(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モータに対するトルク指令値から求められた電流指令値が、前記モータに電力変換器を介して供給される電流に対する電流検出値に一致するように、前記モータに供給される電流を制御する制御部を有するモータ制御装置であって、
前記制御部は、前記モータが出力するトルクを推定し、推定された前記モータのトルク推定値が、前記トルク指令値に一致するように前記モータに供給される電流を制御し、
前記制御部は、
前記モータが出力するトルクを推定するトルク推定演算部と、
d軸及びq軸電流指令値と、d軸及びq軸電流検出値と、速度推定値と、モータ定数の設定値に基づいて、d軸及びq軸電圧指令値を算出する電圧ベクトル演算部と、
該電圧ベクトル演算部が出力するd軸及びq軸電圧指令値と、前記速度推定値と、前記d軸及びq軸電流検出値と、前記モータ定数の設定値に基づいて、前記モータの回転位相の推定値と前記モータの回転位相値との偏差である位相誤差の推定値である位相誤差推定値を出力する位相誤差推定演算部と、
前記トルク推定演算部が推定した前記トルク推定値と前記トルク指令値との偏差の積分値を算出する位相誤差指令演算部と、
前記位相誤差指令演算部が出力する前記積分値に、前記位相誤差推定演算部が出力する位相誤差推定値が一致するように、前記速度推定値を出力する速度推定演算部とを備えることを特徴とするモータ制御装置。
モータに対するトルク指令値から求められた電流指令値が、前記モータに電力変換器を介して供給される電流に対する電流検出値に一致するように、前記モータに供給される電流を制御する制御部を有するモータ制御装置であって、
前記制御部は、前記モータが出力するトルクを推定し、推定された前記モータのトルク推定値が、前記トルク指令値に一致するように前記モータに供給される電流を制御し、
前記制御部は、
前記モータが出力するトルクを推定するトルク推定演算部と、
d軸及びq軸電流指令値と、d軸及びq軸電流検出値と、速度推定値と、モータ定数の設定値に基づいて、d軸及びq軸電圧指令値を算出する電圧ベクトル演算部と、
前記トルク推定演算部が推定した前記トルク推定値と前記トルク指令値との偏差から、q軸インダクタンスの修正値を算出するq軸インダクタンス修正演算部と、
前記電圧ベクトル演算部が出力するd軸及びq軸電圧指令値と、前記速度推定値と、前記d軸及びq軸電流検出値と、前記モータ定数の設定値と、前記q軸インダクタンスの修正値に基づいて、前記モータの回転位相の推定値と前記モータの回転位相値との偏差である位相誤差の推定値である位相誤差推定値を出力する位相誤差推定演算部と、
該位相誤差推定演算部が出力する前記位相誤差推定値が零となるように、前記速度推定値を出力する速度推定演算部とを備えることを特徴とするモータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、
図1〜
図6を用いて、本発明の第1の実施形態によるモータ制御装置の構成及び動作について説明する。
最初に、
図1を用いて、本実施形態によるモータ制御装置を用いたモータ駆動システムの構成について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態によるモータ制御装置を用いたモータ駆動システムの構成について説明する。
本実施形態によるモータ駆動システムは、モータ制御装置100と、電力変換器INVと、永久磁石同期モータ(PMモータ;交流モータ)MOTと、トルク指令設定部TSとから構成されている。
【0018】
永久磁石同期モータ(PMモータ;交流モータ)MOTは、永久磁石及び界磁巻線を備えた回転子と、電機子巻線を備えた固定子とから構成される。永久磁石同期モータMOTは、永久磁石の磁束によるトルク成分と、電機子巻線のインダクタンスによるトルク成分を合成したトルクを出力する。永久磁石同期モータMOTは、
図12を用いて後述するように、作業車両に用いられるモータである。本実施形態のモータ制御装置100は、かかるモータMOTを制御するために用いられる。
【0019】
電力変換器INVは、3相交流の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいて、直流電源Bから供給される直流電圧を3相交流電圧に変換し、永久磁石同期モータMOTに供給し、永久磁石同期モータMOTの出力トルクを可変する。
【0020】
電流検出器SIは、永久磁石同期モータMOTの3相の交流電流Iu、Iv、Iwを検出する。
【0021】
トルク指令設定部TSは、モータ制御装置100に対して、永久磁石同期モータMOTが出力するトルクの指令値であるトルク指令値τ*を出力する。トルク指令値τ*は、「零」を含む「正負極性」の値である。トルク指令設定部TSは、モータ制御装置100に対する上位の制御装置の内部に備えられる。
【0022】
モータ制御装置100は、座標変換部10と、位相誤差推定演算部15と、トルク推定演算部20と、位相誤差指令演算部25と、速度推定演算部30と、位相演算部35と、d軸電流指令設定部40と、電流指令変換演算部45と、d軸電流制御演算部50と、q軸電流制御演算部55と、電圧ベクトル演算部60と、座標変換部65と、差演算部DF1,DF2,DF3,DF4とを備えている。
【0023】
座標変換部10は、永久磁石同期モータMOTに供給される3相の交流電流Iu,Iv,Iwの電流検出器SIによる検出値である電流検出値Iuc,Ivc,Iwcと、位相演算部35によって推定された回転位相の推定値θdcとから、d軸およびq軸の電流検出値Idc,Iqcを出力する。
【0024】
位相誤差推定演算部15は、電圧ベクトル演算部60が出力する電圧指令値Vdc*,Vqc*と、速度推定演算部30によって推定された速度推定値ω^と、座標変換部10が出力する電流検出値Idc,Iqcと、予め設定されている永久磁石同期モータMOTの電気定数(R,Ld,Lq,Ke)に基づいて、回転位相の推定値θdcと永久磁石同期モータMOTの回転位相値θdとの偏差である位相誤差Δθ(=(θdc−θd))の推定演算により、位相誤差推定値Δθcを出力する。ここで、電気定数(R,Ld,Lq,Ke)は、位相誤差推定演算部15の内部に設定値として保持されている。電気定数(R,Ld,Lq,Ke)の値としては、本実施形態のモータ制御装置100によって駆動制御される永久磁石同期モータMOTの設計値を設定保持している。なお、実際に用いられる個々の永久磁石同期モータMOTの電気定数(R,Ld,Lq,Ke)の値は、永久磁石同期モータMOTの電気定数(R,Ld,Lq,Ke)の設計値とは異なるものであるが、両者の誤差、及び個々の永久磁石同期モータMOTの電気定数(R,Ld,Lq,Ke)が経時変化することにより生じる設定値との誤差は、以下に説明するトルク推定演算部20及び位相誤差指令演算部25を用いることにより、補償されるものである。
【0025】
トルク推定演算部20は、電圧ベクトル演算部60が出力する電圧指令値Vdc*,Vqc*と、速度推定演算部30によって推定された速度推定値ω^と、座標変換部10が出力する電流検出値Idc,Iqcとを用いて、出力トルクの推定演算を行い、トルク推定値τ^を出力する。
【0026】
差演算部DF1は、トルク指令設定部TSが出力するトルク指令値τ*と、トルク推定演算部20が算出したトルク推定値τ^との偏差(τ*−τ^)を算出する。位相誤差指令演算部25は、差演算部DF1が出力する偏差(τ*−τ^)を比例・積分演算し、その出力値を位相誤差の指令値Δθc*として出力する。
【0027】
差演算部DF2は、位相誤差推定演算部15が出力する位相誤差Δθと、位相誤差指令演算部25が出力する位相誤差の指令値Δθc*との差(Δθc*−Δθ)を演算し、出力する。
【0028】
速度推定演算部30は、差演算部DF2が出力する差(Δθc*−Δθ)が零となるように、すなわち、位相誤差指令演算部25が出力する位相誤差の指令値Δθc*に、位相誤差指令演算部25が出力する位相誤差の推定値Δθcが一致するように、速度推定値ω^を出力する。
【0029】
なお、ここで、「位相誤差の指令値Δθc*に、位相誤差の推定値Δθcが一致する」とは、位相誤差の指令値Δθc*と位相誤差の推定値Δθcとが厳密に一致する場合だけでなく、位相誤差の指令値Δθc*に対して、位相誤差の推定値Δθcがある許容範囲内となる場合も含むものである。
【0030】
位相演算部35は、速度推定演算部30が算出した速度推定値ω^を積分して、得られた回転位相の推定値θdcを座標変換部10,65に出力する。
【0031】
d軸電流指令設定部40は、「零」あるいは「負極性」の値であるd軸の電流指令値Id*を出力する。
【0032】
電流指令変換演算部45は、トルク指令設定部TSからのトルク指令値τ*と、d軸電流指令設定部40が出力するd軸の電流指令値Id*と、永久磁石同期モータMOTの電気定数(Ld,Lq,Ke)を用いて、q軸の電流指令値Iq*を算出する。ここで、電気定数(Ld,Lq,Ke)は、電流指令変換演算部45の内部に設定値として保持されている。電気定数(Ld,Lq,Ke)の値としては、本実施形態のモータ制御装置100によって駆動制御される永久磁石同期モータMOTの設計値を設定保持している。
【0033】
差演算部DF3は、d軸電流指令設定部40が出力する第1のd軸の電流指令値Id*と、座標変換部10が出力する電流検出値Idcとの偏差(Id*−Idc)を算出する。
【0034】
d軸電流制御演算部50は、差演算部DF3が算出した偏差(Id*−Idc)から、第2のd軸の電流指令値Id**を出力する。
【0035】
差演算部DF4は、電流指令変換演算部45が出力する第1のq軸の電流指令値Iq*と、座標変換部10が出力する電流検出値Iqcとの偏差(Iq*−Iqc)を算出する。
【0036】
q軸電流制御演算部55は、差演算部DF4が算出した偏差(Iq*−Iqc)から、第2のq軸の電流指令値Iq**を出力する。
【0037】
電圧ベクトル演算部60は、d軸電流制御演算部50が出力する第2のd軸の電流指令値Id**と、q軸電流制御演算部55が出力する第2のq軸の電流指令値Iq**と、速度推定値ω^と、予め設定されている永久磁石同期モータMOTの電気定数(R,Ld,Lq,Ke)とに基づいて、d軸およびq軸の電圧指令値Vdc*,Vqc*をそれぞれ出力する。
【0038】
座標変換部65は、電圧ベクトル演算部60が出力する電圧指令値Vdc*,Vqc*と、位相演算部35が推定した回転位相の推定値θdcとから、3相交流の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をそれぞれ出力する。
【0039】
すなわち、本実施形態では、モータに対するトルク指令値τ*から求められたq軸電流指令値Iq*及び設定されているd軸電流指令値Id*が、モータに電力変換器を介して供給される電流Iu,Iv,Iwに対するd軸及びq軸電流検出値dc,Iqcに一致するように、モータに供給される電流を制御している。 なお、ここで、「d軸及びq軸電流検出値Idc,Iqcに、d軸及びq軸電流指令値Id*,Iq*が一致する」とは、d軸及びq軸電流検出値Idc,Iqcとd軸及びq軸電流指令値Id*,Iq*とが厳密に一致する場合だけでなく、d軸及びq軸電流検出値Idc,Iqcに対して、d軸及びq軸電流指令値Id*,Iq*がある許容範囲内となる場合も含むものである。以上のフィードバック制御により、モータのトルクがトルク指令値に一致するようにモータに供給される電流が制御される。但し、モータ定数に誤差があると、実際にモータから出力されるトルク値は、トルク指令値とは異なることになる。
【0040】
次に、本実施形態のモータ制御装置100の動作について説明するが、最初に、本実施形態の特徴である「トルク推定演算部20」及び「位相誤差指令演算部25」を用いない場合の、位置センサレス制御方式の基本動作について説明する。
【0041】
永久磁石同期モータMOTの出力トルクτは、以下の式(1)によって示すことができる。
【0043】
ここに、Pm:モータの極対数、Ke:発電係数、Ld:d軸のインダクタンス、Lq:q軸のインダクタンス、Id:モータのd軸電流、Iq:モータのq軸電流である。
【0044】
ここで、制御軸である回転位相の推定値θdcとモータ軸である回転位相値θdとの偏差である位相誤差Δθ(=(θdc−θd))が発生した場合、制御軸((dc−qc)軸)上の電流検出値Idc,Iqcから、モータ軸((d−q)軸)上のモータ電流Id,Iqへの座標変換行列は、式(2)となる。
【0046】
ここで、式(2)において、
図1におけるd軸電流指令設定部40が出力するd軸の電流指令値Id*を「ゼロ」に設定して(Id*=Idc=0)、電流制御を行うと、式(2)は式(3)となる。
【0048】
式(3)を、出力トルク式である式(1)に代入すると、式(4)が得られる。
【0050】
一般的に、q軸インダクタンスLqは、d軸インダクタンスLdと式(5)のような関係にあるので、
【0052】
式(4)において、位相誤差
Δθが発生すると、出力トルクの第2項成分は、
Δθ>0の場合:増加方向
Δθ<0の場合:減少方向
となる。つまり、位相誤差Δθが「負極性」で発生すると、出力トルクτは減少することになる。
【0053】
一方、
図1の電圧ベクトル演算部15では、第2のd軸およびq軸の電流指令値Id**、Iq**と速度推定値
ω^および電気定数(R,Ld,Lq,Ke)の設定値を用いて演算される、d軸およびq軸の電圧指令値Vdc*,Vdc*は、式(6)となる。
【0055】
ここで、位相誤差Δθが存在する場合、制御側で演算したモータの印加電圧Vd,Vqは式(7)となる。
【0057】
一方、d軸及びq軸のモータ印加電圧Vd,Vqは、位相誤差Δθと、電流検出値Idc,Iqcと、モータ定数とを用いて表すと、式(8)となる。
【0059】
ここで、式(7)=式(8)の関係から、d軸の電流指令値Id*を「ゼロ」に設定し、q軸の電流指令値Iq*に所定値と与えると、d軸およびq軸の電流制御演算部50,55の出力値Id**,Iq**は、式(9)となる。
【0061】
また、位相誤差推定演算部5では、d軸およびq軸の電流検出値Idc,Iqcと、速度推定値
ω^と、モータ定数とを用いて、位相差推定値Δθcを式(10)に従い演算する。
【0063】
ここで、式(6)、式(9)を式(10)に代入すると、式(11)が得られる。
【0065】
速度推定演算部30は、位相誤差推定演算部5の出力値である位相誤差の推定値Δθcが、位相誤差の指令値Δθc*(=0)に一致するように速度推定値
ω^を演算する。一定速度では、式(11)の分子項は「ゼロ」となることから、式(12)が成立する。
【0067】
ここで、式(12)において、位相誤差Δθについて整理すると、式(13)を得ることができる。
【0069】
つまり、モータ電流を流すことによりq軸インダクタンスLqが減少方向に変化、あるいはq軸インダクタンスについてのモータ定数の設定値Lq*に誤差がある場合には、式(13)の関係で、位相誤差Δθが発生する。
【0070】
Lq*>Lqの場合:Δθは「負」
Lq*<Lqの場合:Δθは「正」
式(13)の結果を式(4)に当てはめると、
Lq*>Lqの場合、Δθは「負」となり、出力トルクは減少方向、
Lq*<Lqの場合、Δθは「正」となり、出力トルクは増加方向、
となる。
【0071】
ここで、
図2を用いて、上述したトルクの減少について説明する。
図2は、従来のモータ制御装置を用いたモータ駆動システムにおける出力トルクの変動の説明図である。
【0072】
本実施形態の特徴である「トルク推定演算部20」及び「位相誤差指令演算部25」を用いない場合のトルク制御特性について説明する。
【0073】
図1の制御装置において、位相誤差の指令値Δθc*は「0」、「電圧ベクトル演算部15」と「位相誤差推定演算部5」に設定するq軸インダクタンスについてのモータ定数の設定値Lq*は、Lq*>Lqの関係で設定している(出力トルクが減少する方向)。
【0074】
図2(A)は、トルク指令τ*を100%ステップ変化させた場合の出力トルクτを示し、
図2(B)は交流のモータ電流Iuを示し、
図2(C)は位相誤差Δθの関係を示す。
【0075】
トルク指令τ*は、
図2(A)に破線で示すように100%与えているので、
図2(B)に示すように、交流のモータ電流Iuも100%発生しているが、実際の位相誤差Δθは、
図2(C)に示すように、定常的に例えば、−30(deg)発生している。そのため、実際の出力トルクτは、
図2(A)に示すように例えば、80%まで減少する。
【0076】
それに対して、本実施形態では、「トルク推定演算部20」、「位相誤差指令演算部25」を導入することで、トルク指令τ*通りの出力トルクτが得られる高精度なトルク制御を実現できるものである。
【0077】
次に、
図3及び
図4を用いて、本発明の第1の実施形態によるモータ制御装置において、「トルク推定演算部20」、「位相誤差指令演算部25」を用いた場合の、動作原理について説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態によるモータ制御装置に用いるトルク推定演算部の動作説明図である。
図4は、本発明の第1の実施形態によるモータ制御装置に用いる位相誤差指令演算部の動作説明図である。
【0078】
モータの磁束軸から観た有効電力Pは、式(14)となる。
【0080】
ここに、式(3)を代入することで、制御の基準軸上での有効電力の演算値Pcを、式(15)により得ることができる。
【0082】
図3に示す「トルク推定演算部20」は、式(15)の有効電力の演算値Pcを用いて、出力トルクτの推定演算を行う。
【0083】
式(15)から、永久磁石同期モータの銅損成分(R×Iqc
2)を減算し、その演算値を速度推定値
ω^で除算してから、定数(3/2×Pm)を乗じる式(16)の演算を行うことで、トルク推定演算部20は、式(4)の出力トルクτを高精度に推定することができる。
【0085】
また、
図4に示す「位相誤差指令演算部25」においては、トルク指令τ*に出力トルク推定値τ^が追従するように、トルク指令τ*と出力トルク推定値τ^の偏差に積分ゲインAを乗じて積分演算(あるいは比例+積分演算でも良い)を行い、τ位相誤差の指令値Δθc*を作成する。
【0086】
速度推定演算部30は、この指令値Δθc*に位相誤差の推定値Δθcが一致するように、τ度推定値τ^を演算する。
【0087】
このようなフィードバック・ループを組むことで、モータ定数に誤差があったとしても、その誤差を補償して、高精度なトルク制御を実現することができる。
【0088】
ここで、
図5を用いて、本実施形態における出力トルクの変動について説明する。
図5は、本発明の第1の実施形態によるモータ制御装置を用いたモータ駆動システムにおける出力トルクの変動の説明図である。
【0089】
本発明を用いた場合のトルク制御特性について説明する。
【0090】
図1の制御装置において、「電圧ベクトル演算部15」と「位相誤差推定演算部5」に設定するLq*は、Lq*>Lqの関係で設定している(
図2と同条件)。
【0091】
図5(A)は、トルク指令τ*を100%ステップ変化させた場合の出力トルクτを示し、
図5(B)はモータ電流Iuを示し、
図5(C)は位相誤差Δθの関係を示している。
【0092】
図2の場合と同様に、
図5(A)に破線で示すようにトルク指令τ*を100%与えているが、時刻t1の点から、
図5(C)に破線で示す位相誤差の指令値Δθcτが定常的には例えば+20(deg)発生し、制御軸の位相を進めることで、実際の位相誤差Δθは「ゼロ」となり、
図5(A)に示すように、トルク指令τ*通りの出力トルク100%を達成することができる。
【0093】
次に、
図6を用いて、本実施形態によるモータ制御装置に用いるトルク推定演算部の他の構成について説明する。
図6は、本発明の第1の実施形態によるモータ制御装置に用いるトルク推定演算部の他の構成の説明図である。
【0094】
図3に示したでは、トルク推定演算部20は、d軸およびq軸の電圧指令値と電流検出値を用いて推定演算を行ったが、その代わりに、
図6に示す構成にしてもよいものである。すなわち、トルク推定演算部20aは、3相の電圧指令値(Vu*,Vv*,Vw*)と、3相の電流検出値(Iuc,Ivc,Iwc)を用いて、出力トルクτの推定演算を行う。
【0095】
具体的には、以下の式(17)の演算を、
【0097】
行うことで、式(16)と同等に、式(4)の出力トルクτを高精度に推定することができる。
【0098】
以上説明したように、本実施形態によれば、位置センサを用いない永久磁石同期モータの制御装置において、位置センサレス制御系の位相誤差(制御の基準軸とモータの磁束軸との位相差)の推定演算に設定するq軸インダクタンスに誤差が生じている場合でも、有効電力値から演算したトルク推定値がトルク指令値に一致する様に、位相誤差の指令値を演算することにより、トルク指令値通りの出力トルクを実現できるものとなる。このように、モータ定数の設定誤差も含めて補償して、高精度なトルク制御が可能となる。
【0099】
次に、
図7及び
図8を用いて、本発明の第2の実施形態によるモータ制御装置の構成及び動作について説明する。
図7は、本発明の第2の実施形態によるモータ制御装置を用いたモータ駆動システムの構成について説明する。
図8は、本発明の第2の実施形態によるモータ制御装置に用いるトルク推定演算部の動作説明図である。
【0100】
本実施形態のモータ制御装置100aが、
図1に示したモータ制御装置100と相違する点は、
図1のモータ制御装置100におけるトルク推定演算部20に代えて、トルク推定演算部20bを備えるようにした点である。
【0101】
直流電源Bは、電力変換器INVに直流電圧を供給し、直流電圧EDCと直流電流IDCをトルク推定演算部20bに出力する。
【0102】
トルク推定演算部20bは、電力変換器の情報(EDC,IDC)と、d軸およびq軸の電流検出値(Idc,Iqc)と、速度推定値
ω^を用いて、出力トルクτ^の推定演算を行う。
【0103】
すなわち、
図1に示したトルク推定演算部20は、制御系の電圧・電流情報を用いて出力トルクの推定演算を行ったが、本例では、トルク推定演算部20bは、電力変換器の直流電圧と直流電流の情報を用いて出力トルクの推定演算を行うようにしている。
【0104】
図8に示すように、トルク推定演算部20bは、以下の式(18)の演算を行うことで、
【0106】
式(16)と同等に式(4)の出力トルクτを高精度に推定することができる。
【0107】
本実施形態によっても、モータ定数の設定誤差も含めて補償して、高精度なトルク制御が可能となる。
【0108】
次に、
図9〜
図11を用いて、本発明の第3の実施形態によるモータ制御装置の構成及び動作について説明する。
図9は、本発明の第3の実施形態によるモータ制御装置を用いたモータ駆動システムの構成について説明する。
図10は、本発明の第3の実施形態によるモータ制御装置に用いるq軸インダクタンス修正演算部の動作説明図である。
図11は、本発明の第3の実施形態によるモータ制御装置に用いる位相誤差推定演算部の動作説明図である。
【0109】
本実施形態のモータ制御装置100bが、
図1に示したモータ制御装置100と相違する点は、
図1のモータ制御装置100における位相誤差推定演算部15及び位相誤差指令演算部25に代えて、位相誤差推定演算部15a及びq軸インダクタンス修正演算部25aを備えるようにした点である。また、位相誤差指令値設定部70を備えている。
【0110】
すなわち、
図1や
図7に示した例では、トルク指令τ*に出力トルク推定値τ^が追従するように、位相誤差の指令値Δθc*を作成している。
【0111】
それに対して、本例では、位相誤差の指令値Δθc*の代わりに、q軸インダクタンス修正値ΔLq*作成し、q軸インダクタンスについてのモータ定数の設定値Lq*とq軸インダクタンス修正値ΔLq*の加算値で、位相誤差の推定値Δθc1の推定演算を行うようにしている。
【0112】
位相誤差推定演算部15aは、電圧ベクトル演算部60が出力する電圧指令値Vdc*,Vqc*と、速度推定演算部30によって推定された速度推定値ω^と、座標変換部10が出力する電流検出値Idc,Iqcと、予め設定されている永久磁石同期モータMOTの電気定数(R,Ld,Lq,Ke)と、q軸インダクタンスの修正値ΔLq*とに基づいて、回転位相の推定値θdcと永久磁石同期モータMOTの回転位相値θdとの偏差である位相誤差Δθの推定演算により、位相誤差推定値Δθc1を出力する。
【0113】
q軸インダクタンス修正演算部25aは、差演算部DF1が出力する偏差(τ*−τ^)を比例・積分演算し、その出力値をq軸インダクタンスの修正値ΔLq*として出力する。
【0114】
図10に示すように、q軸インダクタンス修正演算部25aは、トルク指令値τ*に出力トルク推定値τ^が追従するように、トルク指令値τ*と出力トルク推定値τ^の偏差に積分ゲインBを乗じて積分演算を行い、q軸インダクタンスの修正値ΔLq*を作成する。なお、ここで、積分演算に代えて、比例+積分演算でもよいものである。
【0115】
図11に示すように、位相誤差推定演算部15aは、電圧ベクトル演算部60が出力する電圧指令値Vdc*,Vqc*と、速度推定演算部30によって推定された速度推定値ω^と、座標変換部10が出力する電流検出値Idc,Iqcと、予め設定されている永久磁石同期モータMOTの電気定数(R,Ld,Lq,Ke)と、q軸インダクタンスの修正値ΔLq*とに基づいて、位相誤差の推定値Δθc1を式(19)に従い演算する。
【0117】
差演算部DF2は、位相誤差推定演算部15aが出力する位相誤差Δθと、位相誤差指令値設定部70が出力する位相誤差の指令値Δθc*との差(Δθc*−Δθ)を演算し、出力する。なお、位相誤差指令値設定部70が出力する位相誤差の指令値Δθc*は、ここでは、「ゼロ」である。従って、差演算部DF2は、位相誤差推定演算部15aが出力する位相誤差Δθをそのまま出力している。
【0118】
本例でも、q軸インダクタンスを修正することで、
図1における位相誤差指令演算部25を設けた場合と同等のトルク制御特性を実現することができる。
【0119】
尚、本実施例では、トルク推定演算部20において、d軸およびq軸の電圧指令値と電流検出値を用いて推定演算を行ったが、
図6に示すトルク推定演算部20a、
図8に示すトルク推定演算部20bを用いてもよいものである。
【0120】
本実施形態によっても、モータ定数の設定誤差も含めて補償して、高精度なトルク制御が可能となる。
【0121】
以下、
図1〜
図11に示した第1〜第3の実施形態に対する変形零について説明する。第1〜第3の実施形態では、第1の電流指令値(Id*,Iq*)と電流検出値(Idc,Iqc)から、第2の電流指令値(Id**,Iq**)を作成して、この電流指令値を用いてベクトル制御演算を行っている。
【0122】
それに対して、例えば、第1の電流指令値(Id*,Iq*)と電流検出値(Idc,Iqc)から、電圧補正値(ΔVd*,ΔVq*)を作成して、この電圧補正値(ΔVd*,ΔVq*)と、第1の電流指令値(Id*,Iq*)と、速度推定値ω^と、モータMOTの電気定数を用いて、以下の式(20)に従い、
【0124】
電圧指令値(Vdc*,Vqc*)を演算するようにしてもよいものである。
【0125】
また、第1〜第3の実施形態に対して、第1のd軸の電流指令Id*(= 0)と、q軸の電流検出値Iqcの一次遅れ信号Iqctdと、速度推定値ω^と、モータMOTの電気定数とを用いて、以下の式(21)に従い、
【0127】
電圧指令値(Vdc*,Vqc*)を演算するようにしてもよいものである。
【0128】
また、第1から第3の実施形態では、高価な電流検出器SIで検出した3相の交流電流Iu,Iv,Iwを検出する方式であったが、電力変換器INVの過電流検出用に取り付けているワンシャント抵抗に流れる直流電流IDCから、3相のモータ電流Iu^,Iv^,Iw^を再現し、この再現電流値を用いることもできる。
【0129】
次に、
図12及び
図13を用いて、本発明の各実施形態によるモータ制御装置を適用する作業車両の構成について説明する。
図12及び
図13は、本発明の各実施形態によるモータ制御装置を適用する作業車両の構成図である。
【0130】
図12は、作業車両の一例として、フォークリフト201の構成を示している。
【0131】
フォークリフト201は、その車体202の前部に左右一対の前車輪(駆動輪)203が設けられるとともに、後部に左右一対の後車輪(換向輪)204が設けられ、そして車体202の前部で上方には運転部205が設けられる。前記車体202の前端部には上下方向で伸縮自在なマスト206が、車幅方向のマスト連結軸207を介して前後方向に傾動自在に取り付けられるとともに、前後傾動を行わせるティルトシリンダー208が、車体202とマスト206との間に設けられる。
【0132】
前記マスト206は、車体202側の左右一対の外枠209と、この外枠209に内枠ローラを介して案内されて昇降自在な左右一対の内枠211とからなり、そして外枠209と内枠211との間にリフトシリンダー212が設けられている。また、内枠側にブラケットローラ213を介して案内されて昇降自在なリフトブラケット214が設けられるとともに、マスト206とリフトブラケット214との間にリフト連動手段215が設けられている。前記リフトブラケット214には、保持枠体220を介して左右一対のフォーク221が設けられている。前記運転部205には、座席222や、この座席222の前方に位置されるハンドル223などが配設され、そして上方にはヘッドガード224が配設されている。さらに座席222の後方で車体202上にはカウンターウエイト225が設けられている。
【0133】
図1に示したモータ制御装置100により制御される永久磁石同期モータMOTは、車輪(駆動輪)203を駆動する走行駆動用のモータである。
【0134】
図13は、作業車両の他の例として、油圧ショベル301の構成を示している。
【0135】
建設機械としてのクローラ式の油圧ショベル301は、自走可能な下部走行体302と、該下部走行体302上に旋回可能に搭載され、該下部走行体302と共に車体を構成する上部旋回体303と、該上部旋回体303の前側に俯仰動可能に設けられ、土砂の掘削作業等を行なう作業装置304とにより大略構成されている。上部旋回体303の旋回フレーム305は、支持構造体からなる車体フレームとして構成されている。
【0136】
図1に示したモータ制御装置100により制御される永久磁石同期モータMOTは、下部走行体302に対して上部旋回体303を旋回させるための旋回モータである。