(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、新聞におけるカラー印刷では、全ての印刷面が同じような大きさのカラー図柄を備えるわけではなく、全面広告に代表されるように大きなカラー図柄が入る印刷面もあれば、記事面に設けられた天気図に代表されるように小さなカラー図柄しか入らない印刷面もある。このような小さなカラー図柄しか入らない印刷面では、一つの印刷面の中で、例えば天気図等が存在して色インキ組成物が消費される箇所と、ニュース記事(主として白黒である。)しか存在せず色インキ組成物が消費されない箇所とが存在する。すると、色インキ組成物が消費されない箇所では、消費されなかった色インキ組成物がインキ供給用のローラーに滞留し、時には印刷版に湿し水を供給するダンプニングローラーにも滞留する。
【0007】
ローラーに滞留したインキ組成物は、湿し水と接した状態で長時間、ローラーによって練られ続ける。すると、時間の経過とともに、滞留したインキは、その粘度を増していき、やがてローラー上に固着するようになる。この状態で例えば印刷版の差し替え等により印刷機を停止させると、印刷機を再稼働させたときに固着したインキ組成物が印刷版に付着したり、印刷版を介してブランケットに付着したりすることがある。こうして付着したインキ組成物は極めて粘度が高いので、これが印刷版の非画像部に付着した場合には、湿し水によって印刷版からなかなか除去されずに印刷紙面の汚れを引き起こす場合があり、また、ブランケットに付着した場合には、印刷用紙が毟られて切断される等のトラブルを引き起こす場合がある。
【0008】
このようにインキ組成物がその粘度を増加させて固着する現象は、「ねっぱり」と呼ばれ、インキ組成物が湿し水の存在下でローラーによって長時間練られた場合に顕著に観察される。こうした「ねっぱり」現象に対するインキ組成物における対応は、未だ十分でないのが現状である。また、このような現象は、新聞印刷の際に使用される浸透乾燥型のオフセット印刷用インキ組成物にて特に顕著に観察される。
【0009】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、オフセット印刷において長時間印刷を継続させた場合であっても、良好な印刷適性を保持することのできる浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の動粘度を有するマシン油をインキ組成物に添加することによって上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
本発明は、着色顔料(ただし、カーボンブラックを除く。)と、バインダー樹脂と、マシン油と、を含む浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物であって、
上記マシン油の40℃における動粘度が
8.6mm
2/s以上1650mm
2/s以下であり、その含有量が組成物全体に対して1〜30質量%であ
り、さらに大豆油及び大豆油脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも一つの植物油成分を組成物全体に対して20〜60質量%含むことを特徴とする浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物である。
【0012】
上記マシン油の40℃における動粘度は、
8.6mm
2/s以上1000mm
2/s以下であることが好ましい。
【0013】
上記マシン油の40℃における動粘度をXmm
2/sとし、前記マシン油の組成物全体に対する含有量をY質量%としたときに、X及びYは下記式1又は式2を満足させることが好ましい。
(式1)
8.6≦X<500 かつ −0.00000141X+8.06≦Y≦30
(式2) 500≦X≦1650 かつ 1≦Y≦30
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、オフセット印刷において長時間印刷を継続させた場合であっても、良好な印刷適性を保持することのできる浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物(既に述べたように、単に「インキ組成物」と省略することもある。)について一実施形態を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0016】
本発明のインキ組成物は、着色顔料(ただし、カーボンブラックを除く。)と、バインダー樹脂と、マシン油と、を含む。以下、各成分について説明する。
【0017】
[着色顔料]
着色顔料としては、例えば、従来からこのタイプのインキ組成物に使用されている有機及び/又は無機顔料が挙げられる。ただし、上記の通り、本発明における着色顔料には、墨色のインキ組成物で一般に使用されるカーボンブラックが含まれない。しかし、これはインキ組成物にカーボンブラックを添加する態様を本発明の範囲から除外する意図ではなく、着色顔料(ただし、カーボンブラックを除く。)に加えてカーボンブラックを添加してもよい。
【0018】
このような着色顔料としては、ジスアゾイエロー(ピグメントイエロー12、ピグメントイエロー13、ピグメントイエロー17、ピグメントイエロー1)、ハンザイエロー等のイエロー顔料、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウオッチングレッド等のマゼンタ顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー等のシアン顔料等が例示される。
【0019】
着色顔料の添加量としては、インキ組成物全体に対して8〜30質量%程度が例示されるが、特に限定されない。
【0020】
なお、イエロー顔料を使用してイエローインキ組成物を、マゼンタ顔料を使用してマゼンタインキ組成物を、シアン顔料を使用してシアンインキ組成物をそれぞれ調製する場合は、補色として、他の色の顔料を併用したり、他の色のインキ組成物を添加したりすることも可能である。
【0021】
また、必要に応じ、上記着色顔料に加えて、クレー、タルク、カオリナイト(カオリン)、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、ベントナイト、酸化チタン等の無色顔料を用いてもよい。これらの無色顔料は、体質顔料とも呼ばれ、インキ組成物における粘度等といった特性を調節するために好ましく使用される。無色顔料の添加量としては、インキ組成物全体に対して0〜33質量%程度が例示されるが、特に限定されない。
【0022】
[バインダー樹脂]
バインダー樹脂は、インキ組成物が浸透乾燥した際のセット(印刷されたインキ組成物に指蝕しても、指にインキ組成物が付着しなくなる状態をいう。)を得るために用いられ、また、上記着色顔料を分散させるために用いられる成分である。バインダー樹脂としては、オフセット印刷用インキ組成物の分野で通常使用されるものを特に制限なく使用することができ、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性アルキド樹脂、ロジン変性石油樹脂、ロジンエステル樹脂、石油樹脂変性フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、アルキド樹脂、植物油変性アルキド樹脂、石油樹脂等が例示される。これらの樹脂の重量平均分子量としては、3000〜30万程度を好ましく挙げることができる。
【0023】
これらのバインダー樹脂の中でも、顔料分散性、印刷品質及び長時間にわたる安定な印刷適性といった観点からは、重量平均分子量が1万〜15万であるロジン変性フェノール樹脂及びロジン変性マレイン酸樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種と、アルキド樹脂とを併用することが好ましい。この場合、ロジン変性フェノール樹脂及びロジン変性マレイン酸樹脂の合計100質量部に対して、アルキド樹脂を3〜10質量部程度用いるのが好ましい。
【0024】
バインダー樹脂の添加量としては、インキ組成物全体に対して、10〜35%程度を好ましく例示できる。
【0025】
[マシン油]
次に、マシン油について説明する。本発明で使用されるマシン油は、動粘度の分類に基づく狭義のマシン油ではなく、潤滑油として使用される程度の動粘度を備えた油一般である広義のマシン油を意味する。このようなマシン油としては、従来、スピンドル油、(狭義の)マシン油、ダイナモ油、シリンダー油等として分類されてきた各種の潤滑油(又は切削油)が挙げられる。これらのマシン油は、40℃における動粘度に基づいてJIS K2238−1993やISOにて規格化されており、粘度の低い方から順に、ISO VG2/3/5/7/10/15/22/32/46/68/100/150/220/320/460/680/1000/1500の18種類に分類されている。これらのマシン油の中で、本発明では、40℃の動粘度が4mm
2/s以上1650mm
2/s以下のものが使用される。この動粘度範囲となるマシン油は、上記分類によれば、概ねISO VG5からISO VG1500までのグレードに相当する。より好ましくは、40℃における動粘度が4mm
2/s以上1000mm
2/sであるマシン油を挙げることができる。次に、本発明のインキ組成物において、このようなマシン油が使用される理由について説明する。
【0026】
本発明のインキ組成物が使用されるオフセット印刷方式では、インキ呼出しローラー、インキ練りローラー、インキ着けローラー等を介して、インキが薄膜に伸ばされた状態で印刷版に供給される。また、ダンプニングローラーや噴霧式のダンプナーによって湿し水が印刷版に供給される。
【0027】
新聞印刷は、このようなオフセット印刷方式で行われ、近年ではカラーで印刷される面も増加している。新聞におけるカラー印刷では、全ての印刷面が同じような大きさのカラー図柄を備えるわけではなく、全面広告に代表されるように大きなカラー図柄が入る印刷面もあれば、記事面に設けられた天気図に代表されるように小さなカラー図柄しか入らない印刷面もある。全面広告のような大きな図柄が入る印刷面では、色インキ組成物の消費量が多く、常に新しいインキ組成物が版面に供給されて消費されることになるので、供給されたインキ組成物はローラー上に長時間滞留しない。それに対して、記事面に設けられた天気図のような小さなカラー図柄の場合、一つの印刷面の中で、例えば天気図等が存在して色インキ組成物が消費される箇所と、ニュース記事(主として白黒である。)しか存在せず色インキ組成物が消費されない箇所とが存在する。すると、消費されなかった色インキ組成物は、インキ供給用のローラーに滞留し、時には湿し水を印刷版に供給するダンプニングローラーにも滞留する。
【0028】
こうしてローラーに滞留したインキ組成物は、既に述べたように、湿し水と接触した状態でローラーによって長時間練られることとなり、その結果として、インキ組成物の粘度が極端に増加する「ねっぱり」現象を発生させる。「ねっぱり」現象によって引き起こされる問題については、既に述べた通りである。
【0029】
このような「ねっぱり」現象が生じる理由は二つ考えられる。一つ目は、ローラー上で練られるインキ組成物が薄膜になっているため、インキ組成物の粘度調節のために使用されている後述の鉱物油が揮発するためと考えられる。二つ目は、湿し水の存在である。これは、湿し水と常に接触しているインキ着けローラーやダンプニングローラーで「ねっぱり」現象が発生しやすいことからの推測だが、インキ組成物が湿し水と接触しながらローラー上で長時間練られることにより、インキ組成物に含まれる後述の植物油成分が、湿し水に含まれる種々の界面活性剤の影響によってインキ組成物中から湿し水中に流出するためと考えられる。植物油成分は、バインダー成分の溶解性付与にも深く関わっていることから、こうした成分がインキ組成物中から失われれば、インキ組成物の粘度が著しく増大すると考えられる。
【0030】
これに対して、マシン油は、沸点が非常に高いので上記オイル成分のようにローラー上で揮発することはなく、また、極性が低いので上記植物油成分のように湿し水に含まれる種々の界面活性剤の影響を受けにくい。したがって、インキ組成物に添加されたマシン油は、インキ組成物がローラー上で長時間にわたって薄膜の状態となっても揮発せず(上記「一つ目の理由」を参照)、また、湿し水中に流出することがない(上記「二つ目の理由」を参照)と考えられる。さらに、インキ組成物に含まれる鉱物油や植物油成分が失われたとしても、マシン油が潤滑剤として作用することにより、インキ組成物の粘度の著しい増大が抑制されると考えられる。本発明に係るインキ組成物は、以上の知見により完成されたものであり、マシン油成分を含有する。
【0031】
なお、本発明で使用されるマシン油は、上記の動粘度範囲に属するものであれば特に限定されないが、米国におけるOSHA基準やEU基準に適応させるとの観点からは、縮合多環芳香族成分が抑制されたものであることが好ましい。このようなマシン油としては、JX日鉱日石エネルギー株式会社製のインクオイルH8(40℃における動粘度8.6mm
2/s)、同インクオイルH35(同37mm
2/s)、三共油化工業株式会社製のSNH8(同8.8mm
2/s)、同SNH46(同45.9mm
2/s)、同SNH220(同231mm
2/s)、同SNH540(同546mm
2/s)が例示される。
【0032】
インキ組成物におけるマシン油の含有量は、インキ組成物全体に対して1〜30質量%である。インキ組成物におけるマシン油の含有量がインキ組成物全体に対して1質量%以上であれば、「ねっぱり」現象に対する十分な抑制効果をインキ組成物に付与することができる。また、インキ組成物におけるマシン油の含有量がインキ組成物全体に対して30質量%以下であれば、財団法人日本エコマーク事務局が認定する、印刷インキ組成物におけるエコマーク基準(類型名:印刷インキVersion2.0、基準:印刷インキ組成物中の石油系溶剤が30質量%以下)に適合させることができる。
【0033】
より好ましくは、マシン油の40℃における動粘度をXmm
2/sとし、前記マシン油の組成物全体に対する含有量をY質量%としたときに、X及びYが下記式1又は式2を満足させるようなマシン油の動粘度及び含有量であることを挙げられる。式1は、マシン油の40℃における動粘度が500mm
2/s未満の場合には、「ねっぱり」現象の抑制という観点において、インキ組成物中におけるマシン油の含有量の好ましい下限値が一次関数で表されるとの知見に基づくものである。式1におけるY(含有量)の上限値は、上記の通り、エコマーク基準に基づくものである。また、式2は、マシン油の40℃における動粘度が一定水準以上ならば、上記の通り、マシン油の含有量がインキ組成物全体に対して1〜30質量%であれば十分に好ましい結果が得られることを示している。
(式1) 4≦X<500 かつ −0.00000141X+8.06≦Y≦30
(式2) 500≦X≦1650 かつ 1≦Y≦30
【0034】
[その他の成分]
本発明の印刷インキ組成物には、印刷性能を向上させる等の観点から、必要に応じて上記の各成分の他に各種成分を添加することができる。このような各種成分としては、植物油成分、鉱物油、界面活性剤、リン酸塩等の塩類、ポリエチレン系ワックス・オレフィン系ワックス・フィッシャートロプシュワックス等のワックス類、アルコール類、酸化防止剤等が例示される。さらに、キレート化合物や金属石けん類等を使用して上記バインダー樹脂の全部又は一部をゲル化させてもよい。
【0035】
上記各種成分のうち、植物油成分としては、植物油及び/又は植物油由来の脂肪酸エステル化合物が例示される。植物油としては、大豆油、綿実油、アマニ油、サフラワー油、桐油、トール油、脱水ヒマシ油、カノーラ油等の乾性油や半乾性油等が例示される。また、植物油由来の脂肪酸エステル化合物としては、上記植物油に由来する脂肪酸のモノアルキルエステル化合物等が例示される。
【0036】
上記脂肪酸モノアルキルエステル化合物を構成する脂肪酸としては、炭素数16〜20の飽和又は不飽和脂肪酸が好ましく例示され、このような飽和又は不飽和脂肪酸としては、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸等が好ましく例示される。脂肪酸モノアルキルエステル化合物を構成するアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく例示され、より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基等が好ましく例示される。
【0037】
これらの植物油成分は、単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。より好ましくは、植物油成分としては大豆油、大豆油脂肪酸エステル化合物等が挙げられる。インキ組成物における植物油成分の含有量としては、インキ組成物全体に対して20〜60質量%が好ましく例示される。
【0038】
鉱物油は、インキ組成物における溶剤成分として使用され、インキ組成物の粘度を調整したり、各種成分を溶解させたりするのに用いられる。このような鉱物油としては、水と相溶せず、沸点160℃以上、好ましくは沸点200℃以上の非芳香族系石油溶剤が例示される。このような非芳香族系石油溶剤としては、新日本石油株式会社製の0号ソルベント、同AFソルベント5号、同AFソルベント6号、同AFソルベント7号等が例示される。インキ組成物における鉱物油の含有量としては、インキ組成物全体に対して0〜30質量%を好ましく例示できる。なお、既に説明したマシン油も鉱物油の一種ではあるが、本発明では、鉱物油とは、上記のようにインキ組成物において溶剤成分として使用される粘度の低い液体成分を意味し、所定の動粘度を備えた潤滑油状物であるマシン油と区別される。
【0039】
上記の各成分を用いて本発明のインキ組成物を製造するには、従来公知の方法が使用できる。このような方法としては、着色顔料、バインダー樹脂、マシン油、鉱物油、植物油成分、必要に応じて体質顔料等の各成分をビーズミルや三本ロールミル等で練肉し、着色顔料や体質顔料を分散させた後、必要に応じて鉱物油や添加剤(酸化防止剤、アルコール類、ワックス類等)等を加え、さらに粘度調整することが例示される。インキ組成物における粘度としては、ラレー粘度計による25℃での値が3.0〜20Pa・sであることを例示できるが、特に限定されない。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明のインキ組成物をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の記載では、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0041】
<インキ組成物用ワニスの調製
>
コンデンサー、温度計及び撹拌機を装着した4つ口フラスコに、重量平均分子量10万のロジン変性フェノール樹脂(荒川化学工業株式会社製、KG−2212)、大豆油及び鉱物油(石油系溶剤;新日本石油株式会社製、AFソルベント7号)を下記配合比率Aとなるように仕込んだ後200℃に昇温し、同温度を1時間維持することにより樹脂を溶解させた後、エチルアセテートアルミニウムジイソプロポキシド(株式会社川研ファインケミカル製、ALCH)を0.5部仕込み、その後170℃で60分間加熱保持して、ワニス1を得た。
【0042】
(配合比率A)
ロジン変性フェノール樹脂:35部、大豆油:20部、鉱物油:44.5部
【0043】
コンデンサー、温度計及び撹拌機を装着した4つ口フラスコに、重量平均分子量10万のロジン変性マレイン酸樹脂、大豆油及び鉱物油(石油系溶剤;新日本石油株式会社製、AFソルベント7号)を下記配合比率Bとなるように仕込んだ後200℃に昇温し、同温度を1時間維持することにより樹脂を溶解させた後、エチルアセテートアルミニウムジイソプロポキシド(株式会社川研ファインケミカル製、ALCH)を0.5部仕込み、その後170℃で60分間加熱保持して、ワニス2を得た。
【0044】
(配合比率B)
ロジン変性マレイン酸樹脂:35部、大豆油:20部、鉱物油:44.5部
【0045】
コンデンサー、温度計及び撹拌機を装着した4つ口フラスコに、重量平均分子量1500の石油樹脂(JX日鉱日石エネルギー株式会社製、日石ネオポリマー120)及び鉱物油(石油系溶剤;新日本石油株式会社製、AFソルベント6号)を下記配合比率Cとなるように仕込んだ後130℃に昇温し、同温度を1時間維持することにより樹脂を溶解させてワニス3を得た。
【0046】
(配合比率C)
石油樹脂:55部、鉱物油:45部
【0047】
<イエローベースインキの調製>
フラッシャー(顔料プレスケーキよりフラッシュドインキベースを調製する際に使用される公知の装置であり、顔料プレスケーキ及びワニスを混練するためのニーダーを備える。)内に、上記ワニス1を45部と、ピグメントイエロー12の顔料プレスケーキ(顔料純分20%)を顔料乾燥固形分として20部と、を加え、温度50℃にて混練することで顔料プレスケーキに含まれている水分をフラッシャー内の固形物から分離させ(フラッシング)、これをデカンテーションにより排水した。その後、フラッシャー内に存在する固形物を減圧下で75℃に加熱することで当該固形物から水分を除去し、これに上記ワニス1を20部と大豆油を15部とを加えて混合することでイエローベースインキ(以下、「Yベース」とも呼ぶ。)を得た。
【0048】
<マゼンタベースインキの調製>
フラッシャー内に、上記ワニス2を35部と、ブリリアントカーミン6Bの顔料プレスケーキ(顔料純分25%)を顔料乾燥固形分として30部と、を加え、温度50℃にて混練することで顔料プレスケーキに含まれている水分をフラッシャー内の固形分から分離させ(フラッシング)、これをデカンテーションにより排水した。その後、フラッシャー内に存在する固形物を減圧下で110℃に加熱することで当該固形物から水分を除去し、これに上記ワニス2を20部と大豆油を15部とを加えて混合することでマゼンタベースインキ(以下、「Mベース」とも呼ぶ。)を得た。
【0049】
<シアンベースインキの調製>
シアニンブルー顔料30部、上記ワニス1を50部、上記ワニス2を10部及び大豆油10部を混合した後、これを3本ロールミルにより練肉し、シアンベースインキ(以下、「Cベース」とも呼ぶ。)を得た。
【0050】
<体質ベースインキの調製>
炭酸カルシウム50部、上記ワニス1を40部及び大豆油10部を混合した後、これを3本ロールミルにより練肉し、体質ベースインキ(以下、「体質ベース」とも呼ぶ。)を得た。
【0051】
<浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物(インキ組成物)の調製>
上記各色ベースインキ、体質ベース、マシン油及び大豆油を表1〜3に示す配合割合で混合して、各色のインキ組成物を得た。なお、表1〜3における各成分の配合割合は、質量%である。また、表1〜3において、マシン油AとしてはインクオイルH8(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)を使用し、マシン油BとしてはSNH540(三共油化工業株式会社製)を使用した。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
<印刷評価>
実施例1〜12及び比較例1〜9のインキ組成物のそれぞれについて、N―750型印刷実験機(東浜精機株式会社製)を使用して、印刷速度12万部/時で用紙を新聞用更紙として下記のベタ紙面濃度にて印刷試験を行った。各インキ組成物について2万部の印刷を行い、それぞれの印刷の終了後における水着けローラー(印刷版に湿し水を供給するローラー)上のインキ組成物の「ねっぱり」状態を指触で評価した。その評価結果を表4に示す。印刷試験における湿し水としては水道水にSAH−7(サカタインクス株式会社製、アルカリH液)を0.7%加えたものを使用し、湿し水の供給にはスプレーダンプナーSSD−12(サカタインクス株式会社製)を使用した。印刷に際しては、水幅の下限付近での印刷状態の比較を行うために、水幅の下限値よりもSSD−12のダイヤルを2ポイント上げた状態とした。各色のベタ紙面濃度は、イエロー0.90±0.02、マゼンタ0.95±0.02、シアン0.95±0.02とした。なお、ベタ紙面濃度は、印刷物におけるベタ部の濃度をSpectroeye濃度計(Gretagmacbeth社製)により測定した数値である。
【0056】
表4における各評価基準は、それぞれ下記の通りである。なお、下記において、ローラー上のインキ組成物が指に付着することは、ローラー上でインキの固着(ねっぱり)が生じていないことを意味しており、ローラー上のインキ組成物が指に付着しないことは、ローラー上でインキの固着(ねっぱり)が生じていることを意味している。
◎:ローラー上のインキ組成物が指に付着し、その粘度も元のインキ組成物と同様だった
○:ローラー上のインキ組成物が指に付着したが、その粘度は元のインキ組成物よりもわずかに増加していた
×:ローラー上のインキ組成物が指に付着しない
【0057】
【表4】
【0058】
上記実施例及び比較例の対比から、本発明の浸透乾燥型オフセット印刷用インキ組成物によれば、長時間にわたって湿し水とインキ組成物とがローラー上で練られた場合であっても、インキの粘度が著しく増加する「ねっぱり」現象を抑制できることが理解される。したがって、本発明のインキ組成物によれば、長時間にわたって印刷される新聞印刷においても、インキ組成物の「ねっぱり」の発生を抑制しながら安定に印刷を継続させることが可能である。
【0059】
また、実施例5にてマシンオイルとして使用したインクオイルH8の40℃における動粘度(mm
2/s)及びその配合量と、実施例4にてマシンオイルとして使用したSNH540の40℃における動粘度(mm
2/s)及びその配合量とを、縦軸(Y)を配合量とし横軸(X)を40℃における動粘度(mm
2/s)としたグラフにプロットし、これらを通過する直線の一次式を求めた。その結果、Y=−0.00000141X+8.06との一次式が得られた。マシンオイルの添加量が多ければ多いほど、「ねっぱり」現象の抑制効果が大きくなると考えられ、また、マシンオイルの動粘度が大きければ大きいほど「ねっぱり」現象の抑制効果が大きくなると考えられることから、上記の一次式は、少なくとも、その一次式から得られる直線よりも上側部分(すなわちY≧−0.00000141X+8.06)であれば、十分に「ねっぱり」現象が抑制されて好ましいことを意味していると考えられる。もっとも、上記の一次式から得られる直線よりも下側だったとしても、本発明で規定するマシン油が1質量%以上インキ組成物に添加されてさえいれば、「ねっぱり」現象が抑制されることに変わりはない。