【実施例】
【0052】
(実施例1)
111In‐EC錯体封入リポソームの調製
(エチレンジシステインの合成)
エチレンジシステイン(N,N'−ethylene dicysteine、EC)の合成はBrondeauらの方法(Blondeau et al.,Canadian J.Chem.45:49−52,1967)に準じて行った。L−チオプロリン(thiazolidine−4−carboxylic acid,東京化成工業株式会社製)のアンモニア溶液に金属ナトリウムを加え撹拌した後、塩化アンモニウムを加え室温で一晩撹拌し、生成した結晶を水に溶解し塩酸で析出させることによって得た(融点251−254℃)。
【0053】
(EC封入リポソーム溶液の調製)
ナス型フラスコ内で、クロロホルムに溶解させたジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)(日本油脂株式会社製)とコレステロール(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)をモル比2:1(20μmol:10μmol)で混合させた後、エバポレーターを用いて、60℃、減圧下で溶媒を留去することにより、フラスコ内壁に脂質の薄膜を形成させた。さらに、エバポレーターで4時間以上減圧下に置き、溶媒を完全に留去した。別に、エチレンジシステインを5%(w/v)マンニトール水溶液に加え、1mol/L水酸化ナトリウムを少量加えて溶解し、10mmol/LのEC溶液を調製した。調製したEC溶液2mLを脂質の薄膜を形成した上記フラスコに添加し、65℃湯浴にて脂質薄膜を膨潤させ、多重膜リポソーム(MLV)を懸濁液として得た。リポソーム形成装置(製品名:The Extruder、日油リポソーム株式会社製)に、ポリカーボネート・メンブランフィルター(製品名:Nuclepore(登録商標)、Whatman社製)孔径0.1μm2枚、0.2μm1枚を重ねてセットし、加圧ろ過を繰り返し、単膜リポソーム(SUV)を得た。得られたリポソームは生理食塩水で膨潤したSephadex(登録商標)G−50 fine(GE ヘルスケア株式会社製)を担体とするカラム(1.5cmφ×30cm)に付し、生理食塩水で溶出して精製した。得られたリポソーム画分を424,000×gで20分間遠心分離し、得られた沈殿を生理食塩水1.5mLで再懸濁してEC封入リポソーム溶液を調製した。得られたEC封入リポソームの平均直径を動的光散乱(形式:Microtrac UPA 日機装株式会社製、溶媒:水、測定温度25℃、測定時間:180秒×3)にて測定したところ、104.8nmであった。
【0054】
(
111In−オキシンの調製)
111In溶液(塩化インジウム(
111In)注、日本メジフィジックス株式会社製)600μLと8−ヒドロキシキノリン(和光純薬株式会社製)のエタノール溶液(51mmol/L)15μLを混和し、これに0.5mol/L酢酸緩衝液(pH5.5)200μLを加え、40℃で30分間インキュベーションし、
111In−オキシン溶液を調製した。
【0055】
(
111In−EC錯体封入リポソームの調製)
111In−EC錯体封入リポソームは配位子交換反応により調製した。上記で調製したEC封入リポソーム溶液1.5mLを、上記で調製した
111In−オキシン溶液(全量)に加え、40℃で30分インキュベーションした後、424,000×g、20分間、遠心し、
111In−EC錯体封入リポソーム画分を沈殿として分離した。これを生理食塩水で再懸濁して
111In−EC封入リポソームを得た。未封入の
111In−オキシンは上清として除去した。得られた
111In−EC錯体封入リポソームにつき、下記式(1)に従って標識率を測定したところ、80〜90%であった。放射能は、キューリーメータ(形式:IGC−7、アロカ株式会社製)で測定した。
【0056】
【数1】
【0057】
(参考例1)
111In−EC錯体/マウス尿混液の調製
5%(w/v)マンニトール溶液に少量の水酸化ナトリウムを滴下してpHを8とした液にECを溶解し、10mmol/L EC溶液を調製した。
111In溶液(塩化インジウム(
111In)注、日本メジフィジックス株式会社製)300 μLと0.2mol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)200μLを混合し、これに上記10mmol/L EC溶液を60μL加えて
111In−EC錯体溶液を調製した。溶液中の
111In−EC錯体の存在、及び、
111In−EC錯体以外の
111Inの化学形が溶液中に存在しないことは、TLCで確認した。
別に、健常マウスを代謝ケージ内に置き、排泄された尿を採取した。採取したマウスの尿を精製水で20倍に希釈した後、フィルター(孔径0.2μm)にて濾過した(以下、希釈マウス尿という)。
上で調製した
111In−EC錯体溶液20μLを希釈マウス尿250μLと混合し、
111In−EC錯体/マウス尿混液とした。
なお、TLCを用いた
111In−EC錯体の分析条件は下記のとおりである。
TLCプレート:シリカゲルプレート(製品名:Silica gel 60、メルク株式会社製)
展開相:エタノール/0.4mol/L酢酸緩衝液(pH6)の混合液(3:1)
検出:フルオロイメージアナライザー(形式:FLA−7000, 富士フイルム株式会社製)
【0058】
(実施例2)
111In−EC錯体封入リポソーム内における
111Inの化学形分析
111In−EC錯体封入リポソーム溶液200μLと生理食塩水で飽和させた1−オクタノール500μLを混合し、5分間激しく揺とうした後、5分間静置し、遠心分離(1,000rpm×5分)して、水相とオクタノール相に分離した。それぞれの相中の放射活性を測定し、
111Inの水相への移行を確認した。さらに、水相をHPLCによって分析し、水相内における
111Inの化学形を同定した。その結果、水相内の
111Inが、
111In−EC錯体の形で存在している事が確認された。本実験においては、リポソーム水性コア内に存在していた
111Inは、全て水相に移行している。当該水相中の
111Inが
111In−EC錯体の形で存在していた事から、
111In−EC錯体封入リポソームの水性コア内に存在している
111Inは、
111In−EC錯体の形で存在していることが確認された。
【0059】
なお、
111In−EC錯体のHPLCの測定条件は、以下のとおりである。
カラム:COSMOSIL 5C18−MS−II(4.6mm×150mm、ナカライテスク株式会社製)
移動相:0.01mol/L酢酸アンモニウム水溶液(pH:6.8)とアセトニトリルとの混合溶媒(体積比95:5)
検出器:ガンマ線検出装置(ポジトロンスペクトロメータ)(形式:JSM−1405、アロカ株式会社製)
【0060】
(実施例3)Sarcoma180担がんマウスにおける
111In−EC錯体封入リポソームの体内動態及び排泄の観察
Sarcoma180担がんモデルは、ddYマウス(7〜9週齢、体重30〜40g)の肢皮下にSarcoma180細胞2×10
6個を移植して作成し、移植後8〜12日後に実験に供した。リン脂質濃度5μmol/mLとなるように生理食塩水で希釈した
111In−EC錯体封入リポソーム溶液0.2mL(0.2〜1MBq)をSarcoma180担がんマウスに尾静脈より投与した。投与1、6、12、24、48時間後に断頭によって屠殺した後、各組織を摘出し重量測定を行い、さらに放射能をオートガンマカウンター(形式:2480WIZARD
2、株式会社パーキンエルマージャパン製)で測定した。
【0061】
各臓器に分布した放射能は、投与した量を100%としたときのそれぞれの臓器1gあたりの放射能(%AD/g tissue)として表した。結果を
図1a)〜d)のうち、◆で示す。a)は、肝臓の結果を示す図であり、b)は、脾臓の結果を示す図であり、c)は腫瘍の結果を示す図であり、d)は血液の結果を示す図である。
図1は、マウス5匹の平均を示した。
【0062】
また、投与6、18、24時間後に、尿中及び糞中への放射能の排泄量を測定し、投与した量に対する比率で評価した。結果を
図2a)で示す。
図2a)中、◆が尿中における放射能量の経時変化を示し、■が糞中における放射能量の経時変化を示す。
図2は、マウス3匹の平均を示した。
【0063】
さらに、
111In−EC錯体封入リポソーム溶液投与24時間後のマウスの尿を回収し、投与24時間後に尿中に存在する放射能の化学形の分析を行った。採取した尿を精製水で20倍に希釈し、0.2μmのフィルター(Millex(登録商標)−LG,MILLIPORE)でろ過後、HPLCによって
111In−EC錯体を分析した。なお、
111In−EC錯体のHPLCの条件は、実施例2で示したとおりである。結果を
図3(a)に示す。なお、
図3(b)は、参考例1で調製した
111In−EC錯体/マウス尿混液を同条件で測定したHPLCチャートである。
【0064】
図1a)及びb)で示されるように、
111In−EC錯体封入リポソームは、肝臓及び脾臓に一旦は取り込まれるものの、時間の経過に伴って速やかにクリアランスされる事が確認された。また、
図1c)で示されるように、
111In−EC錯体封入リポソームは、投与後腫瘍に取り込まれ、その後も滞留している事が確認された。
【0065】
また、
図2a)で示すように、
111In−EC錯体封入リポソームは、投与後24時間にかけて、約50%が尿中及び糞中に排泄され、そのうちほとんどが尿中に排泄されていた。この結果から、
111In−EC錯体封入リポソームは、速やかに尿及び糞により排泄される事が示された。
【0066】
図3で示されるように、
111In−EC錯体封入リポソーム投与マウスは、尿中において、
111Inが遊離することなく、
111In−EC錯体の状態で存在している事が確認された。
【0067】
(実施例4)Sarcoma180担がんマウスにおけるSPECT/CTイメージング
111In−EC錯体封入リポソームを投与した担がんマウスにおける腫瘍集積を小動物用nanoSPECT/CT装置(Bioscan社製)を用いて画像化した。具体的には、実施例1で調製した
111In−EC封入リポソーム(18.5MBq)を、実施例2と同様な方法で作製した担がんマウス(7〜9週齢、体重30〜40g)に尾静脈から投与し、投与後1及び26時間後に画像を収集した。4検出器を用いて、総収集方向28、1方向につき150秒の収集を行い、OSEM法を土台とするInVivoScopeソフトウエア(Bioscan社)を用いて、画像再構成を行った。Subset/Iterationを7/1−3,14/4−6,28/7−9(収集方向数28)とし、voxel sizeを0.3mm、filter sizeをvoxel sizeの35%とした。
【0068】
得られたSPECT/CT画像を、
図4に示す。
図4a)は投与1時間後の、
図4b)は投与26時間後の画像を示す。図示するように、
111In−EC錯体封入リポソーム投与マウスでは、一旦は肝臓及び脾臓への集積が見られるものの、その後クリアランスされ、投与後26時間ではほとんど肝臓及び脾臓への集積は見られず、膀胱への集積が確認された。また、
111In−EC錯体封入リポソーム投与マウスでは、投与後26時間にかけて
111Inが腫瘍に集積している事が確認され、投与26時間後では、腫瘍のコントラストが良好な画像が得られていた。
【0069】
(比較例1)
111In‐NTA錯体封入リポソームの調製
ECの代わりにニトリロ三酢酸(NTA)を用い、上記実施例1と同様の方法を行って
111In−NTA錯体を封入したリポソーム(
111In−NTA錯体封入リポソーム)を調製した。具体的には、ECの代わりにNTAを用いてNTA封入リポソーム溶液を調製し、
111In−オキシン溶液との配位子交換反応により、
111In‐NTA錯体封入リポソームを得た。なお、NTA封入リポソームの調製に際しては、エチレンジシステインを5%(w/v)マンニトール水溶液に溶解して得た溶液の代わりに、ニトリロ三酢酸を5%(w/v)マンニトール含有50mmol/L HEPES緩衝液(pH7.4)に溶解した液(10mmol/L)を用いた。
【0070】
(比較例2)Sarcoma180担がんマウスにおける
111In−NTA錯体封入リポソームの体内動態及び排泄の観察
比較例1で調製した
111In−NTA錯体封入リポソームを用いた以外は実施例3と同様な方法で、Sarcoma180担がんマウスにおける
111In−NTA錯体封入リポソームの体内動態及び排泄を観察した。
【0071】
各臓器に分布した放射能は、投与した量を100%としたときのそれぞれの臓器1gあたりの放射能(%AD/g tissue)として表した。結果を
図1a)〜d)のうち、■で示す。
図1は、マウス5匹の平均を示した。
【0072】
また、投与6、18、24時間後に、尿中及び糞中への放射能の排泄量を測定し、投与した量に対する比率で評価した。結果を
図2b)で示す。
図2b)中、◆が尿中における放射能量の経時変化を示し、■が糞中における放射能量の経時変化を示す。
図2は、マウス3匹の平均を示した。
【0073】
図1a)及びb)で示されるように、
111In−NTA錯体封入リポソームでは、肝臓及び脾臓に移行した
111Inがそのまま滞留していた。また、
図2に示すように、
111In−NTA錯体封入リポソームでは、投与後24時間かけ、10%程度しか尿中及び糞中に輩出されていなかった。
【0074】
(比較例3)Sarcoma180担がんマウスにおけるSPECT/CTイメージング
実施例2記載の方法により調製した
111In−NTA錯体封入リポソームを投与した担がんマウスにおける腫瘍集積を、実施例4と同様にして画像化した。ただし、画像収集は、投与後1及び24時間後に行った。
【0075】
得られたSPECT/CT画像を
図5に示す。
図5a)は投与1時間後の、
図5b)は投与24時間後の画像を示す。
図5に示すように、
111In−NTA錯体封入リポソーム投与マウスでは、
111Inが投与後肝臓及び脾臓に移行し、その後も肝臓及び脾臓内に滞留している事が確認された。
【0076】
以上の実施例の結果から、
111In−EC錯体封入リポソームによって腫瘍が良好に描出される事、及び、
111In−EC錯体封入リポソームは投与後速やかに
111In−EC錯体として尿中排泄される事が、確認された。