【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明のアルミニウム材のろう付方法のうち、第1の本発明は、質量%でMgを0.2〜5.0%、Siを3〜13%含有するAl−Mg−Si系ろう材によりアルミニウム材からなる被接合部材をろう付して接合するアルミニウム材のろう付方法であって、少なくとも前記被接合部材の接合部表面に、常温時液体のケイ素化合物を含む組成物を配して
酸化皮膜を破壊するフラックスを用いることなく前記Al−Mg−Si系ろう材によるろう付を行うことを特徴とする。
【0009】
第1の本発明によれば、常温時液体のケイ素化合物を含む組成物をろう付前に、少なくとも被接合部材の接合部表面に配しておくことにより、ろう付熱処理過程で、ケイ素化合物は熱分解を生じながらも部材表面を覆う膜となり、ろう付阻害要素である部材表面の酸化を抑制する酸化防止膜として機能する。一方、ろう材にMgを添加することにより、Mgによる部材表面酸化皮膜の分解作用が得られる。
ここで、ろう材にMgが添加されていない場合のろう付昇温過程では、常温時液体のケイ素化合物による部材酸化抑制効果と、昇温過程で素材と酸化皮膜の熱膨張差等による部材表面酸化皮膜の亀裂が生じ、亀裂部に生じた部材新生面がろう濡れ性を発揮してろう付が得られるが、本作用のみでは接合部位の酸化皮膜分解状態が十分とは言えず、適用する接合部形状によってはろう濡れ性が不十分となり良好な接合が得られない。しかし、ろう材にMgを添加すると、ここにMgによる部材表面酸化皮膜の分解作用が加わり、部材表面のろう濡れ性が向上し、適用接合部形状によらず良好な接合状態が得られるようになる。
さらに、前記ケイ素化合物は常温時液体であるため工程管理が容易であり、また、ろう付け後にフッ化物系残渣とならないため均一な表面処理性が得られ、フラックス除去工程も不要となる。なお、前記組成物には常温時液体のケイ素化合物のほかに、塗装性改善のために有機系樹脂バインダ(例えば、アクリル樹脂系やウレタン系のバインダ)や界面活性剤などを含んでもよい。また、塗料化する際の溶媒としては、用いる常温時液体ケイ素化合物との相溶性が得られれば良く、例えば、エタノール、メタノール等の有機溶剤や、水等であっても良い。また、塗装工程は部材表面に塗膜を固定させる為の乾燥工程を用いるものであっても良い。乾燥条件は特に限定されるものではないが、使用するケイ素化合物等によって適当な乾燥条件を用いればよい。例えば、雰囲気200℃程度の乾燥炉に3分間保持するような条件があげられる。
なお、本発明で用いるMg添加Al−Si系ろう材においては、Mgが添加されていればよく、他の一般的不純物元素濃度を特に限定するものではない。また、Al−Mg−Si系ろう材には、その他に質量%でZnを0.1〜5.0%含有するものであってもよい。
【0010】
さらに、第1の本発明のろう付方法は、フッ化物系フラックスを使用せずにフラックスレスで行うものである。
第1の本発明によれば、フッ化物系フラックスを使用しないことにより、フッ化物系フラックスとアルミニウム合金中のMgとの反応によるフラックスの不活性化が問題となることはない。したがって、被接合部材として、薄肉高強度化に有効なMg添加アルミニウム合金からなるものを使用することができ、市場における今後の薄肉高強度化の要求に応えることができる。
なお、被接合部材としては、上記Mg添加アルミニウム合金からなるものに限定されるものではなく、種々のアルミニウム材を使用することができる。
【0011】
第2の本発明のアルミニウム材のろう付方法は、前記第1の本発明において、前記ケイ素化合物が、無機または有機化合物から選ばれる1つの化合物または2つ以上の混合物からなることを特徴とする。
【0012】
第3の本発明のアルミニウム材のろう付方法は、前記第1または第2の本発明において、前記ケイ素化合物が、有機シラン化合物であることを特徴とする。
【0013】
第4の本発明のアルミニウム材のろう付方法は、前記第3の本発明において、前記有機シラン化合物が、シランカップリング剤であることを特徴とする。
【0014】
第5の本発明のアルミニウム材のろう付方法は、前記第1〜第4の本発明のいずれかにおいて、前記ケイ素化合物を含む組成物が硫黄を含むことを特徴とする。
【0015】
第6の本発明のアルミニウム材のろう付方法は、前記第5の本発明において、前記硫黄が、硫黄含有シランカップリング剤によって供給されるものであることを特徴とする。
【0016】
第7の本発明のアルミニウム材のろう付方法は、前記第1〜第6の本発明のいずれかにおいて、前記接合部材が、Mg添加アルミニウム合金からなることを特徴とする。
【0017】
以下に、本発明における規定の限定理由について説明する。なお、各成分量はいずれも質量%で示される。
【0018】
1.Al−Mg−Si系ろう材
本発明では、ろう材として、質量%でMgを0.2〜5.0%、Siを3〜13%含有するAl−Mg−Si系ろう材を用いる。なお、Al−Mg−Si系ろう材の残部は、Alと不可避不純物からなるものとすることができる。Al−Mg−Si系ろう材における各元素の作用および限定理由は以下のとおりである。
【0019】
Mg:0.2〜5.0%
Mg含有量が0.2%未満では、ろう付接合面の酸化膜破壊効果が十分に得られず、5.0%を越えると効果が飽和し、かつ、アルミニウム材料の加工性に難を生じる。このため、Mg含有量は上記範囲とする。
なお、常温時液体のケイ素化合物を含む組成物を用いる本技術はMgを含まないAl−Si系ろう材を用いた場合にもフィレット形成能をもつろう付が可能であるが、本発明のようにMgを添加したろう材を用いることで、Mgによるアルミニウム表面酸化膜破壊作用が補助作用となり、より良好なフィレット形成能をもつろう付状態が得られる。
【0020】
Si:3〜13%
Siの含有量は、ろうとして機能する適正な含有量の範囲として、3〜13%とする。3%未満では生成する液相量が不足するため十分な流動性が得られず、13%を超えると初晶Siが急激に増加して加工性が悪化するとともに、ろう付時に接合部のろう侵食が著しく促進されるためである。
【0021】
2.常温時液体のケイ素化合物を含む組成物
ケイ素化合物をろう付前に被ろう付対象物に配することで、ろう付熱処理過程で熱分解を生じつつも、アルミニウム材表面を覆う酸化防止膜として機能する。これにより、ろう付昇温過程でアルミニウム材表面の酸化皮膜が分解分断されやすくなることでろう濡れ性が確保される。
また、常温時液体の組成物を用いることで、常温時粉体のフラックス粉の使用で生じていた作業環境中への粉体飛散や、粉体の粒度ばらつきや凝集を要因とする不均一な塗布状態などの問題も生じない。
なお、ケイ素化合物の中では有機シラン化合物が望ましく、有機シラン化合物の中でもシランカップリング剤がさらに望ましい。
また、有機シラン化合物は、ろう付け後にフッ化物系残渣とならないため、均一な表面処理性が得られ、フラックス除去工程も不要となる。なお、前記組成物には常温時液体のケイ素化合物のほかに、塗装性改善のために有機系樹脂バインダ(例えば、アクリル樹脂系やウレタン系のバインダ)や界面活性剤などを含んでもよい。また、塗料化する際の溶媒としては、用いる常温時液体ケイ素化合物との相溶性が得られれば良く、例えば、エタノール、メタノール等の有機溶剤や、水等であっても良い。また、塗装工程は部材表面に塗膜を固定させる為の乾燥工程を用いるものであっても良い。乾燥条件は特に限定されるものではないが、使用するケイ素化合物等によって適当な乾燥条件を用いればよい。例えば、雰囲気200℃程度の乾燥炉に3分間保持するような条件があげられる。
【0022】
3.シランカップリング剤
シランカップリング剤の末端基で脱水縮合反応を起こすアルコキシ基は、無機物(アルミニウム基材)と結合する一方で、末端基である有機官能基は有機物(アクリル樹脂系バインダ等)と結合する。そのため、有機バインダを含む塗料組成物を用いる場合は、有機バインダの塗布均一性によってケイ素化合物も部材表面に均一に分布し、更に、ハンドリング性に優れた密着性に富む塗膜が得られる。また、この分布均一性よって、ろう付ではより安定した接合が可能となる。シランカップリング剤としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0023】
4.硫黄
本発明では、ケイ素化合物を含む組成物の硫黄の含有は必須ではないが、該組成物に硫黄を添加すると、該組成物の熱分解性が向上し、外観上の問題となるようなろう付後残渣の低減が可能となる。
また、硫黄は、あらゆる態様で組成物に添加することができるが、例えば、硫黄含有シランカップリング剤によって供給されるものとすることができる。硫黄含有シランカップリング剤としては、例えば、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどが挙げられる。