(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鉄化合物が、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、ヘム鉄、デキストラン鉄、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、及び硫化グリシン鉄から選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項3記載の免疫寛容誘導剤。
請求項1〜5のいずれか記載の免疫寛容誘導剤及びGM−CSFで、骨髄から採取した細胞を光照射せずにインビトロ処理することを特徴とする制御性樹状細胞を誘導する方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、安全かつ従来の薬剤とは作用メカニズムの異なる、免疫疾患の治療に応用可能な制御性樹状細胞の誘導剤の他、アレルギー性疾患の予防・治療剤や自己免疫疾患の予防・治療剤等の免疫寛容誘導剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、ALAの医療への応用に関して様々な検討を続けてきたが、ALA単独又はALA類と鉄イオン供給源であるクエン酸第一鉄ナトリウム(SFC)等の鉄化合物とを含有する組成物が、制御性樹状細胞の誘導作用や、アレルギー性疾患予防・治療作用や、及び自己免疫疾患予防・治療作用を有することを見いだした。
【0009】
また、鉄化合物はALAと協働して、制御性樹状細胞の誘導作用、アレルギー性疾患予防・治療作用、及び自己免疫疾患予防・治療作用を増強するものであることも見いだした。鉄化合物が十分存在する場合や、鉄化合物を別途摂取する場合は、ALA単独の投与で問題がない場合がある。ミネラルの中でも鉄は赤身の肉の摂取量が諸外国に比べて少ない日本人では不足がちである。このため日本人での実施例の一部は同時に添加しているが、貯蔵鉄が十分な人を対象とする場合は必要ない。また、ALAはポルフィリンに代謝され光照射でPDT、PDD活性を示すことが広く知られているが、本発明の制御性樹状細胞の誘導方法、アレルギー性疾患の予防・治療方法や自己免疫疾患の予防・治療方法には光を必要としない。
【0010】
本発明者らは、さらに投与方法や投与量に関して鋭意検討を重ね、ALA類単独、又はALA類と鉄化合物とを有効成分とする免疫寛容誘導剤を確立し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下の通りである。
[1]下記式(I)で示される化合物又はその塩を含有する免疫寛容誘導剤。
【化1】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
[2]R
1及びR
2が、水素原子であることを特徴とする上記[1]記載の免疫寛容誘導剤。
[3]さらに、鉄化合物を含有することを特徴とする上記[1]又は[2]記載の免疫寛容誘導剤。
[4]鉄化合物が、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、ヘム鉄、デキストラン鉄、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、及び硫化グリシン鉄から選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする上記[3]記載の免疫寛容誘導剤。
[5]鉄化合物が、クエン酸第一鉄ナトリウムであることを特徴とする上記[3]記載の免疫寛容誘導剤。
[6]制御性樹状細胞の誘導に適用することを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか記載の免疫寛容誘導剤。
[7]アレルギー性疾患に適用することを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか記載の免疫寛容誘導剤。
[8]アレルギー性疾患がアトピー性皮膚炎であることを特徴とする上記[7]記載の免疫寛容誘導剤。
[9]自己免疫疾患に適用することを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか記載の免疫寛容誘導剤。
[10]自己免疫疾患が強皮症であることを特徴とする上記[9]記載の免疫寛容誘導剤。
[11]上記[1]〜[10]のいずれか記載の免疫寛容誘導剤を対象に投与することを特徴とする免疫寛容の誘導方法。
[12]上記[1]〜[5]のいずれか記載の免疫寛容誘導剤を対象に投与することを特徴とする制御性樹状細胞の誘導方法。
[13]上記[1]〜[5]のいずれか記載の免疫寛容誘導剤及びGM−CSFで、骨髄から採取した細胞をインビトロ処理することを特徴とする制御性樹状細胞を誘導する方法。
[14]上記[12]又は[13]記載の方法で誘導された単離された制御性樹状細胞。
[15]上記[1]〜[5]のいずれか記載の免疫寛容誘導剤を対象に投与することを特徴とするアレルギー性疾患の予防及び/又は治療方法。
[16]上記[1]〜[5]のいずれか記載の免疫寛容誘導剤を対象に投与することを特徴とする自己免疫疾患の予防及び/又は治療方法。
[17]a)下記式(I)で示される化合物又はその塩;
【化2】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
b)鉄化合物;
を含む免疫寛容誘導キット。
[18]a)下記式(I)で示される化合物又はその塩;
【化3】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
b)鉄化合物;
を同時又は前後して対象に投与することを特徴とする免疫寛容の誘導方法。
[19]a)上記[1]〜[5]のいずれか記載の免疫寛容誘導剤;
b)GM−CSF;
を含む制御性樹状細胞をインビトロで誘導するためのキット。
[20]a)上記[1]〜[5]のいずれか記載の免疫寛容誘導剤;
b)アレルギー性疾患治療薬;
を含むアレルギー性疾患予防・治療剤の組合せ。
[21]a)下記式(I)で示される化合物又はその塩;
【化4】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
b)鉄化合物;
c)アレルギー性疾患治療薬;
を含むアレルギー性疾患予防・治療剤の組合せ。
[22]a)上記[1]〜[5]のいずれか記載の免疫寛容誘導剤;
b)自己免疫疾患治療薬;
を含む自己免疫疾患予防・治療剤の組合せ。
[23]a)下記式(I)で示される化合物又はその塩;
【化5】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
b)鉄化合物;
c)自己免疫疾患治療薬;
を含む自己免疫疾患予防・治療剤の組合せ。
【0012】
これら発明の他の態様として以下のものを例示することができる。
[24]式(I)で示される化合物又はその塩を含有する制御性樹状細胞の誘導剤。
[25]さらに、鉄化合物を含有することを特徴とする上記[24]記載の制御性樹状細胞の誘導剤。
[26]上記[24]又は[25]記載の制御性樹状細胞の誘導剤を対象に投与することを特徴とする制御性樹状細胞の誘導方法。
[27]制御性樹状細胞の誘導に用いるための式(I)で示される化合物又はその塩。
[28]制御性樹状細胞の誘導に用いるための式(I)で示される化合物又はその塩と鉄化合物を含有する組成物。
[29]制御性樹状細胞の誘導剤を調製するための式(I)で示される化合物又はその塩の使用。
[30]制御性樹状細胞の誘導剤を調製するための式(I)で示される化合物又はその塩及び鉄化合物の使用。
[31]式(I)で示される化合物又はその塩を含有するアレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤。
[32]さらに、鉄化合物を含有することを特徴とする上記[31]記載のアレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤。
[33]上記[31]又は[32]記載のアレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤を対象に投与することを特徴とするアレルギー性疾患の予防及び/又は治療方法。
[34]アレルギー性疾患の予防及び/又は治療に用いるための式(I)で示される化合物又はその塩。
[35]アレルギー性疾患の予防及び/又は治療に用いるための式(I)で示される化合物又はその塩と鉄化合物を含有する組成物。
[36]アレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤を調製するための式(I)で示される化合物又はその塩の使用。
[37]アレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤を調製するための式(I)で示される化合物又はその塩及び鉄化合物の使用。
[38]式(I)で示される化合物又はその塩を含有する自己免疫疾患の予防及び/又は治療剤。
[39]さらに、鉄化合物を含有することを特徴とする上記[38]記載の自己免疫疾患の予防及び/又は治療剤。
[40]上記[38]又は[39]記載の自己免疫疾患の予防及び/又は治療剤を対象に投与することを特徴とする自己免疫疾患の予防及び/又は治療方法。
[41]自己免疫疾患の予防及び/又は治療に用いるための式(I)で示される化合物又はその塩。
[42]自己免疫疾患の予防及び/又は治療に用いるための式(I)で示される化合物又はその塩と鉄化合物を含有する組成物。
[43]自己免疫疾患の予防及び/又は治療剤を調製するための式(I)で示される化合物又はその塩の使用。
[44]自己免疫疾患の予防及び/又は治療剤を調製するための式(I)で示される化合物又はその塩及び鉄化合物の使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明の免疫寛容誘導剤によると、免疫疾患の治療に応用可能な制御性樹状細胞を誘導することができる。また、本発明の免疫寛容誘導剤によると、アレルギー性疾患の予防・治療や自己免疫疾患の予防・治療を行うことができる。本発明の免疫寛容誘導剤は、従来の免疫抑制剤等と作用メカニズムが異なるため、既存薬と併用することでより効果を高めることも期待される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において「免疫寛容の誘導」とは、ALA類又はALA類と鉄化合物によって誘導される特定の抗原に対する免疫反応の抑制状態、すなわち、免疫反応レベルの減少、免疫反応の発生又は進行の遅れ、及び/又は免疫反応によるリスクの減少を誘導することをいい、本発明の免疫寛容誘導剤としては、上記式(I)で示される化合物又はその塩(以下、これらを総称して「ALA類」ということもある)を有効成分として含むものであれば特に制限されないが、ALA類に加えて鉄化合物を含有するものが好ましい。上記本発明の免疫寛容誘導剤、特にALA類と鉄化合物を含有する免疫寛容誘導剤を、ヒトの他、家畜・家禽類やペットなどの対象に投与することにより、免疫寛容の誘導や制御性樹状細胞の誘導の他、アレルギー性疾患の予防及び/又は治療や、自己免疫疾患の予防及び/又は治療を行うことができる。なお、本発明の免疫寛容誘導剤や免疫寛容誘導キットを、制御性樹状細胞の誘導に適用する場合に「制御性樹状細胞誘導剤」や「制御性樹状細胞をインビトロで誘導するためのキット」、アレルギー性疾患に適用する場合に「アレルギー性疾患予防及び/又は治療剤」や「アレルギー性疾患予防及び/又は治療キット」、自己免疫疾患に適用する場合に「自己免疫疾患予防及び/又は治療剤」や「自己免疫疾患予防及び/又は治療キット」と、それぞれいうこともある。
【0016】
本発明の免疫寛容誘導キットとしては、ALA類と鉄化合物とを有効成分として個別の薬剤として含み、免疫寛容を誘導するという用途に用いられるキットであれば特に制限されず、かかる免疫寛容誘導キットを用いると、ヒトの他、家畜・家禽類やペットなどの対象における、免疫寛容の誘導や、制御性樹状細胞の誘導や、アレルギー性疾患の予防及び/又は治療や、自己免疫疾患の予防及び/又は治療を行うことができる。
【0017】
本発明において「制御性樹状細胞」とは、ALA類又はALA類と鉄化合物によって誘導される、組織障害を起こし得るT細胞の活性を抑制する働きのある制御性T細胞(例えば、CD4
+CD25
+Foxp3
+制御性T細胞)の誘導能を有する免疫寛容にかかわる樹状細胞のサブセットであれば特に限定されず、治療の対象となる患者由来の細胞であってもよいし、患者以外の由来の細胞であってもよいが、患者由来の細胞が好ましい。本発明の制御性樹状細胞は、例えば、免疫寛容誘導剤及びGM−CSFで、骨髄から採取した細胞をインビトロ処理することにより誘導・単離することができる。
【0018】
本発明の制御性樹状細胞をインビトロで誘導するためのキットとしては、上記本発明の免疫寛容誘導剤とGM−CSFを含み、通常、制御性樹状細胞をインビトロで誘導するために用いる旨の添付文書が添えられている。
【0019】
上記アレルギー性疾患としては、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、花粉症、アレルギー性胃腸炎、食物アレルギー、蕁麻疹等を挙げることができる。例えば、アトピー性皮膚炎モデルマウスを用いる後述の実施例5記載の実験により、本発明のアレルギー性疾患予防及び/又は治療剤がアトピー性皮膚炎の治療に有効であることを確認することができる。本発明のアレルギー性疾患予防及び/又は治療剤は、特にALA類と鉄化合物を含む物が通常用いられる 。
【0020】
上記自己免疫疾患としては、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、円板状エリテマトーデス、多発性筋炎、強皮症、混合結合組織病、橋本甲状腺炎、原発性粘液水腫、甲状腺中毒症、悪性貧血、Good-pasture症候群、急性進行性糸球体腎炎、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、水疱性類天疱瘡、インスリン抵抗性糖尿病、若年性糖尿病、アジソン病、萎縮性胃炎、男性不妊症、早発性更年期、水晶体原性ぶどう膜炎、交換性脈炎、多発性硬化症、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変、慢性活動性肝炎、自己免疫性溶血性貧血、発作性血色素尿症、突発性血小板減少性紫斑病、シェーグレン症候群等を挙げることができる。例えば、強皮症モデルマウスを用いる実験により、本発明の自己免疫疾患予防及び/又は治療剤が強皮症の治療に有効であることを確認することができる。
【0021】
本発明のアレルギー性疾患予防・治療剤の組合せとしては、上記本発明のアレルギー性疾患予防及び/又は治療剤と、アレルギー性疾患治療薬の組合せや、ALA類と鉄化合物とアレルギー性疾患治療薬との組合せであれば特に制限されず、これらの組合せを投与することにより、アレルギー性疾患を予防及び/又は治療することができる。上記アレルギー性疾患治療薬としては、トラニラスト、フマル酸クレマスチン、塩酸シプロヘプタジン、ジフェンヒドラミン、メトジラミン、クレミゾール、メトキシフェナミンなどの医薬品を挙げることができる。本発明のアレルギー性疾患予防及び/又は治療剤やアレルギー性疾患予防及び/又は治療キットは、既存のアレルギー性疾患治療薬とは作用メカニズムが異なるため、本発明のアレルギー性疾患予防・治療剤の組合せを用いると、相加的な、場合によっては相乗的な効果が期待できる。
【0022】
本発明の自己免疫疾患の予防・治療剤の組合せとしては、上記本発明の自己免疫疾患の予防及び/又は治療剤と、自己免疫疾患治療薬の組合せや、ALA類と鉄化合物と自己免疫疾患治療薬との組合せであれば特に制限されず、これらの組合せを投与することにより、自己免疫疾患を予防及び/又は治療することができる。上記自己免疫疾患治療薬としてはコルチコステロイド、シクロホスファミド、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、抗サイトカインモノクローナル抗体、インターフェロンβ、コポリマー1、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン、ロイフロナミド、プレドニゾン、TNFαアンタゴニスト、エタネルセプト、インフリキシマブなどの医薬品を挙げることができる。本発明の自己免疫疾患の予防及び/又は治療剤や自己免疫疾患の予防及び/又は治療キットは、既存の自己免疫疾患治療薬とは作用メカニズムが異なるため、本発明の自己免疫疾患の予防・治療剤の組合せを用いると、相加的な、場合によっては相乗的な効果が期待できる。
【0023】
本発明の免疫寛容誘導剤の有効成分として用いられる化合物としては、式(I)で示される化合物又はその塩(以下、これらを総称して「ALA類」ということもある)として例示することができる。δ−アミノレブリン酸とも呼ばれるALAは、式(I)のR
1及びR
2が共に水素原子の場合であり、アミノ酸の1種である。ALA誘導体としては、式(I)のR
1が水素原子又はアシル基であり、式(I)のR
2が水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基である、ALA以外の化合物を挙げることができる。
【0024】
上記ALA類の中でも式(I)のR
1及びR
2が共に水素原子の場合であるALA又はその塩を好適に例示することができる。ALAは、δ−アミノレブリン酸とも呼ばれるアミノ酸の1種である。また、ALA誘導体としては、式(I)のR
1が水素原子又はアシル基であり、式(I)のR
2が水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基である、ALA以外の化合物を挙げることができる。
【0025】
式(I)におけるアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1〜8のアルカノイル基や、ベンゾイル、1−ナフトイル、2−ナフトイル基等の炭素数7〜14のアロイル基を挙げることができる。
【0026】
式(I)におけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1〜8のアルキル基を挙げることができる。
【0027】
式(I)におけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロドデシル、1−シクロヘキセニル基等の飽和、又は一部不飽和結合が存在してもよい、炭素数3〜8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0028】
式(I)におけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等の炭素数6〜14のアリール基を挙げることができる。
【0029】
式(I)におけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7〜15のアラルキル基を挙げることができる。
【0030】
上記ALA誘導体としては、R
1が、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル基等である化合物や、上記R
2が、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基等である化合物が好ましく、上記R
1とR
2の組合せが、ホルミルとメチル、アセチルとメチル、プロピオニルとメチル、ブチリルとメチル、ホルミルとエチル、アセチルとエチル、プロピオニルとエチル、ブチリルとエチルの組合せなどを好適に例示することができる。
【0031】
ALA類は、生体内で式(I)のALA又はその誘導体の状態で有効成分として作用すればよく、投与する形態に応じて、溶解性を上げるための各種の塩、エステル、または生体内の酵素で分解されるプロドラッグ(前駆体)として投与することができる。例えば、ALA及びその誘導体の塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0032】
以上のALA類のうち、望ましいものは、ALA、及びALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステル等の各種エステル類、並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩であり、ALA塩酸塩やALAリン酸塩を特に好適に例示することができる。
【0033】
上記ALA類は、化学合成、微生物による生産、酵素による生産のいずれの公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0034】
上記鉄化合物としては、有機塩でも無機塩でもよく、無機塩としては、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄を挙げることができ、有機塩としては、カルボン酸塩、例えばヒドロキシカルボン酸塩である、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム等のクエン酸塩や、ピロリン酸第二鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム等の有機酸塩や、ヘム鉄、デキストラン鉄、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、硫化グリシン鉄を挙げることができるが、中でもクエン酸第一鉄ナトリウムやクエン酸鉄ナトリウムが好ましい。
【0035】
上記鉄化合物は、それぞれ単独でも、2種以上を混合しても用いてもよい。鉄化合物の投与量としては、ALA類の投与量(ALA換算)に対してモル比で0.01〜100倍であればよく、0.05倍〜10倍が望ましく、0.1倍〜8倍がより望ましい。
【0036】
本発明の免疫寛容の誘導方法、制御性樹状細胞の誘導方法、アレルギー性疾患の予防及び/又は治療方法、並びに、自己免疫疾患の予防及び/又は治療方法においては、ALA類及び鉄化合物を併用投与することが好ましい。特に、アレルギー性疾患の予防及び/又は治療方法においては、ALA類及び鉄化合物を併用投与することが好ましい。これらの場合、ALA類と鉄化合物とを含む組成物として、あるいは、それぞれ単独で同時又は前後して投与することができる。それぞれ単独で投与する場合は同時に投与することが好ましいが、それぞれ単独で前後して投与する場合は、ALA類と鉄化合物との投与が相加的効果、好ましくは相乗的効果を奏することができるように投与することが好ましい。
【0037】
本発明の免疫寛容誘導剤、制御性樹状細胞の誘導剤、アレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤、自己免疫疾患の予防及び/又は治療剤、並びに、これらのキットの各成分の投与経路としては、舌下投与も含む経口投与、あるいは、点鼻投与、吸入投与、点滴を含む静脈内投与、パップ剤等による経皮投与、座薬、又は経鼻胃管、経鼻腸管、胃漏チューブ若しくは腸漏チューブを用いる強制的経腸栄養法による投与等の非経口投与などを挙げることができるが、経口投与が好ましい。
【0038】
本発明の免疫寛容誘導剤、制御性樹状細胞の誘導剤、アレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤、自己免疫疾患の予防及び/又は治療剤、並びに、これらのキットの各成分の剤型としては、上記投与経路に応じて適宜決定することができるが、注射剤、点鼻剤、点滴剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ等に溶解した水剤、パップ剤、座剤等を挙げることができる。本発明の免疫寛容誘導剤や、免疫寛容誘導キットの各成分は医薬用途の他、錠剤やカプセル剤のサプリメントの形態で投与することもできる。また特に、嚥下することが困難な高齢者や乳幼児等には、口中において速やかな崩壊性を示す崩壊錠の形態や、経鼻胃管投与に適した液剤の形態が好ましい。
【0039】
本発明の免疫寛容誘導剤、制御性樹状細胞の誘導剤、アレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤、自己免疫疾患の予防及び/又は治療剤、並びに、これらのキットを調製するために、必要に応じて、薬理学的に許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤等を添加することができ、具体的には、水、生理食塩水、動物性脂肪及び油、植物油、乳糖、デンプン、ゼラチン、結晶性セルロース、ガム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリンを例示することができる。なお、本発明の移植臓器生着促進剤を水溶液として調製する場合には、ALA類の分解を防ぐため、水溶液がアルカリ性とならないように留意する必要があり、アルカリ性となってしまう場合は、酸素を除去することによって分解を防ぐこともできる。
【0040】
本発明の免疫寛容誘導剤、制御性樹状細胞の誘導剤、アレルギー性疾患の予防及び/又は治療剤、自己免疫疾患の予防及び/又は治療剤、並びに、これらのキットは、前記のように、ヒトの他、家畜・家禽類やペットなど獣医分野でも使用することができる。かかる免疫寛容誘導剤等の投与の量・頻度・期間としては、対象がヒトの場合、年齢、体重、症状等により異なるが、ALA類の投与量としては、ALAモル換算で、成人一人あたり、0.1〜12mmol/日、好ましくは0.2〜9mmol/日、より好ましくは0.3〜6mmol/日、さらに好ましくは、0.35mmol/日〜4mmol/日 を挙げることができ、投与頻度としては、一日単回〜複数回の投与又は点滴等による連続的投与を例示することができる。投与期間は、当該技術分野の薬理学者や臨床医が既知の方法により決定することもできる。
【0041】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
ALAとSFCを用いて樹状細胞(DC)を作製し、実際に作製した細胞が制御性T細胞を誘導し、かつ制御性T細胞から分泌される炎症抑制性サイトカインであるトランスフォーミング増殖因子−β(TGF−β)とIL−10より誘導した制御性DCと同等の機能を有しているか評価した。
【0043】
[骨髄から採取した細胞へのALAの添加による樹状細胞の誘導]
A/J(H2−K
K)マウス8週齢から骨髄を採取し、溶血処理により赤血球を除去したのち、培養皿に播種した。RPMIをベースとする培地(以降RPMI培地と記載する)にて培養し、二日目よりサイトカインGM−CSF10ng/mlと同時にALA塩酸塩100μM、SFC50μMを投与し、3日間培養した。培地を新鮮なRPMI培地(GM−CSF10ng/ml、ALA塩酸塩100μM、SFC50μMを含む)に交換し、さらに3日間培養した細胞を回収した。この培養法によって得られた細胞を、以降BM−DC
ALAと呼ぶ。
【0044】
[対照群となる成熟樹状細胞様細胞(BM−DCcon)および寛容原性樹状細胞様細胞(BM−DCreg)の誘導]
対照群として、骨髄細胞から誘導したBM−DCcon(成熟樹状細胞同様、免疫反応を惹起するエフェクターT細胞活性化能力をもつことが既知)、および骨髄細胞から誘導したBM−DCreg(制御性樹状細胞同様、免疫反応を抑制する制御性T細胞活性化能力をもつことが既知)を作製した。BM−DCconは、上記同様の手法により培養皿に播種した細胞に対し、RPMI培地とともに5日間GM−CSF(10ng/ml)とIL−4(10ng/ml)を添加して培養した。その後、同じ組成の新鮮な培地に、新たにリポ多糖(LPS)抗原を1μg/ml加え、さらに二日間培養した。なお、理由は、樹状細胞が成熟するためには、抗原となる物質が存在する必要があるためLPSを投与した。BM−DCregは、上記同様の手法により培養皿に播種した細胞に対し、RPMI培地とともに7日間、GM−CSF(20ng/ml)、IL−10(20ng/ml)、及びTGF−β(20mg/ml)を添加し培養した。
【0045】
[得られた細胞が樹状細胞であるかどうかの検討]
前提として、上記3つの手法で得られたBM−DC
ALA、BM−DCcon、BM−DCregが樹状細胞であることを検討した。すなわち、フローサイトメーターを用いて樹状細胞マーカーCD11b、CD11cの二つで染色し、双方陽性である細胞(すなわち樹状細胞)の数を比較した。結果を
図1(最左列)に示す。その結果、いずれの群も大多数がCD11b、CD11c双方陽性であり、樹状細胞へと誘導されていることがわかった。次に、この作製した樹状細胞の機能について検討した。
【実施例2】
【0046】
[樹状細胞特異的な表面マーカーの発現]
ALA添加により誘導された樹状細胞が、成熟樹状細胞としての特徴をもっているか、寛容原性樹状細胞としての特徴を持っているかどうか、樹状細胞特異的な表面マーカーの発現を調べた。すなわち、成熟樹状細胞マーカーであるCD80、CD86、CD40、I−A.I−E(MHCクラスII)の発現について、フローサイトメーターを用いて解析した。結果を
図1(右の4列)に示す。その結果、既に知られているように、BM−DCconは成熟樹状細胞マーカーが発現しているが、BM−DCregはそれに比べ発現が低下していることがわかった。それに対しBM−DC
ALAは、各成熟樹状細胞マーカー発現がBM−DCregと同程度に低かった。すなわち、ALA添加によりBM−DCregと酷似した樹状細胞が作製できたことを示唆している。
【実施例3】
【0047】
[免疫関連遺伝子の発現]
ALA添加により誘導された樹状細胞が、成熟樹状細胞と似た遺伝子発現をしているか、寛容原性樹状細胞と似た遺伝子発現をしているかを調べた。すなわち、BM−DC
ALA、BM−DCcon、BM−DCregからmRNAを抽出し、RT−PCRにより免疫誘導、免疫抑制にかかわる遺伝子の発現を調べた。結果を
図2に示す。その結果、BM−DC
ALAは成熟樹状細胞マーカーであるCD40の発現が低い、TGF−βの発現が高いなど、多くの遺伝子発現においてBM−DCregと類似した遺伝子発現の傾向を示した。一方、HO−1等の遺伝子においてはBM−DCconと類似した遺伝子発現を示した。すなわち、BM−DCregとBM−DC
ALAの性質は完全に一致はしていないが、類似していることが示された。
【実施例4】
【0048】
[MLR法による、BM−DC
ALAの免疫寛容能の検討]
BM−DC
ALAが、BM−DCreg同様のT細胞活性化の抑制、すなわち制御性T細胞の誘導によりエフェクターT細胞増殖を阻害するという免疫寛容を誘導するかどうかについてMLR(Mixed Lymphocyte Reaction)法により検討した。生体内では、抗原となる異物を認識した成熟樹状細胞はその抗原をT細胞に提示する。それを認識したT細胞は爆発的に増殖する。インビトロでも、T細胞と成熟DCを抗原とともに混合培養するとT細胞の増殖が見られるため、この増殖率を計測することで成熟DCの活性を計測するのがMLR法である。また、異系統の成熟DCとT細胞を混合すると、抗原なしでも増殖が見られることも知られている。
【0049】
(BM−DC
ALAによるエフェクターT細胞増殖能阻害効果の検討)
成熟樹状細胞の機能であるエフェクターT細胞増殖を誘導する能力が、BM−DC
ALAの存在により抑制できるかどうかMLR法により検討した。B6系統マウスの脾臓からナイロンファイバーカラムを用いT細胞を分離し、Molecular Probes社のViolet Cell Proliferation Kitで紫に染色した。そのうち2×10
5cells/wellをA/JマウスのBM−DCcon(成熟樹状細胞の代替として用いる)を1×10
4cells/wellとともに4日間、MPRI培地中で培養した。その際、BM−DCregもしくはBM−DC
ALAを2×10
4cells/well加えた。培養後、エフェクターT細胞がどれだけ増殖したかを検討するため、フローサイトメーターにより、T細胞全体(紫色)のうち、どれだけがエフェクターT細胞(CD4,CD8陽性)で占められているかをカウントした。なお、制御性T細胞もCD4陽性だが、T細胞全体に占める割合はごくわずかであるため無視できる。結果を
図3に示す。その結果、ネガティブコントロールであるBM−DCconとT細胞の2種混合培養と比較し、BM−DC
ALAを加えた3種混合培養により、CD4陽性、CD8陽性T細胞それぞれの割合が低下した。すなわちBM−DC
ALAはエフェクターT細胞の増殖を抑制した。この抑制能は、エフェクターT細胞増殖抑制能をもつことが既知であるBM−DCregと同等であった。
【0050】
(BM−DC
ALAによる制御性T細胞の誘導能の検討)
BM−DC
ALAが寛容原性樹状細胞の機能である制御性T細胞の誘導能をもつかどうかについて検討した。FoxP3遺伝子をGFP遺伝子に置換したB6系統マウスから実施例4と同様の手法によりT細胞を採取、染色し、BM−DCconと混合培養した。その際、BM−DCregもしくはBM−DC
ALAを加えた。T細胞全体(紫色)のうち、GFP陽性細胞がどれだけの割合存在するか検討した。結果を
図4に示す。その結果、BM−DC
ALAの添加により、BM−DCreg同様T細胞中のGFP陽性細胞の割合が増加した。すなわち、BM−DC
ALAは制御性T細胞を誘導することが示唆された。
【0051】
FoxP3はフローサイトメーターに適した抗体が存在しないため、フローサイトメーターでFoxP3の発現を確認する手段として、上記ノックインマウスを用いた。制御性T細胞への分化シグナルによりFoxP3が発現しようとすると、代わってGFPが発現する。紫のT細胞中のGFP陽性細胞の割合をカウントすることで、FoxP3陽性(となるはずであった)細胞の割合、すなわち誘導能をアッセイできる。また、
図3や
図5に示されているB6系統マウスもGFPノックインマウスであるが、調べたいパラメータであるCD4やCD8には影響しないことが確かめられている。
【0052】
(エフェクターT細胞増殖能阻害効果の検討)
BM−DC
ALAを単体でT細胞と混合培養した場合、BM−DC
ALAはエフェクターT細胞増殖能阻害効果においてBM−DCregと似た挙動を示すか検討した。実施例4と同様の手法によりB6系統マウスからT細胞を採取・染色し、BM−DC
ALAと混合培養した。培養後、フローサイトメーターにより、T細胞全体(紫に染色)のうち、どれだけがエフェクターT細胞で占められているかをカウントした。結果を
図5に示す。その結果、BM−DCconとの2種混合培養時と同程度のエフェクターT細胞(CD4陽性、CD8陽性)の割合であった。一方、BM−DCregとT細胞の2種混合培養はBM−DCcon、BM−DC
ALAとの混合培養時と異なり、エフェクターT細胞の割合は低かった。すなわち、BM−DC
ALA単独ではエフェクターT細胞増殖能阻害効果はなく、むしろ増殖を促進するという成熟樹状細胞様の働きをもつ。このことより、BM−DC
ALAはBM−DCregと完全に同一な細胞ではないことが示唆された。
【0053】
(BM−DC
ALA単体による制御性T細胞の誘導能の検討)
BM−DC
ALAを単体でT細胞と混合培養した場合、BM−DC
ALAは制御性T細胞の誘導においてBM−DCregと似た挙動を示すか検討した。実施例4と同様の手法によりFoxP3遺伝子をGFP遺伝子に置換したB6系統マウスからT細胞を採取・染色し、BM−DC
ALAと混合培養した。培養後、T細胞全体(紫に染色)のうち、GFP陽性細胞がどれだけの割合存在するか検討した。結果を
図6に示す。その結果、BM−DC
ALAの添加により、BM−DCreg同様T細胞中のGFP陽性細胞の割合が増加した。すなわち、BM−DC
ALAは単独でも制御性T細胞を誘導することが示唆された。
【0054】
以上の実施例1〜4に示す結果から、インビトロにおいて、ALAとSFCを用いて誘導したBMDCの細胞表面分子発現やT細胞増殖の抑制、Tregの増加機能等ついて、TGF−β及びIL−10を用いて誘導した制御性DCと同様な結果を得ることができた。
【実施例5】
【0055】
[アトピーモデルマウスの作製]
マウスは10週齢のオスNC/Nga系統を用いた。アレルゲンとして2,4,6−トリニトロクロロベンゼン(TNCB)を使用し、アトピー症状を惹起した。Day0において胸部、腹部、背部を剃毛し、エタノール:アセトン(4:1)に溶かした2%のTNCB、及び4%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を150μl(胸部50μl、腹部50μl、背部50μl)滴下した。SDS投与は皮膚によるアレルゲンからのバリアを破壊するためである。その後、day4,11,18においてSDSなしで、1%のTNCBのみを滴下した。
【0056】
[免疫寛容誘導剤の投与]
ALA+SFCは毎日ゾンデにて経口投与した。その際、濃度はALA塩酸塩(100mg/kg)+SFC(115mg/kg)、あるいはALA塩酸塩(10mg/kg)+SFC(11.5mg/kg)の二条件とした。
【0057】
[ALA+SFCの症状改善効果]
アトピー症状の評価系として、皮膚炎スコアリングと耳介の厚さを用いた。前者は視認による皮膚炎の症状の判定である。背中と両耳の皮膚の損傷を、紅斑/出血、浮腫、擦りむき/表皮のはがれ、かさぶた/乾燥の4つの基準でスコアリングしたのち、各症状のスコアの合算値を算出した。グレードは0(症状なし)、1(穏やか)、2(中程度)、3(深刻)に分かれる。day11,18,25においてスコアリングを行った。結果を
図7(左)に示す。後者について、屠殺したマウスの両耳を10%の中性ホルマリンに24時間、4℃浸漬し、固定した。次に組織をパラフィン固定し、厚さ4μmでスライスした。切片をH&E溶液で染色し、顕微鏡観察により厚さを計測した。こちらも同様にday11,18,25においてスコアリングを行った。結果を
図7(右)に示す。また、day18における各投与群のマウスの写真を
図8として示す。
【0058】
図7及び8からわかるように、滅菌水投与群、ALA(100mg/kg)+SFC(115mg/kg)投与群、ALA(10mg/kg)+SFC(11.5mg/kg)投与群における皮膚炎をday11,18,25においてスコアリングした結果、ALA(100mg/kg)+SFC(115mg/kg)投与群、及びALA(10mg/kg)+SFC(11.5mg/kg)投与群は、滅菌水投与群と比較して顕著に改善が見られた。同様に耳介の厚さを計測した結果、ALA(100mg/kg)+SFC(115mg/kg)投与群、及びALA(10mg/kg)+SFC(11.5mg/kg)投与群は、滅菌水投与群と比較して顕著に改善が見られた。
【実施例6】
【0059】
[強皮症病態モデルの作製]
ドナーとしてB10.D2メス(7−8週齢)野生型マウス、レシピエントとしてRag−2/Balb/cメス(7−8週齢)免疫不全マウスを用いた。ドナーマウスから脾臓細胞を各群5×10
7個、又は4×10
7個ずつレシピエントへ注射(移植)することにより強皮症病態モデルマウスを作製した。レシピエントは免疫不全であるため、レシピエント側による拒絶反応は起こらず、ドナーより移植された脾臓細胞がレシピエント側の免疫系により除去されることもないが、ドナーから移植された脾臓細胞に含まれるリンパ球にとってレシピエントそのものが異物であるため、ドナー由来リンパ球がレシピエントの全身を攻撃する。この反応が呈する全身性炎症、組織線維症、広範な全身性硬化症等の症状はヒトの強皮症(硬皮症)に酷似しているため、強皮症病態モデルとして用いることができる。
【0060】
[免疫寛容誘導剤の投与]
ドナーの脾臓細胞移植直後から9週間にわたり、ALA塩酸塩100mg/kg+SFC157mg/kg(以下、「ALA」と表記)を毎日一回、ゾンデを用いて投与した。
【実施例7】
【0061】
[ALA投与による体重及び生存期間への影響]
強皮症発症による体重減少がALAにより緩和されるか、また生存期間が延びるか検討した。その結果、
図9に示すように、ALA投与により、体重減少の抑制傾向が観察された。また、ALA投与により9週目までの生存率が高い傾向が見られた。そしてまた、各群における代表的な外見を
図10に示す。ALA投与により脱毛が緩和されていることが観察できる。なお、対照(control)は、ドナーマウス由来の脾臓細胞を移植していない、Rag−2/Balb/cメス(7−8週齢)免疫不全マウスのデータである。以上のとおり、ALA投与により、強皮症の症状緩和効果が見られた。
【実施例8】
【0062】
[ALA投与による組織への影響(組織染色)]
強皮症の症状である線維化や免疫細胞の集積(炎症)がALA投与により緩和されているかどうかを上記モデルマウス由来の組織染色により確認した。炎症による耳、皮膚、腎臓、肝臓、肺の様子を観察するため、各臓器の切片を作製し、T細胞の集積を確認するためのHE染色、及びコラーゲンを有する結合組織を染めるマッソン(Masson)染色を行った。細胞移植前のナイーブ(Naive)、ALA非投与6週目、ALA投与6週目の3条件において、×40、×100、×200、×400の4つの倍率でHE染色切片及びマッソン染色切片を観察し、ALA投与により症状が緩和されているか確認した。
【0063】
[耳]
HE染色切片の観察結果を
図11に示す。その結果、HE染色切片ではALA投与により所見の大きな違いは観察されなかった(中段と下段の比較)。同様に、マッソン染色切片の観察結果を
図12に示す。その結果、ALA投与群はコラーゲン蓄積(濃く染色された部分の密度で示される)が非投与群に比べ抑制されていた(中段と下段の比較)。
【0064】
[皮膚]
皮膚の線維化は強皮症のもっとも代表的な症状の一つである。HE染色切片の観察結果を
図13に示す。その結果、HE染色切片ではALA投与により所見の大きな違いは観察されなかった(中段と下段の比較)。同様に、マッソン染色切片の観察結果を
図14に示す。その結果、ALA投与群はコラーゲン蓄積が非投与群に比べ抑制されていた(中段と下段の比較)。
【0065】
[腎臓・皮質周辺]
HE染色切片の観察結果を
図15に示す。その結果、HE染色切片ではALA投与により所見の大きな違いは観察されなかった(中段と下段の比較)。同様に、マッソン染色切片の観察結果を
図16に示す。その結果、ALA投与群はコラーゲン蓄積が非投与群に比べ抑制されていた(中段と下段の比較)。
【0066】
[腎臓・髄質周辺]
HE染色切片の観察結果を
図17に示す。その結果、HE染色切片ではALA投与により所見の大きな違いは観察されなかった(中段と下段の比較)。同様に、マッソン染色切片の観察結果を
図18に示す。その結果、ALA投与群はコラーゲン蓄積が非投与群に比べ抑制されていた(中段と下段の比較)。
【0067】
[肝臓]
HE染色切片の観察結果を
図19に示す。その結果、HE染色切片ではALA非投与群では細胞の集積が見られたが、ALA投与群では見られなかった(中段と下段の比較)。同様に、マッソン染色切片の観察結果を
図20に示す。その結果、ALA投与により所見の大きな違いは観察されなかった(中段と下段の比較)。
【0068】
[肺]
HE染色切片の観察結果を
図21に示す。その結果、HE染色切片ではALA投与により所見の大きな違いは観察されなかった(中段と下段の比較)。同様に、マッソン染色切片の観察結果を
図22に示す。その結果、ALA投与により所見の大きな違いは観察されなかった(中段と下段の比較)。
【実施例9】
【0069】
[ALA投与による組織への影響(遺伝子発現)]
強皮症の症状である線維化や炎症がALA投与により抑制されているかどうかを上記モデルマウス由来の組織における各種マーカー遺伝子の発現をALA投与3週間後、6週間後、及び9週間後にそれぞれ検出することにより確認した。皮膚、腎臓、脾臓組織からRNeasy mini kitにより抽出したmRNAを用い、RT−PCRにより炎症、線維化等に関わる遺伝子の発現を調べた。対照としてはBalb/cオス(7−8週齢)マウスを用いた。
【0070】
上記マーカー遺伝子として、HO−1(抗酸化タンパク質であり、regDCを誘導すると考えられる)遺伝子、TGF−β(炎症抑制性サイトカイン)遺伝子、IFN−γ(炎症促進、抑制の両義的なサイトカイン)遺伝子、Collagen-1(線維化マーカー)遺伝子、α−SMA(線維化マーカー)遺伝子、IL−6(炎症性サイトカイン)遺伝子、オステオポンチン(OPN)(炎症性サイトカイン)遺伝子、IL−21(自己免疫疾患において多く産生されることが知られている)遺伝子、TNF−α(炎症性サイトカイン)遺伝子、IL−10(炎症抑制性サイトカイン)遺伝子、及びFoxP3(制御性T細胞マーカー)の発現を調べた。
【0071】
[皮膚]
皮膚の線維化は強皮症のもっとも代表的な症状の一つである。皮膚における結果を
図23に示す。皮膚では、ALA投与により線維化マーカーであるcollagen-1(
図23の右最上)、α−SMA(
図23の右の上から3つ目)の顕著な低下が見られ、ALA投与が強皮症の症状である線維化を緩和したことが示唆される。
【0072】
[脾臓]
脾臓における結果を
図24に示す。脾臓では、ALA投与により制御性T細胞マーカーであるFoxP3(
図24の右の上から3つ目)、制御性T細胞が産生する炎症抑制性サイトカインであるIL−10の上昇傾向(
図24の右の最下)が見られ、ALAによる制御性T細胞の活性化が示唆される。
【0073】
[腎臓]
腎臓における結果を
図25に示す。腎臓では、免疫寛容を誘導すると考えられ、ヘムにより誘導されるHO−1の上昇(
図25の左最上)と、線維化マーカーであるCollagen-1の低下傾向(
図25の右の上から2つ目)、炎症性サイトカインであるIL−6減少傾向、オステオポンチン(OPN)の減少(
図25の上から3つ目)が見られ、ALAが炎症を抑え、線維化を予防していることが示唆された。