部と変更し、カーボンファイバー10重量部を、ウォラストナイト(巴工業社製「NYAD 400」;繊維長:35μm、繊維径:7μm)15重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表2に示した。
【0079】
(実施例17)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、85重量部と変更し、カーボンファイバー10重量部を、ウォラストナイト(巴工業社製「NYAD 400」;繊維長:35μm、繊維径:7μm)7.5重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表2に示した。
【0080】
(実施例18)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、85重量部と変更し、カーボンファイバー10重量部を、ウォラストナイト(巴工業社製「NYAD 400」;繊維長:35μm、繊維径:7μm)15重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表2に示した。
【0081】
(比較例1)
実施例1において、FEFカーボンブラック80重量部を、SRF−LMカーボンブラック(新日化カーボン社製「旭#50」;平均粒子径:80nm、ヨウ素吸着量:23g/kg、DBP吸油量:63ml/100g)80重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表3に示した。
【0082】
(比較例2)
実施例1において、FEFカーボンブラック80重量部を、MAFカーボンブラック(新日化カーボン社製「旭#60H」;平均粒子径:41nm、ヨウ素吸着量:50g/kg、DBP吸油量:124ml/100g)10重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表3に示した。
【0083】
(比較例3)
実施例1において、FEFカーボンブラック80重量部を、SRF−LMカーボンブラック(新日化カーボン社製「旭#50」;平均粒子径:80nm、ヨウ素吸着量:23g/kg、DBP吸油量:63ml/100g)80重量部と変更し、カーボンファイバー10重量部を、ウォラストナイト(巴工業社製「NYAD−400」)10重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表3に示した。
【0084】
(比較例4)
実施例1において、FEFカーボンブラック80重量部を、MAFカーボンブラック(新日化カーボン社製「旭#60H」;平均粒子径:41nm、ヨウ素吸着量:50g/kg、DBP吸油量:124ml/100g)80重量部と変更し、カーボンファイバー10重量部を、ウォラストナイト10重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表3に示した。
【0085】
(比較例5)
実施例1において、カーボンファイバー10重量部を、炭化ケイ素(屋久島電工社製「ダイヤシックOY−20」)10重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表3に示した。
【0086】
(比較例6)
実施例1において、カーボンファイバー10重量部を、二酸化チタン(石原産業社製「タイペークA−100」)10重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表3に示した。
【0087】
(比較例7)
実施例1において、FEFカーボンブラック80重量部を、MAFカーボンブラック(新日化カーボン社製「旭#60H」;平均粒子径:41nm、ヨウ素吸着量:50g/kg、DBP吸油量:124ml/100g)80重量部と変更し、カーボンファイバー10重量部を、二酸化チタン(石原産業社製「タイペークA−100」)10重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表3に示した。
【0088】
(比較例8)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、70重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表3に示した。
【0089】
(比較例9)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、90重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表3に示した。
【0090】
(比較例10)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、70重量部と変更し、カーボンファイバー10重量部を、ウォラストナイト(巴工業社製「NYAD 400」;繊維長:35μm、繊維径:7μm)10重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表3に示した。
【0091】
(比較例11)
実施例1において、FEFカーボンブラックの配合量を、90重量部と変更し、カーボンファイバー10重量部を、ウォラストナイト(巴工業社製「NYAD 400」;繊維長:35μm、繊維径:7μm)10重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表3に示した。
【0092】
(比較例12)
実施例1において、カーボンファイバーの配合量を、2.5重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表3に示した。
【0093】
(比較例13)
実施例1において、カーボンファイバーの配合量を、25重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表3に示した。
【0094】
(比較例14)
実施例1において、カーボンファイバー10重量部を、ウォラストナイト2.5重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表3に示した。
【0095】
(比較例15)
実施例1において、カーボンファイバー10重量部を、ウォラストナイト(巴工業社製「NYAD 400」;繊維長:35μm、繊維径:7μm)25重量部と変更した以外は同様に架橋ゴム試料を成形し、同様に評価し、その結果を表3に示した。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
<評価>
実施例と比較例1〜4から、耐摩耗特性、耐圧特性を満たすために用いられるカーボンブラックとしては、FEFカーボンブラックが最適であり、SRF−LMカーボンブラック、MAFカーボンブラックでは耐摩耗特性に劣ることが明確になった。
【0100】
また、実施例と比較例8〜10から、カーボンブラックの配合量は、75〜85重量部という極めて限定された範囲において耐摩耗特性、耐圧特性を満たすことが確認できた。
【0101】
従来、カーボンブラックは高強度、耐摩耗性を補う場合に添加することは知られており、先行技術においても、多量に添加することが開示されているが、本発明において、耐圧特性、耐摩耗特性を満たすためには、極めて限定された範囲での添加が重量であることが明確になった。また、カーボンブラックの種類に関しても、極めて限定されたカーボンブラックにおいて、耐圧特性、耐摩耗特性を満足させることができる点が明らかとなった。
【0102】
一方、実施例と比較例5、6、7から、耐摩耗特性、耐圧特性を満たすために用いられる硬質充填材としては、数ある充填材のうち、カーボンファイバー又はウォラストナイトが最適であることが確認できた。
【0103】
また、実施例と比較例12〜15から、硬質充填材の配合量は3〜20の配合量において、効果を発揮することが確認できた。
【0104】
特に、カーボンファイバーの増量により、テーバー摩耗量が増加し(耐摩耗特性が悪化し)、ヒステリシス・ロスは減少する(耐圧特性は良好となる)傾向であることがわかる。
【0105】
硬質充填材においても、極めて限定された範囲での添加が重要であることが明確になった。