特許第5904512号(P5904512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5904512
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】シリコン基板の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20160331BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   G01N1/28 N
   H01L21/66 L
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-185412(P2014-185412)
(22)【出願日】2014年9月11日
【審査請求日】2015年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】505322131
【氏名又は名称】株式会社 イアス
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】川端 克彦
(72)【発明者】
【氏名】林 匠馬
(72)【発明者】
【氏名】池内 満政
【審査官】 渡邉 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−233578(JP,A)
【文献】 特開2011−128033(JP,A)
【文献】 特開2001−077158(JP,A)
【文献】 特開平04−360551(JP,A)
【文献】 特開平07−029953(JP,A)
【文献】 特開平05−256749(JP,A)
【文献】 特開平05−283498(JP,A)
【文献】 特開2002−050666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 − 1/44
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板中に含まれる分析対象物を基板深さ方向に分析するシリコン基板の分析方法において、
チャンバー内に載置したシリコン基板に、酸化性ガスとしてオゾンを含む酸素ガスを供給し、シリコン基板表面を酸化し、酸化膜を形成する酸化膜形成工程と、
基板分析用ノズルから吐出した分析液でシリコン基板表面を掃引し、分析対象物を移行させた分析液を基板分析用ノズル内に取り込むことにより分析対象物を回収する回収工程と、を有し、
基板分析用ノズルは、分析液を吐出及び吸引するノズル本体と、掃引する分析液を取り囲むようノズル本体の外周に配された外管とからなる2重管で構成され、ノズル本体と外管との間を排気経路とする排気手段を備えており、
回収工程は、基板分析用ノズルのノズル本体と外管との間を排気手段により排気しながら行い、
回収工程後、80〜110℃に基板を加熱してシリコン基板上の分析液を乾燥させる乾燥工程を更に行い、
酸化膜形成工程と回収工程とを1サイクルとして、1回以上繰返すことにより、基板深さ方向に含まれる分析対象物を分析液に取り込むことを特徴とするシリコン基板の分析方法。
【請求項2】
分析対象物は、Au、Pd、Pt、Rh、Ru、Agのいずれか1種以上の貴金属を含む請求項1記載のシリコン基板の分析方法。
【請求項3】
酸化膜形成工程は、酸化性ガスとしてシリコン基板に0.5vol%以上のオゾンを含む酸素ガスを用い、1回の酸化膜形成工程につき5〜20Åの酸化膜を形成させる請求項1又は請求項2に記載のシリコン基板の分析方法。
【請求項4】
回収工程は、第1分析液として塩酸又は王水を含み、フッ化水素を含まない溶液と、第2分析液としてフッ化水素を含む溶液と、を用い、
第1分析液をシリコン基板上に吐出及び掃引して酸化膜中の分析対象物の一部又は全てを第1分析液中に移行させて回収した後、第2分析液をシリコン基板上に吐出及び掃引して、酸化膜を分解し、酸化膜中に残存する分析対象物を第2分析液中に移行させて回収する請求項1〜3のいずれかに記載されたシリコン基板の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造等に用いられるシリコン基板に含まれる微量金属等の分析対象物を、基板深さ方向に分析する方法に関する。特に、本発明は、分析対象物として、貴金属(Au、Pd、Pt、Rh、Ru、Ag等)が含まれる場合にも好適な分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体等の製造に用いられるシリコン製ウェーハ等のシリコン基板では、高集積化に伴い、デバイス特性に影響する金属等の汚染を検出可能な分析方法が求められている。シリコン基板中の金属量が、ごく微量であっても検出可能とする分析方法として、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)を用いる方法がある。かかる分析方法では、基板中に含まれる金属等の汚染源を、ICP−MSに導入可能な形態として取り出すべく、気相分解法や液滴分解法等により、シリコン基板の形成膜やシリコン基板自体をエッチングして、金属等を含む汚染源を分析液中に移行させて取り出す各種方法が検討されている。例えば、特許文献1には、基板分析用ノズルを用いて、液滴分解法によりシリコン基板に含まれる汚染源を回収する分析方法が開示されている。
【0003】
また、かかる微量金属等の分析においては、シリコン基板表面の表層分析のみならず、基板内部まで深さ方向に不純物濃度を分析できることが求められている。これは、シリコン基板の製造工程において、シリコン基板が高温環境に置かれた際に、基板表面に付着した微量金属が内部まで拡散すること等により、基板内部にも不純物元素が存在する場合があるためである。また、リン、ヒ素、ホウ素等をドープしたシリコン基板においても、目的元素のドープ量や不純物混入量等を確認すべく、基板深さ方向において、ドープ元素の濃度や不純物濃度を分析できる技術が必要となる。シリコン基板の深さ方向について不純物濃度を分析する方法としては、特許文献2に、基板にイオンビームを照射して、放出された2次イオンを解析する2次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Masspectroscopy)を利用した分析方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−128033号公報
【特許文献2】特開2002−303595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のICP−MSを用いる分析方法は、例えば、溶液中の元素はサブpptレベル(pg/mL)、シリコン固体中の元素濃度では、10から1012atoms/cmの微量汚染も検出可能であり、高感度な分析を実現できるものの、シリコン基板深さ方向における濃度分析としては、基板深さと汚染物濃度との相関関係を正確に把握することが困難な傾向があった。シリコン基板深さ方向において不純物元素を取り出すに際し、従来の気相分解法や液滴分解法等では、正確にシリコン基板の一定深さをエッチング除去等することが困難であったためである。
【0006】
一方、特許文献2記載の2次イオン質量分析は、所定強度のイオンビームを照射することにより、シリコン基板の一定深さについて濃度分析が可能である一方、検出可能な金属元素の濃度は約1012〜1015atoms/cmと限界がある。このため、半導体製品の高性能化に従い、2次イオン質量分析よりも、検出感度を高いものとしつつ、一定深さ方向に分析できる方法が必要とされている。
【0007】
また、シリコン基板の微量元素分析においては、半導体デバイスの性能に影響の大きい重金属元素についても検出感度の高い分析が求められているが、シリコンよりもイオン化傾向の小さい貴金属等(Au、Pd、Pt、Rh、Ru、Ag等)は、上記した気相分解法や液滴分解法等では回収が困難であった。これは、貴金属を含むシリコン基板の形成膜を気相分解法等でエッチングした場合、エッチング後の基材シリコンが露出した部分にイオン化傾向の小さい貴金属が強固に付着しやすく、その後に液滴分解法等を行っても、シリコンに付着した貴金属を完全には回収しにくいものとなっていたことによる。
【0008】
そこで本発明は、基板中に含まれる微量金属等の分析対象物を高感度に検出可能としつつ、基板深さ方向における分析対象物の濃度をプロファイル分析可能とする方法を提供する。また、分析対象物として、貴金属等が含まれている場合にも、基板上に貴金属を残存させることなく、回収して分析できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく本発明者等は、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)を用いる分析方法を基本としつつ、基板中の一定深さ中に含まれる分析対象物を回収する方法について鋭意検討することで、深さ方向における濃度分析が可能になるものと考えた。そして、分析対象物の回収の前に、シリコン基板の表層の所定深さを酸化させ、所定膜厚の酸化膜を形成させる工程を設けることにより、基板深さ方向の段階的な分析が可能になることを見出し、以下の本発明に想到した。
【0010】
すなわち、本発明は、シリコン基板中に含まれる分析対象物を基板深さ方向に分析するシリコン基板の分析方法において、チャンバー内に載置したシリコン基板に、酸化性ガスとしてオゾンを含む酸素ガスを供給し、シリコン基板表面を酸化し、酸化膜を形成する酸化膜形成工程と、基板分析用ノズルから基板上に吐出した分析液で基板上を掃引し、分析対象物を移行させた分析液を基板分析用ノズル内に取り込むことにより分析対象物を回収する回収工程と、を有し、基板分析用ノズルは、分析液を吐出及び吸引するノズル本体と、掃引する分析液を取り囲むようノズル本体の外周に配された外管とからなる2重管で構成され、ノズル本体と外管との間を排気経路とする排気手段を有するものとし、回収工程は、基板分析用ノズルのノズル本体と外管との間を排気手段により排気しながら行い、酸化膜形成工程と回収工程とを1サイクルとして、1回以上繰返すことにより、基板深さ方向に含まれる分析対象物を分析液に取り込むシリコン基板の分析方法に関する。
【0011】
本発明の分析方法では、酸化性ガスとしてオゾンを含む酸素ガスを用い、シリコン基板の表層部分を酸化し、酸化膜を形成する酸化膜形成工程と、形成した酸化膜を基板分析用ノズルによる液滴分解法で分解し、分析対象物を回収する回収工程とを有する。かかる酸化膜形成工程及び回収工程によれば、所定膜厚で、厚みの均一な酸化膜を形成でき、酸化膜中に含まれる分析対象物を回収工程で分析液中に取り込むことにより、基板深さ方向について、分析対象物をプロファイル分析することが可能となる。
【0012】
また、本発明は、酸化膜形成工程後、フッ化水素含有ガス等のエッチングガスによる気相分解法は行わずに、基板上に分析液を吐出し、掃引することにより分析対象物を回収するものである。ここで、従来の基板分析で一般的に行われている手法としては、基板表面に自然酸化膜や、酸化膜又は窒化膜等の形成膜(以下、場合により「初期酸化膜等」という。)が存在する場合に、これらの初期酸化膜等を、フッ化水素等のエッチングガスによる気相分解法で分解し、初期酸化膜等の中に含まれていた分析対象物をシリコン基板上に残存させた後、フッ化水素と過酸化水素の混合溶液等の分析液を基板上に吐出及び掃引して、基板上に残存する分析対象物を回収する方法がある。これに対し、本発明は、オゾンを含む酸素ガスによりシリコン基板表面を酸化させて形成した酸化膜(以下、場合により「オゾン酸化膜」という。)について、フッ化水素等のエッチングガスによる気相分解法は行わず、オゾン酸化膜を有するまま、基板表面に分析液を吐出し、掃引して分析対象物を回収するものである。
【0013】
上記方法により、本発明では、シリコン基板中に分析対象物として、金Au、パラジウムPd、白金Pt、ロジウムRh、ルテニウムRu、銀Agのいずれか1種以上の貴金属を含む場合にも、これらの貴金属を回収可能となる。従来法のように、気相分解法により、予めシリコン基板上に有していた初期酸化膜等をエッチング除去した場合、エッチング後のシリコン基板表面と、貴金属とが結合しやすいものとなり、シリコン基板上に結合した貴金属は、その後に分析液による回収工程を行っても完全に回収することは困難となり、基板上に貴金属が残存しやすい。一方、このように初期酸化膜等を除去し、貴金属が結合したシリコン基板を分析する場合にも、本発明を適用すれば、シリコン基板上の貴金属を回収可能になる。これは、酸化膜形成工程において、貴金属周辺のシリコン基板がオゾンを含む酸素ガスにより酸化され、貴金属が周囲のオゾン酸化膜と接触した状態になるためである。このように、本発明によれば、酸化膜形成工程前には貴金属がシリコン基板上に結合していたとしても、オゾン酸化膜の形成により貴金属の周囲を酸化膜として、分析液中に移行しやすい状態にすることができる。以上の方法により、シリコン基板中に貴金属が含まれている場合のみならず、初期酸化膜等に貴金属が含まれている場合にも、貴金属の回収率を高めることができる。
【0014】
以下、本発明の分析方法の各工程につき、詳細に説明する。
【0015】
酸化膜形成工程では、チャンバー内に載置したシリコン基板に酸化性ガスとしてオゾンを含む酸素ガスを供給する。酸化性ガス供給により、シリコン基板を酸化し、基板表層から所定深さの酸化膜を形成する。尚、本発明は、シリコン基板自体に含まれる分析対象物の深さ方向における分析を可能にするものであるが、シリコン基板には、あらかじめ自然酸化膜や窒化膜等の形成膜(初期酸化膜等)が形成されている場合がある。かかる初期酸化膜等を有する場合、事前に気相分解法や液滴分解法等を行い、初期酸化膜等を除去してもよいし、初期酸化膜等を備えたまま、酸化膜形成工程を行っても良い。初期酸化膜等の膜厚が約10nm以上の場合には、酸化膜形成工程前に、気相分解法等により予め初期酸化膜等を除去することが好ましい。初期酸化膜等を除去せずに酸化膜形成工程を行った場合、1回目の回収工程において、シリコン基板中に含まれる分析対象物に加え、初期酸化膜等の膜中に含まれる金属元素等も、分析結果に含まれることとなる。
【0016】
ここで、従来、基板中の分析対象物の分析を目的とする場合、シリコン基板上に、敢えて、強制的に酸化膜を形成することは、通常、行われていない。半導体デバイス等の製造工程では、酸化膜を形成することがあり、高温の石英炉を用いる方法等が行われているが、常温では厚い酸化膜を形成できない。高温で処理する場合、石英等の装置に由来する金属不純物が混入することがあり、金属酸化膜を測定する目的としては適用できない。これに対し、本発明は、シリコン基板上に、意図的に常温で酸化膜を形成するものであり、酸化性ガスとしてオゾンを含む酸素ガスを用いることにより、膜厚の均一な酸化膜(オゾン酸化膜)を形成可能とするものである。また、このようにシリコン基板を強制的に酸化させることで、上述のとおり、分析対象物として貴金属が含まれる場合に、貴金属の回収率を高めることも可能となる。尚、シリコン基板中の分析対象物を分析するための技術として、オゾンガスとフッ化水素の蒸気とを混合したエッチングガスを用いて、シリコン基板自体をエッチングする方法も知られてはいるが、かかる方法では、気相分解法によるシリコン基板のエッチングが必ずしも均一に進行せず、基板深さ方向のプロファイル分析には好適ではなかった。
【0017】
上記したオゾンを含む酸素ガスとしては、酸素ガスを放電することにより、オゾンを発生させたガスを適用できる。放電条件を変更することにより、酸化性ガス中のオゾン濃度を調整することができる。酸化性ガス中のオゾン濃度は、0.5vol%以上とすることが好ましい。また、チャンバーへの導入時間は、1回の工程につき0.5分以上が好ましい。かかるオゾン濃度の酸化性ガスを用いることで、1回の酸化膜形成工程で、基板表層より5〜20Åについて均一な酸化膜(オゾン酸化膜)を形成できる。
【0018】
酸化膜形成工程では、酸化性ガスとして、上記したオゾンを含む酸素ガスに、水蒸気を添加したものを適用することもできる。水蒸気の添加により、シリコン基板の酸化速度を促進することができる。水蒸気として、超純水をバブリングして発生させたもの等を利用できる。
【0019】
本発明における酸化膜形成工程は、チャンバー内にシリコン基板を載置して行うものであるが、2次イオン質量分析法(SIMS)において用いるチャンバーのように、内部を真空にする必要がないため、サイズの大きなチャンバーとすることも容易となる。このため、シリコン基板の大面積化に対応すべく、基板を切断することなく、そのまま載置できる大容量のチャンバーを使用することも容易となる。
【0020】
次に、回収工程では、酸化性の分析液を酸化膜上に滴下し、分析対象物を分析液中に移行させて、酸化膜中に含まれる分析対象物を回収する。この際、分析液の滴下及び基板上の掃引には、基板分析用ノズルを用いる。基板分析用ノズルを用いることにより、微量の分析液で分析液を回収することができ、高感度な分析結果を得ることが可能になる。ここで、1サイクルの回収工程において、分析液を滴下及び掃引した基板上に、再度、同じ分析液を滴下及び掃引することも好ましく、これを2回以上繰り返してもよい。基板上の同じ箇所について、滴下及び掃引を複数回行うことで、酸化膜中に含まれる分析対象物のうち、一度の掃引では回収できなかった元素を回収し、分析対象物の回収率を高めることができる。
【0021】
分析液としては、フッ化水素を体積濃度で2〜5%含むものが好ましく、フッ化水素と過酸化水素(体積濃度2〜15%が好適)との混合溶液が特に好ましい。
【0022】
本発明に用いる基板分析用ノズルとしては、図1に示すように、分析液を吐出及び吸引するノズル本体と、掃引する分析液を取り囲むようノズル本体の外周に配された外管とからなる2重管で構成され、ノズル本体と外管との間を排気経路とする排気手段を有するものを利用できる。かかる基板分析用ノズルを用いることで、酸化膜形成工程で形成した酸化膜を、気相分解法を行わずに、回収工程において液滴分解法により除去する場合における弊害を回避できる。ここで、気相分解法を行わず、液滴分解法により酸化膜を除去する場合の弊害として、親水性である酸化膜上に分析液を吐出した場合、分析液が酸化膜上で濡れ広がった状態となりやすく、分析液を回収しにくい傾向になることが挙げられる。このため、本発明の回収工程では、回収工程を行う際、基板分析用ノズルのノズル本体と外管との間を排気手段により排気しながら、分析液の吐出及び掃引を行うものである。排気手段により排気しながら回収工程を行うことで、酸化膜上に吐出した分析液が、濡れ広がりにより基板分析用ノズルから脱落することを防止できる。
【0023】
回収工程で用いる分析液としては、上述の通り、液滴分解法に従来から用いられているフッ化水素を含む分析液等を用いることができる。また、分析対象物として、シリコン基板中に貴金属が含まれる場合には、以下で示す、2種類の分析液を用いることが好ましい。具体的には、第1分析液として塩酸又は王水を含み、フッ化水素を含まない溶液と、第2分析液としてフッ化水素を含む溶液とを用いる。そして、第1分析液をシリコン基板上に吐出及び掃引して酸化膜表面の分析対象物の一部又は全てを第1分析液中に移行させて回収した液と、その後、第2分析液をシリコン基板上に吐出及び掃引して、酸化膜を分解し、酸化膜中に残存する分析対象物を第2分析液中に移行させて回収した液とを、ICP−MSで分析する。上記とは逆に、フッ化水素を含む第2分析液を、先に基板上に吐出及び掃引してしまうと、第2分析液により酸化膜が分解された基板上のシリコン露出部に貴金属が付着し、回収しにくい傾向となる。このため、先に、塩酸又は王水を含み、フッ化水素を含まない第1分析液を基板上に吐出及び掃引することで、貴金属が酸化膜に接触した状態のまま、貴金属を第1分析液中に取り込むことができるため、貴金属がシリコン基板表面に吸着することを防ぎ、貴金属の回収率を向上できる。上記第1分析液により、シリコン基板に含まれる分析対象物のうち、貴金属とともに、貴金属以外の一部の金属元素も回収できるが、第1分析液では回収しにくい残りの金属元素を第2分析液で回収することにより、各種金属元素を回収することが可能となる。
【0024】
第1分析液について、塩酸を含む場合、体積濃度で10〜25%含むものが好ましく、塩酸と硝酸(体積濃度5〜15%が好適)との混合溶液が特に好ましい。第1分析液が王水を含む場合、王水としては、濃塩酸と濃硝酸とを3:1の体積比で混合した王水を適用できる。また、第2分析液としては、フッ化水素を体積濃度で2〜5%含むものが好ましく、フッ化水素と過酸化水素(体積濃度2〜15%が好適)との混合溶液が特に好ましい。
【0025】
以上の回収工程後、80〜110℃に基板を加熱して基板上の分析液を乾燥させる乾燥工程を更に行うことが好ましい。基板加熱温度は、約100℃が特に好ましい。かかる乾燥工程により、回収工程後の基板上に分析液が残留していた場合にも、分析液を蒸発させて完全に除去することができる。ここで、基板上に分析液が残留したまま、次のサイクルの酸化膜形成工程等を行った場合、本来のエッチング量よりも、基板深さ方向のエッチングが過剰に進行しやすい。すなわち、分析液が残留していると、次のサイクルにおいてオゾンガスによる酸化を行っている時に、残留する分析液による意図しない基板のエッチングが同時進行してしまい、本発明が目的とする一定深さ方向の分析よりも多くエッチングされる傾向となる。また、分析液がランダムに残存することにより、エッチングの均一性も保ちにくい。従って、乾燥工程を行い、基板上に残留する分析液を除去することにより、基板深さ方向における分析の分解能を高め、一定深さごとに進行させやすくなる。
【0026】
そして、本発明の分析方法では、以上説明した酸化膜形成工程と回収工程とを1サイクルとして、1回以上繰返すことにより、基板深さ方向に含まれる分析対象物を分析液に取り込む。かかる方法により、1回のサイクルで、シリコン基板の深さ方向について、およそ形成した酸化膜の膜厚分の深さに含まれる分析対象物を回収することができ、これを複数回繰り返すことで、段階的に、基板深さ方向に含まれる分析対象物の濃度を分析することが可能になる。上記した乾燥工程を行う場合には、酸化膜形成工程、回収工程、及び乾燥工程を1サイクルとして、1回以上繰返すことが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
以上で説明したように、本発明の分析方法では、シリコン基板に含まれる分析対象物の濃度を、基板深さ方向について、プロファイル分析することが可能になる。また、分析対象物として貴金属が含まれる場合にも、貴金属が基板シリコンに付着することを防ぎつつ、基板中の貴金属を回収し分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明における基板分析用ノズルの模式図。
図2】実施形態における分析サイクル数に対するICP−MSで分析したB元素濃度を示す結果図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0030】
実施例1:基板表面から約10nmの深さにホウ素Bがインプラントされた、8インチのシリコンからなるウェーハ基板をチャンバー内に設置した後、以下の酸化膜形成工程、回収工程、及び乾燥工程を行い、基板中に含まれる金属元素をICP−MSで分析した。
【0031】
まず、基板表面に予め有している自然酸化膜及び形成膜(初期酸化膜等)を除去するため、液滴分解により初期酸化膜等を分解しながら回収した。この液滴分解には、2〜5%HFと、2〜15%Hとを含む溶液を用いた。初期酸化膜を回収後、シリコン基板をホットプレートで約100℃に加温して、ウェーハ表面に残留する溶液を乾燥させた。
【0032】
次に、ウェーハをチャンバー内に設置し、オゾンガスを導入して常温にてウェーハに酸化膜(オゾン酸化膜)を形成する酸化膜形成工程を行った。酸化性ガスとして、ガス放電器に酸素ガスを供給しガス放電させて調整した、0.6vol%のオゾンを含む酸素ガスを用いた。酸化性ガスは、チャンバー内に約1分間導入した。
【0033】
上記酸化膜形成工程後、シリコン基板の断面をSEM観察した結果、約10Åの均一な酸化膜が形成されたことを確認できた。
【0034】
次に、回収工程では、図1に示す基板分析用ノズルを用いた。ノズル本体10と、外管20とからなる2重管で構成され、ノズル本体10は、シリンジポンプ(図示せず)と接続しており、分析液Dが吐出可能となっている。また、ノズル本体10と外管20との間を矢印方向に排気可能な排気手段として、排気ポンプ(図示せず)が接続されている。
【0035】
上記基板分析用ノズルを用いて、以下の回収工程を行った。2〜5%HFと、2〜15%Hとを含む分析液にノズルを浸漬し、シリンジポンプで吸引してノズル本体10の液溜内に分析液を1,000μL充填した。その後、半導体基板W上に分析液Dを800μL吐出させ、外管20の先端で分析液Dを取り囲むように保持しながら、分析液Dが基板Wの表面全体を通過するようノズルを操作した。ノズル操作後、分析液Dを基板分析用ノズル内に取り込んだ。かかる分析液をICP−MSにより分析することにより、分析液中に含まれる各元素の種類及び濃度を分析した。以上のノズル操作中、排気ポンプにより、排気速度0.3〜10L/minで図1の矢印方向への排気を行った。
【0036】
上記回収工程後、シリコン基板をホットプレートで約100℃に加温して、ウェーハ表面に残留する分析液Dを乾燥させる乾燥工程を行った。
【0037】
上記した酸化膜形成工程、回収工程、及び乾燥工程を1サイクルとして、60回繰り返して行った。各サイクルについて、回収工程で回収した分析液をICP−MSで分析するとともに、基板重量の測定結果から基板のエッチング量を算出した。また、比較のため、上記分析に用いたものと同じ基板について、2次イオン質量分析法(SIMS)による、深さ方向の分析も行った。図2には、ICP−MSによる分析結果について、分析サイクル数に対するホウ素濃度を示す。
【0038】
以上の結果、図2のとおり、ホウ素濃度が最も高い、23サイクル目を中心に、その前後のサイクルにおいて、緩やかなホウ素濃度の増減カーブが見られ、基板深さ方向について、段階的な元素分析が行われたことが確認できた。この結果は、SIMSによる分析結果と、ほぼ一致するものであった。また、ホウ素濃度が最も高い23サイクル目は、ホウ素Bをインプラントした基板約10nm深さであり、1サイクルあたり、約0.43nmのシリコン基板をエッチングできたと考えられる。尚、本実施例では、ホウ素をウェーハの表面側からインプラントしているために、約10nmより浅い部分にもホウ素が検出される。一方、サイクル数約40回前後でホウ素濃度が急激に低下しており、40回目以降の分析深さは、ホウ素がインプラントされた部分を超えていることが分かる。
【0039】
次に、上記した酸化膜形成工程、回収工程、及び乾燥工程を1サイクルとする分析に対し、比較試験として、乾燥工程を行わずに、酸化膜形成工程及び回収工程のみを1サイクルとして繰り返し行い分析を行った。各工程の分析条件については、上記と同様とした。
【0040】
上記のように、乾燥工程を行わない場合、1サイクルあたりのエッチング量は、約1.5nmとなり、乾燥工程を行った場合よりも、1回当たりのエッチング量が増加した。そして、ICP−MSによる元素分析結果では、図2のような緩やかなホウ素濃度の増減がみられず、やや乱れたカーブとなった。このため、乾燥工程を行うことにより、一定深さごとのプロファイル分析が良好に行えるものと考えられる。
【0041】
実施例2:貴金属として金Au、パラジウムPd、白金Pt、ロジウムRh、ルテニウムRu、銀Agを含む混合標準溶液(各貴金属を10ppbずつ含有する溶液)を、12インチシリコンウェーハ上に500μL滴下して、自然乾燥させて強制的に貴金属汚染させた基板について、分析した。
【0042】
上記シリコン基板について、実施例1と同様の方法で、初期酸化膜等を除去した後、酸化膜形成工程を行った後、以下の回収工程を行った。
【0043】
実施例1と同じ基板分析用ノズルを用い、以下2種類の分析液を用いて回収工程を行った。まず、20%塩酸と6%硝酸との混合溶液からなる第1分析液にノズルを浸漬し、シリンジポンプで吸引してノズル本体10の液溜め内に分析液を1,000μL充填し、その後、半導体基板W上に分析液を800μL吐出し、外管20先端で分析液Dを取り囲むように保持しながら、分析液Dが基板Wの表面全体を通過するようノズルを操作した。ノズル操作後、分析液Dを基板分析用ノズル内に取り込んだ。かかる分析液をICP−MSにより分析することにより、貴金属を含む第1分析液により回収した元素を分析した(第1分析液(1回目))。
【0044】
また、第1分析液による貴金属を含む元素の回収は、上記と同様の方法でもう一度行い、回収した元素を分析した(第1分析液(2回目))。
【0045】
次に、3%HFと、4%Hとを含む第2分析液にノズルを浸漬し、シリンジポンプで吸引してノズル本体10の液溜め内に分析液を1,000μL充填し、その後、半導体基板W上に分析液を800μL吐出させ、外管20先端で分析液Dを取り囲むように保持しながら、分析液Dが基板Wの表面全体を通過するようノズルを操作し、オゾン酸化膜を分解しながら金属の回収を行った。ノズル操作後、分析液Dを基板分析用ノズル内に取り込んだ。かかる分析液をICP−MSにより分析することにより、第2分析液により回収した元素を分析した(第2分析液)。
【0046】
また、上記に対する比較例として、自然形成膜等を有した基板について、気相分解法(VPD)によりフッ化水素ガスによるエッチングを行った後、上記第2分析液と同じ3%HFと、4%Hとを含む分析液により回収した元素についても、ICP−MSによる分析を行った(VPDあり第2分析液)。
【0047】
以上のICP−MSの分析結果について、回収液中における金Au、パラジウムPd、白金Pt、ロジウムRh、ルテニウムRu、銀Agの元素濃度の結果を、下記表に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
上記結果より、貴金属を含むシリコン基板を分析する場合、オゾンガスによる酸化膜を形成し、分析液として塩酸を含む溶液を用いた場合、回収前に気相分解法によるエッチングを行った場合に比べ、ほとんどの貴金属について回収率が向上した。また、第1分析液による貴金属の回収率について、分析液の吐出及び掃引を複数回繰り返すことにより、一度の吐出及び掃引で回収しきれなかった貴金属を回収し、回収率を高めることができることが分かった。
【0050】
また、貴金属の種類についてみると、Au、Pd、Agは、塩酸を含む第1分析液を用いることにより、第2分析液のようなフッ化水素を含む分析液よりも高い回収率でウェーハ基板より回収可能になることが示された。一方、Ruについては、フッ化水素を含む第2分析液によっても、20%を超える回収率となった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、シリコン基板の深さ方向において、分析対象物のプロファイル分析を行うことが可能であり、リンやヒ素等をドープしたシリコン基板における、ドープ量の確認等にも好適である。また、分析対象物として、Au、Pd、Pt、Rh、Ru、Ag等の貴金属が含まれる場合にも、基板中の貴金属を高い回収率で回収し分析できる。
【符号の説明】
【0052】
10 ノズル本体
20 外管
D 分析液
W ウェーハ
【要約】
【課題】本発明は、シリコン基板中に含まれる微量金属等の分析対象物を高感度に検出可能としつつ、基板深さ方向における分析対象物の濃度をプロファイル分析可能とする方法を提供する。
【解決手段】本発明は、オゾンを含む酸素ガスを供給してシリコン基板表面に酸化膜を形成する酸化膜形成工程と、基板分析用ノズルを用いて分析対象物を回収する回収工程と、を有し、基板分析用ノズルは2重管で構成されノズル本体と外管との間を排気経路とする排気手段を有するものとし、回収工程は基板分析用ノズルのノズル本体と外管との間を排気手段により排気しながら行い、酸化膜形成工程と回収工程と任意の乾燥工程を1サイクルとして、1回以上繰返すことにより、基板深さ方向に含まれる分析対象物を分析液に取り込むシリコン基板の分析方法に関する。
【選択図】図2
図1
図2