(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5904792
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】粒子状材料の冶金組成物、自己潤滑性焼結体、および自己潤滑性焼結体を得る方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/10 20060101AFI20160407BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20160407BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20160407BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20160407BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20160407BHJP
【FI】
B22F3/10 G
C22C19/05 Z
C22C19/03 Z
B22F3/02 S
B22F3/02 P
B22F3/24 F
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-526357(P2011-526357)
(86)(22)【出願日】2009年9月9日
(65)【公表番号】特表2012-502183(P2012-502183A)
(43)【公表日】2012年1月26日
(86)【国際出願番号】BR2009000292
(87)【国際公開番号】WO2010028470
(87)【国際公開日】20100318
【審査請求日】2012年5月25日
(31)【優先権主張番号】PI0803956-9
(32)【優先日】2008年9月12日
(33)【優先権主張国】BR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506198746
【氏名又は名称】ワールプール・エシ・ア
(73)【特許権者】
【識別番号】510333058
【氏名又は名称】ウニベルシダーデ・フエデラル・デ・サンタ・カタリナ(ウ・エフイ・エシ・セー)
(73)【特許権者】
【識別番号】511065255
【氏名又は名称】ルパテツク・エシ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビンデル,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】クレイン,アロイージオ・ネルモ
(72)【発明者】
【氏名】ビンデル,クリスチアーノ
(72)【発明者】
【氏名】ハメス,ジゼル
(72)【発明者】
【氏名】パルカー,モイセス・ルイス
(72)【発明者】
【氏名】リストウ・ジユニア,バルデイー
【審査官】
静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−093002(JP,A)
【文献】
特開2003−113445(JP,A)
【文献】
特開平06−136405(JP,A)
【文献】
特開平04−254556(JP,A)
【文献】
特開昭58−133346(JP,A)
【文献】
特表2004−533543(JP,A)
【文献】
特開平05−148508(JP,A)
【文献】
特開平10−001756(JP,A)
【文献】
特開平05−043994(JP,A)
【文献】
特開2004−018940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00−8/00
C22C 1/04、1/05、33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造化された、および焼結された自己潤滑性複合体を形成するための、粒子状材料の冶金組成物であって、焼結されるべき複合体中に構造的マトリックス(10)を形成する、主たる化学元素からなる主粒子状金属材料、および少なくとも1つの粒子状硬化元素;グラファイト、六方晶窒化ホウ素またはこれらの両方の任意の割合での混合物から選択される非金属の粒子状固体潤滑剤(20);および、構造化された冶金組成物を焼結する間に、構造的マトリックス(10)を形成する主粒子状金属材料と粒子状固体潤滑剤(20)の間に液相を形成し、別個の粒子中に粒子状固体潤滑剤を凝集させることが可能である少なくとも1つの粒子状合金元素からなり、主粒子状金属材料がニッケルであり、ニッケルマトリックスを硬化させる機能を有する粒子状硬化元素、および、液相を形成し、別箇の粒子中に固体潤滑剤を凝集させる機能を有する粒子状合金元素は治金組成物の2重量%から8重量%の含有率の、ケイ素、リンおよびクロムからなる混合物であることを特徴とする、冶金組成物。
【請求項2】
構造化された、および焼結された自己潤滑性複合体を形成するための、粒子状材料の冶金組成物であって、焼結されるべき複合体中に構造的マトリックス(10)を形成する、主たる化学元素からなる主粒子状金属材料、および少なくとも1つの粒子状硬化元素;グラファイト、六方晶窒化ホウ素またはこれらの両方の任意の割合での混合物から選択される非金属の粒子状固体潤滑剤(20);および、構造化された冶金組成物を焼結する間に、構造的マトリックス(10)を形成する主粒子状金属材料と粒子状固体潤滑剤(20)の間に液相を形成し、別個の粒子中に粒子状固体潤滑剤を凝集させることが可能である少なくとも1つの粒子状合金元素;および有機バインダーからなり、主粒子状金属材料がニッケルであり、ニッケルマトリックスを硬化させる機能を有する粒子状硬化元素、および、液相を形成し、別箇の粒子中に固体潤滑剤を凝集させる機能を有する粒子状合金元素は治金組成物の2重量%から8重量%の含有率の、ケイ素、リンおよびクロムからなる混合物であることを特徴とする、冶金組成物。
【請求項3】
圧縮によって構造化され、ならびにニッケルの主粒子状金属材料は、平均粒径が10μmから90μmであり、マトリックスを硬化させる機能を有する粒子状硬化元素、および、圧縮によって構造化された冶金組成物の焼結中に、液相を形成し、および粒子状固体潤滑剤を凝集させる機能を有する粒子状合金元素は、平均粒径が45μm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
射出成形によって構造化され、およびニッケルの主粒子状金属材料、粒子状硬化元素、液相を形成する粒子状合金元素、ならびに粒子状固体潤滑剤は、平均粒径が1μmから45μmであることを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
有機バインダーはパラフィンおよびその他のワックス類およびEVAからなる群から選択され、有機バインダーの含有率は冶金組成物の総体積の40%から45%であることを特徴とする、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項で定義される粒子状材料の冶金組成物から自己潤滑性焼結体を得る方法であって:
冶金組成物を規定する粒子状材料を所定量で混合する工程;
粒子状材料混合物を均質化する工程;
粒子状材料混合物を圧縮して、該混合物に、焼結される製造物の形状を付与する工程;および
圧縮され、構造化された混合物を1125℃から1250℃の温度で焼結して、焼結中に、粒子状合金元素で液相を形成し、よって構造的マトリックスの中に分散された別個の粒子中の粒子状固体潤滑剤の凝集を促進させる工程
を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、粒子状材料の冶金組成物(金属粉末および非金属粉末の形状)から構造化され、焼結されるように設計されている完成製造物(部品)および半完成製造物(幾つかの物品)を製造するための特殊な技術に関する。製造物は、焼結工程で形成される製造物の金属構造マトリックスを構成する構成要素の他に、粉末形状で金属マトリックス中に分散されている固体潤滑剤を含み、それによって、連続的な金属マトリックスを提示し、高い機械的強度および高い硬度と結び付く低い摩擦係数を焼結部品や製造物に付与することが可能な、ミクロ構造の自己潤滑性複合体を形成する。本発明は、組成物から、焼結することによって、自己潤滑性複合体(部品)を形成するための前記冶金組成物、ならびに粉末冶金によって前記部品または製造物を得るための特殊な代替技術または方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
機械工学においては、低い摩擦係数と結び付く高い機械的強度および高い磨耗強度といった特性を必要とする用途のための材料を得るための研究がますます進んでいる。
【0003】
今日、磨耗および腐食の問題は合わせて、世界のGDPの2%から5%の損失に相当する。地球で生成される機械エネルギー全体の約35%が、潤滑性の不足のために失われ、摩擦によって熱に変換されている。エネルギー損失とは別に、この発生された熱は、力学系の性能を、加熱によって、損なっている。従って、機械部品において、摩擦下で低い摩擦係数を維持することは、エネルギーの効率的な使用の点のみならず、環境保護への寄与に加えて、部品およびこれらが機能する機械システムの耐久性向上の点でも非常に重要である。
【0004】
相対運動する表面間の磨耗および摩擦を減らすために用いられる方法は、これらの表面を離して維持し、この間に潤滑層を挟むことである。可能な潤滑方法の中では、流体力学(流体潤滑剤)が最も多く用いられている。流体力学的潤滑では、相対運動する表面を完全に分離する油膜が形成される。しかしながら、非常に高温または低温での用途のように、流体潤滑剤が化学的に反応するかもしれない用途において、および流体潤滑剤が汚染物質として作用するかもしれない場合、流体潤滑剤の使用は通常問題があることが指摘されるべきである。さらに、サイクル停止の結果生じる限界潤滑の状況、または、連続的な油膜を形成することが不可能な状況においては、部品間に接触が生じ、その結果、表面を磨耗してしまうことになる。
【0005】
乾燥潤滑、即ち、固体潤滑剤を用いる潤滑は、従来の潤滑に代替するものである。なぜなら、乾燥潤滑は、潤滑層の存在によって作用し、形成された層を破裂させずに、部品表面間の接触を防ぐからである。
【0006】
固体潤滑剤は、問題のある潤滑領域においてよく許容されてきた。固体潤滑剤は、従来の潤滑剤が使用できない、極端な温度、高負荷条件、および化学反応性の環境で使用することができる。さらに乾燥潤滑(固体潤滑剤)は、環境的によりクリーンな代替物である。
【0007】
固体潤滑剤は、部品の表面に置かれたもしくは生成された膜(もしくは層)形状の、または部品の材料の中に組み込まれた第2の相の粒子の形状の、減摩対(tribological pair)の部品に適用され得る。特殊な膜または層が適用されている場合で、これらが磨耗している場合、金属間の接触が生じ、結果として急速に、保護されていない対向面および相対運動可能な部品の磨耗が生じる。膜または層が適用されるこれらの解決法においては、潤滑剤の交換が困難であること、ならびに後者の酸化および分解が起こることが、さらに考慮されるべきである。
【0008】
従って、材料、即ち、部品の寿命を延ばし得る、より適切な解決法は、部品を構成する材料の中に固体潤滑剤を組み込み、摩擦係数の低い複合材料中に部品の構造を形成することである。これは、粉末から材料を処理する技術を通して、即ち、粉末混合物を、加圧、圧延、押出等を含む圧縮によって、または射出成形後、焼結することによって構造化し、よって通常すでに最終的な形状および寸法(完成製造物)または最終的なものに近い形状および寸法(半完成製造物)の連続的な複合材料を得るようにすることによって、可能である。
【0009】
複合材料の粉末冶金によって製造され、部品の構造的マトリックスを形成する粒子状プリカーサ、および部品の構造的マトリックスに組み込まれる粒子状固体潤滑剤を含む、自己潤滑性ブッシングなどの、低い摩擦係数を示す自己潤滑性機械的部品(粉末冶金製造物)は、種々の家電や小型機器、例えば、プリンター、電気シェーバー、ドリル、混ぜ合わせ器などに使用されている。構造的マトリックスの、既知の従来技術の解決法の多くは、青銅、銅、銀、および純鉄を使用する。固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン(MoS
2)、銀(Ag)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびモリブデンジセレニド(MoSe
2)が使用されている。固体潤滑剤粒子として、グラファイト粉末、セレニウムおよび二硫化モリブデンおよび低融点金属を含有する青銅および銅マトリックスを有する、この種の自己潤滑性ブッシングは、幾つかの工学的用途において何十年も製造され、使用されている。
【0010】
しかしながら、これらの部品は、固体潤滑剤粒子の高い体積含有量の関数としての高い機械的強度を示さず(25%から40%)、その結果、部品の機械的強度に関連するマイクロ構造的要素であるマトリックス相の連続度が低くなる。この高い固体潤滑剤含有率は、金属マトリックス(強度および硬度)の機械的特性、ならびに、マトリックス中に分散している固体潤滑剤粒子の大きさ、形成された複合材料中のこれらの粒子間の平均的な自由経路のなどのマイクロ構造パラメータが最適化されていない状況で、低い摩擦係数を得るために必要であると考えられてきた。低い固有剪断強度を有する固体潤滑剤の体積パーセンテージが高いことは、金属マトリックスの機械的強度に寄与しない。
【0011】
さらに金属マトリックスの硬度が低ければ、焼結された材料または製造物の接触表面上で、固体潤滑剤粒子の障害物が徐々に生じることになる。従って、十分に低い摩擦係数を維持するために、従来は、高い体積パーセンテージの固体潤滑剤が乾燥自己潤滑性複合材料の組成物中に用いられてきた。
【0012】
上述のものと比較して、部分的に異なり、およびより発展した内容が、US6890368Aに記載されている。これは、300℃から600℃の温度範囲で使用される、十分な牽引抵抗(s
τ≧400MPa)、および0.3未満の摩擦係数を有する自己潤滑性の複合材料を提案している。この文献は、低い摩擦係数を有し、金属構造マトリックスを形成する粒子状材料の混合物から焼結され、固体潤滑剤粒子として、この中に、六方晶窒化ホウ素、グラファイト、またはこれらの混合物を主に含む、部品または製造物を得るための解決法を提示しており、この材料が300℃から600℃の温度範囲、十分な牽引抵抗(σ
τ≧400MPa)、および0.3未満の摩擦係数を有するのに適していると述べている。
【0013】
にもかかわらず、構造的マトリックス粉末および固体潤滑剤粉末、例えば、六方晶窒化ホウ素およびグラファイト等を同時に示す粉末混合物の圧密化によって得られた部品または製造物は、焼結後、低い機械的強度および構造的な脆弱さを有している。
【0014】
上で引用された欠点は、構造的マトリックス10の粉末粒子間の固体潤滑剤20相の剪断による不十分な分散性の結果、添付図面の
図1Aに示された条件から、
図1Bに示された条件まで、製造される部品または製造物の混合および構造化(緻密化)の工程中に生じるものである。固体潤滑剤20は、構造的マトリックス10相の粉末粒子間の剪断によって分散し、混合および構造化の工程中に、例えば、粉末加圧、粉末圧延、粉末押出などによる圧縮、ならびに粉末射出成形によって、粒子を囲む傾向にある。それによって工程は、添付図面の
図1Bに模式的に示すように、前記固体潤滑剤に、この低い剪断応力を超える応力を付加する。
【0015】
一方、構造的マトリックスの(粉末)粒子間に固体潤滑剤層が存在することで、マトリックスに溶解する固体潤滑剤の場合、複合体の金属構造マトリックスの粒子間の焼結ネックの形成を阻害しない。しかしながら、この場合、固体潤滑剤は、部品を焼結する間に溶解することによって、この潤滑機能を失う。なぜなら、固体潤滑剤相は、マトリックス中に溶解することで消えるからである。六方晶窒化ホウ素などの構造的マトリックスに溶けない固体潤滑剤の場合、剪断によって形成された層21(
図1B参照)は、焼結中、複合体の構造的マトリックス10を形成する粒子間の金属接触を損なう。このことは、複合材料の構造的マトリックス10相の連続性の度合いを減少させ、材料および得られた製造物を構造的に脆弱化させることに寄与する。
【0016】
上記制限により、構造的マトリックスに溶解する際に潤滑剤の可溶化を阻害するため、および機械的に均質化し、焼結中、異なる粒子中に粒子状材料混合物を構造化(緻密化)する工程において、層21の形状で分散させた不溶性の固体潤滑剤を再集合させるために、技術的解決法が必要となった。
【0017】
不溶性の固体潤滑剤粒子と、複合材料の構造的マトリックス10を形成する材料の粒子よりはるかに小さな粒径の固体潤滑剤20(添付の図面の
図2B参照)である複合材料の構造的マトリックス粒子を混合すると、上記と類似の状況が生じる。この場合、固体潤滑剤20のはるかに細かい粒子が、焼結前の処理工程において、さらに剪断応力をかけることなく、構造的マトリックス10の金属粉末粒子間の比較的連続的な層21を形成する傾向にある。固体潤滑剤20の微細粒子状材料のほぼ連続的な層21は、金属構造マトリックス10間の粒子間の焼結を損ない、最終的な部品を構造的に脆弱にする。不溶性相の場合、複合体マトリックスの粒子状材料の粒子およびマトリックス中に分散される固体潤滑剤の粒子が同じ大きさのオーダーで粒径を示す、より適切な分散となる(
図2A参照)。
【0018】
金属構造マトリックス10は、形成される複合材料に機械的強度を付与する組成物の唯一のマイクロ構造的構成要素であるので、複合体の金属マトリックスの連続性の程度が高くなればなるほど、この材料で製造された焼結品または部品の機械的強度は高くなるであろう。乾燥自己潤滑性の焼結複合材料の金属構造マトリックスの連続性の高い程度を維持するためには、低い多孔性の他に、固体潤滑剤相の低い体積パーセンテージが必要である。なぜなら、固体潤滑剤は、材料の機械的強度に寄与せず、結果として焼結体の機械的強度に寄与しないからである。
【0019】
従って、技術的解決法には、マトリックスに可溶性の場合は、潤滑剤の溶解性化を阻害すること、および、混合物を機械的に均質化し構造化(緻密化)する工程の間、剪断によって固体潤滑剤を再結合し、その結果、材料の中に層21の形状で分散させ、焼結および複合体の構造的マトリックス10の連続性の程度を低下させることになるようにする必要である。固体潤滑剤20は、複合材料の体積で、均一に分散された別個の粒子の形状で、即ち、金属構造マトリックス10の粒子間で規則的である平均的な自由経路「λ」で、分布されなければならない(
図3参照)。これによって、
図3に示すように、潤滑効率が高くなると同時に、複合体マトリックスの連続性の程度が高くなり、焼結中に形成される自己潤滑性複合材料へのより高い機械的強度が保証されることになる。
【0020】
マトリックスを形成するための材料として、金属単体の鉄または合金鉄を有し、同時に固体潤滑剤としてのグラファイトを有する、自己潤滑性複合体を生成するために調製された組成物は、結果としてマトリックスを含む自己潤滑性焼結複合材料となり、これは、鉄マトリックスによる炭素の可溶性のために過度に硬く、脆く、期待および所望以上の摩擦係数を持ち得る。
【0021】
高い焼結温度(723℃より高い。)では、グラファイトの化学元素炭素は、鉄(ガンマ鉄)またはオーステナイト系の合金鉄の中心面の立体構造中に溶解する。従って、グラファイトを含有する固体潤滑剤の使用により、723℃より高いと、焼結中、炭素と鉄の望ましくない反応を引き起こし、グラファイトの炭素の全部もしくは大半は、固体潤滑剤として作用しなくなり、炭化鉄を形成することになるため、自己潤滑性が減少した、もしくは自己潤滑性を持たない部品を製造する。
【0022】
前記文献US6890368は、金属マトリックスを形成するために提供される材料に関する解決法を提示している。そこでは、グラファイトによって規定される固体潤滑剤と鉄を含む構造的マトリックスの粒子との相互作用を阻害するために、高い焼結温度で、あらかじめグラファイト粒子を金属によりコーティングし、コーティングされたグラファイトと鉄を含む構造的マトリックスとの間に相互作用が起こる可能性を最小限にしている。
【0023】
US6890368で示唆されている解決法は、部品焼結中のグラファイト固体潤滑剤の損失の問題を、グラファイトをコーティングすることによって解決する。コーティングは、点検時(相互運動における摩擦)に、グラファイトが拡がって部品の工作物表面に層を形成し、固体潤滑剤の供給を減らし、それにより潤滑効率が悪化することを防いでいる。さらに、固体潤滑剤が六方晶窒化ホウ素を含有し、ミルでの機械的混合および構造化(緻密化)の工程において剪断によってマトリックス粒子間に膜を生成することができる場合、グラファイトをコーティングするだけでは、金属マトリックスの脆さの問題を解決しない。上述の米国特許文献には、剪断応力の低い前記固体潤滑剤を含有する、焼結される部品を成形するための可能な技術の1つとして、圧縮および前焼結を検討しているにもかかわらず、六方晶窒化ホウ素の固体潤滑剤の剪断による焼結片の脆さの問題は論じられていない。
【0024】
上で述べた欠点とは別に、前記グラファイトコーティングの解決法は、採用される材料、および固体潤滑剤の予め行う金属化処理の必要性のために、コストが高い。
【0025】
さらに、自己潤滑性の複合材料中で部品または製造物を製造するために最近まで通常使用されていたマトリックスの種類は、固体潤滑剤相の粒子が急速に被覆されるのをマトリックス相によって防ぐのに必要な硬度を提示していない。これは、部品の工作物表面が受ける機械的力によって引き起こされる塑性的な微小な変形によるものであり、それによって、部品の工作物表面上に拡がる固体潤滑剤によって摩擦層を維持することを阻害している。
【0026】
部品の操作時(相互運動における摩擦)に、必要な負荷容量を持つ機械化サポートとして機能するためだけでなく、固体潤滑剤粒子が構造的マトリックス塑性変形によって被覆されるのを防ぐためにも、材料の金属マトリックスは、高い耐塑性変形性を有することが必要である。それによって、固体潤滑剤が、部品間の相互運動が生じている界面で拡がるのを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】米国特許第6890368号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
(発明の要旨)
従って、本発明は、金属構造マトリックスおよび非金属固体潤滑剤によって形成される複合材料の冶金組成物であって、高い機械的強度および高い硬度に結び付けられる低い摩擦係数を提示する焼結体(完成品および半完成品)の構造化(緻密化)および焼結作業による製造に適切である冶金組成物を提供することを目的とする。同様に、本発明は、構造化(緻密化)および焼結作業により、上記したような焼結体を製造するための複合材料の冶金組成物であって、鉄もしくは合金鉄に基づくマトリックスに適用される時は、マトリックスが焼結温度で炭素を溶解するとしても、炭素を含有する、即ち、グラファイトからの、粒子状固体潤滑剤の前処理を必要としない、複合材料の冶金組成物を提供することを目的とする。
【0029】
本発明の更なる目的は、低コストで容易に得ることができる、上記したような組成物を提供することである。
【0030】
本発明はまた、加圧、圧延、押出その他により圧縮し、または射出成形し、その後上記組成物を焼結することによって構造化して得られる焼結体を提供することを目的とする。これは、例えば、グラファイト、六方晶窒化ホウ素またはこれらの混合物を含む固体潤滑剤を用いることによって金属構造マトリックスの高いレベルの連続性、低い摩擦係数および高い機械的強度を示す。
【0031】
本発明はさらに、構造的マトリックスの連続性および得られた製造物の摩擦係数および機械的強度の所望の値を保証するために、用いられる組成物の粒子を前もって調製する必要なしに、構造化(緻密化)および焼結によって焼結体を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の第1の態様において、上記目的は、金属構造マトリックスを規定する粒子状材料;成分の混合物の機械的均質化後、または複合材料の組成物の構造化(緻密化)後、剪断および金属構造マトリックスを形成する材料の粒子上への層の形成を行う固体潤滑剤を規定する粒子状材料;および、焼結中、複合材料のマトリックスと反応させ、層の中に存在する固体潤滑剤の逆分散を反転させることによって、液相を形成することが可能な粒子状合金元素(化学元素)を規定する、少なくとも1つの粒子状材料からなる、混合物を含む組成物を圧縮および射出成形する作業のうちの1つによって前もって構造化された自己潤滑性の焼結複合体を製造するための複合材料の冶金組成物によって達成される。
【0033】
粒子状混合物の成分の相互拡散および、形成される材料中に存在するマトリックス材料の粒子上への分散によって形成される液相は、これらの粒子および接着された固体潤滑剤層の間を通過し、固体潤滑剤を除去し、マトリックス材料の中に分散された別個の粒子中での固体潤滑剤の凝集を誘発し、焼結中、マトリックス相の粒子の材料に連続性を持たせることができる。
【0034】
本発明の別の態様において、金属構造マトリックス(複合体マトリックス)を規定する粒子状材料、および前記粒子状材料の焼結温度で金属構造マトリックスの粒子状材料と反応させた固体潤滑剤を規定する粒子状材料;ならびに焼結温度で金属構造マトリックス(複合体マトリックス)の材料のアルファ相を安定化する合金成分を規定する少なくとも1つの粒子状材料からなる混合物を含む上記規定された組成物とあらかじめ構造化(緻密化)された組成物から焼結体を製造するための複合材料の冶金組成物が提供される。
【0035】
本発明の別の態様において、上記目的は、組成物のいずれかによって得られ、固体潤滑剤の別個の粒子の分散を示す金属構造マトリックスであって、連続性を有し、製造物生成に使用される冶金組成物に含有される量と等しい量の固体潤滑剤を含む金属構造マトリックスを含む焼結体によって達成される。
【0036】
本発明の別の態様において、上記目的は、固体潤滑剤粒子の分散を示す、上記規定された冶金組成物からの焼結体を得るための方法によって達成される。該方法は、(a)冶金組成物を規定する所定量の粒子状材料を混合し、例えば、ミル/ミキサーで機械的に均質化を行う工程;(b)得られた混合物を構造化(緻密化)し、混合物に、混合物に焼結される製造物(部品)の形状を付与する工程;(c)前圧縮された材料を焼結させる工程を含む。
【0037】
焼結前に、押出または射出成形によって冶金組成物の構造化を行う場合、構造化の段階で組成物に流動性を付与するために、組成物中に有機バインダーを含む必要がある。
【0038】
本発明によって得られた自己潤滑性の複合材料は、機械的強度が高い成分を製造するため、即ち、乾燥自己潤滑性ブッシング用のみならず、ギア、ピニオン、クラウン、フォークおよびドライバー、コンプレッサー用のピストンおよび連結棒などの機械的部品を製造するために用いることができる。
【発明の効果】
【0039】
同時に高い機械学的および減摩性能は、組成物の材料のために設計された、マトリックスの機械的特性およびマイクロ構造パラメータに関連する一連の特殊要件の用途に起因する。これは、以下のものを含む:マトリックスの硬度および機械的強度、マトリックス中に分散された固体潤滑剤粒子間の大きさおよび平均自由行路;マトリックスの連続性の程度;構造的マトリックス中に分散された固体潤滑剤粒子の体積パーセンテージ;および固体潤滑剤相およびマトリックス間の相対的安定性。
【0040】
本発明を、本発明の実施形態によって、添付の図面を用い、以下において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1A】
図1Aは、焼結前に、粒子状材料の混合物を機械的に均質化し、部品を構造化(緻密化)をする操作を行う前の、構造的マトリックスならびに六方晶窒化ホウ素および/またはグラファイトを含有する固体潤滑剤を含む従来技術の粒子状材料の組成物のマイクロ構造の一部を模式的に示す図である。
【
図1B】
図1Bは、
図1Aと同様であるが、構造的マトリックス粒子間の固体潤滑剤層の形成によって均質化および構造化された後の、同じ従来技術の粒子状材料の組成物のマイクロ構造を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、金属構造マトリックスの粒径と類似の粒径(同じ大きさのオーダー)を持つ粒子状固体潤滑剤の材料を有し、連続性の程度が好ましい金属構造マトリックスの粒子状材料の組成物または混合物のマイクロ構造の一部を模式的に示す図である。
【
図2B】
図2Bは、構造的マトリクスの粒子状材料の組成物のマイクロ構造の一部を模式的に示す図である。金属構造マトリックスの粒径よりもはるかに小さな粒径の固体潤滑剤を有し、それによって、焼結の前の処理時に剪断応力がなくても、細かい固体潤滑剤の粒子が比較的連続した層を金属構造マトリックスの粒子間に形成する。
【
図3】
図3は、本発明の粒子状材料の組成物のマイクロ構造の一部に、この間の規則的な平均自由行路「λ」を有する、均一に分散された別個の粒子の形状の固体潤滑剤を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、この構造的マトリックスが合金鉄である自己潤滑性焼結体のマイクロ構造を示す図であり、グラファイトおよび六方晶窒化ホウ素粒子を示し、焼結中に、構造的マトリックスの粒子材料中に分散した液相が設けられていることを示している。
【
図5】
図5は、続いて焼結される部品または製造物の形成における圧縮の例を単純化した図で、模式的に示す図である。圧縮は、焼結される製造物の2つの対向面に自己潤滑性の層を設けるために行われる。
【
図6A】
図6Aは、押出によって行われる圧縮によって得られる構造化がなされた製造物の例を、自己潤滑性複合材料の棒材、自己潤滑性複合材料の管、および自己潤滑性材料の外層でコーティングされた、金属合金コアを持つ棒材で、それぞれ示す図である。
【
図6B】
図6Bは、押出によって行われる圧縮によって得られる構造化がなされた製造物の例を、自己潤滑性複合材料の棒材、自己潤滑性複合材料の管、および自己潤滑性材料の外層でコーティングされた、金属合金コアを持つ棒材で、それぞれ示す図である。
【
図6C】
図6Cは、押出によって行われる圧縮によって得られる構造化がなされた製造物の例を、自己潤滑性複合材料の棒材、自己潤滑性複合材料の管、および自己潤滑性材料の外層でコーティングされた、金属合金コアを持つ棒材で、それぞれ示す図である。
【
図7】
図7は、部品または製造物の形成および続く焼結における圧縮の例を単純化した図で模式的に示す図である。圧縮は、自己潤滑性複合材料を金属合金の板状または細片の対向する両面に圧延することによってなされる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(発明の記述)
既に前述したように、本発明の目的の1つは、粒子状材料の冶金組成物を提供することである。これは圧縮(加圧、圧延、押出)または射出成形によって均質に混合および構造化(緻密化)されることができ、従来技術の教示によって得られた製造物と関連する、硬度や機械的強度が高く摩擦係数が減少した製造物を得るために、焼結されるように規定された幾何形状(部品)が想定され得る。本冶金組成物は、組成物の形成において優勢な主粒子状金属材料、および合金元素を硬化させる少なくとも1つの粒子を含み、これらの成分は、焼結される複合体中の構造的マトリックス10の形成に関わっている。
【0043】
本発明によれば、主粒子状金属材料は通常、鉄またはニッケルであり、鉄を含む構造的マトリックスまたはニッケルベースの構造的マトリックスを規定している。
【0044】
主粒子状金属材料として鉄を使用する組成物において、マトリックスを硬化させる機能を有する粒子状硬化合金元素は、例えば、クロム、モリブデン、炭素、ケイ素、マンガンおよびニッケルから選択される元素のうちの少なくとも1つによって規定されるが、構造的マトリックス10中で同じ機能を行い得る他の元素を用いることができることを理解されたい。本発明では、形成される構造的マトリックス10を硬化する機能を有し得る合金硬化元素の供給を必要としているが、本明細書に例示された合金元素に規定されるものではないことに留意されたい。
【0045】
構造的マトリックス10を形成する成分の他に、本組成物は、規定されないが、好ましくは、六方晶窒化ホウ素、グラファイトまたはこれらの任意の割合での混合物である非金属粒子状固体潤滑剤20を含む。粒子状固体潤滑剤20は、形成される複合材料の体積の約15%以下の体積パーセンテージであり、この体積パーセンテージは、従来技術の場合の通常25%から40%の体積パーセンテージに比べてかなり低く、構造的マトリックス10の高い連続性の程度、ひいては得られる焼結体のより高い機械的強度に関連して寄与している。
【0046】
従来技術の説明において既に述べたように、また、
図1A、1B、2Aおよび2Bに示すように、組成物、続く、焼結複合体の形成に用いられる非金属粒子状固体潤滑剤の低い剪断応力のために、組成物の粒子状材料を混合する工程および圧縮または射出成形によって組成物を構造化する工程の間、六方晶窒化ホウ素と、鉄またはニッケルベースの構造的マトリックス10との関係のように、粒子状固体潤滑剤20が構造的マトリックス10の材料に不溶性である場合、固体潤滑剤20に付加される応力は、構造的マトリックス10相を形成する粒子間へ拡がらせ、膜または層21でこれらを取り囲むようになり、金属構造マトリックス10を形成する粒子間の焼結ネックの形成を阻害する。
【0047】
上記欠点を避けるために、本発明の組成物はさらに、
図3に示すように、構造化される冶金組成物の焼結温度において構造的マトリックス10を形成する粒子状材料と粒子状固体潤滑剤20との間に液相を形成することが可能であり、後者を構造的マトリックス10の材料中に均質に分散された別個の粒子中で凝集させることが可能な少なくとも1つの粒子状合金元素を含む。液相の形成および粒子状固体潤滑剤20中でのこの行動によって、得られる焼結複合体中での構造的マトリックス10の高い連続性を得ることができる。
【0048】
本発明の冶金組成物が、圧縮によって構造化され、鉄を含む構造的マトリックスを用いる場合、鉄の主粒子状金属材料は、好ましくは、約10μから約90μの平均粒径を有する。順に、構造的マトリックス10を硬化させる機能を有する硬化元素、および圧縮(緻密化)によって構造化された冶金組成物の焼結中、液相を形成し、粒子状固体潤滑剤20を凝集させる機能を有する粒子状合金元素は、約45μmより小さな平均粒径を有する。鉄の主粒子状金属材料の平均粒径は、好ましくは硬化元素および合金元素の平均粒径より大きくなければならないことを理解されたい。
【0049】
上に記載され、圧縮または射出成形によって構造化された鉄ベースの構造的マトリックス10を有する冶金組成物は、硬化元素で、および粒子状固体潤滑剤20が鉄を含む構造的マトリックス10、例えば、六方晶窒化ホウ素に不溶性であれば、合金元素で完成され得る。なぜなら、粒子状固体潤滑剤20は、約1125℃から約1250℃の焼結温度で構造的マトリックス10を形成する材料と反応しないからである。粒子状固体潤滑剤20の構造的マトリックス10との反応によって、前者は、部分的もしくは全体的に後者の中に消えてしまい、得られる焼結体の自己潤滑性特性を損ない、または削除さえする。
【0050】
しかしながら、例えば、グラファイトまたはグラファイトおよび六方晶窒化ホウ素からなる混合物を用いた場合のように、構造的マトリックス10が、例えば、鉄ベースであり、粒子状の固体潤滑剤20が、圧縮または射出成形によって構造化された冶金組成物の焼結温度で、少なくとも部分的に構造的マトリックス10に可溶である場合、本冶金組成物はさらに、冶金組成物焼結する間に鉄アルファ相を安定化することが可能な少なくとも1つの合金成分を含まなければならず、それによって、粒子状固体潤滑剤20の構造的マトリックス10の鉄中への溶解および組み込みの発生を阻害する。
【0051】
本発明によれば、鉄アルファ相を安定化する合金成分は、リン、ケイ素、コバルト、クロムおよびモリブデンから選択される元素の少なくとも1つによって規定される。これらの元素は、別々にまたは一緒に、焼結温度(約1125℃から約1250℃)で鉄アルファ相を安定化する作用をするのに最も適切であると考えられているが、本発明の概念は鉄アルファ相を安定化することであり、用いられる合金成分(複数の合金成分)は本明細書に例示したものに限られないと理解されたい。
【0052】
好ましくは、粒子状固体潤滑剤20を有する鉄ベースの構造的マトリックス10を有する組成物としては、構造的マトリックス10に少なくとも部分的に可溶であり、例えば、グラファイトまたはグラファイトと六方晶窒化ホウ素からなる混合物で構成され、構造的マトリックス10を硬化する機能を有する粒子状硬化合金元素、液相を形成し、粒子状固体潤滑剤20を凝集させる機能を有する粒子状合金元素、および鉄アルファ相を安定化する機能を有する合金成分は、例えば、冶金組成物の約2重量%から約5重量%の含有量のケイ素、および、冶金組成物の約2重量%から約8重量%の含有量の、ケイ素、マンガン、および炭素の混合物から選択されるいずれかによって、規定される。
【0053】
本発明の冶金組成物が、射出成形により構造化され、鉄を含む構造的マトリックスを使用する場合、鉄の主粒子状金属材料は、好ましくは、約1μmから約45μmの粒径を有する。同様に、構造的マトリックス10を硬化させる機能を有する硬化元素、射出成形によって構造化される冶金組成物の焼結中に、液相を形成し、粒子状固体潤滑剤20を凝集させる機能を有する粒子状合金元素、および粒子状固体潤滑剤もまた、約1μmから約45μmの粒径を有する。
【0054】
既に述べたように、冶金組成物の構造的マトリックス10は、ニッケルベースであり、この場合、グラファイト、六方晶窒化ホウ素、または任意の割合のこれらの混合物として本明細書に例示されたいずれかの粒子状固体潤滑剤20は、冶金組成物の焼結温度である約1125℃から約1250℃の温度で、ニッケル構造的マトリックス10に不溶性であり、鉄アルファ相を安定化させる粒子状合金を使用する特性を有するはずである。
【0055】
ニッケル構造的マトリックス10を有する冶金組成物において、液相を形成し、冶金組成物を焼結する間に、粒子状固体潤滑剤20を凝集させる機能を有する必要な粒子状合金元素は、例えば、クロム、リン、ケイ素、鉄、炭素、マグネシウム、コバルト、およびマンガンから選択される元素の少なくとも1つによって規定される。
【0056】
本発明の冶金組成物がニッケルベースの構造的マトリックス10を使用する場合、ニッケルの主粒子状金属材料は、圧縮による構造化により、平均粒径は好ましくは約10μmから約90μmとなり、構造的マトリックス10を硬化させる機能を有する硬化元素、および圧縮(緻密化)によって構造化される冶金組成物の焼結中、液相を形成し、粒子状固体潤滑剤20を凝集させる機能を有する粒子状合金元素は、約45μm以下の平均粒径を有する。組成物の構造化が射出成形によって行われる場合、ニッケルの主粒子状金属材料および構造的マトリックス10を硬化させる機能を有する硬化元素、および液相を形成させる機能を有する粒子状合金元素は、好ましくは約1μmから約45μmの粒径を有する。
【0057】
ニッケルベースの構造的マトリックス10を有する冶金組成物においては、ニッケルマトリックスを硬化させる機能を有する硬化元素、および液相を形成し、別個の粒子中に粒子状固体潤滑剤20を凝集させる機能を有する粒子状合金元素は、冶金組成物の約2重量%から約5重量%の含有率の、ケイ素、リンおよびクロムから選択される元素、または、冶金組成物の約2重量%から約8重量%の含有率の、ケイ素、リンおよびクロムの混合物によって規定される。
【0058】
焼結に先だって、冶金組成物の構造化を押出または射出成形によって行う場合、組成物はさらに、パラフィンおよびその他のワックス類、EVAおよび低融点ポリマー類からなる群から好ましく選択される少なくとも1つの有機バインダーを、通常は、押出による構造化においては冶金組成物の総体積の約15%から約45%の割合で、射出成形による構造化においては約40%から約45%の割合で含む必要がある。有機バインダーは、構造化工程の後、構造化された製造物の焼結工程を行う前に、例えば、蒸着によって、組成物から抽出される。
【0059】
上記冶金組成物は、組成物の形成のため、および続く自己潤滑性焼結体の取得のために選択される粒子状材料を所定量で任意の適切なミキサーで混合することによって得られる。
【0060】
異なる粒子状材料の混合物は均質化され、圧縮、即ち、加圧、圧延もしくは押出により、または射出成形によって緻密化され、その結果、焼結によって得られる製造物の所望の形状に構造化され得る。
【0061】
射出成形による構造化の場合、有機バインダーを含有する成分の混合物は、有機バインダーを溶融する温度を下回らないの温度で均質化される。こうして均質化された混合物は粒状化されて、取り扱い、保存および注入機への供給が容易になる。
【0062】
組成物の構造化後、構造化された部品に対して、通常は熱プロセスによって有機バインダーを抽出する工程を行う。
【0063】
次いで、均質化され、構造化された冶金組成物に対して、約1125℃から約1250℃の温度で焼結工程を行うことができる。鉄ベースまたはニッケルベースの構造的マトリックス10を有する両方の冶金組成物においては、液相を形成する機能を有する少なくとも1つの粒子状合金元素を含み、これは粒子状合金元素による液相を焼結する間に形成され、構造的マトリックス10の中に分散している別個の粒子中における粒子状固体潤滑剤20の凝集を促進する。
【0064】
グラファイトおよびグラファイトと六方晶窒化ホウ素との混合物の場合のように、冶金組成物が鉄ベースの構造的マトリックスに少なくとも部分的に可溶性のある粒子状固体潤滑剤を含む場合、均質化および構造化された冶金組成物は、既に規定され、冶金組成物を焼結する工程中に、構造的マトリックス10中の鉄アルファ相を安定化することが可能であり、グラファイトによって規定された鉄構造的マトリックス中の固体潤滑剤部分の一部の溶解を阻止することが可能な、少なくとも1つの合金成分をさらに含む。
【0065】
本明細書において提案されている冶金組成物によって、非金属粒子状固体潤滑剤に前処理を施す必要なく粒子状材料から自己潤滑性焼結の部品または製造物を得ることが可能である。部品または製造物は、鉄構造的マトリックス10を用いる場合、硬度がHV≧230、摩擦係数がμ≦0.15、および機械的牽引力抵抗性がσ
τ≧450MPaであり、また固体潤滑剤20の別個の粒子の分散は、圧縮によって構造化された製造物の場合の平均粒径は約10μmから約60μmであり、射出成形によって構造化された製造物の場合は約2μmから約20μmである。ニッケルベースの構造的マトリックス10の場合、硬度がHV≧240、摩擦係数がμ<0.20、機械的牽引力抵抗性がσ
τ≧350MPaであり、また固体潤滑剤20の別個の粒子の分散は、圧縮によって構造化された製造物の場合の平均粒径は約10μmから約60μmであり、射出成形によって構造化された製造物の場合約2μmから約20μmである。
【0066】
添付図面の
図5、6A、6B、6Cおよび7は、ある特定の所定量の冶金組成物を圧縮して所望の形状にすることによって、本冶金組成物の構造化の異なる別の可能性を例示する目的で示された図面である。取得したい自己潤滑性の焼結最終部品または最終製造物、または最終製造物に近い形状を取り得る。
【0067】
しかしながら、多くの用途において、自己潤滑性の特徴は、相対的に移動可能な要素との摩擦接触することになる機械的部品または部品の1以上の表面領域にのみ必要である。
【0068】
従って、所望の自己潤滑性製造物は、
図5に示されるように、好ましくは粒子状材料中に構造化された構造的基板30によって、本発明の冶金組成物40の表面層41の1または2の対向する表面31中に構成される。図示された例において、構造的基板30および冶金組成物40の2つの対向する表面層は、2つの対向するパンチPによって、任意の適切なモールドMの内部において圧縮され、圧縮され構造化された複合体1を形成し、続いて焼結工程を行う。この例では、構造的基板30の2つの対向する面31のみが望ましい自己潤滑性特性を提示することになる。
【0069】
図6Aおよび6Bはそれぞれ、冶金組成物40を適切な押出マトリックス(図示せず)中に押し出すことによって得られる、棒材2および管3の形状の製造物を例示する図面である。この場合、冶金組成物40の圧縮による構造化は後者の押出し工程において行われる。次いで、鉄ベースまたはニッケルベースの構造的マトリックス10を形成し、粒子状固体潤滑剤20の分散した別個の粒子を組み込むために、
図3および4に模式的に示すように、棒材2または管3に焼結工程を施すことができる。
【0070】
図6Cは、粒子状材料中に構造的コア35を、周辺を取り囲むように、および外面的に本発明の冶金組成物40の表面層41に取り囲まれるように、含む複合体棒材4によって形成される製造物の別の例を示す図である。この場合も同様に、構造的コア35および冶金組成物40中の外側表面層41の構造化および圧縮(緻密化)は、複合体棒材4の2つの部分の共押出しによって得られ、これに対して焼結工程が施される。
【0071】
冶金組成物20の圧縮が押出しによって行われるとき、例えば、
図6A、6Bおよび6Cの棒材2、3および4の形成において生じるように、組成物は、さらに、後者の構造化後であって焼結工程の前に、任意の公知の除去技術によって熱的に組成物から除去される有機バインダーを含むことができる。
【0072】
有機バインダーは、例えば、パラフィンおよび他のワックス類、EVA、ならびに低融点ポリマーからなる群から選択される任意の1つであってもよい。
【0073】
図7はまた、自己潤滑性特徴を持つ1以上の表面領域を有する焼結された複合体を得る別の方法を模式的に示す図である。この例では、得られる製造物5は、既に細片状の形状に構造化された粒子状材料中に形成された構造的基板30を示す。本発明の冶金組成物40の表面層41は、構造的基板30の対向する表面の少なくとも1つの上に、連続する細片の形状で圧延されている。次いで、複合体5に焼結工程が施される。
【0074】
本発明を、可能な冶金組成物および異なる構造的基板との結合の幾つかの実施例によって説明してきたが、このような組成物および結合は、本明細書に添付の請求項に記載されているように、固体潤滑剤の別個の粒子中、構造的マトリックス中での分散をコントロールするという発明の概念、焼結工程中、固体潤滑剤がマトリックスに結果として溶解する傾向があるという発明の概念を逸脱することなく、当業者にとって明白な変更を受け得ることを理解されたい。