特許第5904910号(P5904910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5904910
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】加速度検出素子
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/08 20060101AFI20160407BHJP
   G01P 15/02 20130101ALI20160407BHJP
【FI】
   G01P15/08 D
   G01P15/02 B
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-190966(P2012-190966)
(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公開番号】特開2014-48150(P2014-48150A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】田邊 昭
【審査官】 岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0100123(US,A1)
【文献】 特開2000−193677(JP,A)
【文献】 特開平7−209323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P15/00−15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流体を封止可能な流体封止室が形成された外枠体と、
前記流体封止室を区画する複数の内壁面のうち特定の内壁面である特定内壁面に形成された発熱体と、
前記特定内壁面に形成された温度測定用の第1測温体及び温度測定用の第2測温体であって、前記第1測温体から前記発熱体までの距離は、前記第2測温体から前記発熱体までの距離よりも短く、
前記第1測温体による測定結果と、前記第2測温体による測定結果と、の差分を演算する差分演算回路と、
を備え
前記差分演算回路による演算結果により、前記特定内壁面に対して直交する方向の加速度を検出する、
加速度検出素子。
【請求項2】
内部に流体を封止可能な流体封止室が形成された外枠体と、
前記流体封止室を区画する複数の内壁面のうち特定の内壁面である特定内壁面に形成された発熱体と、
前記特定内壁面に形成された温度測定用の一対の第1測温体及び温度測定用の一対の第2測温体であって、前記一対の第1測温体は前記発熱体から等しい距離に配置され、前記一対の第1測温体は前記発熱体を挟むように配置され、前記一対の第2測温体は前記発熱体から等しい距離に配置され、前記一対の第2測温体は前記発熱体を挟むように配置され、前記一対の第1測温体から前記発熱体までの距離は、前記一対の第2測温体から前記発熱体までの距離よりも短く、
前記一対の第1測温体による測定結果の総和を演算する第1総和演算回路と、
前記一対の第2測温体による測定結果の総和を演算する第2総和演算回路と、
前記第1総和演算回路による演算結果と、前記第2総和演算回路による演算結果と、の差分を演算する差分演算回路と、
を備え
前記差分演算回路による演算結果により、前記特定内壁面に対して直交する方向の加速度を検出する、
加速度検出素子。
【請求項3】
請求項2に記載の加速度検出素子であって、
前記発熱体と、前記一対の第1測温体と、前記一対の第2測温体と、は一列に並べて配置されている、
加速度検出素子。
【請求項4】
請求項3に記載の加速度検出素子であって、
前記一対の第1測温体と、前記一対の第2測温体と、の間に夫々配置され、前記特定内壁面から突出して形成される一対の内側流体制御突起部を更に備える、
加速度検出素子。
【請求項5】
請求項4に記載の加速度検出素子であって、
前記一対の内側流体制御突起部と前記一対の第2測温体を挟んで反対側に夫々配置され、前記特定内壁面から突出して形成される一対の外側流体制御突起部を更に備える、
加速度検出素子。
【請求項6】
請求項5に記載の加速度検出素子であって、
前記一対の内側流体制御突起部の突出量と、前記一対の外側流体制御突起部の突出量と、は等しい、
加速度検出素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の加速度を検出する加速度検出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、特許文献1は、流体が充填された容器内部の一平面上に、発熱用ヒータ抵抗と、この発熱用ヒータ抵抗を挟む一対の温度検出抵抗と、を設けたセンサ素子を開示している。発熱用ヒータ抵抗を発熱させた状態でセンサ素子が加速度を受けると、流体の対流方向が変化し、一対の温度検出抵抗の抵抗値に差異が生ずる。この抵抗値の差異を検出することで、センサ素子に作用する加速度を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−193677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1の構成では、発熱用ヒータ抵抗や一対の温度検出抵抗が配置された上記一平面に対して平行な方向の加速度成分しか検出することができない。
【0005】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施の形態によれば、加速度検出素子は、内部に流体を封止可能な流体封止室が形成された外枠体と、前記流体封止室を区画する複数の内壁面のうち特定の内壁面である特定内壁面に形成された発熱体と、前記特定内壁面に形成された温度測定用の第1測温体及び温度測定用の第2測温体であって、前記第1測温体から前記発熱体までの距離は、前記第2測温体から前記発熱体までの距離よりも短く、前記第1測温体による測定結果と、前記第2測温体による測定結果と、の差分を演算する差分演算回路と、を備える。
他の一実施の形態によれば、加速度検出素子は、内部に流体を封止可能な流体封止室が形成された外枠体と、前記流体封止室を区画する複数の内壁面のうち特定の内壁面である特定内壁面に形成された発熱体と、前記特定内壁面に形成された温度測定用の一対の第1測温体及び温度測定用の一対の第2測温体であって、前記一対の第1測温体は前記発熱体から等しい距離に配置され、前記一対の第1測温体は前記発熱体を挟むように配置され、前記一対の第2測温体は前記発熱体から等しい距離に配置され、前記一対の第2測温体は前記発熱体を挟むように配置され、前記一対の第1測温体から前記発熱体までの距離は、前記一対の第2測温体から前記発熱体までの距離よりも短く、前記一対の第1測温体による測定結果の総和を演算する第1総和演算回路と、前記一対の第2測温体による測定結果の総和を演算する第2総和演算回路と、前記第1総和演算回路による演算結果と、前記第2総和演算回路による演算結果と、の差分を演算する差分演算回路と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
前記差分演算回路による演算結果により、前記特定内壁面に対して直交する方向の加速度を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、加速度検出素子の外観斜視図である。(第1実施形態)
図2図2は、加速度検出素子の一部切り欠き斜視図である。(第1実施形態)
図3図3は、図1のIII-III線断面図である。(第1実施形態)
図4図4は、熱の移動をイメージした断面図である。(第1実施形態)
図5図5(a)は、加速度が下向きのときの温度分布の等高線図である。図5(b)は、加速度が上向きのときの温度分布の等高線図である。(第1実施形態)
図6図6は、加速度検出素子の回路図である。(第1実施形態)
図7図7は、加速度検出素子の一部切り欠き斜視図である。(第2実施形態)
図8図8は、加速度検出素子の断面図である。(第2実施形態)
図9図9は、熱の移動をイメージした断面図である。(第2実施形態)
図10図10は、加速度検出素子の回路図である。(第2実施形態)
図11図11は、加速度検出素子の一部切り欠き斜視図である。(第3実施形態)
図12図12は、加速度検出素子の断面図である。(第3実施形態)
図13図13は、熱の移動をイメージした断面図である。(第3実施形態)
図14図14は、加速度検出素子の一部切り欠き斜視図である。(第4実施形態)
図15図15は、加速度検出素子の断面図である。(第4実施形態)
図16図16は、熱の移動をイメージした断面図である。(第4実施形態)
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、図1図6を参照して、第1実施形態を説明する。
【0010】
図1及び図2図6に示すように、加速度検出素子1は、外枠体2と、発熱体3と、第1測温体4と、第2測温体5と、演算増幅器6(差分演算回路)と、を備えて構成されている。
【0011】
図2に示すように、外枠体2は、Si基板7(半導体基板)と第1絶縁層8、第2絶縁層9、第3絶縁層10をこの順に積層して構成されている。第2絶縁層9は、積層方向で見てリング状に形成されている。これにより、外枠体2の内部には、ガスG(流体)を封止可能な流体チャンバー11が形成されいる。本実施形態において、流体チャンバー11は、略直方体状に形成されている。流体チャンバー11を区画する複数の内壁面のうちSi基板7に最も近い内壁面である回路搭載面12には、発熱体3と第1測温体4、第2測温体5が配置されている。本実施形態において、ガスGは、窒素又はアルゴンなどの不活性ガスである。このような不活性ガスを選択することで、発熱体3や第1測温体4、第2測温体5の腐食を防ぐことができる。
【0012】
ここで、「搭載面直交方向」及び「チャンバー長手方向」、「チャンバー短手方向」を定義する。「搭載面直交方向」は、回路搭載面12に対して直交する方向である。搭載面直交方向のうち、第3絶縁層10から第1絶縁層8を見る方向を搭載面近接方向とし、第1絶縁層8から第3絶縁層10を見る方向を搭載面離間方向とする。「チャンバー長手方向」は、略直方体状の流体チャンバー11の長手方向である。「チャンバー短手方向」は、略直方体状の流体チャンバー11の短手方向である。搭載面直交方向とチャンバー長手方向、チャンバー短手方向は相互に直交する関係にある。図3以降の図面では、説明の便宜上、流体チャンバー11を囲むように描いた二点鎖線で流体チャンバー11を示している。
【0013】
図2及び図3に示すように、第2絶縁層9は、流体チャンバー11をチャンバー長手方向で区画する小内壁面9a及び小内壁面9bを有している。小内壁面9aと小内壁面9bは、互いに平行な面である。第3絶縁層10は、流体チャンバー11の搭載面離間方向側を区画する天井面10aを有している。天井面10aは、回路搭載面12に対して平行な面である。
【0014】
図2に示すように、発熱体3及び第1測温体4、第2測温体5は、チャンバー短手方向に沿って細長い形状をしている。そして、発熱体3及び第1測温体4、第2測温体5は、何れも、回路搭載面12に対して平行となるように、回路搭載面12上に形成されている。図2及び図3に示すように、発熱体3及び第1測温体4、第2測温体5は、小内壁面9aから小内壁面9bに向かってこの順に配置されている。発熱体3及び第1測温体4、第2測温体5は、チャンバー長手方向に沿って一列に並べて配置されている。発熱体3は、小内壁面9aの近傍に配置されている。第1測温体4は、発熱体3の近傍に配置されている。第2測温体5は、小内壁面9bの近傍に配置されている。従って、第1測温体4から発熱体3までの距離D1は、第2測温体5から発熱体3までの距離D2よりも短い。
【0015】
以上の構成で、発熱体3に電流を流すことにより発熱体3を発熱させると、図4において太線で示すような伝熱現象が生じる。図4で、流体チャンバー11に封止されたガスGを経由しての発熱体3から第1測温体4への伝熱経路を伝熱経路pで示す。同様に、流体チャンバー11に封止されたガスGを経由しての発熱体3から第2測温体5への伝熱経路を伝熱経路qで示す。同様に、Si基板7や第1絶縁層8を経由しての発熱体3から第1測温体4への伝熱経路を伝熱経路rで示す。同様に、Si基板7や第1絶縁層8を経由しての発熱体3から第2測温体5への伝熱経路を伝熱経路sで示す。
【0016】
ここで、伝熱経路rや伝熱経路sについては、加速度検出素子1が如何なる方向へ加速しようとも、全く影響を受けることはない。これに対し、伝熱経路pや伝熱経路qについては、加速度検出素子1が何れかの方向へ加速すると、流体チャンバー11内に封止されたガスGの移動を伴うことで、種々の影響を受けることになる。なお、一般的に、ガスGよりSi基板7や第1絶縁層8の方が熱伝導率が高い。従って、発熱体3から第1測温体4、発熱体3から第2測温体5への熱の伝導は、伝熱経路r及び伝熱経路sが主であり、伝熱経路p及び伝熱経路qが従となる。
【0017】
図5(a)には、加速度検出素子1に作用する加速度が搭載面近接方向のときの温度分布を等高線図で示している。図5(b)には、加速度検出素子1に作用する加速度が搭載面離間方向のときの温度分布を等高線図で示している。主たる伝熱経路が図4に示した伝熱経路r及び伝熱経路sであるから、図5(a)及び図5(b)において、第1絶縁層8の近傍の温度は一様に高く、第3絶縁層10の近傍の温度は一様に低い。ここで、発熱体3によって加熱されたガスGは、比重が低くなることから、ガスGに作用する加速度の方向とは逆の方向に移動しようとする。即ち、図5(a)のようにガスGに作用する加速度が搭載面近接方向の場合は、ガスGは、搭載面離間方向に移動しようとし、図5(b)のようにガスGに作用する加速度が搭載面離間方向の場合は、ガスGは、搭載面近接方向に移動しようとする。従って、図5(a)に示すように、ガスGに作用する加速度が搭載面近接方向の場合の方が、ガスGに作用する加速度が搭載面離間方向の場合と比較して、流体チャンバー11内の搭載面直交方向における温度差が小さくなる。
【0018】
さて、図4に戻り、発熱体3から第1測温体4への伝熱経路pと、発熱体3から第2測温体5への伝熱経路qと、を比較すると、図4図5を比較して判るように、前者よりも後者の方が搭載面直交方向の加速度から影響を受け易い。なぜなら、発熱体3から第1測温体4への伝熱にとってはチャンバー長手方向の伝熱が強く支配的となるのに対し、発熱体3から第2測温体5への伝熱にとっては第2測温体5近傍におけるガスGの搭載面直交方向の移動がある程度支配的となるからである。端的に言えば、搭載面直交方向の加速度は、伝熱経路pには影響しないが、伝熱経路qには影響する。従って、第1測温体4と第2測温体5の測温結果を比較することで、ガスGに作用する搭載面直交方向の加速度を検出することができる。
【0019】
図6には、第1測温体4と第2測温体5の測温結果を比較する比較回路を示している。第1測温体4及び第2測温体5は、温度によって抵抗値が変動する温度抵抗体を採用することが好ましい。図6に示すように、第1測温体4及び第2測温体5には、夫々定電流源Iが接続されており、第1測温体4及び第2測温体5には夫々所定の電流が流されている。この構成で、第1測温体4の高電位側の電圧と、第2測温体5の高電位側の電圧と、を演算増幅器6に入力する。すると、第1測温体4による測定結果と、第2測温体5による測定結果と、の差分が、演算増幅器6からの出力電圧として取り出される。後は、演算増幅器6からの出力電圧をモニタリングすることで、搭載面直交方向の加速度を検出することができる。
【0020】
なお、図4において、第2測温体5近傍のガスGの流れの向きを搭載面直交方向に対して一層平行とすべく、第2測温体5は、小内壁面9bに対して可及的に近づけて配置することが好ましい。この構成によれば、加速度検出素子1の加速度検出の感度を高めることができる。
【0021】
以上に、第1実施形態を説明したが、第1実施形態は、以下の特長を有している。
【0022】
(1)加速度検出素子1は、外枠体2と、発熱体3と、温度測定用の第1測温体4及び温度測定用の第2測温体5と、演算増幅器6(差分演算回路)と、を備えて構成されている。外枠体2は、内部に流体を封止可能な流体チャンバー11(流体封止室)が形成されている。発熱体3は、流体チャンバー11を区画する複数の内壁面のうち特定の内壁面である回路搭載面12(特定内壁面)に形成されている。第1測温体4及び第2測温体5は、回路搭載面12に形成されている。図3に示すように、第1測温体4から発熱体3までの距離D1は、第2測温体5から発熱体3までの距離D2よりも短い。演算増幅器6は、第1測温体4による測定結果と、第2測温体5による測定結果と、の差分を演算する。以上の構成によれば、演算増幅器6による演算結果により、回路搭載面12に対して直交する方向の加速度を検出することができる。また、演算増幅器6による差分の演算結果を用いているので、外部環境の環境温度から受ける影響を相殺して排除することができる。
【0023】
上記第1実施形態においてガスGは、窒素又はアルゴンなどの不活性ガスとした。しかし、これに代えて、ガスGは、空気やヘリウムであってもよい。ヘリウムは、窒素よりも熱伝導率が高いので加速度検出素子1の感度の面では優れている。一方、ヘリウムは、分子が小さいので流体チャンバー11からリークしやすいという短所も持ち合わせている。
【0024】
また、加速度検出素子1の感度の面から言えば、図3の距離D2は可及的に大きい方がよく(例えば数100マイクロメートル)、距離D1は可及的に小さい方がよい。図3図5を比較すると、距離D1と距離D2の寸法比が統一されていないが、図5に示す寸法比の方が実機に近い。
【0025】
(第2実施形態)
次に、図7図10を参照しつつ、第2実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第1実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0026】
図7及び図8に示すように、本実施形態において回路搭載面12には、温度測定用の一対の第1測温体4a及び第1測温体4bと、温度測定用の一対の第2測温体5a及び第2測温体5bと、が配置されている。一対の第1測温体4a及び第1測温体4bと、一対の第2測温体5a及び第2測温体5bは、チャンバー短手方向に沿って細長い形状をしている。そして、発熱体3及び第1測温体4a、第1測温体4b、第2測温体5a、第2測温体5bは、何れも、回路搭載面12に対して平行となるように、回路搭載面12上に形成されている。図7及び図8に示すように、第2測温体5a、第1測温体4a、発熱体3、第1測温体4b、第2測温体5bは、小内壁面9aから小内壁面9bに向かってこの順に配置されている。発熱体3及び一対の第1測温体4a及び第1測温体4b、一対の第2測温体5a及び第2測温体5bは、チャンバー長手方向に沿って一列に並べて配置されている。発熱体3は、流体チャンバー11のチャンバー長手方向における中央に配置されている。一対の第1測温体4a及び第1測温体4bは、発熱体3から等しい距離に配置されている。一対の第1測温体4a及び第1測温体4bは、発熱体3を挟むように配置されている。一対の第2測温体5a及び第2測温体5bは、発熱体3から等しい距離に配置されている。一対の第2測温体5a及び第2測温体5bは、発熱体3を挟むように配置されている。そして、一対の第1測温体4a及び第1測温体4bから発熱体3までの距離D1は、一対の第2測温体5a及び第2測温体5bから発熱体3までの距離D2よりも短い。
【0027】
以上の構成で、発熱体3に電流を流すことにより発熱体3を発熱させると、図9において太線で示すような伝熱現象が生じる。図9で、流体チャンバー11に封止されたガスGを経由しての発熱体3から第1測温体4a及び第1測温体4bへの伝熱経路を伝熱経路pで示す。同様に、流体チャンバー11に封止されたガスGを経由しての発熱体3から第2測温体5a及び第2測温体5bへの伝熱経路を伝熱経路qで示す。同様に、Si基板7や第1絶縁層8を経由しての発熱体3から第1測温体4a及び第1測温体4bへの伝熱経路を伝熱経路rで示す。同様に、Si基板7や第1絶縁層8を経由しての発熱体3から第2測温体5a及び第2測温体5bへの伝熱経路を伝熱経路sで示す。
【0028】
ここで、伝熱経路rや伝熱経路sについては、加速度検出素子1が如何なる方向へ加速しようとも、全く影響を受けることはない。これに対し、伝熱経路pや伝熱経路qについては、加速度検出素子1が何れかの方向へ加速すると、流体チャンバー11内に封止されたガスGの移動を伴うことで、種々の影響を受けることになる。なお、一般的に、ガスGよりSi基板7や第1絶縁層8の方が熱伝導率が高い。従って、発熱体3から第1測温体4a及び第1測温体4b、発熱体3から第2測温体5a及び第2測温体5bへの熱の伝導は、伝熱経路r及び伝熱経路sが主であり、伝熱経路p及び伝熱経路qが従となる。
【0029】
発熱体3から第1測温体4a及び第1測温体4bへの伝熱経路pと、発熱体3から第2測温体5a及び第2測温体5bへの伝熱経路qと、を比較すると、前者よりも後者の方が、ガスGに作用する搭載面直交方向の加速度から影響を受け易い。なぜなら、発熱体3から第1測温体4a及び第1測温体4bへの伝熱にとってはチャンバー長手方向の伝熱が強く支配的となるのに対し、発熱体3から第2測温体5a及び第2測温体5bへの伝熱にとっては第2測温体5a及び第2測温体5b近傍におけるガスGの搭載面直交方向の移動がある程度支配的となるからである。端的に言えば、ガスGに作用する搭載面直交方向の加速度は、伝熱経路pには影響しないが、伝熱経路qには影響する。従って、第1測温体4a及び第1測温体4bと、第2測温体5a及び第2測温体5bの測温結果を比較することで、ガスGに作用する搭載面直交方向の加速度を検出することができる。
【0030】
ここで、本実施形態における加速度検出のメカニズムを詳細に説明する。先ずは、下記式(1)〜(4)を参照されたい。
【0031】
【数1】
【0032】
【数2】
【0033】
【数3】
【0034】
【数4】
【0035】
ただし、T40は加速度検出素子1が加速していない状態における第1測温体4a及び第1測温体4bの測定結果である。T50は加速度検出素子1が加速していない状態における第2測温体5a及び第2測温体5bの測定結果である。T4aは、第1測温体4aの測定結果である。T4bは、第1測温体4bの測定結果である。T5aは第2測温体5aの測定結果である。T5bは第2測温体5bの測定結果である。ΔTH4はチャンバー長手方向に作用した加速度によって第1測温体4a及び第1測温体4bに生じた温度変化である。ΔTH5はチャンバー長手方向に作用した加速度によって第2測温体5a及び第2測温体5bに生じた温度変化である。ΔTV4は搭載面直交方向に作用した加速度によって第1測温体4a及び第1測温体4bに生じた温度変化である。ΔTV5は搭載面直交方向に作用した加速度によって第2測温体5a及び第2測温体5bに生じた温度変化である。
【0036】
上記式(1)〜(4)において、ΔTH4について言えば、第1測温体4a及び第1測温体4bは発熱体3を挟むように発熱体3から等しい距離に配置されているので、第1測温体4a及び第1測温体4bの測定結果に対して絶対値は等しく逆符号で作用する。ΔTH5について言えば、第2測温体5a及び第2測温体5bは発熱体3を挟むように発熱体3から等しい距離に配置されているので、第2測温体5a及び第2測温体5bの測定結果に対して絶対値は等しく逆符号で作用する。ΔTV4について言えば、第1測温体4a及び第1測温体4bは発熱体3から等しい距離に配置されているので、第1測温体4a及び第1測温体4bの測定結果に対して絶対値は等しく同じ符号で作用する。ΔTV5について言えば、第2測温体5a及び第2測温体5bは発熱体3から等しい距離に配置されているので、第2測温体5a及び第2測温体5bの測定結果に対して絶対値は等しく同じ符号で作用する。
【0037】
上記式(1)及び(2)より、下記式(5)が導かれる。
【0038】
【数5】
【0039】
上記式(3)及び(4)より、下記式(6)が導かれる。
【0040】
【数6】
【0041】
上記式(5)及び(6)より、下記式(7)が導かれる。
【0042】
【数7】
【0043】
上記式(5)〜(7)によれば、第1測温体4a及び第1測温体4bの各測定結果の総和と、第2測温体5a及び第2測温体5bの各測定結果の総和と、の差分を求めると、チャンバー長手方向の加速度成分に起因する温度変化の項が相殺され、搭載面直交方向の加速度成分に起因する温度変化の項が残ることになる。従って、上記式(7)によれば、チャンバー長手方向の加速度成分の有無に拘わらず、搭載面直交方向の加速度成分を検出することができる。なお、チャンバー短手方向の加速度成分に起因する温度変化は、図7のように、発熱体3や第1測温体4a及び第1測温体4b、第2測温体5a及び第2測温体5bをチャンバー短手方向に沿って細長くなるように配置すれば、そもそも生じないので特に言及していない。
【0044】
図10には、一対の第1測温体4a及び第1測温体4bによる測定結果の総和Tsum4を演算する第1総和演算回路4s(第1総和演算回路)と、一対の第2測温体5a及び第2測温体5bによる測定結果の総和Tsum5を演算する第2総和演算回路5s(第2総和演算回路)と、第1総和演算回路4sによる演算結果と第2総和演算回路5sによる演算結果との差分を演算する演算増幅器6(差分演算回路)と、を示している。図10に示すように、第1総和演算回路4sは、第1測温体4a及び第1測温体4bを直列に接続した回路として実現されている。第2総和演算回路5sは、第2測温体5a及び第2測温体5bを直列に接続した回路として実現されている。そして、第1総和演算回路4s、第2総和演算回路5sには、夫々定電流源Iが接続されており、第1総和演算回路4s及び第2総和演算回路5sには夫々所定の電流が流されている。この構成で、第1総和演算回路4sの高電位側の電圧と、第2総和演算回路5sの高電位側の電圧と、を演算増幅器6に入力する。すると、第1総和演算回路4sによる演算結果と、第2総和演算回路5sによる演算結果と、の差分が、演算増幅器6からの出力電圧として取り出される。後は、演算増幅器6からの出力電圧をモニタリングすることで、搭載面直交方向の加速度を検出することができる。
【0045】
なお、図9において、第2測温体5a及び第2測温体5b近傍のガスGの流れの向きを搭載面直交方向に対して一層平行とすべく、第2測温体5a及び第2測温体5bは、小内壁面9a及び小内壁面9bに対して夫々可及的に近づけて配置することが好ましい。この構成によれば、加速度検出素子1の加速度検出の感度を高めることができる。
【0046】
以上に、第2実施形態を説明したが、第2実施形態は、以下の特長を有している。
【0047】
(2)加速度検出素子1は、外枠体2と、発熱体3と、温度測定用の第1測温体4a及び第1測温体4bと、温度測定用の第2測温体5a及び第2測温体5bと、第1総和演算回路4s(第1総和演算回路)と、第2総和演算回路5s(第2総和演算回路)と、演算増幅器6(差分演算回路)と、を備えて構成されている。外枠体2は、内部に流体を封止可能な流体チャンバー11(流体封止室)が形成されたものである。発熱体3は、流体チャンバー11を区画する複数の内壁面のうち特定の内壁面である回路搭載面12(特定内壁面)に形成されている。第1測温体4a及び第1測温体4bは、回路搭載面12に形成されている。第2測温体5a及び第2測温体5bは、回路搭載面12に形成されている。一対の第1測温体4a及び第1測温体4bは発熱体3から等しい距離に配置されている。一対の第1測温体4a及び第1測温体4bは発熱体3を挟むように配置されている。一対の第2測温体5a及び第2測温体5bは発熱体3から等しい距離に配置されている。一対の第2測温体5a及び第2測温体5bは発熱体3を挟むように配置されている。一対の第1測温体4から発熱体3までの距離D1は、一対の第2測温体5a及び第2測温体5bから発熱体3までの距離D2よりも短い。第1総和演算回路4sは、一対の第1測温体4a及び第1測温体4bによる測定結果の総和を演算する。第2総和演算回路5sは、一対の第2測温体5a及び第2測温体5bによる測定結果の総和を演算する。演算増幅器6は、第1総和演算回路4sによる演算結果と、第2総和演算回路5sによる演算結果と、の差分を演算する。以上の構成によれば、演算増幅器6による演算結果により、回路搭載面12に対して直交する方向の加速度を検出することができる。また、演算増幅器6による差分の演算結果を用いているので、外部環境の環境温度から受ける影響を相殺して排除できる。また、第1総和演算回路4sと第2総和演算回路5sの総和の演算結果を用いているので、回路搭載面12に対して平行な方向の加速度成分による影響を相殺して排除できる。
【0048】
(3)また、発熱体3と、一対の第1測温体4a及び第1測温体4bと、一対の第2測温体5a及び第2測温体5bと、はチャンバー長手方向に沿って一列に並べて配置されている。以上の構成によれば、加速度検出素子1をコンパクトに形成することができる。
【0049】
(第3実施形態)
次に、図11〜13を参照しつつ、第3実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第2実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第2実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0050】
図11及び図12に示すように、本実施形態では、加速度検出素子1は、一対の内側流体制御突起部13a及び内側流体制御突起部13bを備えている。内側流体制御突起部13aは、第1測温体4aと第2測温体5aの間に配置されている。内側流体制御突起部13bは、第1測温体4bと第2測温体5bの間に配置されている。内側流体制御突起部13a及び内側流体制御突起部13bは、回路搭載面12から搭載面離間方向に突出して形成されている。具体的には、内側流体制御突起部13a及び内側流体制御突起部13bの突出量は、第2絶縁層9の搭載面直交方向の厚みよりも小さく、発熱体3や第1測温体4a及び第1測温体4bや第2測温体5a及び第2測温体5bを構成するメタル配線の搭載面直交方向の厚みよりも大きい。図12に示すように、本実施形態では、内側流体制御突起部13a及び内側流体制御突起部13bの突出量は、第2絶縁層9の搭載面直交方向の厚みの略半分である。従って、内側流体制御突起部13a及び内側流体制御突起部13bと、第3絶縁層10の天井面10aと、の間にはガスGが流動可能な隙間gが残されている。図13に示すように、内側流体制御突起部13a及び内側流体制御突起部13bは、発熱体3から第2測温体5a及び第2測温体5bへ向かってガスGが第1絶縁層8近傍でチャンバー長手方向に移動するのを妨げるので、第2測温体5a及び第2測温体5bの測定結果に対しては、搭載面直交方向の加速度成分が一層支配的となる。従って、搭載面直交方向の加速度成分に対する加速度検出素子1の感度が更に向上する。
【0051】
以上に、第3実施形態を説明したが、第3実施形態は、以下の特長を有している。
【0052】
(4)加速度検出素子1は、一対の第1測温体4a及び第1測温体4bと、一対の第2測温体5a及び第2測温体5bと、の間に夫々配置され、回路搭載面12から突出して形成される一対の内側流体制御突起部13a及び内側流体制御突起部13bを更に備える。以上の構成によれば、搭載面直交方向の加速度成分の検出感度が高くなる。
【0053】
なお、図12では、内側流体制御突起部13a及び内側流体制御突起部13bのチャンバー長手方向における厚みは、内側流体制御突起部13a及び内側流体制御突起部13bの突出量よりも小さくなるように描いている。しかしながら、実際には、製造上の都合で、内側流体制御突起部13a及び内側流体制御突起部13bのチャンバー長手方向における厚みは、内側流体制御突起部13a及び内側流体制御突起部13bの突出量と略等しくなる。
【0054】
(第4実施形態)
次に、図14図16を参照しつつ、第4実施形態を説明する。ここでは、本実施形態が上記第3実施形態と異なる点を中心に説明し、重複する説明は適宜省略する。また、上記第3実施形態の各構成要素に対応する構成要素には原則として同一の符号を付すこととする。
【0055】
図14及び図15に示すように、本実施形態では、加速度検出素子1は、一対の外側流体制御突起部14a及び外側流体制御突起部14bを更に備えている。図15に示すように、外側流体制御突起部14aは、第2測温体5aを挟んで内側流体制御突起部13aと反対側に配置されている。外側流体制御突起部14bは、第2測温体5bを挟んで内側流体制御突起部13bと反対側に配置されている。外側流体制御突起部14a及び外側流体制御突起部14bは、回路搭載面12から搭載面離間方向に突出して形成されている。具体的には、外側流体制御突起部14a及び外側流体制御突起部14bの突出量は、第2絶縁層9の搭載面直交方向の厚みよりも小さく、発熱体3や第1測温体4a及び第1測温体4bや第2測温体5a及び第2測温体5bを構成するメタル配線の搭載面直交方向の厚みよりも大きい。図15に示すように、本実施形態では、外側流体制御突起部14a及び外側流体制御突起部14bの突出量は、第2絶縁層9の搭載面直交方向の厚みの略半分である。また、外側流体制御突起部14a及び外側流体制御突起部14bの突出量は、内側流体制御突起部13a及び内側流体制御突起部13bの突出量と等しい。図16に示すように、内側流体制御突起部13a及び外側流体制御突起部14aに挟まれることで、第2測温体5a近傍におけるガスGの流動は、搭載面直交方向となるように強く制限される。従って、第2測温体5aの測定結果には、搭載面直交方向の加速度成分に対する依存性が高くなる。同様に、内側流体制御突起部13b及び外側流体制御突起部14bに挟まれることで、第2測温体5b近傍におけるガスGの流動は、搭載面直交方向となるように強く制限される。従って、第2測温体5bの測定結果には、搭載面直交方向の加速度成分に対する依存性が高くなる。この結果、搭載面直交方向の加速度成分に対する加速度検出素子1の感度が大幅に向上する。
【0056】
また、内側流体制御突起部13aと外側流体制御突起部14aは、同一のプロセスで同時に形成することができる。従って、内側流体制御突起部13aと外側流体制御突起部14aを、第2測温体5aに対して精度よく形成することができる。同様に、内側流体制御突起部13bと外側流体制御突起部14bは、同一のプロセスで同時に形成することができる。従って、内側流体制御突起部13bと外側流体制御突起部14bを、第2測温体5bに対して精度よく形成することができる。
【0057】
以上に、第4実施形態を説明したが、第4実施形態は、以下の特長を有している。
【0058】
(5)加速度検出素子1は、一対の内側流体制御突起部13a及び内側流体制御突起部13bと、一対の第2測温体5a及び第2測温体5bを挟んで反対側に夫々配置され、回路搭載面12から突出して形成される一対の外側流体制御突起部14a及び外側流体制御突起部14bを更に備える。以上の構成によれば、搭載面直交方向の加速度成分に対する加速度検出素子1の感度が大幅に向上する。
【0059】
(6)また、一対の内側流体制御突起部13a及び内側流体制御突起部13bの突出量と、一対の外側流体制御突起部14a及び外側流体制御突起部14bの突出量と、は等しい。以上の構成によれば、内側流体制御突起部13a及び内側流体制御突起部13bと、外側流体制御突起部14a及び外側流体制御突起部14bを、同一プロセスで同時に形成することができる。
【0060】
なお、図15では、外側流体制御突起部14a及び外側流体制御突起部14bのチャンバー長手方向における厚みは、外側流体制御突起部14a及び外側流体制御突起部14bの突出量よりも小さくなるように描いている。しかしながら、実際には、製造上の都合で、外側流体制御突起部14a及び外側流体制御突起部14bのチャンバー長手方向における厚みは、外側流体制御突起部14a及び外側流体制御突起部14bの突出量と略等しくなる。
【0061】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0062】
1 加速度検出素子
2 外枠体
3 発熱体
4 第1測温体
5 第2測温体
6 演算増幅器
11 流体チャンバー
12 回路搭載面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16