(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記少なくとも1組のブレーキディスク構成板として軽減孔を形成した同一構成のものを用い、前記軽減孔の配設位置を周方向にずらして、前記複数枚のブレーキディスク構成板を重ね合わせてなる請求項1記載のブレーキディスク。
前記少なくとも1組のブレーキディスク構成板の厚さ方向への振動の位相差が大きくなるように、前記軽減孔の配設位置を周方向にずらして、前記複数枚のブレーキディスク構成板を重ね合わせてなる請求項2記載のブレーキディスク。
前記複数枚のブレーキディスク構成板のうちの少なくとも1枚のブレーキディスク構成板に反りを形成し、該ブレーキディスク構成板の外周部が隣接するブレーキディスク構成板に圧接されるように、前記複数枚のブレーキディスク構成板を重ね合わせてなる請求項1〜7のいずれか1項記載のブレーキディスク。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ブレーキディスクの(a)は正面図、(b)は背面図、(c)は(a)のI-I線断面図
【
図2】他の構成のブレーキディスクの(a)は正面図、(b)は(a)のII-II線断面図
【
図3】他の構成のブレーキディスクの(a)は正面図、(b)は(a)のIII-III線断面図
【
図4】他の構成のブレーキディスクの(a)は正面図、(b)は(a)のIV-IV線断面図
【
図5】他の構成のブレーキディスクの(a)は正面図、(b
)は(a)のV-V線断面図
【
図6】他の構成のブレーキディスクの(a)は正面図、(b)は(a)のVI-VI線断面図
【
図7】比較例1のディスクSの(a)は正面図、(b)は(a)のVII-VII線断面図
【
図8】比較例2のディスクDの(a)は正面図、(b)は背面図、(c)は(a)のVIII-VIII線断面図
【
図9】比較例のブレーキD0の(a)は正面図、(b)は(a)のIX-IX線断面図
【
図12】ディスクS、D、DMの周波数と減衰比の関係を示すグラフ
【
図13】ディスクD、DMの周波数と位相差の関係を示すグラフ
【
図14】ディスクS、D、DMの減衰比の平均値を示す棒グラフ
【
図15】ディスクD、DMの位相差の平均値を示す棒グラフ
【
図16】(a)(b)(c)はそれぞれディスクS、D、DMの周波数と鳴き音圧の関係を示すグラフ
【
図17】ディスクD0、D6、D12の周波数と減衰比の関係を示すグラフ
【
図18】ディスクD0、D6、D12の周波数と位相差の関係を示すグラフ
【
図19】ディスクD0、D6、D12の減衰比の平均値を示す棒グラフ
【
図20】ディスクD0、D6、D12の位相差の平均値を示す棒グラフ
【
図21】(a)(b)(c)はそれぞれディスクD0、D6、D12の周波数と鳴き音圧の関係を示すグラフ
【
図23】ディスクS、D3.00の周波数と鳴き音圧との関係を示すグラフ
【
図24】ディスクS、D3.00の周波数と周波数伝達関数のゲインとの関係を示すグラフ
【
図25】ディスクD3.75の周波数と周波数伝達関数のゲインとの関係を示すグラフ
【
図26】固有振動数での(a)はディスクD3.00のモードシェイプ、(b)はディスクD3.75のモードシェイプ
【
図27】(a)はディスクD3.00の周波数と表裏の位相差との関係を示すグラフ、(b)は、ディスクD3.75の周波数と表裏の位相差との関係を示すグラフ
【
図28】(a)はディスクD3.00の周波数と周波数伝達関数のゲインとの関係を示すグラフ、(b)は、ディスクD3.75の周波数と周波数伝達関数のゲインとの関係を示すグラフ
【
図29】ディスクD3.75の2枚のガスケット構成板の周波数と周波数伝達関数のゲインとの関係を示すグラフ
【
図30】ディスクD3.00、C0.4の周波数と周波数伝達関数のゲインとの関係を示すグラフ
【
図31】ディスクD3.00、C0.4の周波数と表裏の位相差との関係を示すグラフ
【
図32】ディスクD3.00、C0.4の周波数と減衰率との関係を示すグラフ
【
図33】積層ディスクの層間に生じる接触面圧の解析モデルの説明図
【
図35】ディスクD3.00、C0.4の半径方向距離と接触面圧及び平均されたコンプライアンスの関係を示すグラフ
【
図36】摺動部と内周部における制動時間と温度の関係を示すグラフ
【
図37】単層ディスクと
積層ディスクの制動時間と厚さ方向の振れの大きさの関係を示すグラフ
【
図38】ディスクSの平均の鳴き音圧及び減衰率とディスクMDの平均の鳴き音圧及び減衰率とを対比した棒グラフ
【
図39】ディスクMD、MDF、Sの周波数と減衰率との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
先ず、軽減孔の諸元を相違させたブレーキディスクについて説明する。
図1〜
図3に示すように、ブレーキディスク1は、自動二輪車用のブレーキディスクであり、制動時における厚さ方向や周方向や半径方向への振動により相互に摺動するように重ね合わせた、2枚のブレーキディスク構成板2、3からなり、ブレーキディスク構成板2、3の少なくとも一方に軽減孔4を設け、両ブレーキディスク構成板2、3間において軽減孔4の諸元が相互に相違するように構成したものである。
【0021】
両ブレーキディスク構成板2、3は、耐熱性に優れたステンレス鋼や炭素鋼からなる平坦な略円板状の金属板で構成され、略隙間なく重ね合わされている。両ブレーキディスク構成板2、3の中央部には車軸が挿通する貫通孔5が形成されるとともに、貫通孔5を取り囲むように複数個の取付孔6が形成され、ブレーキディスク1はこれら複数の取付孔6にボルトを挿通させてホイールのハブ部に固定されている。なお、取付孔6の個数は、
図1〜
図3に示すブレーキディスク1では5個設けたが、5個以外の任意の個数設けることが可能である。
【0022】
ブレーキディスク1の外周部にはブレーキ装置のブレーキパッドPに対面するように摺動部が形成され、ブレーキディスク1の摺動部をブレーキパッドPで挟持することで、ブレーキディスク1を介してホイールに制動力が付与されるように構成されている。なお、摺動部には耐摩耗性に優れたライニング層を一体的に形成することが好ましい。
【0023】
両ブレーキディスク構成板2、3は、制動時の振動により、相互に摺動するように、部分的に結合することになる。具体的には、両ブレーキディスク構成板2、3を重ね合わせて、ホイールへの取付ボルトで結合したり、リベットやボルト等で結合したり、溶接により結合したり、一方のブレーキディスク構成板の折り返し部により他方のブレーキディスク構成板の外周部等を抱き込むことで結合したりすることができる。
【0024】
ブレーキディスク構成板2、3の少なくとも一方には軽減孔4が形成されている。軽減孔4の個数、軽減孔4の形状、軽減孔4の大きさ、軽減孔4の配設位置などは任意に設定することができる。また、軽減孔4は、ブレーキパッドPが摺接する摺動部上に形成することが好ましいが、それ以外の位置に形成することも可能である。
【0025】
両ブレーキディスク構成板2、3間において軽減孔4の諸元が相互に相違するように構成されている。具体的には、軽減孔4の個数、軽減孔4の形状、軽減孔4の大きさ、軽減孔4の配設位置の中から選択した1種又は2種以上を相違させることができる。ただし、軽減孔4の個数を相違させるとは、両ブレーキディスク構成板2、3に軽減孔4を形成し、その個数が異なるように設定した場合と、ブレーキディスク構成板2、3の一方に軽減孔4を設け、他方に軽減孔4を設けないように構成した場合の2通りの構成を含むものとする。また、両ブレーキディスク構成板2、3間において軽減孔4の配設位置を相違させるとは、軽減孔4の半径方向位置や周方向位置が相違するように、2枚のブレーキディスク構成板2、3に軽減孔4を設けた場合以外に、軽減孔4の配設位置を同じに設定した場合であっても、軽減孔4の位相が周方向に一定角度だけずれるように、両ブレーキディスク構成板2、3を重ね合わせて使用する場合も含むものとする。
【0026】
軽減孔4のいずれの諸元を相違させる場合においても、周方向の各部における両ブレーキディスク構成板2、3の厚さ方向の振動の位相差の平均値が極力大きくなるように、軽減孔4の諸元を設定することが、ブレーキ鳴きを防止する上で好ましい。つまり、制動時には、両ブレーキディスク構成板2、3が厚さ方向や周方向や半径方向へ振動することになるが、両ブレーキディスク構成板2、3の厚さ方向への振動は、両ブレーキディスク構成板2、3が接触と離間を繰り返すことで減衰されるので、両ブレーキディスク構成板2、3の厚さ方向への振動の位相差が大きくなるように設定することで、両ブレーキディスク構成板2、3の接触時におけるエネルギー吸収作用を高めて、鳴きなどの異音の発生を一層効果的に防止できる。
【0027】
ブレーキディスク1を構成する両ブレーキディスク構成板2、3の具体例としては、
図1に示すブレーキディスク1Aのように、12個の円形の軽減孔4を有する円板状のブレーキディスク構成板2Aと、軽減孔4を有しない円板状のブレーキディスク構成板3Aとを用い、軽減孔4以外において同一構造に構成したブレーキディスク構成板2A、3Aを採用できる。
【0028】
また、
図2に示すブレーキディスク1Bのように、取付孔6の位置を一致させた状態で、軽減孔4の位相が周方向に6°ずれるように、12個の円形の取付孔6を周方向に一定間隔おきに設けた両ブレーキディスク構成板2B、3Bを採用することもできる。なお、両ブレーキディスク構成板2B、3Bは、軽減孔4の位相を6°ずらした以外は、同一構造に構成できる。
【0029】
更に、
図3に示すブレーキディスク1Cのように、取付孔6の位置を一致させた状態で、軽減孔4の位相が周方向に12°ずれるように、12個の円形の取付孔6を周方向に一定間隔おきに設けた両ブレーキディスク構成板2C、3Cを採用することもできる。なお、両ブレーキディスク構成板2C、3Cは、軽減孔4の位相を12°ずらした以外は、同一構造に構成できる。
【0030】
次に、軽減孔4以外の諸元を相違させてなるブレーキディスク1について説明する。
相互に相違可能な軽減孔4以外の諸元としては、ブレーキディスク構成板2、3の板厚や直径や反りの諸元を相互に相違させることが可能で、軽減孔4と板厚と直径と反りの中から選択した1種又は2種以上に関する諸元を相互に相違させることができる。
【0031】
板厚を相違させる場合には、
図4に示すブレーキディスク1Dのように、一方のブレーキディスク構成板2Dの板厚を他方のブレーキディスク構成板3Dの板厚よりも小さく設定することになる。この場合には、両ブレーキディスク構成板2D、3Dの固有振動数に差を持たせ、重ね合せたときの共振点の個数を少なくして、鳴きの発生を防止できる。
【0032】
また、反りに関する諸元を相違させる場合には、
図5に示すブレーキディスク1Eのように、両ブレーキディスク構成板2E、3Eの外周部と中央部間に厚さ方向の隙間tがそれぞれ形成されるように、両ブレーキディスク構成板2E、3Eに反りを形成して、両ブレーキディスク構成板2E、3Eの外周部が圧接されるように、両ブレーキディスク構成板2E、3Eを重ね合わせて、平板状に結合することになる。この場合には、両ブレーキディスク構成板2E、3Eの外周部が圧接されることで、両ブレーキディスク構成板2E、3Eが摺接するときにおける外周部の消費エネルギーを増大させて、鳴きの発生を効果的に防止できる。
【0033】
なお、反りに関する諸元を相違させる場合には、反りを形成したブレーキディスク構成板の外周部が隣接するブレーキディスク構成板に圧接されるように構成してあれば、前述のように反りの向きを逆にしたブレーキディスク構成板2E、3Eを用いる場合以外に、反りを有するブレーキディスク構成板と反りを有さないブレーキディスク構成板とを用いたり、反りの大きさが相違するブレーキディスク構成板を用いたり、半径方向に対する反りの形成範囲が相違するブレーキディスク構成板を用いたりすることも可能である。ただし、反り以外の構成、例えば一方のブレーキディスク構成板の外周部の板厚を厚く設定したり、該一方のブレーキディスク構成板の外周部に薄肉なリング状のシム板を固定したりして、一方のブレーキディスク構成板の外周部が隣接する他方のブレーキディスク構成板に圧接されるように構成することも可能である。
【0034】
ここで、ブレーキディスク1のように、ブレーキディスク構成板2、3の直径を同じに設定すると、ブレーキパッドPとの摺動面側と、それに対応するブレーキディスク構成板2、3の重ね合せ面側とで温度差が生じて、ブレーキディスク構成板2、3が熱変形し易くなる。そこで、
図6に示すブレーキディスク1Fのように、外周部にブレーキパッドPが摺接する摺動部を有する厚肉で反りのない平坦な第1のブレーキディス構成板2Fと、ブレーキパッドPに接触しないように摺動部よりも小径な第2のブレーキディスク構成板3Fを用いることができる。この場合には、直径の異なるブレーキディスク構成板2F、3Fを重ね合わせることで、両ブレーキディスク構成板2F、3Fの固有振動数に差を持たせて共振点の個数を少なくし、鳴きの発生を防止できる。しかも、第1のブレーキディスク構成板2Fにのみ摺動部を形成し、第2のブレーキディスク構成板3FはブレーキパッドPに接触しないので、両ブレーキディスク構成板2F、3Fの重ね合せ面側とその外面側との温度差を小さくして、ブレーキディスク構成板2F、3Fが温度差により反ることを防止できる。特に、第2のブレーキディスク構成板3Fとして、第1のブレーキディスク構成板2Fよりも薄肉で且つ反りを有する第2のブレーキディスク構成板3Fを用い、第2のブレーキディスク構成板3Fの外周部が第1のブレーキディスク構成板2Fに圧接されるように、第2のブレーキディスク構成板3Fに反りを形成することが好ましい。この場合には、直径及び板厚の異なるブレーキディスク構成板2F、3Fを重ね合わせることで、両ブレーキディスク構成板2F、3Fの固有振動数に差を持たせて共振点の個数を少なくし、鳴きの発生を防止できるとともに、第2のブレーキディスク構成板3Fの外周部が第1のブレーキディスク構成板2Fに圧接されることで、ブレーキディスク構成板2F、3Fの摺接時における消費エネルギーを増大させて、鳴きの発生を一層効果的に防止できる。
【0035】
なお、本実施の形態では、2枚のブレーキディスク構成板2、3を積層してブレーキディスク1を構成したが、3枚以上のブレーキディスク構成板を積層して構成することも可能で、この場合には少なくとも1組のブレーキディスク構成板における、軽減孔と板厚と直径と反りの中から選択した1種又は2種以上に関する諸元を相互に相違させることになる。また、本発明は、摺動ディスクと、摺動ディスクの内側に装着されるハブディスクと、両ディスクをフローティング状態に連結する複数の連結手段とを備えたフローティングブレーキディスクに対しても、摺動ディスクを2枚のブレーキディスク構成板で構成することで容易に適用できる。また、自動車用のブレーキディスクに対しても本発明を同様に適用することができる。
【0036】
次に、軽減孔の諸元に差を持たせたブレーキディスクの性能評価試験について説明する。
先ず、試験ディスクとして次のような構成のブレーキディスクを製作した。
実施例1のブレーキディスク(ディスクDM)として、
図1に示すブレーキディスク1Aのように、2枚のブレーキディスク構成板2A、3AからなるディスクDMを製作した。具体的には、外径292mmで厚さ3mmの円板状のステンレス製の金属板の中央部に直径56mmの貫通孔5を形成するとともに、半径41mmの円周上に周方向に一定間隔をあけて直径12mmの取付孔6を5個形成した2枚の金属板を製作し、一方の金属板の半径90mmの円周上に直径20mmの軽減孔4を周方向に一定間隔をあけて12個形成して、ブレーキディスク構成板2Aを製作し、他方の金属板は軽減孔4を形成しないでそのままブレーキディスク構成板3Aとして用いた。そして、両ブレーキディスク構成板2A、3Aを重ね合わせて取付孔6にボルトを挿通させ、両ブレーキディスク構成板2A、3Aを隙間なく一体的に結合することで、ディスクDMが得られるように構成した。
【0037】
実施例2のブレーキディスク(ディスクD6)として、
図2に示すブレーキディスク1Bのように、2枚のブレーキディスク構成板2B、3BからなるディスクD6を製作した。具体的には、前記実施例1のブレーキディスク構成板2Aと同一構成のブレーキディスク構成板2Bと、このブレーキディスク構成板2Bに対して軽減孔4の形成位置を周方向に6°ずらしたブレーキディスク構成板3Bを製作した。そして、両ブレーキディスク構成板2B、3Bを重ね合わせて取付孔6にボルトを挿通させ、両ブレーキディスク構成板2B、3Bを隙間なく一体的に結合することで、ディスクD6が得られるように構成した。
【0038】
実施例3のブレーキディスク(ディスクD12)として、
図3に示すブレーキディスク1Cのように、2枚のブレーキディスク構成板2C、3CからなるディスクD12を製作した。具体的には、前記実施例1のブレーキディスク構成板2Aと同一構成のブレーキディスク構成板2Cと、このブレーキディスク構成板2Cに対して軽減孔4の形成位置を周方向に12°ずらしたブレーキディスク構成板3Cを製作した。そして、両ブレーキディスク構成板2C、3Cを重ね合わせて取付孔6にボルトを挿通させ、両ブレーキディスク構成板2C、3Cを隙間なく一体的に結合することで、ディスクD12が得られるように構成した。
【0039】
比較例1のブレーキディスク(ディスクS)として、
図7に示すブレーキディスク10Aのように、外径292mmで厚さ6mmの円板状の金属板からなり、該金属板の中央部に直径56mmの貫通孔5を形成するとともに、半径41mmの円周上に周方向に一定間隔をあけて直径12mmの取付孔6を5個形成して、ディスクSを製作した。
【0040】
比較例2のブレーキディスク(ディスクD)として、
図8に示すブレーキディスク10Bのように、実施例1のブレーキディスク構成板3Aと同一構成の2枚のブレーキディスク構成板11B、12Bを製作した。そして、両ブレーキディスク構成板11B、12Bを重ね合わせて取付孔6にボルトを挿通させ、両ブレーキディスク構成板11B、12Bを隙間なく一体的に結合することで、ディスクDが得られるように構成した。
【0041】
比較例3のブレーキディスク(ディスクD0)として、
図9に示すブレーキディスク10Cのように、実施例1のブレーキディスク構成板2Aと同一構成の2枚のブレーキディスク構成板11C、12Cを2枚製作した。そして、両ブレーキディスク構成板11C、12Cを重ね合わせて取付孔6にボルトを挿通させ、両ブレーキディスク構成板11C、12Cを隙間なく一体的に結合することで、ブレーキディスク構成板11C、12C間における軽減孔4の位相がずれていない、ディスクD0が得られるように構成した。
【0042】
(ハンマリング試験)
円柱状の固定部をその軸心を略水平にして設けてなる支持台を用い、該固定部にブレーキディスクを同心状に位置合わせし、取付孔6にボルトを挿通させてブレーキディスク1を固定部に5本のボルトで固定した。そして、
図10に示すように、ブレーキディスク1の中心を通る水平な半径方向位置であって、中心から131mmの半径方向位置を加振点Fに設定した。また、加振点Fを通る円周上において、加振点Fを基準にブレーキディスク1を周方向に20等分する、加振点Fを含まない19個の位置を測定点Mに設定し、これら19個の測定点Mにおけるブレーキディスクの表裏面に対面させて計38個の加速度センサーを設けた。
【0043】
そして、加振点Fに対してハンマーで衝撃を加えたときにおける19個の測定点Mにおけるブレーキディスクの表裏面の加速度をそれぞれ測定し、各測定点Mの表裏面の加速度から周波数応答関数(FRF)を算出して、固有振動数における減衰比を半値幅法で算出し、表1、
図12、
図17に示す結果を得た。また、ブレーキディスク毎の減衰定数の加算平均を求めて、
図14、
図19の結果を得た。
【0044】
また、各測定点Mの表裏面の加速度を周波数分析して、固有振動数における位相から、各測定点Mの表裏面の位相差を算出し、表2、
図13、
図18に示す結果を得た。また、ブレーキディスク毎の位相差の加算平均を求めて、
図15、
図20の結果を得た。
【0047】
(ブレーキ鳴き試験)
試験機として、
図11に示すような台上試験機20を用いた。この台上試験機20は、ベルト21及びイナーシャ22を介してブレーキディスク1を回転駆動する交流モータ23と、交流モータ23の回転数を制御するインバータ24と、ブレーキディスク1に対して制動力を付与するためのキャリパ25と、キャリパ25にブレーキ液圧を供給するマスターシリンダ26と、ブレーキディスク1から30cm離間させて設けたマイクロフォン27と、FFT(Fast Fourier Transform)アナライザー28とを備えている。
【0048】
そして、交流モータ23によりブレーキディスク1を10rpmで回転させながら、キャリパ25のパッドをブレーキディスク1に0.6MPaで圧接させ、このときに生じたブレーキ鳴き音をマイクロフォン27で測定し、FFTアナライザー28を用いて周波数分析した。こうして、ブレーキ鳴き音の測定後、パッドの圧接を解除して、ブレーキディスク1及びパッドを冷却してから、次のブレーキ鳴き音を測定するという測定作業を各ブレーキディスクに対して50回ずつ行い、表3、表4、
図16、
図21に示す結果を得た。
【0051】
図12、
図14から、軽減孔4を有するブレーキディスク構成板と、軽減孔4を有さないブレーキディスク構成板を重ね合わせたディスクDMは、1枚構成のブレーキディスクからなるディスクSや、軽減孔4を有さない2枚のブレーキディスク構成板を重ね合わせてなるディスクDよりも、減衰比が大きく、振動が迅速に減衰しており、また
図13、
図15に示すように、ディスクDMは、ディスクDよりもブレーキディスクの表裏面の振動の厚さ方向の位相差が大きいことが分かる。そして、ディスクDMでは、
図16に示すように、ディスクSやディスクDと比較して、ブレーキ鳴きの音圧レベルが低く、ブレーキ鳴きが改善されていることが分かる。
【0052】
つまり、制動時には表裏のブレーキディスク構成板が厚さ方向に振動して、相互に摺動することで、振動が減衰されることになるが、軽減孔4の有無のように、軽減孔4の諸元を表裏のブレーキディスク構成板で相違させることで、制動時における表裏のブレーキディスク構成板の振動の厚さ方向の位相差及び減衰比を大きく設定して、ブレーキ鳴きを改善できることが分かる。
【0053】
また、
図17、
図19から、表裏のブレーキディスク構成板の軽減孔4の位相を6°ずらしたディスクD6及び12°ずらしたディスクD12は、軽減孔4の位相をずらしていないディスクD0よりも、3000Hz以上の周波数帯で減衰比が大きく、振動が迅速に減衰しており、また
図18、
図20に示すように、ディスクD6、D12は、ディスクD0よりもブレーキディスクの表裏面の厚さ方向の振動の位相差が大きいことが分かる。そして、ディスクD6、D12では、
図21に示すように、ディスクD0と比較して、ブレーキ鳴きの音圧レベルが低く、ブレーキ鳴きが改善されていることが分かる。
【0054】
つまり、制動時における表裏のブレーキディスク構成板の振動の厚さ方向の位相差が大きくなるように、軽減孔4の位相をずらすことで、ブレーキ鳴きの音圧レベルを低く設定して、ブレーキ鳴きを改善できることが分かる。
【0055】
次に、板厚、反り、直径に差を持たせたブレーキディスクの性能評価試験について説明する。
先ず、試験ディスクとして次のような構成のブレーキディスクを製作した。
実施例4のブレーキディスク(ディスクD3.75)として、
図4に示すブレーキディスク1Dのように、実施例1のブレーキディスク構成板3Aにおける板厚のみを3.75mmに設定し、その他は同じ構成にしたブレーキディスク構成板2Dと、実施例1のブレーキディスク構成板3Aにおける板厚のみを2.25mmに設定し、その他は同じ構成にしたブレーキディスク構成板3Dを製作した。そして、両ブレーキディスク構成板2D、3Dを重ね合わせて取付孔6にボルトを挿通させ、両ブレーキディスク構成板2D、3Dを隙間なく一体的に結合することで、ディスクD3.75が得られるように構成した。
【0056】
実施例5のブレーキディスク(ディスクC0.4)として、
図5に示すブレーキディスク1Eのように、実施例1のブレーキディスク構成板3Aと同一構成の2枚のブレーキディスク構成板2E、3Eを製作し、両ブレーキディスク構成板2E、3Eの厚さ方向に0.4mmの隙間tがそれぞれ形成され、両ブレーキディスク構成板2E、3Eの外周端を重ね合わせた状態で、両ブレーキディスク構成板2E、3Eの中央部間に0.8mmの隙間が形成されるように、ブレーキディスク構成板2E、3Eに反りを形成した。そして、外周部が当接するように両ブレーキディスク構成板2E、3Eを重ね合わせて取付孔6にボルトを挿通させ、両ブレーキディスク構成板2E、3Eを隙間なく一体的に結合することで、ディスクC0.4が得られるように構成した。
【0057】
実施例6のブレーキディスク(ディスクMD)として、
図6に示すブレーキディスク1Fのように、板厚を6mmに設定した以外は、実施例1のブレーキディスク構成板3Aと同じ構成のブレーキディスク構成板2Fと、板厚を1mmに設定するとともに、直径を230mmに設定した以外は、実施例1のブレーキディスク構成板3Aと同じ構成のブレーキディスク構成板3Fとを製作し、両ブレーキディスク構成板2F、3Fを重ね合わせた状態で、両ブレーキディスク構成板2F、3Fの中央部間に2mmの隙間が形成されるように、ブレーキディスク構成板3Fに反りを形成した。そして、ブレーキディスク構成板3Fの外周部がブレーキディスク構成板2Fの側面に当接するように、両ブレーキディスク構成板2F、3Fを重ね合わせて取付孔6にボルトを挿通させ、両ブレーキディスク構成板2F、3Fを隙間なく平板状に一体的に結合することで、ディスクMDが得られるように構成した。
【0058】
実施例7のブレーキディスク(ディスクMDF)として、ブレーキディスク構成板3Fを平坦に構成した以外は、前記実施例6のブレーキディスク1Fと同様に構成したディスクMDFを用いた。
【0059】
(ブレーキ鳴き試験)
前記と同様の台上試験機20を用いた。鳴き試験では、ディスクの回転数を30rpm一定とし、油圧を0.2MPaから1.0MPaまで0.2MPa毎に変化させ、それぞれの面圧の場合での鳴き音圧を各10回ずつ計80回記録した。鳴き音圧のFFT解析の窓関数としてHanning窓を用い、サンプリング長を2048に設定し、周波数レンジを20000Hzに設定した。鳴き試験を行う前に、ディスクとパッドの接触状態を一定とするために摺り合わせを行った。なお、試験中ではディスクの表面温度が100℃を超えないように、試験後に十分ディスクを冷却した。
【0060】
(ハンマリング試験)
インパルスハンマーによりディスクの厚み方向にそれを加振し、加速度ピックアップを用いてその際の加速度を測定した。人の可聴域の上限である20kHzまでのディスクの周波数応答を得るために、20kHzまで加振をすることの可能なインパルスハンマーを選定した。制動時のディスクの境界条件を想定するため、制動試験機のシャフトにディスクが拘束された状態で試験を行った。
【0061】
図22に示すように、インパルスハンマーによる加振点Fは、ブレーキディスク1の中心を通る水平な半径方向位置であって、中心から130mmの半径方向位置に設定した。また、加振点Fを通る円周上において、加振点Fを基準にブレーキディスク1を周方向に24等分する、加振点Fを含まない23個の位置と、半径70mmの円周を24等分する24個の位置とを測定点Mに設定し、これら47個の測定点Mにおける加速度を測定した。積層ディスクを対象にする場合には、加振する面と反対の面の加速度もまた測定し、合わせて計95ヶ所の加速度を測定した。厚みの異なる円板から構成される積層ディスクを対象にする場合、ディスクの厚みの大きい面を加振面とした。ハンマリング試験のFFT解析の窓関数としてForce and exponential窓を用い、サンプリング長を4096に設定し、周波数レンジを20000Hzに設定した。ノイズの影響を小さくするために、ハンマリングによって得られた周波数応答関数を5回加算平均した。またコヒーレンス関数を用いて5回のハンマリングの信頼性を確保した。測定された周波数応答関数のゲイン及び位相を実験モード解析ソフトウェアME’scopeにより分析し、ハンマリング時のディスクのモードシェイプの同定を行った。また、周波数応答関数のゲインの測定結果から、下記の式を用いて各固有振動数の減衰比を算出した。
【0062】
ξ=(Δf/2f)×100
ここで、ξ、Δf、2fは、それぞれ減衰比、共振周波数の3dB下の周波数の幅、共振周波数を表している。
【0063】
(制動試験)
高周波誘導加熱装置のコイルをブレーキディスク1の摺動部の周方向の適当箇所に、ブレーキディスク1に接触しないように対面配置させて、ブレーキパッドPをブレーキディスク1に摺接させながら、高周波誘導加熱装置を用いて摺動部をさらに加熱した。そして、ブレーキディスク1の側面の振れをデジタルダイヤルゲージにより測定し、またブレーキディスク1の表面の温度を回転用熱電対により測定した。ブレーキパッドPの接触面の中心の直径262mmの場所にダイヤルゲージを設置し、また、直径262mm及び140mmの場所に回転式熱電対を取り付けた。制動試験では、ディスクの回転数を240rpm、油圧を0.9MPa、制動時間を180sとした。
【0064】
(ブレーキ鳴き試験の結果)
ブレーキ鳴き試験によって得られたディスクS及びディスクD3.00のディスクの鳴き音圧レベルの散布図を
図23に示す。ディスクS及びディスクD3.00の鳴きの周波数は幅広く存在し、ディスクD3.00の鳴き音圧レベルはディスクSと比較して、全体的に低減していることが確認できた。また、ディスクD3.75及びディスクC0.4に関しては鳴きが発生しなかった。
【0065】
(ハンマリング試験結果)
ハンマリング試験により得られたディスクS及びディスクD3.00の周波数応答関数のゲインを
図24に示す。各固有振動数において平均された減衰比は、ディスクD3.00が0.18%で、ディスクSが0.14%であった。
【0066】
ディスクS及びディスクD3.00の各固有振動数におけるゲインの平均値はそれぞれ43.4dB、42.7dBとなり、またディスクD3.00の減衰比は一枚のディスクSのそれと比べて大きくなった。二枚の板材を重ねた積層板においては、前述のように表裏の振動変位に位相差が生じて衝突減衰をするので、それによりディスクD3.00の減衰比が向上して、鳴き音圧が低減したものと考えられる。しかし、
図24に示すように、20kHzまでのディスクD3.00の共振点の個数はディスクSのそれと比べて多くなった。積層ディスクの実用上での使用を考えると、20kHzまでのディスクの共振点の個数は少ないほうが望ましい。そこで、積層ディスクのそれぞれの円板の固有振動数を変化させるために、それぞれ厚みの異なる二枚の円板から成るディスク(ディスクD3.75)を制作した。
図25にディスクD3.75の周波数応答関数のゲインを示す。ディスクD3.00においては20kHzまで明確な共振点が確認できたことに対して、ディスクD3.75に関しては4kHzから20kHzまで明確な共振が存在しなくなることが確認できた。
図26に固有振動数でのディスクD3.00及びディスクD3.75のモードシェイプを示す。ディスクD3.00に関しては、20kHzまでの表裏面のモードシェイプの形に概ね差がなかったが、ディスクD3.75に関しては、明確な共振点が存在しない4kHz以降の周波数の範囲では表裏面のモードシェイプに違いが存在することが分かった。
【0067】
ディスクD3.75の共振点の数が減少する原因を調べるために、ディスクに加振力を与えた後の積層ディスクの表面(右面)で得られた加速度と裏面(左面)で得られた加速度の位相の差を調べた。その位相差は下記の式を用いて算出した。
【0068】
ΔΦ(f)=Φ
right(f)―Φ
left(f)
ここでΔΦは位相差、Φ
rightは右面のディスクの振動の位相、Φ
leftは左面のディスクの振動の位相、fは周波数を表している。
【0069】
次に、前記式によりディスクにおける直径260mm上の23点の場所の位相差を算出し、それらを加算平均した。
図27(a)、(b)にディスクD3.00、ディスクD3.75の平均された位相差をそれぞれ示す。
図27より、ディスクD3.00に関して10kHzまでの範囲では位相差が30degと小さかったことに対し、ディスクD3.75に関しては2.5kHzから10kHzまでの範囲で大きな位相差が確認できた。また、
図28(a)、(b)に、右面で得られた加速度と左面で得られた加速度のゲインの違いを示す。また、
図28よりディスクD3.00の表裏面のゲインの違いは概ね存在しなかったのに対して、ディスクD3.75の表裏面のゲインに差が大きく存在することが確認できた。また、ディスクD3.75のそれぞれの円板のそれ自体の固有振動数は異なる(
図29)が、それをボルトにより重ねると両面のディスクの固有振動数が一致することが分かった(
図28)。これらの結果より、ディスクD3.75のどちらの面に関しても同じ振動数で振動しているにもかかわらず、ゲイン及び位相が異なることから、二枚が互いに大きく衝突し合って振動していることと言える。その衝突振動により減衰比が大きくなり、ディスクD3.75の高周波数の範囲で明確な共振点が存在しなくなったと考えられ、その結果、ディスク3.75を用いた場合において鳴きが発生しなかったと言える。しかし、このように積層ディスクの周波数応答関数は従来のディスクのそれと比べて改善したものの、摺動時に積層ディスクの層間に開口変位が見られた。それにより摺動時において積層ディスクの摩擦減衰の効果が無くなる可能性がある。
【0070】
(組み付けにより接触初期応力を層間に付与したディスクの周波数応答関数)
積層ディスクの層間の開口変位を抑制すると共に鳴き防止の効果をより一層高めるために、組み付けにより接触初期応力がディスクの外周近傍に付与されるような形状の積層ディスク(ディスクC0.4)を製作し、その振動特性を調べた。
図30にディスクD3.00及びディスクC0.4の周波数応答関数のゲインを比較した結果を示す。ディスクC0.4のゲインはディスクD3.00のそれと比べて低減したことが分かった。
図31にディスクD3.00及びディスクC0.4の位相差を比較した結果を示す。0Hzから5kHzまでの範囲ではディスクC0.4の位相差はディスクD3.00のそれと比較して小さくなることが分かったが、それ以降の周波数では、ディスクD3.00との差は顕著に見られなかった。この結果より、低周波数においては、ディスクC0.4の二枚の円板は一体となって振動していたと言える。
図32にディスクD3.00及びディスクC0.4のモード減衰比を比較した結果を示す。位相差の小さい周波数域(0〜5kHz)ではディスクC0.4の減衰比が大きくなり、それ以降の周波数域では、ディスクD3.00との差は顕著に見られなかった。これらの結果より、積層ディスクの層間の接触面圧が振動特性に大きく影響を及ぼし、ディスクC0.4の減衰比の大きい5kHzまでの周波数の範囲では位相差が小さかったことから、衝突減衰により減衰比が高くなったのではなく、クーロン摩擦減衰により減衰比が高くなったと考えられる。
【0071】
そこで、これらのディスクの減衰比に違いが生じた理由を調べるために、汎用有限要素コードABAQUS6.11より積層ディスクの層間に生じる接触面圧を算出した。
図33にその解析モデルを示す。ディスクは1/5ディスクモデルとボルトとシャフトから構成され、シャフトは剛体としてモデル化を行った。接触面の面圧分布を算出するにあたり、ディスク-ディスクの接触及び摩擦を考慮した。ここでは、ボルト押し付け力を実際の締め付け時のボルトの軸力と同様の7000Nとし、ディスクのヤング率を205GPa、ポアソン比を0.3、摩擦係数を0.3とした。境界条件として、シャフトを完全固定とし、そのシャフトをディスクと結合し、ディスクの内周及び外周をz方向のみ移動可能とした。また、積層ディスクのコンプライアンスを調べるために、
図34に示すように、ブレーキディスク1の中心を通る水平な半径方向位置であって、中心から130mmの半径方向位置を加振点Fに設定し、中心を挟んで加振点Fとは反対側の半径方向位置に10mm間隔で加速度ピックアップによる測定点Mを設けてハンマリング試験を行った。コンプライアンスを以下の式を用いて算出をした。
【0072】
C(f)=A(f)/4π
2f
2
ここで、Cはコンプライアンス、Aはアクセレランス、fは周波数を表している。なお、コンプライアンスとは、変位を力で除した関数であり、力に依存しない変位の大きさと考えることができる。
【0073】
ディスクの変位の大きさを平均的に表すために、5kHz以内の範囲の各固有振動数におけるコンプライアンスを平均した。
図35に各ディスクの半径座標に対する接触面圧及び平均されたコンプライアンスの結果を示す。半径座標がディスクの外径(146mm)に近づくほどディスクの振幅が大きくなることが分かった。また、椀型のディスクを重ね、それをボルトで締結することにより、ディスクの外径近傍に接触面圧が作用されることも分かった。これらの結果より、組み付けにより振動時のディスクの振幅が大きい場所に接触面圧が作用され、それにより摩擦力のする仕事量が増え、ディスクC0.4の減衰比が大きくなったと考えられる。
【0074】
(制動試験結果)
制動試験時にディスクに与えた一枚ディスクの直径262mm位置での摺動部の熱履歴と直径140mm位置での摺動部よりも内側の内周部での熱履歴を
図36に示す。図より、摺動部の温度が約530℃まで上昇し、摺動部と内周部で測定温度に360度差が生じることが分かった。このコイルとパッドの両方を使用することにより得られたこの摺動部の温度は二輪車の急制動試験に相当する温度であることが知られている。次に、制動試験により得られた各ディスクの厚み方向の振れの振幅を
図37に示す。ただし、ここでの振幅はディスクが一周する間の振れの振幅の大きさを表している。単層ディスクに関しては外周の温度が500℃を超え、内周部の温度との温度差が360℃まで達しても、振れの大きさはほとんど変化しなかったことに対して、積層ディスクに関しては、摺動部の温度が130℃以上、温度差が100℃になると、指数関数的に振れが大きくなることが分かった。この理由として、ディスクが熱変形すると、ディスクとパッドの当たり方が均一でなくなり、当たりの強い部分だけで摩擦を負担するようになる。このことにより局部的なディスクの温度上昇が発生してしまい、ある温度を境に急激に振れが大きくなると考えられる。積層ディスクのみ振れが顕著に大きくなった理由として、ディスクの内周にボルトを締結させているため、ディスクの外周部で二枚が拘束されていないことや、厚みを低減させたために曲げ剛性が一枚構造のディスクと比べて小さくなったからであると考えられる。一般にディスクの側面の振れが0.05mmを超えると、制動トルク変動が大きくなりブレーキの効きにむらが生じると言われており、安全性の面からそれ以内に必ず抑える必要がある。よって、実用上を想定した積層ディスクの開発が望まれる。
【0075】
(実用上での使用を想定した積層ディスクの鳴き音圧の低減)
前記問題を解決するために、
図6に示すような積層構造のディスクMDを制作した。ディスクの締結方式は内周締結方式であるため、積層構造のディスクでは外周近傍の熱変形が抑えられないと考えた。そこで、摺動面を覆わない直径の薄い円板を用意し、それを単層ディスクに重ね、ボルトで締結した。また、積層ディスクの減衰比を向上させるために、この円板を椀型に曲げた。このディスクの効果の確認をするために、各試験を行った。制動試験により得られたディスクMDの振れの大きさはディスクS同様の0.05mm程度であり、実用上で使用できる範囲にあった。また、
図38にディスクS及びディスクMDのハンマリング試験により得られた減衰比の結果と鳴き試験により得られた鳴き音圧との比較を示す。また、比較のため、ディスクMDにおける椀型に曲げた円板に代えて、同じ大きさの平坦な円板を重ね合わせたディスクMDFを制作した。
図39に、ディスクMD、MDF、Sの周波数と減衰率の関係を示す。
【0076】
これらの結果より、摺動面を覆わない直径の椀型の薄い円板を従来の厚みの単層ディスクに重ねた積層ディスクは、摺動部の温度上昇によって生じるディスクの側面の振れが小さく、高い減衰比を持ち、鳴き音圧に有効な構造であることが分かった。
【0077】
以上のことから、次のことが明確になった。
1.一枚の円板から構成される単層ディスク(ディスクS)及びそれぞれ同形状の二枚の円板から成る積層ディスク(ディスクD3.00)の鳴きの周波数は幅広く存在し、ディスクD3.00の鳴き音圧レベルはディスクSと比較して、全体的に低減していることが確認できた。また、それぞれ厚みの異なる二枚の円板から成る積層ディスク(ディスクD3.75)及び椀型の0.4mmの高さの円板から成る積層ディスク(ディスクC0.4)に関しては鳴きが発生しなかった。
【0078】
2.ディスクS及びディスクD3.00の各固有振動数におけるゲインの平均値はそれぞれ43.4dB、42.7dBとなり、またディスクD3.00の減衰比は一枚のディスクSのそれと比べて大きくなった。
【0079】
3.ディスクD3.00においては20kHzまで明確な共振点が確認できたことに対して、ディスクD3.75に関しては4kHzから20kHzまで明確な共振が存在しなくなることが確認できた。
【0080】
4.ディスクD3.75の表裏面のゲイン及び位相が異なることから、二枚が互いに大きく衝突し合って振動していることと言え、その衝突振動により減衰比が大きくなり、ディスクD3.75の高周波数の範囲で明確な共振点が存在しなくなったと考えられる。
【0081】
5.組み付けにより振動時のディスクの振幅が大きい場所に接触面圧が作用され、それにより摩擦力のする仕事量が増え、ディスクC0.4の減衰比が大きくなったと考えられる。
【0082】
6.単層ディスクに関しては温度が外周の温度が500℃を超え、内周の温度との温度差が360℃まで達しても、振れの大きさはほとんど変化しなかったことに対して、積層ディスクに関しては、摺動面の温度が130℃以上、温度差が100℃になると、指数関数的に振れが大きくなることが分かった。
【0083】
7.摺動面を覆わない直径の椀型の薄い円板を従来の厚みの単層ディスクに重ねた積層ディスクは、摺動部の温度上昇によって生じるディスクの側面の振れが小さく、高い減衰比を持ち、鳴き音圧に有効な構造であった。