(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変型例も含むものとして理解されるべきである。
1.負極用バインダー組成物
本発明の負極用バインダー組成物は、少なくとも(A)重合体、(B)水および(C)液状媒体を含有する。
【0010】
1.1 (A)重合体
本発明の負極用バインダー組成物に含有される(A)重合体は、ポリアミック酸およびそのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体である。該重合体は、蓄電デバイスの負極を構成する活物質層において、バインダーとなる。
本発明の負極用バインダー組成物に含有される(A)重合体がポリアミック酸のイミド化重合体を含有する場合、該イミド化重合体のイミド化率は、50%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。負極用バインダー組成物に含有されるイミド化重合体のイミド化率を上記の範囲とすることにより、該バインダー組成物を用いて調製される負極用スラリーの安定性を損なうことがなく、密着性および充放電特性に優れる負極を製造することができることとなり、好ましい。このイミド化率は、ポリアミック酸のアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ポリアミック酸のイミド化率は、
1H−NMRを用いて求めることができる。
ポリアミック酸とそのイミド化重合体とは併用することができる、イミド化重合体のイミド化率が上記の好ましい範囲にあれば、ポリアミック酸とそのイミド化重合体との使用割合は任意の割合とすることができる。
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得ることがでる。ポリアミック酸のイミド化重合体は、上記ポリアミック酸のアミック酸構造の一部を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。
【0011】
1.1.1 テトラカルボン酸二無水物
本発明におけるポリアミック酸を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物などを;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.0
2,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオンなどを;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物などを、それぞれ挙げることができるほか、特許文献5(特開2010−97188号公報)に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。
前記ポリアミック酸を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、これらのうち、芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むものであることが好ましい。本発明におけるテトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物のみからなるか、あるいは芳香族テトラカルボン酸二無水物および脂環式テトラカルボン酸二無水物の混合物のみからなるものであることが、本発明の負極用バインダー組成物の安定性の観点から好ましい。後者の場合、脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、全テトラカルボン酸二無水物に対して、30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましい。
【0012】
1.1.2 ジアミン
本発明におけるポリアミック酸を合成するために用いられるジアミンとしては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどを挙げることができる。これらの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えば1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを;
脂環式ジアミンとして、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどを;
芳香族ジアミンとして、例えばp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノアクリジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、3,5−ジアミノ安息香酸などを;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサンなどを、それぞれ挙げることができるほか、特許文献5(特開2010−97188号公報)に記載のジアミンを用いることができる。
本発明におけるポリアミック酸を合成する際に用いられるジアミンは、芳香族ジアミンを、全ジアミンに対して、30モル%以上含むものであることが好ましく、50モル%以上含むものであることがより好ましく、特に80モル%以上含むものであることが好ましい。
【0013】
1.1.3 テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの比率
本発明において、上記テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、テトラカルボン酸二無水物の使用量をaモル、ジアミンの使用量をbモルとしたときに、比a/bが0.95を超え0.99以下となる割合である。この比a/bは、0.97〜0.98とすることが好ましい。
比a/bを前記の範囲内に設定することにより、(A)重合体の分子量が過度に増大することを抑制することができ、その結果、得られる負極用バインダー組成物の粘度を適度な値に調整することが容易となり、該負極用バインダー組成物を用いて調製される負極用スラリーの塗布性が良好になるため、均一な活物質層の形成がより容易となる。
また、比a/bが上記の範囲にあるということは、テトラカルボン酸二無水物に対してジアミンが過剰の状態で重合反応を行うことに帰するため、(A)重合体の末端の多くがアミノ基となることが期待される。そして、(A)重合体の末端アミノ基が活物質表面へ容易に吸着することができることとなり、密着性が向上して活物質層からの粉落ちを抑制できることとなり、好ましい。
さらに、電極活物質が1価イオン(例えばLi
+イオン)を吸蔵放出することによって充放電を行う蓄電デバイスにおいては、多価金属イオンが電解液に混入した場合、該多価金属イオンの不可逆的な酸化還元反応が経時的に進行して蓄電デバイスの電気特性が損なわれ、充放電特性が経時的に劣化することとなる。このような多価金属イオンは材料の不純物に由来するものであり、電解液から完全に排除することは困難である。このため、蓄電デバイスを組み立てた後にエイジングを行って、充放電に関わらない多価金属イオンを十分に消費することにより、充放電特性を安定化することが行われている。
ここで、(A)重合体が末端にアミノ基を有すると、該アミノ基は多価金属イオンに効果的に配位して化学的に安定化し、上記不可逆的な酸化還元反応を抑制することができるから、付加的なエイジング処理を行わなくとも、得られる蓄電デバイスの充放電特性の経時的な劣化を避け得ることが期待される。
【0014】
1.1.4 (A)重合体の合成
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において、好ましくは−20℃〜150℃、より好ましくは0〜100℃において、好ましくは0.1〜24時間、より好ましくは0.5〜12時間行われる。
ここで、有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノールおよびその誘導体、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、炭化水素など一般的にポリアミック酸の合成反応に使用できる有機溶媒を使用することができる。これら有機溶媒の具体例としては、上記非プロトン性極性溶媒として、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N−t−ブチル−2−ピロリドン、N−メトキシエチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミドなどを;
上記フェノール誘導体として、例えばm−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノールなどを;
上記アルコールとして、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどを;
上記ケトンとして、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどを;
上記エーテルとして、例えばエチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコール−ジ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラヒドロフランなどを、それぞれ挙げることができる。
上記エステルとして、例えば乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチルなどを;
上記炭化水素として、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを、それぞれ挙げることができる。
【0015】
ポリアミック酸の脱水閉環反応は、好ましくはポリアミック酸を加熱する方法またはポリアミック酸を有機溶媒に溶解した溶液中に脱水剤および脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。
上記ポリアミック酸を加熱する方法における反応温度は、好ましくは180〜250℃であり、より好ましくは180℃〜220℃である。反応温度が50℃未満では脱水閉環反応が十分に進行せず、反応温度が250℃を超えると得られるイミド化重合体の分子量が低下する場合がある。ポリアミック酸を加熱する方法における反応時間は、好ましくは0.5〜20時間であり、より好ましくは2〜10時間である。
上記ポリアミック酸の溶液中に脱水剤および脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用割合は、ポリアミック酸のアミック酸構造の1モルに対して0.01〜1,0モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミンなどの3級アミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用割合は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜1,0モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は好ましくは0〜180℃であり、より好ましくは10〜150℃である。反応時間は好ましくは1〜10時間であり、より好ましくは2〜5時間である。
【0016】
以上のようにして得られるポリアミック酸またはそのイミド化重合体は、これを濃度10重量%の溶液としたときに、2,000〜100,000mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、5,000〜30,000mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。この重合体の溶液粘度(mPa・s)は、これらの重合体の良溶媒(例えばγ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドンなど)を用いて調製した濃度10重量%の重合体溶液について、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0017】
以上のようにして得られたポリアミック酸またはそのイミド化物は、そのまま、または必要に応じて公知の方法によって精製したうえで後述の負極用スラリーの調製に供される。
本発明におけるポリアミック酸としては、市販のポリアミック酸溶液を使用してもよい。市販のポリアミック酸溶液としては、例えばU―ワニスA(宇部興産(株)製)などを挙げることができる。
【0018】
1.2 (B)水
本発明の負極用バインダー組成物は、(B)水を含有する。
本発明の負極用バインダー組成物における水の使用割合は、組成物中の(A)重合体の含有量をMa質量部、(B)水の含有量をMb質量部としたときに、両者の比Ma/Mbが500〜5,000となるような割合である。この比Ma/Mbの値は、好ましくは1,000〜4,000であり、より好ましくは1,300〜3,500である。水を上記の範囲で使用することにより、密着性が向上し、得られる活物質層の電気特性が良好となる。
蓄電デバイスの分野において、従来から、水は電極活物質を浸食するものと考えられている。従って、電極用バインダーの製造に際しても、不純物としての水の混入を可能な限り回避しようとすることが業界の常識であった。また、高分子の分野では、ポリアミック酸およびそのイミド化重合体が水と接触すると、アミック酸構造またはイミド環が加水分解され、分子量が低下するものと信じられている。
しかしながら本発明の負極用バインダー組成物は、(A)重合体に対して特定割合の(B)水を含有することにより、該組成物を使用して製造された蓄電デバイスが極めて優れた充放電特性を示すこととなるのである。特に、負極活物質としてケイ素原子を含む活物質を使用した場合に、この効果は著しい。このことの発現機構は明らかではないが、本発明者らは、以下のような作用に起因するものと推察している。
活物質層を形成する際、活物質表面の金属原子(例えばCo)または半金属原子(例えばSi)に、ポリアミック酸またはそのイミド化重合体が接近したとき、水分子の介在によって金属原子または半金属原子と(A)重合体のカルボキシ基とが、以下のように結合することにより、強固なバインダー作用が発現するものと考えられる。この(A)重合体のカルボキシ基は、重合体鎖中のアミック酸構造を構成するカルボキシ基である。
【0020】
(上記において、COOHまたは−COOMが結合している波線は重合体鎖を表し、Mは活物質表面の金属原子または半金属原子である。)
そして、負極用バインダー組成物における水の使用割合が上記の範囲であれば、得られる蓄電デバイスにおいて、当業界において懸念されていた上記のような不利な効果は表れないことが分かった。このことは、業界の技術常識に反する驚くべき事実である。おそらくは、活物質層の形成工程において好ましく行われる加熱によって、負極用バインダー組成物から持ち込まれた水、あるいは活物質表面の金属原子または半金属原子と(A)重合体との結合によって再生した水は容易に散逸し、活物質層内には残存しないのであろう。
このような作用機構によって、(A)重合体のバインダー効果が最大限に発揮されるとともに、活物質層の電気特性に対する水の悪影響が可及的に低減されるものと考えられる。
本発明の負極用バインダー組成物における(B)水の含有量は、例えばカールフィッシャー水分計によって測定することができる。
【0021】
1.3 (C)液状媒体
本発明の負極用バインダー組成物に好ましく使用される(C)液状媒体は、非水系媒体であり、その具体例としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、グリセリンなどのアルコール;
アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、イソホロンなどのケトン;
メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;
γ−ブチロラクトン、δ−ブチロラクトンなどのラクトン;
β−ラクタムなどのラクタム;
ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどの鎖状または環状のアミド化合物;
メチレンシアノヒドリン、エチレンシアノヒドリン、3,3’−チオジプロピオニトリル、アセトニトリルなどの、ニトリル基を有する化合物;
エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール化合物;
ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルブチルエーテルなどのジエチレングリコールまたは誘導体などを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を使用することができる。
本発明の負極用バインダー組成物における(C)液状媒体の使用割合は、負極用バインダー組成物の固形分濃度(組成物中の液状媒体以外の成分の合計質量が組成物の全質量に対して占める割合)が、5〜70質量%となる割合とすることが好ましく、10〜55質量%となる割合とすることがより好ましい。
【0022】
1.4 負極用バインダー組成物のpH
本発明の負極用バインダー組成物のpHは、3〜9であることが好ましく、4〜7であることがより好ましい。組成物の液性の調整には、公知の酸または塩基を用いることができる。酸としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などを;
塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニアなどを、それぞれ挙げることができる。
従って本発明の負極用バインダー組成物は、(A)重合体、(B)水および(C)液状媒体以外に、その他の成分として上記の酸または塩基を、pHの調整に必要な範囲で含有していてもよい。
【0023】
1.5 負極用バインダー組成物の調製方法
本発明の負極用バインダー組成物は、上記の成分を含有するものである限り、どのような方法によって調製されたものであってもよい。
本発明の負極用バインダー組成物を調製するには、例えば
(1)(A)重合体を合成した重合混合物に、(B)水および必要に応じて加えられるその他の成分を添加する方法(この場合、(A)重合体を合成した際の重合溶媒がそのまま(C)液状媒体として用いられることになる);
(2)(A)重合体を合成した重合混合物中の溶媒の一部または全部を置換する方法(この場合、(B)水および必要に応じて加えられるその他の成分は、溶媒置換の前または後に加えられる);
(3)(A)重合体を合成した重合混合物から単離した重合体を、(B)水および必要に応じて加えられるその他の成分とともに(C)液状媒体に溶解する方法
などの適宜の方法によることができる。
これらのうち、上記の方法(1)によることが、便宜であることから好ましい。
(B)水は、単独の成分として格別に添加してもよく、(C)液状媒体その他に含有される不純物として添加されてもよい。
【0024】
2. 負極用スラリー
上記のような本発明の負極用バインダー組成物を用いて、負極用スラリーを製造することができる。負極用スラリーとは、集電体の表面上に負極活物質層を形成するために用いられる分散液のことをいう。本発明における負極用スラリーは、少なくとも本発明の負極用バインダー組成物と負極活物質とを含有する。
【0025】
2.1 負極活物質
本発明の負極用バインダー組成物を用いて製造される負極用スラリーに使用される負極活物質としては、例えば炭素材料、ケイ素原子を含む活物質、鉛化合物、錫化合物、砒素化合物、アンチモン化合物、アルミニム化合物などを挙げることができる。
上記炭素材料としては、例えばアモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維などを挙げることが得きる。
上記ケイ素原子を含む活物質としては、例えばケイ素単体、ケイ素酸化物、ケイ素合金などを挙げることができるほか、特許文献6(特開2004−185810号公報)に記載されたケイ素材料を使用することができる。上記ケイ素酸化物としては、組成式SiO
x(0<x<2、好ましくは0.1≦x≦1)で表されるケイ素酸化物が好ましい。上記ケイ素合金としては、ケイ素と、チタン、ジルコニウム、ニッケル、銅、鉄およびモリブデンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属との合金が好ましい。これらの遷移金属のケイ化物は、高い電子伝導度を有し、且つ高い強度を有することから好ましく用いられる。また、活物質がこれらの遷移金属を含むことにより、活物質の表面に存在する遷移金属が酸化されて表面に水酸基を有する酸化物となるから、バインダーとの結着力がより良好になる点でも好ましい。ケイ素合金としては、ケイ素−ニッケル合金またはケイ素−チタン合金を使用することがより好ましく、ケイ素−チタン合金を使用することが特に好ましい。ケイ素合金におけるケイ素の含有割合は、該合金中の金属元素の全部に対して10モル%以上とすることが好ましく、20〜70モル%とすることがより好ましい。ケイ素原子を含む活物質は、単結晶、多結晶および非晶質のいずれであってもよい。
【0026】
本発明における負極用スラリーが含有する活物質としては、ケイ素原子を含む活物質を含有するものであることが好ましい。ケイ素原子は単位重量あたりのリチウムの吸蔵量がその他の活物質群と比較して大きいことから、活物質がケイ素原子を含む活物質を含有することにより、得られる蓄電デバイスの蓄電容量を高めることができ、その結果、蓄電デバイスの出力およびエネルギー密度を高くすることができる。負極用の活物質としては、ケイ素原子を含む活物質と炭素材料との混合物からなることが好ましい。炭素材料は、充放電に伴う体積変化が小さいから、負極用活物質としてケイ素原子を含む活物質と炭素材料との混合物を使用することにより、ケイ素原子を含む活物質の体積変化の影響を緩和することができ、活物質層と集電体の密着性をより向上することができる。負極用活物質は、ケイ素原子を含む活物質とグラファイトとの混合物からなることが特に好ましい。
活物質100質量%中に占めるケイ素原子を含む活物質の割合は、1質量%以上とすることが好ましく、1〜50質量%とすることがより好ましく、5〜45質量%とすることがさらに好ましく、特に10〜40質量%とすることが好ましい。
活物質の形状としては、粒状であることが好ましい。粒子の粒径(平均メジアン粒径)としては、0.1〜100μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。
活物質の使用割合は、負極用バインダー組成物中の(A)重合体の量が活物質100質量に対して、0.1〜25質量部となる割合とすることが好ましく、0.5〜15質量部となる割合とすることがより好ましい。このような使用割合とすることにより、密着性により優れ、しかも電極抵抗が小さく充放電特性により優れた負極を製造することができることとなる。
【0027】
2.2 その他の成分
本発明における負極用スラリーは、負極用バインダー組成物および負極活物質以外に、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。このようなその他の成分としては、例えば導電付与剤、増粘剤、液状媒体などを挙げることができる。
【0028】
2.2.1 導電付与剤
導電付与剤の具体例としては、リチウムイオン二次電池においてはカーボンなどを挙げることができる。カーボンとしては、活性炭、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレンなどを挙げることができる。これらの中でも、アセチレンブラックまたはケッチェンブラックを好ましく使用することができる。導電付与剤の割合は、活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは1〜15質量部であり、特に2〜10質量部であることが好ましい。
【0029】
2.2.2 増粘剤
負極用スラリーは、その塗工性を改善する観点から、増粘剤を含有することができる。増粘剤の具体例としては、例えば例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;
上記セルロース誘導体のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;
ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸などのポリカルボン酸;
上記ポリカルボン酸のアルカリ金属塩;
ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール系(共)重合体;
(メタ)アクリル酸、マレイン酸およびフマル酸などの不飽和カルボン酸と、ビニルエステルとの共重合体の鹸化物などの水溶性ポリマーなどを挙げることができる。
増粘剤の使用割合としては、負極用スラリー中の増粘剤の重量Wvと活物質の重量Waとの比Wv/Waが0.001〜0.1となる割合であることが好ましく、0.005〜0.05であることがより好ましい。
【0030】
2.2.3 液状媒体
負極用スラリーは、負極用バインダー組成物を含有するから、負極用バインダー組成物が含有していた(D)液状媒体を含有することとなる。しかしながら負極用スラリーは、負極用バインダー組成物から持ち込まれた(D)液状媒体に加えて、さらなる液状媒体を追加で含有していてもよい。
負極用スラリーに追加含有される液状媒体は、負極用バインダー組成物に含有されていた液状媒体と同種であってもよく、異なっていてもよいが、負極用バインダー組成物における液状媒体について上述した液状媒体から選択して使用されることが好ましい。
負極用スラリーにおける液状媒体(負極用バインダー組成物からの持ち込み分を含む。)の使用割合は、負極用スラリーの固形分濃度(負極用スラリー中の液状媒体以外の成分の合計質量が負極用スラリーの全質量に占める割合をいう。以下同じ。)が、30〜70質量%となる割合とすることが好ましく、40〜60質量%となる割合とすることがより好ましい。
【0031】
2.3 負極用スラリーの製造方法
負極用スラリーは、上記の各成分を含有するものである限り、どのような方法によって製造されたものであってもよい。
しかしながら、より良好な分散性および安定性を有する負極用スラリーを、より効率的且つ安価に製造するとの観点から、負極用バインダー組成物に、活物質および必要に応じて用いられる任意的添加成分を加え、これらを混合することにより製造することができる。
負極用バインダー組成物とその他の成分とを混合するためには、公知の手法による攪拌によって行うことができる。
負極用スラリーの調製(各成分の混合操作)は、少なくともその工程の一部を減圧下で行うことが好ましい。これにより、得られる活物質層内に気泡が生じることを防止することができる。減圧の程度としては、絶対圧として、5.0×10
4〜5.0×10
5Pa程度とすることが好ましい。
負極用スラリーを製造するための混合撹拌としては、スラリー中に活物質粒子の凝集体が残らない程度に撹拌し得る混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度は粒ゲージにより測定可能であるが、少なくとも100μmより大きい凝集物がなくなるように混合分散することが好ましい。このような条件に適合する混合機としては、例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、脱泡機、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを例示することができる。
【0032】
3.蓄電デバイス用負極の製造方法
上記のような負極用スラリーを用いて、蓄電デバイス用負極を製造することができる。
蓄電デバイス用負極は、金属箔などの適宜の集電体の表面に、本発明の負極用バインダー組成物を用いて製造された負極用スラリーを塗布して塗膜を形成し、次いで該塗膜から液状媒体を除去することにより、製造される。このようにして製造された負極は、集電体上に、前述の(A)重合体および活物質、さらに必要に応じて使用される任意添加成分を含有する活物質層が結着されてなるものである。負極用バインダー組成物および負極用スラリーに含有されていた(B)水は、液状媒体の除去工程の最中に除去され、得られる活物質層における存在濃度は低いものと考えられる。
集電体の表面に、本発明の負極用バインダー組成物を用いて製造された負極用スラリーから形成された層を有する負極は、集電体と活物質層間と間の結着性に優れるとともに、充放電サイクルを繰り返した時の充放電容量の劣化の程度が少ないものである。
【0033】
3.1 集電体
集電体は、導電性材料からなるものであれば特に制限されない。リチウムイオン二次電池においては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属製の集電体が使用されるが、特に正極にアルミニウムを、負極に銅を用いた場合、本発明の負極用スラリーの効果が最もよく現れる。ニッケル水素二次電池における集電体としては、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、網状金属繊維焼結体、金属メッキ樹脂板などが使用される。
集電体の形状および厚さは特に制限されない集電体の厚さは、1〜500μmであることが好ましく、5〜150μmであることがより好ましく、特に10〜50μmであることが好ましい。集電体の形状としてはシート状のものが好ましく使用される。
【0034】
3.2 蓄電デバイス用負極の形成方法
本発明の蓄電デバイス用負極は、集電体上に、
少なくとも活物質、負極用バインダー組成物を含有する負極用スラリーを塗布して塗膜を形成し、次いで該塗膜を加熱して該塗膜から前記分散媒を除去する工程を経て前記基板上に活物質層を形成することにより、製造することができる。分散媒除去工程においては、(B)水も除去されるものと考えられる。
負極用スラリーの集電体への塗布方法については、特に制限はない。塗布は、例えばドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、浸漬法、ハケ塗り法などの適宜の方法によることができる。負極用スラリーの塗布量も特に制限されないが、液状媒体を除去した後に形成される活物質層の厚さが、5〜250μmとなる量とすることが好ましく、20〜100μmとなる量とすることがより好ましい。
塗布後の塗膜からの液状媒体の除去方法についても特に制限されず、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥;真空乾燥;(遠)赤外線、電子線などの照射による乾燥などによることができる。乾燥速度としては、応力集中によって活物質層に亀裂が入ったり、活物質層が集電体から剥離したりしない程度の速度範囲の中で、できるだけ早く液状媒体が除去できるように適宜に設定することができる。
加熱温度は、塗膜中の負極用バインダー組成物の有するアミック酸構造が完全に熱イミド化しない範囲とすることが好ましい。このような要請から、分散媒を除去する工程における加熱温度は、150℃を超えない温度とすることが好ましく、130℃を超えない温度とすることがより好ましい。加熱時間は、0.5〜30分とすることが好ましく、1〜15分とすることがより好ましい。
【0035】
さらに、液状媒体除去後の集電体をプレスすることにより、活物質層の密度を高めることが好ましい。プレス方法としては、金型プレス、ロールプレスなどの方法が挙げられる。プレスの条件は、使用するプレス機器の種類および活物質層の密度の所望値によって適宜に設定されるべきである。この条件は、当業者による少しの予備実験により、容易に設定することができるが、例えばロールプレスの場合、ギャップ式、加圧式のどちらでもよく、その線圧力は0.1〜10t/cm、好ましくは0.5〜5t/cmの圧力において、例えばロール温度が20〜100℃において、分散媒除去後の塗膜の送り速度(ロールの回転速度)が1〜80m/分、好ましくは5〜50m/分で行うことができる。
プレス後の活物質層の密度は、1.2〜1.9g/cm
3とすることが好ましく、1.3〜1.8g/cm
3とすることがより好ましい。
プレス後の塗膜は、さらに、減圧下で加熱して液状媒体を完全に除去することが好ましい。この場合の減圧の程度としては、絶対圧として50〜200Paとすることが好ましく、75〜150Paとすることがより好ましい。加熱温度としては、負極用バインダー組成物中のポリアミック酸構造が全て熱イミド化しない温度範囲が好ましく、100〜300℃とすることが好ましく、150〜200℃とすることがより好ましい。加熱時間は、2〜12時間とすることが好ましく、4〜8時間とすることがより好ましい。
負極用スラリーを用いて集電体上に活物質層を形成するためのいずれの工程においても工程温度が200℃を超えないことが好ましく、180℃を超えないことがより好ましい。ここで、活物質層を形成するための工程とは、上記の負極用スラリーの塗布工程および塗膜からの分散媒の除去工程ならびに任意的に行われるプレス工程、減圧下における加熱工程、プレス工程など、およそ当業者が活物質層を形成するために行う工程のすべてを含む。上記工程温度とは、負極用スラリー、集電体または活物質層自体の温度、これらを囲繞する周囲雰囲気の温度、これらに接触または近接する装置・器具などの温度をいう。
このようにして製造された蓄電デバイス用負極は、集電体と活物質層との間の密着性に優れるとともに、電気的特性の一つであるサイクル特性が良好である。
【0036】
4. 蓄電デバイス
上記のような本発明の蓄電デバイス用負極を用いて、蓄電デバイスを製造することができる。
蓄電デバイスは、前述した負極を備えるものであり、さらに電解液を含有し、セパレータなどの部品を用いて、常法に従って製造することができる。具体的な製造方法としては、例えば、前述の負極と、その対極としての正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に収納し、該電池容器に電解液を注入して封口する方法などを挙げることができる。電池の形状は、コイン型、円筒型、角形、ラミネート型など、適宜の形状であることができる。
電解液は、液状でもゲル状でもよく、活物質の種類に応じて、蓄電デバイスに用いられる公知の電解液の中から電池としての機能を効果的に発現するものを選択すればよい。
電解液は、電解質を適当な溶媒に溶解した溶液であることができる。
【0037】
上記電解質としては、例えばリチウムイオン二次電池においては、従来から公知のリチウム塩のいずれをも使用することができ、その具体例としては、例えばLiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiB
10Cl
10、LiAlCl
4、LiCl、LiBr、LiB(C
2H
5)
4、LiCF
3SO
3、LiCH
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、低級脂肪酸カルボン酸リチウムなどを例示することができる。
上記電解質を溶解するための溶媒は、特に制限されるものではないが、その具体例として、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネートなどのカーボネート化合物;
γ−ブチルラクトンなどのラクトン化合物;
トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル化合物;
ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド化合物などを挙げることができ、これらのうちから選択される一種以上を使用することができる。
電解液中の電解質の濃度としては、好ましくは0.5〜3.0モル/Lであり、より好ましくは0.7〜2.0モル/Lである。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下における重合体溶液の溶液粘度、バインダー組成物中の(B)水の含有量は、それぞれ以下のようにして測定した。
<重合体溶液の溶液粘度>
各合成例で得た重合体溶液の溶液粘度は、E型回転粘度計を用いて25℃で測定した値である。
<バインダー組成物中の(B)水の含有量>
以下の各実施例および比較例で調製したバインダー組成物中の(B)水の含有量は、カールフィッシャー水分計(三菱化学社製、型番「CA−100型」)によって測定した。
【0039】
<重合体の合成>
合成例1
攪拌装置、温度計およびコンデンサーを備えた容量3Lのフラスコ内部を、減圧した状態でヒートガンで加熱して容器内部の残存水分を除去した後、乾燥窒素ガスを満たした。このフラスコに、溶媒として予め水素化カルシウムを用いた脱水蒸留法により脱水処理を施したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)1,161g、テトラカルボン酸二無水物として3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物78.945g(245.0ミリモル)およびジアミンとして4,4’−ジアミノジフェニルエーテル50.059g(250.0ミリモル)を仕込み、25℃において3時間攪拌下に反応を行うことにより、ポリアミック酸Q1を10質量%含有する重合体溶液を得た。
この重合体溶液の溶液粘度は7,300mPa・sであった。
【0040】
合成例2〜6および比較合成例1〜3
上記合成例1において、テトラカルボン酸二無水物およびジアミンを、それぞれ第1表に示す組成で使用したほかは合成例1と同様にしてポリアミック酸Q2〜6およびR1〜3をそれぞれ10質量%含有する重合体溶液を得た。これら重合体溶液の溶液粘度を第1表に合わせて示した。
【0041】
合成例7
上記合成例1と同様にして、ポリアミック酸を10質量%含有する重合体溶液を得た。この重合体溶液に、ピリジン3.96gおよび無水酢酸5.11gを加え、110℃で4時間攪拌下にイミド化反応を行った。
得られた反応溶液をメタノールに投入し、生成した沈殿を回収して減圧乾燥し、ポリアミック酸のイミド化重合体Q7を白色固体として得た。得られたイミド化重合体酸を、濃度10質量%となるようにNMPに溶解することにより、重合体溶液を得た。
この重合体溶液の溶液粘度は8,100mPa・sであり、該重合体溶液に含有される重合体Q7のイミド化率は20%であった。
イミド化率は、得られた重合体溶液から減圧で溶媒を除去して回収した重合体を重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温で測定した
1H−NMRのチャートから、下記数式(1)により求めた。
イミド化率(%)=(1−A1/A2×α)×100 (1)
(数式(1)中、A1は化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、A2はその他のプロトン由来のピーク面積であり、αはイミド化重合体の前駆体であるポリアミック酸におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0042】
【表1】
【0043】
第1表における各成分の略称は、それぞれ以下の意味である。
<テトラカルボン酸二無水物>
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
PMDA:1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物
TDA:4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−カルボン酸無水物
<ジアミン>
DDE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
DDP:4,4’−ジアミノビフェニル
【0044】
<活物質の合成>
合成例8
粉砕した二酸化ケイ素粉末(平均粒径10μm)と炭素粉末(平均粒径35μm)との混合物を、温度を1,100〜1,600℃の範囲に調整した電気炉中で、窒素気流下(0.5NL/分)、10時間の加熱処理を行い、組成式SiOx(x=0.5〜1.1)で表される酸化ケイ素の粉末(平均粒径8μm)を得た。
この酸化ケイ素の粉末300gをバッチ式加熱炉内に仕込み、真空ポンプにより絶対圧100Paの減圧を維持しながら、300℃/hの昇温速度にて室温(25℃)から1,100℃まで昇温した。次いで、加熱炉内の圧力を2,000Paに維持しつつ、メタンガスを0.5NL/分の流速にて導入しながら、1,100℃、5時間の加熱処理(黒鉛被覆処理)を行った。黒鉛被覆処理終了後、50℃/hの降温速度で室温まで冷却することにより、黒鉛被覆酸化ケイ素の粉末約330gを得た。
この黒鉛被覆酸化ケイ素は、酸化ケイ素の表面が黒鉛で被覆された導電性の粉末(活物質)であり、その平均粒径は10.5μmであり、得られた黒鉛被覆酸化ケイ素の全体を100質量%とした場合の黒鉛被覆の割合は2質量%であった。
【0045】
実施例1
(1)バインダー組成物の調製
アルゴン置換されたグローブボックス中で、重合体として上記合成例1で得たポリアミック酸Q1を含有する重合体溶液100g(ポリアミック酸Q1を10g含有する。)に、マイクロシリンジを用いて水を2μL添加することにより、バインダー組成物を調製した。
このバインダー組成物中の水の含有量を上記の方法によって測定したところ、バインダー組成物100質量部に対して0.003質量部であった。
【0046】
(2)バインダー組成物の密着性試験
上記で調製した(A)重合体P1を、10cm四方の銅板上およびガラス板上に、溶媒除去後の膜厚が90μmになるようにそれぞれ塗布し、150℃において15分加熱することにより、銅板上およびガラス板上にそれぞれバインダーの薄膜を形成した。
上記で形成した2種類のバインダー薄膜について、JIS K5400に準拠した碁盤目剥離試験をそれぞれ行った。
具体的には、カッターを用いて、薄膜の表面から銅板またはガラス板に達する深さまでの切り込みを1mm間隔で縦横それぞれ11本入れ、薄膜を碁盤目状の100マスの領域に分割した。これら100マスの領域の全域の表面に粘着テープ((株)テラオカ製、品番「650S」)を貼り付けて直ちに引き剥がした後、残存したマス目数をカウントした。
評価結果は、100マス中の残存したマス目の数として第1表に示した。
残存したマス目数が80個以上であるとき、密着性は良好と判断でき、残存したマス目数が80個未満であるとき、密着性は不良と判断できる。
なお、本発明者らの検討により、活物質層と集電体との密着性は、本試験における銅板と重合体フィルムとの間の密着性と比例の関係があることが経験的に明らかとなっている。また、活物質同士を結着するバインダーとしての結着性は、本試験におけるガラス板と重合体フィルムとの間の密着性と比例の関係があることが経験的に明らかとなっている。このため、ガラス板と重合体フィルムとの間の密着性が良好である場合、活物質同士を結着する重合体のバインダーとしての密着性が良好であると推定することができ、
Cu板と重合体フィルムとの間の密着性が良好である場合、集電体と活物質層の密着性が良好であると推定することができる。
この場合、残存するマス目の数が80個以上であれば密着性が良好であると判断することができ、
この数が90個以上であれば密着性が優良であると判断することができる。残存するマス目の数は、最も好ましくは碁盤目100個中100個である。
【0047】
(3)負極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス(株)製、商品名「TKハイビスミックス 2P−03」)中に、負極活物質として、平均粒子径22μmのグラファイト(日立化成工業(株)製、製品名「SMG−HE1」)80質量部(固形分換算)および上記合成例8で調製した黒鉛被覆酸化ケイ素20質量部ならびに導電付与剤としてアセチレンブラック(電気化学工業(株)製、商品名「デンカブラック50%プレス品」)1質量部を投入して20rpmで3分間混合した。次いでさらに上記で調製したバインダー組成物を100質量部およびNMP20質量部を投入して、60rpmで1時間攪拌を行った。
その後、攪拌脱泡機((株)シンキー製、商品名「ARV930−TWIN」)を使用して、絶対圧25kPaの減圧下において600rpmで5分間攪拌混合することにより、負極用スラリーを調製した。
【0048】
(4)蓄電デバイス用負極の製造
厚み10μmの銅箔からなる集電体の表面に、上記「(3)負極用スラリーの調製」で調製した負極用スラリーを、溶媒除去後の活物質層の質量が4.50mg/cm
2になるように膜厚を調整してドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で5分間乾燥処理して塗膜を形成した。次いで上記塗膜を、ギャップ間調整式ロールプレス機(テスター産業(株)製、商品名「SA−601」)を用いて、ロール温度30℃、線圧力1t/cmおよび送り速度0.5m/分の条件でプレスし、負極層の密度が1.60g/cm
3となるように調整した。さらに、絶対圧100Paの減圧下、160℃において6時間加熱して活物質層を形成することにより、蓄電デバイス用負極を得た。
【0049】
(5)蓄電デバイスの製造
露点が−80℃以下となるようアルゴン置換されたグローブボックス内で、上記「(4)蓄電デバイス用負極の製造」において製造した負極を直径15.5mmに打ち抜き成型したものを、活物質層を上側にして、2極式コインセル(宝泉(株)製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(セルガード(株)製、商品名「セルガード#2400」)を上記の負極上に載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、対電極(正極)として厚さ200μmのリチウム箔を直径16.6mmに打ち抜き成型したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムイオン電池セル(蓄電デバイス)を組み立てた。
ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPF
6を1mol/Lの濃度で溶解した溶液である。
この操作を繰り返し、合計2個の蓄電デバイスを製造した。このうちの1個を「(6)蓄電デバイスの評価(充放電サイクル特性の評価)」に供し、もう1個を「(7)活物質層の膜厚変化率の評価」に供した。
【0050】
(6)蓄電デバイスの評価(充放電サイクル特性の評価)
上記「(4)蓄電デバイスの製造」で製造した蓄電デバイスにつき、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で引き続き定電圧(0.01V)にて充電を継続し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)として、初回充放電を終了した。
次に、初回充放電を行った上記の蓄電デバイスにつき、0.5Cの充放電を、以下のようにして行った。
先ず定電流(0.5C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で引き続き定電圧(0.01V)にて充電を継続し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、0.5Cにおける放電容量(1サイクル目の0.5C放電容量=A)を測定した。
この0.5Cの充放電を繰り返し行い、10サイクル目の0.5C放電容量をBとしたとき、10サイクル後の容量維持率を下記数式(2)によって算出した。
容量維持率(%)=B/A×100 (2)
評価結果は第2表に示した。
この10サイクル後の容量維持率の値が90%以上95%未満であれば充放電サイクル特性は優良であると判断することができ、そして
95%以上であれば、充放電サイクル特性は極めて優良であると判断することができる。
100サイクル後の放電容量維持率は、上記10サイクル後さらに100回までサイクルを繰り返して、同様に算出し、評価した。
【0051】
(7)活物質層の膜厚変化率の評価
上記「(4)蓄電デバイスの製造」で得た蓄電デバイスにつき、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で引き続き定電圧(0.01V)にて充電を継続し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)として、初回充放電を終了した。
次に、初回充放電を行った上記蓄電デバイスにつき、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で引き続き定電圧(0.01V)にて充電を継続し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。
この蓄電デバイスを露点が−60℃以下のドライルーム内(室温25℃)で解体し、蓄電デバイス用電極(負極)を取り出した。引き続きドライルーム内でこの負極をジメチルカーボネート中に1分間浸漬して洗浄した。負極をジメチルカーボネートから取り出した後、ドライルーム内に30分間静置することにより、ジメチルカルボネートを気化させて除去した。
この、充電後の負極の活物質層膜厚を測定し、予め測定しておいた製造直後の負極(未充電状態)の活物質層膜厚に対する充電後の負極の活物質層膜厚の比率を、下記数式(3)によって算出した。
充電後の膜厚比率(%)=(充電後の膜厚)/(製造直後の膜厚)×100 (3)
評価結果は第2表に示した。
この値が120%を超える場合には、活物質層において、充電に伴う活物質の体積膨張が緩和されていないことを示し、活物質に機械的応力が加えられると活物質が剥落する懸念がある。一方、この値が120%以下であると、充電に伴って活物質が体積膨張するにもかかわらず活物質が活物質層内に強固に保持されていることを示しており、活物質の剥落が抑制された良好な電極であると評価することができる。
【0052】
実施例2〜9および比較例1〜3
アルゴン置換されたグローブボックス中で、重合体としてそれぞれ第2表に示した重合体を含有する重合体溶液100g(重合体を各10g含有する。)に、マイクロシリンジを用いて水を第2表に記載の量だけ添加することにより、バインダー組成物を調製した。比較例2および3においては、水の添加を行わなかった。
このバインダー組成物中の水の含有量を上記の方法によって測定した結果を、バインダー組成物100質量部に対する値として、第2表に示した。
上記で調製したバインダー組成物を用い、第2表に記載した種類および量の組成比で活物質を使用したほかは実施例1と同様にして負極用スラリーを調整し、蓄電デバイスの製造、評価を行った。
評価結果は第2表に示した。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
表2における各成分の略称は、それぞれ以下の意味である。
<活物質>
C/Si:上記合成例8で調製した黒鉛被覆酸化ケイ素
グラファイト:日立化成工業(株)製、品名「SMG−HE1」
なお、表中「ND」は、バインダー組成物を分析したが、検出対象物質(水)が検出されなかったことを示す。