特許第5904618号(P5904618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京都府公立大学法人の特許一覧 ▶ 倉敷紡績株式会社の特許一覧

特許5904618アトピー性皮膚炎抑制用繊維の使用方法及びアトピー性皮膚炎抑制用繊維
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5904618
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】アトピー性皮膚炎抑制用繊維の使用方法及びアトピー性皮膚炎抑制用繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/292 20060101AFI20160331BHJP
   A41B 9/12 20060101ALI20160331BHJP
   A61F 13/00 20060101ALI20160331BHJP
   A41B 17/00 20060101ALI20160331BHJP
   D06M 101/06 20060101ALN20160331BHJP
【FI】
   D06M13/292
   A41B9/12 Z
   A61F13/00 Z
   A41B17/00 Z
   D06M101:06
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-558572(P2014-558572)
(86)(22)【出願日】2014年1月21日
(86)【国際出願番号】JP2014051085
(87)【国際公開番号】WO2014115715
(87)【国際公開日】20140731
【審査請求日】2015年6月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-12172(P2013-12172)
(32)【優先日】2013年1月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 孔志
(72)【発明者】
【氏名】大島 邦裕
(72)【発明者】
【氏名】勝圓 進
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−149360(JP,A)
【文献】 特開2007−254910(JP,A)
【文献】 特開平03−024178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/292
A41B 9/12
A41B 17/00
A61F 13/00
D06M 101/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アトピー性皮膚炎抑制用繊維の使用方法であって、
前記アトピー性皮膚炎抑制用繊維は、繊維にリン酸基を含む化合物が化学結合により固定されている繊維であり、前記リン酸基を含む化合物は、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム及びリン酸リチウムからなる群から選ばれる一種以上であり、
前記アトピー性皮膚炎抑制用繊維を皮膚に接触するように配置してアトピー性皮膚炎を抑制することを特徴とするアトピー性皮膚炎抑制用繊維の使用方法。
【請求項2】
前記繊維が、セルロース繊維を含む請求項1に記載のアトピー性皮膚炎抑制用繊維の使用方法。
【請求項3】
アトピー性皮膚炎における(1)発赤・出血(2)痂皮形成・乾燥(3)浮腫及び(4)擦傷・組織欠損からなる群から選ばれる少なくとも一つの症状を抑制する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
アトピー性皮膚炎抑制用繊維であって、
前記アトピー性皮膚炎抑制用繊維は、繊維にリン酸基を含む化合物が化学結合により固定されている繊維であり、前記リン酸基を含む化合物は、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム及びリン酸リチウムからなる群から選ばれる一種以上であることを特徴とするアトピー性皮膚炎抑制用繊
【請求項5】
前記繊維が、セルロース繊維を含む請求項4に記載のアトピー性皮膚炎抑用繊維
【請求項6】
アトピー性皮膚炎における(1)発赤・出血(2)痂皮形成・乾燥(3)浮腫及び(4)擦傷・組織欠損からなる群から選ばれる少なくとも一つの症状を抑制する請求項4又は5に記載のアトピー性皮膚炎抑制用繊維
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アトピー性皮膚炎を抑制することができるアトピー性皮膚炎抑制用繊維、アトピー性皮膚炎抑制用繊維集合体、アトピー性皮膚炎抑制用繊維製品、アトピー性皮膚炎抑制用繊維の使用方法及びアトピー性皮膚炎の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境や食習慣の変化に伴い、アトピー性皮膚炎に悩む人が急増している。アトピー性皮膚炎の発症機序は解明されていない部分が多く、治療方法は未だ確立されていない。
【0003】
アトピー性皮膚炎の場合、皮膚は非常に敏感な状態になるため、肌に直接接触する肌着や下着などは皮膚への負担が少ないものが必要とされる。一般の合成繊維からなる肌着を着用した場合はアトピー性皮膚炎が悪化する傾向があり、また、天然の木綿を用いた肌着の場合も、長時間着用によって、患部の拡大などの症状悪化を招く場合があった。
【0004】
そこで、引用文献1には、アミグダリンを含有した繊維構造物が提案されている。特許文献2には、特定のエチレン−ビニルアルコール(EVOH)繊維で構成されたアトピー性皮膚炎患者用布帛が提案されている。特許文献3には、ウコン抽出液で染色した繊維材料から構成されている皮膚掻痒感軽減用肌着が提案されている。特許文献4には、熱可塑性エラストマーからなる繊維を有し、特定の剛軟度及び特定の水分率と、特定の吸水速度又は特定の拡散径を有するアトピー性皮膚炎患者用肌着が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−152464号公報
【特許文献2】WO2006/008916
【特許文献3】特開2008−303487号公報
【特許文献4】特開2009−7691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アトピー性皮膚炎を抑制することができる新規なアトピー性皮膚炎抑制用繊維、アトピー性皮膚炎抑制用繊維集合体、アトピー性皮膚炎抑制用繊維製品、アトピー性皮膚炎抑制用繊維の使用方法及びアトピー性皮膚炎の抑制方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明は、トピー性皮膚炎抑制用繊維の使用方法であって、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維は、繊維にリン酸基を含む化合物が化学結合により固定されている繊維であり、上記リン酸基を含む化合物は、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム及びリン酸リチウムからなる群から選ばれる一種以上であり、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維を皮膚に接触するように配置してアトピー性皮膚炎を抑制することを特徴とするアトピー性皮膚炎抑制用繊維の使用方法に関する
【0011】
また、本発明は、トピー性皮膚炎抑制用繊維であって、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維は、繊維にリン酸基を含む化合物が化学結合により固定されている繊維であり、上記リン酸基を含む化合物は、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム及びリン酸リチウムからなる群から選ばれる一種以上であることを特徴とするアトピー性皮膚炎抑用繊維に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、繊維にリン酸基を含む化合物を化学結合により固定することにより、アトピー性皮膚炎を抑制できるアトピー性皮膚炎抑制用繊維、アトピー性皮膚炎抑制用繊維集合体及びアトピー性皮膚炎抑制用繊維製品を提供することができる。また、本発明の使用方法によると、アトピー性皮膚炎抑制用繊維を用いることでアトピー性皮膚炎を抑制することができる。また、本発明のアトピー性皮膚炎の抑制方法によると、アトピー性皮膚炎抑制用繊維を用いることでアトピー性皮膚炎を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のアトピー性皮膚炎抑制用繊維においては、繊維にリン酸基を含む化合物を化学結合により固定する。上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維は、皮膚、例えば、アトピー性皮膚炎患者の患部に接触することにより、アトピー性皮膚炎を抑制し、アトピー性皮膚炎の症状を軽減又は改善できる。また、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維は、好ましくはアトピー性皮膚炎における(1)発赤・出血(2)痂皮形成・乾燥(3)浮腫及び(4)擦傷・組織欠損からなる群から選ばれる少なくとも一つの症状を抑制することができる。
【0014】
上記リン酸基を含む化合物としては、特に限定されないが、リン酸エステル及びリン酸エステル塩からなる群から選ばれる一種以上が好ましい。上記リン酸基を含む化合物の割合は、繊維に対して0.01〜3mmol/gの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.1〜1.5mmol/gの範囲である。この範囲であるとアトピー性皮膚炎の症状を軽減又は改善する効果が高く、繊維の風合いを損ねることもない。
【0015】
本発明で使用できる繊維は、特に限定されるものではないが、電子線グラフト重合法を用いることが可能なセルロース繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、ポリビニルアルコール繊維等が好ましい。皮膚にやさしい観点から、セルロース繊維を含むことが好ましい。セルロース繊維は、木綿、麻、レーヨン、キュプラ等いかなるものであっても良く、木綿であることが好ましい。繊維全体に対するセルロース繊維の割合は、10〜100質量%の範囲が好ましい。
【0016】
上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維は、特に限定されないが、下記のように作製することができる。具体的には、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維の作製方法は、繊維に電子線照射する工程と、上記繊維にリン酸基を含む化合物を接触させて化学結合、好ましくはグラフト結合させる工程を含む。電子線照射工程は、化学結合工程の前及び/又は後であっても良い。いずれの順序にしてもリン酸基を含む化合物を繊維に化学結合させることはできる。また、これらの工程後に、次の工程として、アルカリ中和処理を加えても良い。アルカリ中和処理に使用する溶液は、NaOH、KOH、LiOH等のアルカリ金属水酸化物の水溶液を使用するのが好ましい。なお、リン酸基を含む化合物としてリン酸ナトリウム、リン酸カリウム及びリン酸リチウム等の化合物を用いることにより、中和処理を省略することも可能である。
【0017】
上記リン酸基を含む化合物として、例えばモノ(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート(別名リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル、以下「P1M」という。)を用い、P1Mをセルロース繊維に適用する場合、電子線照射により下記式(2)及び/又は下記式(3)のようにセルロースにP1Mがグラフト結合し、次いで中和処理により下記式(4)及び/又は下記式(5)のようにリン酸塩(リン酸エステル塩)となると推測される。
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
【0020】
【化3】
【0021】
【化4】
【0022】
【化5】
【0023】
また、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維は、例えば、セルロース繊維にリン酸と尿素を含む水溶液を接触させることにより、上記セルロース繊維にリン酸エステルを化学結合、好ましくは共有結合させてもよい。リン酸エステルをより効果的に導入できるという観点から、セルロース繊維にリン酸と尿素を含む水溶液を接触させ、加熱キュアすることにより、上記セルロース繊維にリン酸エステルを化学結合、好ましくは共有結合させる。例えば、リン酸と尿素を含む水溶液(以下、単にリン酸処理液とも記す。)にセルロース繊維(生地)を浸漬し、セルロース繊維にリン酸エステルを共有結合させる。リン酸処理液は、必要に応じてアンモニア水を含んでもよい。アンモニア水によりpHを調整できる。リン酸処理液のpHは7未満であることが好ましい。加熱キュア(キュアリング)の処理条件は、温度100〜180℃、時間0.5〜5分が好ましい。例えば、この処理により、セルロース繊維に対してリン酸エステルを0.1質量%以上、好ましくは2〜8質量%、特に好ましくは5〜8質量%共有結合できる。化学結合工程の後、アルカリにより中和させてもよい。
【0024】
セルロース分子は下記式(6)で示され(但し、nは1以上の整数)、反応性に富む水酸基をグルコース残基のC−2、C−3、C−6の位置に持ち、この部分にリン酸がエステル結合すると推測される。例えばグルコース残基のC−2の位置にリン酸がエステル結合した例を下記式(8)に示す。下記式(8)において、リン酸がエステル結合している−CH−基はセルロース鎖内の炭化水素基である。次いで中和処理により下記式(9)のようにリン酸塩となると推測される。
【0025】
【化6】
【0026】
【化7】
【0027】
【化8】
【0028】
【化9】
【0029】
或いは、下記式(10)〜式(12)に示すリン酸エステルになることも考えられる。下記式(10)はリンと窒素のモル比が1:1の場合であり、下記式(11)〜式(12)はリンの含有率の高いエステル化物で、下記式(12)は架橋構造となる。下記式(10)〜式(12)の化合物は希塩酸又は希アルカリにより洗浄すると、窒素がアンモニアとして放出されると考えられる。
【0030】
【化10】
【0031】
【化11】
【0032】
【化12】
【0033】
本発明のアトピー性皮膚炎抑制用繊維集合体は、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維を含み、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維は皮膚に接触するように(皮膚と接触する側に)配置されている。上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維集合体において、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維が皮膚、例えば、アトピー性皮膚炎患者の患部に接触することにより、アトピー性皮膚炎を抑制し、アトピー性皮膚炎の症状を軽減又は改善することができ、好ましくはアトピー性皮膚炎における(1)発赤・出血(2)痂皮形成・乾燥(3)浮腫及び(4)擦傷・組織欠損からなる群から選ばれる少なくとも一つの症状を抑制することができる。上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維集合体は、アトピー性皮膚炎抑制用繊維のみで構成してもよく、本発明の目的を阻害しない範囲内において、他の繊維を混合してもよい。他の繊維を混合する場合、アトピー性皮膚炎を抑制する効果を高める観点から、他の繊維は皮膚に接触しないように配置することが好ましい。上記繊維集合体は、その形状や構造は特に限定されず、糸、編物、織物、不織布などの布帛(生地)、帯状物、紐状物などのいずれであってもよい。具体的には、ガーゼや包帯とし、アトピー性皮膚炎患者の患部に直接当てることができる。
【0034】
本発明のアトピー性皮膚炎抑制用繊維製品は、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維を含み、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維は皮膚に接触するように(皮膚と接触する側に)配置されている。上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維製品において、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維が皮膚、例えば、アトピー性皮膚炎患者の患部に接触することにより、アトピー性皮膚炎を抑制し、アトピー性皮膚炎の症状を軽減又は改善することができ、好ましくはアトピー性皮膚炎における(1)発赤・出血(2)痂皮形成・乾燥(3)浮腫及び(4)擦傷・組織欠損からなる群から選ばれる少なくとも一つの症状を抑制することができる。上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維製品は、アトピー性皮膚炎抑制用繊維のみで構成してもよく、本発明の目的を阻害しない範囲内において、他の繊維を混合してもよい。他の繊維を混合する場合、アトピー性皮膚炎を抑制する効果を高める観点から、他の繊維は皮膚に接触しないように配置することが好ましい。上記繊維製品としては、衣類や寝具などが挙げられる。上記衣類には、下着、肌着、パジャマ、靴下、手袋、マスクなどが含まれる。上記寝具には、シーツ、ベッドカバー、枕カバー、布団、毛布などが含まれる。
【0035】
本発明では、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維を用いることで、例えば、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維を皮膚、例えば、アトピー性皮膚炎患者の患部に接触させることにより、アトピー性皮膚炎を抑制し、アトピー性皮膚炎の症状を軽減又は改善することができる。また、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維を用いることで、例えば、上記アトピー性皮膚炎抑制用繊維を皮膚、例えば、アトピー性皮膚炎患者の患部に接触させることにより、好ましくは、アトピー性皮膚炎における(1)発赤・出血(2)痂皮形成・乾燥(3)浮腫及び(4)擦傷・組織欠損からなる群から選ばれる少なくとも一つの症状を抑制することができる。
【実施例】
【0036】
以下実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
<リン酸エステルの導入>
綿繊維100%であり、苛性シルケット上がりの薄地生地(目付け140g/m2)を8.5質量%のリン酸(ナカライテスク社製)と、30質量%の尿素(ナカライテスク社製)を含む水溶液に浸漬し、絞り率約70質量%になるまでマングルで絞り、ピンテンターにて150℃で90秒間乾燥した。乾燥した生地をピンテンターにて165℃で105秒間キュアリングした。キュアリングした生地を十分に湯洗、水洗後、マングルで絞り、ピンテンターにて150℃で90秒間乾燥した。加工前後の生地の質量差及びリン酸の分子量から算出した繊維質量当りのリン酸基導入量は、0.54mmol/gであった。
【0038】
<中和処理>
次にリン酸エステルを導入した生地を1質量%の水酸化ナトリウム(ナカライテスク社製)水溶液に浸漬し、絞り率約70質量%になるまでマングルで絞った。余剰の水酸化ナトリウムを除去するため、湯洗、水洗後、マングルで絞り、ピンテンターにて150℃で90秒間乾燥した。
【0039】
(比較例1)
綿繊維100%であり、苛性シルケット上がりの薄地生地(目付け140g/m2)を比較例1とした。
【0040】
実施例1の繊維のアトピー性皮膚炎抑制効果を下記のようにアトピー性皮膚炎モデルマウスを用いた実験系で評価した。その結果を下記表1に示した。
【0041】
<アトピー性皮膚炎抑制効果>
アトピー性皮膚炎モデルとしては、オリエンタル酵母工業株式会社から入手したNCへアレスマウスであるNCN24マウス(メス)を用いた。生後13週齢のNCN24マウス4匹に、100μLの0.15%の1−フルオロ−2,4−ジニトロベンゼン(DNFB)を腹部に塗布し感作を行なった。感作5日後から1日おきに50μLの0.15%のDNFBを頸背部に塗布しアトピー性皮膚炎を惹起した。23日間の惹起を施した後、2匹のマウスの頸背部には蒸留水に浸した実施例1の生地(縦1cm、横1.5cm)を貼付、残りの2匹のマウスの頸背部には蒸留水に浸した比較例1の生地(縦1cm、横1.5cm)を貼付し、毎日張り替えてアトピー性皮膚炎抑制効果確認試験を3日間行なった。アトピー性皮膚炎の症状は、(1)発赤・出血(2)痂皮形成・乾燥(3)浮腫及び(4)擦傷・組織欠損の4項目に分けて下記の基準に基づいて皮膚炎スコアを記録し判定した。表1には、これら4項目の皮膚炎スコアの合計を示した。
【0042】
(1)発赤・出血
(背中の発赤および出血症状を観察する)
0:無症状;背中に発赤および出血症状が認められない状態
1:軽度;背中に発赤が局所的に認められ,連続的な擦傷に伴う出血が認められない状態
2:中等度;背中に発赤が散在的に認められるか,連続的な擦傷に伴う出血が認められない状態
3:重度;背中に発赤が全体的に認められるか,連続的な擦傷に伴う出血が認められる状態
(2)痂皮形成・乾燥
(背中の痂皮形成および乾燥症状を観察する)
0:無症状;背中に痂皮形成および乾燥症状なし
1:軽度;背中に痂皮が局所的に認められ,皮膚がわずかに白色化し,角質の剥離がわずかに認められる状態
2:中等度;背中に痂皮が散在的に認められるか,明らかに角質の剥離が認められる状態
3:重度;背中に痂皮が全体的に認められるか,明らかに角質の剥離が認められる状態
(3)浮腫
(耳介の浮腫を定性的に観察する)
0:無症状;左右の耳介に厚みが認められない状態
1:軽度;左右のどちらか1方にわずかに厚みが認められる状態
2:中等度;いずれの耳介にも明らかな厚み,張りが認められる状態
3:重度;いずれの耳介にも明らかな厚み,張りおよび反りが認められ,指で触れた時に硬さが感じられる状態
(4)擦傷・組織欠損
(耳介の擦傷および組織欠損症状を観察する)
0:無症状;耳介に擦傷および組織欠損症状が認められない状態
1:軽度;耳介に連続的でない擦傷が認められ,組織欠損は認められない状態
2:中等度;耳介に小規模に連続的な擦傷が認められ,組織欠損は認められない状態
3:重度;耳介に連続的な擦傷が認められ,組織欠損が認められる状態
【0043】
【表1】
【0044】
表1から分かるように、リン酸基を含む化合物が化学結合により固定されている繊維で構成された実施例1の生地の場合、リン酸基が導入されていない比較例1の生地と比較して皮膚炎スコアが小さく、アトピー性皮膚炎を抑制し、アトピー性皮膚炎の症状を軽減又は改善することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、アトピー性皮膚炎の症状を軽減又は改善することができるガーゼ、包帯、下着、肌着、パジャマ、靴下、手袋、マスク、シーツ、ベッドカバー、枕カバー、布団、毛布などを提供することができる。