特許第5904789号(P5904789)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 資生堂の特許一覧

特許5904789末梢神経細胞とケラチノサイトの共培養系及びその使用方法
<>
  • 特許5904789-末梢神経細胞とケラチノサイトの共培養系及びその使用方法 図000002
  • 特許5904789-末梢神経細胞とケラチノサイトの共培養系及びその使用方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5904789
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】末梢神経細胞とケラチノサイトの共培養系及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20160407BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20160407BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20160407BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20160407BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20160407BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALN20160407BHJP
【FI】
   C12M3/00 A
   C12M1/00 C
   C12Q1/02
   G01N33/15 Z
   G01N33/50 Z
   !C12N5/0793
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-288732(P2011-288732)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-135637(P2013-135637A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100166028
【弁理士】
【氏名又は名称】北谷 賢次
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 正史
(72)【発明者】
【氏名】傳田 澄美子
(72)【発明者】
【氏名】傳田 光洋
(72)【発明者】
【氏名】熊本 淳一
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0106192(US,A1)
【文献】 特開2008−297243(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/040920(WO,A2)
【文献】 国際公開第2005/071065(WO,A1)
【文献】 Trophic effects of keratinocytes on the axonal development of sensory neurons in a coculture model,Eur J Neurosci. ,2007年,Vol. 26,P. 113-125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N 1/−7/
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
末梢神経細胞、ケラチノサイト、及び、両細胞を別々に培養するための複数のチャンバーを備えた細胞培養容器、を含み、末梢神経細胞を播種するチャンバーとケラチノサイトを播種するチャンバーとが、末梢神経細胞から伸展する軸索が通過できる程度の内径を有する複数の流路で接続されている、キット。
【請求項2】
前記流路の内径が10μmである、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
軸索伸展を定量する方法であって、
1)請求項1又は2に記載のキット内の各チャンバーに、末梢神経細胞及びケラチノサイトを播種する工程、
2)当該キットをインキュベートする工程、及び
3)末梢神経細胞から伸展する軸索が、ケラチノサイトが播種されたチャンバー内へ侵入する量を測定する工程、
を含んで成る方法。
【請求項4】
前記末梢神経細胞がチャンバーの体積1μL当たり1,500個以上となるよう播種される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
軸索伸展阻害剤をスクリーニングする方法であって、
1)請求項1又は2に記載のキット内の各チャンバーに、末梢神経細胞及びケラチノサイトを播種する工程、
2)ケラチノサイトを含むチャンバー内に候補薬剤を添加する工程、
3)当該キットをインキュベートする工程、及び
4)末梢神経細胞から伸展する軸索が、ケラチノサイトが播種されたチャンバー内へ侵入する量を測定する工程、
を含んで成り、コントロールと比較して前記量が有意に減少した場合に当該候補薬剤が軸索伸展阻害剤として評価される、方法。
【請求項6】
前記末梢神経細胞がチャンバーの体積1μL当たり1,500個以上となるよう播種される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記軸索伸展阻害剤が鎮痒剤である、請求項5又は6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢神経細胞とケラチノサイトの共培養系、より具体的には、末梢神経細胞とケラチノサイトとを含むキット及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚には求心性神経である無髄C線維が存在しており、その末端は自由神経終末として皮膚の侵害性刺激を中枢へ伝える役割を果たしている。この機構により、化学物質、機械的な刺激、熱刺激等の侵害性刺激は痛み・痒みとして知覚されると考えられている。例えば、痒みに関与するメディエーターの1つであるヒスタミンは、肥満細胞中に大量に存在しており、外部刺激等により放出されると、C線維終末に存在するH1受容体に結合して掻痒感を惹起する。
【0003】
皮膚の表皮を掻くことで生じる機械的な侵害性刺激は、掻痒感をある程度抑制できるものの、軸索反射によりC線維を逆行してサブスタンスPなどの神経ペプチドを遊離させる。サブスタンスPはヒスタミンの放出を促進し、掻痒感を更に増幅するとともに、末梢神経の閾値を低下させる。その結果、痒みが生じやすい状態に陥り、痒み・掻破という悪循環が形成される。抗ヒスタミン薬は、このようなヒスタミンに起因する痒みを減少させることができるが、痒みを誘発する経路は他にも多数存在している。
【0004】
アトピー性皮膚炎の皮膚は痒み過敏状態にあり、通常痒みを惹起しない刺激でも掻痒感が誘発されてしまう。これは、正常な皮膚では真皮と表皮の境界線に存在するC線維の自由神経終末が、外部刺激や定常的な皮膚状態異常によりケラチノサイトから分泌される神経成長因子(NGF)などにより表皮まで伸長され、表皮内での神経線維密度が上昇することが原因の1つとして考えられている(非特許文献1)。このような神経軸索伸展は、神経細胞をケラチノサイトと共培養することで促進される(非特許文献2)。
【0005】
ケラチノサイトにおける末梢神経線維の密度上昇に起因する痒み、特に痒み過敏状態は、C線維上に存在する痒み等に関与する受容体の拮抗薬では治療することができない。そのため、痒み過敏状態を処置するための薬剤が必要とされているが、動物愛護の観点から化粧品の開発に関して動物実験を規制する動きが広がっており、かかる薬剤をin vitroで評価する系の確立が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Junko Yamaguchi, et al., "Semaphorin3A Alleviates Skin Lesions and Scratching Behavior in NC/Nga Mice, an Atopic Dermatitis Model", Journal of Investigative Dermatology (2008) 128, pp. 2842-2849
【非特許文献2】Lauriane Ulmann, et al., "Trophic effects of keratinocytes on the axonal development of sensory neurons in a coculture model", European Journal of Neuroscience, (2007), 26(1), pp. 113-125
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、神経軸索伸展を評価するためのin vitro系及びその使用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、所定の幅を有する流路で隔てられたチャンバー内で末梢神経とケラチノサイトとを共培養することにより、末梢神経からの軸索伸展が適切に評価することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本願は下記の発明を包含する:
[1]末梢神経細胞、ケラチノサイト、及び、両細胞を別々に培養するための複数のチャンバーを備えた細胞培養容器、を含み、末梢神経細胞を播種するチャンバーとケラチノサイトを播種するチャンバーとが、末梢神経細胞から伸展する軸索が通過できる程度の内径を有する複数の流路で接続されている、キット。
[2]前記流路の内径が約10μmである、[1]のキット。
[3]軸索伸展を定量する方法であって、
1)[1]又は[2]のキット内の各チャンバーに、末梢神経細胞及びケラチノサイトを播種する工程、
2)当該キットをインキュベートする工程、及び
3)末梢神経細胞から伸展する軸索が、ケラチノサイトが播種されたチャンバー内へ侵入する量を測定する工程、
を含んで成る方法。
[4]前記末梢神経細胞がチャンバーの体積1μL当たり1,500個以上となるよう播種される、[3]の方法。
[5]軸索伸展阻害剤をスクリーニングする方法であって、
1)[1]又は[2]のキット内の各チャンバーに、末梢神経細胞及びケラチノサイトを播種する工程、
2)ケラチノサイトを含むチャンバー内に候補薬剤を添加する工程、
3)当該キットをインキュベートする工程、及び
4)末梢神経細胞から伸展する軸索が、ケラチノサイトが播種されたチャンバー内へ侵入する量を測定する工程、
を含んで成り、コントロールと比較して前記量が有意に減少した場合に当該候補薬剤が軸索伸展阻害剤として評価される、方法。
[6]前記末梢神経細胞がチャンバーの体積1μL当たり1,500個以上となるよう播種される、[5]の方法。
[7]前記軸索伸展阻害剤が鎮痒剤である、[5]又は[6]の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のキットによれば、軸索伸展を定量的に評価することができるため、アトピー性皮膚炎の皮膚で見られるような軸索伸展異常を防ぐ薬剤、例えば鎮痒剤をスクリーニングすることが可能になる。また、化粧品等の開発においても、候補薬剤が軸索伸展を促進するものか否か、すなわち痒みを誘発するものか否か、本発明のキットによりin vitroで判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ケラチノサイトとDRGニューロンとを共培養した場合の顕微鏡写真。
図2】ケラチノサイトとDRGニューロンとを共培養した場合の顕微鏡写真(図2a)及び画像処理によりDRGニューロンが細線化されている図(図2b)。図2bにおける四角で覆われた部分はケラチノサイト側のチャンバーである。
【0012】
末梢神経細胞とケラチノサイトの共培養系
第一の観点において、本発明は、末梢神経細胞、ケラチノサイト、及び、両細胞を別々に培養するための複数のチャンバーを備えた細胞培養容器、を含むキット、を提供する。当該末梢神経細胞は特に限定されないが、後根神経節(DRG)由来のものはケラチノサイトとの相互作用を観察するのに好ましい。当該ケラチノサイトも特に限定されず、皮膚部由来のケラチノサイト、例えば、包皮由来のケラチノサイトを使用することができる。本発明のキットは種々の用途に使用可能であるが、一例として、アトピー性皮膚炎患者の皮疹部に由来するケラチノサイトを用いた場合、神経細胞との共培において軸索伸展促進効果を検討することもできる。
【0013】
本発明のキットにおいて使用される末梢神経細胞とケラチノサイトは、同種系でも異種系であってもよく、あらゆる哺乳動物に由来してよい。更に、これらの細胞は、紫外線や薬剤、あるいは遺伝子改変を受けたものであってもよい。しかしながら、本発明のキットにより構築されるin vitro系をヒト皮膚の環境に近づける観点からは、本発明で使用する細胞はヒト由来であることが好ましい。
【0014】
本発明のキットは各細胞を保存するための容器を備えていてもよい。当該容器は、各細胞に加え、それぞれの細胞の保存に適した培地や試薬を含み得る。ケラチノサイトはNGFなどの神経栄養因子を放出し、軸索伸展を誘導するため、軸索伸展の定量性・再現性を担保する観点からは、培地はケラチノサイト用のものが好ましい。しかしながら、本発明のキットの用途に応じて、当業者は末梢神経細胞及びケラチノサイトの培養に適した条件を適宜決定することができる。
【0015】
前記末梢神経細胞とケラチノサイトは、本発明のキットに含まれる細胞培養容器のチャンバーに別々に播種される。従って、各細胞の培養に使用するチャンバーの数は末梢神経細胞とケラチノサイトとが別々に配置できるよう少なくとも二種類必要である。所望とする実験系に応じてチャンバーの数を増大させてもよい。また、当該細胞培養容器で培養される細胞は末梢神経細胞及びケラチノサイトに限定されず、用途に応じて他の細胞を共培養することができる。各チャンバーは、細胞が接着できるよう播種前に予めコーティングされる。例えば、ケラチノサイト用のチャンバーは、II型又はI型コラーゲン溶液、そして末梢神経細胞用のチャンバーはポリ-D-リジン、ラミニン、ポリ-L-オルニチンの混合溶液でコーティングすることができ、これらの混合物であってもよい。
【0016】
両細胞用のチャンバー間は、末梢神経細胞の軸索がケラチノサイトが播種されているチャンバーへと伸展できるよう、軸索が通過できる程度の内径を有する複数の流路、例えばスリットを介して隔てられている。当該流路の内径は、ヒトの末梢神経細胞の軸索の直径を考慮して、5〜30μmであってもよい。これ以上のサイズでも本発明を実施することはできるが、神経細胞体の直径が10〜50μmであることを考慮すると、神経細胞体自体が流路を通過しないよう、内径は10μm程度であることが好ましい。更に、当該流路とチャンバーとの間又は各チャンバー間はチャネルのような流体連通可能な管により接続されていてもよい。
【0017】
本発明のキットで使用する細胞培養容器は市販されているものを使用することができる。限定することを意図するものではないが、Millipore社製のAXIS(登録商標)(Axon Investigation Systemm AX15005PB)は、複数のスリット(幅10μm)の両サイドにそれぞれ複数のウェルが配置されており、各サイドのウェル間がチャネルで接続されている細胞培養容器であるため、本発明の細胞培養容器として好適に使用することができる。
【0018】
本発明のキットは、上記細胞及び細胞培養容器の他、当該キットの用途に応じ必要な試薬(例えば、神経成長因子(NGF))、取扱説明書等を含んでもよい。
【0019】
軸索伸展の定量
第二の観点において、本発明は、上記キットを用いて軸索伸展を定量する方法、を提供する。当該定量方法は、以下の工程を含んで成る:
1)末梢神経細胞及びケラチノサイトを当該キット内の各チャンバーに播種する工程、
2)当該キットをインキュベートする工程、及び
3)末梢神経細胞から伸展する軸索が、ケラチノサイトが播種されたチャンバー内へ侵入する量を測定する工程。
【0020】
チャンバーに播種される細胞数は、軸索伸展を定量することができる限り特に限定されない。しかしながら、チャンバー内に確実に播種・定着させる観点からは、末梢神経細胞は、チャンバーの体積1μL当たり1,500個以上、好ましくは2,000個以上となるよう調節した後播種される。また、播種した細胞の数が多すぎるとマイクロチャネルに存在する培地中の栄養が不十分となるため、4、000個以下であることが望ましい。一方、ケラチノサイトは、末梢神経細胞と同様の理由から、チャンバーの体積1μL当たり1,000個以上、好ましくは2,000個以上となるよう調節した後播種される。細胞数の調節は、当業者に既知の方法、例えば密度勾配遠心法を用いて行うことができる。密度勾配遠心法の場合、密度勾配用の媒体として、例えば、Percoll(登録商標)(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)が好適に使用可能である。
【0021】
細胞培養の条件は当業者が適宜決定することができる。軸索伸展を観察する場合、例えば数日間培養され、その間一日置きに培地は交換される。培養日数が増えるにつれ、ケラチノサイトと同様にNGFを分泌するシュワン細胞が凝集し、その結果、ケラチノサイトより寧ろ、凝集したシュワン細胞への神経軸索伸展が顕著になる。従って、限定することを意図するものではないが、ケラチノサイトへの神経軸索伸展を評価する場合、培養日数は3〜6日が好ましい。しかしながら、培養日数は本発明の目的に応じて適宜変更することができる。培地は市販のものを使用することができ、例えば、EpiLife(登録商標)無血清培地(GIBCO)にS7 サプリメント(GIBCO)を添加したものが培地として適している。更に、末梢神経細胞の生存率を高めるために、ウシ胎児血清ならびに抗生物質-抗真菌剤溶液を培地に添加してもよい。
【0022】
所定の期間培養された後、反応培養容器は軸索が伸展した量(本明細書では「軸索伸展量」とも称する)が測定される。本明細書で使用する場合、「軸索伸展量」は、ケラチノサイトのチャンバーの単位面積当たりの、流路を超えて当該チャンバー内に伸展した末梢神経細胞の面積の割合(%)を意味する。軸索伸展量は、例えば、各細胞を免疫染色して可視化し、蛍光顕微鏡のもと、流路を超えてケラチノサイト側に伸長した神経線維の量(面積)を測定することで定量してもよい。当該測定は画像解析ソフトを使用して実施することもでき、この場合、下記の式に基づき軸索伸展量が算出される:
流路を超えて伸展した末梢神経細胞のピクセル数/解析エリアのピクセル数×100
解析はケラチノサイト側のチャンバー全てについて実施する必要はなく、任意の一視野当たりにおける軸索伸展量を測定してもよい。
【0023】
第三の観点において、本発明は、上記キットを用いて軸索伸展阻害剤をスクリーニングする方法、を提供する。当該スクリーニング方法は、以下の工程を含んで成る:
1)末梢神経細胞及びケラチノサイトを当該キット内の各チャンバーに播種する工程、
2)ケラチノサイトを含むチャンバー内に候補薬剤を添加する工程、
3)当該キットをインキュベートする工程、及び
4)末梢神経細胞から伸展する軸索が、ケラチノサイトが播種されたチャンバー内へ侵入する量を測定する工程。
【0024】
その結果、コントロールと比較して前記量が有意に減少した場合に当該候補薬剤が軸索伸展阻害剤として評価される。前記工程のうち、播種工程、インキュベート工程、及び測定工程は上記定量方法と同様のものを使用してもよい。当該スクリーニング方法により軸索伸展阻害剤として評価された薬剤は、表皮内の末梢神経密度の上昇を防ぐと考えられるため、鎮痒剤としても有用であることが予期される。例えば、軸索伸展阻害剤として、セマフォリン3A(非特許文献1(上掲))、ポリイノシン:ポリシチジン酸(ポリI:C)(Jill S. Cameron, et al., "Toll-like receptor 3 is a potent negative regulator of axonal growth in mammals. "J Neurosci. 2007 Nov 21;27(47):13033-41.)及びアクチノマイシンD(David Tonge, et al., "Enhancement of axonal regeneration by in vitro conditioning and its inhibition by cyclopentenone prostaglandins", J Cell Sci. 2008 Aug 1;121(15):2565-77.)が知られている。
【0025】
次に、本願発明を以下の実施例により更に具体的に説明する。
【実施例】
【0026】
実施例1:軸索伸展の観察
細胞培養容器としてAXIS(登録商標)(Millipore社製)を準備し、その取扱説明書に従いAXIS(登録商標)の各チャンバーを、ポリ-D-リジン、ラミニン、ヒトII型コラーゲン、ポリ-L-オルニチンの混合液でコーティングした。翌日、当該コーティングを洗浄し、新生児由来ケラチノサイト(ヒト新生児由来表皮ケラチノサイト(クラボウ社製: をチャンバー1μl当たり1,000個播種した。
【0027】
続いて、冷凍されていたラットDRGニューロン(ロンザ社製:R-DRG-505 )を解凍し、EpiLife(登録商標)無血清培地(GIBCO)に6mlのS7 サプリメント、ペニシリンG−ストレプトマイシン−ファンギゾンの混合溶液(1ml当たりペニシリン:10,000単位/mL;ストレプトマイシン:10,000μg;及び25μgのアンフォテリシン(Fungizone(登録商標))(「PSF」と称する)、ウシ胎児血清(FBS)を添加したDRG培地中で撹拌した。DRG培地に含まれたDRGニューロンを30% Percoll(登録商標)(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に重層し、10,000rpm、4℃の条件のもと5分間遠心分離した。
【0028】
遠心分離した試料の上清を捨て、残渣に10mlのDRG培地を添加し、再度10,000rpm、4℃の条件のもと5分間遠心分離した。再度上清を捨て、残渣に対し20μlのDRG培地を添加し、AXIS(登録商標)(容積:チャネル部 5ul;ウェル 200ul程度)のチャンバー1μl当たりDRGニューロンを2,000個播種した。
【0029】
AXIS(登録商標)を37℃、5%CO2の条件のもと培養した。顕微鏡観察した結果、培養開始後1日目からケラチノサイト側のチャンバーに神経線維構造が確認された。培養3日目には、AXIS(登録商標)のスリットを超えて形成された神経線維はケラチノサイトとネットワークを構築した。そして、培養6日目にケラチノサイト側への神経の侵入量が顕著に増大し、神経ネットワークもより複雑になった。これらの結果を図1に要約する。
【0030】
実施例2:軸索伸展量の測定
セマフォリン3Aは、表皮内の神経細胞密度を減少させるタンパク質である(非特許文献1)。既知の軸索伸展阻害剤であるセマフォリン3Aを用い、以下の方法で軸索伸展量を測定した。
【0031】
最初に、実施例1に記載の方法に従い、AXIS(登録商標)中で末梢神経細胞とケラチノサイトとを共培養し、培養1日目に2.5μg/mlのセマフォリン3Aをケラチノサイト側のチャンバーに添加した。培養3日目に、各細胞について免疫染色を行い、ケラチノサイトへの末梢神経軸索の伸長を可視化した。一次抗体として、ケラチノサイトについては抗E-カドヘリン抗体、そしてDRGニュートンについては抗β−チューブリン抗体を用いた。結果を図2に示す。
【0032】
可視化したデータは、コンピューター上での画像処理により定量評価した。解析ソフトにはMatlab 2010b,(The MathWorks, Natick, MA, USA)を使用した。その結果、セマフォリン3Aを添加していない場合に、軸索伸展量(DRGニューロンのピクセル数/解析エリアの全ピクセル数)が2.22%であったのに対し、セマフォリン3Aを添加した場合の軸索伸展量は0.6%であった。すなわち、セマフォリン3Aの存在下で軸索伸展量は約1/4に減少した。
図1
図2