【文献】
稲垣 惠三, 川西 哲也,「高消光比光変調器を用いたPD周波数特性校正法の提案」,2010年電子情報通信学会大会講演論文集, エレクトロニクス1,2010年 3月 2日,p. 293
【文献】
Paul.D. Hale and C.M. Wang,"Calibration service of optoelectronic frequency response at 1319 nm for combined photodiode/RF power sensor transfer standards",NIST Special Publication 250-51,1999年12月,pp. 1-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
光変調器や直接変調された半導体レーザに代表される電気光(ElectricaltoOptical,E/O)変換デバイス,およびフォトダイオード(PD)に代表される光電気(OpticaltoElectrical,O/E)変換デバイスは,デジタル光通信システムやファイバ無線(RadioOnFiber,ROF)システムのキーコンポーネントである。これらのデバイスの主要な性能指標として,“レスポンシビティ(responsivity)”とよばれる直流(DC)におけるO/EおよびE/O変換効率がある。
【0003】
近年,デジタル光通信システムが一波あたり100Gbpsを超えるほど著しく高速化されるとともに,ROFでは次々に高い周波数のキャリアを用いたシステムの研究が報告されている。このため,DCのレスポンシビティのみならず,ミリ波帯からテラヘルツ帯までを含めた周波数領域についての周波数特性を正確に測定することが非常に重要になっている。
【0004】
現在,O/EやE/Oデバイス(光電変換デバイス)の周波数特性を測定するには,アジレント社の光コンポーネントアナライザ(LCA)を用いることが一般的である(O.Funke,“The value of traceable S−parameter characterization of electro−optical components, ”EN−Genius Network, test & measurement ZONE, November 2008.)。LCAは,高周波(Radio Frequency, RF)用のネットワークアナライザと,周波数特性が校正されたE/OおよびO/Eデバイスを内蔵した光テストセットを組み合わせている。このため,LCAは,入出力がE/Eだけでなく,E/O,O/E,O/Oの全ての組み合わせについて校正された周波数特性が測定できる。ここで,「校正された周波数特性」は,そのデータが,米国標準技術研究所が管理している計量標準にトレーサブルであることを意味している。無変調連続波の光やRF信号のパワーは,カロリメータのような熱型検出器を用いてヒータの発熱と比較することで,電流・電圧の一次標準と結びつけられている。
【0005】
米国標準技術研究所(NIST)では,ヘテロダイン法に基づく光電変換の計量標準を定め,それを用いた校正サービスを提供している(P. D. Hale and C. M. Wang, “Calibration service of optoelectronic frequency response at 1319 nm for combined photodiode/RF power sensor transfer standards,” NIST Special Publication, 250−51, December 1999,下記非特許文献1)。ヘテロダイン法は,周波数差が確定した同一パワー/同一偏波の2光波を受光した場合,時間軸から見ると2光波の周波数差に等しい周波数で100%の強度変調がかかっていることを利用して,入力光パワーと出力RF信号パワーから変換効率を正確に計算できることに基礎を置いている。このような2光波を実現するために,NISTでは2台のLD励起Nd:YAGレーザに位相同期をかけて周波数差を確定させ,強度,偏光もそれぞれ自動制御された複雑なシステムを提案している。そして,NISTは,このシステムを用いた校正サービスを提供している。アジレント社はこのサービスを利用して自社内標準用PDを校正し,それを用いて市販測定器を校正している。
【0006】
ところで,LCAの測定精度を調べてみると,様々な条件下での値が列記されている(Agilent Technologies Inc., “N4373C 67 GHz Single−Mode Lightwave Component Analyzer for 40/100G electro−optical test,” Data Sheet, pp.8−11, Feb. 2008.)。このレポートによれば,意外なことにO/EおよびE/O変換効率の周波数応答特性測定における絶対的な不確実さは±2dB前後もある。一方で,測定の再現性(repeatability)は,0.7GHz以下の低周波域では±0.02dB程度,20GHz以上の高周波域でも±0.3dB程度と,10倍も優れている。また,E/Eの場合はRFネットワークアナライザの精度となり,やはり±0.2dB程度と高精度である。この理由として,RFネットワークアナライザは測定直前にユーザが校正キットを用いて校正することが前提となっているが,O/EやE/Oは測定器の校正サービスを依頼した時にのみ校正され,日常の測定前には校正できないため,と推測される。この場合,最後の校正から典型的には1年くらい時間が経ってしまうために,測定再現性に優れていても,絶対精度の維持は難しいと思われる。
【0007】
まず,光電変換標準が根拠とするヘテロダイン法の原理と,その光源に要求される特性について説明する。
【0008】
2光波の解析モデルを考える。2光波はそれぞれ,”+1”と“−1”と名付けられ,そのパワーや周波数差は,次のように定義されている。
【0009】
【数1】
【0010】
ここで,P
+1とP
−1は各光波のパワー,P
optは全光パワー,δは2光波のパワー差,ω
+1とω
−1は各光波の周波数,ω
RFはその周波数差である。このとき,瞬時光パワーは次式のように計算される。
【0011】
【数2】
【0012】
この光波を変換効率κのPDで2乗検波し直流をカットすると,RF電流となり,次のように計算される。
【0013】
【数3】
【0014】
このRF電流が50Ωの負荷で消費する平均電力は次式のように計算される。
【0015】
【数4】
【0016】
この(3)式と(4)式から変換効率κは,以下のようになる。
【0017】
【数5】
【0018】
もし,2光波のパワー差δが0の場合,変調度は100%となって変換効率κは以下のようになる。
【0019】
【数6】
【0020】
測定するのは光パワーとRFパワーのみであり,両者ともトレーサブルな測定が可能である。
【0021】
これまで説明したヘテロダイン法に用いられる光源には,次の4つの特性が要求される。すなわち,ヘテロダイン法は,以下の特性を満たす光源を被測定PDに入射して入射光強度Poptと出力RF信号強度P
RFから光電機変換効率を求める。
(1)2光波のみ。
(2)周波数差を任意のRF周波数に設定可能。
(3)2光波が同一偏波。
(4)2光波が同一強度。
【0022】
これらの条件のうち,(3)はヘテロダイン効率を100%とするために必要となる。
【0023】
先に列挙した特性を持つ光電変換標準用の光源を実現するために,LD励起Nd:YAGレーザを2台用いることが提案されている(非特許文献1)。
【0024】
この装置は,各レーザを個別に制御できるため,(1)2光波のみ,(3)同一偏波,(4)同一強度という条件を,比較的容易に実現できる。しかし,この装置は(2)任意の周波数差の設定が難しい。この装置では,光位相同期ループを組むことで(2)の条件を実現しているが,公称線幅がkHz程度と非常に狭いLD励起Nd:YAGレーザを使う必要があるため,校正波長が1319nmに限られる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下,光検出器システムについて説明する。
図1は,光検出器システムの構成を示すブロック図である。
図1に示されるように,この光検出器システムは,光源11と,光変調器12と,光検出器13と,制御装置18と,を含む。そして,光変調器12は,メインマッハツェンダー導波路14の両アームのそれぞれにサブマッハツェンダー導波路15,16を有する。また,制御装置18は,2トーン光に相当する光検出器13の周波数特性を解析して,解析した光検出器13の周波数特性に応じて,光検出器13が検出する光信号の検出値を校正するための校正部19を有する。
【0047】
本発明の光検出器システムは,光検出器の特性を評価し,評価した特性に基づいて校正を行うことができるシステムである。したがって,本発明の光検出器システムは,任意の光検出器を含むことができる。光検出器は,光情報通信において復号器として利用されるため,本発明の光検出器システムは,復号器として利用されうる。
【0048】
光源11は,光情報通信における信号であってもよい。なお,本発明の光検出器システムは,光検出器の特性を評価するので,光検出器の特性を評価する際の光源11は,実際に用いられる通信態様に応じた光源とすればよい。
【0049】
光変調器12は,メインマッハツェンダー導波路14の両アームのそれぞれにサブマッハツェンダー導波路15,16を有する。このような光変調器は,既に知られている。この光変調器の例は,特開2007−065240号公報に開示されたものである。
【0050】
図2は,光変調器の構成例を示す図である。
図2に示すように,この光変調器は,メインマッハツェンダー導波路28を有する。そして,メインマッハツェンダー導波路28は,光信号の入力部22と,光信号が分岐する分岐部23と,分岐部23から分岐した光信号が伝播する導波路である第1のアーム24及び第2のアーム25と,第1のアーム24及び第2のアーム25から出力される光信号が合波される合波部26と,前記合波部で合波された光信号が出力される光信号の出力部27とを含む。
【0051】
光変調器は,第1のアーム24に設けられ,第1の電極(電極A)31を具備する第1のサブマッハツェンダー導波路29を含む。また,光変調器は,第2のアーム25に設けられ,第2の電極(電極B)32を具備する第2のマッハツェンダー導波路30を含む。
【0052】
この光変調器の好ましい態様は,メインマッハツェンダー導波路28のうち,第1のサブマッハツェンダー導波路29の出力部と合波部との間の導波路の少なくとも一部に沿うように設けられた第1のメインマッハツェンダー用電極33aを有する。そして,この光変調器は,メインマッハツェンダー導波路28のうち,第2のマッハツェンダー導波路30の出力部と合波部との間の導波路の少なくとも一部に沿うように設けられた第2のメインマッハツェンダー用電極33bとを具備する。
【0053】
この態様の光変調器は,第1のサブマッハツェンダー導波路29からの出力信号と第2のマッハツェンダー導波路30からの出力信号に含まれる光搬送波信号又は特定の高次光信号の位相が180°ずれるように前記第1のメインマッハツェンダー用電極33a及び第2のメインマッハツェンダー用電極33bに印加される電圧を調整する制御部を具備する。これにより,この態様の光変調器は,DSB−SC変調を達成できる。
【0054】
この光変調器のさらに好ましい態様は,メインマッハツェンダー導波路28のうち,第1のサブマッハツェンダー導波路29の出力部と合波部との間の導波路の少なくとも一部に沿うように設けられた光強度補正機構51を有する。そして,この光変調器は,メインマッハツェンダー導波路28のうち,第2のマッハツェンダー導波路30の出力部と合波部との間の導波路の少なくとも一部に沿うように設けられた光強度補正機構52とを具備する。この光変調器は,光強度補正機構51,又は光強度補正機構52のいずれか又は両方を具備してもよい。
【0055】
そして,光強度補正機構51及び光強度補正機構52のいずれか又は両方は,出力部27から出力される光搬送波信号を抑圧するように第1のアーム24から合波部26へ進む光搬送波信号の強度と,第2のアーム25から合波部26へ進む光搬送波信号の強度を調整する。または,光強度補正機構51及び光強度補正機構52のいずれか又は両方は,出力部27から出力される特定の高次光信号を抑圧するように第1のアーム24から合波部26へ進む特定の高次光信号の強度と,第2のアーム25から合波部26へ進む特定の高次光信号の強度を調整する。
【0056】
このように高消光比を得られる光変調器12を用いて2トーン光を得ることで,強度のそろった2トーン光を得ることができる。このため,本発明の光検出器システムは,適切に光検出器の特性を校正できる。
【0057】
好ましい態様は,光変調器12が,搬送波抑圧両側波帯(DSB−SC)変調器12である。上記の光変調器を用いてDSB−SC信号を得ることで,強度がそろった2トーン光を得ることができる。これにより,簡便なシステムにより光検出器の特性を校正できることとなる。2トーン光とは,2つの周波数成分の強度が他の周波数成分の強度に比べて強い光信号を意味する。2トーン光の例は,DSB信号(好ましくは,搬送波が抑圧されたDSB−SC信号)である。
【0058】
光検出器13は,先に説明した通り,光情報通信において用いられる光の強度を検出する機器である。後述するように,本発明では,光検出器の周波数特性,偏光特性,波長応答特性などを評価できる。さらに,本発明では,評価した特性に基づいて,光検出器が測定した値を校正することができるシステムを提供できる。
【0059】
制御装置18は,光検出器13が検出した2トーン光に相当する光検出器13の周波数特性を解析する。すなわち,2トーン光の強度は本来同じである。一方,光検出器は,周波数によって感度が異なることがある。よって,本来同じ強度であるはずの2トーン光であっても,光検出器によっては,異なる強度を有するように測定する場合がある。制御装置18は,このような周波数応答性を評価する。
【0060】
制御装置は,入出力部と,制御部と,演算部と,記憶部とを有しており,各要素はバスなどで情報の授受を行うことができるようにされている。そして,情報が入力された場合は,制御部は,記憶部に記憶された制御プログラムを読み出す。そして,入力された情報と,記憶部に記憶された情報とを用いて,演算部に演算処理を行わせる。そして,得られた演算結果を記憶部に記憶するほか,出力部から出力する。
【0061】
制御装置18の好ましい例は,校正部19を有するものである。校正部19は,解析した光検出器13の周波数特性に応じて,光検出器13が検出する光信号の検出値を校正するための要素である。
【0062】
図3は,光検出器の特性校正方法の工程例を示すフローチャートである。
図3に示すように,まず,光源11からの出力光が光変調器12に入射する(ステップ101)。光変調器12から2トーン光が出力される(ステップ102)。2トーン光が光検出器13に入力される(ステップ103)。光検出器13が検出した2トーン光に関する情報が,制御装置18に入力される(ステップ104)。制御装置18が,例えば,2トーン光に相当する光検出器13の周波数特性を解析する(ステップ105)。そして,校正部19が,制御装置18が解析した光検出器13の周波数特性に応じて,光検出器13が検出する光信号の検出値を校正する(ステップ106)。
【0063】
光検出器システムは,先に説明したf
t1及びf
t2の例と同様に複数の周波数における光検出器の周波数特性を評価する。そして,それぞれの周波数における応答特性に応じた校正値を記憶部に記憶する。その上で,実際に光検出器を用いて検出を行う際には,実測した周波数値を用いて記憶部から校正値を読み出す。その上で,実測値と校正値とを乗算して,校正後の強度を求める。このようにすることで,広い範囲の周波数に対しても精度よく検出値を求めることができる。なお,周波数値が離散的である場合は,その間の校正値を線形補間すればよい。
【0064】
光源11から出力される光の中心周波数(f
O)を変化させる。そして,光源11から出力される光の中心周波数(f
O)を変化させることに伴う光2トーン信号に相当する周波数成分の強度の変化を評価する。これにより,光検出器13の波長特性を評価する。校正方法は,上記と同様である。
【0065】
2トーン信号の偏光を変化させてもよい。そして,2トーン信号の偏光を変化させることに伴う2トーン信号に相当する周波数成分の強度の変化を評価する。これにより,光検出器13の偏光特性を評価する。校正方法は,上記と同様である。すなわち,光検出器は,偏光状態をも把握する。または,制御装置に,入力信号の偏光状態に関する情報が入力される。そして,制御装置は,偏光状態に応じた校正値を記憶しておく。そして,実測の際には,偏光状態に関する情報に基づいて,校正値を読み出し,実測値と乗算することで校正後の検出値とする。
【0066】
第1のサブマッハツェンダー導波路15に第1の周波数(f
1)を有する変調信号を印加するとともに,第2のサブマッハツェンダー導波路16に第2の周波数(f
2)を有する変調信号を印加してもよい。そして,メインマッハツェンダー導波路に印加するバイアス電圧を,第1の周波数(f
1)及び第2の周波数(f
2)の和に相当する周波数(f
1+f
2)成分が抑圧されるように調整する。このようにすると,後述する実施例により実証された通り,強度のそろった良好な2トーン光を得ることができる。このため,この方法に従えば,適切に光検出器の特性を校正できる。
【0067】
2つのサブマッハツェンダー導波路15,16に第1の周波数の変調信号(f
1)を印加する。そして,メインマッハツェンダー導波路に第2の周波数の変調信号(f
2)を印加する。そして,メインマッハツェンダー導波路のバイアス電圧を,第1の周波数の変調信号(f
1)の2倍の周波数成分の光位相差が90度となり,第2の周波数の変調信号(f
2)の2倍の周波数成分の位相差が90度となるように制御する。このようにすると,後述する実施例により実証された通り,強度のそろった良好な2トーン光を得ることができる。このため,この方法に従えば,適切に光検出器の特性を校正できる。
【0068】
図4は,本発明のヘテロダイン検波用光源システムのブロック図である。
図4に示されるように,このシステムは,光源11と,光源11からの出力光が入射し,光源11から入射した光と変調信号とに応じた2トーン光を発生する光変調器12とを含む。そして,光変調器12は,マッハツェンダー導波路14を有する光変調器である。
図4中符号21は,光変調器12に変調信号を印加するための変調信号発生器を示す。また,符号22は,光変調器12にバイアス電圧を印加するためのバイアス電圧発生器を示す。符号23は,光検出器を示す。ここで,光検出器23が,周波数特性を校正する対象である光電変換デバイスであってもよい。そして,変調信号発生器21及びバイアス電圧発生器22は,後述する制御装置と接続されている。そして,制御装置からの制御指令に従って,光変調器に印加する電圧を変化させることができる。
【0069】
この光変調器12は,印加される変調信号(f
m)の強度がこの光変調器12の半波長電圧(Vπ)に対して,0.1倍以上2倍以下が好ましい。変換効率を重視してレーザや光増幅器で発生するノイズの影響を抑えるためには,印加される変調信号(f
m)の強度がこの光変調器12の半波長電圧(Vπ)に対して,1倍以上2倍以下が好ましい。したがって,たとえば,高い変換効率が必要であり,光増幅器を用いる系については,変調信号の強度が上記の範囲となるように制御することが好ましい。一方,不要なサイドバンドを抑えるためには,例えば印加される変調信号(f
m)の強度がこの光変調器12の半波長電圧(Vπ)に対して,1倍以下が好ましく0.3倍以下が更に好ましく,0.2倍以下でもよい。たとえば,2次成分や3次成分の強度が強い系では,このような範囲で制御することが好ましい。印加される変調信号(f
m)の強度がこの光変調器12の半波長電圧(Vπ)に対して,なお,変調信号の強度が強い場合,高次高調波といった不要光の強度がたなくなる。一方,変調信号の強度が弱い場合,信号強度も弱まり,S/N比が劣化するケースもある。そのような観点から,印加される変調信号(f
m)の強度がこの光変調器12の半波長電圧(Vπ)に対して,0.1倍以上1.6倍以下であってもよい。印加される変調信号の強度がこの光変調器12の半波長電圧(Vπ)に対して,1倍以上1.6倍以下であってもよいし,1.2倍以上1.6倍以下であってもよし,1.2倍以上1.5倍以下でもよい。たとえば,特許第3866082号公報には,MZ型光変調器のスペクトル分布から光変調器の半波長電圧や,チャープパラメータを求める発明が開示されている。よって,この公報に開示された技術を用いて,光変調器の半波長電圧(Vπ)を求めてもよい。また,WO2009−110039号パンフレットに開示された調整方法を適宜採用してもよい。
【0070】
光変調器12から出力される2トーン光は,光源11から入射した光の周波数をf
0とし,変調信号の周波数をf
mとした場合,f
0±nf
m(nは整数,例えば,n=1,2又は3)である。そして,光変調器12から出力されるf
0成分の強度は,f
0+f
m成分の強度に対して20dB以上抑圧される。このような条件のもとで光変調器を駆動することで,キャリア成分が抑圧され強度のそろった2トーン信号を得ることができる。
【0071】
光源の例は,連続光(CW)光源である。
【0072】
光変調器12は,マッハツェンダー導波路14を有している。そして,マッハツェンダー導波路14の分岐部は,電界制御Y分岐であるものが好ましい。電界制御Y分岐は,分岐部に電界を発生させることで,分岐比を変化させることができる。
【0073】
図5は,ヘテロダイン検波用光源システムの第2の実施態様を示すブロック図である。このヘテロダイン検波用光源システムは,光源11として波長可変光源を用いるものである。光源11として波長可変光源を用いることで,校正できる波長範囲を広げることができる。波長可変光源は公知である。よって,この態様では,公知の波長可変光源を適宜採用できる。
【0074】
図6は,ヘテロダイン検波用光源システムの第3の実施態様を示すブロック図である。この態様は,マッハツェンダー導波路14の一方のアームに,サブマッハツェンダー導波路15を有するものである。
図6に示すように,マッハツェンダー導波路14は,光源からの光が2つのアームに分岐する分岐点を有する。そして,分岐点における分岐比は,サブマッハツェンダー導波路15を有するアームの方が多くなるように設計されている。このように,光信号の分岐比を意図的に非対称することで,一方のアームに設けられたサブマッハツェンダー導波路15に印加されるバイアス電圧を調整することで,2つのアームの合波部におけるそれぞれのアームを伝搬する光の強度が等しくなるように調整できる。この態様は,好ましくはマッハツェンダー導波路14の分岐部及び合波部のいずれか又は両方に電界制御Y分岐導波路を有する。制御電界により,マッハツェンダー導波路14の両アームを伝搬する光信号の強度のアンバランスを容易に補正できる。一方のアームにサブマッハツェンダー導波路15を有するため,マッハツェンダー導波路14の両アームを伝搬する光信号の強度のアンバランスを容易に補正できる。
【0075】
サブマッハツェンダー導波路15が設けられるアームを第1のアームとし,サブマッハツェンダー導波路15が設けられないアームを第2のアームとした場合,分岐点の例は,光強度を10:1〜10:9(好ましくは3:2〜10:9)に分離するものがあげられる。
【0076】
図7は,ヘテロダイン検波用光源システムの第4の実施態様を示すブロック図である。この態様は,光変調器12が,マッハツェンダー導波路14の両アームのそれぞれにサブマッハツェンダー導波路15,16を有する,光変調器12である。このように両アームにブマッハツェンダー導波路15,16を有する,光変調器12は,構造が対照的なので比較的製造しやすい。このような光変調器は,たとえば国際公開WO2009−110039号パンフレットにも開示される通り公知である。光変調器12のマッハツェンダー導波路14の分岐部あるいは合波部,あるいは両者に電界制御Y分岐導波路を有するものが好ましい。制御電界により,マッハツェンダー導波路14の両アームを伝搬する光信号の強度のアンバランスを容易に補正できる。
【0077】
図8は,ヘテロダイン検波用光源システムの第5の実施態様を示すブロック図である。このヘテロダイン検波用光源システムの好ましい態様は,光変調器12から出力された光が入射する光検出器13と,光検出器13が検出した光の周波数特性を解析するための制御装置18と,をさらに含むものである。なお,この態様における光変調器12として本明細書において開示したあらゆる光変調器を採用できる。以下も同様である。そして,制御装置18は,光検出器13が検出した光に含まれるf
0成分及びf
0±nf
m(nは整数)成分の強度情報に基づいて,光変調器12のバイアス電圧源に対して,光変調器12に印加するバイアス電圧を変化させるための指令を出す,第1のバイアス調整手段を有する。
【0078】
図9に第5の実施態様におけるバイアス調整のためのフローチャートを示す。
図8に示される例では,まず,バイアス電源をONにして,光変調器12にバイアス電圧を印加し,掃引する。そして,光変調器12からの全光出力強度を測定する光検出器(光パワーメータ1)の検出値が最も小さい値となるように,バイアス電圧を設定する。これにより,光変調器12は搬送波が最も抑圧された,いわゆるヌルバイアス点で動作するように設定される。
【0079】
次に,変調信号源をONにして,光変調器12に変調信号(RF信号f
m)を印加する。一般に変調信号を印加するとヌルバイアス点は若干ずれてしまうため,再び光変調器2に印加するバイアス電圧を少し掃引し,光検出器(光パワーメータ2)の検出値が最も小さい値となるように,バイアス電圧を微調整する。ここで光パワーメータ2は,光変調器12からの出力の内,光バンドパスフィルタによって取り出された搬送波成分だけの光強度を測定している。これにより,光変調器12は正確にヌルバイアス点に設定され,搬送波抑圧両側帯波変調器として動作することになる。この状態で,全光強度(実はf
0±f
mが主で,他の成分は大きく抑圧されている。)を測定している光パワーメータ1の検出値と,搬送波のみの光強度を測定している光パワーメータ2の検出値から,搬送波抑圧比を計算し,例えば20dB以上であることを確認しておく。
【0080】
この状態で,光パワーメータ1の検出値から求めた全光強度P
opt,および被校正PDからの出力の内2f
mの成分だけをRFバンドパスフィルタで取り出しRFパワーメータで検出して求めたP
RFを用いて,校正係数を求める。校正係数は先に説明したとおりである。このため,このシステムは,光検出器が求めたP
opt及びP
RFをメモリに記憶し,演算処理の際にこれらの値をメモリから読み出して,κを求める演算プログラム又は演算回路に従って,κの値を求める。κを求める式の例は,先に説明した通りκ=(P
RF)
1/2/(5P
opt)である。
【0081】
こうして,2f
mにおける校正係数が求まると,適宜新たなf
mに関する校正係数を求めるべく,情報をシステムコントローラへ出力する。このシステムコントローラは,RF−BPFの透過領域を制御する他,光変調器の高周波信号(RF信号)源をも制御する。
【0082】
このシステムは,第1のバイアス調整手段を有するため,光変調器に印加されるバイアス電圧を自動で調整し,校正測定の際に高い搬送波抑圧比を保つことができる。また,このシステムは,変調信号の2倍の周波数について校正するため,特に高周波数における校正に有効である。高周波数の例は,ミリ波帯域である。一方で,この第1のバイアス調整手段は光バンドパスフィルタにより搬送波成分のみを分離できることを仮定しており,校正周波数が低く光バンドパスフィルタで搬送波成分(f
0)と変調波成分(f
0±nf
m)を分離できない場合(典型的には校正周波数が10GHz以下の場合)には正常に動作しない恐れがある。
【0083】
図10は,ヘテロダイン検波用光源システムの第6の実施態様を示すブロック図である。 この態様は,光変調器12から出力された光が入射する光検出器13と,光検出器13が検出した光の周波数特性を解析するための制御装置18と,をさらに含む。そして,制御装置18は,光検出器13が検出した光に含まれるf
m成分及び2f
m成分の強度情報に基づいて,光変調器12のバイアス電圧源に対して,光変調器12に印加するバイアス電圧を変化させるための指令を出す,第2のバイアス調整手段を有する。
【0084】
図11に第6の実施態様におけるバイアス調整のためのフローチャートを示す。
図10に示される例では,まず,バイアス電源をONにして,光変調器12にバイアス電圧を印加し,掃引する。そして,光変調器12からの全光出力強度を測定する光検出器(光パワーメータ)の検出値が最も小さい値となるように,バイアス電圧を設定する。これにより,光変調器12は搬送波が最も抑圧された,いわゆるヌルバイアス点で動作するように設定される。
【0085】
次に,変調信号源をONにして,光変調器12に変調信号(RF信号f
m)を印加する。一般に変調信号を印加するとヌルバイアス点は若干ずれてしまうため,再び光変調器2に印加するバイアス電圧を少し掃引し,高周波検出器(ディテクタ1)の検出値が最も小さい値となるように,バイアス電圧を微調整する。ここでディテクタ1は,被校正PDからの出力の内,ミキサとローパスフィルタによって取り出されたf
m成分の強度を測定しているが,これは光変調器12の出力光の成分の内,搬送波成分(f
0)と1次変調波成分(f
0±f
m)を2乗検波した出力であり,搬送波の強度を表す指標として用いている。これにより,光変調器12は正確にヌルバイアス点に設定され,搬送波抑圧両側帯波変調器として動作することになる。この状態で,搬送波成分(f
0)と1次変調波成分(f
0±f
m)を2乗検波した出力を測定しているディテクタ1の検出値と,1次変調波成分同士(f
0−f
mとf
0+f
m)を2乗検波した出力を測定しているディテクタ2の検出値から,搬送波抑圧比を計算し,例えば20dB以上であることを確認しておく。
【0086】
この状態で,光パワーメータの検出値から求めた全光強度P
opt,および被校正PDからの出力の内2f
mの成分だけを検出しているディテクタ2から求めたP
RFを用いて,校正係数を求める。校正係数は先に説明したとおりである。ここで,ディテクタ2は被校正PDの出力と,ダブラにより変調信号の周波数を2倍にした信号をミキサで乗算し,ローパスフィルタを透過させることで2f
mの成分だけを検出している。このため,このシステムは,各検出器が求めたP
opt及びP
RFをメモリに記憶し,演算処理の際にこれらの値をメモリから読み出して,κを求める演算プログラム又は演算回路に従って,κの値を求める。κを求める式の例は,先に説明した通りκ=(P
RF)
1/2/(5P
opt)である。
【0087】
こうして,2f
mにおける校正係数が求まると,適宜新たなf
mに関する校正係数を求めるべく,情報をシステムコントローラへ出力する。このシステムコントローラは,光変調器の高周波信号(RF信号)源を制御する。
【0088】
このシステムは,第2のバイアス調整手段を有するため,光変調器に印加されるバイアス電圧を自動で調整し,校正測定の際に高い搬送波抑圧比を保つことができる。また,このシステムは,光バンドパスフィルタを用いることなく,電気的な手段で搬送波と1次変調波成分を検出しており,校正周波数が低い場合に有効である。一方で,この第2のバイアス調整手段は変調周波数を2倍にするダブラが必要となり,その特性によって校正周波数の上限が制限される。
【0089】
図12は,ヘテロダイン検波用光源システムの第7の実施態様を示すブロック図である。
図13に第7の実施態様におけるバイアス調整のためのフローチャートを示す。
【0090】
図12に示される態様は,光変調器12から出力された光が入射する光検出器13と,光検出器13が検出した光の周波数特性を解析するための制御装置18とをさらに含む。そして,制御装置18は,第1のバイアス調整手段と,第2のバイアス調整手段を有する。このシステムは,ω
RFの大きさにより,第1のバイアス調整手段又は第2のバイアス調整手段を選択する手段を有する。
【0091】
このシステムは,第1のバイアス調整手段及び第2のバイアス調整手段を有する。このため,このシステムは校正する周波数領域に応じて,バイアス自動調整を第1のバイアス調整手段又は第2のバイアス調整手段に切り替えるようにすればよい。すると,このシステムは,低周波領域からミリ波帯領域までの広い周波数領域において校正を行うことができることとなる。
【0092】
図14は,ヘテロダイン検波用光源システムの第7の実施態様を示すブロック図である。 この例は,光変調器,光検出器,RFアンプ,1/2周波数分周器及びRFフィルタをリング状に接続したOEO(光電子発振器)を含む系を用いる。この構成では,光変調器12を変調する周波数の2倍の周波数が光検出器から出力されるため,1/2周波数分周器が用いられている。このRF信号を用いることで,測定対象である光検出器の出力に含まれる基本波及び2倍波成分を容易に検出でき,低周波を検出する際にもバイアス電圧を自動的に制御できる。この態様は,基本的には
図10に示される態様と同様にしてバイアス電圧を自動的に制御できる。
【0093】
図15は,ヘテロダイン検波用光源システムの第8の実施態様を示すブロック図である。 この例は,光変調器,光検出器,RFアンプ,1/2周波数分周器及びRFフィルタをリング状に接続したOEO(光電子発振器)を含む系を用いる。この構成では,光変調器12を変調する周波数の2倍の周波数が光検出器から出力されるため,1/2周波数分周器が用いられている。このRF信号を用いることで,測定対象である光検出器の出力に含まれる基本波及び2倍波成分を容易に検出でき,高精度な第2のバイアス制御手段を備えている。また,光バンドパスフィルタを用いた第1のバイアス調整手段も具備しており,校正する周波数領域に応じて適宜切り替えることで,低周波数領域からミリ波帯領域までの広い周波数領域において高精度にバイアス電圧を調整できる。この態様は,基本的には
図12に示される態様と同様にしてバイアス電圧を自動的に制御できる。
【実施例1】
【0094】
図16にマッハツェンダー(MZ)型光変調器を用いて光電変換標準を実現する方法を示す。MZ変調器をヌル点にバイアスして動作させ,シングルモード光源からの光をキャリア抑圧両側帯波(DSB−SC)モードで変調する。この際,光変調器に印加される変調信号の強度を,光変調器の半波長電圧に対して,0.1倍以上1.6倍以下なるように設定する。
【0095】
すると上側帯波(USB)と下側帯波(LSB)が主で,他の光波は抑圧された光スペクトルが実現できる。これら2光波の周波数差は変調周波数の2倍として任意に設定でき,高周波数帯の校正に有利である。入射偏波を基板のニオブ酸リチウム(LiNbO
3)の結晶軸に合わせておけば保存されるため,同一偏波も容易に実現できる。ただし,ヘテロダイン検波用の光源に要求される条件である(2光波の)「(4)同一強度」を保証する方法が難しい。特に校正周波数が低い場合,光学的な手段で2光波を分離することは困難で,各光波のパワーを独立に測定することができない。
【0096】
LN−MZ光変調器の動作特性は,理想的な2波干渉モデルによる解析結果と良く一致することが知られている。ここでは,
図16のような周波数ω
RFで発振しているCWのRF信号で駆動されたプッシュプル型MZ光変調器を考える。その解析モデルには,両アーム間の光パワーのアンバランス,バイアス位相差,チャープ,スキューという主要な4パラメータが全て含まれた,汎用性の高いモデルを採用する。添字”1”,“2”で,それぞれ上側アームおよび下側アームに関係した量を表すこととする。このとき,MZ光変調器からの出力電界振幅は,以下のように表すことができる。
【0097】
【数7】
【0098】
ここで,φ
B1,φ
B2,φ
Bはバイアス位相,ηは光パワーのアンバランス,φ
1,φ
2,φはスキュー,A
1,A
2,A,α
Aはチャープに関係したパラメータであり,次式で定義される。
【0099】
【数8】
【0100】
また,キャリア,USB,及びLSBに関する量はそれぞれ添字“0”,“+1”及び“−1”で識別することとし,それぞれのパワーを計算すると,以下のようになる。
【0101】
【数9】
【0102】
ここで,φ
B=π,すなわちMZ光変調器がヌル点にバイアスされている状態を考えると,以下のようになる。
【0103】
【数10】
【0104】
このとき,キャリアパワーP0は最小値をとり,またUSBとLSBのパワーP
+1とP
−1は等しくなっている。これは,3つのパラメータ,光パワーアンバランスη,チャープα
A,およびスキューφがどんな値であっても,理想的には,以下の3つの状態が等価であることを意味している。
・MZ光変調器がヌル点にバイアスされている。
・キャリアパワーは最小となる。
・USBとLSBのパワーに差がなくなる。
【0105】
そこで,光変調器に印加される変調信号の強度を,光変調器の半波長電圧に対して,0.1倍以上2倍以下となる条件のもとでは,理想的には,キャリアパワーをモニタして最小値となるようにバイアスを制御すれば,主要2光波であるUSBとLSBのパワーが等しくなることがわかる。
【0106】
実際の実験ではバイアス点を常にヌル点に設定しておくことは困難である。たとえ初期設定でヌル点に設定しても,LNのDCドリフト特性のために,時間とともに少しずつバイアス点がずれていってしまい,せいぜいキャリアある一定のレベル以下に抑えられていることが保証できる程度である。バイアス点がずれた場合には,スキューが残留しているとUSBとLSBに次式のようなパワー差が生じてしまう。
【0107】
スキューが未知の場合,パワー差δを小さくするにはキャリアパワーP
0を低く抑える必要がある。そこで,以下の実施例では,先に説明したバイアス自動調整機能を有する高消光比MZ光変調器を用いた。
図17にその構造を示す。この場合も,光変調器に印加される変調信号の強度を,光変調器の半波長電圧に対して0.1倍以上2倍以下となるように調整した。通常のMZ光変調器の上下両アームにサブMZを持ち,制御電圧DCV1およびV2により各アームの光パワーを外部から調整できる。通常のMZ光変調器では,入出力Y分岐の分岐比や各アームの損失などの製作誤差で光パワーアンバランスが決定され,キャリア抑圧比は20dB程度に限られてしまう。ところが,高消光比MZ干渉計ではV1とV2で両アームのパワーを高精度に一致させ,V3で位相を逆相に設定することで40dB以上の高いキャリア抑圧比を容易に得ることができる。その後,1時間程度の測定中に劣化しても30dB以上に維持できることを確認した。
【0108】
図18に高消光比MZ干渉計動作時の光スペクトルの一例を示す。LSBに対してキャリアが50.6dBも抑圧されていることがわかる。また,
図19にPDで2乗検波した後のRF信号スペクトルを示す。横軸の中心周波数30GHzに対してスパンは僅か10kHzであり,光位相同期ループを使わなくても,非常に純度の高いRF信号が得られていることがわかる。また,少々光ファイバを動かしても信号強度は変化せず,入射2光波が同一偏波状態と考えられることも確認している。
【0109】
表1に校正実験に用いた2種類のPDの主要諸元を示す。3dB帯域が20GHzおよび50GHzと大きく異なるPDを選定した。
図20に周波数応答特性の校正結果を示す。2種類のPDとも,仕様通りの3dB帯域を持つことが測定できている。一方,DC応答性の値を
図20中に点線で示している。実験ではUSBとLSBのパワー差の最悪値は0.18dBであった。また,この実験中,キャリアは少なくとも30dB以上抑圧されていた。この場合,USBとLSBのパワー差は最悪の場合でも0.001dB以内と計算される。ところが,測定に用いた光スペクトラムアナライザの光強度の測定確度は0.4dB程度しかなく,測定されたUSBとLSBのパワー差は測定器の誤差と考えられる。一般に,LN製のマッハツェンダー光変調器の動作は理論と良く一致することが知られており,USBとLSBの差は測定器の誤差以下の十分に小さいものに抑えられていると考えられる。
【表1】
【実施例2】
【0110】
DPMZMによる RF2トーン(Two−tone)
RoFシステム受信系の非線形特性評価のために,理想的なPDで検波した際にTwo−tone RF信号の発生を検討した。通常の強度変調器にTwo−tone信号を電気入力として加えると変調器自体の非線形性を含むRoF信号が発生する。ここでは,DPMZM(2つのマッハツェンダー干渉計を並列して有するマッハツェンダー干渉計)のサブMZにそれぞれ,別の周波数f1,f2のシングルトーン信号を加えて,PD出力では理想的なTwo−tone信号を得た。各サブMZでDSB−SC変調し,光のTwo−tone信号を発生させた。
【0111】
それぞれのMZ由来の2トーン信号をメインMZで合波させた。光回路は線形であるために,ここで新たな周波数成分は発生しない。光出力として変調周波数f1とf2のUSB,LSBをそれぞれ,計4つのスペクトル成分が得られた。PDでの2乗検波では2f1,2f2,f1+f2の2つのスペクトル成分が発生する。しかし,メインMZでの光位相(バイアス)を制御することで,f1+f2成分を抑圧し,2f1と2f2成分からなるTwo−tone信号を得た。メインMZのバイアス調整でf1のUSBとf2のLSBのビートとf2のUSBとf1のLSBのビートが逆相とすることができるというのが基本原理である。サブMZに印加された信号はそれぞれ二逓倍されるので,一般にQAMなどで変調された信号を入力した場合,PD出力では適切な変調信号とならないが,0-180度の間に限定して位相変調をした場合には,位相変化が2倍となり,PD出力で0-360度の範囲での位相変調信号となる。この原理を使うと,電気回路で発生困難な広帯域なFDMやOFDM信号の合成が期待できる。
【0112】
光源として,NEL NLK1554BTZ−A 80128 0deg 149.7mAを用いた。光源の出力は,11.67dBm(偏波コントローラの出力端)であった。偏波コントローラを経て,FSK変調器(T FSK1.5−10−P SN 182376)に入力した,光増幅器(EDFA(OPREL))及びバンドパスフィルタ(BPF 5nm(応用光電))を経て,PD(NEL KEPD 2525VPG)へ2トーン光を入力した。
【0113】
RF入力はローデアンドシュワルツSMF−100A2台で制御した。バイアス制御は応用光電E12069を用いて制御した。光スペクトル(PD入力点で)はANDO光スペクトルアナライザーで測定した。PD出力はアジレントE4448Aスペクトル測定装置を用いて測定した。
【0114】
以下のように測定を行った。まず,FSK変調器のバイアスを調整した。光スペクトルアナライザーで測定しつつバイアス調整を行った。
【0115】
第1のサブMZ(MZa)のバイアスをNullに設定した。この設定は,MZaのRF出力をONし,第2のサブMZ(MZb)のRF入力をOFFとした。次に,2次および0次サイドバンドが最小となるようにMZaのバイアスを調整した(0次はMZbからの成分を含むのでゼロにならない)。その後,MZbのバイアスをヌルに設定した。次に,MZa, MZbの両方にRFを入力し,2次サイドバンドが最小となるようにMZa, MZbのバイアスを調整した(RF同時入力による温度変化に対応)。その後,メインMZ(MZc)のバイアスを調整して,キャリアが最小とした。上記の手順を適宜繰り返した。
【0116】
RFペクトルアナライザーでPD出力をモニタし,f1+f2成分が最小となるように微調整した。主にMZcのバイアスを調整する。MZa, MZbバイアスも微調整に使うが,大きく変化させたときには,光ペクトルアナライザーで再度確認した。
【0117】
光ペクトルアナライザー調整で1次サイドバンドの強度が等しくなるようにRFパワーを調整した。さらに,RFペクトルアナライザーでも調整した。2f1と2f2成分が等しくなるように調整した。ただし,RFパワーを変えると,f1+f2成分の抑圧比も変動するので,バイアス電圧(主にMZc)も合わせた微調整を行った。f1として5.00GHz(27.47dBm 変調器入力点)をf2として5.01GHz(27.24dBm)を用いた。
【0118】
図21は,PD入力地点での光スペクトルを示す図面に替わるグラフである。
図22は,10GHz付近のRFスペクトルを示す。
図23は,20GHz付近のRFスペクトルを示す。
図24は,5GHz付近のRFスペクトルを示す。
【0119】
図22から,10GHz近辺で所望成分Two-toneが得られることが確認できた。不要成分f1+f2の抑圧比は30dB以上である。4倍波の20.00GHz,20.04GHzも発生している。基本波5GHz近辺は原理的には抑圧されるはずであるが,-60dBm程度発生している。
図23に示される所望成分(2倍波)に比べると10dB程度抑圧されていることがわかる。
【実施例3】
【0120】
光パワー:変調器出力 -2.97dBm,PD入力 6.45dBm,f1:5.00GHz(27.40dBm), f2:6.00GHz(27.49dBm)として実施例1と同様に実験を行った。
図25は,PD入力地点での光スペクトルを示す図面に替わるグラフである。
図26は,10GHz付近のRFスペクトルを示す。
図27は,5GHz付近のRFスペクトルを示す。
【0121】
この場合も良好な2トーン光を得ることができた。
【実施例4】
【0122】
実施例4 DPMZM(SSB様)によるRF Two-tone信号発生
ここでは,DPMZMのサブMZにそれぞれ,周波数f1のシングルトーン信号を90度位相差で加えて,さらに,メインMZには周波数f2のシングルトーン信号をPD出力では理想的なTwo-tone信号を得た。各サブMZでDSB-SC変調し,周波数2f1成分を発生させた。メインMZではさらに2f1+f2,2f1-f2成分が発生するが,バイアスを光位相差90度に設定すると,PD検波出力で2f1,2f2成分が抑圧され,2f1+f2,2f1-f2成分からなるTwo-tone信号となった。
【0123】
光源として,NEL NLK1554BTZ-A 80128 0deg 149.7mAを用いた。出力は,出力11.67dBm(偏波コントローラの出力端)であった。偏波コントローラを経て,FSK変調器(T FSK1.5-10-P SN 182376)に入力した。光増幅器(EDFA(OPREL))及びバンドパスフィルタ(BPF 5nm(応用光電))を経て,PD(NEL KEPD 2525VPG)へ入力した。
【0124】
RF入力はローデアンドシュワルツSMF-100A(サブMZM用)ハイブリッド経由で変調器へ印加した。ローデアンドシュワルツSMR-20(メインMZM用)を用いてメインMZMを駆動制御した。バイアス制御は応用光電E12069を用いて行った。光スペクトル(PD入力点で)は,ANDO光スペクトルアナライザーを用いて測定した。PD出力は,アジレントE4448Aでスペクトル測定した。
【0125】
上記と同様にFSK変調器のバイアスを調整した。サブMZMにRF信号を入力して,SSB動作条件に設定した。f1として,5.00GHz(21.51dBm MZa, 21.61dBm MZb)をサブMZに印加した。一方,f2として1GHz(15.26dBm MZc)をメインMZに印加した。
【0126】
図28は,PD入力地点での光スペクトルを示す図面に替わるグラフである。
図29は,10GHz付近のRFスペクトルを示す。
図29から,10GHz近辺で所望成分Two-toneが得られることが確認できた。不要成分2f1の抑圧比は10数dBであった。
【実施例5】
【0127】
次に,f1として,1.00GHz(22.79dBm MZa, 22.35dBm MZb)をサブMZに印加した。一方, f2として10.00GHz(14.13dBm MZc) をメインMZに印加した。
【0128】
図30は,PD入力地点での光スペクトルを示す図面に替わるグラフである。
図31は,10GHz付近のRFスペクトルを示す。
図32は,5GHz付近のRFスペクトルを示す。
図31から,10GHz近辺で所望成分Two-toneが得られることが確認できた。
【実施例6】
【0129】
次に,高消光比DSB−SC変調器を用いたPD周波数特性校正方法を実証した。実験系として,
図33に示される系を用いた。この系は,DPMZMを含む系である。すなわち,LDからの出力光をDSB−SC変調して,2光波を生成した。搬送波が打ち消された際に,2光波の強度は高い精度で一致していた。
図34に,このDSB−SC変調器からの出力信号の例を示す。図中,U1はUSBの1次成分を意味し,L1などはLSBの1次成分を意味する。Cは,搬送波を意味する。
図2に示す例では,搬送波成分が残留している。U1とL1の強度比は,0.12dB程度である。また,消光比は,54dBであった。
【0130】
この方式の誤差要因として,2光波のレベル差及び高調波成分の存在があげられる。消光比をη(イータ)とすると,レベル誤差の最悪値Δ(デルタ)は,Δ=20log
10(1−10
(η/20))となる。光検出器に求められる0.5dBを実現するためには,25dB以上の消光比が要求されることとなる。
【0131】
図35に,2光波のレベルと搬送波及び高調波の消光比の周波数特性測定結果を示す。
図35から,12GHz〜35GHzの周波数領域で,34dB以上の消光比を得ることができたことがわかる。すなわち,本発明によれば,簡便な装置により,周波数特性を校正できるシステムを提供できることがわかる。
【0132】
参考例
電界制御Y分岐型MZ干渉計
X-cutのLN基板上にDPMZ型のTi拡散導波路を作製,SiO2バッファ層を介してY分岐電極付きのCPW(コプラナハチョウガイド)電極を形成した。
図36(a)は,アクティブY分岐光強度トリマーを示す図である。このようないわゆるY分岐EOスイッチは,分岐比を制御できる。
図36(a)に示されるように,DC電極に印加されるDC電圧によって生成する電場を用いて分岐比を制御する。
図36(b)は,MZを有する光変調器を示す。DC電圧を制御することで,η(光パワーアンバランス)を制御でき,消光比を高めることができる。なお,この変調器の半波長電圧は3.2Vであった。
図37は,OOKシグナルの時間領域のスペクトルプロファイルを示す。
図38に,この装置を用いたDSB−SC変調の出力を示す。この例においても比較的良好なDSB−SC変調を達成できている。