【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の結晶質半導体の製造方法のうち、第1の本発明は、異なる経路で導波される複数のパルスレーザ光を非晶質半導体に照射して前記非晶質半導体を結晶化する結晶質半導体の製造方法であって、
前記複数のパルスレーザ光は、
前記非晶質半導体上に同じエネルギー密度で照射され、時間的強度変化において1パルスに、少なくとも、1番目のピーク群と、その後に現れる2番目のピーク群とを有し、かつ前記1番目のピーク群における最大ピーク強度が前記1パルスにおける最大高さになっており、
前記1番目のピーク群の前記最大ピーク強度aと、前記2番目のピーク群の最大ピーク強度bとの比b/aを最大ピーク強度比とし、
予め定めた基準となる前記最大ピーク強度比を基準最大ピーク強度比として、前記複数のパルスレーザ光の前記最大ピーク強度比が、前記基準最大ピーク強度比に対し4%以下の差にな
り、かつ
前記複数のパルスレーザ光は、各パルスレーザ光のいずれの間においても、一方の前記パルスレーザ光の最大ピーク強度比を基準として、他方の前記パルスレーザ光の最大ピーク強度比が前記基準に対し、4%以下の差になっていることを特徴とす
る。
【0009】
第2の本発明の結晶質半導体の製造方法は、前記第1の本発明において、前記複数のパルスレーザ光が、前記非晶質半導体上で、互いに異なるパルス発生タイミングで照射されることを特徴とする。
【0010】
第3の本発明の結晶質半導体の製造方法は、前記第1または第2の本発明において、前記複数のパルスレーザ光が、複数のレーザ光源から出力されたものであることを特徴とする。
【0012】
第
4の本発明の結晶質半導体の製造方法は、前記第1〜第
3の本発明のいずれかにおいて、 前記複数のパルスレーザ光における前記最大ピーク強度比は、予め設定された所定範囲内にあることを特徴とする。
【0015】
第
5の本発明の結晶質半導体の製造方法は、前記第1〜第
4の本発明のいずれかにおいて、前記非晶質半導体が、基板上に形成されたアモルファスシリコン薄膜であることを特徴とする。
【0016】
第
6の本発明の結晶質半導体の製造装置は、1つまたは2つ以上のレーザ光源と、前記レーザ光源から出力され、時間的強度変化において1パルスに、少なくとも、1番目のピーク群と、その後に現れる2番目のピーク群とを有し、前記1番目のピーク群における最大ピーク強度が前記1パルスにおける最大高さであり、異なる経路で導波される複数のパルスレーザ光を非晶質半導体に導く光学系と、を有し、前記複数のパルスレーザ光は、
前記非晶質半導体上に同じエネルギー密度で照射され、それぞれのパルスレーザ光で前記1番目のピーク群の前記最大ピーク強度aと、前記2番目のピーク群の最大ピーク強度bとの比b/aを最大ピーク強度比を最大ピーク強度比として、
予め定めた基準となる前記最大ピーク強度比を基準最大ピーク強度比
とし、前記最大ピーク強度比が、前記基準最大ピーク強度比に対し4%以下の差にな
り、かつ前記複数のパルスレーザ光は、各パルスレーザ光のいずれの間においても、一方の前記パルスレーザ光の最大ピーク強度比を基準として、他方の前記パルスレーザ光の最大ピーク強度比が前記基準に対し、4%以下の差になるように設定されていることを特徴とする。
【0017】
第
7の本発明の結晶質半導体の製造装置は、前記第
6の本発明において、前記複数のパルスレーザ光が、異なるパルス発生タイミングを有して前記非晶質半導体に照射されるものであることを特徴とする。
【0018】
第
8の本発明の結晶質半導体の製造装置は、前記第
6または第7の本発明において、前記異なるパルス発生タイミングは、前記レーザ光源または/および前記光学系で与えられていることを特徴とする。
【0019】
第
9の本発明の結晶質半導体の製造装置は、前記第
6〜第8の本発明のいずれかにおいて、前記レーザ光源から出力される前記最大ピーク強度比を調整するピーク強度比調整部を備えることを特徴とする。
【0020】
第
10の本発明の結晶質半導体の製造装置は、前記第
6〜第9の本発明のいずれかにおいて、前記複数のパルスレーザ光を同じエネルギー密度で前記非晶質半導体に照射するため前記エネルギー密度を設定するエネルギー密度設定部を備えることを特徴とする。
【0021】
第
11の本発明の結晶質半導体の製造装置は、前記第
6〜第10の本発明のいずれかにおいて、前記複数のパルスレーザ光を前記非晶質半導体に対し相対的に走査して照射する走査装置を有することを特徴とする。
【0022】
本発明では、異なる経路を導波される複数のパルスレーザ光を非晶質半導体に照射して前記非晶質半導体を結晶化する際に、各パルスレーザ光が、時間的強度変化において1パルスに、1番目のピーク群と、その後に現れる2番目のピーク群とを含む複数のピーク群を有し、1番目のピーク群における最大ピーク強度が1パルスにおける最大高さになっている。なお、本発明としては、1パルスにピーク群が3つ以上現れるものであってもよい。
【0023】
パルスレーザ光におけるピーク群とは、1パルス中で時間的に近接して現れる1つまたは複数のピークがまとまったものであって、一パルスには、少なくとも二つのピーク群が現れる。ピーク群間には、エネルギー強度の極小値が存在する。
【0024】
複数のパルスレーザ光は、複数のレーザ光源から出力されたものでも、1つのレーザ光源から出力されて分波されたものでもよく、また、これらが組み合わされたものであってもよい。複数のパルスレーザ光が導波される経路は、光源、光学系を含めて少なくとも一部が異なっていればよく、共通経路を有することは除外されない。
【0025】
2nd/1st最大ピーク強度比が異なると、非晶質半導体の結晶化に最適な照射エネルギー密度が異なることは本願発明者らの研究により明らかにされている。
図6〜
図8は、2nd/1st最大ピーク強度比が18.2%、23.0%、および26.2%である場合のそれぞれについて、異なるエネルギー密度のパルスレーザ光の照射によりアモルファスシリコン薄膜を結晶化して得られた多結晶シリコン薄膜のムラモニターの写真(コントラストの強調処理)を示している。これらから最適とするエネルギー密度がずれていることを確認できる。
【0026】
図6に示すように、2nd/1st最大ピーク強度比が18.2%である場合、照射エネルギー密度430mJ/cm
2、440mJ/cm
2、および450mJ/cm
2のうち、440mJ/cm
2で最もムラが少ない多結晶シリコン薄膜表面が得られ、440mJ/cm
2が最適な照射エネルギー密度であることが分かる。
また、
図7に示すように、2nd/1st最大ピーク強度比が23.0%である場合、照射エネルギー密度440mJ/cm
2、450mJ/cm
2、および460mJ/cm
2のうち、450mJ/cm
2で最もムラが少ない多結晶シリコン薄膜表面が得られ、450mJ/cm
2が最適な照射エネルギー密度であることが分かる。
さらに、
図8に示すように、2nd/1st最大ピーク強度比が26.2%である場合、照射エネルギー密度450mJ/cm
2、460mJ/cm
2、および470mJ/cm
2のうち、460mJ/cm
2で最もムラが少ない多結晶シリコン薄膜表面が得られ、460mJ/cm
2が最適な照射エネルギー密度であることが分かる。
【0027】
なお、結晶シリコン膜の照射ムラ評価は以下の方法によって行った。
結晶シリコン膜に検査光をそれぞれの例で5地点に照射し、それぞれ反射光を受光してカラー画像を取得し、カラー画像の色成分を検出し、検出された色成分に基づいてカラー画像をモノクロ化した。次いで、モノクロ化された画像のデータをコンボリューションして画像濃淡を強調した画像データを取得し、表面ムラを評価した。
モノクロ化は、検出がされた色成分のうち、主となる色成分を用いて行うことができ、主となる色成分は、光分布が他の色成分よりも相対的に大きい色成分とすることができる。
モノクロ化した画像データは、レーザのビーム方向を行、レーザの走査方向を列とする行列データで示し、コンボリューションでは、所定係数の行列をモノクロ化された画像のデータの行列に掛け合わせることによって行った。
所定係数の行列は、ビーム方向を強調するものと、スキャン方向を強調するものとをそれぞれ用いてビーム方向の画像濃淡を強調した画像データとスキャン方向の画像濃淡を強調した画像データとをそれぞれムラモニターとして取得した。
具体的には、以下のコンボリューションを行った。なお、所定係数の行列が下記に限定されるものではない。
【0028】
【数1】
【0029】
図9に示すグラフは、上記のようにして得られた最適なエネルギー密度と2nd/1st最大ピーク強度比とを対応付けて示したものである。なお、グラフには、上記で説明した測定結果以外も図示されている。
図9に示すグラフから明らかなように、2nd/1st最大ピーク強度比が増加するに従って、結晶化に最適な照射エネルギー密度も増加することが分かる。
【0030】
上述のように、2nd/1st最大ピーク強度比が異なれば、非晶質半導体の結晶化に最適な照射エネルギー密度も異なってくる。
そこで、本発明では、前記1番目のピーク群の前記最大ピーク強度aと、前記2番目のピーク群の最大ピーク強度bとの比b/aを最大ピーク強度比とし、基準となる前記最大ピーク強度比を基準最大ピーク強度比として、前記複数のパルスレーザ光の前記最大ピーク強度比が、前記基準最大ピーク強度比に対し4%以下の差になるようにしている。
【0031】
前記最大ピーク強度比は、レーザ光源から出力された後に調整することは難しく、通常は、レーザ光源の出力時に設定される。最大ピーク強度比の設定は、レーザ光源の出力調整、出力回路の設定、媒質であるガスの混合比の調整などにより行うことができる。
【0032】
また、基準最大ピーク強度比は、複数のパルスレーザ光のうちのいずれか一のパルスレーザ光における初期の最大ピーク強度比を使用したり、実験的に予め定めておいたりすることができる。また、直前の照射におけるパルスレーザ光の最大ピーク強度比を基準最大ピーク強度比に設定してもよい。さらには、複数の任意のパルスレーザ光間で、一方のパルスレーザ光の最大ピーク強度比を基準最大ピーク強度比として、この基準最大ピーク強度比に対し他方のパルスレーザ光における最大ピーク強度比が4%以下の差になるようにしてもよい。
【0033】
上記のように、最大ピーク強度比を、基準最大ピーク強度比に対し、差が4%以下になるようにするのは、次の理由による、
図10に示すように、エネルギー密度は、一パルスにおいて、第1ピーク群におけるエネルギー強度の時間積分と第2ピーク群におけるエネルギー強度の時間積分の和によって示すことができる。また、同一基板上では、非晶質半導体の結晶化に最適となるエネルギー密度は一定である。その最適エネルギー密度は、レーザパルス波形、具体的には最大ピーク強度比に影響されている。パルス波形の面積は、エネルギー密度を意味する。最適エネルギー密度は、通常のアモルファスシリコン薄膜において、10mJ/cm
2程度の許容幅(OED範囲:最適エネルギー密度範囲)を有する。この許容幅内であれば、レーザ処理による結晶化は同等に行われる。その許容幅を満たすため、最大ピーク強度比の差は4%以内とすることが必要になる。そのため、上記差を4%以下とした。
【0034】
例えば、ピーク強度の単位を任意単位として、2nd/1st最大ピーク強度比が18.2%である場合、1番目のピーク群における最大ピーク強度が相対数値で100、2番目のピーク群における最大ピーク強度が同じく18.2であると、最適エネルギー密度は439.5mJ/cm
2となる。2nd/1st最大ピーク強度比が23.1%である場合、1番目のピーク群における最大ピーク強度が相対数値で93、2番目のピーク群における最大ピーク強度が21.5であると、最適エネルギー密度は451.3mJ/cm
2となる。2nd/1st最大ピーク強度比が26.2%である場合、1番目のピーク群における最大ピーク強度が相対数値で89、2番目のピーク群における最大ピーク強度が23.5であると、最適エネルギー密度は459.2mJ/cm
2となる。
これらの関係から最小二乗法による一次回帰を行うと、
図9に示す線形Aが得られる。この線形Aに基づくと、例えば、2nd/1st最大ピーク強度比が22.4%である場合を見ると、最適エネルギー密度の幅(10mJ/cm
2)は、455mJ/cm
2〜445mJ/cm
2の範囲内にある。最適エネルギー密度445mJ/cm
2に対応する2nd/1st最大ピーク強度比は20.44%で、最適エネルギー密度455mJ/cm
2に対応する2nd/1st最大ピーク強度比が24.49%である。この幅を最大ピーク強度比の差で表すと、24.49%−20.44%=4.05%となる。したがって、最大ピーク強度比の差を4%以下にすれば、最適エネルギー密度における許容範囲内に収めることができる。
【0035】
また、複数のパルスレーザ光は、互いに異なるパルス発生タイミングで非晶質半導体に照射され、単位時間当たりに非晶質半導体に照射されるパルス数を増加させることができ、また、擬似的にパルス幅を大きくすることができる。
互いに異なるパルス発生タイミングは、レーザ光源での出力時に得られていてもよく、また、経路途中で位相差が与えられて得られるものであってもよい。分波により位相差を与えることができるが、パルスレーザ光の分波もその手段が特に限定されるものではなく、ビームスプリッタなどを適宜用いることができる。
異なるパルス発生タイミングで非晶質半導体でパルスレーザ光が照射される際に、パルスが互いに重ならないようにしてもよく、また、パルスの一部が重なるようにしてもよい。
【0036】
また、パルスレーザ光の経路には、パルスレーザ光の透過率を調整可能な可変減衰器を設けることができる。可変減衰器により、パルスレーザ光を所望のエネルギー密度で非晶質半導体に照射することができ、さらに、共通するエネルギー密度で複数のパルスレーザ光を非晶質半導体に照射することができる。
なお、パルスレーザ光のエネルギー密度は、パルスレーザ光源の出力の制御と、上記可変減衰器の一方または両方により行うことができる。