(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
家庭から排出されたごみや、産業廃棄物等は、一般的に、焼却炉において焼却処理される。焼却処理により発生する焼却灰は、埋め立て等の処理に供されている。しかし、家庭から排出されるごみには、ナトリウムやカリウムが含まれていることが多く、特にナトリウムは、塩化物、すなわち食塩として含まれていることが多い。このため、ナトリウムやカリウムや塩素は、焼却灰中にも一定量以上が含まれている。従って、焼却灰を埋設処理してしまったのでは、これらの資源が回収されず、その再利用ができなくなる。
【0003】
そこで、焼却灰からナトリウムやカリウムを回収するとともに、二酸化炭素の排出量の増加による地球温暖化を防ぐことを目的として、都市ごみ焼却施設から発生する排ガス中に含まれるCO
2を固定化するシステムに関する研究開発が行われている(例えば、特許文献1)。
【0004】
以下、特許文献1で提案されている、従来の連続晶析システムを備えた、焼却灰の処理装置を、
図4を参照しながら説明する。
焼却灰の処理装置20は、
図4に示すように、焼却灰から水溶液(I)を作り出すための灰反応装置2と、水溶液(I)からカリウムを塩化カリウムとして分離、回収するための冷却晶析装置15を含む連続晶析システム13と、焼却炉で発生した排ガスからCO
2を吸収するための吸収塔4とを備える。水溶液(I)は、カリウム、ナトリウム、および塩素を含む。
【0005】
従来の連続晶析システム13は、冷却晶析装置15と、灰反応装置2で得られた水溶液(I)を冷却晶析装置15へ供給する搬入流路16と、冷却晶析装置15において水溶液(I)からカリウムを分離、回収した後の水溶液(II)を、冷却晶析装置15外へ送り出す搬出流路17と、を備える。
搬入流路16(例えば、
図4中の位置P
1)における水溶液(I)は、当該水溶液(I)中においてカリウムおよび塩素がイオンとして存在可能な第1の温度に調整されている。搬入流路16から冷却晶析装置15内(
図4中の位置P
2)に供給された水溶液(I)は、第1の温度よりも低い、塩化カリウムを析出可能な第2の温度に調整されている。
【0006】
水溶液(II)は、搬出流路17を経由して吸収塔4へ供給される。
吸収塔4は、焼却炉の煙道からの炭酸ガス(CO
2)を含む排ガスを吸収塔4の内部へ供給するための供給口10aと、吸収塔4内で排ガスからCO
2が吸収された後の排ガスを吸収塔4の外部(煙道)に戻すための排出口10bとを有する。搬出流路17の一部は、吸収塔4の内部へ延びており、その一部には、吸収塔4の内部における排ガス雰囲気中に水溶液(II)を散布するためのノズル12が設けられている。
吸収塔4では、吸収塔4内へ供給された水溶液(II)と、焼却炉で発生した排ガス中のCO
2とを反応させる。これにより、水溶液(II)からナトリウムを炭酸水素ナトリウムとして分離、回収することができるとともに、排ガスからCO
2を除去することができる。
【0007】
吸収塔4において水溶液(II)からナトリウムを分離、回収した後の水溶液(III)は、戻り流路9を経由して灰反応装置2へ供給される。灰反応装置2は、焼却灰の水溶液から沈殿物を分離、回収するための沈殿槽11a、および沈殿槽11a内の水溶液を攪拌するための攪拌装置11bを有する。水溶液(III)は、灰反応装置2において、焼却灰の水溶液から、カルシウムおよびマグネシウムを炭酸カルシウムおよび炭酸マグネシウムとして分離、回収して、水溶液(I)を生成する目的で用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、
図4に示す連続晶析システム13では、灰反応装置2から搬入流路16へ供給される水溶液(I)のすべてを冷却晶析装置15にて冷却する必要があり、冷却するのに多くのエネルギーを必要とするため、コストがかかる。
また、多くのエネルギーを必要とするため、冷却晶析装置15を大型化する必要がある。
【0010】
さらに、冷却晶析装置15から搬出流路17へ送り出された水溶液(II)(例えば、
図4中の位置P
3の水溶液)は、第2の温度に冷却されており、カリウム、ナトリウム、および塩素のイオン等を飽和濃度に近い状態で含有している。このため、わずかな温度低下で搬出流路17内において水溶液(II)から塩化カリウム等が析出し易く、搬出流路17内が析出物で閉塞され易い。搬出流路17内が析出物で閉塞されると、
図4に示すように、搬出流路17が吸収塔4に接続される場合、水溶液(II)を吸収塔4へ十分に供給できなくなり、吸収塔4における水溶液(II)によるCO
2ガスの吸収能および水溶液(II)からのナトリウムの回収量が大幅に低下する。搬入流路16、搬出流路17、および戻り流路9による水溶液の循環が十分に行われなくなり、装置20の処理能力が大幅に低下する。
【0011】
そこで、本発明は、冷却晶析装置を小型化可能であり、かつ安定した連続晶析が可能であり、信頼性に優れた、低コストの連続晶析システムおよび連続晶析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の連続晶析システムは、
カリウムと塩素とを含有する第1の水溶液からカリウムを塩化カリウムとして分離、回収する冷却晶析装置と、
前記第1の水溶液を前記冷却晶析装置へ供給する搬入流路と、
前記冷却晶析装置において前記第1の水溶液からカリウムを分離、回収した後の第2の水溶液を、前記冷却晶析装置外へ送り出す搬出流路と、
前記搬入流路における前記第1の水溶液の一部を、前記冷却晶析装置をバイパスして前記搬出流路へ供給するバイパス流路と、
を備え、
前記第1の水溶液は、前記搬入流路において、当該水溶液中においてカリウムおよび塩素がイオンとして存在可能な第1の温度に調整され、
前記第1の水溶液は、前記冷却晶析装置において、前記第1の温度よりも低い、塩化カリウムを析出可能な第2の温度に調整され、
前記搬出流路において、前記冷却晶析装置より搬出された、第2の温度に調整された第2の水溶液が、前記搬入流路から前記バイパス流路を経由した、第1の温度に調整された第1の水溶液と合流することで、第1の水溶液と第2の水溶液とが合流した後の第3の水溶液が、前記第2の温度よりも高い第3の温度に調整されている、
ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、
カリウムと塩素とを含有する第1の水溶液からカリウムを塩化カリウムとして分離、回収する冷却晶析装置と、
前記第1の水溶液を前記冷却晶析装置内へ供給する搬入流路と、
前記冷却晶析装置において前記第1の水溶液からカリウムを分離、回収した後の第2の水溶液を、前記冷却晶析装置外へ送り出す搬出流路と、
を備えた連続晶析システムを用いた連続晶析方法であって、
前記搬入流路における前記第1の水溶液の一部を、前記冷却晶析装置をバイパスして前記搬出流路へ供給し、
前記搬入流路における第1の水溶液を、当該水溶液中においてカリウムおよび塩素がイオンとして存在可能な第1の温度に調整し、
前記冷却晶析装置における第1の水溶液を、前記第1の温度よりも低い、塩化カリウムを析出可能な第2の温度に調整し、
前記搬出流路において、前記冷却晶析装置より搬出された、第2の温度に調製された第2の水溶液を、前記搬入流路から冷却晶析装置をバイパスして搬出流路へ供給される、第1の温度に調整された第1の水溶液と合流させて、第1の水溶液と第2の水溶液とが合流した後の第3の水溶液を、前記第2の温度よりも高い第3の温度に調整する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、冷却晶析装置を小型化可能であり、かつ安定した連続晶析が可能であり、信頼性に優れた、低コストの連続晶析システムおよび連続晶析方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、カリウムと塩素とを含有する第1の水溶液からカリウムを塩化カリウムとして分離、回収する冷却晶析装置と、第1の水溶液を冷却晶析装置へ供給する搬入流路と、冷却晶析装置において第1の水溶液からカリウムを分離、回収した後の第2の水溶液を、冷却晶析装置外へ送り出す搬出流路と、を備えた連続晶析システムに関する。
【0017】
本発明の連続晶析システムは、搬入流路における第1の水溶液の一部を、冷却晶析装置をバイパスして搬出流路へ供給するバイパス流路を備える。第1の水溶液は、搬入流路において、第1の水溶液中においてカリウムおよび塩素がイオンとして存在可能な第1の温度に調整され、冷却晶析装置において、第1の温度よりも低い、塩化カリウムを析出可能な第2の温度に調整されている。
これにより、冷却晶析装置へ供給される第1の水溶液の流量を減らすことができるため、冷却に多くのエネルギーを必要としない。よって、冷却に対するコストを低減することができる。また、冷却に多くのエネルギーを必要としないため、冷却晶析装置を小型化することができる。
【0018】
また、本発明の連続晶析システムは、搬出流路において、冷却晶析装置より搬出された、第2の温度に調整された第2の水溶液が、搬入流路からバイパス流路を経由した、第1の温度に調整された第1の水溶液と合流することで、第1の水溶液と第2の水溶液とが合流した後の第3の水溶液が、第2の温度よりも高い第3の温度に調整されている。
これにより、搬出流路内で生じた第2の水溶液からの析出物による搬出流路の閉塞を抑制することができ、安定した連続晶析を行うことができる。また、冷却晶析装置内の温度をより下げることができ、これにより、塩化カリウムの回収量を低下させずに、冷却晶析装置を小型化できる。
【0019】
第1の水溶液は、焼却炉で発生した焼却灰の水溶液を用いて生成されるのが好ましい。
焼却灰は、通常、カリウムおよび塩素を含む。よって、焼却灰よりカリウムの資源を塩化カリウムとして回収し、再利用することができる。
【0020】
第1の水溶液が、さらにナトリウムを含み、
第3の水溶液を、二酸化炭素を含有するガスと接触させて、第3の水溶液からナトリウムが炭酸水素ナトリウムとして分離、回収されるのが好ましい。
焼却灰は、通常、ナトリウムを含む。よって、焼却灰よりナトリウムの資源を回収し、再利用することができる。
二酸化炭素を含有するガスとしては、例えば、焼却炉から発生した排ガスが用いられ、排ガス中の二酸化炭素濃度を低減することができるとともに、この二酸化炭素を利用して焼却灰からナトリウムを回収することができる。
【0021】
第3の水溶液からナトリウムを分離、回収した後の第4の水溶液は、所定のpH値に調整され、第1の水溶液の生成に用いられるのが好ましい。
焼却炉で発生した焼却灰は、通常、カルシウムおよびマグネシウムを含む。この焼却灰の水溶液に第4の水溶液を供給することで、焼却灰の水溶液からカルシウムおよびマグネシウムを炭酸カルシウムおよび炭酸マグネシウムの沈殿物として分離、回収した後の水溶液を第1の水溶液として用いることができる。
上記のpH値は、第3の水溶液に溶解する二酸化炭素の量およびナトリウムの回収量を変えることで、上記の焼却灰の水溶液からのカルシウムおよびマグネシウムの分離、回収(炭酸カルシウムおよび炭酸マグネシウムの沈殿物の形成)、ならびに第1の水溶液から第4の水溶液までの循環が可能な、所定の値に調整される。
【0022】
また、本発明は、カリウムと塩素とを含有する第1の水溶液からカリウムを塩化カリウムとして分離、回収する冷却晶析装置と、第1の水溶液を冷却晶析装置内へ供給する搬入流路と、冷却晶析装置において第1の水溶液からカリウムを分離、回収した後の第2の水溶液を、冷却晶析装置外へ送り出す搬出流路と、を備えた連続晶析システムを用いた連続晶析方法に関する。
【0023】
搬入流路における前記第1の水溶液の一部を、冷却晶析装置をバイパスして搬出流路へ供給する。搬入流路における第1の水溶液を、当該水溶液中においてカリウムおよび塩素がイオンとして存在可能な第1の温度に調整し、冷却晶析装置における第1の水溶液を、第1の温度よりも低い、塩化カリウムを析出可能な第2の温度に調整する。
これにより、冷却晶析装置へ供給される第1の水溶液の流量を減らすことができるため、冷却に多くのエネルギーを必要としない。よって、冷却に対するコストを低減することができる。また、冷却に多くのエネルギーを必要としないため、冷却晶析装置を小型化することができる。
【0024】
搬出流路において、冷却晶析装置より搬出された、第2の温度に調製された第2の水溶液を、搬入流路から冷却晶析装置をバイパスして搬出流路へ供給される、第1の温度に調整された第1の水溶液と合流させて、第1の水溶液と第2の水溶液とが合流した後の第3の水溶液を、第2の温度よりも高い第3の温度に調整する。
これにより、搬出流路内で生じた第2の水溶液からの析出物による搬出流路の閉塞を抑制することができる。冷却晶析装置内の温度をより下げることができ、これにより、塩化カリウムの回収量を低下させずに、冷却晶析装置を小型化できる。
【0025】
本発明の連続晶析システムを備えた、焼却灰の処理装置の一実施形態を、
図1を参照しながら説明する。
図1に示すように、焼却灰の処理装置1は、焼却炉で発生した焼却灰を用いて、ナトリウム、カリウム、および塩素を含む第1の水溶液を作り出すための灰反応装置2と、第1の水溶液からカリウムを塩化カリウムとして分離、回収するための冷却晶析装置5を含む連続晶析システム3と、焼却炉で発生した排ガスからCO
2を吸収するための吸収塔4とを、備える。
【0026】
図1に示すように、連続晶析システム3は、第1の水溶液からカリウムを塩化カリウムとして分離、回収する冷却晶析装置5と、第1の水溶液を灰反応装置2から冷却晶析装置5へ供給する搬入流路6と、冷却晶析装置5において第1の水溶液からカリウムを分離、回収した後の第2の水溶液を、冷却晶析装置5外へ送り出す搬出流路7と、搬入流路6における第1の水溶液の一部を、冷却晶析装置5をバイパスして搬出流路7へ供給するバイパス流路8と、を備える。
【0027】
第1の水溶液は、灰反応装置2において、第1の水溶液中でカリウムおよび塩素がイオンとして存在可能な第1の温度T
1に調整されている。よって、搬入流路6(例えば、位置P
1)において、第1の温度T
1に調整された第1の水溶液が流れる。
冷却晶析装置5内部の温度は、第1の温度T
1よりも低い、塩化カリウムを析出可能な第2の温度T
2に調整されている。このため、冷却晶析装置5に供給された第1の水溶液は、第1の温度T
1から第2の温度T
2に冷却される。この冷却により、第1の水溶液から塩化カリウムが析出することで、第1の水溶液からカリウムが分離、回収される。
【0028】
第1の水溶液からカリウムおよび塩素が分離、回収された後の第2の水溶液は、冷却晶析装置5から搬出流路7へ送り出される。第2の水溶液は、冷却晶析装置5により第2の温度T
2に調整されている。
冷却晶析装置5より搬出された、第2の温度T
2に調整された第2の水溶液は、搬出流路7の位置P
4において、搬入流路6からバイパス流路8を経由した、第1の温度T
1に調整された第1の水溶液と合流する。これにより、搬出流路7における位置P
4の合流点よりも下流側(例えば、位置P
3)では、第1の水溶液と第2の水溶液とが合流した後の第3の水溶液が流れ、第2の温度T
2よりも高い第3の温度T
3に調整されている。第1の温度T
1、第2の温度T
2、第3の温度T
3は、T
2<T
3<T
1の関係を有する。
【0029】
第3の温度T
3は、例えば、第1の温度T
1、第2の温度T
2、または冷却晶析装置5から搬出流路7へ送り出される第2の水溶液の流量M
2に対する、バイパス流路8を流れる第1の水溶液の流量M
1の比:M
1/M
2を変えることで調整される。
搬出流路7内での第2の水溶液による析出を確実に防ぐためには、搬出流路7におけるバイパス流路8との合流点(位置P
4)は、冷却晶析装置5の出口付近(例えば、搬出流路7における冷却晶析装置5の出口から50〜100cm程度の箇所)であるのが好ましい。
【0030】
バイパス流路8を設けることで冷却晶析装置5を小型化可能であり、かつ安定した連続晶析が可能であり、信頼性に優れた、低コストの連続晶析システム3を提供することができる。
搬入流路6における第1の水溶液の一部を、冷却晶析装置5をバイパスして搬出流路7へ供給するバイパス流路8を設けることで、搬入流路6へ供給される第1の水溶液の一部を冷却晶析装置5において冷却すればよいため、冷却に多くのエネルギーを必要とせず、冷却に対するコストを低減することができる。
また、冷却に多くのエネルギーを必要としないため、冷却晶析装置5を小型化することができる。
【0031】
さらに、搬出流路7において、第2の温度T
2に冷却された第2の水溶液は、搬入流路6からバイパス流路8を経由した、第2の温度T
2よりも高い第1の温度T
1に調整された第1の水溶液と合流する。これにより、搬出流路7内を流れる水溶液の温度を第2の温度T
2よりも高くすることができ、搬出流路7内における第2の温度T
2に冷却された第2の水溶液の析出による搬出流路7内の閉塞を抑制することができる。その結果、安定した連続晶析を実現することができる。冷却晶析装置5において第2の温度T
2をより下げることができるため、塩化カリウムの回収量を低下させずに、冷却晶析装置5を小型化できる。
【0032】
冷却晶析装置5では、第1の水溶液は、第1の温度T
1よりも低い第2の温度T
2(例えば、20〜30℃程度)に冷却される。例えば、
図4に示すバイパス流路を設けない従来の連続晶析システム13では搬出流路での析出物による閉塞が起こり得る約20〜25℃の低温領域まで第1の水溶液を冷却することができる。塩化カリウムは、60℃における飽和濃度に比べて30℃における飽和濃度が大幅に低いという特性を有するため、第1の水溶液中に溶解していたカリウムおよび塩素のイオンが塩化カリウムとして析出し、沈殿する。これにより、第1の水溶液からカリウムを分離、回収することができる。
【0033】
第1の水溶液の生成に用いられる焼却灰は、粉砕機で粉砕された後、灰反応装置2へ供給される。灰反応装置2は、焼却灰の水溶液から沈殿物を分離、回収するための沈殿槽11a、および沈殿槽11a内の水溶液を攪拌するための攪拌装置11bを有する。
焼却炉で発生する焼却灰は、通常、ナトリウムとカリウムと塩素とを含むとともに、カルシウムやマグネシウムを含む。焼却灰中では、一般的に、ナトリウムは塩化ナトリウムとして存在し、カリウムは塩化カリウムとして存在する。
【0034】
灰反応装置2では、焼却灰の水溶液中のカルシウムおよびマグネシウムが、後述する第4の水溶液由来の炭酸イオンと反応して、炭酸カルシウムおよび炭酸マグネシウムが形成される。焼却灰の水溶液から、炭酸カルシウムおよび炭酸マグネシウムとともに、水に溶解しない他の成分(残灰物)が、沈殿物として分離、回収される。
【0035】
灰反応装置2の設定温度は、60〜80℃が好ましい。灰反応装置2は、一般的に、その運転温度が高いほど、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムの抽出率が高い。すなわち抽出速度が高い。そして、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムともに生成反応は発熱反応であるため、その発熱の量の分だけ、外部から灰反応装置2に加える熱量を低減することができる。
灰反応装置2から冷却晶析装置5へ供給される第1の水溶液の第1の温度T
1(例えば、60℃)は、灰反応装置2の設定温度により調整される。
灰反応装置2で得られる第1の水溶液は、灰反応装置2により、例えば、温度60〜70℃程度およびpH10〜11程度に調整されている。
【0036】
粉砕機にて焼却灰が細かく粉砕される程、カリウム等の回収率が上がる。粉砕の程度は、粉砕のために必要なエネルギーとの兼ね合いによって決定することができる。
灰反応装置2において、焼却灰に含まれるカルシウム等が水に溶け出すと、すぐにカルシウム等の炭酸塩が形成される。攪拌装置11bで水溶液を攪拌することで、この炭酸塩が他の粒子の表面を覆うことによる他の粒子の反応性の低下を防ぐことができる。
【0037】
第3の水溶液は、搬出流路7を経由して吸収塔4へ供給される。
吸収塔4は、焼却炉の煙道からの炭酸ガス(CO
2)を含む排ガスを吸収塔4の内部へ供給するための供給口10aと、吸収塔4内で排ガスからCO
2が吸収された後の排ガスを吸収塔4の外部(煙道)に戻すための排出口10bとを有する。搬出流路7の一部は、吸収塔4の内部へ延びており、その一部には、吸収塔4の内部における排ガス雰囲気中に第3の水溶液を散布するためのノズル12が設けられている。
【0038】
吸収塔4では、ノズル12より吸収塔4内に散布された第3の水溶液を、吸収塔4内に供給された排ガス中のCO
2と接触させる。このとき、CO
2は炭酸イオンとして第3の水溶液中に溶解し、それに伴い第3の水溶液のpHが低下する。この炭酸イオンと第3の水溶液中のナトリウムとが反応して、第3の水溶液から炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)が形成される。この炭酸水素ナトリウムは、吸収塔4内の下部に溜まる第3の水溶液より析出し、沈殿することで回収される。このようにして、排ガス由来のCO
2を固定化するとともに、第3の水溶液からナトリウムを選択的に分離、回収することができる。
【0039】
第3の水溶液からナトリウムを分離、回収した後の、余剰の炭酸イオンを含む第4の水溶液は、戻り流路9を経由して灰反応装置2へ供給される。この炭酸イオンは、第3の水溶液に溶解した排ガス中のCO
2に由来する。この炭酸イオンにより、第4の水溶液は、所定のpH値に調整されている。第4の水溶液は、灰反応装置2における第1の水溶液の生成、すなわち、後述する焼却灰の水溶液からのカルシウムおよびマグネシウムの分離、回収のために用いられる。
【0040】
灰反応装置2では、焼却灰の水溶液に含まれるカルシウムおよびマグネシウムが、第4の水溶液に含まれる炭酸イオンと即座に反応して、炭酸カルシウム(CaCO
3)および炭酸マグネシウム(MgCO
3)を形成し、残灰とともに沈殿し、回収される。回収された炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、および残灰の沈殿物は、埋め立てに供されたり、またセメント原料などとして再利用されたりする。このようにして、排ガス由来のCO
2を固定化するとともに、焼却灰の水溶液からカルシウムおよびマグネシウムを選択的に分離、回収することができる。
【0041】
焼却灰の水溶液からのカルシウムおよびマグネシウムの選択的分離および回収、ならびに排ガス中のCO
2の固定化を確実に行うためには、第4の水溶液のpH値は9〜10.5に調整されているのが好ましい。第4の水溶液のpH値が上記の範囲内にある場合、第1の水溶液から第4の水溶液までの循環を確実に行うことができる。第4の水溶液のpH値が9未満である場合、多くの炭酸イオンがナトリウムの炭酸水素ナトリウムとしての回収に用いられ、カルシウムおよびマグネシウムの炭酸カルシウムおよび炭酸マグネシウムとしての回収量が減少する場合がある。第4の水溶液のpH値が10.5超である場合、CO
2の吸収量が減少し、炭酸水素ナトリウムが選択的に形成され難くなる(炭酸水素ナトリウムの析出とともに、炭酸ナトリウム等の炭酸水素ナトリウム以外の炭酸塩の析出も起こり易くなる)場合がある。
【0042】
CO
2をナトリウムと反応させるためには、吸収塔4の設定温度は、低い方が有利である。しかし、吸収塔4で炭酸水素ナトリウムが析出し過ぎると、灰反応装置2に供給される炭酸イオンの量が減少してしまう。
また、灰反応装置2における反応時間を短くするためには、灰反応装置2の設定温度は、高い方が有利である。吸収塔4から灰反応装置2へ第4の水溶液が供給される観点から、吸収塔4では、あまり設定温度を下げ過ぎないようにすることが好ましい。
吸収塔4に供給されるCO
2を含む排ガスは、例えば、160℃以上の高温である。また、吸収塔4内で起こるCO
2の吸収反応は発熱反応である。よって、吸収塔4は、その内部の温度を下げるための工夫をすることが望ましい。吸収塔4の設定温度が80℃を超えると、炭酸水素ナトリウムが分解し易くなり、炭酸水素ナトリウムの回収率が低下する可能性がある。これらの点から、吸収塔4の設定温度は50〜80℃であるのが好ましい。
吸収塔4に供給された第3の水溶液が排ガスで加熱されることにより、スケールの発生が効果的に防止される。
【0043】
以下、カリウムとナトリウムとを個別に回収するためのメカニズムを説明する。
塩化ナトリウムの溶解度の温度依存性はあまり高くないが、塩化カリウムの溶解度の温度依存性は、塩化ナトリウムに比べて高い。よって、水溶液の温度が低下すると塩化カリウムの溶解度が大きく低下し、溶解度を超えた分の塩化カリウムが塩として析出する。例えば、塩化ナトリウムの濃度を26質量%未満に制御しておけば、冷却晶析装置5において塩化ナトリウムが析出することはない。
【0044】
0℃〜60℃の範囲では、炭酸水素ナトリウムは、炭酸水素カリウムと比べて溶解度が低い。よって、炭酸水素カリウムをその溶解度未満の状態とし、かつ炭酸水素ナトリウムをその溶解度を超えた状態になるように、吸収塔4へのCO
2の供給量を調整することで、吸収塔4にて炭酸水素ナトリウムを選択的に析出させることができる。
【0045】
系内を流れる水溶液は、カリウムリッチの塩溶液である。灰反応装置、冷却晶析装置、吸収塔で起こる各反応より、各種イオンは、下記の関係式(1)を満たす。
[K
++Na
+]=[Cl
−+HCO
3−+2CO
32−] (1)
ところで、CO
32−は、その量が多い方が、灰反応装置2における炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムの沈殿物を得るのに有利である。よって、Cl
−濃度をあまり高くすることができない。このため、塩化カリウムが析出する条件下では、必然的にK
+濃度が上昇する。ただし、吸収塔4で炭酸水素ナトリウムを選択的に析出させるためには、K
+濃度の上限を適切に設定しておくことが望ましい。
【0046】
上記の関係式(1)より、
図1に示す装置1が有効に機能するためには、第1の水溶液に含まれるカリウムイオン、ナトリウムイオン、および塩化物イオンのモル濃度は、下記の関係式(2)を満たす必要がある。
[K
+]+[Na
+]>[Cl
−] (2)
[K
+]≧[Cl
−]を満たす場合、塩化ナトリウムの析出が抑制され、塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムを効率良く回収することができる。
【0047】
これらの関係は、基本的には、灰反応装置2に供給される原料である焼却灰の成分によって決まる。これに対し、塩廃液、飛灰、薬剤等を添加することによって、良好な結果をもたらす可能性もある。
【0048】
図1に示す焼却灰の処理装置では、搬入流路6、搬出流路7、バイパス流路8、および戻り流路9により、水溶液の循環流路が形成されている。この循環流路により、水溶液中のナトリウムイオンとカリウムイオンと塩化物イオンとが次第に濃縮し、飽和状態に達すると、塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムのような塩として析出し、沈殿する。
バイパス流路8の設置により搬出流路7の閉塞が抑制されるため、循環流路内を流れる水溶液の安定した循環を実現可能であり、装置1の焼却灰の処理能力が大幅に向上する。
【0049】
循環流路を流れる水溶液のpHについて説明する。このpHは、CO
2の吸収量や焼却灰量に応じて、他の薬品を使用せずに、調整することができる。具体的には、吸収塔4に導入する排ガス量を調節したり、吸収塔4をバイパスする流路を別途設けたりすることで、水溶液のpHを調整することができる。
吸収塔4では、第3の水溶液にCO
2を吸収させるとともに炭酸水素ナトリウムを析出させることにより、下記反応式に示すように、CO
32−の活量低下よりもHCO
3−の活量上昇の方が顕著となり、これに伴ってpHも変化する。
CO
32−+CO
2(g)+H
2O=2HCO
3−
ただし、pHの調整に際しては、吸収塔4内の設定温度を考慮する必要がある。
【0050】
循環流路を流れる水溶液の水量について説明する。CO
2含有ガスが焼却炉からの排ガスである場合、排ガスは水分を含むため、水量が増加する。一方、灰反応装置2に供給される焼却灰は水分を吸収して排出されるため、水量が減少する。水溶液、特に濃縮によって飽和状態となった水溶液は、排出された残灰のリンスに使用することができる。また、吸収塔における排ガスの導入時に発生する凝縮水も、排出された残灰のリンスに使用することができる。
【0051】
以下、
図1に示す装置を用いた焼却灰の処理条件の一例を以下に説明する。
表1は、装置における連続晶析システム内の位置P
1〜P
3における条件を示す。
【0053】
なお、第1の水溶液(位置P
1)のpHは、第4の水溶液のpH値(吸収塔でのCO
2吸収量)を9〜10.5の範囲内で変えることで調整するものとする。第1の水溶液(位置P
1)の温度T
1は、灰反応装置の設定温度を変えることで調整するものとする。第3の水溶液(位置P
3)の温度T
3は、第1の水溶液のバイパス流量を変えることで調整するものとする。
ここで、
図2は、冷却晶析装置5入口の水溶液のpH(位置P
1における第1の水溶液のpH)および温度T
2と晶析物組成との関係を示す。
図2中のプロットラインは、冷却晶析装置5入口の水溶液のpH(位置P
1における第1の水溶液のpH)に対する冷却晶析物組成の境界となる温度を示している。プロットラインよりも上部の領域では、冷却晶析装置において塩化カリウムのみが析出する。一方、プロットラインよりも下部の領域では、塩化カリウムだけでなく炭酸ナトリウムおよび炭酸水素カリウムも析出するため、回収される塩化カリウムの純度が低下する。
【0054】
図3は、
図2に示すプロットラインで操作する場合における、冷却晶析装置の処理流量比を示す。ここでいう冷却晶析装置の処理流量比とは、
図4に示す冷却晶析装置15に供給される第1の水溶液の流量F
1(小型化前)に対する
図1に示す冷却晶析装置5に供給される第1の水溶液の流量F
2(小型化後)の比:F
2/F
1を指す。なお、
図4の装置では、冷却晶析装置入口の水溶液の各pH値に対して、
図1の装置の場合とカリウムの回収量が同じになるように、冷却晶析装置内の温度を30℃にして流量を調整するものとする。
なお、
図4は、バイパス流路を設けない従来の連続晶析システムを備えた焼却灰の処理装置を示す。
図1では、搬入流路内を流れる第1の水溶液の一部が冷却晶析装置に供給されるのに対して、
図4では、搬入流路内を流れる第1の水溶液のすべてが冷却晶析装置15に供給される。
【0055】
例えば、冷却晶析装置入口の第1の水溶液のpHが10.6である場合、
図2に示す冷却晶析装置内部の温度T
2を24℃まで下げることができる。このとき、
図3に示す処理流量比は0.063であり、バイパス流路を設けた
図1に示す連続晶析システムでは、バイパス流路を設けない
図4に示す連続晶析システムの場合の0.063倍に冷却晶析装置へ供給される第1の水溶液の処理流量を低減することができる。
【0056】
図2および3より、冷却晶析装置において塩化カリウムのみが析出し、処理流量比が最も小さくなる条件は、冷却晶析装置入口の第1の水溶液のpHが10.2〜10.4の範囲であり、冷却晶析装置内部の温度T
2が約21℃である。このとき、処理流量比は0.046であり、バイパス流路を設けない場合に比べて処理流量を約1/20に低減することができる。