特許第5904536号(P5904536)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5904536高温で気密性を保つセラミックス−金属のガラスシール構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5904536
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】高温で気密性を保つセラミックス−金属のガラスシール構造体
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/02 20060101AFI20160331BHJP
   C03C 8/04 20060101ALI20160331BHJP
   C22C 19/00 20060101ALI20160331BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   C04B37/02 A
   C03C8/04
   C22C19/00 Z
   C22C38/00 302Z
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-74993(P2012-74993)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-203602(P2013-203602A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(72)【発明者】
【氏名】江田 智一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 孝
(72)【発明者】
【氏名】塗 溶
【審査官】 伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−138088(JP,A)
【文献】 特開平02−097435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00− 37/04
C03C 1/00− 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一の金属部材と一のセラミックス部材とが接合され、該接合部がガラス材により封止されてなる構造体であって、
前記金属部材は、Fe、NiおよびCoを主構成成分とし、副成分としてTi、AlおよびSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素を前記金属部材の全体を100質量%として0.1質量%以上10質量%以下の割合で含むFe−Ni−Co系合金により構成されており、
前記ガラス材は、酸化物換算の質量%で、
SiO:16〜40%、
:20〜50%、
Al:1〜15%、
BaO:8〜20%、
MgO+CaO+ZnO:10〜25%、
LiO+NaO+KO:1〜15%、
の成分を含み、
前記金属部材および前記セラミックス部材の25℃から500℃までの熱膨張係数がいずれも6.5×10−6〜8.0×10−6−1の範囲にあり、
前記ガラス材の25℃から500℃までの熱膨張係数が5.5×10−6〜6.5×10−6−1の範囲にある、構造体。
【請求項2】
前記金属部材が、さらに、Zn、Cr、Na、K、Li、Mg、Ca、MnおよびVからなる群から選択される少なくとも1種の元素を前記金属部材の全体を100質量%として5質量%以下の割合で含む、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記ガラス材の軟化点が、590℃以上640℃以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の構造体。
【請求項4】
前記セラミックス部材が多孔質体からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項5】
前記多孔質体がガス分離膜を備え、ガス分離エレメントとして構成されている、請求項に記載の構造体。
【請求項6】
前記セラミックス部材が、アルミナからなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項7】
前記ガラス材は、前記接合部とは異なる前記多孔質体の表面の少なくとも一部を被覆している、請求項に記載の構造体。
【請求項8】
前記金属部材と前記セラミックス部材との接合部において、該金属部材とセラミックス部材との間に前記ガラス材が配置されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材とセラミックス部材とをガラス材により気密的に封止した封止構造を備えた構造体に関する。より詳しくは、高温で気密性を保つセラミックス−金属のガラスシール構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、セラミックス材料と金属材料とを接合した構造体が、各種の電子部品やガス分離エレメント等に採用されている。セラミックス材料は、一般に金属材料に比較して熱膨張係数が低いことから、これらの材料を接合する際には、使用温度域においてセラミックス材料に近い熱膨張係数を有する金属材料を用いる必要がある。このような比較的熱膨張係数の低い金属材料(低熱膨張合金)としては、例えば、Fe−36Niからなるインバー合金や、Fe−29Ni−17Coからなるコバール合金等が知られている。
【0003】
また、電子部品等においては、セラミックス材料と金属材料との間を気密に封止(シール)するため、あるいは、更に該封止を維持しつつ両部材を接着(封着)するためにガラス材料が用いられている。かかるガラス材としては、コーニング社の7052型ガラスまたは7056型ガラスの他、各種の封着用ガラス材が提案されている(例えば、特許文献1および2等参照)。
特許文献1および2に開示されるように、封着用ガラス材は、その用途に応じて様々に特性が改良されているものの、封着のための耐熱温度は300℃〜400℃程度が限界であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−218525号公報
【特許文献2】特開2011−042565号公報
【特許文献3】特開2007−046755号公報
【特許文献4】特開2005−152770号公報
【特許文献5】特開2004−019879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、液体や気体等の流体から特定のガス状物質を選択的に分離するガス分離エレメントが知られている。このガス分離エレメントは、典型的には、シリカ膜やゼオライト膜といったガス分離能を有する無機膜(ガス分離膜)が、担体としての多孔質セラミックス部材の表面に担持され、このセラミックス部材にガス導管等の金属部材が接続されて構築されている。そして圧縮された被分離流体が多孔質セラミックスに当接または通過する際に、上記のガス分離膜により所定のガスのみがガス分離され、この分離されたガスが多孔質セラミックス部材の細孔内を通過して回収される構成とされる。
【0006】
かかるガス分離エレメントにおいて、300℃以下の比較的低温でガス分離を行う際には、セラミックス部材と金属部材との封着および封止を耐熱性を有する樹脂やゴムを用いて行うようにしている(例えば、特許文献3参照)。また、300℃以上の比較的高温でガス分離を行う場合は、金属あるいは黒鉛を封止材料として用いることが提案されている(例えば、特許文献4および5参照)。しかしながら、これらの材料では、例えば500℃程度の高温でセラミックス部材と金属部材との封着および封止を行うことはできなかった。
【0007】
本発明は、上述したような従来の問題を解決すべく創出されたものであり、その目的とするところは、500℃程度の高温においても、セラミックス部材と金属部材との間をガラス材により気密に封止した構造体(さらに好ましくは、当該ガラス材により両部材を接着せしめた構造体)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、ここに開示される構造体は、少なくとも一の金属部材と一のセラミックス部材とが接合され、該接合部がガラス材により封止されてなる構造体である。そしてかかる構造体において、上記金属部材および上記セラミックス部材の25℃から500℃までの熱膨張係数がいずれも6.5×10−6〜8.0×10−6−1の範囲にあり、上記ガラス材の25℃から500℃までの熱膨張係数が5.5×10−6〜6.5×10−6−1の範囲にあることを特徴としている。
【0009】
一般に、セラミックス、ガラスおよび金属といった異種の材料を好適に接合するには、(1)これらの材料の熱膨張の相対関係が適切で、特に脆性を示すガラスに無理な歪力が加わらないこと、(2)これらの材料間の濡れおよび馴染み(親和性)が良いこと、が重要とされている。上記の(1)熱膨張の相対関係としては、例えば、セラミックスの室温(25℃)から500℃までの熱膨張係数は7.0×10−6−1程度であることが知られており、かかる熱膨張特性を有する金属を選択して用いることが好ましい。これに対し、ここに開示される構造体においては、かかる熱膨張特性を有するセラミックス部材と金属部材との接合に、あえて室温(25℃)から500℃までの熱膨張係数(以下、単に『500℃までの熱膨張係数』のようにいう場合がある。)が大幅に小さいガラス材を用いることで、当該温度における両者の封着および封止を可能としている。かかる封着が実現される理由については明らかではないものの、かかる系においては、特にガラスと金属の間の濡れおよび馴染みが良好に維持されるものであり得る。
なお、本明細書において、熱膨張係数は、所定の温度領域において示差熱膨張計を用いて測定した平均線膨張係数であり、試料の初期長さに対する所定の温度範囲における試料長さの変化量を温度差で割った値である。熱膨張係数の測定は、JIS
R1618の測定方法に準じて実施することができる。
【0010】
ここに開示される構造体の好ましい一態様では、上記金属部材が、Fe、NiおよびCoを主構成成分とし、副成分としてTi、AlおよびSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素を上記金属部材の全体を100質量%として0.1質量%以上10質量%以下の割合で含むFe−Ni−Co系合金、により構成されていることを特徴とする。
【0011】
Fe、NiおよびCoを主構成成分とするFe−Ni−Co系合金は低熱膨張特性を備えるものであり得る。そしてここに開示される構造体においては、副成分として上記のTi、AlおよびSiの少なくとも1種の元素を含むようにしている。かかるTi、AlおよびSiは、例えば公知の酸化物のエリンガム図等に示されるように、大気の平衡酸素分圧において安定した酸化物を形成することが知られる元素である。Fe−Ni−Co系合金がこれらの元素を上記割合で含むことで、金属の表面に上記金属の酸化物がごく薄い表面層(例えば、数原子層程度)として形成され、金属部材とガラス材の熱膨張係数に差がある場合でも、材料間の濡れおよび馴染みを良好に整え得る。なお、TiおよびAlについては、Fe−Ni−Co系合金に添加することでγ’相の析出による析出強化を図ることができる。かかる高強度を得ることを目的としてこれらの元素が含まれてもよい。
なお、本発明において、「Fe、NiおよびCoを主構成成分とする」とは、上記合金組成において、合金全体を100質量%としたときに、Fe、NiおよびCoの元素の合計の占める割合が50質量%以上であることを意味している。Fe、NiおよびCoの元素の合計は、典型的には70質量%以上であり、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。また、Fe、NiおよびCoを主構成成分とする合金を、「Fe−Ni−Co系合金」のように表現する場合もある。
【0012】
ここに開示される構造体の好ましい一態様では、上記金属部材が、さらに、Zn、Cr、Na、K、Li、Mg、Ca、MnおよびVからなる群から選択される少なくとも1種の元素を、上記金属部材の全体を100質量%として5質量%以下の割合で含むことを特徴としている。これらの元素は、上記金属部材に所望の特性を備える目的で適量を添加することができる。
【0013】
ここに開示される構造体の好ましい一態様では、上記ガラス材が、酸化物換算の質量%で、SiO:16〜40%、B:20〜50%、Al:1〜15%、BaO:8〜20%、MgO+CaO+ZnO:10〜25%、LiO+NaO+KO:1〜15%の成分を含むことを特徴としている。封着材としてのガラス材の組成を上記の範囲とすることで、500℃程度の高温領域でのセラミックス部材および金属部材の封着を好適に実施することができる。
【0014】
ここに開示される構造体の好ましい一態様では、上記ガラス材の軟化点が、590℃以上640℃以下であることを特徴とする。かかる温度範囲に軟化点を有することにより、例えば500℃程度といった軟化点より低い温度範囲での封着を確実に行うとともに、例えば軟化点より150℃程度高い800℃程度以上の温度範囲で金属部材に及ぼす悪影響を最低限に抑えて封着作業を行うことができる。
【0015】
ここに開示される構造体の好ましい一態様では、上記セラミックス部材が多孔質体からなることを特徴としている。かかるセラミックス部材を多孔質体とし、その表面に各種の機能材料を付加または担持させることで、この構造体を、例えば、液体の中の固体、気体中の固体、気体中の液体等の分離や、化学反応促進のための触媒用担体、マイクロ波等の吸収または封止材等に幅広く適用することができる。
【0016】
ここに開示される構造体の好ましい一態様では、上記多孔質体がガス分離膜を備え、ガス分離エレメントとして構成されていることを特徴とする。ガス分離エレメントは、比較的高温で用いることでその分離効果が高まり得る。かかる構造体は、例えば500℃程度の高温での使用に適していることから、かかる温度範囲においてより効率的にガス分離を行えるガス分離エレメントに適用することで、その効果をいかんなく発揮することができる。
【0017】
ここに開示される構造体の好ましい一態様では、上記セラミックスが、アルミナからなることを特徴としている。アルミナは、比較的安価で、高温強度および耐熱性に優れ、気孔率および純度の調整も容易にできるために、幅広い用途に用いられている。ここに開示された構造体は、セラミックス部材としてアルミナを好適に用いることができるため、幅広い用途に用いることができる構造体を提供することができる。
【0018】
ここに開示される構造体の好ましい一態様では、上記ガラス材は、上記接合部とは異なる上記多孔質体の表面の少なくとも一部を被覆していることを特徴としている。かかる構造体は、例えば、多孔質体の表面を該ガラス材によりコーティングすることで、多孔質体の連通孔を封止することができる。これにより、例えば、所定の部位のみが外部に連通する(解放される)多孔質体を備える構造体を提供することができる。
【0019】
ここに開示される構造体の好ましい一態様では、上記金属部材と上記セラミックス部材との接合部において、該金属部材とセラミックス部材との間に上記ガラス材が配置されていることを特徴とする。上記ガラス材は、上記金属部材と上記セラミックス部材との馴染み(付着しやすさ等の親和性)が良好であるため、上記金属部材と上記セラミックス部材との接合部を外側から覆うように配置されても、両部材の間に配置されても、接合部を封止することが可能である。例えば、上記ガラス材を両部材の間に配置して封止することで、より確実なガスシール構造が可能とされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る構造体を示す断面模式図である。
図2】本発明の他の実施形態に係る構造体を示す断面模式図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る構造体を示す断面模式図である。
図4】本発明の他の実施形態に係る構造体を示す断面模式図である。
図5】ガス分離エレメントの構成を示す模式図である。
図6】構造体の各部材の熱膨張係数を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、封止構造を構成する各部材の特徴)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、構造体を構成する各部材の製造方法および加工方法等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0022】
図1は、ここに開示される構造体の一実施形態である。かかる構造体10は、金属部材20とセラミックス部材30とが接合され、該接合部がガラス材40により封止され、典型的には更に該ガラス材40により両部材が封着(接着)されている。以下、かかる封着構造体に関して詳細に説明するが、本発明は一の金属部材20と一のセラミックス部材30との接合部がここで開示されるガラス材40によって封止(シール)されていれば良く、必ずしも両部材の接着(封着)を同一のガラス材単独で実現することは要しない。
【0023】
通常、セラミックス、ガラスおよび金属といった異種の材料を好適に接合するには、これらの材料の相互に作用する熱応力を最小にするために、使用温度範囲における熱膨張係数を可能な限り近づけることが検討される。これに対し、ここに開示される構造体10においては、使用温度範囲のおおよその目安となる25℃から500℃までの熱膨張係数を、金属部材20およびセラミックス部材30については6.5×10−6〜8.0×10−6−1の範囲に、そしてガラス材40については5.5×10−6〜6.5×10−6−1の範囲と、異ならしめるよう規定している。
【0024】
かかる構造体10に用いる金属部材20としては、具体的には、いわゆる低熱膨張合金として知られる金属材料のうち、その組成にTi、AlおよびSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む合金を用いることができる。低熱膨張合金としては、例えば、インバー合金(Fe−36Ni)や、スーパーインバー合金(Fe−32Ni−5Co)、コバール合金(Fe−29Ni−17Co)等の組成がFe−(20〜39)Ni−(0〜30)Co等で示される合金を考慮することができる。そして金属部材20は、これらの低熱膨張合金に、少なくとも上記のTi、Al、Siのうちの一種を添加したものとして理解される。このような金属部材20の好適な例として、例えば、具体的には、Fe、NiおよびCoを主構成成分とし、副成分としてTi、AlおよびSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素を、上記金属部材20の全体を100質量%として0.1質量%以上10質量%以下の割合で含むFe−Ni−Co系合金により構成することが例示される。
なお、ここで、合金の組成を示す前記表記において、Fe以外の元素記号の前に記載された数字は、該合金中において当該元素が占める質量割合を示している。また、その残部は、Feおよび不可避的不純物が占めるものと理解できる。
【0025】
副成分としてのTi、AlおよびSiの作用については明確ではないものの、これらの元素は、例えば、酸化物のエリンガム図等から明らかなように、大気の平衡酸素分圧下において安定した酸化物を形成し得ることが知られている。したがって、Fe−Ni−Co系合金がこれらの元素を上記割合で含むことで、低熱膨張性を備えつつ、金属部材20の表面にTiO,Al,SiO等の酸化物のごく薄い表面層(例えば、数原子層程度)を形成し、金属部材20の表面をガラス材40との濡れおよび馴染みが良好となるように整えるものとなり得る。Fe−Ni−Co系合金において、Ti、AlおよびSiの合計が0.1質量%よりも少ないと、上記の酸化物層が金属部材20の表面に十分に形成されず、ガラス材40との界面の状態が適切に整えられないことが考えられる。このため、ガラス材40に熱応力を与え、割れを誘起する可能性が高まるために好ましくない。なお、これらの副成分のうち、TiおよびAlについては、Fe−Ni−Co系合金に添加することでオーステナイトの単相組織中にγ’相を析出させる析出強化元素でもあり得る。したがって、金属部材20の高温強度を高める目的でこれらの元素を含むようにしてもよい。これらの観点から、Ti、AlおよびSiの合計は、0.5質量%以上であることが好ましく、さらには、1質量%以上であることが好ましい。また、Ti、AlおよびSiの合計が10質量%を超過すると、低熱膨張特性が損なわれ得るために好ましくない。Ti、AlおよびSiの合計は、8.5質量%以下であることがより好ましく、更には7質量%以下であるのが好ましい。なお、Siについては、熱膨張係数を増加させる傾向にあるため、単独では1.0質量%以下に限定するよう考慮することができる。
【0026】
以上の金属部材20として、すなわち、Fe−(20〜39)Ni−(0〜30)Co−(0.1〜10)(Ti,Al,Si)等の組成で示される合金を主成分とする合金を用いることが例示される。具体的には、例えば、インコロイ903(Fe−38Ni−15Co−3Nb−1.4Ti−0.7Al合金)、インコロイ904(Fe−32.5Ni−14.5Co−2.3Ti−0.8Al合金)等の市販合金や、HRA929に代表されるFe−(20〜32)Ni−(16〜30)Co−(0.5〜2.5)Ti−(3.0〜6.0)Nbを主成分とする合金等を用いることが例示される。
【0027】
なお、かかる金属部材20は、上記の副成分以外にも、さらに、Zn、Cr、Na、K、Li、Mg、Ca、MnおよびVからなる群から選択される少なくとも1種の元素を、上記金属部材20の全体を100質量%として5質量%以下の割合で含むことができる。
これらの元素は、例えば、オーステナイト相を安定させるとともに、固溶強化元素および析出強化元素として機能したり、熱間加工性や常温域における延性の改善、脱酸効果、耐食性の向上等に効果を発揮し得る。そのため、これらの元素は、所望の目的に応じて、1種または2種以上を、総量が5質量%以下の範囲で適宜添加することができる。これらの元素の総量が5質量%を超過すると、熱膨張係数を高める可能性が生じるために好ましくない。
【0028】
また、その他にも金属部材20に所望の特性を備える目的で、上記以外の元素を本発明の趣旨を逸脱しない範囲で含ませることができる。例えば、Nbは上記TiおよびAlと同様にγ’相を析出させる析出強化元素として機能し得る。したがって、Nbを、例えば、3.0質量%以上6.0質量%以下程度の割合で含んでいてもよい。
【0029】
かかる金属部材20の熱膨張係数は、例えば、25℃から300℃までが5.0×10−6〜6.0×10−6−1程度、25℃から400℃までが5.1×10−6〜6.1×10−6−1程度で、一般的な金属に比べて極めて小さい値をとり、代表的な低熱膨張合金であるコバールとほぼ同程度の値および熱特性であり得る。しかしながら、400℃までの熱膨張係数が低い値をとるのに対し、25℃から500℃までの熱膨張係数が6.5×10−6〜8.0×10−6−1程度、より限定的には6.7×10−6〜7.7×10−6−1程度に急激に上昇し、上記のセラミックス部材30の熱膨張係数と近接するものとなり得る。そしてさらに高温となるにつれて、熱膨張係数は10×10−6−1を超える値にまで上昇する。これよりも熱膨張係数が大きすぎる金属材料については、後述するセラミックス部材30およびガラス材40との熱特性が相容れないため、好適に用いるのは困難となる。
【0030】
セラミックス部材30としては、25℃から500℃までの熱膨張係数が6.5×10−6〜8.0×10−6−1程度の範囲にある各種のものを用いることができる。かかるセラミックス部材30としては、代表的には、アルミナ(Al:酸化アルミニウム)、ジルコニア(ZrO)、ステアタイト(MgO・SiO)、コーデュエライト(2MgO・2Al・5SiO)等が例示される。また、各種の酸化物を混合することで熱膨張係数を上記範囲に調整したセラミックス材料を用いるようにしても良い。かかるセラミックス部材30として、より好ましくは、アルミナを主体とする各種のセラミックスを用いるのが好適な例として示される。
アルミナは、比較的安価で、高温強度および耐熱性に優れる等の性質を有することから、様々な態様のものが提供されており、幅広い分野および用途で用いられている。ここに開示された構造体10は、セラミックス部材30としてアルミナを好適に用いることができるため、幅広い用途に適用可能な構造体10が提供され得る。
【0031】
かかるセラミックス部材は、例えば、その躯体内に多数の空孔を備える多孔質体であっても良く、あるいは高度な焼結技術等によって緻密に焼結された緻密質体(例えばファインセラミックス)であっても良く、また、これらの中間的な構造を有するものであってもよい。多孔質体においては、純度や気孔率、気孔径、比表面積などを所望の値に調整したものを用いることができ、また、緻密質体においても、純度、密度等を所望の値に調整したものを用いることができる。さらに、セラミックス部材30は、各種の機能が備えられたものであって良い。具体的には、例えば、様々な機能を有する粒子、薄膜等の担体等であってよい。かかる粒子としては、例えば、典型的には、各種の触媒粒子や活性粒子等が例示される。また、かかる薄膜としては、典型的には、例えば、シリカ膜や、ゼオライト膜などに代表される各種のガス分離膜等が例示される。セラミックス部材30を多孔質体から構成することで、例えば、液体の中の固体、気体中の固体、気体中の液体、気体中の気体、液体中の気体等の分離や、化学反応促進のための触媒用担体、マイクロ波等の吸収または封止材等として利用可能な構造体10を実現することができる。
【0032】
ここに開示されるセラミックス部材30の熱膨張係数は、例えば、25℃から100℃までが4.0×10−6〜5.5×10−6−1程度と極めて小さく、その後、25℃から200℃までが5.2×10−6〜6.3×10−6−1程度となり、25℃から500℃までは6.5×10−6〜8.0×10−6−1程度、より限定的には6.7×10−6〜7.7×10−6−1程度へと漸増してゆく。これよりも熱膨張係数が小さすぎる、または、大きすぎるセラミックス材料については、金属部材20および後述するガラス材40との熱特性が相容れないため、好適に用いるのは困難となる。
【0033】
ここに開示される構造体10において特徴的なガラス材40としては、組成において、質量%で、SiO:16〜40%、B:20〜50%、Al:1〜15%、BaO:8〜20%、MgO+CaO+ZnO:10〜25%、LiO+NaO+KO:1〜15%の成分を含むことを特徴としている。上述したセラミックス部材30および金属部材20は、例えば公知の製品等として知られるものを含み得るが、これらのセラミックス部材30および金属部材20を500℃程度の高温領域で好適に封着および封止可能とするガラス材40については、これまでに全く知られていない新規なものであり得る。
なお、本明細書において、ガラス材40についていう「組成」とは、いわゆるガラス組成や酸化物換算組成を示しており、ガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が高温での溶融時に全て分解されて酸化物となると仮定した場合に、その酸化物の総量を100質量%とし、これに占める当該酸化物の割合を質量百分率で示したものである。以下単に「%」で示すものは、「質量%」を略したものである。
【0034】
かかるガラス材40の組成(酸化物換算)について以下に詳細に説明する。
SiOはガラスの骨格を形成し得る成分であり、ガラス材40中に16〜40%の割合で含むことができる。SiOが30%を超過すると、ガラスの溶解性が低下するとともに軟化点が上昇し、例えば金属部材20の組織に悪影響を与えない温度範囲(例えば、900℃以下)での焼成および加工が困難になるため好ましくない。また、17%未満ではガラス構造が不安定となり、ガラスの調製における溶融、冷却中に結晶析出が起こりやすく、封着および封止の際のハンドリング性が低下するために好ましくない。SiOは、17〜35%の割合であるのがより好ましく、さらに限定的には18〜30%であるのが望ましい。
【0035】
は、ガラス材40の熱膨張を抑制するとともに粘度および溶融温度を低下させる機能を示し、ガラス組成物中に20〜50%の割合で含むことができる。Bが50%を超過すると、ガラス材40を調整する際の溶解および冷却中に結晶析出が起こり、封着および封止が困難となる可能性があるために好ましくない。Bが20%未満であると、ガラスの粘性とともに溶解温度が上がり、900℃以下での焼成が困難になるため好ましくない。Bは、22〜48%の割合であるのがより好ましく、さらに限定的には24〜45%であるのが望ましい。
【0036】
Alは、ガラス材40の化学的耐久性を増大させ、弾性率や硬度を増大させる成分であり、ガラス組成物中に1〜15%の割合で含むことができる。Alが15%を超過すると、ガラスの粘性が上昇して900℃以下での焼成が困難になるため好ましくない。Alが1%未満であると、ガラスが不安定となり、強固なセラミックスとの接合性が低下するため好ましくない。Alは、1.5〜13%の割合であるのがより好ましく、さらに限定的には3〜10%であるのが望ましい。
【0037】
BaOは、ガラス材40の化学的耐久性を増大させる成分であり、ガラス組成物中に、8〜20%の割合で含むことができる。BaOが20%を超過すると、ガラスが不安定となり、ガラスを作製する際の溶解および冷却中に結晶析出が起こり、封着および封止が困難となるために好ましくない。BaOが8%未満であると、ガラスの粘性があがり900℃以下での焼成が困難になるために好ましくない。BaOは、8〜17%の割合であるのがより好ましく、さらに限定的には8〜15%であるのが望ましい。
【0038】
MgO、CaOおよびZnOについては、必ずしも必要な成分ではないものの、ガラス材40の高い熱的安定性を得やすくする機能を有し、熱膨張係数を調整するためにいずれか1種以上を合計で10〜25%の割合で含ませることができる。これらの成分は、10%を超過すると熱安定性が損なわれ熱膨張係数を所望の範囲に制御するのが困難となるため好ましくない。特に、ZnOは熱膨張係数を比較的低くする働きがあり、これを10〜25%の割合で含むのがより好ましい。これらの成分は、合計で11〜23%の割合であるのがより好ましく、さらに限定的には12〜22%であるのが望ましい。
【0039】
LiO、NaOおよびKOについても、必ずしも必要な成分ではないものの、ガラス材40の溶融性を増大させる成分として、いずれか1種以上を合計で1〜15%の割合で含ませることができる。これらの成分は、15%を超過すると熱安定性が損なわれ熱膨張係数を所望の範囲に制御するのが困難となるため好ましくない。これらの成分は、合計で2〜10%の割合であるのがより好ましく、さらに限定的には5〜7%であるのが望ましい。
【0040】
なお、ここに開示されるガラス材40には、本発明の目的を逸脱しない限り、必要に応じて、公知の清澄剤、着色剤、熱膨張係数を制御するためのセラミックス粉末を適宜含有させることができる。その他、上記組成に示す以外の成分であって、原料や製造工程に由来する不可避的な不純物の混入が許容されることは言うまでもない。
【0041】
上記ガラスの軟化点は、590℃以上640℃以下であることが好ましい。かかる温度範囲に軟化点を有することにより、例えば500℃程度といった軟化点より低い温度範囲での封着を確実に行うとともに、例えば軟化点より150℃程度高い800℃程度以上、例えば金属部材20に悪影響を及ぼす可能性を最低限に抑えて封着作業を行うことができる。
【0042】
このようにして得られるガラス材40は、例えば、焼成後の平均熱膨張係数が、例えば、25℃から100℃までが4.2×10−6〜6.5×10−6−1程度と比較的小さく、その後、25℃から400℃までが6.0×10−6〜7.0×10−6−1程度となり、セラミックス部材30と同様に漸増する。しかしながら、400℃までの熱膨張係数がセラミックス部材30と近い値をとるのに対し、25℃から500℃までの熱膨張係数が5.5×10−6〜6.5×10−6−1程度、より限定的には5.5×10−6〜6.0×10−6−1程度に急激に減少し、上記のセラミックス部材30および金属部材20の熱膨張係数とは乖離した値となり得る。
【0043】
以上詳しく説明したように、ここに開示される金属部材20、セラミックス部材30およびガラス材40の熱膨張係数は、その使用温度域を表し得る25℃から500℃の温度範囲において、金属部材20とセラミックス部材30とが近い値をとるのに対し、ガラス材40がこれらよりも小さい値をとり、一見互いの熱膨張の相対関係が適切でないように見受けられる。しかしながら、これらの金属部材20、セラミックス部材30およびガラス材40は、その予想に反し、当該温度範囲において良好な封着および封止を可能とする。この理由については明確ではないものの、例えば金属部材20の表面状態が酸化物層の存在により良好に整えられていることや、また、ガラス材40がその組成に基づき適度な熱歪に対する受容性を備えたことによるものと考えられる。
【0044】
なお、図6は、各種の材料の室温から各温度までの平均線熱膨張係数を示した図である。例えば、100℃から500℃の全ての熱膨張係数がセラミックス部材(図中のAl)の熱膨張係数とほぼ同じガラス材(図中のガラス5)を用い、500℃程度の高温領域で金属部材とセラミックス部材との封着を試みても、ガラスにクラックが発生してしまい、これら金属部材とセラミックス部材とを封止および封着することはできない。また、400℃の熱膨張係数に対して500℃の熱膨張係数が減少することで金属部材(図中のコバール、HRA929)およびセラミックス部材の500℃の熱膨張率と近い値を有するガラス材(図中のガラス2)を用いても、やはりガラスにクラックが発生してしまい、金属部材とセラミックス部材とを封止および封着することはできない。
【0045】
以上の金属部材20およびセラミックス部材30は、例えば、これらの接合部にガラス材40を馴染みよく配設することで、封着することができる。ガラス材40の配設方法については特に制限はなく、例えば、ガラス材40を微粉末状にし、適切なバインダあるいは溶剤等と混合してペースト状に調製したものを接合部に付着(塗布を含む)させた後、金属部材20およびセラミックス部材30を接合状態に組み合わせ、高温下でガラス材40を溶融させることが例示される。あるいは、ガラス材40をペースト状に調製して接合部に付着することに替えて、例えばCVD法(気相化学蒸着法)等の薄膜形成手法を採用して該接合部にガラス膜を形成するようにしても良い。かかる封着により、金属部材20とセラミックス部材30との気密な接合が可能とされ、ここに開示される構造体10が提供される。
【0046】
ここに開示される構造体10としては、様々な態様のものであってよい。例えば図1に示したように、金属部材20とセラミックス部材30が互いに筒状であって、互いを嵌合させることで接続(接合)可能であり、この接合部にガラス材40が気密に配設された態様であっても良い。また、例えば図2に示したように、セラミックス部材30が多孔質体である場合などは、この多孔質体の表面をガラス材40で被覆するなどして多孔質体の連通孔を封止するようにしても良い。また、筒状のセラミックス部材30の先端は、例えば、金属部材20やセラミックス部材30と同質の材料からなる蓋材50で塞がれていても良い。そして、かかる蓋材50との合わせ目においても、ガラス材40による封着または封止がなされていても良い。もちろん、セラミックス部材30は筒状の多孔質体に限定されることなく、例えば図3に示したように、緻密質のアルミナであっても良いし、先端が閉じられた筒状体であっても良い。また、図4に例示したように、例えば、一方の部材(ここではセラミックス部材30)の両端に他方の部材(ここでは金属部材20)がそれぞれ封着された形態であっても良い。
【0047】
さらに、金属部材20とセラミックス部材30との接合部において、ガラス材40は、金属部材20とセラミックス部材30との間(間隙)に配置されていても良いし、金属部材20とセラミックス部材30との接合部を外側から覆うように配置されてもよい。また、ガラスを両部材の間に配置する場合は、接合部の全体にわたってガラス材が配置されていても良いし、接合部の一部にガラス材が配置されていても良い。接合部の全体にわたってガラス材が配置されることで、より確実で強固な封着を実現することができる。
【0048】
本発明が提供する構造体10は、例えば、セラミックス部材30が多孔質体からなり、この表面にガス分離膜(図示せず)を備えることにより、ガス分離エレメント10として利用することができる。例えば、図5は、上記構造体10を利用した水素ガスを分離するガス分離膜モジュール(改質器)60を模式的に表した図である。より具体的には、この図に示すように、ガス分離膜モジュール60は、概略的に、例えば筒状のステンレス製チャンバー61内に、水素ガス分離能を有するポリシラザン膜(図示せず)を表面に備えたセラミックス部材(アルミナ多孔質体から成るセラミックスパイプ)30と、これに接合される金属部材(ガス供給管)とが接合され、該接合部がガラス材40で封着された構造体(水素ガス分離エレメント)10を備えることで構成されている。この水素分離エレメント10において、セラミックス部材30の一端は金属製の蓋体50によって塞がれ、さらにガラス材40にて封着されており、この端部からセラミックスパイプの内部空間へガス等の流体が流入するのが防止されている。また、チャンバー61には、処理前の気体が導入されるガス供給口62と、処理後のガスが排出されるガス排出口63と、水素分離エレメント10により分離されたガスが回収される回収口64とが設けられている。このチャンバー61の内部のセラミックス部材30との間の空間には、図示しない触媒を充填することができる。さらに、チャンバー61の外部周辺には、図示しないヒーターおよび断熱材等が設けられ、チャンバー61の内部の温度を室温〜1200℃程度の範囲でコントロールすることができる。
【0049】
かかるガス分離膜モジュール60においては、典型的には、ガス供給口62からチャンバー61内に水素リッチなガスが被分離流体として導入される。この水素リッチなガスは、水素分離エレメント10の外部から圧送されることで、水素のみがポリシラザン膜およびセラミックス部材30の細孔内を透過してセラミックス部材30の内部空間に送られ、これに連通する金属部材20の内部空間を通過して回収口64から外部に回収される。一方の水素が分離された処理後のガスは、ガス排出口63を介して外部に排出される。ここでガス分離エレメント10は、比較的高温で用いることでその分離効果が高まり得る。また、かかるガス分離エレメント10は、いずれも耐熱性の高い素材で構成され、かつ、例えば500℃程度の高温で使用した場合であっても、セラミックス部材30と金属部材20との接合部が気密に封着され得る。したがって、500℃程度の高温条件下においても、金属部材20、セラミックス部材30およびガラス材40との熱膨張係数の差によって各部材間に寸法のアンバランスが生じるなどして流体がリークする可能性は極めて低く抑えられている。これにより、500℃程度の高温で効率的にガス分離を行えるガス分離エレメント10およびガス分離膜モジュール60が実現される。
【0050】
なお、上記説明においては、ここに開示されたガス分離エレメント10を、被分離流体が気化された後に供給されて分離される蒸気透過(VP)法によるガス分離膜モジュール60に適用した例を示したが、かかるガス分離エレメント10の応用範囲がこれに限定されることはない。例えば、被分離流体が液体状態で供給されてガスが分離される浸透気化(PV)法によるガス分離膜モジュール60等にも適用することができる。また、上記のガス分離エレメント10に備えられるガス分離膜の種類や担持の形態、ガス分離エレメント10を通過する流体の流路等は上記構成に限定されない。
【0051】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0052】
[封着予備試験]
セラミックス部材と金属部材とをガラス材で封着するにあたり、まず最初に、金属部材とガラス材との封着予備試験を行った。
ガラス材としては、SiO、B、Al、BaO、ZnOおよびNaOのガラス原料を下記の表1に示す6通りの配合で調合した後、白金坩堝を用いて1000℃で5〜24時間溶解し、アニ−ルすることで、ガラス材1〜6を用意した。これらのガラス材から、厚みが2mmで、3mm×3mmの寸法の試験用のガラス片(A)〜(F)を切り出した。また、これらのガラスのガラス転移点、屈伏点および軟化点を、示差熱分析装置((株)リガク製、TMA8310)を用いて測定し、その結果を表1に示した。
金属部材としては、寸法が20mm×20mmで厚さが2mmの低熱膨張性の耐熱合金(a)HRA929(日立金属(株)製)、および、(b)コバール合金をそれぞれ用意した。
【0053】
[熱膨張係数]
上記ガラス材および金属部材の25℃から100℃、200℃、300℃、400℃および500℃までの各温度範囲における熱膨張係数(線膨張係数)を測定し、表2および図6にその結果を示した。なお、熱膨張係数の測定は、試料から直径約5mm長さ約10〜20mmの円柱状の試験片を用意し、各温度範囲における試験片の膨張量を自記示差熱膨張計((株)リガク製、TMA8310)で測定し、平均線膨張係数を算出したものである。
【0054】
[封着性]
上記金属部材の表面を♯2000の研磨布で研磨した後、その中心に上記のガラス片を載せ、900℃で溶融させた後、10℃/minの速度で冷却させるボタンテストを行った。
そして溶融、冷却後のガラスを目視で観察し、クラック発生の有無を確認してその結果を表3に示した。表3において、○はガラスにクラックが発生しなかったことを、×はガラスにクラックが発生したことを表している。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
[評価]
図6および室温から500℃の熱膨張係数の値からは、ガラス材1およびガラス材6が低熱膨張合金であるコバールと近い熱膨張係数を有し、ガラス材2およびガラス材5がコバールより高温強度に優れるHRA929に近い熱膨張係数を有することが確認できた。これに対し、この予備試験からは、ここに開示される発明のガラス材1およびガラス材6と金属部材HRA929との組み合わせの場合にのみ、ガラス材と金属部材との馴染みが良く、ガラス材を割ることなく溶着できることが確認できた。
【0059】
なお、ガラスと金属の封着には、金属の表面に形成される金属酸化物層が寄与することが指摘されている。(a)HRA929の化学組成は、29.3Ni−19.5Co−4.0Nb−1.25Ti−0.55Al−0.4Si−0.005B−残部Feであり、(b)コバールの組成は、29Ni−17Co−残部Feである。これらのことから、HRA929に含まれて、安定した酸化物を形成しやすいTi、Alに由来するTiOやAl等の酸化膜によりHRA929の界面が整えられ、熱膨張係数の異なるガラス材1およびガラス材6に対する馴染み(相性)が高められるものと考えられる。
【0060】
[封着試験]
セラミックス部材と金属部材とを接合し、この接合部をガラス材により封着することで構造体を製造した。
セラミックス部材としては、管状の(a)多孔質アルミナ、および、(b)緻密質アルミナの2通りを用意した。(a)多孔質アルミナは、純度99質量%以上のAlからなり、図2に示したように、外径10mm、厚み1.5mm、細孔径0.5〜3μm、気孔率30〜50%、の筒状体の先端部を、円盤状の緻密質アルミナにより蓋をした形態である。(b)緻密質アルミナは、純度99質量%以上で、密度3.9g/cmのAlからなり、図3に示したように、先閉管状(外径12mm、厚み3mm)の形状を有している。これら(a)多孔質アルミナ、および、(b)緻密質アルミナの熱膨張係数を測定し、その結果を上記の表2に併せて示した。
【0061】
金属部材としては、上記の予備試験で用いたのと同様の(a)HRA929、および、(b)コバールからなるガス導管を用意した。なお、ガス導管は、セラミックス部材との接合部の形状が、内径9.9mm、厚み2mmの管状のものとした。
ガラス材としては、上記の予備試験で用いたガラス材1〜6を全て用意した。
【0062】
接合には、まず、粉末状にしたガラス材を有機バインダ等を用いてペースト状とし、このペースト状のガラス材を管状のセラミックス部材の接合部に付着させて金属部材の接合部に挿入し、900℃に加熱することでセラミックス部材と金属部材とを封着した。また、多孔質のセラミックス部材を用いたケースについても、同様に接合した。なお、多孔質のセラミックス部材については、接合部以外の多孔質体の表面の全てを覆うように上記のペースト状のガラス材を塗布し、加熱することで、多孔質体の表面の全てにガラス材を膜状に形成した。
【0063】
このように形成した構造体の金属部材の解放端に流量計およびガス配管を接続し、500℃で、0.3MPaのNガスを供給して、構造体からの漏れがないかを確認した。
【0064】
[評価]
セラミックス部材と金属部材との封着に際し、上記の予備試験の結果と同様に、封着材としてガラス材1およびガラス材6を用い、金属部材としてHRA929を用いた組み合わせについて、目視で良好な構造体を作製することができた。この場合のセラミックス部材は、(a)多孔質アルミナ、および、(b)緻密質アルミナのいずれの場合も良好に封着できた。
一方で、他のガラス材2〜5およびコバールを用いた場合は、ガラスに明瞭な割れが発生し、構造体を作製することができなかった。
【0065】
アルミナとHRA929をガラス材1またはガラス材6で封着した構造体については、いずれもガスの漏れが検出限界(漏れ量0.1mL/min)以下であり、気密に封着できていることが確認できた。
また、セラミックス部材として(a)多孔質アルミナを用いた場合は、ガラス材1またはガラス材6によって、多孔質体の表面の封止も行えることが確認できた。
【0066】
以上のように500℃において金属部材とセラミックス部材を気密に封止できることは、例えば、この構造体をガス分離膜モジュール等に好適に応用できることを示している。例えば、ガス分離温度を500℃以上に高めることを可能とし、より高効率で応用幅の広いガス分離エレメントを実現することができる。
【0067】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 構造体(ガス分離エレメント)
20 金属部材
30 セラミックス部材
40 ガラス材
50 蓋材
60 ガス分離膜モジュール
61 チャンバー
62 供給口
63 排出口
64 回収口
図1
図2
図3
図4
図5
図6