特許第5904430号(P5904430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5904430変性ゴム及びその製造方法、ゴム組成物、並びにタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5904430
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】変性ゴム及びその製造方法、ゴム組成物、並びにタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08C 19/22 20060101AFI20160331BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20160331BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20160331BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20160331BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20160331BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   C08C19/22
   C08L15/00
   C08K5/54
   C08K3/04
   C08K3/36
   B60C1/00 A
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-544238(P2015-544238)
(86)(22)【出願日】2015年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2015075257
【審査請求日】2015年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-186074(P2014-186074)
(32)【優先日】2014年9月12日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岩田 智希
(72)【発明者】
【氏名】上等 和良
(72)【発明者】
【氏名】酒井 悠
(72)【発明者】
【氏名】影山 拓哉
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−117323(JP,A)
【文献】 特開平04−046966(JP,A)
【文献】 特開平03−064576(JP,A)
【文献】 特開2001−139728(JP,A)
【文献】 特表2013−522408(JP,A)
【文献】 特表2009−544806(JP,A)
【文献】 特開2009−108204(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/119694(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/00−19/44
C08F 2/00−246/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム及び合成ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムを、式(1)で表される化合物によって変性させて得られる、変性ゴム(A)。
【化1】
(式中、Xは、グアニジン部位と塩を形成している酸である。)
【請求項2】
前記天然ゴム及び合成ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムと前記式(1)で表される化合物とを、20〜180℃の温度下で混合して得られる、請求項1に記載の変性ゴム(A)。
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物の使用量が、前記ゴムの総量に対して、0.01〜10質量%である、請求項1又は2に記載の変性ゴム(A)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の変性ゴム(A)、無機充填材(B)を含む充填材、及びシランカップリング剤(C)を含有する、
ゴム組成物。
【請求項5】
前記無機充填材(B)がシリカである、請求項4に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記充填材がカーボンブラックを含む、請求項4又は5に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記式(1)で表される化合物と、前記天然ゴム及び合成ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムと、前記無機充填材(B)を含む充填材と、前記シランカップリング剤(C)とを混合して得られ、
請求項4〜6のいずれか一項に記載の変性ゴム(A)を少なくとも一部含有する、ゴム組成物。
【請求項8】
混合時の温度が、20〜180℃の範囲にある、請求項7に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記式(1)で表される化合物の使用量が、前記ゴムの総量に対して、0.01〜10質量%である、請求項7又は8に記載のゴム組成物。
【請求項10】
請求項4〜9のいずれか一項に記載のゴム組成物をタイヤ部材のトレッドに用いた、タイヤ。
【請求項11】
天然ゴム及び合成ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムを、式(1)で表される化合物によって変性させる工程を有する、変性ゴム(A)の製造方法。
【化2】
(式中、Xは、グアニジン部位と塩を形成している酸である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ゴム、ゴム組成物、及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
充填材は、ゴムに混合して、ゴムを補強又は増量する、ゴムに特殊機能を付与する等の目的で用いられる配合剤である。充填材として代表的なカーボンブラックは、ゴムの弾性率、破断強度等の力学特性の向上(補強効果)に寄与しており、かつ、ゴムに導電性を付与する等の機能も有している。
【0003】
また、カーボンブラックと同様にゴムの補強効果が得られ、かつ、発熱性の低い、即ち低ロス性であるゴム組成物を得ることができる充填材として、シリカ等の無機充填材が知られている。そのシリカ等の無機充填材は、環境性に配慮した低燃費タイヤ向けのゴム組成物等に用いられている。
【0004】
無機充填材を配合するゴム組成物において、無機充填材を配合する際、無機充填材、特に表面にシラノール基を有する親水性のシリカは、疎水性のゴムとの親和性が低く、ゴム組成物中で凝集してしまう。よって、シリカによる補強性を高め、低発熱効果を得るには、シリカとゴムとの親和性を高める必要がある。その方法として、極性基で末端変性することにより無機充填材との親和性を向上させた合成ゴム(例えば、特許文献1参照)、極性基含有単量体を共重合させて無機充填材との親和性を向上させた合成ゴム(例えば、特許文献2参照)等が知られている。天然ゴムを変性して極性基を導入する方法としては、天然ゴムを酸化した後、極性基を有するヒドラジド化合物で変性する方法(例えば、特許文献3参照)、極性基を導入した変性天然ゴムとシリカを含むゴム組成物にシランカップリング剤を添加することにより、シリカの分散性を更に向上させる方法(例えば、特許文献4参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−209253号公報
【特許文献2】特開2011−38009号公報
【特許文献3】特開2009−108204号公報
【特許文献4】特開2011−246513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
今後、大気中の二酸化炭素濃度上昇、大気汚染等の環境問題に対する世の中の関心はますます高くなることが予想され、タイヤの転がり抵抗を抑え、自動車の低燃費化につながる、変性ゴム、該変性ゴムとシリカ等の無機充填材を含有する、低ロス性に優れたゴム組成物、及びタイヤを提供する技術が求められている。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、シリカ等の無機充填材を含有するゴム組成物としたときに低ロス性及び破断強度を向上させることができる変性ゴムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、天然ゴム及び合成ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムを、特定の構造を有する化合物によって変性させて得られる、変性ゴムを用いることによって、ゴム組成物としたときに低ロス性及び破断強度が向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は下記の通りである。
【0010】
[1]
天然ゴム及び合成ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムを、式(1)で表される化合物によって変性させて得られる、変性ゴム(A)。
【化1】
(式中、Xは、グアニジン部位と塩を形成している酸である。)
[2]
前記天然ゴム及び合成ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムと前記式(1)で表される化合物とを、20〜180℃の温度下で混合して得られる、[1]に記載の変性ゴム(A)。
[3]
前記式(1)で表される化合物の使用量が、前記ゴムの総量に対して、0.01〜10質量%である、[1]又は[2]に記載の変性ゴム(A)。
[4]
[1]〜[3]のいずれかに記載の変性ゴム(A)、無機充填材(B)を含む充填材、及びシランカップリング剤(C)を含有する、ゴム組成物。
[5]
前記無機充填材(B)がシリカである、[4]に記載のゴム組成物。
[6]
前記充填材がカーボンブラックを含む、[4]又は[5]に記載のゴム組成物。
[7]
前記式(1)で表される化合物と、前記天然ゴム及び合成ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムと、前記無機充填材(B)を含む充填材と、前記シランカップリング剤(C)とを混合して得られ、
[4]〜[6]のいずれかに記載の変性ゴム(A)を少なくとも一部含有する、ゴム組成物。
[8]
混合時の温度が、20〜180℃の範囲にある、[7]に記載のゴム組成物。
[9]
前記式(1)で表される化合物の使用量が、前記ゴムの総量に対して、0.01〜10質量%である、[7]又は[8]に記載のゴム組成物。
[10]
[4]〜[9]のいずれかに記載のゴム組成物をタイヤ部材のトレッドに用いた、タイヤ。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る変性ゴムによれば、低ロス性及び破断強度に優れたゴム組成物を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0013】
<変性ゴム>
本実施形態の変性ゴム(A)(以下、単に「変性ゴム」ともいう。)は、天然ゴム及び合成ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴム(以下、「原料ゴム」、単に「ゴム」ともいう。)を、式(1)で表される化合物(以下、「ゴム変性剤」、単に「変性剤」ともいう。)によって変性させて得られる。
【化2】
式中、Xは、グアニジン部位と塩を形成している酸である。
【0014】
本実施形態の変性ゴム(A)の原料ゴムとしては、天然ゴム、合成ゴム、及びその両方のいずれも用いることができるが、特に天然ゴムを用いた場合に本実施形態の効果を顕著に得ることができ、好適である。合成ゴムは、上記特許文献1に示されている極性基で末端変性することにより無機充填材との親和性を向上させた合成ゴム、又は上記特許文献2に示されている極性基含有単量体を共重合させて無機充填材との親和性を向上させた合成ゴムのように、重合時に極性基を簡便に導入できるのに対し、天然ゴムはそのような手法を用いることができないからである。
【0015】
天然ゴムとしては、特に限定されないが、天然ゴムラテックスを凝固、乾燥して得られるシートゴム、ブロックゴムのいずれの形状も原料として用いることができる。シートゴムとしては、特に限定されないが、「天然ゴム各種等級品の国際品質包装基準」(通称グリーンブック)の格付けにより分類した、シートを煙で燻しながら乾燥させたリブドスモークドシート(RSS)、シートを熱風乾燥させたエアドライシート(ADS)凝固物を充分に水洗し熱風で乾燥させたクレープ等が挙げられ、この他に、TCラバー(Technically Classified Rubber)、SPラバー(Super Processing Rubber)、MGラバー、PPクレープ、軟化剤、しゃく解剤添加ゴム等が挙げられる。ブロックゴムとしては、特に限定されないが、マレーシアのSMR(Standard Malaysian Rubber)、インドネシアのSIR、タイのTTR、スリランカのSCR、シンガポールのSSR等が挙げられる。これら天然ゴム原材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
また、天然ゴムラテックスを酸化処理した後に凝固させたゴムを用いてもよく、天然ゴムラテックスの酸化は公知の方法で行うことができる。例えば、特開平8−81505号公報の記載に従って、有機溶剤に1.0〜30質量%の割合で溶解した天然ゴムラテックスを金属系酸化触媒の存在下で空気酸化することによって天然ゴムラテックスの酸化を行うことができる。また、特開平9−136903号公報に記載されているように、天然ゴムラテックスにカルボニル化合物を添加して、酸化を行うこともできる。酸化方法として空気酸化を行う場合は、特開平9−136903号公報に記載されているように、空気酸化を促進するためにラジカル発生剤の存在下で空気酸化を行ってもよい。ラジカル発生剤としては、特に限定されないが、過酸化物系ラジカル発生剤、レドックス系ラジカル発生剤、アゾ系ラジカル発生剤が好適に用いられる。
【0017】
変性ゴム(A)の原料として用いることのできる合成ゴムとしては、特に限定されないが、1,4−ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン、1,4−ポリイソプレン、3,4−ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、末端変性スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等の、分子内に二重結合を有するジエン系ゴムが挙げられる。
【0018】
本実施形態では、上記した天然ゴム、合成ゴム、変性ゴムのいずれを用いてもよい。これらを1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
本実施形態のゴム変性剤は、上述した式(1)で表される化合物(以下、「1,3−ジアミノグアニジン塩」、又は「ジアミノグアニジン塩」ともいう。)である。
【化3】
(式中、Xは、グアニジン部位と塩を形成している酸である。)
【0020】
本実施形態の変性ゴムをゴム組成物に用いたときに、低ロス性に優れる要因は次のように推察される(ただし、要因はこれに限定されない)。上記変性剤とゴムとが反応して得られる変性ゴムは、変性剤由来のヒドラジン部位がゴムと結合している。変性剤は、2官能のヒドラジン部位を有しているため、各々がゴムと結合することに起因して、破断強度が向上する。変性ゴムは、アミノ基等の極性基を有するため、無機充填材の極性基、特にシリカの場合はシリカ表面のシラノール基と親和性が向上することにより、ゴム−無機充填材間の密着性が向上して、タイヤ等のゴム成形体を得たときに、低ロス性に優れたゴム成形体となる。特に、変性剤由来のグアニジン部位が、変性ゴムの極性基として働き、シリカ表面のシラノール基と水素結合を強く形成することに起因して、ゴム−無機充填材間の密着性向上に寄与している。この強い水素結合の形成は、グアニジン部位が有する、極性の高さ、塩基性の強さ等に起因している。
【0021】
1,3−ジアミノグアニジンは、その分子内に存在する複数の窒素原子によって共役酸のプラスの電荷が共鳴安定化されるため、強い塩基性を示し、通常は酸との複合体(塩)で存在する。1,3−ジアミノグアニジン塩としては、特に限定されないが、例えば、1,3−ジアミノグアニジン塩酸塩、1,3−ジアミノグアニジンヨウ化水素酸塩、1,3−ジアミノグアニジン臭化水素酸塩、1,3−ジアミノグアニジン硫酸塩、1,3−ジアミノグアニジン硝酸塩、1,3−ジアミノグアニジンシュウ酸塩、1,3−ジアミノグアニジンリン酸塩、1,3−ジアミノグアニジン炭酸塩、1,3−ジアミノグアニジン酢酸塩、1,3−ジアミノグアニジンスルファミン酸塩、1,3−ジアミノグアニジン過塩素酸塩、1,3−ジアミノグアニジンケイ酸塩、1,3−ジアミノグアニジンホウ酸塩、1,3−ジアミノグアニジンフェニルホスフィン酸塩が挙げられる。これらの中でも、商業的に入手が容易な1,3−ジアミノグアニジン塩酸塩、1,3−ジアミノグアニジン硫酸塩、1,3−ジアミノグアニジン炭酸塩、1,3−ジアミノグアニジン硝酸塩が好ましく、製造時の精製の容易さから1,3−ジアミノグアニジン塩酸塩、1,3−ジアミノグアニジン炭酸塩が好ましい。
【0022】
次に、本実施形態の変性ゴムの製造法について述べる。本実施形態の変性ゴムは、特に限定されないが、例えば、式(1)で表される化合物である変性剤及びゴムをミキサー、押出機、混練機等を用いて混ぜ合わせることにより得られる。その中でも、分散性向上の点から混練機で混合することが好ましい。変性剤をミキサー、押出機、混練機等に添加する方法として、粉体をそのまま添加する方法、溶媒に溶解させて溶液として添加する方法、エマルジョン溶液として添加する方法、のいずれを用いてもよい。
【0023】
本実施形態の変性ゴムを得るための反応条件は、特に限定されないが、ゴムと変性剤とを、20〜180℃の温度下で混合し、変性させることが好ましく、50〜160℃の温度下で混合し、変性させることがより好ましい。20℃〜180℃の温度下であるとゴムと変性剤を十分に混合することができ、更に変性剤の分解を抑えることができる傾向にある。ゴムの混練時間は上記反応温度で0.5〜30分間となるように調節されることが好ましく、2.0〜10分間であるとより好ましい。0.5〜30分間であると生産性を悪化させることなくゴムと変性剤を十分に反応させることができる傾向にある。反応の雰囲気としては、空気下等の酸素存在下で行うことが好ましい。酸素存在下で混練することにより、ゴムが一部酸化されて変性剤との反応性が向上する傾向にあるためである。
【0024】
また、本実施形態の変性ゴムは、変性剤とゴムを一度に押出機、混練機等で混ぜ合わせることによっても得られるが、天然ゴムラテックスを酸化処理した後に凝固させたゴムを用いる手法や、変性剤を添加する前に素練りと呼ばれる原料ゴムに機械力を加え分子凝集(会合)をほぐし分子鎖を切断してゴムの可塑度を加工しやすいレベルに調節する工程を行う手法を用いることも、変性剤とゴムの反応性を向上させることができる傾向にあるため好ましい。上記の素練り工程は、しゃく解剤(ペプタイザー)を用いてもよい。
【0025】
変性剤、ゴム、無機充填材、及びシランカップリング剤に、必要に応じて適宜選択した各種配合剤を配合し、ミキサー、押出機、混練機等を用いて混合することによっても、ゴム組成物中に変性ゴムが一部生成する。この手法は、上記の変性剤及びゴムを混ぜ合わせる手法より作業効率の点で好ましい。この操作を行うと、本実施形態のゴム組成物を得ることができる。
【0026】
本実施形態の変性ゴムを製造するに際して用いる変性剤の使用量は、得られた変性ゴムが、ゴムの各分子に万遍なく少量の極性基が導入されることにより、加工性を低下させずにシリカ、カーボンブラック等の充填材に対する親和性が向上し、低ロス性に優れたゴム組成物を与える点から、原料ゴムの総量(100質量%)に対して、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.1〜3.0質量%であることがより好ましい。
【0027】
<ゴム組成物>
本実施形態のゴム組成物は、変性ゴム(A)、無機充填材(B)を含む充填材、及びシランカップリング剤(C)を含有する。
【0028】
本実施形態のゴム組成物は、変性ゴム(A)、無機充填材(B)を含む充填材、及びシランカップリング剤(C)を混合して得られる。また、本実施形態のゴム組成物は、変性剤と、原料ゴムと、無機充填材(B)を含む充填材と、シランカップリング剤(C)とを混合して得られる、変性ゴム(A)を含有するゴム組成物としてもよい。また、その混合時の温度が、20〜180℃の範囲にあることが好ましく、50〜160℃の範囲にあることがより好ましい。さらに、その混合時において、変性剤の使用量が、原料ゴムの総量(100質量%)に対して、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.1〜3.0質量%であることがより好ましい。
【0029】
本実施形態における無機充填材(B)とは、ケイ素、典型金属又は遷移金属の酸化物又は水酸化物及びそれらの水和物、並びにこれらの金属の炭酸塩から選ばれる少なくとも一種を含む無機化合物を指す。
【0030】
無機充填材(B)として具体的には、当業界で用いられる無機充填材であれば特に限定されない。なお、後述するカーボンブラックは、ここでいう無機充填材(B)には含まれないものであり、無機充填材(B)にはあたらない。無機充填材は、表面が活性なシリカ、表面処理クレー等の補強性充填材と、炭酸カルシウム、クレー、タルク等の非補強性充填材に大別される。無機充填材(B)の具体例としては、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム(クレー)、ケイ酸マグネシウム(タルク)、ケイ酸カルシウム、亜鉛華等が挙げられる。変性ゴムとの相互作用を考慮すると、補強性充填材であることが好ましく、シリカであることがより好ましい。シリカとしては、特に限定されず、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)等を使用することができる。
【0031】
シリカを用いる場合には、BET比表面積が40〜350m/gであることが好ましい。シリカのBET比表面積がこの範囲であれば、シリカの粒子径が適切となり、引張り強度が向上し、ヒステリシスロスが低下する傾向にある。BET比表面積は、JIS Z8830:2013に準拠して測定することができる。
【0032】
本実施形態のゴム組成物に用いる充填材として、上記の無機充填材の他に、補強効果を高めるため、カーボンブラックを添加することもできる。なお、カーボンブラックは、上記の無機充填材(B)とは別異の充填材であり、無機充填材(B)とは明確に区別されるものである。カーボンブラックとしては、特に限定されないが、GPF、FEF、SRF、HAF、ISAF、SAFといった種々のグレードのもの等が挙げられる。
【0033】
本実施形態のゴム組成物における無機充填材(B)とカーボンブラックの合計含有量は、特に限定されるものではないが、加工性を悪化させず、充分な低ロス効果又は補強効果が得られる含有量として、原料ゴム100質量部に対して5.0〜100質量部の範囲にあることが好ましく、20〜80質量部の範囲にあることがより好ましい。
【0034】
本実施形態のシランカップリング剤(C)としては、特に限定されないが、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−メチルジメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、3−ヘキサノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3−デカノイルチオプロピルトリエトキシシラン、3−ラウロイルチオプロピルトリエトキシシラン、2−ヘキサノイルチオエチルトリエトキシシラン、2−オクタノイルチオエチルトリエトキシシラン、2−デカノイルチオエチルトリエトキシシラン、2−ラウロイルチオエチルトリエトキシシラン、3−ヘキサノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3−デカノイルチオプロピルトリメトキシシラン、3−ラウロイルチオプロピルトリメトキシシラン、2−ヘキサノイルチオエチルトリメトキシシラン、2−オクタノイルチオエチルトリメトキシシラン、2−デカノイルチオエチルトリメトキシシラン、2−ラウロイルチオエチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリロイルモノスルフィド等が挙げられる。その含有量は、上記無機充填材100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましい。
【0035】
本実施形態のゴム組成物には、上記変性ゴム、ゴム、無機充填材、シランカップリング剤の他に、ゴム工業界で通常使用される配合剤として、特に限定されないが、老化防止剤、軟化剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫剤等を、本実施形態の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。これらの配合剤は、市販品を好適に使用することができる。
【0036】
老化防止剤の種類としては、特に限定されないが、例えば、ナフチルアミン系、p−フェニレンジアミン系、ヒドロキノン誘導体、ビス,トリス,ポリフェノール系、ジフェニルアミン系、キノリン系、モノフェノール系、チオビスフェノール系、ヒンダードフェノール系等を挙げることができ、更なる老化防止効果の点で、p−フェニレンジアミン系、ジフェニルアミン系のアミン系老化防止剤が好ましい。ジフェニルアミン系老化防止剤としては、特に限定されないが、4,4′−ビス(α−メチルベンジル)ジフェニルアミン、4,4′−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、ジ(4−オクチルフェニル)アミン等が挙げられ、これらの中で、更に高い老化防止効果の点で4,4′−ビス(α−メチルベンジル)ジフェニルアミンがより好ましい。また、p−フェニレンジアミン系老化防止剤としては、特に限定されないが、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N′−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−p−フェニレンジアミン、N,N′−ビス(1−メチルヘプチル)−p−フェニレンジアミン、N,N′−ビス(1,4−ジメチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N,N′−ビス(1−エチル−3−メチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N′−フェニル−p−フェニレンジアミン等が挙げられ、これらの中で、更に高い老化防止効果及びコスト面からN−(1,3−ジメチルブチル)−N′−フェニル−p−フェニレンジアミンがより好ましい。老化防止剤のゴム組成物における含有量は、ゴム組成物中におけるゴム成分の0.1〜5.0質量%であることが好ましい。
【0037】
軟化剤の種類としては、特に限定されないが、石油やコールタール由来の鉱物油系軟化剤、脂肪油や松樹由来の植物油系軟化剤、合成樹脂系軟化剤等が挙げられる。
【0038】
加硫促進剤の種類としては、特に限定されないが、例えば、メルカプトベンゾチアゾール、2,2′−ジベンゾチアゾリルジスルフィド等のチアゾール系、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N′−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N′−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系、ジフェニルグアニジン等のグアニジン系が挙げられる。これら加硫促進剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その含有量はゴム成分100質量部に対して0.1〜5.0質量部であることが好ましい。加硫促進助剤としては、特に限定されないが、例えば、ステアリン酸、亜鉛華が挙げられる。
【0039】
加硫剤の種類としては、特に限定されないが、通常当業界で用いられるものを適宜使用することができ、硫黄、過酸化物等が挙げられるが、好ましくは硫黄である。加硫剤の含有量はゴム成分100質量部に対し、0.1〜5.0質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜3.0質量部である。加硫剤の含有量が0.1質量部以下であることにより、十分な加硫が得られる傾向にあり、また、加硫剤の含有量が5.0質量部以下であることにより、いわゆるスコーチ時間が短くなることと、混練中にゴムが焦げてしまうことを抑制できる傾向にある。
【0040】
<タイヤ>
本実施形態のタイヤは、上記ゴム組成物を用いたことを特徴とし、上記ゴム組成物をタイヤ部材のトレッドに用いることが好ましい。上記ゴム組成物をトレッドに用いたタイヤは、低燃費性に優れる。なお、本実施形態のタイヤは、上述のゴム組成物をタイヤ部材の何れかに用いる以外特に制限はなく、常法に従って製造することができる。また、該タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をさらに詳しく説明するが、本実施形態は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
ミキサー内を30℃に加熱したラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)に、天然ゴム凝固体(RSS#1、加藤産商(株)製)41.4gを投入し、回転数60rpmで蓋を閉めた状態で1分間、蓋を開けた状態で4分間混練した。せん断発熱によりゴムの温度が80℃まで上昇したところで、1,3−ジアミノグアニジン塩酸塩(東京化成工業(株)製)0.414g(3.30mmol)を投入し、更に3分間混練することにより、変性ゴム1を得た。この時、ゴムの温度は85℃に達していた。
【0043】
該変性ゴム1(9.0g)をアセトンとメタノールの2:1混合溶媒200g中で2時間加熱還流することにより、未反応の1,3−ジアミノグアニジン塩酸塩の抽出を行った。溶媒を減圧留去した後、残渣を液体クロマトグラフィーで定量分析した結果、1,3−ジアミノグアニジン塩酸塩とアセトンの縮合体であるビス(1−メチルエチリデン)ジアミノグアニジン塩酸塩が0.044g(0.21mmol)含まれていた。即ち、抽出された未反応の1,3−ジアミノグアニジン塩酸塩は0.027g(0.21mmol)であり、溶出前の該変性ゴム1(9.0g)に含まれる1,3−ジアミノグアニジン塩酸塩は0.089g(0.71mmol)であり、添加した1,3−ジアミノグアニジン塩酸塩の70mol%が天然ゴムと反応した。
【0044】
従って、該変性ゴム1における1,3−ジアミノグアニジンの付加量は天然ゴム原材料中の固系ゴム成分に対して0.7質量%であることを確認した。
【0045】
(参考例1)
ミキサー内を30℃に加熱したラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)に、天然ゴム凝固体(RSS#1、加藤産商(株)製)41.4gを投入し、回転数60rpmで蓋を閉めた状態で1分間、蓋を開けた状態で4分間混練した。せん断発熱によりゴムの温度が80℃まで上昇したところで、アミノグアニジン塩酸塩(東京化成工業(株)製)0.414g(3.75mmol)を投入し、更に3分間混練することにより、変性ゴム2を得た。この時、ゴムの温度は85℃に達していた。
【0046】
(参考例2)
反応器内を30℃に加熱したラボプラストミルに、天然ゴム凝固体(RSS#1)41.4gを投入し、回転数60rpmで蓋を閉めた状態で1分間、蓋を開けた状態で4分間混練した。せん断発熱によりゴムの温度が80℃に達した後、更に3分間混練することにより、未変性ゴム1を得た。この時、ゴムの温度は85℃に達していた。
【0047】
(実施例2、比較例1、2)
表1の組成に従い、最初に変性ゴム1、2又は未変性ゴム1、シリカ、シランカップリング剤、亜鉛華、ステアリン酸を上記ラボプラストミルにて、140℃で5分間混練した後、一旦55℃に冷却しこれに硫黄と加硫促進剤を投入、混練し、90℃に到達後、さらに3分間混練してゴム組成物を調製した。続いて、プレス機(北川精機(株)製)を用いて145℃、10MPaで38〜40分間加硫することにより加硫ゴム組成物を得た。以下に用いた成分について示す。
シリカ:商品名「ニップシールAQ」(BET比表面積=207m/g、東ソー・シリカ(株)製)
シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(エボニック ジャパン(株)製)
亜鉛華(和光純薬工業(株)製)
ステアリン酸(和光純薬工業(株)製)
硫黄(細井化学工業(株)製、250μm)
加硫促進剤(CBS):N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(和光純薬工業(株)製)
加硫促進剤(DPG):ジフェニルグアニジン(和光純薬工業(株)製)
【0048】
(実施例3、比較例3、4)
表2の組成に従い、最初に天然ゴム凝固体(RSS#1)、シリカ、シランカップリング剤、亜鉛華、ステアリン酸、変性剤1、2を上記ラボプラストミルにて、140℃で5分間混練した後、一旦55℃に冷却しこれに硫黄と加硫促進剤を投入し、90℃で3分間混練してゴム組成物を調製した。続いて、プレス機(北川精機(株)製)を用いて145℃、10MPaで37〜39分間加硫することにより加硫ゴム組成物を得た。以下に用いた成分について示す(表1で用いたものについては同じ。)。
変性剤1:1,3−ジアミノグアニジン塩酸塩(東京化成工業(株)製)
変性剤2:アミノグアニジン塩酸塩(東京化成工業(株)製)
【0049】
該加硫ゴム組成物に対して、下記の方法で発熱性及び引張り破断強度を測定、評価した。結果を表1、2に示す。
(1)発熱性
上記加硫ゴム組成物に対し、動的粘弾性測定装置(セイコーインスツル(株)製DMS6100)を用い、温度50℃、歪み0.5%、周波数10Hzで損失正接(tanδ)を測定し、表1の比較例2、表2の比較例4の値を100としてそれぞれ指数表示した。指数値が小さい程、tanδが低く、ゴム組成物が低発熱性であることを示す。
(2)引張り破断強度
上記加硫ゴム組成物に対し、JIS K6251:2010に準拠して引張り試験を行い、引張り破断強度を測定し、表1の比較例1、表2の比較例4の値を100としてそれぞれ指数表示した。指数値が大きい程、引張り破断強度が大きいことを示す。
【0050】
【表1】
表1中、配合処方の各成分は質量部を示す。
【0051】
表1から、実施例のゴム組成物は、1,3−ジアミノグアニジン塩で変性していないジエン系ゴムを用いて混合したゴム組成物と比較して、低発熱性に優れ、引張り破断強度が大きくなることが少なくとも確認された。
【0052】
【表2】
表2中、配合処方の各成分は質量部を示す。
【0053】
表2から、実施例のゴム組成物は、1,3−ジアミノグアニジン塩を添加しないで混合したゴム組成物と比較して、低発熱性に優れ、引張り破断強度が大きくなることが少なくとも確認された。
【0054】
本出願は、2014年9月12日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2014−186074)に基づくものであり、それらの内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る変性ゴム、及びゴム組成物は、タイヤをはじめとする種々のタイヤ部材の材料等として利用することができる。
【要約】
本発明は、天然ゴム及び合成ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムを、式(1)で表される化合物によって変性させて得られる、変性ゴム(A)、を提供する。

(式中、Xは、グアニジン部位と塩を形成している酸である。)