(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の一態様の概要]
本発明の一態様に係る発光素子は、第1電極、電荷注入輸送層、中間層、発光層、第2電極がこの順に積層され、少なくとも前記発光層がバンクにより規定されてなる発光素子であって、前記電荷注入輸送層は、所定の溶剤に対して溶解可能である金属化合物を含み、前記所定の溶剤により溶解されて形成されている凹入部を有し、前記電荷注入輸送層の前記凹入部は、前記中間層の底面に接触する内底面と、前記内底面に連続し、前記中間層の側面の少なくとも一部に接触する内側面と、を有
し、前記中間層は親液性を有することを特徴とする。
【0010】
ここで、「電荷注入輸送層」の語は、ホール注入層、ホール輸送層、ホール注入兼輸送層、電子注入層、電子輸送層、及び電子注入兼輸送層等の総称である。例えば、電荷注入輸送層は、ホール注入層で構成されていても良いし、ホール輸送層で構成されていても良いし、ホール注入層とホール輸送層の2層で構成されていても良いし、ホール注入兼輸送層で構成されていても良いし、電子注入層で構成されていても良いし、電子輸送層で構成されていても良いし、電子注入層と電子輸送層の2層で構成されていても良いし、電子注入輸送層で構成されていても良い。
【0011】
また、「親液性」及び「撥液性」 の語は、相対的な意味で用いている。上記のように、バンクは少なくともその表面が撥液性となっており、一方、電荷注入輸送層は親液性のある金属化合物からなる場合、電荷注入輸送層の表面はバンクの表面よりも親液性であり、バンクの表面は電荷注入輸送層の表面よりも撥液性である。そして、親液性である電荷注入輸送層の表面はインクに対して相対的に濡れ性が良く、撥液性であるバンクの表面はインクに対して相対的に濡れ性が悪い。なお、親液性及び撥液性は、例えば、バンク又は電荷注入輸送層の表面に対するインクの接触角で定義することが可能であり、例えば、接触角が10°以下の場合を親液性、接触角が35°以上の場合を撥液性と定義することができる。
【0012】
また、上記発光素子の特定の局面では、前記電荷注入輸送層は親液性を有し、前記バンクは溌液性を有することを特徴とする。
また、上記発光素子の特定の局面では、前記所定の溶剤は、前記バンクを形成の際にレジスト膜の一部を除去するための現像液、または/および、前記バンク形成後に残留するレジスト残渣を洗浄するための洗浄液であることを特徴とする。
【0013】
また、上記発光素子の特定の局面では、前記電荷注入輸送層は、金属酸化物を含むホール注入層であることを特徴とする。
また、上記発光素子の特定の局面では、前記金属酸化物は、タングステンまたはモリブテンの酸化物であることを特徴とする。
本発明の別の一態様に係る発光素子は、第1電極、電荷注入輸送層、発光層、第2電極がこの順に積層され、少なくとも前記発光層がバンクにより規定されてなる発光素子であって、前記電荷注入輸送層は、
バンクで規定された領域においてはバンク底面のレベルよりも沈下した凹入部を有する凹入構造に形成され、前記電荷注入輸送層の前記凹入部は、内底面と前記内底面に連続する内側面とを有し、前記内底面および前記内側面には、前記凹入部の内部に溜められたインク材料を含む層が接触する、ことを特徴とする。
本発明の別の一態様に係る発光素子は、第1電極、電荷注入輸送層、発光層、第2電極がこの順に積層され、少なくとも前記発光層がバンクにより規定されてなる発光素子であって、前記電荷注入輸送層は、バンクで規定された領域が他の領域よりも膜厚が薄い構成による凹入部を有する凹入構造に形成され、前記電荷注入輸送層の前記凹入部は、内底面と前記内底面に連続する内側面とを有し、前記内底面および前記内側面には、前記凹入部の内部に溜められたインク材料を含む層が接触する、ことを特徴とする発光素子。
【0014】
また、上記発光素子の特定の局面では、前記インク材料を含む層は発光層であることを特徴とする。
本発明の一態様に係る表示装置は、上記いずれかに記載の発光素子を含むことを特徴とする。
本発明の一態様に係る発光素子の製造方法は、基板上に第1電極を形成する第1工程と、前記第1電極の上方に、所定の溶剤に対して溶解可能である金属化合物を含む薄膜を形成する第2工程と、前記薄膜上に、レジスト材料を含むレジスト膜を形成し、現像液によりエッチング処理し、バンクを形成する第3工程と、前記バンクを形成後、前記薄膜表面に付着するレジスト残渣を洗浄液を用いて洗浄すると共に、前記洗浄液により前記薄膜の一部を溶解させ、内底面と前記内底面に連続する内側面とを備える凹入部を有する電荷注入輸送層を形成する第4工程と、前記バンクにより規定された領域内に、前記電荷注入輸送層の前記内底面および前記内側面に沿って
親液性を有する中間層を形成する第5工程と、前記
中間層の上方にインクを滴下して乾燥させ、発光層を形成する第6工程と、前記発光層の上方に、第2電極を形成する第7工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の他の一態様に係る発光素子の製造方法は、基板上に第1電極を形成する第1工程と、前記第1電極の上方に、所定の溶剤に対して溶解可能である金属化合物を含む薄膜を形成する第2工程と、前記薄膜上に、レジスト材料を含むレジスト膜を形成し、親液性の現像液によりエッチング処理し、バンクを形成すると共に、前記現像液により薄膜表面に付着するレジスト残渣を洗浄し、かつ、前記薄膜の一部を溶解させ、内底面と前記内底面に連続する内側面とを備える凹入部を有する電荷注入輸送層を形成する第3工程と、前記バンクにより規定された領域内に、前記電荷注入輸送層の前記内底面および前記内側面に沿って
親液性を有する中間層を形成する第4工程と、前記中間層の上方にインクを滴下して乾燥させ、発光層を形成する第5工程と、前記発光層の上方に、第2電極を形成する第6工程と、
を有することを特徴とする。
【0016】
以下、本実施の形態に係る発光素子、表示装置、および発光素子の製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、各図面における部材の縮尺は実際のものとは異なる。
[第1の実施形態]
<発光素子の概略構成>
図1は、第1の実施形態に係る発光素子の各層の積層状態を示す模式図であり、
図2は、
図1における一点鎖線で囲まれた部分の拡大図である。
【0017】
図1に示すように、第1の実施形態に係る発光素子は、RGBの各ピクセルがマトリックス状又はライン状に配置されてなるトップエミッション型の有機EL素子であり、各ピクセルは基板1上に各層を積層した積層構造となっている。
TFT基板1(以下、単に「基板1」)上には、陽極である第1電極2がマトリックス状又はライン状に形成されており、第1電極2上に、ITO(酸化インジウムスズ)層3及び、電荷注入輸送層としてのホール注入層4がその順で積層されている。なお、ITO層3が第1電極2上にのみ積層されているのに対し、ホール注入層4は第1電極2の上方だけでなく基板1の上面側全体に亘って形成されている。
【0018】
ホール注入層4上には、ピクセルを規定するバンク5が形成されており、バンク5で規定された領域内に発光層6が積層されている。さらに、発光層6の上には、電子注入層7、陰極である第2電極8、及び封止層9が、それぞれバンク5で規定された領域を超えて隣のピクセルのものと連続するように形成されている。
バンク5で規定された領域は、ITO層3、ホール注入層4、発光層6、及び電子注入層7がその順で積層された多層積層構造となっており、それらの積層構造で機能層が構成されている。なお、機能層にはホール輸送層や電子輸送層等の他の層が含まれていても良い。
【0019】
<発光素子の各部構成>
基板1は、例えば、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、又はアルミナ等の絶縁性材料で形成されている。
【0020】
第1電極2は、Ag(銀)で形成されている。なお、第1電極2は、例えば、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)等で形成されていても良い。トップエミッション型の発光素子の場合は、光反射性の材料で形成されていることが好ましい。
【0021】
ITO層3は、第1電極2及びホール注入層4の間に介在し、各層間の接合性を良好にする機能を有する。
ホール注入層4は、所定の溶剤に対して溶解可能である金属化合物を含み、具体的には、WOx(酸化タングステン)又はMoWOx(モリブデン−タングステン酸化物)で形成されている。なお、ホール注入層4は、バンク5の表面と比較して親液性を有する金属化合物で形成されていれば良く、親液性を有する金属化合物としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物又は金属酸窒化物が挙げられる。
【0022】
ホール注入層4が金属酸化物で形成されている場合は、ホールを容易に注入することができ、発光層6内で電子が有効に発光に寄与するため、良好な発光特性を得ることができる。金属酸化物としては、例えば、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、Th(トリウム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Ru(ルテニウム)、Os(オスミウム)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Cd(カドミウム)、Al(アルミニウム)、Ga(ガリウム)、In(インジウム)、Si(シリコン)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(錫)、Pb(鉛)、Sb(アンチモン)、Bi(ビスマス)、及び、La(ランタン)からLu(ルテチウム)までのいわゆる希土類元素等の酸化物が挙げられる。なかでも、Al
2O
3(酸化アルミニウム)、CuO(酸化銅)、及び、SiO(酸化シリコン)は、特に長寿命化に有効である。
【0023】
金属化合物を構成する金属は、遷移金属が好ましい。遷移金属は、複数の酸化数をとるためこれにより複数の電位レベルをとることができ、その結果ホール注入が容易になり駆動電圧を低減することができる。
図2に示すように、ホール注入層4は、バンク5の底面に沿って隣のピクセル方向に拡がっていると共に、バンク5で規定された領域においてはバンク5底面のレベルよりも沈下した凹入構造に形成されており、所定の溶剤により溶解されて形成された凹入部4a(
図2において網目のハッチングで示す部分)を備える。そして、ホール注入層4は、バンク5で規定された領域だけが他の領域と比べて膜厚が薄くなっており、前記他の領域の膜厚は全体に亘って略均一である。ホール注入層4が親液性を有する金属化合物からなるため、凹入部4aの内面4bはインクに対して濡れ性が良い。したがって、バンク5で規定された領域に滴下されたインクが凹入部4aの内面4bに密着しやすく、インクがバンク5で規定された領域に留まりやすい。
【0024】
なお、ホール注入層4は、少なくともバンク5の底面における端縁部5aのレベルよりも沈下した凹入構造であれば良く、底面全体のレベルよりも沈下した凹入構造である必要はない。本実施の形態では、底面における端縁部5aのレベルより沈下しているが、底面における中央部5bのレベルより沈下していない凹入構造となっているが、例えば、
図2に二点鎖線5cで示すように中央部5bのレベルを端縁部5aに揃えバンク5の底面を平坦にする等して、バンク5の底面全体のレベルより沈下した凹入構造としても良い。
【0025】
ホール注入層4は、バンクの下端縁5d相当部位から沈下した凹入構造であって、具体的には、ホール注入層4の上面におけるバンク5に規定された領域が下端縁5d相当部位から基板1の上面に対して略垂直下方に沈下している。このように、バンク5の下端縁5d相当部位から沈下した凹入構造である場合は、発光層6の膜厚を広範囲に亘って均一にすることができ、発光層6に輝度むらが生じにくい。
【0026】
なお、ホール注入層4は、バンク5の下端縁5d相当部位から沈下した凹入構造に限らず、例えば、
図3に示すように、バンク5の下端縁5d相当部位よりも隣のピクセル側に寄った部位から沈下した構造としても良い。さらに、バンク5の下端縁5d相当部位よりもピクセル中央側に寄った部位から沈下した凹入構造であっても良く、その場合は凹入部4aの輪郭が
図3に二点鎖線10で示すような形状になる。
【0027】
さらに、ホール注入層4の凹入構造はカップ状であって、より具体的には、凹入部4aの内面4bが、基板1の上面と略平行且つ平坦であって発光層6の底面6aに接触する内底面4cと、当該内底面4cの端縁から基板1の上面と略垂直な方向に向けて延びており前記発光層6の側面6bに接触する内側面4dとで構成されている。このように、凹入構造がカップ状である場合は、内側面4dの存在によって凹入部4a内のインクが基板1の上面と平行な方向へ移動しにくくなるため、バンク5で規定された領域にインクをより安定にとどめておくことができる。しかも、凹入構造をカップ状にすると、凹入部4aの内面4bの面積が大きくなり、インクとホール注入層4との密着する面積が大きくなるため、バンク5で規定された領域にインクをより安定にとどめておくことができる。したがって、発光層6の高精細なパターニングが可能である。
【0028】
なお、ホール注入層4の凹入構造はカップ状に限定されず、
図4に示すように、例えば凹入部4aの断面形状(
図4において網目のハッチングで示す部分)が略扇形又は略逆三角形等となる皿状であっても良い。
図2に戻って、凹入部4aの平均深さtは本願発明では特に特定されるものではないが、例えば5〜100nmとすることができる。凹入部4aの平均深さtが5nm以上であれば、凹入部4a内に十分な量のインクを溜めることができ、バンク5で規定された領域にインクを安定に留めることができる。さらに、バンク5端部まで発光層6がはじかれることなく形成されるため、電極2,8間のショートを防ぐことができる。
【0029】
なお、凹入部4aの平均深さtは、触針式段差計もしくはAFM(原子間力顕微鏡)にてホール注入層4の表面輪郭を測定し、当該表面輪郭から山となる部分の平均高さと谷となる部分の平均高さとの差を求めて、得ることができる。
一方、発光層6の膜厚は特に特定されるものではないが、例えば発光層6の乾燥後の平均膜厚hが100nm以上の場合において凹入部4aの平均深さtが100nm以下であれば、バンク5で規定された領域における発光層6の膜厚を均一にすることができる。
【0030】
さらに、発光層6の平均膜厚hと凹入部4aの平均深さtとの差は20nm以下であることが好ましい。発光層6の平均膜厚hが凹入部4aの平均深さtよりも小さ過ぎる場合は(例えば、t−h>20nmの場合は)、
図5(a)に示すように、凹入部4aの内側面4dに発光層6と接触していない部分(発光層6が未塗布の部分)が生じ、その部分において電極2,8間のショートが発生するおそれがある。また、発光層6の平均膜厚hが凹入部4aの平均深さtよりも大き過ぎる場合は(例えば、h−t>20nmの場合は)、
図5(b)に示すように、バンク5の撥液性により発光層6のバンク近傍部分6cの膜厚が他の部分よりも薄くなり、当該発光層6の断面形状が略凸形となって、膜厚の違いに起因する発光むらが生じるおそれがある。
【0031】
なお、凹入部4aの内側面4dは発光層6の側面6bの少なくとも一部に接触していれば良い。例えば、
図2や
図5(b)に示すように発光層6の平均膜厚hが凹入部4aの平均深さtよりも大きい、若しくは、それらが同じ大きさである場合は、前記発光層6の側面6bの少なくとも一部である下方側にだけ前記凹入部4aの内側面4dが接触する。一方、
図5(a)に示すように発光層6の平均膜厚hが凹入部4aの平均深さtよりも小さい場合は、前記発光層6の側面6bの全体に前記凹入部4aの内側面4dが接触する。
【0032】
図6に示すように、ホール注入層4の凹入部4a内には、例えばIL層(中間層)などの親液性層12が、発光層6の下側に形成されていても良い。この場合は、凹入部4aの内底面4cではなく親液性層12の上面12aにインクが滴下されることになるが、それでも前記上面12aが親液性であるため、バンク5で規定された領域にインクを安定にとどめることができる。但し、親液性層12によって凹入部4aが完全に埋まってしまうと前記凹入部4aの内側面4dがインクと接触しなくなってしまうため、前記親液性層12の平均膜厚gは凹入部4aの平均深さtよりも薄いことが好ましい。
【0033】
バンク5は、樹脂等の有機材料又はガラス等の無機材料で形成されており絶縁性を有する。有機材料の例には、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等が挙げられ、無機材料の例には、SiO
2(シリコンオキサイド)、Si
3N
4(シリコンナイトライド)等が挙げられる。バンク5は、有機溶剤耐性を有することが好ましく、また可視光をある適度透過させることが好ましい。さらに、バンク5はエッチング処理、ベーク処理等がされることがあるので、それらの処理に対する耐性の高い材料で形成されることが好ましい。
【0034】
バンク5は、少なくとも表面が撥液性である。したがって、バンク5を親液性の材料で形成する場合は、撥水処理を施す等して表面を撥液性にする必要がある。
また、バンク5は、ピクセルバンクであっても、ラインバンクであっても良い。ピクセルバンクの場合、ピクセルごと発光層6の全周を囲繞するようにバンク5が形成される。一方、ラインバンクの場合、複数のピクセルを列ごと又は行ごとに区切るようにバンク5が形成され、バンク5は発光層6の行方向両側又は列方向両側だけに存在し、発光層6は同列又は同行のものが連続した構成となる。
【0035】
発光層6は、例えば、特開平5−163488号公報に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、アンスラセン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2、2‘−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体等の蛍光物質で形成されることが好ましい。発光層6が高分子材料からなる層を含む場合は、その層を、例えばインクジェット法、ノズルコート法などの印刷技術によって発光層6を形成することができるため、低分子材料を用いた蒸着法に比べ大判化に対して容易に低コスト化に対応できる効果がある。
【0036】
電子注入層7は、第2電極8から注入された電子を発光層6へ輸送する機能を有し、例えば、バリウム、フタロシアニン、フッ化リチウム、これらの組み合わせ等で形成されることが好ましい。
第2電極8は、例えば、ITO、IZO(酸化インジウム亜鉛)等で形成される。トップエミッション型の発光素子の場合は、光透過性の材料で形成されることが好ましい。
【0037】
封止層9は、発光層6等が水分に晒されたり、空気に晒されたりすることを抑制する機能を有し、例えば、SiN(窒化シリコン)、SiON(酸窒化シリコン)等の材料で形成される。トップエミッション型の発光素子の場合は、光透過性の材料で形成されることが好ましい。
<発光素子の製造方法>
図7は、第1の実施形態に係る発光素子の製造方法を説明する工程図であり、
図8は、
図7に続く第1の実施形態に係る発光素子の製造方法を説明する工程図である。
【0038】
第1の実施形態に係る発光素子の製造工程では、まず、
図7(a)に示すように、ガラス製の基板1上に例えばスパッタリングによりAg薄膜を形成し、当該Ag薄膜を例えばフォトリソグラフィでパターニングすることによりマトリックス状又はライン状に第1電極2を形成する。なお、Ag薄膜は真空蒸着等で形成しても良い。
次に、
図7(b)に示すように、例えばスパッタリングによりITO薄膜を形成し、当該ITO薄膜を例えばフォトリソグラフィによりパターニングすることによりITO層3を形成する。
【0039】
続いて、所定の溶剤に対して溶解可能である金属化合物を含む薄膜11を形成する。例えば、WOx又はMoWOxを含む組成物を用いて、真空蒸着法、スパッタ法などによって、基板1の上面側全体に亘って均一な膜厚となるように、WOx又はMoWOxの薄膜11を形成する。
次に、
図7(c)に示すように、例えばフォトリソグラフィ法によって各ピクセル領域(第1電極2が配置された領域)を取り囲むようにバンク5を形成する。その場合、例えば、薄膜11上に塗布等によりレジスト材料を含むレジスト膜(例えば樹脂膜)を形成し、さらに当該レジスト膜上にレジストパターンを形成し、その後現像液によりエッチング処理してレジスト膜の所望の部位を除去しバンク5のパターンを形成する。なお、バンク5を無機物材料で形成する場合は、例えばCVD法等を用いる。エッチング後に残った薄膜11の表面に付着するレジスト残渣は、例えばフッ酸等で除去する。さらに、必要に応じてバンク5の表面に撥液処理を施す。
【0040】
次に、
図7(d)に示すように、薄膜11の一部を溶かして凹入部4aを形成しホール注入層4とする。これにより、ホール注入層4は、バンク5で規定された領域だけが他の領域よりも膜厚が薄い構成となる。凹入部4aの形成は、例えば、レジスト残渣除去後のバンク5表面に残留するフッ酸等の不純物を純水で洗浄する純水洗浄の際に、その純水で薄膜11上面におけるバンク5で規定された領域を溶かすことによって行う。その場合、所定の溶剤とは純水であり、凹入部4aの深さ及び形状は純水洗浄の条件を変えることにより適宜調整可能である。
【0041】
具体的な方法としては、例えば、スピンコーターで基板1を回転させておき、回転中の基板1上に純水(例えば室温)を垂らして洗浄する。その後、基板1を回転させ続けながら純水を垂らすのを止めて水を切る。この場合、純水を垂らす時間により凹入部4aの深さ及び形状を調節可能である。また、薄膜11の溶解速度は純水の温度によっても変わるため、純水の温度によって凹入部4aの深さ及び形状を調節することも可能である。
【0042】
凹入部4aの形成方法は上記に限定されない。例えば、バンク5を形成後、薄膜11の表面に付着するレジスト残渣を純水等の洗浄液を用いて洗浄すると共に、前記洗浄液により前記薄膜11の一部を溶解させて凹入部4aを形成しても良い。その場合、所定の溶剤とは洗浄液である。また、現像液によりレジスト膜をエッチング処理しバンク5を形成すると共に、前記現像液により薄膜11の表面に付着するレジスト残渣を洗浄し、かつ、前記薄膜11の一部を溶解させて凹入部4aを形成しても良い。その場合、現像液が所定の溶剤である。
【0043】
バンク形成処理の際に用いられる洗浄液や現像液などの溶剤を用いて薄膜11を溶解させホール注入層4を形成する場合は、凹入部4aを形成するために別途に所定の溶剤を用いる必要がなく、また、前記凹入部4aを形成するための追加の工程を実施する必要もないため、生産効率が良い。
なお、凹入部4aの形成は上記所定の溶剤を用いる場合に限定されず、例えば、まず、スパッタとフォトリソを用いて第1電極2が配置された領域を除いた全ての領域にWOx又はMoWOxの薄膜を形成し、その上から全ての領域にWOx又はMoWOxの薄膜を形成することによって、第1電極2が配置された領域に凹型のホール注入層4を形成する等他の方法で行っても良い。
【0044】
次に、
図8(e)に示すように、バンク5で規定された領域内に例えばインクジェット法によりインクを滴下し、そのインクをホール注入層4の内底面4cおよび内側面4dに沿って塗布して乾燥させて発光層6を形成する。なお、ディスペンサー法、ノズルコート法、スピンコート法、凹版印刷、凸版印刷等によりインクを滴下しても良い。
次に、
図8(f)に示すように、例えば真空蒸着により電子注入層7となるバリウム薄膜を形成し、
図8(g)に示すように、例えばスパッタリングにより第2電極8となるITO薄膜を形成し、
図8(h)に示すように、さらに封止層9を形成する。
【0045】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係る発光素子は、ホール注入層の下にITO層が形成されていない点、及び、ホール注入層の上に保護膜が形成される点が、第1の実施形態に係る発光素子とは大きく異なる。以下では、第1の実施形態と異なる点について重点的に説明し、第1の実施形態と同様の点ついては重複を避けるため説明を簡略若しくは省略する。
【0046】
<発光素子の構成>
図9は、第2の実施形態に係る発光素子の各層の積層状態を示す模式図である。
図9に示すように、第2の実施形態に係る発光素子は、基板101上に陽極である第1電極102が形成されており、その上に電荷注入輸送層としてのホール注入層104及び保護層110がその順で積層されている。なお、ホール注入層104が基板101の上面側全体に亘って形成されているのに対し、保護層110は第1電極102の上方には形成されていない。また、第1電極102とホール注入層104との間にITO層は介在していない。
【0047】
ホール注入層104上にはピクセルを区画するバンク105が形成されており、バンク105で区画された領域内に発光層106が積層され、発光層106の上には、電子注入層107、陰極である第2電極108及び封止層109が、それぞれバンク105で区画された領域を超えて隣のピクセルのものと連続するように形成されている。
<発光素子の製造方法>
図10は、第2の実施形態に係る発光素子の製造方法を説明する工程図である。第2の実施形態に係る発光素子の製造工程では、まず、
図10(a)に示すように、ガラス製の基板101上にAl(アルミニウム)系の材料で第1電極102を形成し、その上に、後にホール注入層104となるWOx又はMoWOxの薄膜111を形成し、さらにその上に、後に保護層110となるWOx又はMoWOxの薄膜112を形成する。当該薄膜112はバンク105形成時のエッチングの際にホール注入層104を保護する機能を有する。
【0048】
次に、
図10(b)に示すように、薄膜112上にバンク105を形成する。具体的には、薄膜112上にレジスト材料を含むレジスト膜を形成し、さらに当該樹脂膜上にレジストパターンを形成し、その後現像液によりエッチング処理してレジスト膜の所望の部位を除去し、バンク105のパターンを形成する。なお、形成後のバンク105表面に残ったフッ酸等の不純物は純水等の洗浄液で洗浄し除去するが、その洗浄液によって薄膜112の上面におけるバンク105で規定された領域が溶けて沈下する。
【0049】
さらに、
図10(c)に示すように、洗浄液による処理を続けると、薄膜112のバンク105で規定された領域の全てが溶けて保護層110の状態になる。そして、薄膜112が溶けたことによって薄膜111が露出するため、当該薄膜111の上面におけるバンク105で規定された領域が溶けて沈下し、凹入部104aが形成される。このようにしてホール注入層104が形成される。
【0050】
次に、
図10(d)に示すように、バンク105で規定された領域内に発光層106を形成する。その後の工程は第1の実施形態に係る工程と同じであるため省略する。
[第3の実施形態]
第3の実施形態に係る発光素子は、ホール注入層が形成されている領域が、第2の実施形態に係る発光素子とは大きく異なる。以下では、第2の実施形態と異なる点について重点的に説明し、第2の実施形態と同様の点ついては重複を避けるため説明を簡略若しくは省略する。
【0051】
<発光素子の構成>
図11は、第3の実施形態に係る発光素子の各層の積層状態を示す模式図である。
図11に示すように、第3の実施形態に係る発光素子は、基板201上に陽極である第1電極202が形成されており、その上に電荷注入輸送層としてのホール注入層204及び保護層210がその順で積層されている。ホール注入層204は、基板1の上面全体に亘って形成されておらず、第1電極202上及び当該第1電極202の周辺部のみに形成されている。一方、保護層210は第1電極202の上方には形成されていない。
【0052】
ホール注入層204上にはピクセルを区画するバンク205が形成されており、バンク205で区画された領域内に発光層206が積層され、発光層206の上には、電子注入層207、陰極である第2電極208及び封止層209が、それぞれバンク205で区画された領域を超えて隣のピクセルのものと連続するように形成されている。
<発光素子の製造方法>
図12は、第3の実施形態に係る発光素子の製造方法を説明する工程図である。第3の実施形態に係る発光素子の製造工程では、まず、
図12(a)に示すように、ガラス製の基板101上にAl系の材料で第1電極102を形成し、次に、第1電極102の露出面(上面及び側面)を酸化させることによってホール注入層204となる酸化膜211を形成し、さらにその上に、後に保護層210となるWOx又はMoWOxの薄膜212を形成する。
【0053】
次に、
図12(b)に示すように、薄膜212上にバンク205を形成する。バンク205表面に残ったフッ酸等の不純物は純水等の洗浄液で洗浄し除去するが、その洗浄液によって薄膜212上面のバンク205で規定された領域が溶けて沈下する。
さらに、
図12(c)に示すように、洗浄液による処理を続けると、薄膜212はバンク205で規定された領域が全て溶けて最終形態である保護層210の状態になる。また、薄膜212が溶けたことによって酸化膜211のバンク205で規定された領域が露出するため、その領域の上面も溶けて沈下し、凹入部204aが形成される。このようにしてホール注入層204が形成される。
【0054】
次に、
図12(d)に示すように、バンク205で規定された領域内に発光層206を形成する。その後の工程は第1の実施形態に係る工程と同じであるため省略する。
[第4の実施形態]
図13は、第4の実施形態に係る表示装置等を示す斜視図である。
図13に示すように、本発明の一態様に係る表示装置300は、R、G、又はBの光を出射する各ピクセルが行方向及び列方向にマトリックス状に規則的に配置されてなる有機ELディスプレイであって、各ピクセルが本発明の一態様に係る発光素子で構成されている。
【0055】
[変形例]
以上、本実施の形態に係る発光素子、表示装置、および発光素子の製造方法を実施の形態に基づいて具体的に説明してきたが、本発明の一態様に係る発光素子、表示装置、および発光素子の製造方法は、上記の実施の形態に限定されない。
例えば、電荷注入輸送層は、ホール注入層に限定されず、ホール輸送層、ホール注入兼輸送層であっても良い。また、第1電極が陰極、第2電極が陽極であっても良く、その場合は、電荷注入輸送層が電子注入層、電子輸送層、又は電子注入兼輸送層であっても良い。
【0056】
また、発光素子は、トップエミッション型に限定されず、ボトムエミッション型であっても良い。