(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記保持部材が、回転機構を備えた第3接続部材をさらに有して前記第2リンク部材の摺動方向に対して垂直な方向の軸線回りに回転可能である請求項2に記載の関節駆動装置。
【背景技術】
【0002】
怪我や高齢のために狭くなった関節の可動範囲を広げるために、関節回りの屈曲運動及び伸展運動を繰り返し行うというリハビリテーションが必要である。一般的に、関節のリハビリテーションは、設備が整った病院に通わないと適切に行うことは難しい。そのため、通院に要する費用や時間が負担となり、それが原因で数多くの人が、リハビリテーションを中途半端に行ってしまう。中途半端なリハビリテーションの結果、患部が完治しないままに通常の生活に復帰すると、怪我の再発や患部の関節の可動域が狭くなってしまう等、患部を悪化させてしまう。
【0003】
そこで、通院費用や通院時間軽減のため、自宅に居ながらにして行う在宅リハビリテーションが切望されている。しかしながら、在宅リハビリテーションには、(1)リハビリテーションを行うには大きな力が必要であり、長時間行う際には、リハビリテーションを行うパートナーに負担がかかる、(2)患者とパートナーとの両者の時間が必要なので、時間的な拘束が生じる、(3)専門でない人がリハビリテーションを行うと、患部の関節に対して不適切な負荷を与えて悪化させてしまう虞がある、という問題がある。
【0004】
ここで、上述した関節に対する不適切な負荷について、足首を例に、
図12及び
図13を参照しながら説明する。
図12及び
図13は、人の足首1の瞬間回転軸X1の変化を説明する概念図である。下腿部2の長手方向の軸線が紙面に対して平行に延びているとして、足首1の関節における紙面に対して垂直方向の回転軸X1回りに、下腿部2に対して足部3を回転させた場合を考える。人体の筋骨格構造は非常に複雑であるため、下腿部2に対する足部3の回転角に応じて回転軸X1の位置が変化する。従って、関節回りの屈曲運動及び伸展運動の回転軸X1は一定ではなく、下腿部2に対する足部3の回転角に応じた瞬間回転軸X1が存在する。
【0005】
さらに、
図12及び
図13は、紙面に対して垂直方向の回転軸回りに動きを固定した平面運動の場合であって、実際には、瞬間回転軸は、紙面に対して垂直方向以外の傾いた状態、すなわち空間的な配置にもなり得る。従って、リハビリテーションにおいて、関節回りの屈曲運動及び伸展運動を行う際に加わる外力が、姿勢に応じた関節の瞬間回転軸に関する純粋なモーメントでない場合、不適切な負荷を患部に与えてしまう。すなわち、リハビリテーションでは、関節回りのトルクのみを加え、それ以外の負荷は加えないことが望ましい。
【0006】
ところで、リハビリテーションを機械的に行うリハビリテーション装置等の関節駆動装置が公知である(特許文献1乃至5及び非特許文献1乃至5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4753138号公報
【特許文献2】特許4421304号公報
【特許文献3】特許4280438号公報
【特許文献4】特許3968416号公報
【特許文献5】特開2012−029787号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Developments of a Knee Motion Assist Mechanism for Wearable Robot with a Non-circular Gear and Grooved Cams, Mechanisms and Machine Science, Volume 3, Part 2, pp.69-76, 2012
【非特許文献2】Self-aligning exoskeleton axes through decoupling of joint rotations and translation, IEEE Transactions on Robotics, v 25, n 3, pp.628-633, 2009, Special Issue on Rehabilitation Robotics
【非特許文献3】Design of self-adjusting orthoses for rehabilitation, Proceedings of the IASTED International Conference on Robotics and Applications, pp.215-223, 2009
【非特許文献4】A new one-DOF fully parallel mechanism for modeling passive motion at the human tibiotalar joint, Journal of Biomechanics, v 42, n 10, pp.1403-1408, July 22, 2009
【非特許文献5】Ergonomic considerations for anthropomorphic wrist exoskeletons: A simulation study on the effects of joint misalignment, IEEE International Conference on Intelligent Robots and Systems, pp.4905-4910, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これに関し、特許文献1乃至3に記載されたリハビリテーション装置は、いずれも関節の瞬間回転軸を考慮したものではなく、従って、不適切な負荷を関節に与えてしまう。
【0010】
また、特許文献4に記載されたリハビリテーション装置は、下肢等の複数の部位を牽引することによって、より人体に対する不適切な負荷を軽減するようにしている。しかし、特許文献4に記載された装置は、非常に大型であり且つ高価である。また、特許文献5に記載された血栓症予防装置は、足裏と装置の揺動体の間に受動的に動くスライダ機構を設けることで足首の回転軸と装置の回転軸の位置の不一致に対応して足首の屈曲・伸展運動をモータにより行わせるものである。
【0011】
非特許文献1には、膝関節の運動支援のために、各個人の膝の動きに合わせて設計した非円形歯車と溝カムを用いて回転軸の位置の変化に対応する装置が開示されている。また、非特許文献2及び3には、足首の自由度より機構の自由度を多くした装置が開示されている。その結果、足首の回転軸と装置による外力の回転軸にずれが生じた場合に発生する負荷を低減するように、装置による回転軸が受動的に動くことで足首の回転軸の位置の変化に対応している。
【0012】
しかしながら、その他非特許文献4及び5に記載の装置も含め、上述のいずれの従来技術も関節の平面運動に対応するものがほとんどであり、3次元的な関節の瞬間回転軸の位置及び姿勢の変化に、軽量で小型且つ簡便な機構で対応するものではない。
【0013】
そこで本発明は、関節の瞬間回転軸の位置及び姿勢の変化に、軽量で小型且つ簡便な機構で対応可能な関節駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、関節に対して一方の側の人体の第1部位に取り付けられる回転駆動機構と、該回転駆動機構に取り付けられ、該回転駆動機構によって回転する第1リンク部材と、摺動機構を備えた第1接続部材を有し、該第1接続部材によって前記第1リンク部材に対して垂直な状態で該第1リンク部材に沿って受動的に摺動可能に接続された第2リンク部材と、前記関節に対して他方の側の人体の第2部位を保持する保持部材であって、摺動機構を備えた第2接続部材を有し、該第2接続部材によって該第2リンク部材に沿って受動的に摺動可能に接続された保持部材と、を具備し、前記回転駆動機構の回転に応じて、前記第1接続部材及び前記第2接続部材が受動的に摺動し、前記第2部位を前記第1部位に対して前記関節回りに回転させる関節駆動装置が提供される。
【0015】
すなわち、請求項1に記載の発明では、関節駆動装置にオルダム継手機構の原理を適用することによって、関節の回転軸(瞬間回転軸)の位置が変化したとしてもその変化に受動的に対応し、関節には力を伝達せずに関節回りのトルクのみを伝達することが可能となる。従って、関節に対して不適切な負荷を与えることなく、関節回りの屈曲運動及び伸展運動を繰り返すことができ、リハビリテーションを行うことが可能となる。また、当該関節駆動装置が、回転軸の位置の変化に対応できるということから、当該関節駆動装置の人体に対する取り付け位置を正確に決定する必要もない。従って、使用者の身長や体重、性別や年齢等に応じて装置の構成を変更する必要もない。さらに、当該関節駆動装置は、その機構と該機構が取り付けられる関節回りの人体とを1つの系と考え、その系の自由度が1となるように構成されている。従って、当該関節駆動装置は、回転駆動機構という1つのアクチュエータのみで駆動可能となる。すなわち、当該関節駆動装置は、回転駆動機構以外は受動的な機構で構成されていることから、部品及びセンサ等は最小限の数で構成可能である。従って、当該関節駆動装置は、非常に軽量で小型且つ簡便な機構である。
【0016】
また、請求項2に記載の発明によれば請求項1に記載の発明において、前記第1接続部材及び第2接続部材が、回転機構をさらに備えてそれぞれの摺動方向の軸線回りに受動的に回転可能である関節駆動装置が提供される。
【0017】
すなわち、請求項2に記載の発明では、関節駆動装置全体として、少なくとも5自由度の出力自由度を有するため、人体の第1部位に対する第2部位の相対的な姿勢の自由度が高い。従って、装置使用時において、関節に対する不適切な負荷が少ないという効果を奏する。
【0018】
また、請求項3に記載の発明によれば請求項2に記載の発明において、前記保持部材が、回転機構を備えた第3接続部材をさらに有して前記第2リンク部材の摺動方向に対して垂直な方向の軸線回りに回転可能である関節駆動装置が提供される。
【0019】
すなわち、請求項3に記載の発明では、関節駆動装置全体として、少なくとも6自由度の出力自由度を有するため、人体の第1部位に対する第2部位の相対的な姿勢の自由度が、請求項2に記載の発明と比較してより高くなる。従って、装置使用時において、請求項2に記載の発明と比較してより関節に対する負荷が少なくなるという効果を奏する。
【0020】
また、請求項4に記載の発明によれば請求項1乃至3のいずれか1つに記載の発明において、前記第1リンク部材及び前記第2リンク部材が湾曲している関節駆動装置が提供される。
【0021】
すなわち、請求項4に記載の発明では、第1リンク部材及び第2リンク部材が湾曲していることによって、関節駆動装置を装着した状態で、関節駆動装置が人体からの突出量を減少させることが可能となる。従って、関節駆動装置をより小型化することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
各請求項に記載の発明によれば、関節の瞬間回転軸の位置及び姿勢の変化に、軽量で小型且つ簡便な機構で対応可能になるという共通の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の関節駆動装置について、リハビリテーション装置を例に説明する。また、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0025】
図1は、本発明の第1実施形態による足首1のリハビリテーション装置10の機構図を含む概念図であり、
図2は、
図1に示された足において、足部3を爪先側に曲げた状態の概念図である。
【0026】
図1及び
図2を参照すると、本発明の第1実施形態による足首1のリハビリテーション装置10が、下腿部2に装着されている。リハビリテーション装置10は、回転駆動機構11と、第1リンク部材12と、第2リンク部材13と、保持部材14とを有している。
【0027】
回転駆動機構11は、伝動用のモータであり、その回転軸X0は紙面に対して垂直な方向である。第1リンク部材12及び第2リンク部材13は、直線状のロッドである。保持部材14は、使用者がその足部3を上から載せて足部3が自由に動かぬように固定し保持するプレート状の部材であり、リハビリテーション装置10によるトルクを足部3に伝達する役割を果たす。
【0028】
第1リンク部材12の一端は、回転駆動機構11に取り付けられ、回転駆動機構11の回転に応じて回転又は揺動するように構成されている。すなわち、回転駆動機構11と第1リンク部材12とは1自由度を有する能動的な回転対偶を構成する。
【0029】
第2リンク部材13は、一端に第1接続部材15を有する。第2リンク部材13は、第1接続部材15によって、第1リンク部材12に対して垂直な状態で第1リンク部材12に沿って摺動可能に接続されている。すなわち、第1リンク部材12と第2リンク部材13とは、1自由度を有する受動的な直進対偶を構成する。
【0030】
保持部材14は、その前方、すなわち爪先側に第2接続部材16を有する。保持部材14は、第2接続部材16によって、足部3を第2リンク部材13に対して所定の姿勢に保持しつつ該第2リンク部材13に沿って摺動可能に接続されている。すなわち、第2リンク部材13と保持部材14とは、1自由度を有する受動的な直進対偶を構成する。
【0031】
ここで、下腿部2に対する足部3の回転軸、すなわち足首1の関節における回転中心を回転軸X1とする。上述したように、回転軸X1は、下腿部2に対する足部3の回転角に応じてその位置が変化する瞬間回転軸X1である。瞬間回転軸X1と第2接続部材16とを結ぶ仮想リンクH1を考えると、瞬間回転軸X1と仮想リンクH1とは、1自由度を有する受動的な仮想回転対偶H0を構成する。本実施形態において、瞬間回転軸X1は、回転駆動機構11の回転軸X0と平行、すなわち紙面に対して垂直な方向とする。
【0032】
以上より、本発明の第1実施形態によるリハビリテーション装置10は、第1リンク部材12と第2リンク部材13と仮想リンクH1とを有し、これと下腿部2は同一平面上に軌道を有する平面4節リンク機構を構成する。
【0033】
次に、本発明の第1実施形態によるリハビリテーション装置10の動作について説明する。回転駆動機構11は、例えば、図示しない角度センサ等によってその回転角が測定され、角速度等が算出される。これらの値に基づき、
図1に示された制御装置50によって回転角及び角速度等が制御される。当然のことながら、制御装置50は、リハビリテーションを必要としない健常な人の関節の可動域を越えることのない可動限界の範囲内で、回転駆動機構11を制御する。この限界の可動域は、足首や手首等の部位による他、性別や年齢等に応じて定めてもよい。なお、制御装置50は、
図2以降の図においては省略されている。
【0034】
図1に示された足の状態から、リハビリテーション装置10を用いて
図2に示された足の状態、すなわち足部3を爪先側に曲げた状態に足首1を屈曲させる場合を考える。これは、怪我等によって足首1の爪先側の屈曲方向の可動域の限界が
図1に示された状態である場合に行われるリハビリテーションに相当する。
【0035】
制御装置50で制御された回転駆動機構11によって、第1リンク部材12を
図1及び
図2において反時計回りに回転させる。この回転運動によって、第2リンク部材13を介して、保持部材14さらには足部3、すなわち仮想リンクH1を瞬間回転軸X1回りに回転させる。ここで、上述したように、人体の筋骨格構造に起因し、瞬間回転軸X1の位置は、仮想リンクH1の回転と共に変位する。このとき、第1接続部材15が第1リンク部材12に対して受動的に摺動し、且つ、第2接続部材16が第2リンク部材13に対して受動的に摺動することによって、瞬間回転軸X1の変位に対して柔軟に対応することができる。その結果、瞬間回転軸X1に対して力が伝達されることなく、トルクのみが伝達される。
【0036】
従って、本発明の第1実施形態によるリハビリテーション装置10によれば、回転駆動機構11の回転運動を、回転駆動機構11から離れた位置に存在する瞬間回転軸X1に対して力を伝達させることなく、角速度比一定の瞬間回転軸X1回りの回転運動として伝達する運動伝達機構を実現することが可能となる。こうした機構は、次に説明するオルダム継手機構を利用している。
【0037】
図3は、オルダム継手機構を説明する図であり、
図4は、
図3に示されたオルダム継手機構の自由体図である。対偶Aは、能動的な回転対偶であり、当該対偶にトルクを入力する。対偶B及び対偶Cは受動的な直進対偶である。対偶Dは、受動的な回転対偶であり、対偶Aから入力されたトルクをモーメントとして出力する。当該機構と
図1及び
図2に示された本発明の第1実施形態によるリハビリテーション装置10とを比較すると、回転対偶Aは、回転駆動機構11に相当し、直進対偶Bは、第1リンク部材12と第2リンク部材13とが構成する直進対偶に相当し、直進対偶Cは、第2リンク部材13と保持部材14とが構成する直進対偶に相当し、回転対偶Dは、瞬間回転軸X1と仮想リンクH1とが構成する仮想回転対偶H0に相当する。
【0038】
図4に基づいて、各リンクにかかる力を求めると以下の式が成り立つ。x方向成分の力の釣り合いの式は、以下の式(1)乃至式(3)のようになる。
F
1x+F
2x=0 ・・・(1)
−F
2x+F
3x=0 ・・・(2)
−F
3x+F
4x=0 ・・・(3)
よって、以下の式(4)が成り立つ。
F
1x=−F
2x=−F
3x=−F
4x ・・・(4)
【0039】
y方向成分の力の釣り合いの式も同様に、以下の式(5)乃至式(7)のようになる。
F
1y+F
2y=0 ・・・(5)
−F
2y+F
3y=0 ・・・(6)
−F
3y+F
4y=0 ・・・(7)
よって、以下の式(8)が成り立つ。
F
1y=−F
2y=−F
3y=−F
4y ・・・(8)
【0040】
さらに、モーメントの釣り合いの式は、以下の式(9)乃至式(11)のようになる。
τ
1+τ
2=0 ・・・(9)
−τ
2+τ
3=0 ・・・(10)
−τ
3+τ
4=0 ・・・(11)
よって、以下の式(12)が成り立つ。
τ
1=−τ
2=−τ
3=−τ
4 ・・・(12)
【0041】
ここで、対偶B及び対偶Cは、受動的な直進対偶であるため、これらの運動方向には力を受けることはできない。そこで以下の式(13)及び式(14)が成り立つ。
F
2y=0 ・・・(13)
F
3x=0 ・・・(14)
式(4)及び式(8)並びに式(13)及び式(14)より、以下の式(15)及び式(16)が成り立つ。
F
1x=F
2x=F
3x=F
4x ・・・(15)
F
1y=F
2y=F
3y=F
4y ・・・(16)
【0042】
以上より、回転対偶Dに加わる力は0となり、回転対偶Dはモーメントの−τ
4のみ受けることが分かる。従って、
図1及び
図2に示されたオルダム継手機構によれば、回転対偶Aに入力されたトルクは、受動的な直進対偶B及び直進対偶Cを介すことによって、回転対偶Aから離れた位置に存在する回転対偶Dに対して伝達される。このとき、力は回転対偶Dに対して伝達されない。以上が、本発明の第1実施形態によるリハビリテーション装置10及び次に説明する第2実施形態によるリハビリテーション装置20が利用するオルダム継手機構の基本的構造である。
【0043】
上述したように、本発明の第1実施形態による足首のリハビリテーション装置10は平面4節リンク機構である。従って、回転駆動機構11の回転軸X0と足首1の関節における瞬間回転軸X1とが、平行、すなわち平面4節リンク機構の平面に対して垂直でない場合には、瞬間回転軸X1に対して不適切な負荷となる力が伝達される。そこで、本発明の第2実施形態によるリハビリテーション装置20では、両回転軸が平行でない場合、すなわち空間的な瞬間回転軸X2に対して力を伝達させない機構を実現する。これに関し、
図5を参照しながら関節代替機構について次に説明する。
【0044】
図5は、足を例に人体の関節部分をモデル化した関節代替機構4の機構図を含む概念図である。関節代替機構4は、関節の回転軸の変位、すなわち瞬間回転軸X2を再現するためクロスしている4節リンク機構5と、回転機構6及び回転機構7とを有している。4節リンク機構5において、リンク同士の交点が瞬間回転軸X2となる。瞬間回転軸X2回りの下腿部2に対するリンク8の回転角はθfで表される。また、回転機構6は、下腿部2の長手方向の軸線回りの回転θを再現し、回転機構7は、下腿部2の長手方向に垂直な方向の軸線回りの回転φを再現する。これに基づき、本発明の第2実施形態による足首のリハビリテーション装置20について説明する。
【0045】
図6は、本発明の第2実施形態による足首のリハビリテーション装置20の機構図を含む概念図であり、
図7は、
図6に示された足の状態を正面から見た概念図である。また、
図8は、本発明の第2実施形態による関節代替機構を含む足首のリハビリテーション装置20の関節代替機構4を含む斜視図であり、
図9は、本発明の第2実施形態による足首のリハビリテーション装置20の関節代替機構4を含む別の斜視図である。さらに、
図10は、本発明の第2実施形態による足首のリハビリテーション装置20の機構図である。なお、
図10には、各対偶に相当する部材又は仮想の要素の参照符号が付されている。
【0046】
図6及び
図7を参照すると、本発明の第2実施形態による足首1のリハビリテーション装置20が、下腿部2に装着されている。また、
図8及び
図9を参照すると、本発明の第2実施形態による関節代替機構を含む足首1のリハビリテーション装置20が、足首1の関節代替機構4に組み合わされて示されている。リハビリテーション装置20は、回転駆動機構21と、第1リンク部材22と、第2リンク部材23と、保持部材24とを有している。
【0047】
回転駆動機構21は、伝動用のモータであり、その回転軸X0は
図6の紙面に対して垂直な方向である。第1リンク部材22及び第2リンク部材23は、直線状のロッドである。保持部材24は、使用者がその足部3を上から載せて足部3が自由に動かぬように固定し保持するプレート状の部材であり、リハビリテーション装置20によるトルクを足部3に伝達する役割を果たす。
【0048】
第1リンク部材22の一端は、回転駆動機構21に取り付けられ、回転駆動機構21の回転に応じて回転又は揺動するように構成されている。すなわち、回転駆動機構21と第1リンク部材22とは1自由度を有する能動的な回転対偶を構成する。
【0049】
第2リンク部材23は、一端に第1接続部材25を有する。第2リンク部材23は、第1接続部材25によって、第1リンク部材22に対して垂直な状態で第1リンク部材22に沿って摺動可能であり、且つ、摺動方向の軸線回りに回転可能に接続されている。例えば、第1接続部材25は、ボールブッシュの構造を利用することによって、摺動機構と回転機構を同時に実現することが可能となる。従って、第1リンク部材22及び第2リンク部材23は、直進対偶と回転対偶との機能を併せ持つ、2自由度の受動的な円筒対偶を構成する。
【0050】
保持部材24は、その前方、すなわち爪先側に第2接続部材26及び第3接続部材27を有する。保持部材24及び第3接続部材27は、第2接続部材26によって、足部3を第2リンク部材23に対して所定の姿勢に保持しつつ該第2リンク部材23に沿って摺動可能であり、且つ、摺動方向の軸線回りに回転可能に接続されている。例えば、第2接続部材26は、ボールブッシュの構造を利用することによって、摺動機構と回転機構を同時に実現することが可能となる。従って、第2リンク部材23と保持部材24及び第3接続部材27とは、直進対偶と回転対偶との機能を併せ持つ、2自由度の受動的な円筒対偶を構成する。これら2つの円筒対偶によって、回転駆動機構21の回転軸X0と足首1の瞬間回転軸X2の位置及び姿勢のずれを補償し且つ力が伝達されることを防止している。
【0051】
また、保持部材24は、第3接続部材27によって、足部3を第2接続部材26に対して所定の姿勢に保持しつつ第2リンク部材23の摺動方向に対して垂直な方向の軸線回りに回転可能に接続されている。すなわち、保持部材24と第3接続部材27とは、1自由度を有する受動的な回転対偶を構成する。この回転対偶によって、回転駆動機構21の回転軸X0と足首1の瞬間回転軸X2のずれを補償している。
【0052】
ここで、下腿部2に対する足部3の回転軸X2、すなわち足首1の関節における回転中心を回転軸X2とする。上述したように、回転軸X2は、下腿部2に対する足部3の回転角に応じてその位置及び姿勢が空間的に変化する瞬間回転軸X2である。瞬間回転軸X2と第3接続部材27とを結ぶ仮想リンクH2を考えると、瞬間回転軸X2と仮想リンクH2とは、1自由度を有する受動的な仮想回転対偶H0を構成する。
【0053】
次に、本発明の第2実施形態によるリハビリテーション装置20の動作について説明するが、基本的な原理は、上述した本発明の第1実施形態によるリハビリテーション装置10と同様である。すなわち、回転駆動機構21は、例えば、図示しない角度センサ等によってその回転角が測定され、角速度等が算出される。これらの値に基づき、上述した制御装置50によって回転角及び角速度等が制御される。当然のことながら、制御装置50は、リハビリテーションを必要としない健常な人の関節の可動域を越えることのない可動限界の範囲内で、回転駆動機構21を制御する。この限界の可動域は、足首や手首等の部位による他、性別や年齢等に応じて定めてもよい。
【0054】
制御装置50で制御された回転駆動機構21によって、第1リンク部材22を回転させる。この回転運動によって、第2リンク部材23を介して、保持部材24さらには足部3、すなわち仮想リンクH2を瞬間回転軸X2回りに回転させる。ここで、上述したように、人体の筋骨格構造に起因し、瞬間回転軸X2の位置及び姿勢は変位する。しかし、この場合でも、第1接続部材25が第1リンク部材22に対して受動的に摺動且つ回転し、第2接続部材26が第2リンク部材23に対して受動的に摺動且つ回転し、第3接続部材27が第2接続部材26に対して受動的に回転することによって、瞬間回転軸X2の変位に対して柔軟に対応することができる。その結果、瞬間回転軸X2に対して力が伝達されることなく、トルクのみが伝達される。
【0055】
従って、本発明の第2実施形態によるリハビリテーション装置20によれば、回転駆動機構21の回転運動を、回転駆動機構21から離れた位置に存在する瞬間回転軸X2に対して力を伝達させることなく、角速度比一定の瞬間回転軸X2回りの回転運動として伝達する運動伝達機構を実現することが可能となる。すなわち、本発明の第2実施形態によるリハビリテーション装置20は、本発明の第1実施形態によるリハビリテーション装置10と同様に、オルダム継手機構の原理を利用している。さらに、本発明の第1実施形態によるリハビリテーション装置10が平面的な運動伝達機構であったのに対し、本発明の第2実施形態によるリハビリテーション装置20は、空間的な運動伝達機構であると言える。
【0056】
図11は、本発明の第2実施形態による足首のリハビリテーション装置20の動作によって足首1にかかる力と足首の角変位との関係を示す実験結果である。実験の際には、
図5に示されたモデルに基づき、
図8及び
図9に示されたリハビリテーション装置20を使用し、力センサ28によって負荷を測定した。
【0057】
実験では、
図5に示された角度θ、φ及びθf、さらにリハビリテーション装置20が足首を動かす際に必要なトルクNの4つの条件を設定して測定する。上述したように、θは下腿部2の長手方向の軸線回りの回転角であり、爪先が正面を向いた状態を0とする。また、φは下腿部2の長手方向に垂直な方向の軸線回りの回転角であり、足部3がその支持面(保持部材24)に直立した状態を0とする。θfは、4節リンク機構5の存在する平面上にある所定の直線と、瞬間回転軸X2を形成するリンク交点を構成するリンク8との成す角であり、足首1の屈曲運動及び伸展運動の程度を示す指標とする。
【0058】
図11を参照すると、横軸はθfであり、縦軸は力センサ28によって測定された関節代替機構4にかかる負荷を示す。実線で示された測定結果K1は、θ=0度、φ=38.9度、N=16Nmの場合であり、破線で示された測定結果K2は、θ=0度、φ=38.9度、N=12Nmの場合であり、一点鎖線で示された測定結果K3は、θ=0度、φ=21,5度、N=12Nmの場合である。
【0059】
図11から明らかなように、本発明の第2実施形態によるリハビリテーション装置20によれば、θfの値、すなわち足首の屈曲運動及び伸展運動の程度や、φの値、すなわち足首の姿勢や、足首を動かす際に必要なトルクNの大きさに拘わらず、足首にはほぼ一定の力が加わっているものの変動が少ない。変動が少ないということは、このほぼ一定の力は当該装置の自重や摩擦等であって、本発明の第2実施形態によるリハビリテーション装置20の動作に起因する足首への負荷は非常に少ないと言える。従って、本発明の第2実施形態によるリハビリテーション装置20の有効性が実験によって立証された。
【0060】
本発明によるリハビリテーション装置を用いたリハビリテーション法の一例として、可動域付近までは患者が自分で患部を動かし、可動域付近になると装置が力を出すような手順を行うことが挙げられる。それによれば、装置がトルクを出力する範囲は少なくて済み、静止状態と変わらないとみなすことができる。
【0061】
上述した本発明の各実施形態による足首のリハビリテーション装置によれば、以下の効果を奏する。すなわち、リハビリテーション装置にオルダム継手機構の原理を適用することによって、瞬間回転軸の位置及び姿勢が変化したとしてもその変化に受動的に対応し、足首には力を伝達せずに足首回りのトルクのみを伝達することが可能となる。従って、足首に対して不適切な負荷を与えることなく、足首回りの屈曲運動及び伸展運動を繰り返すことができ、リハビリテーションを行うことが可能となる。また、当該リハビリテーション装置が、瞬間回転軸の位置の変化に対応できるということは、当該リハビリテーション装置の人体に対する取り付け位置を正確に決定する必要もない。従って、使用者の身長や体重、性別や年齢等に応じて装置の構成を変更する必要もない。さらに、当該リハビリテーション装置は、その機構と該機構が取り付けられる足首回りの人体とを1つの系と考え、その系の自由度が1となるように構成されている。従って、当該リハビリテーション装置は、回転駆動機構という1つのアクチュエータのみで駆動可能となる。すなわち、当該リハビリテーション装置は、回転駆動機構以外は受動的な機構で構成されていることから、部品及びセンサ等は最小限の数で構成可能である。従って、当該リハビリテーション装置は、非常に軽量で小型且つ簡便な機構である。
【0062】
さらに、本発明の第1実施形態によるリハビリテーション装置10の装置全体の自由度が3であるのに比べて、本発明の第2実施形態によるリハビリテーション装置20の装置全体の自由度は、6である。従って、本発明の第2実施形態によるリハビリテーション装置20は、下腿部2に対する足部3の相対的な姿勢の自由度がより高く、装置使用時において、足首1に対する不適切な負荷がより少ないという効果を奏する。
【0063】
なお、装置の簡略化及び軽量化のため、本発明の第2実施形態によるリハビリテーション装置20における第3接続部材27を省略してもよい。この場合、装置全体の自由度は5となる。
【0064】
さらに、各実施形態において、第1リンク部材及び第2リンク部材を直線状のロッドに代えて、湾曲した形状であってもよい。この場合、第1リンク部材及び第2リンク部材に関する接続構造に関する記載において、「垂直」なる語は、その接続部の接線を基準に考えてもよい。第1リンク部材及び第2リンク部材が湾曲していることによって、リハビリテーション装置を装着した状態で、リハビリテーション装置が人体からの突出量を減少させることが可能となる。従って、リハビリテーション装置をより小型化することが可能となる。
【0065】
本発明によるリハビリテーション装置は、上述した足首以外にも、膝、肘、手首、指、首等その他の関節のリハビリテーションに対しても適用可能である。その場合、保持部材はその部位に適した形状に置き換えられることは言うまでもない。例えば、上述したプレート状の部材ではなく、バンド等で拘束するようにしてもよい。
【0066】
また、本発明によるリハビリテーション装置は、回転駆動機構を関節に対して近位側、すなわち胴体に近い側に取り付けることが望ましい。しかしながら、取り付け部位やリハビリテーション装置自体の形状によっては、回転駆動機構を関節に対して遠位側、すなわち胴体から遠い側に取り付けてもよい。
【0067】
以上、本発明の関節駆動装置について、リハビリテーション装置を例に説明してきた。しかしながら、本発明の関節駆動装置を、自己の筋肉による能力以上の走行や跳躍又は運搬等が可能となるように構成してもよい。すなわち、強力な伝動用のモータを使用することによって、関節に対する不適切な負荷を抑えつつ、より速く走行し、より高く跳躍し、又は、より重い物を持ち上げることが可能となる。