特許第5904511号(P5904511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5904511
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】放射線測定方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/167 20060101AFI20160331BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20160331BHJP
   G01T 1/203 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   G01T1/167 J
   G01T1/20 B
   G01T1/203
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-150178(P2014-150178)
(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公開番号】特開2016-24133(P2016-24133A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2015年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】305013910
【氏名又は名称】国立大学法人お茶の水女子大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390029791
【氏名又は名称】日立アロカメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 悦子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 結花
(72)【発明者】
【氏名】荻原 清
【審査官】 林 靖
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−179680(JP,A)
【文献】 特開2007−178336(JP,A)
【文献】 特開2009−294089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質を含む液体サンプルを気化させて複数の気体粒子である複数の気化粒子を含む気化ガスを生じさせると共に、外界から隔離された空間内に固体のシンチレータ部材と一緒に前記気化ガスを閉じ込め、これにより相互作用状態を形成する状態形成工程と、
前記相互作用状態において前記複数の気化粒子からの放射線により前記シンチレータ部材で生じた光を検出する検出工程と、
を含むことを特徴とする放射線測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、
前記シンチレータ部材は、前記複数の気化粒子を取り込み可能な複数の空隙を含む空隙構造を有する、
ことを特徴とする放射線測定方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法において、
前記空間としての内部空間を有する容器が用いられ、
前記シンチレータ部材は前記容器内に充填された複数のシンチレータ要素の集合体であり、
前記集合体は、前記空隙構造として、前記気化ガスが流れる流路網を有する、
ことを特徴とする放射線測定方法。
【請求項4】
請求項3記載の方法において、
前記状態形成工程は、
前記容器内に前記複数のシンチレータ要素を入れる集合体充填工程と、
前記容器内に前記サンプルを導入するサンプル導入工程と、
前記複数のシンチレータ要素及び前記サンプルが入れられた容器を密閉状態にする密閉工程と、
前記密閉状態において前記容器内で前記サンプルの気化を生じさせる気化工程と、
を含むことを特徴とする放射線測定方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法において、
前記気化工程は、前記サンプルを加熱する加熱工程を含む、
ことを特徴とする放射線測定方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、
前記検出工程の後に前記シンチレータ部材を洗浄する洗浄工程を含む、
ことを特徴とする放射線測定方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、
前記放射性物質は前記放射線としてのβ線を放出するトリチウムを含む、
ことを特徴とする放射線測定方法。
【請求項8】
放射性物質を含む液体サンプルを気化させて複数の気体粒子である複数の気化粒子を含む気化ガスを生じさせる気化手段と、
固体のシンチレータ部材及び前記気化ガスを収容する容器と、
前記複数の気化粒子からの放射線により前記シンチレータ部材で生じた光を検出する検出器と、
を含むことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項9】
請求項8記載の装置において、
前記シンチレータ部材は、前記容器内に充填された複数のシンチレータ要素の集合体である、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項10】
請求項9記載の装置において、
前記各シンチレータ要素は、前記集合体の形成状態において前記集合体内に複数の空隙を生じさせる形態を有する、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項11】
請求項10記載の装置において、
前記各シンチレータ要素は、プラスチックシンチレータにより構成される、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項12】
請求項8記載の装置において、
前記気化手段は、前記容器の内部において前記液体サンプルを気化させて前記気化ガスを生じさせる手段である、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項13】
請求項8記載の装置において、
前記気化手段は、前記容器の外部おいて前記液体サンプルを気化させて前記気化ガスを生じさせる手段であり、
前記容器の外部において生成された気化ガスを前記容器へ導入する機構が設けられた、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線測定方法及び装置に関し、特に、低エネルギーβ線の測定に適する放射線測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シンチレータを用いた放射線測定方法として幾つかの方法が知られている。固体シンチレータ法は、固体シンチレータ(例えばプラスチックシンチレータ)を利用して放射線を測定する方法である。その方法では、一般に、低エネルギー放射線つまり飛程の短い放射線を測定するのは困難である。例えば、シンチレータプレート表面上にトリチウムを含む液体サンプルの液滴を載せ、あるいは、その液滴を展開して液層にし、その状態においてトリチウムから出るβ線を検出することが考えられる。しかし、トリチウムから出るβ線の飛程(到達距離)は、空気中では5mm程度しかなく、水中では6μm程度しかない。よって、トリチウムから出たβ線は液体サンプル自身を通過する過程で大きく減衰してしまう(自己吸収)。液体サンプルの外部に出てくるβ線は非常に僅かとなり、シンチレータプレートに十分な発光を生じさせることは困難である。
【0003】
一方、液体シンチレータ法は、液体シンチレータを用いて、液体サンプルから出る放射線(特にβ線)の測定を行う方法である。この方法では、放射性物質を含む液体サンプルが液体シンチレータに添加される。放射線物質の周囲に液体シンチレータが存在することになるので、放射性物質から放出されたβ線により、液体シンチレータが発光する。しかし、この方法では、化学クエンチングによるスペクトル変化という問題が生じる。また、測定後に生じる有機廃液の処理が面倒である。
【0004】
なお、特許文献1には、プラスチックシンチレータの表面に対して液体サンプルを付着させるための親水性処理を施すことが記載されている。特許文献2にはトリチウム検出装置が開示されている。その装置は、トリチウムを含む水蒸気を冷却して液層を形成し、液層から出てくるβ線を検出するものである。その構成は自己吸収の問題を生じさせてしまうものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2014/088046号パンフレット
【特許文献2】特開2007−218827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、固体シンチレータを用いた、液体サンプルに対する新しい放射線測定方法を実現することにある。あるいは、本発明の目的は、低エネルギー放射線を感度良く測定することにある。あるいは、本発明の目的は、液体シンチレータを用いずに、しかも自己吸収の影響を受けずに又はあまり受けずに、低エネルギー放射線を感度良く測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る放射線測定方法は、放射性物質を含む液体サンプルを気化させて複数の気化粒子を含む気化ガスを生じさせると共に、外界から隔離された空間内に固体のシンチレータ部材と一緒に前記気化ガスを閉じ込め、これにより相互作用状態を形成する状態形成工程と、前記相互作用状態において前記複数の気化粒子からの放射線により前記シンチレータ部材で生じた光を検出する検出工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
上記構成において、液体サンプルの気化により気化ガスが生じる。気化ガスは、多数の気化粒子の集団である。多数の気化粒子の内の全部又は一部が放射性物質を含む。気化ガスは、外界から隔離された空間(反応空間)内に、固体のシンチレータ部材と一緒に閉じ込められる。これにより、シンチレータ部材と複数の気化粒子との間での相互作用が生じる状態(正確には相互作用の発生確率が著しく高められた状態)が形成される。それは端的に相互作用状態と言いうる。反応促進状態とも言いうる。複数の気化粒子の内で一部がシンチレータ部材の表面に接触し(望ましくは付着し)、その状態において、接触した気化粒子からの放射線がシンチレータ部材に到達すると、放射線とシンチレータ部材との間で相互作用(シンチレーション)が生じ、シンチレータ部材において発光が生じる。また、複数の気化粒子の内で他の一部は空間内を運動するものと考えられる。運動している気化粒子からの放射線がシンチレータ部材に到達したときにも、発光が生じる。その場合、シンチレータ部材の表面から近い位置にある気化粒子ほど、より大きな発光が生じるものと考えられる。それらの発光が検出器で検出される。本発明に係る放射線測定方法によれば、液体サンプル中から出る放射線をそのまま検出する場合と比較して、自己吸収の問題が生じないのであるいは自己吸収の問題を大幅に軽減できるので、放射線の検出感度(あるいは光変換効率)を高められる。特に低エネルギー放射線を高感度に検出できる。
【0009】
より多くの気化粒子がシンチレータ部材の表面に付着するように諸条件を定めてもよい。例えば、シンチレータ部材の表面に対して気化粒子が付着し易くなる処理を施してもよいし、シンチレータ部材の温度を操作するようにしてもよい。電気的な引力を利用してもよい。より多くの気化粒子がシンチレータ部材の表面に接触しまたその近傍に位置するようにシンチレータ部材の形態又は構造を定めるのが望ましい。例えば、シンチレータ部材の内部に多数の空隙を設け、個々の空隙のサイズを放射線の飛程を考慮して(望ましくはそれと同等かそれ以下に)定めるようにしてもよい。逆に飛程を大きくするために反応空間内から他の気体を追い出すようにしてもよい。放射性物質は、例えば、低エネルギーβ線を放出するトリチウムである。他のβ線核種であってもよい。上記の手法を適用できる限りにおいて、他の種類の放射線を生じさせる核種(例えばラドン、トロン等のα線放出核種)が測定対象となってもよい。
【0010】
上記の気化は微粒子を生成する処理である。生成された気化粒子は、気体分子(又はそれらの凝集体)である。つまり、個々の気化粒子は気体粒子(気体を構成する粒子)である。反応空間の内部で気化を生じさせるようにしてもよいし、反応空間の外部で気化を生じさせ、それにより生成された気化粒子を反応空間内に導入するようにしてもよい。気化は、典型的には、液体サンプルの蒸発により生じる。超音波振動その他の微粒子生成手段を利用してもよい。いずれにしても、液体サンプルのまま放射線の測定を行うのではなく、液体サンプルを気体あるいはそれに準ずる状態に相転換して、その測定を行えば、放射線の自己吸収の問題を解消又は軽減でき、その結果、高感度の測定を実現できる。本手法では、固体のシンチレータ部材が用いられ、液体シンチレレータを利用するものではないので、化学クエンチングによるスペクトル変化の問題を回避でき、また有機廃液の処理等も不要となる。
【0011】
望ましくは、前記シンチレータ部材は、前記複数の気化粒子を取り込み可能な複数の空隙を含む空隙構造を有する。空隙構造により、シンチレータ部材の表面積(放射線を受ける面の面積)を増大できる。これにより、シンチレータ部材と複数の気化粒子との間で生じる相互作用の発生確率を高められる。逆に言えば、シンチレータ部材の表面積が増大するように、シンチレータ部材の形態及び構造を定めるのが望ましい。例えば、多孔質構造や海綿体構造を採用してもよい。あるいは、多数の要素の集合体としてシンチレータ部材を構成することも可能である。その場合、その集合体の内部に多数の空隙が生じるように個々の要素の形態及びサイズを定めるのが望ましい。個々のシンチレータ要素の形態を統一してもよいし、様々な形状やサイズをもったシンチレータ要素を利用してもよい。
【0012】
望ましくは、前記空間としての内部空間を有する容器が用いられ、前記シンチレータ部材は前記容器内に充填された複数のシンチレータ要素の集合体であり、前記集合体は、前記空隙構造として、前記気化ガスが流れる流路網を有する。この構成によれば、容器への複数のシンチレータ要素の充填により、容器の内部空間の形態に合致した形態を有する集合体を自然に形成でき、同時に、その内部に気化ガスが流れるあるいは滞留する流路網を自然に生じさせることが可能である。シンチレータ部材の形態が容器の内部空間の形態に沿っていれば、デッドスペースを少なくして検出効率を高められる。なお、変形例として、空隙構造を有する集合体と共に、気化によらない気体サンプルを容器内に閉じ込めることも考えられる。その場合においても、気体サンプル中の放射物質からの放射線によって個々のシンチレータ要素において発光が生じる。
【0013】
望ましくは、前記状態形成工程は、前記容器内に前記複数のシンチレータ要素を入れる集合体充填工程と、前記容器内に前記液体サンプルを導入するサンプル導入工程と、前記複数のシンチレータ要素及び前記液体サンプルが入れられた容器を密閉状態にする密閉工程と、前記密閉状態において前記容器内で前記液体サンプルの気化を生じさせる気化工程と、を含む。この構成によれば、容器内に複数のシンチレータ要素及び液体サンプルがともに入れられ、容器が密閉状態とされた上で、容器内での液体サンプルの気化により気化ガスが生じる。気化ガスは、シンチレータ部材の内部に存在している多数の空隙に自然に入り込み、つまり、シンチレータ部材が気化ガス雰囲気下におかれる。つまり、容器内において、両者の混在状態あるいは混交状態が形成される。望ましくは、前記気化工程は、前記中空容器を加熱する加熱工程を含む。加熱を行えば液体サンプルの蒸発(場合によっては沸騰)を促せる。シンチレータ部材の温度がその温度上限を超えないように、加熱を行うのが望ましい。あるいは、耐熱性のあるシンチレータ部材を利用してもよい。望ましくは、容器内において液体サンプルを自然蒸発させる工程を含む。望ましくは、前記検出工程の後に前記シンチレータ部材を洗浄する洗浄工程を含む。これによればシンチレータ部材を再利用できる。
【0014】
(2)本発明に係る放射線測定装置は、放射性物質を含む液体サンプルを気化させて複数の気化粒子を含む気化ガスを生じさせる気化手段と、固体のシンチレータ部材及び前記気化ガスを収容する容器と、前記複数の気化粒子からの放射線により前記シンチレータ部材で生じた光を検出する検出器と、を含むことを特徴とする。
【0015】
気化手段は、容器内部において液体サンプルを気化させて気化ガスを生成する手段であり、あるいは、容器外部においてサンプルを気化させて気化ガスを生成する手段である。前者の概念には、積極的に気化ガスを生じさせる構成の他、容器内で液体サンプルの自然蒸発に寄与する構成が含まれる。後者の場合、気化ガスを容器内へ導入する構成が設けられる。いずれにしても、上記構成は、サンプルについて液体から気体(それに準ずる状態を含む)への相転移を生じさせ、サンプル自身が放射線に及ぼす影響(つまり自己吸収)を回避又は軽減し、これによって放射性物質からの放射線がシンチレータ部材に到達し易くするものである。容器内にシンチレータ部材と気化粒子とが一緒に存在することになるので、シンチレータ部材の表面に複数の気化粒子が接触及び近接した状態が自然に形成される。それらの気化粒子から出た放射線がシンチレータ部材へ到達すると、両者間での相互作用が生じて、シンチレータ部材が発光する。その光が検出器で検出される。容器内外への気化ガスの出入りがない状態で測定を行うのが望ましいが、気化ガスを連続的に流した状態で測定を行うことも可能である。
【0016】
望ましくは、前記シンチレータ部材は、前記容器内に充填された複数のシンチレータ要素の集合体である。この構成によれば、容器の内部空間の形態と同じ形態をもった集合体を簡単に形成できる。内部空間に不必要な大きな隙間が生じてしまうことを回避できる。望ましくは、前記各シンチレータ要素は、前記集合体の形成状態において前記集合体内に複数の空隙を生じさせる形態を有する。その形態として、円柱、球体、楕円球等の様々な形態を採用し得る。望ましくは、前記各シンチレータ要素は、プラスチックシンチレータにより構成される。望ましくは、前記気化手段は、前記容器の内部において前記液体サンプルを気化して前記気化ガスを生じさせる手段である。容器内に集合体が形成された上で容器の上部開口から比較的少量の液体サンプルを導入すれば、液体サンプルが複数のシンチレータ要素の表面上に付着することになり、液体サンプルの自然気化を促せる。その場合、常温下での容器及び集合体が気化手段を構成すると理解することもできる。あるいは、集合体を収容した容器へ所定量の液体サンプルを滴下するピペットを含めて気化手段を観念することもできる。望ましくは、前記気化手段は、前記容器の外部おいて前記液体サンプルを気化させて前記気化ガスを生じさせる手段であり、前記容器の外部において生成された気化ガスを前記容器へ導入する機構が設けられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、固体のシンチレータを用いた、液体サンプルに対する新しい放射線測定方法を提供できる。あるいは、低エネルギー放射線を感度良く測定できる。あるいは、液体シンチレータを用いずに、しかも自己吸収の影響を受けずに又はあまり受けずに、低エネルギー放射線を高感度に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る放射線測定装置の好適な実施形態を示す概念図である。
図2】気化粒子が付着したペレットを示す斜視図である。
図3】付着気化粒子及び浮遊気化粒子から出た放射線による発光を説明するための図である。
図4】比較例を説明するための図である。
図5】本発明に係る放射線測定方法の第1実施形態を示すフローチャートである。
図6】充填工程及びサンプル導入工程を示す図である。
図7】密閉工程及び気化工程を示す図である。
図8】スペクトル演算を説明するための図である。
図9】シンチレータ部材の第2例を示す図である。
図10】シンチレータ部材の第3例を示す図である。
図11】シンチレータ部材の第4例を示す図である。
図12】容器の第2例を示す図である。
図13】容器の第3例を示す図である。
図14】洗浄方法の第1例を示す図である。
図15】洗浄方法の第2例を示す図である。
図16】洗浄方法の第3例を示す図である。
図17】本発明に係る放射線測定方法の第2実施形態を示すフローチャートである。
図18】本発明に係る放射線測定方法の第3実施形態を示すフローチャートである。
図19】容器外部で気化処理を行う変形例を示す図である。
図20】洗浄機構を備えた変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1には、本発明に係る放射線測定装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示すブロック図である。本発明に係る放射線測定装置は、液体サンプル中の放射性物質の濃度等を測定するための装置である。放射性物質としては、H‐3(つまりT)、C‐14などの核種を挙げることができる。それらは低エネルギーβ線放出核種である。もちろん、他のβ線放出核種が検出対象となってもよく、また他の種類の放射線が検出されてもよい。本実施形態においては液体サンプルが測定対象である。液体サンプルの例として、常温で液体が気体になる性質を有するものがあげられ、それは例えばHTOを含む水である。
【0021】
図1において、測定部10は測定室12を有している。測定室12は外部からの放射線を遮蔽する部材により囲まれた空間であり、その測定室12は暗室とされている。図1において、測定室12内には容器14が設けられている。容器14の両側には一対の光電子増倍管(PMT)22,24が設けられている。それらは光検出器である。
【0022】
容器14は、容器本体15と蓋16とからなるものである。容器本体15は透明性を有する材料により構成され、その材料としては、例えば、ガラス、プラスチック等があげられる。容器14はバイアルであり、反応容器として機能する。容器本体15の上部に設けられた開口部は蓋16によって開閉可能に封止される。開口部及び蓋16には、それぞれ、ねじ構造が設けられている。
【0023】
蓋16は、例えばプラスチックにより構成され、それは乳白色を有している。但し、蓋16を、透明性を有する材料で構成するようにしてもよい。後に説明するように、容器14においてリークが生じないように、つまり内部空間17が気密空間となるように、容器14にシール構造を採用するのが望ましい。以下に説明するように、内部空間17は、本実施形態において、気化空間としても機能する。
【0024】
内部空間17にはシンチレータ部材18が収容配置されている。シンチレータ部材18は、放射線(本実施形態においてβ線)を受けると発光するシンチレーション機能を発揮するものである。本実施形態において、シンチレータ部材18は複数のペレットの集合体として構成されている。すなわち、容器14の中に複数のペレットが充填され、内部空間17がそれらによって満たされている。複数のペレットの集合体がシンチレータ部材18を構成している。各ペレットは例えば円柱形態を有し、プラスチックシンチレータにより構成されている。シンチレータ部材18の内部つまり集合体の内部には多数の空隙が生じている。それは流路網として機能するものである。集合体を構成する各シンチレータ要素の材料及び形態としては各種のものを採用し得る。
【0025】
内部空間17は、外界から隔離された空間である。そこには、シンチレータ部材18と共に、液体サンプルから生じた気化ガスが閉じ込められている。気化ガスは、多数の気化粒子の集団である。具体的には、測定部10へ容器14を配置するのに先立って、容器14内に液体サンプルが所定量入れられる。その液体サンプルの蒸発により、サンプルガスとしての気化ガスが生成される。その気化ガスは内部空間17に閉じ込められる。それらが再び液化しないように、容器14の搬送過程で、及び、測定室12内で、容器14の温度を管理してもよい。積極的な加熱によらず、容器内での自然気化を利用してもよい。いずれにしても、十分な気化が生じるように気化条件及び注入量を定めるのが望ましい。
【0026】
本実施形態において、液体サンプルの気化により生じた気化ガスは水蒸気である。それは複数の放射性気化粒子を含み、個々の放射性気化粒子はHTOからなる水分子あるいはその凝集体である。多数の気化粒子の内で、一部がシンチレータ部材18の表面に接触あるいは付着するものと考えられ、また他の一部が内部空間17内を浮遊すると考えられる。個々の気化粒子から出たβ線がシンチレータ部材に到達すると、発光が生じる。その光が一対の光電子増倍管22,24によって検出される。
【0027】
本実施形態によれば、液体サンプルを微粒子化あるいは気体に変換し、個々の微粒子から出る放射線を検出できるので、上述した自己吸収の問題を回避できあるいはその問題を大幅に軽減できるという利点が得られる。気化ガスはシンチレータ部材の外部及び内部の隅々まで到達するため、つまり、シンチレータ部材の表面が気化ガスに完全に包み込まれるので、発光効率を高められる。また、液体シンチレータを用いた場合において大きな問題となる化学クエンチングの問題や有機廃液処理の問題を回避できるという利点が得られる。後に説明するように、本実施形態によれば、β線の最大エネルギーを測定することも可能である。また後に説明するように、一旦使用した複数のペレットを洗浄して再利用することも可能である。その場合においても、一般的な洗浄を行うだけで、それを再利用できるから、複雑な廃液処理は不要である。
【0028】
図1において、加熱部28は、測定室12内に容器14を送り込む前に容器に対して加熱を行うステーションである。加熱部28は容器を受け入れる空間を有し、その空間内に設けられた容器が符号14Aで示されている。加熱部28は、本実施形態においてヒーター30を備えている。但し、他の加熱手段を採用するようにしてもよい。気化方法としては加熱には限られない。いずれにしても気化粒子(微粒子)が生じるように気化処理を行うのが望ましい。加熱にあたっては、プラスチックシンチレータの温度上限よりも低い温度においてサンプルの加熱を行うのが望ましい。例えば60℃でサンプルの加熱を行うことが考えられる。耐熱性の良好なプラスチックシンチレータを用いるようにしてもよい。容器14の内部空間17を気密空間とした上で、液体サンプルの蒸発を生じさせた場合、容器14の内部圧力が増大することになる。これにより、気化粒子の運動が激しくなるので、シンチレータ部材表面への気化粒子の接触確率あるいは付着確率を高められる。もっとも、容器14への液体サンプルの導入前に容器14内部を減圧し、加熱に伴う圧力の増大に予め対処しておくようにしてもよい。その場合、放射線の飛程が増大するものと考えられる。いずれにしても、容器14の内部において生じる気化粒子が外界へ流出しないように、容器14の内部空間17を確実に密閉するのが望ましい。
【0029】
一対の光電子増倍管22,24から出力されたパルス信号32,34はパルス加算回路31及び同時計数回路36に送られている。パルス加算回路31は2つのパルス信号32,34を単一の信号に加算あるいは合成するものであり、合成後の信号(出力パルス)39を出力する。一方、同時計数回路36は、2つのパルス信号32,34が同時に得られた場合にのみゲート信号40を出力する回路である。ゲート回路38は、ゲート信号40によって規定されるゲート期間内に限り、パルス加算回路31からのパルス39を通過させる。これにより、いわゆる同時計数処理を実現できる。
【0030】
ゲート回路38の後段に設けられた信号処理回路については図示省略されている。マルチチャンネルアナライザ(MCA)42は、個々のエネルギーチャンネル毎にパルスカウントを行うことによりスペクトルを生成するプロセッサである。スペクトルのデータは演算制御部44に送られている。演算制御部44は、例えばパーソナルコンピュータにより構成される。演算制御部44は、後に説明する各種の演算機能を有しており、また図1に示されている各構成の動作制御を行っている。演算制御部44には入力器46が接続されており、また演算制御部44には表示器48が接続されている。
【0031】
容器搬送機構20は、容器14の搬送を行う機構であり、それはエレベータ機構を含む。図1においては、エレベータ機構の台座上に容器14が載せられている。その台座は上下方向に運動する部材である。本実施形態では、容器搬送機構20により、測定に先だって、容器14が加熱部28内に送り込まれる。図1においては、加熱部28が測定部10の上部に位置しているが、それは例示であり、加熱部28は所望の位置に設けられる。なお、測定後において容器の冷却を行う冷却部を別途設けるようにしてもよく、また後に説明するように、測定後のシンチレータ部材18を洗浄する洗浄部を別途設けるようにしてもよい。2つの光電子増倍管22,24が有する2つの受光面22A,24Aが、できるだけ容器14の表面に非接触で近接するように、一対の光電子増倍管22,24が配置される。
【0032】
図1に示した構成によれば、外界から隔離された内部空間17にシンチレータ部材18と共に液体サンプルから生じた気体粒子を閉じ込められる。これにより相互作用状態つまりシンチレーション発生確率が高められた状態が形成される。これによりサンプル自身で生じる自己吸収の問題に影響されずにまたはあまり影響されずに、β線、特に低エネルギーβ線を高感度で測定できるという利点が得られる。
【0033】
図2には、シンチレータ部材の第1例が示されている。具体的には、図2には、シンチレータ要素としてのペレット50が示されている。それはこの例では円柱形態を有している。その表面50A上には複数の気化粒子52が付着している。ここで、気化粒子52は例えばHTOからなるものである。そのうちのT(トリチウム)から出たβ線がペレット50内に進入すると、そこにおいて発光が生じる。これによりペレット50の外部に光54が放出される。
【0034】
図3には、ペレット50の表面50Aが拡大断面図として示されている。図3に示す状態において、表面50A上には幾つかの気化粒子が付着しており、また表面50Aから離れた位置に幾つかの気化粒子が存在している。例えば、付着した気化粒子52Aからβ線56Aが生じ、それがペレット50に進入すると、そこでシンチレーションが生じ、光54Aが放出される。表面50Aの近くに位置している気化粒子52Bからのβ線56Bがペレット50に到達した場合にも、シンチレーションが生じ、光54Bが外部に放出される。サンプルは液体から気体に転換されているので、サンプル自身によるβ線の自己吸収の問題を大幅に低減できる。
【0035】
シンチレータ部材を構成する各ペレットが発光すると、シンチレータ部材全体として、大きな発光を得られる。容器内で生じた光が一致の受光面により到達するように、容器の形態を適宜定め、また、光反射部材を適宜使用するのが望ましい。なお、ペレットの表面上において、一部の気化粒子群が液化(結露)したとしても、その割合が支配的でなければ、以下に示す比較例よりも良好な検出効率を得ることが可能である。
【0036】
図4には比較例が示されている。シンチレータプレート58の表面上には液滴60が載せられている。液滴60は液体サンプルである。そこには放射性物質であるトリチウム62A,62Bが含まれている。トリチウム62Aからβ線64Aが放出された場合、そのβ線64Aは、液滴60自身による減弱作用を受けて、液滴60内において大きく減衰してしまう。すなわち、β線64Aは外部に放出されない。
【0037】
一方、トリチウム62Bから出たβ線64Bはシンチレータプレート58に到達している。しかし、その到達までにある程度の減弱が生じており、シンチレータプレート58において発光が生じたとしても、それにより外部に出る光66は微弱なものとなる。このように、低エネルギーβ線放出核種の測定にあたっては液体サンプルのままでの測定には限界がある。これに対し、上述した本発明の手法によれば、そのような限界に制限されずに、低エネルギーβ線を高感度に測定することが可能である。
【0038】
次に、図5を用いて本実施形態に係る放射線測定方法の第1実施形態について説明する。第1実施形態に係る放射線測定方法は図1に示した放射線測定装置において自動的に実行されるものである。一部又は全部の工程が手作業で実施されてもよい。
【0039】
図5のS10においては、図6の(A)に示すように、まず、空の容器本体15が用意され、図6の(B)に示すように、その容器本体15の中に複数のペレットが入れられる。これによりペレット集合体68が構成される。その後、必要に応じて、図6の(C)に示すように、重量センサ70を用いて、ペレット集合体68を含む容器本体15Aの重量が計測される。例えば、変換効率等の特定にあたって、重量センサによる計測値が考慮される。容器本体15の内部空間の最上部までペレットを入れるのではなく、最終的に蓋に隠れないレベルまでペレットを入れるようにしてもよい。
【0040】
図5のS12においては、図6の(D)に示すように、例えば、手動のピペットあるいはピペット(ノズル)を備えた自動分注装置を利用して、容器本体15Aの中に所定量のサンプルが導入される。図6の(D)においては、サンプル導入用のノズル72が示されている。容器本体15Aの底面上には滴下されたサンプル74が存在している。少量のサンプルが滴下される場合、複数のペレット表面上にサンプルが付着した状態が形成される。その場合、サンプルは必ずしも底面上には到達しない。容器内の容積、シンチレータ部材の体積、気化条件、環境温度、等によって、サンプル量を適宜定めるのが望ましい。
【0041】
図5のS14においては、図7の(E)に示すように、容器本体15Aの開口部に蓋16が装着される。これにより容器14Bが構成される。容器14Bの内部空間は密閉空間である。必要に応じて、容器本体15Aと蓋16との間の気密性をより高めるために、テープ巻き付け等の処置を施すようにしてもよい。あるいは、容器それ自体にシール構造を設けるようにしてもよい。
【0042】
図5のS16においては、図7の(F)に示すように、この例では、加熱部28が利用され、容器14Bに対して加熱処理が施される。これにより、容器14Bの底面上に存在していたサンプルが蒸発(気化)し、これにより多数の気化粒子からなる気化ガス19が生じる。サンプルが複数のペレット表面上に付着している場合にも、気化ガス19が生じる。滴下されるサンプルが少量の場合、加熱を行わなくても、自然気化により気化ガス19を生じさせ得る。一般に、プラスチックシンチレータは熱にあまり強くないので、その観点からは、比較的低温で加熱を行うか、自然気化の手法を用いるのが望ましい。図7の(F)では、複数の黒点によって複数の気化粒子が表現されている。これにより相互作用状態が形成される。気化に伴い、シンチレータ部材において発光が生じる。
【0043】
図5のS18では、図1に示されるように、測定室12内に容器が配置され、シンチレータ部材で生じる光が一対の光電子増倍管により検出される。これにより、サンプル中に含まれる放射性物質の濃度等の演算が実行される。
【0044】
図5におけるS20では、測定後の容器が測定室から取り出され、容器に対する冷却、洗浄、廃棄等が実行される。それらは必要に応じて実行されるものである。自然冷却後の複数のペレットが容器から取り出されて洗浄されてもよいし、それらのペレットが洗浄されることなく廃棄されてもよい。複数のペレットの洗浄と同時に容器が洗浄されてもよい。
【0045】
図8には、図1に示した演算制御部において実行される演算の一例が示されている。測定スペクトル76は、シンチレータ部材および気化ガスを含む容器に対して測定を行って得られたスペクトルである。バックグラウンド(BG)スペクトル78は、容器の中にシンチレータ部材だけを入れて(液体サンプルを入れずに)、その容器を測定室内に配置し、これにより得られたスペクトルである。減算処理80では、測定スペクトル76からBGスペクトルを減算する処理が実行される。これによりサンプルスペクトル82が得られる。
【0046】
サンプルスペクトル82に基づいて、符号84で示されるように、最大のエネルギーが特定される。それに基づき必要に応じて符号86で示されるように核種の判定が実行される。
【0047】
また、サンプルスペクトル82に基づいて、符号88で示されるように、放射線核種の濃度演算が実行される。この場合において、必要であれば計数効率が考慮される。例えば、サンプル量、ペレット数、容器内部の容積等の情報に基づいて、計数効率が演算されてもよい。それらと計数効率とを対応付けるテーブルを事前に作成しておいてもよい。図8に示した演算内容は一例であり、図示されるもの以外の演算が実行されてもよい。従来の液体シンチレータ法では、最大エネルギーの特定が困難であったが、本手法によれば最大エネルギーを容易に特定できるという利点が得られる。また、化学クエンチング等の影響を受けないので、より正確な濃度演算等を行うことが可能であり、あるいは、煩雑な校正処理が不要となる。
【0048】
図9には、シンチレータ部材の第2例が示されている。この例において、容器14内には、シンチレータ部材90が設けられ、それは複数のシンチレータ要素の集合体である。その集合体は、球状のプラスチックシンチレータ92により構成されている。集合体においては、その内部に多数の空隙が生じており、それが気化ガスを流す流路網として機能する。すなわち、このような空隙構造を採用することにより、シンチレータ部材90の表面積を増大でき、換言すれば、気化粒子(つまり気体粒子)との相互作用が生じる面積の増大を図ることが可能である。いずれにしても、集合体を構成した場合において、その内部に空隙構造が生じるように、シンチレータ要素の形態を定めるのが望ましい。
【0049】
複数のシンチレータ要素を容器14内に充填する手法を採用すれば、容器内におけるデッドスペースを排除でき、すなわち、容器14の内部空間の形態に合致した集合体形態を自然に構築できるという利点が得られる。
【0050】
図10には、シンチレータ部材の第3例が示されている。容器14内には円筒形状を有するシンチレータ部材94が配置されている。シンチレータ部材94は多孔質構造あるいは海綿体構造を有しており、すなわち、その内部には多数の空隙96が存在している。
【0051】
図11には、シンチレータ部材の第4例が示されている。容器14内にはシンチレータ部材98が配置されており、それは複数のシンチレータファイバー100により構成されている。個々のファイバーの間には気体流路が存在しており、シンチレータ部材98全体として、その内部に複数の気体流路が存在している。個々のファイバーを中空体として構成することも可能である。
【0052】
図12には、容器の第2例が示されている。図12の(A)には、容器本体104に対してキャップ106が分離した状態が示されている。容器本体104は、その上部に筒状部109を有し、それは開口部を構成している。筒状部109の内部は上部空間115である。一方、キャップ106においては、筒状部109に対応して円環状の溝108が形成されており、その溝108の一番奥の位置すなわち天井側にリング状のパッキン110が配置されている。環状の溝108の外側は外側部分112であり、溝108の内側が内側部分114を構成しており、それは容器本体104側(すなわち下方)へ突出している。
【0053】
図12の(B)に示されるように、容器本体104に対してキャップ106を装着すると、パッキン110の作用により両者間における隙間が完全にシールされる。それと同時に、容器本体104側に生じていた上部空間115が内側部分114によって実質的に埋められることになり、容器102内の上部において生じるデッドスペースあるいは光検出効率の悪い部分を排除できるという利点が得られる。もちろん、他の容器構造を採用するようにしてもよい。
【0054】
図13には、容器の第3例が示されている。容器116は、円盤状の本体118と、本体118に形成された開口部120を封止するキャップ122と、により構成される。本体118の内部は内部空間を構成しており、そこにはシンチレータ部材123が配置されている。シンチレータ部材123は複数のシンチレータ要素からなるものである。内部空間には、シンチレータ部材123と共に上述したように気化ガスが収容されており、すなわち相互作用状態が構築されている。本体118の両側面に対向するように、一対の光電子増倍管22,24が設けられる。すなわち、本体118の一方の側面が受光面22Aに近接対向しており、本体118の他方の側面が受光面24Aに近接対向している。この図13に示す構成によれば、容器116の中心部分において生じる光も効果的に検出することが可能となる。特に、本体118の側面の形状およびサイズが、一対の受光面22A,24Aのサイズおよび形態に合致しているので、測定効率を高められるという利点が得られる。
【0055】
次に、洗浄方法について数例を説明する。
【0056】
図14には、洗浄方法の第1例が示されている。容器124は、容器本体126とキャップ128とにより構成され、この例においては、キャップ128を貫通して第1ノズル132と第2ノズル134とが設けられている。第1ノズル132の下端は容器の内部空間における上部に位置しており、第2ノズル134の下端136は内部空間における下部に位置している。ちなみに、キャップ128は洗浄専用のキャップであってもよく、あるいは測定中において用いられるものであってもよい。
【0057】
図14に示す構成において、第1ノズル132から容器124の内部に洗浄液を供給しつつ第2ノズル134において吸引を行うことにより、容器内部及びシンチレータ部材130を洗浄することが可能である。洗浄液よる洗浄後においては、例えば蒸留水を用いたすすぎ処理を行うようにしてもよい。
【0058】
なお、図15に示す第2例のように、容器124を倒立姿勢とし、その状態において、第2ノズル134から容器124の内部に洗浄液を供給し、第1ノズル132において洗浄液の吸引を行うようにしてもよい。洗浄後のシンチレータ部材に対してバックグラウンド測定を行うことにより洗浄効果の確認を行える。
【0059】
図16には、洗浄方法の第3例が示されている。この例においては、測定用の容器からシンチレータ部材(ペレット群137)が取り出され、それが洗浄槽135の内部に入れられる。ノズル138によって洗浄液140が洗浄槽135内に流し込まれる。必要な撹拌洗浄処理等を行った後、排水路141上に設けられた弁142を開動作させ、洗浄液が抜き取られる。その後残留したペレット群136に対して、すすぎ処理や乾燥処理等が実行される。ちなみに、排水路141にはフィルタ144が設けられ、ペレット排出が防止されている。
【0060】
以上のように、容器内にペレット群を収納させたままあるいはそれを取り出して洗浄処理を行うことが可能である。もちろん、一回の測定毎にペレット群を廃棄するようにしてもよい。なお、図14および15に示した実施形態によれば、ペレット群と共に容器の内部を洗浄できるという利点が得られる。
【0061】
図17には、放射線測定方法の第2実施形態が示されている。S30においては、容器内にペレットが充填される。S32において、容器に対して蓋が装着され、これにより密閉状態が形成される。S34においては、容器の内部空間からエアが吸引され、これにより容器の内部が減圧状態すなわち陰圧状態とされる。これは気化促進処理と言いうるものである。S36においては、容器内にサンプルが導入される。すると、S38において、サンプルが自然に気化し、これにより気化ガスが生じる。その場合、更に気化を促進させるために、加熱等を行うようにしてもよい。S40においては、容器内にシンチレータ部材と共に気化ガスが閉じ込められた相互作用状態において、シンチレータ部材で生じる光が検出される。S42においては、必要な洗浄処理および廃棄処理が実行される。
【0062】
図18には、放射線測定方法の第3実施形態が示されている。S50において、容器内にペレットが充填される。S52においては、容器が密閉状態とされる。それと共に、S54において、容器の外部において液体サンプルの気化処理により気化ガスが生成される。
【0063】
56においては、密閉状態にある容器の内部に配管等を通じて気化ガスが導入される。すると、容器内においてシンチレータ部材と共に気化ガスが閉じ込められた相互作用状態が形成され、その状態において、S58においてシンチレータ部材で生じる光が測定される。S60においては、必要な洗浄処理および破棄処理が実行される。
【0064】
図19には、放射線測定装置の第2実施形態が示されている。気化槽146には配管148を通じて液体サンプル150が導入される。その際、ポンプ152が利用される。気化槽146にはヒーター154が設けられ、液体サンプルを気化させることにより気化ガスが生成される。その気化ガスがバルブ160を介して配管156を通じて容器162の内部に送り込まれる。
【0065】
容器162内にはシンチレータ部材163が設けられており、そこに気化ガスが導入されると、上述した相互作用状態が形成され、シンチレータ部材163において発光が生じる。それが一対の光電子増倍管164,166で検出される。測定後の気化ガスが配管168を通じてバルブ170の作用により外部へ放出される。ちなみに、容器162の内部に気化ガスを流通させた状態を形成しながら、連続的に光検出すなわち放射線検出を行うようにしてもよい。
【0066】
図20には、放射線測定装置の第3実施形態が示されている。タンク172には液体サンプルが収容されており、液体サンプルは弁174を介して一旦シリンジポンプ176に取り込まれ、シリンジポンプ176から弁174を介して気化槽146へ送り込まれる。気化槽146での気化処理により生じた気化ガスが配管156を経由して容器162内に送り込まれる。容器162の内部にはシンチレータ部材163が設けられている。配管168はサンプルガスを排出するための経路である。配管156上には弁160が設けられている。配管168上には弁170が設けられている。
【0067】
図20に示される構成例では、洗浄液のタンク173が設けられ、測定完了後において、洗浄液173がシリンジポンプ176に引き込まれた上で、それが配管149を介して気化槽146に送り込まれる。これにより気化槽146が洗浄液で満たされる。また配管156を介して洗浄液が容器162内にも送られ、その内部も洗浄液で満たされる。洗浄液の流通状態を形成して個々の構成の洗浄を行った上で、最終的に、バルブ180及び181を開状態とすることにより、気化槽146から洗浄液を外部に排出でき、また容器162から洗浄液を外部に排出することができる。このように、配管経路に洗浄システムを組み込むことにより、容器およびシンチレータ部材を洗浄しながら繰り返し使用することが可能となる。洗浄後において、必要であれば一対の光電子増倍管164,166を用いて、容器に対する光検出を行えばよい。すなわち、バックグラウンド測定を行うことにより、洗浄結果を確認することが可能である。
【0068】
図19および図20に示した構成例は一例であり、目的や用途等に応じて多様な構成を採用し得る。上述した実施形態においては、トリチウムに対する測定が実行されたが、他の低エネルギーβ線放出核種が測定対象となってもよい。またそれ以外の放射線が測定対象となってもよい。
【符号の説明】
【0069】
10 測定部,14 容器,17 内部空間,18 シンチレータ部材,28 加熱部,50 ペレット,52 気化粒子。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20