(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
<1>本発明の検出方法
本発明の方法は、UBE2E2遺伝子座またはC2CD4A−C2CD4B遺伝子座において、2型糖尿病に関連する一塩基多型を解析し、この解析結果に基づいて2型糖尿病を検出することを含む。本発明において、「検出」という用語には、2型糖尿病の発症の危険性の検出、および、発症の存在の有無の検出が含まれる。
【0009】
UBE2E2遺伝子座としては、ヒト3番染色体上のUBE2E2遺伝子座が好ましい。例えば、UBE2E2遺伝子座は、全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI)のデータベースの登録番号NT_022517.18で登録された配列を含む、遺伝子座であってもよい。
C2CD4A−C2CD4B遺伝子座としては、ヒト15番染色体上のC2CD4A−C2CD4B遺伝子座が好ましい。例えば、C2CD4A−C2CD4B遺伝子座は、NCBIのデータベースの登録番号NT_010194.17で登録された配列を含む、遺伝子座であってもよい。
さらに、遺伝子において人種差等があり、置換、欠失等が、2型糖尿病に関連する塩基以外の塩基に生じ得るので、UBE2E2遺伝子座およびC2CD4A−C2CD4B遺伝子座は、上述の配列を含む遺伝子に限定されない。
【0010】
UBE2E2に関する例示的な情報を以下に示す。
UBE2E2 ユビキチン結合酵素E2E 2(UBC4/5ホモログ、酵母)[ヒト]
ゲノム NT_022517.18 23184783..23572295
mRNA NP_689866.1
【0011】
C2CD4A−C2CD4B遺伝子座は、C2CD4AとC2CD4Bとを含む。
C2CD4Aに関する例示的な情報を以下に示す。
C2CD4A 4Aを含むC2カルシウム依存性ドメイン(C2CD4A C2 calcium-dependent domain containing 4A)[ヒト]
ゲノム NT_010194.17 33149732..33153672
mRNA NP_997205.2
【0012】
C2CD4Bに関する例示的な情報を以下に示す。
C2CD4B 4Bを含むC2カルシウム依存性ドメイン(C2CD4B C2 calcium-dependent domain containing 4B)[ヒト]
ゲノム NT_010194.17 33246293..33248038、相補鎖
mRNA NP_001007596.2
【0013】
2型糖尿病に関連するUBE2E2遺伝子座の一塩基多型は、特に限定されない。また、その例には、配列番号1の61番目の塩基に相当する塩基の多型(rs6780569)、配列番号2の61番目の多型(rs9812056)、および配列番号3の61番目の多型(rs7612463)が含まれる。
【0014】
rs6780569 NT_022517.18:g.23138484 G(リスクアレル)>A
配列番号1
TCGATTAGCA TGTAATGATT TTGACATTGG CAGGGTGATA AAAGGGAGAA TTGAGAGTAT
R
GAGGGAAGAA AATAAATGCA AGGAGGGAGA AAAAAGAGGA AATAAACAAC AAAGGAAGGA
【0015】
rs9812056 NT_022517.18:g.23144024 T (リスクアレル)>C
配列番号2
CAAACCACCC GTCGACTGAC AAATTTAGAT AAGCAAATGT GGTACGGACA CATAGCGAAA
Y
ATTATCTGAC CATAAAAAGG AGTGGAGTGC TGATAAACAC TACAACATGG ATAGACCTTG
【0016】
rs7612463 NT_022517.18:g.23276450 C(リスクアレル)>A
配列番号3
TTAAAATTAC TTTCTAAAGC CAATCATTCT GCCTAATACA GGGTCTTCAT TTATTTTTAG
M
TACCTGAAAC TGAGTCTAAA ACCACTTCTC TCTACTTCCT CTTGTCTTTT TCATTTAAAC
【0017】
2型糖尿病に関連するC2CD4A−C2CD4B遺伝子座の一塩基多型は、特に限定されない。また、その例には、配列番号4の61番目の塩基に相当する塩基の多型(rs7172432)、配列番号5の61番目の多型(rs1436953)、および配列番号6の61番目の多型(rs1370176)が含まれる。
【0018】
rs7172432 NT_010194.17:g.33186946 A(リスクアレル)>G
配列番号4
GCTGGGCTAC CTCCTTTGGG AGATAGGTTC TGCCCTGTCA CTGTCTACAA AATTGTTAAT
R
TTCCCAAAGA AACTGTCTGG GCCCCCAAGC CCTCTTTTAA GCCAGGAATT GTGACATTTT
【0019】
rs1436953 NT_010194.17:g.33204571 C(リスクアレル)>T
配列番号5
GGGCAATTCG GCTGTGGATC CAAATATGTA CACTCCACTC AGCAAAGTGA AACTCCAAAG
R
CAGCCAAGGT ATTTATTACC TGTTGTTACC AGAGCACATC CCTTGGCGTT TTACACCCCA
配列番号5では、SNPをR(G(リスクアレル)>A)と示すように、アンチセンス鎖の配列を示す。
【0020】
rs1370176 NT_010194.17:g.33187791 G(リスクアレル)>A
配列番号6
TGGGCCCTCT ACAGCTGTCT TGGGGCTAAA GGGAAGAAGA GGAAATGACA CCTCTGCTGG
Y
GGAATTATAG CCTGCCAGAG TTGGAAAGGA CCTCAGAGAT GATCACTCAA GCCCACCCCC
配列番号6では、SNPをY(C(リスクアレル)>T)と示すように、アンチセンス鎖の配列を示す。
【0021】
「〜に相当する」という表現は、ヒトUBE2E2遺伝子座またはC2CD4A−C2CD4B遺伝子座上の上述の配列を含む領域中の該当塩基を意味する。上述の配列が、人種の相違等によって、SNP以外の位置で若干変更されても、その該当塩基を解析することも含まれる。
【0022】
2型糖尿病は、上述の塩基多型を単独で、またはこれらの組合せを解析することによって、検出することができる。さらに、上述の一塩基多型と連鎖不平衡(r
2>0.5、好ましくはr
2>0.8)にある多型に関して、2型糖尿病を検出することができる。
【0023】
UBE2E2遺伝子座またはC2CD4A−C2CD4B遺伝子座の配列は、そのセンス鎖またはアンチセンス鎖のいずれかに関して解析することができる。
【0024】
UBE2E2遺伝子座またはC2CD4A−C2CD4B遺伝子座の遺伝的多型の解析に使用する試料には、尿および血液等の体液、粘液細胞等の細胞、ならびに頭髪等の体毛が含まれるが、これらに限定されない。遺伝的多型の解析において、これらの試料は直接使用することができるが、これらの試料から染色体DNAを常法によって単離し、これを用いて解析することが好ましい。
【0025】
UBE2E2遺伝子座またはC2CD4A−C2CD4B遺伝子座の遺伝的多型の解析は、遺伝的多型を解析するための従来の方法によって行うことができる。解析の例には、シークエンス解析、PCR、およびハイブリダイゼーションが含まれるが、これらに限定されない。
【0026】
シークエンスは、従来の方法によって行うことができる。具体的には、多型部位から5’側数十塩基に配置されるプライマーを使用して、シークエンス反応を行う。かかる解析結果から、該当する位置における塩基の種類を決定することができる。シークエンスを行う場合、多型塩基を含む断片を、PCR等によって増幅することが好ましい。
【0027】
さらに、PCRにおける増幅の有無を検出することによって、解析することができる。例えば、多型部位を含む領域に相当する配列、およびそれぞれの多型塩基に相当する配列を有した、プライマーを用意し、次いで、これらをPCRに使用し、その後、増幅産物の有無を検出して、多型塩基の種類を決定する。
または、増幅産物の有無は、LAMP法(日本国特許第3313358号)、核酸配列に基づく増幅法(NASBA法;日本国特許2843586号)、およびICAN法(特開2002−233379号)を用いて決定してもよい。また、一本鎖増幅法等の他の方法のいずれかを使用してもよい。
【0028】
さらに、多型部位を含むDNA断片を増幅してもよく、また、増幅産物を電気泳動して、移動度の相違に基づいて、塩基の種類を決定してもよい。かかる方法の例には、一本鎖高次構造多型(PCR−SSCP)(Genomics.1992 Jan 1; 12(1): 139-146)が含まれる。具体的には、まず、UBE2E2遺伝子座またはC2CD4A−C2CD4B遺伝子座の多型部位を含むDNAを増幅し、次いで、増幅したDNAを一本鎖DNAに解離させる。その後、解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離し、次いで、分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度の相違に基づいて、塩基の種類を決定することができる。
【0029】
さらに、多型塩基が制限酵素認識配列に含まれる場合は、制限酵素による消化の有無によって解析することができる(RFLP法)。この場合、まず、DNA試料を制限酵素によって消化する。次いで、DNA断片を分離し、これによって、検出されたDNA断片の大きさに基づいて、塩基の種類を決定することができる。
【0030】
上述の方法によって解析された多型に基づいて、2型糖尿病を検出することができる。
例えば、UBE2E2遺伝子座の配列番号1の61番目の塩基に相当する塩基に基づいて、2型糖尿病を検出する場合には、塩基がGである場合、2型糖尿病の発症の危険性が高いか、または、2型糖尿病に罹患する可能性が高いことが示される。さらに、対立遺伝子の多型を考慮することによって、2型糖尿病を検出することができる。例えば、遺伝子
型が、GG対立遺伝子またはAG対立遺伝子である場合、AA対立遺伝子と比較して、2型糖尿病の発症の危険性が高いか、または、2型糖尿病に罹患する可能性が高いことが示される。
【0031】
UBE2E2遺伝子座の配列番号2の61番目の塩基に相当する塩基に基づいて、2型糖尿病を検出する場合には、塩基がTである場合、2型糖尿病の発症の危険性が高いか、または、2型糖尿病に罹患する可能性が高いことが示される。さらに、対立遺伝子の多型を考慮することによって、2型糖尿病を検出することができる。例えば、遺伝子型が、TT対立遺伝子またはTC対立遺伝子である場合、CC対立遺伝子と比較して、2型糖尿病の発症の危険性が高いか、または、2型糖尿病に罹患する可能性が高いことが示される。
【0032】
UBE2E2遺伝子座の配列番号3の61番目の塩基に相当する塩基に基づいて、2型糖尿病を検出する場合には、塩基がCである場合、2型糖尿病の発症の危険性が高いか、または、2型糖尿病に罹患する可能性が高いことが示される。さらに、対立遺伝子の多型を考慮することによって、2型糖尿病を検出することができる。例えば、遺伝子型が、CC対立遺伝子またはCA対立遺伝子である場合、AA対立遺伝子と比較して、2型糖尿病の発症の危険性が高いか、または、2型糖尿病に罹患する可能性が高いことが示される。
【0033】
C2CD4A−C2CD4B遺伝子座の配列番号4の61番目の塩基に相当する塩基に基づいて、2型糖尿病を検出する場合には、塩基がAである場合、2型糖尿病の発症の危険性が高いか、または、2型糖尿病に罹患する可能性が高いことが示される。さらに、対立遺伝子の多型を考慮することによって、2型糖尿病を検出することができる。例えば、遺伝子型が、AA対立遺伝子またはAG対立遺伝子である場合、GG対立遺伝子と比較して、2型糖尿病の発症の危険性が高いか、または、2型糖尿病に罹患する可能性が高いことが示される。
【0034】
C2CD4A−C2CD4B遺伝子座の配列番号5の61番目の塩基に相当する塩基に基づいて、2型糖尿病を検出する場合には、塩基がGである場合、2型糖尿病の発症の危険性が高いか、または、2型糖尿病に罹患する可能性が高いことが示される。さらに、対立遺伝子の多型を考慮することによって、2型糖尿病を検出することができる。例えば、遺伝子型が、GG対立遺伝子またはGA対立遺伝子である場合、AA対立遺伝子と比較して、2型糖尿病の発症の危険性が高いか、または、2型糖尿病に罹患する可能性が高いことが示される。
【0035】
C2CD4A−C2CD4B遺伝子座の配列番号6の61番目の塩基に相当する塩基に基づいて、2型糖尿病を検出する場合には、塩基がCである場合、2型糖尿病の発症の危険性が高いか、または、2型糖尿病に罹患する可能性が高いことが示される。さらに、対立遺伝子の多型を考慮することによって、2型糖尿病を検出することができる。例えば、遺伝子型が、CC対立遺伝子またはCT対立遺伝子である場合、TT対立遺伝子と比較して、2型糖尿病の発症の危険性が高いか、または、2型糖尿病に罹患する可能性が高いことが示される。
【0036】
<2>本発明の検出試薬
本発明では、2型糖尿病を検出するためのプライマーおよびプローブ等の検出試薬を提供する。プローブの例には、配列番号1、2、3、4、5もしくは6において61番目の塩基を含む連続する配列、またはその相補配列を含む、プローブが含まれる。
さらに、プライマーの例には、配列番号1、2、3、4、5または6の61番目の塩基の多型を識別することができるプライマー、例えば、配列番号1、2、3、4、5または6の61番目の塩基を含む領域を増幅することができるプライマーが含まれる。プライマーは、多型部位を含む領域(好ましくは、50から1,000塩基の長さを有する領域)
の両側で設計された、1組の順方向プライマーと逆方向プライマーであってもよい。さらに、シークエンス解析または一本鎖増幅に使用する場合、プライマーの例は、上述の多型塩基の5’側領域、好ましくは、多型部位から30から100塩基上流の領域の配列を有するプライマー、または、上述の多型塩基から3’側の領域に相補的な配列を有するプライマー、好ましくは、30から100塩基下流の領域に相補的な配列を有するプライマーであってもよい。PCRにおける増幅の有無に基づいて多型を決定するのに使用するプライマーには、配列番号1、2、3、4、5または6において連続する配列を含み、上述の多型塩基を3’側に含むプライマー、および、配列番号1、2、3、4、5または6において連続する配列の相補配列を含み、上述の多型塩基に相補的な塩基を3’側に含むプライマーが含まれる。
かかるプライマーおよびプローブの長さは、特に限定されず、例えば、10から100塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドが好ましく、15から50塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドがより好ましく、また、20から35塩基の長さを有するオリゴヌクレオチドがより好ましい。さらに、本発明の検出試薬は、これらのプライマーおよびプローブの他に、PCRポリメラーゼおよびバッファーをさらに含むものであってもよい。
【0037】
2型糖尿病を検出する他の方法は、UBE2E2またはC2CD4Aおよび/またはC2CD4Bの発現レベル(mRNAまたはタンパク質)を解析すること、および、この解析結果に基づいて2型糖尿病を検出することを含む。2型糖尿病ではない対照と比較して、発現レベルが試験対象において変化する場合、対象が、2型糖尿病の発症の高い危険性を有するか、または、2型糖尿病に罹患する可能性があることを示す。ここで、「発現の変化」という用語の意味には、発現の低下ならびに発現の増強が含まれる。
【0038】
<3>スクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、次に示すステップを含む、2型糖尿病の治療法をスクリーニングするための方法である:UBE2E2またはC2CD4Aおよび/またはC2CD4Bを含むスクリーニング系に、医薬候補物質を加えること;UBE2E2またはC2CD4Aおよび/またはC2CD4Bの活性を測定すること;ならびに、活性を変化させる物質を選択すること。
【0039】
本発明の他のスクリーニング方法は、次に示すステップを含む、2型糖尿病の治療薬をスクリーニングするための方法である:UBE2E2またはC2CD4Aおよび/またはC2CD4Bを発現する培養細胞等のスクリーニング系に医薬候補物質を加えること;UBE2E2またはC2CD4Aおよび/またはC2CD4Bの発現レベル(mRNAまたはタンパク質)を測定すること;および、発現レベルを変化させる物質を選択すること。
【0040】
医薬候補物質は、特に限定されず、低分子合成化合物または天然源由来の化合物であってもよい。さらに、医薬候補物質はペプチドであってもよい。個々の試験物質、またはこれらの物質を含む化合物ライブラリーを、スクリーニングに使用してもよい。これらの候補物質のうち、UBE2E2またはC2CD4Aおよび/またはC2CD4Bの活性または発現レベルを変化させる物質が、2型糖尿病の治療薬として選択される。ここで、「変化させる」という用語の意味には、活性(または発現)を低下させることと、活性(または発現レベル)を増強させることが含まれる。
【実施例】
【0041】
本発明を、以下の実施例によって説明するが、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0042】
我々は、3段階の日本人集団におけるT2DのGWASを行い、さらに別の集団において検証を行った(
図1)。まず、イルミナ・ヒューマン・ハップ610−クァド(Illumin
a HumanHap610-Quad)、および550Kビーズチップ(BeadChip)をそれぞれ使用して、バイオバンクジャパン(BioBank Japan) (//biobankjp.org/)から収集した、4,878人のT2Dに罹患した人(ここで、この群を症例1と称する)、および3,345人の対照(対照1と称する)の遺伝子型を解析した。主成分解析(principal component analysis)を最初に行った結果、過去の報告と同様に(Am. J. Hum. Genet. 83, 445-456 (2008))、日本人集団では、本土および琉球の2つの主なクラスターが存在した。そこで、第1段階のゲノムスキャンでは、T2Dとの関連解析のために、本土クラスターに属する7,541人(4,470人の症例および3,071人の対照)を選択した(
図1)。我々は、相加的関連モデルを用いたアーミテージトレンド検定により、459,359個の良好に判定されたSNPの遺伝子型頻度を比較した(ゲノムインフレーションスコア(genomic inflation score)λ=1.10、レファレンスλ
1,000=1.03)(Nat. Genet. 36, 388-393 (2004))。その結果、16のゲノムワイド水準(P<5×10
−8)の関連を示す、KCNQ1内の1個のSNPを同定した。
【0043】
我々は、さらに関連解析のP値が最も小さい上位100個のSNPを第2段階で解析した。これらのSNPは61個の別々の遺伝子座に存在していた。これら100個のSNPをT2Dに罹患した2,886人(症例2と称する)、および3,087人の対照(対照2と称する)を用いて解析し、98個のSNPについて良好なデータを得た。第1段階と第2段階の統合解析の結果、これらのSNPのうちの20個が、T2Dと16のゲノムワイド水準の関連(P<5×10
−8)を示した。これらのうち、18個のSNPは、KCNQ1、CDKAL1、CDKN2B、およびTCF7L2に存在していた。KCNQ1遺伝子座およびCDKAL1遺伝子座は、ヨーロッパ系および日本人集団において、T2Dとゲノムワイド水準の関連を有することが既に報告されている。加えて、過去に報告されていない3番染色体上のUBE2E2内に位置する2個のSNPを同定した(表1)。この2つのSNPはKCNQ1内の SNPと比較して、効果サイズは弱いものの(オッズ比(OR)=1.21)、リスクアレル頻度はより高いものであった。さらに我々は、ゲノムワイド水準には達していないが境界線上の関連(P<1×10
−7として定義)を有する、3個のSNP(UBE2E2内に1個、および、15番染色体上のC2CD4A−C2CD4B内に2個)を同定した。
【0044】
そこで、我々は、これらの過去に報告されていない2つの遺伝子座(UBE2E2およびC2CD4A−C2CD4B)に注目した。UBE2E2遺伝子座内の4個のSNPのうち、rs6780569およびrs9812056は、絶対連鎖不平衡(LD)(r
2=1)にあったが、他のSNPは、相互に中程度のLDにあった(r
2=0.10−0.48)。C2CD4A−C2CD4B遺伝子座における3個のSNP(rs7172432、rs1436953、およびrs1370176)は、相互に高いLDにあった(r
2=0.62−0.80)。
【0045】
これらの2つの新規遺伝子座と2型糖尿病との関連を確認するために、我々は、第3の日本人集団(第3段階、3,622人のT2D症例、および2,356人の対照)を用いて新規2領域内のSNPを解析した(
図1)。その結果、第3段階の追加によりT2Dとこれらの遺伝子座の関連はさらに強力なものとなった(UBE2E2:rs6780569、P=4.37×10
−9;rs7612463、P=2.27×10
−9;rs9812056、P=1.83×10
−8;表2;C2CD4A−C2CD4B:rs7172432、P=3.66×10
−9;rs1436953、P=2.19×10
−8;表3)。この関連は、第1段階のGWASの際のゲノムインフレーションスコア(λ=1.10)によって補正したP値を用いた場合においても、ゲノムワイド水準の有意性を示した(UBE2E2:rs7612463、P=2.10×10
−8;C2CD4A−C2CD4B:rs7172432、P=4.88×10
−8)。
【0046】
さらに我々は、3つの東アジア人の集団(4,184人のT2D症例、および4,154人の対照)、ならびに2つのヨーロッパ人の集団(6,980人のT2D症例、および8,615人の対照)を用いて、上記2遺伝子座をさらに検証した(
図1)。両遺伝子座と2型糖尿病との関連は、これらの3つの東アジア人の集団で再現され(UBE2E2のrs7612463、P=3.06×10
−2、表2;C2CD4A−C2CD4Bのrs7172432、P=1.26×10
−2;表3)、3つの日本人集団および3つの東アジア人集団のすべての結果を統合すると、T2Dとこれらの遺伝子座の関連はさらに強くなった(UBE2E2のrs7612463、P=9.16×10
−10、OR=1.15、95%CI 1.10−1.21;C2CD4A−C2CD4Bのrs7172432、P=2.61×10
−10、OR=1.12、95%CI 1.08−1.16)。ヨーロッパ人の集団においては、C2CD4A−C2CD4Bと2型糖尿病との関連は再現され(rs7172432、P=6.36×10
−5)、すべての集団の結果を統合すると関連はさらに強力となった(P=8.78×10
−14)。一方、今回解析したヨーロッパ人集団ではT2DとUBE2E2内のSNPとの関連は認められなかった(P>0.05;表2)。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2-1】
【0049】
【表2-2】
【0050】
【表3】
【0051】
3p24.2に位置するUBE2E2は、ユビキチン結合酵素E2E2をコードし(Cytogenet. Cell Genet. 78, 107-111 (1997))、ヒトの膵臓、肝臓、筋肉、および脂肪組織、ならびに培養インスリン分泌細胞系に発現することが報告されている。特に、膵臓β細胞の小胞体のストレスを増加させる条件下で、正常なインスリン生合成、分泌、およびシグナリングを維持する際に、ユビキチンプロテアソーム系が、極めて重要な役割を果たすことが報告されている(Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 296, E1-E10 (2009))。複数の報告は、薬理学的阻害剤によるプロテアソーム阻害が、プロインスリン生合成(J. Biol. Chem. 280, 15727-15734 (2005))、インスリン分泌に関与する分子の活性(J. Biol. Chem. 281, 13015-13020 (2006))、およびグルコースの刺激によるインスリン分泌(Diabetes 55, 1223-1231 (2006)、ならびにDiabetologia 28, 412-419 (1985))を低減させることを示すが、他の研究者は、プロテアソーム阻害剤が、単離されたラット膵島の急性グルコース誘導性インスリン分泌を増強することを報告している(Gene 342, 85-95 (2004))。これらの報告は共に、ユビキチン−プロテアソーム系が、インスリン分泌に重要な役割を果たすことを示唆した。空腹時血漿グルコースおよびインスリン値が測定されている、第3段階(
図1)の872人の対照のうち、rs7612463のリスクアレルを有する群(CC+CA;n=846)は、リスクアレルを持たない群(AA;n=26)よりも、β細胞機能の指標であるHOMA−β(Diabetologia 28, 412-419 (1985))が有意に低く(P=0.0163;90.8±39.0と比較して73.7±36.1)、このことから、このリスクアレルがインスリン分泌の低減に関与する事が示唆された。
【0052】
また、我々は、C2CD4A−C2CD4B遺伝子座の周辺で400kb以内のSNPの関連性についても検討し、この領域中の感受性遺伝子座が、C2CD4AとC2CD4Bの間に存在する事を見出した(データは示さない)。NLF1−2(核局在因子をコードする)、またはFAM148A−B(148の配列類似性を有するファミリーをコードする)としても知られている、C2CD4A−C2CD4B(4を含むC2カルシウム依存症ドメイン(C2 calcium-dependent domain containing 4)をコードする)は、15q22.2に位置し、細胞構造を制御する遺伝子の調節能を有する核内因子をコードする(Gene 342, 85-95 (2004))。しかしながら、C2CD4A−C2CD4Bがコードするタン
パク質の機能的役割は十分に解明されていない。またC2CD4A−C2CD4B遺伝子発現は、ヒトの膵臓、肝臓、筋肉、および脂肪組織、ならびに培養インスリン分泌細胞系で認められ、炎症誘発サイトカインによる処理によって増加することが報告されている(Gene 342, 85-95 (2004))が、T2D疾患感受性の付与におけるC2CD4A−C2CD4Bの関与を示す証拠は、これまで報告されていない。