特許第5904503号(P5904503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5904503
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20160331BHJP
【FI】
   A61B8/14
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-525606(P2013-525606)
(86)(22)【出願日】2012年5月23日
(86)【国際出願番号】JP2012063119
(87)【国際公開番号】WO2013015001
(87)【国際公開日】20130131
【審査請求日】2015年5月7日
(31)【優先権主張番号】特願2011-165662(P2011-165662)
(32)【優先日】2011年7月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000153498
【氏名又は名称】株式会社日立メディコ
(72)【発明者】
【氏名】玉野 聡
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/064688(WO,A1)
【文献】 特開2008−067856(JP,A)
【文献】 特開2000−005165(JP,A)
【文献】 Richard R. Bouchard et al,Optical tracking of acoustic radiation force impulse-induced dynamics in a tissue-mimicking phantom,The Journal of the Acoustical Society of America,American Institute of Physics for the Acoustical Society of America,2009年11月,vol.126, no.5,pp.2733-2745
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
探触子によって超音波を複数のフォーカス領域へ照射し、前記フォーカス領域のずり弾性を演算するとともに、前記超音波の複数のフォーカス領域における温度上昇を演算する演算部と、
前記温度上昇に関する情報を表示する表示部と
前記フォーカス領域が複数略平行に位置されるものであって、前記複数のフォーカス領域へ照射される超音波ビーム間距離を、前記ずり弾性を計測する前記超音波の伝播範囲に応じて複数の前記超音波の伝播範囲が重複しないように調整する制御部と、
有し、
前記制御部は、前記ずり弾性の画像を構成する複数のフレームのうち、時間的に連続するフレーム間において、前記フォーカス領域の位置が異なるように制御すること、
を特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
探触子によって超音波を複数のフォーカス領域へ照射し、前記フォーカス領域のずり弾性を演算するとともに、前記超音波の複数のフォーカス領域における温度上昇を演算する演算部と、
前記温度上昇に関する情報を表示する表示部と、
前記フォーカス領域が複数略平行に位置されるものであって、前記複数のフォーカス領域へ照射される超音波ビーム間距離を、前記ずり弾性を計測する前記超音波の伝播範囲に応じて複数の前記超音波の伝播範囲が重複しないように調整する制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記ずり弾性を計測する領域、探触子の探触子形状、送信周波数、送信波形形状、又は送信パワーの少なくとも一つに基づいて、前記フォーカス領域における超音波縦波による組織変位が大きい、又は前記フォーカス領域における超音波横波による組織変位が小さい、と判定した場合、当該フォーカス領域におけるずり弾性を演算しない領域と判定し、前記演算部は、当該フォーカス領域と異なる位置をフォーカス領域として照射した超音波ビームを用いて、前記ずり弾性を演算しないと判定した領域のずり弾性を演算すること、
を特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
前記演算部は、サーマル・インデックス、メカニカル・インデックス、サーマル・ドーズ、及びタイム・トゥ・スレショールドの少なくとも1つの指標を用いて、前記温度上昇を演算し、前記表示部は、前記指標を表示すること、
を特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記温度上昇が予め定めた閾値又は規制値に達すると前記制御部が判定した場合、生体の温度上昇を予め定めた閾値又は規制値内に抑えるように調整された超音波送信信号を生成する超音波送信部を有すること、
を特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記温度上昇が予め定めた閾値又は規制値に達すると前記制御部が判定した場合、超音波送信信号の生成を停止する超音波送信部を有すること、
を特徴とする請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置に関し、特に、超音波照射領域の温度上昇を低減し、安全にずり弾性を計測できる超音波診断装置及び弾性計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌のような疾患(例えば、乳癌、前立腺癌など)では、腫瘍の増大に伴い生体組織が正常組織と比して有意に硬化することが知られている。また、生体内では、乳癌、前立腺癌などの腫瘍部位は、超音波横波成分による超音波ずり速度が速くなることが知られている。そこで、超音波探触子から放射されたエネルギーの横波成分を生体組織に伝播させることによって、生体組織の超音波ずり速度を計測し、腫瘍部位を識別する手法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許6951544号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、生体組織に対し横波を伝播させ、目的部位に(例えば、腫瘍)に対してずり変位を生じさせるためには、大きな超音波エネルギーを照射しなければならない。照射された超音波エネルギーは生体内で熱に変換され、超音波エネルギーが大きいと、生体の過度の温度上昇によって細胞が壊死する。
【0005】
本発明は、従来の問題を解決するためになされたもので、ずり弾性を計測する超音波の伝播範囲の重複を回避することで生体の温度上昇を所定の規制値内に抑え、生体安全性を確保しつつ、適切に超音波エネルギーを生体に照射して、生体組織の超音波ずり弾性を計測することができる超音波診断装置及び弾性計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の超音波診断装置は、探触子によって超音波を複数のフォーカス領域へ照射し、前記フォーカス領域のずり弾性を演算するとともに、前記超音波の複数のフォーカス領域における温度上昇を演算する演算部と、前記温度上昇に関する情報を表示する表示部とを備えてなり、前記フォーカス領域が複数略平行に位置されるものであって、 前記複数のフォーカス領域へ照射される超音波ビーム間距離を、前記ずり弾性を計測する前記超音波の伝播範囲に応じて複数の前記超音波の伝播範囲が重複しないように調整する制御部を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、温度上昇に関する情報を表示することで、検者に注意を喚起することができ、ずり弾性を計測する超音波の伝播範囲の重複を回避することで生体の温度上昇を所定の規制値内に抑え、生体安全性を確保しつつ、適切に超音波エネルギーを生体に照射して、生体組織の超音波ずり弾性を計測することができる。

【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施の形態にかかる超音波診断装置の概要を示した図
図2】第1の実施の形態にかかる超音波診断装置の動作を説明したフロー図
図3】第2の実施の形態にかかる超音波診断装置により照射される超音波の概要を説明する図
図4】(a)超音波が扇状に照射される場合の超音波横波の伝播方向を示した図(b)超音波が扇状に照射される場合の超音波横波の伝播領域を示した図(c)複数のフォーカス領域が略平行に位置することで、重複領域を低減することを示した図
図5】ずり弾性計測の画像を構成するフレームに従って、超音波のフォーカス領域の位置が切り替わることを示した図
図6】第3の実施の形態にかかる超音波診断装置により取得されるずり弾性画像の概要を示した図
図7】複数のずり弾性画像が重畳されることを示した図
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施の形態)
以下、第1の実施の形態にかかる超音波診断装置について、図面を用いて説明する。図1は、本実施の形態にかかる超音波診断装置の概要を示した図である。
【0013】
超音波診断装置1は、探触子3、超音波送信回路4、超音波受信回路5、デジタルスキャンコンバータ(DSC)6、モニタ(表示部)7、制御回路(制御部)8、操作パネル9、及び演算回路(演算部)10を備える。DSC6は、ずり弾性空間コンパウンド回路12を備える。操作パネル9は、ずり弾性特性計測指示ユニット11を備える。
【0014】
探触子3は、複数の振動子素子を含む超音波振動部から被検体2へ超音波を照射する。
探触子3は、短冊型振動子を備えるリニアアレイ探触子であってもよく、2次元アレイ探触子であってもよい。超音波送信回路4は、制御回路8の制御に従って、探触子3の超音波振動部に対し、超音波送信信号を生成する。超音波受信回路5は、探触子3の超音波振動部からの受信信号を受信し、制御回路8の整相遅延制御により、超音波受信信号の整相処理を行う。デジタルスキャンコンバータ(DSC)6は、超音波受信回路5からの整相処理信号を用いて、超音波画像をモニタ7に表示させる。例えば、DSC6は、超音波画像であるBモード画像、Mモード画像、ドプラ画像、及び血流画像を構成し、モニタ7に表示させる。また、DSC6は、演算回路10によるずり弾性の演算結果を用いてずり弾性画像を構成し、モニタ7に表示させる。モニタ(表示部)7は、超音波画像や様々な情報を表示する。
【0015】
制御回路(制御部)8は、超音波診断装置1の各要素を制御する。制御回路8は、CPUの他、DSP、FPGA、又はRISCにより構成されてもよい。操作パネル9は、超音波診断装置1を操作するための入力を行い、ユーザーインターフェースとして機能する。演算回路(演算部)10は、超音波受信回路5の出力信号を用いて、被検体2における所定の領域のずり弾性を演算する。ずり弾性の演算結果は、DSC6によりずり弾性画像に構成され、モニタ7に表示される。ずり弾性の演算結果は、超音波画像に重畳させて表示されてもよく、超音波画像と並列に表示されてもよい。また、ずり弾性の演算結果のみが表示されてもよい。
【0016】
ずり弾性特性計測指示ユニット11は、ずり弾性特性に関する諸条件を設定する。ずり弾性特性計測指示ユニット11は、タッチパネル、ボタン、及びGUIなどがある。本実施の形態では、操作パネル9が、ずり弾性特性計測指示ユニット11を含んでいるが、ずり弾性特性計測指示ユニット11は、操作パネル9と別のユニットであってもよい。ずり弾性空間コンパウンド回路12は、超音波画像やずり弾性画像を重畳して、モニタ7に表示させる。
【0017】
なお、図1における実線は、超音波データの流れを表しており、波線は、制御信号の流れを表している。
【0018】
演算回路10は、被検体2に照射される超音波ビームのフォーカス領域における温度上昇を演算する。モニタ7は、温度上昇に関する情報を表示する。ここで、温度上昇に関する情報として、サーマル・インデックス(Thermal Index)TI、メカニカル・インデックス(Mechanical Index)MI、サーマル・ドーズ(Thermal Dose)TD、及びタイム・トゥ・スレショールド(Time to Threshold)TTなどの指標がある。
【0019】
サーマル・インデックス(TI)は、熱的作用を表す指標であって、現在の超音波ビームの照射が、組織の温度を何度上昇させる可能性があるかを表す標準的な指標である。TIは、以下の式(1)により算出される。
【0020】
TI=Wo/Wdeg ・・・・・(1)
Wo:超音波診断装置の探触子の放射パワー(超音波出力)[W]
Wdeg:ある生体組織の温度を1℃上昇させるのに必要なパワー(超音波出力)[W]
出典:WFUMB, WFUMB Symposium on Safety and Standardisation in Medical Ultrasound, Synopsis, Ultrasound Med Boil 18, 1992, pp.733−737(非特許文献)
メカニカル・インデックス(MI)は、気泡が圧壊するときに発生し得るエネルギーを同じ負音圧で比較すると、超音波周波数に概ね反比例することに着目したものであり、様々な周波数の超音波の負音圧を周波数1MHzの負音圧に換算した指標である。MIは、以下の式(2)により算出される。MIは、周波数の異なる超音波により生じ得る機械的作用ならびに化学的作用を予測するときに有効である。
【0021】
MI=Pr.α(Zsp)/√(fc) ・・・・・(2)
fc:パルス波の中心周波数[MHz]
Pr.α(Zsp):パルス波が持つ強さの積分値が最大となる点Zspにおける生体の減衰を考慮した超音波の負音圧[MPa]
出典:Robert E. APFEL, “Possibility of Microcavitation from Diagnostic Ultrasound,” IEEE Trans. UFFC 33 (2) (1986) pp.139−142(非特許文献)
出典:Christy K. HOLLAND and Robert E. APFEL, “An Improved Theory for the Prediction of Microcavitation Thresholds,” IEEE Trans. UFFC 36 (2) (1989) pp204−208(非特許文献)
サーマル・ドーズ(TD)は、超音波照射による熱量蓄積に基づく生体温度上昇指標である。
出典:The Thermal Dose Index Marvin C. Ziskin J Ultrasound Med 2010;29:1475−1479(非特許文献)
タイム・トゥ・スレショールド(TT)は、超音波照射エネルギーで、生体安全性が担保されない温度に達する時間までの指標として有用である。
出典:Lubbers, J., Hekkenberg, R. T., and Bezemer, R. A. (2003).“Time to threshold, a safety parameter for heating by diagnostic ultrasound,” Ultrasound Med. Biol. 29, 755−764(非特許文献)
【0022】
本実施の形態にかかる超音波診断装置1は、生体の温度上昇を所定の閾値や規制値内に抑え、生体安全性を確保しつつ、適切に超音波エネルギーを生体に照射して、生体組織の超音波ずり弾性を計測する。所定の規制値は、世界的な医用超音波学術団体であるWFUMB(World Federation for Ultrasound in Medicine and Biology)のガイドラインを用いる。超音波熱的作用及び非熱的作用のガイドラインでは、(1)温度上昇が1.5℃を超えない場合は影響がないこと、(2)4℃以上の温度上昇が5分以上続くと胚や胎児に影響を与える可能性があること、(3)作用は照射の持続時間にも依存すること、及び(4)1.5℃以上の温度を上げる装置は超音波の強さを操作者に提示することが示されている。
【0023】
本実施の形態では、WFUMBのガイドラインを順守し、演算回路10は、TI、MI、TT、及びTDに関する各種超音波送信強度や生体温度上昇インデックスなどをリアルタイムに演算する。モニタ7は、演算回路10により演算される各種超音波送信強度や生体温度上昇インデックスなどをリアルタイムに表示する。また、制御回路8は、被検体2の温度上昇が所定の閾値や規制値に達する恐れがある状態になった場合、モニタ7などを介して検者に警告してもよい。また、制御回路8は、被検体2の温度上昇が所定の閾値や規制値に達する恐れがある状態になった場合、超音波送信回路4を制御して、生体の温度上昇を所定の閾値や規制値内に抑えるように調整された超音波送信信号を生成させてもよい。さらに、制御回路8は、被検体2の温度上昇が所定の閾値や規制値に達する恐れがある状態になった場合、超音波送信回路4を制御して、ずり弾性を計測するための超音波送信信号を停止させてもよい。
【0024】
上述の通り、本発明の超音波診断装置は、探触子3からの超音波によって被検体2のずり弾性を計測する超音波診断装置であって、超音波のフォーカス領域における温度上昇を演算する演算部(演算回路10)と、温度上昇に関する情報を表示する表示部(モニタ7)とを備える。本発明のずり弾性計測方法は、探触子3からの超音波によって被検体2のずり弾性を計測するずり弾性計測方法であって、超音波の超音波エネルギーによるフォーカス領域の温度上昇を演算し、温度上昇に関する情報を表示する。この構成によれば、温度上昇に関する情報を表示することで、検者に注意を喚起することができ、生体の温度上昇を所定の規制値内に抑え、生体安全性を確保しつつ、適切に超音波エネルギーを生体に照射して、生体組織の超音波ずり弾性を計測することができる。
【0025】
また、演算部(演算回路10)は、サーマル・インデックス、メカニカル・インデックス、サーマル・ドーズ、及びタイム・トゥ・スレショールドの少なくとも1つの指標を用いて、温度上昇を演算し、表示部(モニタ7)は、指標を表示する。この構成によれば、超音波送信強度や生体温度上昇インデックスなどをリアルタイムに演算することで、温度上昇が所定の閾値や規制値に達する恐れがある状態になったことを表示することができる。
【0026】
また、温度上昇が所定の閾値や規制値に達する恐れがある状態になった場合、超音波送信(超音波送信回路4)は、生体の温度上昇を所定の閾値や規制値内に抑えるように調整された超音波送信信号を生成する、若しくは、超音波送信(超音波送信回路4)は、超音波送信信号の生成を停止する。
【0027】
次に、本実施の形態にかかる超音波診断装置1の動作について説明する。図2は、超音波診断装置1の動作を説明するフロー図である。
【0028】
ずり弾性特性計測指示ユニット11を用いて、指標(TI、MI、TT、及びTD)のうち少なくとも1つを選択する(ステップS100)。選択される指標は複数であってもよい。超音波診断装置1は、超音波送信を開始する(ステップS101)。超音波送信回路4により生成される超音波送信信号に基づいて、探触子3の超音波振動部から被検体2に超音波ビームが照射される。
【0029】
演算回路10は、選択された指標に関する超音波送信強度(音響強度)や生体温度上昇インデックスなどを、シミュレーション機能を用いてリアルタイムに演算する(ステップS102)。ここで、通常の超音波画像(Bモード画像など)を取得している場合、演算回路10はずり弾性の演算を停止してもよい。また、通常の超音波画像の取得とずり弾性画像の取得を切り替える場合、演算回路10は、ずり弾性と温度上昇に関する指標を演算するモードに切り替わってもよい。すなわち、探触子3からの超音波によって被検体2のずり弾性を計測する場合に、演算回路10は、ずり弾性と温度上昇に関する指標を演算するモードになってもよい。この結果、不要なずり弾性計測を抑えることができる。
【0030】
本発明の超音波診断装置では、探触子3からの超音波によって被検体2のずり弾性を計測する場合に、演算部(演算回路10)は、温度上昇を演算するモードに切り替わる。この構成によれば、ずり弾性を計測する場合に、演算部(演算回路10)が温度上昇を演算するモードに切り替わることで、不要なずり弾性計測を抑えることができる。
【0031】
指標の演算結果は、モニタ7に表示される(ステップS103)。制御回路8は、演算された超音波送信強度(音響強度)や生体温度上昇インデックスが、予め設定される閾値を超えるか否かを判断する(ステップS104)。演算結果が閾値を超え、被検体2の温度上昇が所定の規制値に達する恐れがある状態になった場合は、制御回路8は、モニタ7での警告表示などを介して検者に警告する(ステップS105)。
【0032】
制御回路8は、演算された超音波送信強度(音響強度)や生体温度上昇インデックスが、所定の規制値を超えるか否かを判断する(ステップS106)。規制値は、WFUMBのガイドラインを用いればよい。演算結果が規制値を超える場合は、制御回路8は、モニタ7での警告表示などを介して検者に警告するとともに、超音波送信信号を停止させる(ステップS107)。そして、モニタ7は、超音波送信信号の停止を表示する(ステップS108)。
【0033】
通常の超音波画像やずり弾性画像の取得が終了した場合は、演算回路10は、超音波送信強度(音響強度)や生体温度上昇インデックスなどのシミュレーションを終了する(ステップS109)。
【0034】
本実施の形態にかかる超音波診断装置1によれば、被検体2の生体温度上昇に関する指標を演算し、モニタ7に表示させることで、生体安全性を確保しつつ、適切に超音波エネルギーを生体に照射して、生体組織の超音波ずり弾性を計測することができる。また、指標が閾値や規制値を超える場合に、超音波送信を停止させることで、さらに生体安全性を確保しつつ、適切に超音波エネルギーを生体に照射して、生体組織の超音波ずり弾性を計測することができる。なお、超音波送信強度や生体内温度上昇の指標は、TI、MI、TT、及びTDに限られず、他の指標(例えば、ISPTA.3)を用いてもよい。
【0035】
(第2の実施の形態)
以下、第2の実施の形態にかかる超音波診断装置について、図面を用いて説明する。特に言及しない場合は、他の構成は、第1の実施の形態にかかる超音波診断装置と同様である。図3は、本実施の形態にかかる超音波診断装置により照射される超音波の概要を示した図である。
【0036】
図3(a)は、被検体2の生体内にずり変位を生じさせるために、単一の方向に超音波ビームB1が照射されることを示した図である。生体内にずり変位を生じさせることを目的として所定の深度に亘って横波を発生させるためには、複数の深度方向のフォーカス点fに、超音波ビームB1が照射される。この場合、複数の深度方向のフォーカス点fを含む領域がフォーカス領域Fとなる。図3(a)に示すように、単一の方向に超音波ビームB1が照射される場合、生体内温度上昇分布が局部に集中するため、その部位の温度上昇値が短時間で所定の閾値や規制値に達してしまう可能性がある。したがって、安全にずり弾性計測を行うためには、ずり弾性計測時間を短くしなければならず、十分な検査ができない恐れがある
【0037】
図3(b)及び(c)に示すように、本実施の形態では、複数のフォーカス領域Fへ超音波ビームB1、B2(超音波)が照射される。なお、図3(b)に示すように、複数のフォーカス領域Fが重複する場合や超音波横波の伝播範囲が重複する場合は、重複領域に生体内温度上昇分布が集中するので、本実施の形態では、図3(c)に示すように、複数のフォーカス領域Fへ照射される超音波ビームB1、B2の距離間隔D(超音波ビーム間距離)が調整可能であり、生体内温度上昇分布を調整することで、十分なずり弾性計測時間の下での検査が可能となる。超音波送信を行う開口を制御する、すなわち開口をスキャン方向に沿ってずらすことにより複数のフォーカス領域Fへ照射することができる。
【0038】
制御回路8は、ずり弾性を計測する領域(ずり弾性計測領域)に応じて、生体内のずり弾性を計測するための複数の超音波の送信位置を算出し、超音波送信回路4に対し、ずり弾性計測用の超音波送信位置を制御する。この結果、探触子3は、超音波を複数のフォーカス領域Fへ照射し、複数のフォーカス領域へ照射される超音波の距離間隔Dが調整可能となる。ずり弾性計測領域は、検者がずり弾性特性計測指示ユニット11を介して設定され、ずり弾性計測を行う幅情報と深度情報が設定される。また、ずり弾性計測を3次元で行う場合は、ずり弾性計測を行う奥行き情報が付加される。このように、ずり弾性計測領域が設定された場合、制御回路8は、ずり弾性計測領域を設定するための情報に基づいて、想定される生体内温度上昇をシミュレーションし、超音波の距離間隔Dを設定する。その時、複数の超音波の伝播範囲が重複しないように、超音波の距離間隔Dが設定される。
【0039】
上述の通り、本発明の超音波診断装置では、探触子3からの超音波によって被検体のずり弾性を計測する超音波診断装置であって、探触子3は、超音波を複数のフォーカス領域へ照射し、ずり弾性を計測する演算部(演算回路10)を備える。
【0040】
探触子3は、超音波を複数のフォーカス領域へ照射し、複数のフォーカス領域へ照射される超音波の距離間隔が調整可能である。この構成によれば、複数のフォーカス領域へ超音波を照射することで、生体温度上昇分布を分散させることができ、複数の超音波の照射距離間隔を調整することで、生体内温度上昇分布を調整することができる。
【0041】
例えば、図3(b)に示すように、超音波の距離間隔が狭いと、ずり弾性計測用の超音波ビームB1、B2が重複しない領域においては、生体内温度上昇が閾値や規制値内に収まるが、超音波ビームB1、B2が重複する領域(特に、フォーカス領域F)においては、それぞれの温度上昇領域が重複するため、生体内温度上昇が閾値や規制値を超える可能性がある。この場合、図3(c)に示すように、制御回路8は、超音波ビームB1、B2が重複する領域を調整して、生体内温度上昇が、閾値や規制値内(例えば、生体内最高温度:41℃)に収まるように、ずり弾性計測用の超音波ビームB1、B2の距離間隔D(超音波ビーム送信間距離)を決定する。なお、制御回路8は、ずり弾性計測用の複数の超音波ビームB1、B2が重複しないように、予め複数の超音波ビームの距離間隔D(例えば、3cm)を設定することもできる。検者は、制御回路8を介して距離間隔Dを所定の範囲(例えば、3cm〜5cm)で任意に設定することもできる。
【0042】
本実施の形態にかかる超音波診断装置1によれば、超音波を複数のフォーカス領域Fへ照射し、複数のフォーカス領域Fへ照射される超音波の距離間隔Dが調整されることで、生体安全性を確保しつつ、適切に超音波エネルギーを生体に照射して、生体内温度上昇を所定の範囲内に抑えることができる。
【0043】
なお、探触子3から照射される複数の超音波ビームB1、B2は、複数のフォーカス領域Fが略平行に位置するように、互いに略平行に照射されてもよい。図4は、超音波の横波が伝播する領域を示した図である。一般には、超音波が扇状に照射される走査方式が知られている。この走査方式では、図4(a)に示すように、ずり弾性を計測するための超音波横波の伝播方向Pが、扇状に照射される超音波の縦波方向に対して垂直方向になる。
【0044】
また、この場合の超音波横波の伝播範囲Aは、図4(b)に示すように、フォーカス領域Fを中心とする矩形状になる。この結果、超音波が扇状に照射される場合は、伝播範囲Aが探触子3の当接方向に対して斜めになる。したがって、斜めの伝播範囲Aではカバーできないずり弾性計測領域Eが生じる。一方、斜めの伝播範囲Aでずり弾性計測領域Eを全てカバーするためには、超音波を複数回照射しなければならない。この場合、伝播範囲Aが重複する重複領域Cが生じ、生体内温度上昇の可能性が高まる。また、斜めの伝播範囲Aでは、超音波横波の伝播方向Pが生体筋組織方向に対して水平にならないので、ずり弾性計測のフレームレートが遅くなり、リアルタイム性が損なわれる。
【0045】
図4(c)は、複数のフォーカス領域Fが略平行に位置することで、重複領域Cを低減することを示した図である。ずり弾性特性計測指示ユニット11により設定されたずり弾性計測領域Eをカバーするように、制御回路8が超音波送信回路4を制御することで、生体表面に対して略垂直な方向に超音波ビームB1、B2が形成されることにより、超音波横波が生体筋組織方向に略沿って伝播する。このように、超音波ビームが互いに略平行に照射されて、複数のフォーカス領域が略平行に位置することで、伝播領域Aがずり弾性計測領域Eを効率的にカバーし、生体内へ照射する超音波エネルギーを抑えられるので、不要な生体内温度上昇を回避することができ、生体安全性を確保しつつ、生体内温度上昇を所定の範囲内に抑えることができる。また、伝播領域Aに応じて、超音波ビームの距離間隔D(超音波ビーム間距離)を調整することで、伝播領域Aが重複しないようにずり弾性計測領域Eを効率的にカバーすることができ、生体内へ照射する超音波エネルギーを抑えられる。
【0046】
上述の通り、本発明の超音波診断装置では、超音波の距離間隔は、ずり弾性を計測する超音波の伝播範囲に応じて調整される。この構成によれば、超音波の照射距離間隔を超音波の伝播範囲に応じて調整することで、伝播範囲の重複を回避することができ、ずり弾性計測領域を効率的にカバーしつつ、生体内へ照射する超音波エネルギーを抑えることができる。
【0047】
また、本発明の超音波診断装置では、探触子3は、超音波を複数のフォーカス領域へ照射し、複数のフォーカス領域が略平行に位置する。この構成によれば、超音波ビームが互いに略平行に照射されて、複数のフォーカス領域が略平行に位置することで、超音波の伝播領域がずり弾性計測領域を効率的にカバーし、生体内へ照射する超音波エネルギーを抑えることができる。
【0048】
また、ずり弾性計測の画像を構成するフレームに従って、超音波のフォーカス領域Fの位置が切り替わってもよい。例えば、図5に示すように、第1のフレームでは、伝播領域Aが重複しないように、2つの超音波ビームが照射され、超音波のフォーカス領域F1、F2が略平行に位置する。一方、第2のフレームでは、伝播領域Aが重複しないように、3つの超音波ビームが照射され、超音波のフォーカス領域F3、F4、F5が略平行に位置する。フレームに従って、第1のフレームのフォーカス領域F1、F2と第2のフレームのフォーカス領域F3、F4、F5との位置が異なるので、生体内温度上昇分布が一定のフォーカス領域(例えば、フォーカス領域F1、F2)に集中することを回避できる。
【0049】
この結果、生体内温度上昇分布を調整することで、十分なずり弾性計測時間の下での検査が可能となる。また、ずり弾性計測のフレームレートが向上する。
【0050】
上述の通り、本発明の超音波診断装置では、探触子3は、超音波を複数のフォーカス領域へ照射し、複数のフォーカス領域の位置が、ずり弾性の画像を構成するフレームに従って切り替わる。この構成によれば、フレームに従って複数のフォーカス領域の位置が異なることで、生体内温度上昇分布が一定のフォーカス領域に集中することを回避でき、生体内温度上昇分布を調整することができる。
【0051】
(第3の実施の形態)
以下、第3の実施の形態にかかる超音波診断装置について、図面を用いて説明する。特に言及しない場合は、他の構成は、第1及び第2の実施の形態にかかる超音波診断装置と同様である。図6は、本実施の形態にかかる超音波診断装置により取得されるずり弾性画像の概要を示した図である。本実施の形態では、制御回路8は、フォーカス領域F6〜F8における超音波縦波による変位及び超音波横波による変位のうち少なくとも1つの変位に基づいて、フォーカス領域F6〜F8のずり弾性を演算するか否かを決定する。制御回路8がフォーカス領域F6〜F8のずり弾性を演算しないと決定した場合、演算回路10は、フォーカス領域F6〜F8以外のずり弾性計測領域Eにおいてはずり弾性を演算し、フォーカス領域F6〜F8であるずり弾性計測領域E1〜E3においてはずり弾性を演算しない。
【0052】
上述の通り、本発明の超音波診断装置では、フォーカス領域における超音波縦波による変位及び超音波横波による変位のうち少なくとも1つの変位に基づいて、フォーカス領域のずり弾性を演算するか否かを決定する制御部(制御回路8)を備える。この構成によれば、超音波縦波による組織変位が大きいと予測できる部位、または超音波横波の発生が少ないと予測できる部位において、ずり弾性の演算及び表示を行わないように命令するため、フォーカス領域におけるずり弾性の演算を省略することにより、不要な生体内温度上昇を回避することができ、生体安全性を確保しつつ、生体内温度上昇を所定の範囲内に抑えることができる。
【0053】
ずり弾性を計測することを目的として生体内で超音波横波を発生させるためには、あるボリュームの生体組織を超音波縦波で圧縮する必要がある。その結果、あるボリュームの生体内縦方向の伸縮の変化が、ボリュームの生体内横方向の変化となり、生体内へ横波が伝播する。あるボリュームが無限小に小さいエリアならば、生体内にて縦波が支配的な領域は無いことになるが、実際の超音波送信においては、あるボリュームが有限のエリアであるため、超音波縦波が支配的になる領域が生じる。例えば、−20dBの超音波ビームのビーム幅は、探触子形状、送信周波数、送信波形形状、及び送信パワーなどに依存するが、凡そ0.3〜2.0mm程度となる。このフォーカス領域では、超音波放射方向への生体の変位(超音波縦波による変位)が支配的となり、超音波放射方向の垂直方向への生体の変位(超音波横波による変位)は殆んど観察されず、ずり弾性計測情報に誤りが生じる場合がある。
【0054】
本実施の形態では、制御回路8は、ずり弾性特性計測指示ユニット11により入力されたずり弾性計測領域に関する情報と、探触子3の探触子形状、送信周波数、送信波形形状、及び送信パワーなどに基づいて、ずり弾性計測のために用いられる超音波ビームのプロファイルをシミュレーションし、超音波縦波による変位が大きいと予測される部位(超音波縦波による変位が所定の閾値超である部位)、または超音波横波の発生が少ないと予測される部位(超音波横波による変位が所定の閾値未満である部位)を決定する。そして、制御回路8は、超音波縦波による変位が大きいと予測される部位、または超音波横波の発生が少ないと予測される部位においては、演算回路10に対して、フォーカス領域のずり弾性を演算しないように命令し、DSC6に対して、フォーカス領域におけるずり弾性計測の結果を表示しないように命令する。
【0055】
図6に示すように、時間の経過とともにずり弾性画像1〜3が構成される。ずり弾性画像1において、制御回路8は、フォーカス領域F6における超音波縦波による変位及び超音波横波による変位のうち少なくとも1つの変位に関するプロファイルのシミュレーションに基づいて、フォーカス領域Fのずり弾性を演算するか否かを決定する。制御回路8がフォーカス領域F6のずり弾性を演算しないと決定した場合、演算回路10は、フォーカス領域F6以外のずり弾性計測領域Eにおいてはずり弾性を演算し、フォーカス領域F6であるずり弾性計測領域E1においてはずり弾性を演算しない。同様に、それぞれのずり弾性画像2、3において、演算回路10は、フォーカス領域F7、8以外のずり弾性計測領域Eにおいてはずり弾性を演算し、フォーカス領域F7、8であるずり弾性計測領域E2、E3においてはずり弾性を演算しない。
【0056】
上述の通り、本発明の超音波診断装置では、演算部(演算回路10)は、フォーカス領域のずり弾性を演算しないと決定した場合、フォーカス領域と異なるフォーカス領域へ照射される超音波に基づいて、ずり弾性が演算されないフォーカス領域のずり弾性を演算する。この構成によれば、異なるフォーカス領域へ照射される超音波に基づいて、欠損領域のずり弾性を演算することができるため、フォーカス領域のずり弾性を演算しないと決定された場合でも、ずり弾性計測領域をカバーしたずり弾性計測情報を得ることができる。
【0057】
本実施の形態によれば、制御回路8が、超音波縦波による組織変位が大きいと予測できる部位、または超音波横波の発生が少ないと予測できる部位において、ずり弾性の演算及び表示を行わないように命令するため、不当な、または誤ったずり弾性計測情報が表示されない。この結果、誤診の可能性が減り、診断に適した情報を提供できるようになる。また、フォーカス領域におけるずり弾性の演算を省略することにより、不要な生体内温度上昇を回避することができ、生体安全性を確保しつつ、生体内温度上昇を所定の範囲内に抑えることができる。
【0058】
本実施の形態では、制御回路8がフォーカス領域Fのずり弾性を演算しないと決定した場合、演算回路10は、フォーカス領域F以外のずり弾性計測領域Eにおいてはずり弾性を演算し、フォーカス領域Fであるずり弾性計測領域Eにおいてはずり弾性を演算しない。例えば、ずり弾性画像1において、ずり弾性が演算されないずり弾性計測領域E1が生じる。この場合、演算回路10は、ずり弾性画像2、3において、フォーカス領域F6と異なるフォーカス領域F7、F8へ照射される超音波に基づいて、ずり弾性画像1ではずり弾性が演算されないフォーカス領域F6のずり弾性を演算する。そして、モニタ7は、ずり弾性画像1(第1のずり弾性画像)と、フォーカス領域F6と異なるフォーカス領域F7、F8へ照射される超音波に基づいて演算されるずり弾性画像(第2のずり弾性画像)とを、重畳して表示する。
【0059】
図7は、複数のずり弾性画像が重畳されることを示した図である。図7に示すように、ずり弾性画像1〜3には、ずり弾性が演算されない欠損領域E1〜E3が生じる。一方、DSC6に含まれるずり弾性空間コンパウンド回路12が、それぞれのずり弾性画像1〜3を重畳すれば、欠損領域E1〜E3を補完することができ、ずり弾性計測領域Eの全領域において演算されたずり弾性画像を得ることができる。
【0060】
ずり弾性画像を重畳(コンパウンド)する場合、取得されるずり弾性画像の取得レート及び欠損領域位置などに基づき、ずり弾性特性計測指示ユニット11が、それぞれのずり弾性画像1〜3の重畳比を設定する。例えば、ずり弾性画像1における欠損領域E1の重畳比を「0」とし、ずり弾性画像2、3における欠損領域E1に相当する領域E201、E301の重畳比を、それぞれ「0.5」とする。すなわち、それぞれのずり弾性画像1〜3において、欠損領域E1に対応する領域E1、E201、E301の重畳比は、以下の式(3)のようになる。
【0061】
(E1:E201:E301)=(0:0.5:0.5) ・・・・・(3)
これにより、重畳比の合計が「1」となる。また、領域E1の重畳比が「0」であるため、領域E201と領域E203の重畳比は、合計が「1」であれば、任意に設定される。例えば、領域E1、E201、E301の重畳比は、以下の式(4)であってもよい。
【0062】
(E1:E201:E301)=(0:0.25:0.75) ・・・・・(4)
一方、欠損領域E1、E2、E3及びそれぞれの欠損領域に対応する領域E102、E103、E201、E203、E301、E302以外の領域E11、E21、E31(欠損領域がない領域)の重畳比は、合計が「1」であれば、任意に設定される。例えば、領域E11、E21、E31の重畳比は、以下の式(5)であってもよい。
【0063】
(E11:E21:E31)=(0.2:0.6:0.2) ・・・・・(5)
図7に示すように、ずり弾性空間コンパウンド回路12は、それぞれの領域に重畳比を乗算して加算(重ね合わせ合成)することで、それぞれのずり弾性画像1〜3を重畳する。
【0064】
本実施の形態によれば、制御回路8がフォーカス領域Fのずり弾性を演算しないと決定した際に欠損領域E1、E2、E3が生じる場合でも、欠損領域E1〜E3を補完することができ、疾患判別のための情報が欠落することなくずり弾性画像を得ることができる。
【0065】
上述の通り、本発明の超音波診断装置では、表示部(モニタ7)は、ずり弾性が演算されない場合の第1のずり弾性画像と、異なるフォーカス領域へ照射される超音波に基づいて演算される第2のずり弾性画像とを、重畳して表示する。この構成によれば、ずり弾性画像に欠損領域が生じた場合でも、欠損領域を補完することができ、ずり弾性計測情報が欠落することなくずり弾性画像を得ることができる。
【0066】
以上、本発明にかかる実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、請求項に記載された範囲内において変更・変形することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明にかかる超音波診断装置は、温度上昇に関する情報を表示することで、検者に注意を喚起することができ、生体の温度上昇を所定の規制値内に抑え、生体安全性を確保しつつ、適切に超音波エネルギーを生体に照射して、生体組織の超音波ずり弾性を計測することができるという効果を有する。
【符号の説明】
【0068】
1 超音波診断装置、2 被検体、3 探触子、4 超音波送信回路、5 超音波受信回路、6 DSC、7 モニタ、8 制御回路、9 操作パネル、10 演算回路、11 ずり弾性特性計測指示ユニット、12 ずり弾性空間コンパウンド回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7