特許第5904940号(P5904940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5904940核酸増幅反応中の反応溶液の蒸発を防止するための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5904940
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】核酸増幅反応中の反応溶液の蒸発を防止するための組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20160407BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20160407BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20160407BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   C12M1/00 A
   C12Q1/68 A
【請求項の数】11
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2012-521496(P2012-521496)
(86)(22)【出願日】2011年6月22日
(86)【国際出願番号】JP2011064232
(87)【国際公開番号】WO2011162285
(87)【国際公開日】20111229
【審査請求日】2014年1月17日
(31)【優先権主張番号】特願2010-141510(P2010-141510)
(32)【優先日】2010年6月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502338292
【氏名又は名称】ユニバーサル・バイオ・リサーチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(72)【発明者】
【氏名】杉元 崇紀
(72)【発明者】
【氏名】上田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 修
(72)【発明者】
【氏名】小飯塚 道典
(72)【発明者】
【氏名】田島 秀二
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−175006(JP,A)
【文献】 米国特許第05576197(US,A)
【文献】 特表平05−506143(JP,A)
【文献】 特開2009−210265(JP,A)
【文献】 社団法人日本油化学協会編,改訂三版 油脂化学便覧,丸善株式会社,1990年 2月28日,改訂三版,p.99−101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/
C12M
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸増幅及び光学的検出の方法であって、核酸増幅反応容器中における反応溶液の蒸発を防止するための組成物と、前記組成物の空気との界面形状が水平となる反応容器との組み合わせを用いる前記方法。
【請求項2】
核酸増幅及び光学的検出の方法であって、反応溶液の蒸発を防止するための組成物と、反応容器内壁のぬれ張力が前記組成物の表面張力より小さい反応容器との組み合わせを用いる前記方法。
【請求項3】
核酸増幅及び光学的検出の方法であって、反応溶液の蒸発を防止するための組成物と、反応容器内壁のぬれ張力が前記組成物の表面張力の80%より小さい反応容器との組み合わせを用いる前記方法。
【請求項4】
核酸増幅反応中の核酸増幅反応溶液の蒸発を防止するための組成物が、核酸増幅反応中は液体であり、反応終了後、温度変化により固体となる、融点が反応温度以下の組成物である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
核酸増幅反応中の核酸増幅反応溶液の蒸発を防止するための組成物の融点が0-15℃である請求項4記載の方法。
【請求項6】
核酸増幅反応中の核酸増幅反応溶液の蒸発を防止するための組成物の融点が5-10℃である請求項5記載の方法。
【請求項7】
反応溶液の蒸発を防止するための組成物と反応容器を収容する核酸増幅及び光学的検出用のプレパック試薬であって、反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせが、請求項1〜3のいずれかに記載の組み合わせである前記試薬。
【請求項8】
検体からの核酸抽出及び増幅、光学的検出を連続的に行う装置であって、反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせとして、請求項1〜3のいずれかに記載の組み合わせで用いることができる、前記装置。
【請求項9】
検体からの核酸抽出及び増幅、光学的検出を連続的に行う装置であって、請求項7記載のプレパック試薬を収容できる、前記装置。
【請求項10】
増幅及び光学的検出工程に於いて、核酸反応溶液が蒸発を防止するための組成物により密閉され、該組成物を介して光学的に核酸の増幅を検出することができる、請求項8又は9記載の装置。
【請求項11】
増幅及び光学的検出工程に於いて、核酸反応溶液が蒸発を防止するための組成物により密閉され、反応終了後、該組成物を固化させ、反応溶液の漏洩・飛散を防止することのできる、請求項8〜10のいずれかに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅反応中の反応溶液の蒸発を防止するための組成物、核酸増幅反応中の反応溶液の蒸発を防止して、核酸増幅反応を行う方法、核酸増幅反応中の反応溶液の蒸発を防止ための組成物を収容するプレパック試薬、並びに検体からの核酸抽出及び増幅、検出を連続的に行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子解析は、医学分野、農学分野、理学分野、薬学分野等のあらゆる分野で行なわれており、その目的は、ゲノムシーケンシング、臨床診断、農植物品種改良、食品菌検査、創薬等、多岐にわたる。このように非常に適用分野が広く、また、その応用が期待される遺伝子解析には、核酸増幅反応が頻繁に利用される。
【0003】
その中でもポリメラーゼ連鎖反応(以下、「PCR」)は、耐熱性ポリメラーゼとプライマーとを利用し、温度の昇降によって標的核酸を増幅させる技術であり、その原理は、標的DNA配列を含む2本鎖DNAが1本鎖に解離する温度(約94℃)に維持する第1段階と、解離した1本鎖DNAに正方向および逆方向のプライマーがアニーリングする温度(約50℃から約60℃)に維持する第2段階と、DNAポリメラーゼによって1本鎖DNAに相補的なDNA鎖が合成される温度(約74℃)に維持する第3段階、の3段階に設定したサーマルプロフィール(温度昇降)に従ったサイクルを多数回繰り返すことによって標的DNAを幾何級数的に増幅させる点にある。
【0004】
PCRを利用する場合には、標的DNAを含む細胞の分離・精製や、細胞からの標的DNAの抽出等の作業を行なって、標的DNAを含むPCR反応液を調製することが必要となる。特に最近、遺伝子診断、ゲノムプロジェクト等において多数の検体を効率よく処理するために、標的DNAを含む細胞の分離・精製、細胞からの標的DNAの抽出、PCRによる標的DNAの増幅といった一連の作業を自動化し、多数の検体を並列的に効率よく処理する必要性が高まっている。
【0005】
多数の検体を一括して処理するための自動化装置が開発され、利用されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3115501号
【特許文献2】特許第3630499号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常、自動化装置においては、反応容器(チューブ)を密閉するため、蓋体あるいは接着シールが利用されるが、装置内におけるその装着や完全密閉化は装置が複雑となり、且つ高価になる。
【0008】
また、反応容器(チューブ)の加熱により蒸発した液体が蓋体やシールに付着して、くもるため、反応容器(チューブ)上部よりの光学的測定が困難であり、加熱板を必要とすることになるため、さらに装置が複雑化する。
【0009】
本発明は、蓋体あるいは接着シールを用いることなく反応容器を密閉することができる組成物を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、核酸増幅反応中の反応溶液の蒸発を防止して、核酸増幅反応を行う方法を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、本発明は、核酸増幅反応中の反応溶液の蒸発を防止ための組成物を収容するプレパック試薬を提供することも目的とする。
さらにまた、本発明は、検体からの核酸抽出及び増幅、検出を連続的に行う装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、反応容器にミネラルオイルなどの油性成分を分注機などにより分注することで反応液を封入して、蓋体あるいはシールと同等以上の密閉性を保証するとともに、反応液との間に気体を介在させないため、加熱によるくもりを発生させないことに成功した。また、油性成分として、核酸増幅反応中は液体であり、反応終了後、化学変化や温度変化により固体となるような組成物を採用することによって、核酸増幅反応終了後に油性成分を固化させ、検体を含む反応溶液の廃棄を容易にするとともに、反応液の飛散、操作ミス等による汚染やコンタミネーションを防止することができるようになった。さらに、表面張力が小さい材料で反応容器の内壁をコーティングすることによって、油性成分の表面を平坦化させることができ(図15b)、その結果、光の散乱を防ぎ、均等受光面積を拡大して、反応容器上部からの照光及び/又は受光の効率を上げることができた。本発明は、これらの知見により完成されたものである。
【0013】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0014】
(1)核酸増幅反応中の核酸増幅反応溶液の蒸発を防止するための組成物であって、反応中は液体であり、反応終了後、化学変化又は温度変化により固体となる前記組成物。
(2)核酸増幅反応中の核酸増幅反応溶液の蒸発を防止するための組成物であって、融点が0-15℃である前記組成物。
(3)核酸増幅反応中の核酸増幅反応溶液の蒸発を防止するための組成物であって、融点が5-10℃である前記組成物。
(4)(1)から(3)のいずれかに記載の組成物を、核酸増幅反応溶液の上層に積層させる工程を含む核酸増幅方法。
(5)核酸増幅反応終了後に、(1)から(3)のいずれかに記載の組成物を固化させる工程を含む核酸増幅方法。
(6)核酸増幅の方法であって、核酸増幅反応容器中における反応溶液の蒸発を防止するための組成物の空気との界面形状が、水平又は、上に凸となる反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせを用いる前記方法。
(7)核酸増幅の方法であって、反応容器内壁のぬれ張力が反応溶液の蒸発を防止するための組成物の表面張力より小さい反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせを用いる前記方法。
(8)核酸増幅の方法であって、反応容器内壁のぬれ張力が反応溶液の蒸発を防止するための組成物の表面張力の80%より小さい反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせを用いる前記方法。
(9)反応溶液の蒸発を防止するための組成物を収容する核酸増幅用のプレパック試薬であって、(1)から(3)のいずれかに記載の反応溶液の蒸発を防止するための組成物を含む前記試薬。
(10)反応溶液の蒸発を防止するための組成物と反応容器を収容する核酸増幅用のプレパック試薬であって、反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせが、(6)から(8)のいずれかに記載の組み合わせである前記試薬。
(11)検体からの核酸抽出及び増幅、検出を連続的に行う装置であって、増幅及び検出工程に於いて、核酸反応溶液が蒸発を防止するための組成物により密閉され、該組成物を介して光学的に核酸の増幅を検出することができる、前記装置。
(12)検体からの核酸抽出及び増幅、検出を連続的に行う装置であって、増幅及び検出工程に於いて、核酸反応溶液が蒸発を防止するための組成物により密閉され、反応終了後、該組成物を固化させ、反応溶液の漏洩・飛散等を防止することのできる、前記装置。
(13)検体からの核酸抽出及び増幅、検出を連続的に行う装置であって、(1)から(3)のいずれかに記載の反応溶液の蒸発を防止するための組成物により、反応溶液の蒸発を防止することができる、前記装置。
(14)検体からの核酸抽出及び増幅、検出を連続的に行う装置であって、反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせとして、請求項6から8のいずれかに記載の組み合わせで用いることができる、前記装置。
(15)検体からの核酸抽出及び増幅、検出を連続的に行う装置であって、(9)又は(10)記載のプレパック試薬を収容できる、前記装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、核酸増幅反応中の反応溶液の蒸発を防止することができる。また、検体を含む反応溶液の廃棄が容易になり、反応液の飛散、操作ミス等による汚染やコンタミネーションを防止することができる。さらに、反応溶液における光の散乱を防ぎ、均等受光面積を拡大して、反応容器上部からの照光及び/又は受光の効率を上げることができる。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2010‐141510の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の検体検査装置の筐体の一部を除去して示す斜視図である。
図2図1の検体検査装置の一部部品を除去し検査カートリッジ容器を引き出した状態を示す斜視図である。
図3図1および図2に示す光測定部に内蔵された部品の拡大斜視図である。
図4図1および図2に示す検査カートリッジ容器の拡大斜視図である。
図5図4に示す検査カートリッジ容器に収容された各種チップを示す斜視図である。
図6図1および図2に示す検体検査装置の処理流れ図である。
図7】第2の検体検査装置の主要部品を筐体から取り出して示す斜視図である。
図8】第3の検体検査装置の主要部品を筐体から取り出して示す斜視図である。
図9図8に示す光測定部および温度制御器を一部切り欠いて示す拡大斜視図である。
図10】第4の検体検査装置の主要部品を筐体から取り出して示す斜視図である。
図11図10に示す光測定部および温度制御器を一部切り欠いて示す拡大斜視図である。
図12図11に示す蓋を示す拡大斜視図である。
図13図12に示す蓋を一部切り欠いて示す斜視図である。
図14】第5の検体検査装置の4つの検査カートリッジ容器を含む主要部品を筐体から取り出して示す模式図である。
図15】表面張力が小さい材料で反応容器の内壁をコーティングすることによって、油性成分の表面が平坦化する概念図を示す。a:内壁をコーティングしていない反応容器1における反応溶液2と油性成分3の様子を示す断面図。b:内壁にコーティング4を有する反応容器1における反応溶液2と油性成分3の様子を示す断面図。
図16】反応容器の開口面における蛍光強度分布を示す。16−1:未処理反応容器の開口面における蛍光強度分布。◆未処理容器・蛍光水溶液のみ。■未処理容器・蛍光水溶液+ミネラルオイル。16−2:撥水撥油処理剤で処理した反応容器の開口面における蛍光強度分布。◆処理容器・蛍光水溶液のみ。■処理容器・蛍光水溶液+ミネラルオイル。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
【0018】
本発明は、核酸増幅反応中の核酸増幅反応溶液の蒸発を防止するための組成物であって、反応中は液体であり、反応終了後、化学変化又は温度変化により固体となる前記組成物を提供する。
【0019】
また、本発明は、核酸増幅反応中の核酸増幅反応溶液の蒸発を防止するための組成物であって、融点が0-15℃である前記組成物を提供する。
【0020】
さらに、本発明は、核酸増幅反応中の核酸増幅反応溶液の蒸発を防止するための組成物であって、融点が5-10℃である前記組成物を提供する。
【0021】
本発明の組成物は、ミネラルオイル、シリコーンオイル、その他化学合成油脂、それらの組み合わせなどを含有するとよい。
【0022】
ミネラルオイルは石油由来のオイルであり、流動パラフィン、固体パラフィンなどを例示することができる。
【0023】
シリコーンオイルはシロキサン結合が2000以下の直鎖構造の分子からなるオイルであり、ストレートシリーンオイルと変性シリコーンオイルに大別できるが、いずれであってもよい。
【0024】
本発明の組成物が、反応中は液体であり、反応終了後、化学変化により固体となるためには、融点が室温あるいは反応温度(例えば、約50℃)以下となるように成分の組成を調整し、さらに、固化剤を利用するとよい。
【0025】
融点が室温あるいは反応温度以下である組成物としては、流動パラフィイン、ミネラルオイルなどを例示することができる。
【0026】
固化剤としては、高融点(室温以上)パラフィン(例えば、融点44-46℃の固体パラフィンなど)などを例示することができる。
【0027】
本発明の組成物が、反応中は液体であり、反応終了後、温度変化により固体となるためには、組成物の融点が0-15℃、好ましくは、5-10℃となるように成分の組成を調整するとよい。例えば、流動パラフィン1に対して、固体パラフィン(融点44-46℃)5.0-15.0質量%を添加することにより、組成物の融点を-10〜40℃とすることができる。
本発明の組成物は、容器中の核酸増幅反応液が空気と接触する面を完全に覆うだけの量を添加すればよく、好ましくは、容器中の核酸増幅反応液が空気と接触する面を完全に覆うだけの最低量の1.1から3倍、より好ましくは、1.5から2倍の量、添加すると良い。
【0028】
本発明の組成物を核酸増幅反応溶液の上層に積層させることによって、反応溶液の蒸発を防止することができる。このように、本発明の組成物により反応溶液を封入することで、蓋体あるいはシールと同等以上の密閉性が保証されるとともに、反応溶液との間に気体を介在させないため、くもりも発生しない、あるいはくもりを減少させることができる。
【0029】
本発明は、上記の組成物を、核酸増幅反応溶液の上層に積層させる工程を含む核酸増幅方法を提供する。
【0030】
また、本発明は、核酸増幅反応終了後に、上記組成物を固化させる工程を含む核酸増幅方法も提供する。
【0031】
核酸増幅反応終了後に、上記組成物を固化させることにより、反応溶液の廃棄を容易にするとともに、反応液の飛散、操作ミス等による汚染やコンタミネーションを防ぐことができる。固化の方法は上記の通りである。
【0032】
核酸増幅反応容器中における反応溶液の蒸発を防止するための組成物(例えば、ミネラルオイルあるいはシリコーンオイルなどの油性成分)を反応溶液の上層に積層させると、空気との界面形状が上に凹となる(図15a)ため、光が散乱し、均等受光面積が小さくなる(図16−1■)。その結果、測定の精度が低くなるという問題が生じる。この問題を解決するために、以下のような組み合わせを用いた。
【0033】
・核酸増幅反応容器中における反応溶液の蒸発を防止するための組成物の空気との界面形状が、水平又は上に凸となる反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせ。
・反応容器内壁のぬれ張力が反応溶液の蒸発を防止するための組成物の表面張力より小さい反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせ。
・反応容器内壁のぬれ張力が反応溶液の蒸発を防止するための組成物の表面張力の80%より小さい反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせ。
【0034】
従って、本発明は、核酸増幅の方法であって、核酸増幅反応容器中における反応溶液の蒸発を防止するための組成物の空気との界面形状が、水平又は、上に凸となる反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせを用いる前記方法を提供する。
【0035】
また、本発明は、核酸増幅の方法であって、反応容器内壁のぬれ張力が反応溶液の蒸発を防止するための組成物の表面張力より小さい反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせを用いる前記方法を提供する。
【0036】
ぬれ張力試験方法はJIS K6768に規定されている。
【0037】
さらに、本発明は、核酸増幅の方法であって、反応容器内壁のぬれ張力が反応溶液の蒸発を防止するための組成物の表面張力の80%より小さい反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせを用いる前記方法を提供する。
【0038】
核酸増幅反応容器中における反応溶液の蒸発を防止するための組成物の空気との界面形状が水平又は上に凸となる反応容器、反応容器内壁のぬれ張力が反応溶液の蒸発を防止するための組成物の表面張力より小さい反応容器及び反応容器内壁のぬれ張力が反応溶液の蒸発を防止するための組成物の表面張力の80%より小さい反応容器としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等を例示することができる。また、フルオロアクリル樹脂、フルオロシラン、その他フッ素導入型合成樹脂などの表面張力が小さいコーティング剤で内壁がコーティングされた反応容器を例示することができる。
【0039】
反応容器は、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ナイロンなどのいずれの材質であってもよい。コーティングの厚さは、特に限定されないが、1μm程度が適当である。
【0040】
コーティング剤がフルオロシランである場合には、密着性を増強するために、プライマー処理を行うことが好ましい。プライマーとしては、液状ガラスなどを例示することができる。
【0041】
核酸増幅反応容器中における反応溶液の蒸発を防止するための組成物の空気との界面形状が水平又は上に凸となる反応容器は、反応容器内壁のぬれ張力が反応溶液の蒸発を防止するための組成物の表面張力より小さい反応容器、好ましくは、反応容器内壁のぬれ張力が反応溶液の蒸発を防止するための組成物の表面張力の80%より小さい反応容器であるとよい。
【0042】
本発明の核酸増幅方法において、反応溶液の蒸発を防止するための組成物は、本発明の上記組成物の他、反応溶液の蒸発を防止するために使用されてきた公知の組成物(例えば、ミネラルオイル(アプライドバイオシステム社製)、米国特許第5411876号明細書、米国特許第5576197号明細書、米国特許第5599660号明細書、米国特許第5413924号明細書、特開2007-275005号公報、特開2007-175006号公報などに記載の油状成分)であってもよい。
核酸増幅反応容器中における反応溶液の蒸発を防止するための組成物の空気との界面形状が、水平又は上に凸となる反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせの例としては、株式会社フロロテクノロジー社製フッ素系コーティング剤FS−1010によって内壁を表面コーティングされた、ロッシュ社製PCRチューブ及び、アプライドバイオシステム社製ミネラルオイルなどを挙げることができる。
【0043】
本発明の組成物は、核酸増幅用のプレパック試薬に収容されてもよい。
【0044】
本発明は、反応溶液の蒸発を防止するための組成物を収容する核酸増幅用のプレパック試薬であって、以下の(1)〜(3)のいずれかの反応溶液蒸発防止組成物を含む前記試薬を提供する。
【0045】
(1) 核酸増幅反応中の核酸増幅反応溶液の蒸発を防止するための組成物であって、反応中は液体であり、反応終了後、化学変化又は温度変化により固体となる前記組成物。
(2) 核酸増幅反応中の核酸増幅反応溶液の蒸発を防止するための組成物であって、融点が0-15℃である前記組成物。
(3) 核酸増幅反応中の核酸増幅反応溶液の蒸発を防止するための組成物であって、融点が5-10℃である前記組成物。
【0046】
(1)〜(3)の組成物は上記の通りである。
【0047】
本発明のプレパック試薬は、反応容器を含んでもよい。反応容器は上記の通りである。
【0048】
本発明は、反応溶液の蒸発を防止するための組成物と反応容器を収容する核酸増幅用のプレパック試薬であって、反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせが、(1a)-(3a)のいずれかに記載の組み合わせである前記試薬を提供する。
【0049】
(1a) 核酸増幅反応容器中における反応溶液の蒸発を防止するための組成物の空気との界面形状が、水平又は、上に凸となる反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせ。
(1b) 反応容器内壁のぬれ張力が反応溶液の蒸発を防止するための組成物の表面張力より小さい反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせ。
(1c) 反応容器内壁のぬれ張力が反応溶液の蒸発を防止するための組成物の表面張力の80%より小さい反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせ。
【0050】
(1a)〜(1c)の組成物と反応容器は上記の通りである。
【0051】
本発明のプレパック試薬は、さらに、核酸抽出試薬、核酸増幅反応液などを含んでもよい。
【0052】
本発明の組成物、プレパック試薬及び核酸増幅方法は、マニュアル操作にも、核酸増幅自動化装置にも利用することができる。
【0053】
本発明は、検体からの核酸抽出及び増幅、検出を連続的に行う装置であって、増幅及び検出工程に於いて、核酸反応溶液が蒸発を防止するための組成物により密閉され、該組成物を介して光学的に核酸の増幅を検出することができる、前記装置も提供する。
【0054】
また、本発明は、検体からの核酸抽出及び増幅、検出を連続的に行う装置であって、増幅及び検出工程に於いて、核酸反応溶液が蒸発を防止するための組成物により密閉され、反応終了後、該組成物を固化させ、反応溶液の漏洩・飛散等を防止することのできる、前記装置も提供する。
【0055】
本発明の装置は、上記の(1)から(3)のいずれかに記載の反応溶液の蒸発を防止するための組成物により、反応溶液の蒸発を防止することができるものであるとよい。
【0056】
また、本発明の装置は、反応容器と反応溶液の蒸発を防止するための組成物の組み合わせとして、上記の(1a)-(1c)のいずれかに記載の組み合わせで用いることができる、前記装置であってもよい。
【0057】
また、本発明は、検体からの核酸抽出及び増幅、検出を連続的に行う装置であって、上記のプレパック試薬を収容できる、前記装置を提供する。
【0058】
続いて、検体からの核酸抽出及び増幅、検出を連続的に行う装置(以下、「第1の検体検査装置」という)10を図1乃至図6に基づいて説明する。
【0059】
該検体検査装置10は、例えば、長さ250〜400mm(X軸方向)、幅70〜100mm(Y軸方向)、高さ300〜500mm(Z軸方向)程度のブック状の筐体12で囲まれている。該筐体12内には、検体および該検体の検査に用いる1または2以上の試薬溶液等が収容されまたは収容可能な複数(この例では10個)のウェル22および検査用器具としての複数種類(この例では3種類)のチップが収容されたチップ収容部20が一列状に配列されて設けられかつ該検体を識別しまたは管理する検体情報および検査内容を示す検査情報が可視記録媒体としてのシール24上に表示され透光性の部材で形成された検査カートリッジ容器14と、該検査カートリッジ容器14に収容された検体と前記試薬とを反応させて所定の光学状態としての発光を得るための自動検査部(15,19)と、該自動検査部による検査の結果として生じた前記発光を測定する光測定部17と、前記検体情報および前記検査情報を含む前記検査カートリッジ容器14に表示された内容を撮影して画像データを得るデジタル・カメラ28と、前記検査カートリッジ容器14の前記シール24の空欄に検査結果を印字可能な熱転写プリンタ機構21と、前記自動検査部(15,19)、光測定部17、デジタル・カメラ28、および熱転写プリンタ機構21についての制御を行うためのCPU等の集積回路が設けられたボード52とを有する。
【0060】
前記検査カートリッジ容器14は、手動によって前記筐体12から該筐体12外に引き出し可能に設けられた該嵌装板16と連結する装填箱18に着脱可能に装填されている。
【0061】
前記自動検査部(15,19)、前記検査カートリッジ容器14、光測定部17が設けられた室と、前記ボード52とが設けられた室とは仕切り板51によって仕切られて、吸引吐出がされる液体の飛沫等による回路の破壊や汚染の防止を図っている。換気用ファン54が、該仕切り板51を貫通して設けられ、前記ボード52が設けられた室の筐体12を貫通するように別の換気用ファン56が設けられている。
【0062】
前記自動検査部(15,19)は、分注機のノズルヘッド15と、前記筐体12内に収納された前記検査カートリッジ容器14に対して前記ノズルヘッド15を移動可能とする移動機構19とを有する。
【0063】
前記分注機の前記ノズルヘッド15は、前記移動機構19により、筐体12内に収納された前記検査カートリッジ容器14に対してその長手方向に相当するX軸方向に移動可能なX軸移動体11と、該X軸移動体11に対して上下方向にガイド柱41に案内されて移動可能に設けられたZ軸移動体13とを有する。前記X軸移動体11には、前記Z軸移動体13に連結したナット部が螺合し、該Z軸移動体13を上下方向に移動させる後述するZ軸移動用ボール螺子43が回転可能に取り付けられるとともに、前記ガイド柱41および該ガイド柱41を介して取り付けられた支持プレート39が取り付けられている。
【0064】
該ノズルヘッド15には、前記Z軸移動体13に取り付けられ、気体の吸引吐出を行なうシリンダと側面から突出するようにして設けられたエアゴム管31を介して連通するノズル30と、前記シリンダ内のピストンを駆動するためのモータ40と、回転可能に取り付けられたボール螺子42とを有する。
【0065】
また、前記X軸移動体11に取り付けられた前記支持プレート39は、前記ボール螺子42を回転可能に支持するとともに、その下側で、該担体封入チップ26等のチップを前記ノズル30から脱着させるために該ノズル30の径よりも大きく前記チップの最も太い部分の外径よりも細いU字状の孔が形成されたチップ脱着板48を前後方向に移動可能に支持し、その支持プレート39の上側では、該チップ脱着板48を前後方向に駆動するモータ38が前記X軸移動体11に取り付けられている。
【0066】
前記デジタル・カメラ28は前記X軸移動体11にカメラ支持プレート29を介して取り付けられており、該筐体12に収納された前記検査カートリッジ容器14の前記シール24上の検体情報および検査情報の全体を撮影可能な位置に前記ノズルヘッド15を移動させて撮影することになる。
【0067】
該分注機のノズルヘッド15を前記筐体12内に収納された前記検査カートリッジ容器14に対して移動させる移動機構19は、前記ノズルヘッド15の前記X軸移動体11と係わり合って前記検査カートリッジ容器14の長手方向、すなわちX軸方向に沿って案内するレール44と、該ノズルヘッド15をX軸方向に沿って移動させるX軸移動用モータ58と、前記Z軸移動体13を上下方向すなわちZ軸方向に沿って案内する前記ガイド柱41と、前記Z軸移動用ボール螺子43と、Z軸移動用モータとを有する。なお、前記シリンダ、前記ボール螺子42および前記モータ40は吸引吐出機構に相当する。また、前記ガイド柱41、前記Z軸移動用ボール螺子43、Z軸移動用モータは移動機構19の内のZ軸移動機構に相当する。
【0068】
前記光測定部17は、チップ挿入部34と、受光した蛍光を所定の電気信号に変換する光電子増倍管等の1の光電素子を少なくとも有する光電部32とを有する。
【0069】
前記熱転写プリンタ機構21は、前記光測定部17と前記ボード52を介して接続し、該光測定部17の測定結果に応じた電気信号を受けて前記検査カートリッジ容器14の前記シール24に印字を行なうものである。該熱転写プリンタ機構21は、前記検査カートリッジ容器14を該筐体12内に挿入する際には、該検査カートリッジ容器14と接触しないように上方に位置し、該検査カートリッジ容器14を収納することによって、例えば、カム機構によって下降して該検査カートリッジ容器14の前記シール24上の所定の空欄部分に該熱転写プリンタ機構21の印字ヘッド21aが位置するように設けられるようにするのが好ましい。該印字ヘッド21aとしては、所定桁数のデジタル数字で形成し、印字ヘッド21aのデジタル数字の所定のセグメントを加熱することで、感熱媒体で形成された前記シール24に該当するデジタル数字を自動的に書き込むものである。
【0070】
図2は、前記検体検査装置10の前記検査カートリッジ容器14を前記筐体12から手動により引き出された状態を示すものである。なお、前記熱転写プリンタ機構21は説明の便宜上取り除かれている。
【0071】
前記検査カートリッジ容器14が装填される前記装填箱18は、その装填箱18の長手方向、すなわちX軸方向に沿って延びるガイド部材18aが前記筐体12内にX軸方向に沿って敷設されたガイドレール23に案内されて手動でX軸方向に移動可能に設けられ、これによって該検査カートリッジ容器14を該筐体12内に完全に収納することができる。
【0072】
なお、該ガイド部材18aおよび前記熱転写プリンタ機構21に前記カム機構を設けて該容器14の挿抜と該機構21の上下動を連動させるのが好ましい。
【0073】
また、前記ノズルヘッド15の前記ノズル30には、内部に複数の担体である粒子26cが収容された担体封入チップ26が着脱可能に装着されている。
【0074】
前記光測定部17は、さらに、半円状孔36aが縁に形成され前記光電部32に固定された測定用ブロック36と、該測定用ブロック36の下側でかつ前記チップ挿入部34の上方に長孔35aが縁に形成され電磁石によって該長孔35aの長軸方向(X軸方向)に沿って前後に進退可能に設けられた測定プレート35と、を有している。該測定プレート35の下方に設けられた前記チップ挿入部34は、前記半円状孔36aおよび長孔35aによって組み合わされた空隙部分を通って下降した前記担体封入チップ26の細径管26aがその四角孔34aを通って挿入可能となるように箱状に形成されている。前記測定プレート35および測定用ブロック36、および前記光電部32は、前記筐体12に対して測定時において固定されており、前記担体封入チップ26を前記筐体12に対して上昇または下降させることにより複数の粒子26cを走査して測定する。
【0075】
図3は、前記光測定部17に内蔵された光学系を示すものである。該光学系は、例えば化学発光を測定するのに適した装置であって、3組の光ファイバ37a,37b,37cと、該光ファイバの先端に設けられたレンズ等からなる受光端33a,33b,33cとが設けられている。前記受光端33a,33bは、前記測定プレート35の前記長孔35aの側壁に配置され、前記受光端33cは、前記測定用ブロック36の半円状孔36aの側壁に配置され、これらの前記受光端33a,33b,33cが、前記担体封入チップ26の細径管26aを3方向から放射状に囲むことになる。前記測定プレート35は、前記担体封入チップ26の挿入時には、前方向に電磁石による磁力を用いて移動させて長孔35aと半円状孔36aで形成される空隙部分の水平断面積を拡大し、測定時にあっては、前記測定プレート35を後方向に移動して長孔35aに挿入した前記担体封入チップ26に接近させて前記水平断面積を狭める。
【0076】
図4は前記検査カートリッジ容器14を拡大して示すものである。
【0077】
該検査カートリッジ容器14の基板14aには、チップ収容部20の開口部およびウェル22の開口部が設けられている。該各ウェル22の容量は、例えば、1ccから数cc程度、例えば2ccである。チップ収容部20には、この例では3本のチップ、この例では分注チップ25、担体封入チップ26、および穿孔用チップ27が、前記ノズル30の下降および挿入によって装着可能な状態に装着用の開口部を上にして、各々該当する深さの筒体20a,20b,20c内に収容されている。10個のウェル22には、検体、該検体の検査に用いる1または2以上の試薬溶液が収容され、該開口部は前記穿孔用チップ27で穿孔可能な1枚のフィルムで閉塞されている。なお、前記チップ収容部20の開口部については、人手によって剥離可能なシールで閉塞され、使用時において該シールを剥離して用いる。なお、前記検査カートリッジ容器14は、前記検体の検査に用いる1または2以上の試薬溶液(核酸増幅反応中の反応溶液の蒸発を防止するための組成物を含む)を収容した形態で、プレパック試薬として、ユーザーに提供することができる。前記プレパック試薬には、前記担体封入チップ26(本発明における反応容器に該当する)等のチップを含めてもよい。
【0078】
該検査カートリッジ容器14の前記基板14aの前記媒体取付け部としてのシール貼着領域14bには、前述したように検体情報(24a,24b)および検査内容を示す検査情報(24c,24d,24e)が可視的に表示されたシール24が着脱可能に貼られている。ここで、前記検体情報(24a,24b)には、例えば、患者名を手書きで記入して表示する欄24a、患者の識別番号を表示する欄24bが設けられ、検査情報(24c,24d,24e)には、例えば、検査項目を表示する欄24c、前記検査カートリッジ容器14に予め収容された1または2以上の各試薬の製造場所、製造時期、有効期限、製造試薬数、保管場所、品質等の管理情報を示すLOT番号を表示するLOT番号欄24d、および備考欄24eとして、例えば、前記光測定部17によって測定された検査結果を記入して表示する欄を設ける。前記検査項目としては、例えば、TSH(甲状腺刺激ホルモン)、体内炎症、アレルギー等の検査があり、図3に示すように、例えば、2次元コードで表示する。なお、符号24fは、該シール24を前記基板14aから剥離する場合の摘み部である。
【0079】
図5は、前記検査カートリッジ容器14のチップ収容部20に収容された3種類のチップ(25,26,27)を示す。
【0080】
図5(A)に示すように、分注チップ25は、液体の吸引により液体をチップ内に収容し前記ウェル22間を移動して収容した液体を吐出して該ウェル22間の液体の移送等に用いられる。該分注チップ25は、先端が前記ウェル22に挿入可能な太さを有する細径管25aと、前記細径管25aと連通し後端に前記ノズル30が装着可能な装着用開口部を有する太径管25bと、該太径管25bの後端部に軸方向に平行に設けられた複数の突条25dとを有する。
【0081】
図5(B)に示すように、前記担体封入チップ26は、複数個(この例では、43個)の担体としての粒子26cが、前記ウェル22に挿入可能な太さの前記細径管26a内に一列状に配列され、各粒子には、蛍光で標識化された目的物質と結合可能な結合物質が固定されたものであり、該細径管26aを位置26d,26eにおいてかしめることで内部に封入されている。該細径管26aは、空気のみを通すフィルタが設けられたフィルタ部26fを介して太径管26bと連通し、該太径管26bの開口部は前記ノズル30に装着可能に設けられている。太径管26bの周囲には、複数個の突条26gが軸方向に平行に設けられている。
【0082】
図5(C)に示すように、穿孔用チップ27は、前記検査カートリッジ容器14の前記ウェル22の開口部を閉塞するフィルムを穿孔するために、鋭い先端部27aをもち、後端部27bにある開口部は前記ノズル30に装着可能であり、後端部27bの外周には、複数の突条27cが軸方向に平行に設けられている。なお、これらのチップは、細径管または先端部の長さは、例えば1cmから10cmであり、太径管の長さは例えば1cmから10cmであり、前記粒子の径は、例えば、0.1mmから3mmである。すると、前記細径管26aの内径は、この粒子を一列状に保持可能な大きさであって、例えば、約0.2mmから6mm程度の内径をもたせる。
【0083】
続いて、検体検査装置10の動作について、図6に基づいて説明する。
【0084】
図6(A)に示すように、ステップS1で、該検体検査装置10の筐体12の嵌装板16を手で引き出す。図6(B)に示すように、ステップS2で前記装填箱18を筐体12の外部に展開する。図6(C)に示すように、ステップS3で検査対象となる検体および検査用の試薬、チップが予め収容された前記検査カートリッジ容器14を前記装填箱18内に装填する。その際、該検査カートリッジ容器14の前記シール24には、前記検体情報に属する患者の氏名が手書きで記入され、検査内容を示す検査情報が予め記載されている。図6(D)に示すように、ステップS4で、手で前記装填箱18および装填した前記検査カートリッジ容器14を前記筐体12内に挿入して収納する。
【0085】
図6(D)の状態で、以下に示す処理が行われる。
【0086】
ステップS5で、前記ノズルヘッド15は、前記検査カートリッジ容器14のチップ収容部20にまで移動し、前記ノズル30が穿孔用チップ27の真上にまで位置させる。前記ノズル30をZ軸方向に沿って下降させて、該ノズル30の先端を前記穿孔用チップ27の開口部に挿入させて押し込み装着させる。
【0087】
ステップS6で、該穿孔用チップ27が装着された該ノズル30は、該検査カートリッジ容器14の各ウェル22の真上に順次位置させた後、下降させることで、10個の各ウェル22を覆っていたフィルムを穿孔する。
【0088】
ステップS7で、全ウェル22の穿孔が終了すると、該ノズル30は、前記チップ収容部20の前記穿孔用チップ27が収容された位置にまで移動し、前記チップ脱着板48のU字状の溝を前記ノズル30に接近させた後、該ノズル30を上方向(Z軸方向)に沿って移動させることによって前記チップ収容部20の筒体20cの中に前記穿孔用チップ27を脱着させる。
【0089】
ステップS8で、前記ノズル30を前記チップ収容部20の分注チップ25(または担体封入チップ26)が収容されている位置の真上にまで移動し、前記ノズル30をZ軸方向に沿って下降させて、該ノズル30の先端を前記分注チップ25(または前記担体封入チップ26)の開口部に挿入させて押し込み装着させる。
【0090】
続いて、別(第2)の検体検査装置70を図7に示す。
【0091】
該検体検査装置70は、第1の検体検査装置10で用いた前記光測定部17の代わりに、光測定部77を用いる点で異なっている。
【0092】
該光測定部77は、少なくとも1の前記光電素子が設けられた前記光電部32と、前記担体封入チップ26の細径管26aが挿入可能な孔76を有し、該孔76を通って挿入された前記担体封入チップ26の細径管26aを囲むように設けられた前記光電部32と接続された光ファイバ37a,37b,37cの各受光端33a,33b,33cが前記孔76を通って挿入された前記細径管26aの軸方向に沿って移動可能に設けられた走査測定部74とを有するものである。すなわち、測定時において、前記各受光端33a,33b,33cが前記筐体12に対して固定されているのではなく相対的に移動可能である点において、第1の検体検査装置の光測定部17とは異なるものである。
【0093】
図8は、さらに別(第3)の検体検査装置80を示すものである。
【0094】
該検体検査装置80は、第1および第2の検体検査装置10,70とは、主として、分注チップ25の細径管25aに対して磁力を及ぼしかつ除去することが可能となるように該細径管25に対して接離可能に設けた磁石106を有する磁力手段79、検査カートリッジ容器84に設けられた後述するウェル96についての温度制御を行う温度制御器82、および、該ウェル96を蓋92で閉塞するための蓋移動機構86を設けた点において相違する。ここで、ウェル96は、本発明における反応容器に該当する。なお、前記検査カートリッジ容器84は、検体の検査に用いる1または2以上の試薬溶液(核酸増幅反応中の反応溶液の蒸発を防止するための組成物を含む)を収容した形態で、プレパック試薬として、ユーザーに提供することができる。
【0095】
該検体検査装置80は、第1および第2の検体検査装置10,70と同様に、前記筐体12に組み込まれている。該筐体12内には、複数種類の(この例では、容量の異なる2種類の分注チップ25,125と穿孔用チップ27の3種類)のチップが収容されたチップ収容部20、検体および検体の検査に用いる1または2以上の試薬溶液が収容されまたは収容可能な複数(この例では10個)のウェル22、およびウェル22と離れて設けられ温度制御が行われるウェル96が一列状に配列して設けられかつ前記検体を識別しまたは管理する検体情報および検査内容を示す検査情報が可視記録媒体としてのシール94上に表示され透光性の部材で形成された検査カートリッジ容器84と、該検査カートリッジ容器84に収容された検体と前記試薬とを反応させて所定の発光を得るための自動検査部(85,19)と、該自動検査部による検査の結果として生じた発光を測定する光測定部177と、前記検体情報および前記検査情報を含む前記検査カートリッジ容器84に表示された内容を撮影して画像データを得るデジタル・カメラ28と、前記検査カートリッジ容器84の前記シール94の空欄に検査結果を印字可能な書き込み機構としての熱転写プリンタ21(図1参照)と、前記磁力手段79と、前記温度制御器82と、前記蓋移動機構86と、前記自動検査部(85,19)、光測定部177、デジタル・カメラ28、熱転写プリンタ機構21、磁力手段79、温度制御器82、および蓋移動機構86についての制御を行うためのCPU等の集積回路が設けられたボード52と、を有する。
【0096】
前記検査カートリッジ容器84は、図1図2に示すように、手動によって前記筐体12から該筐体12外に引出し可能に設けられている。なお、前記検査カートリッジ容器84の温度制御を行うウェル96の容量は、例えば0.2ccである。
【0097】
前記自動検査部(85,19)は、分注機のノズルヘッド85と、前記筐体12内に収納された前記検査カートリッジ容器84に対して、前記ノズルヘッド85を移動可能とする移動機構119とを有する。
【0098】
前記分注機の前記ノズルヘッド85は、前記移動機構119により、筐体12内に収納された前記検査カ−トリッジ容器84に対してその長手方向に相当するX軸方向に移動可能なX軸移動体81と、該X軸移動体81に対して上下方向にガイド柱111に案内されて移動可能に設けられたZ軸移動体83とを有する。前記X軸移動体81には、前記Z軸移動体83に連結したナット部が螺合し、該Z軸移動体83を上下方向に移動させる後述するZ軸移動用ボール螺子113が回転可能に取り付けられるとともに、前記ガイド柱111および該ガイド柱111を介して取り付けられた支持プレート89が取り付けられている。
【0099】
該ノズルヘッド85には、前記Z軸移動体83に取り付けられ、気体の吸引吐出を行なうシリンダと側面に設けられたエアゴム管101を介して連通するノズル100と、前記シリンダ内のピストンを駆動するためのモータ110と、回転可能に取り付けられたボール螺子112とを有する。
【0100】
また、前記X軸移動体81に取り付けられた前記支持プレート89は、前記ボール螺子113を回転可能に支持するとともに、その下側で、前記分注チップ25等のチップを前記ノズル100から脱着させるために該ノズル100の径よりも大きく前記チップの最も太い部分の外径よりも細いU字状の孔が形成されたチップ脱着板118と、前記ノズル100に装着された分注チップ25の細径管25aに対して接離可能に設けられ、該細径管25a内にその外部から磁力を及ぼしかつ除去することが可能な磁石106とを各々前後方向に移動可能に支持し、その支持プレート89の上側では、該チップ脱着板118を駆動するモータ108と、該磁石106を駆動するモータ109とが前記X軸移動体81に取り付けられている。該磁石106およびモ
ータ109は磁力手段79に相当する。
【0101】
デジタル・カメラ28は、前記X軸移動体81にカメラ支持プレート99を介して取り付けられており、筐体12に収納された前記検査カートリッジ容器84の前記シール94上の検体情報および検査情報の全体を撮影可能な位置に前記ノズルヘッド85を移動させて撮影することになる。
【0102】
前記分注機のノズルヘッド85を前記筐体12内に収納された前記検査カートリッジ容器84に対して移動させる移動機構119は、前記ノズルヘッド85の前記X軸移動体81と係わりあって前記検査カートリッジ容器84の長手方向、すなわちX軸方向に沿って案内するレール44と、該ノズルヘッド85をX軸方向に沿って移動させるX軸移動用モータ58(図1参照)と、前記X軸移動体83を上下方向すなわちZ軸方向に沿って案内する前記ガイド柱111と、前記Z軸移動用ボール螺子113と、Z軸移動用モータとを有する。なお、前記ボール螺子112および前記モータ110は吸引吐出機構に相当する。また、前記ガイド柱111、前記Z軸移動用ボール螺子113、Z軸移動用モータは移動機構の内のZ軸移動機構に相当する。
【0103】
なお、本検体検査装置80には、書込み機構としての熱転写プリンタ機構21をも有する。該熱転写プリンタ機構21については前述した通りである。
【0104】
前記蓋移動機構86は、前記ウェル96の開口部を覆うための蓋92と、該蓋92を一端に有し他端が回転軸に軸支され該回転軸によって90度回転可能に設けられたアーム93と、前記回転軸を駆動するモータが設けられた回転駆動部95とを有する。
【0105】
また、該検体検査装置80は、さらに前記検査カートリッジ容器84のウェル96の開口部を閉塞した前記蓋92を、前記Z軸移動機構を含む移動機構119によってZ軸方向、X軸方向、Y軸方向に沿って押圧、振盪または移動可能なノズル100を用いて、該蓋92の押圧、振動または移動を可能とする。すなわち、前記Z軸移動機構を含む移動機構119によって駆動される前記ノズル100は蓋閉塞時作用機構に相当する。その際、前記蓋92は、前記回転軸に対してZ軸方向に弾性力で付勢して支持されるようにするのが好ましい。
【0106】
図9に示すように、前記温度制御器82は、前記ウェル収容孔として前記検査カートリッジ容器84の前記ウェル96と嵌合する形状および大きさの先細りの嵌合孔が中央に穿設された温度制御ブロック98と、前記温度制御ブロック98と接触して設けられた前記加熱冷却部としてのペルチェ素子が設けられたペルチェ素子部97と、該ペルチェ素子部97の下側に設けられたフィン103と、該フィン103の下側に設けられたファン収容枠体102とを有し、前記嵌合孔の底から前記ペルチェ素子部97を通りフィン103を通って延びる照射用光ファイバ74aおよび6本の受光用光ファイバ74bと、該照射用光ファイバ74aの一端は、励起光用光源75bと接続し、前記受光用光ファイバ74bの一端は、光電子増倍管72bと接続し、これらの光ファイバ74a,74bの他端74cは、前記照射用光ファイバを中心にして束ねられて前記ウェル収容孔としての前記嵌合孔の底にその先端が位置するように設けられている。
【0107】
ここで、前記光ファイバ74a,74bは前記光測定部177のファイバ収容部174を通り、光電・光源部72に内蔵されている前記励起光用光源72aおよび前記光電子増倍管72bと接続している。
【0108】
続いて、第3の検体検査装置80の動作について説明する。
【0109】
ノズルヘッド15の代わりにノズルヘッド85を用いる点、ノズル30の代わりにノズル100を用いる点、検査カートリッジ容器14の代わりに検査カートリッジ容器84を用いる点を除いて、ステップS1からステップS8で説明した通りである。
【0110】
図6(D)の状態で、以下に示す処理が行われる。
【0111】
ここでは、DNAまたはゲノムを、温度制御してPCR処理を行なう場合の動作を説明する。
【0112】
前記検査カートリッジ容器84のウェル22aには、例えば、被験者から採取した口腔粘膜等の検体が収容されている。ウェル22bには、ゲノム抽出用試薬が収容されている。
【0113】
ウェル22cには磁性粒子懸濁液が収容されている。ウェル22dには、乖離液が収容されている。ウェル22eは空である。ウェル22fからウェル22iには、PCR用試薬としてプライマー含有液等および洗浄液が収容されている。ウェル22jにはミネラルオイル(本発明における核酸増幅反応中の核酸増幅反応溶液の蒸発を防止するための組成物に該当する)が収容されている。また、チップ収容部20には、2種類の分注チップ25、125、および穿孔用チップ27が収容されている。
【0114】
ステップS9において、前記ノズル100を前記チップ収容部20の端に収容されている分注チップ25の位置にまで移動し、下降させることで該ノズル100にゲノム抽出用として装着させ、該分注チップ25を前記移動機構119によってウェル22bにまで移動し、吸引吐出機構を用いて該当する抽出用試薬を吸引する。該分注チップ25を前記検体が収容されているウェル22aにまで移動して、該分注チップ25に吸引した該液体を該ウェル22a内に吐出する。また、該分注チップ25をウェル22cにまで移動して、磁性粒子懸濁液を吸引して該分注チップ25を前記ウェル22aにまで移動して吐出し、その他抽出に必要な試薬があればそれらを該分注チップ25を用いて前記ウェル22aにまで移送して吐出する。ウェル22aに収容されたこれらの混合液は吸引および吐出を繰り返すことによって攪拌かつインキュベートして反応させ、抽出されたDNAを前記磁性粒子の表面に結合して捕獲する。
【0115】
ステップS10において、前記磁力手段79を用いて、前記磁石106を、該分注チップ25の細径管25aに接近することによって磁場を内部に及ぼして前記磁性粒子を前記細径管25aの内壁に吸着させることによってDNAを分離する。
【0116】
ステップS11で、ゲノム抽出用の該分注チップ25を、前記DNAを捕獲した磁性粒子を該内壁に吸着させたまま前記移動機構119によって移動させて、前記乖離液を収容するウェル22dに位置させ、該分注チップ25の先端口部を該ウェル22d内に挿入し、前記磁性粒子を内壁に吸着したまま吸引吐出を繰り返すことによって前記磁性粒子から前記DNAを乖離する。磁性粒子から乖離したDNAを含有する該DNA溶液を空の前記ウェル22e内に吐出させて収容した後、該ゲノム抽出用の分注チップ25を内壁に前記磁性粒子を吸着したまま前記チップ収容部20の元の収容位置にまで移送して前記チップ脱着板118を用いて脱着する。
【0117】
ステップS12で、該ノズルヘッド85を移動させて、該ノズルヘッド85の前記ノズル100を前記チップ収容部20の真ん中の位置に収容されている新たなPCR用の分注チップ125にまで移動させた後、該ノズル100をZ軸移動機構によって、下降させることによって、収容されたPCR用の分注チップ125の装着用開口部に前記ノズル100を挿入させて装着させる。
【0118】
ステップS13において、該ノズルヘッド85を移動させて、図9に示すように、前記アーム93を90度回転することによって、前記蓋92をウェル96の開口部を開いてから前記ウェル96の開口部を外部に露出させる。次に、PCR用の分注チップ125を用いて、ウェル22fからウェル22iまでに収容されているPCR用の試薬、例えば、蛍光物質で標識化されたプライマー含有液を吸引して、前記ウェル96内に分注することで収容する。
【0119】
以上の工程を必要な試薬を分注し終わるまで繰り返す。
【0120】
ステップS14において、前記分注チップ125を洗浄した後、前記ノズルヘッド85を移動して、前記ウェル22eに収容されている抽出されたDNA液を吸引して前記ウェル96内に分注する。その後、該分注チップ125を用いて前記ウェル22jにまで移動し、前記ミネラルオイル(本発明における核酸増幅反応中の核酸増幅反応溶液の蒸発を防止するための組成物に該当する)を吸引し、前記ウェル96内に吐出することで導入する。
【0121】
ステップS15において、前記蓋92を90度回転させて前記ウェル96の開口部を覆う。
【0122】
ステップS16において、前記ノズル100を下降させてZ軸移動機構を用いて前記蓋92を押圧する。
【0123】
ステップS17において、前記ウェル96に対して前記温度制御器82によって、PCR法に従った温度制御を行なう。PCR法に従った温度制御は、投入された2本鎖の検体のDNAを、一本鎖に変性するために前記ウェル96の温度を94℃に設定し、次に、一本鎖のDNAとプライマーとのアニーリングまたはハイブリダイゼイションを行わしめるために、前記ウェル96の温度を50℃から60℃に設定する。次に、前記一本鎖に相補的なDNA鎖を合成するために前記温度を74℃に設定してインキュベートするという操作を1サイクルとして、所定回繰り返して、例えば、約数分間行なうという温度制御を行う。
【0124】
その際、前記温度制御ブロック98の前記ウェル収容孔としての嵌合孔に設けた光ファイバ74a,74bを用いて励起光を照射し、発生する蛍光強度を光ファイバ74bを介して受光し、光電子増倍管72bにより電気信号に変えられてその蛍光強度が測定されることになる。
【0125】
ステップS18において、その測定結果は、前記ボード52の制御部によって解析され、その測定結果が前記熱転写プリンタ機構21に送られ、前記印字ヘッド21aによって前記シール24の備考欄にその測定結果が前記検査情報の1つとして印字され、数字によって表示されることになる。
【0126】
ステップS19において、前記デジタル・カメラ28は、前記ボード52からの指示信号によって、前記検査カートリッジ容器84のシール94上の検体情報および検査情報を含めて画像データとして撮影する。その際、前記制御部の解析部は、該画像データから解析可能なデータを探し、該画像データ中に、前記検査情報に含まれる前記検査内容を示す2次元バーコードデータを探し出すと、該2次元バーコードデータを解析し、解析データを得るとともに、前記制御部の前記データ組合せ部は、該解析データと前記画像データと組み合わせて出力可能なものとしてメモリに格納する。
【0127】
ステップS20において、前記ノズル100に装着された前記分注チップ125は、前記チップ収容部20にまで移動し、該分注チップ125が収容されていた位置の真上にまで、該分注チップ125を移動し、前記チップ脱着板118のU字状の溝を前記ノズル100に接近させた後、該ノズル100を上方向に移動させることによって前記チップ収容部20の筒体20bの中に該分注チップ125を脱着させる。
【0128】
ステップS21で、前記検体検査が完了すると、前記検査カートリッジ容器84を装填した装填箱18が前記筐体12から手動で引き出されて、該検査カートリッジ容器84に貼着された前記シール94を剥がして、別に用意した管理用の台紙等にはりつけて保存し、該検査カートリッジ容器84自体は、廃棄されるが、該筐体12にさらに新たな検査カートリッジ容器84を装填することで新たな検体の検査を行なうことができる。本実施の形態によれば、蓋92を前記移動機構を用いて押圧等を行なうことができるので、前記ウェル96の開口部の閉塞を確実にし、かつ、結露を防止して蓋92の開放を容易に行なうことができる。
【0129】
図10図11は、また別(第4)の検体検査装置180を示すものである。
【0130】
なお、図8に示す検体検査装置80と同一のものについては、同一の符号を付してまたは付さずに説明を省略する。
【0131】
本検体検査装置180は、図8に示す第3の検体検査装置80とは、ノズルヘッド185には、気体の吸引吐出を行なうシリンダとエアゴム管201を介して連通する分注チップ25等が装着可能なノズル200と、Z軸方向に移動可能なZ軸移動体83と連動し、前記該ノズル200が取り付けられたノズル支持体183と、該ノズル支持体183に取り付けられ検査カートリッジ容器184の前記ウェル96の開口部を覆う透光性のある蓋192の上方から光の測定を行なうため内部に受光用光ファイバ174aの端部および照射用光ファイバ174bの端部が設けられた測定用ロッド172(図11参照)とを有する点で相違する。
【0132】
本検体検査装置180は、その他、第3の検体検査装置80と相違し、蓋移動機構86を有しない代わりに、蓋192は、検査カートリッジ容器184のチップ収容部120に、前記担体封入チップ26の代わりに予め収容され、前記ノズル200の先端または前記測定用ロッド172の先端に、前記Z軸移動機構により前記ノズル200および前記測定用ロッド172を下降させることによって装着させて、押圧等の際または測定の際に用いるものである。したがって、検査カートリッジ容器184についても、蓋192をチップ収容部120に収容可能とする点で相違する。
【0133】
また、図11に示すように、光測定部277と、温度制御器182についても、第3の検体検査装置の光測定部177および温度制御器82とは相違する。
【0134】
該光測定部277は、前記測定用ロッド172内に前記受光用光ファイバ174aの端部および照射用光ファイバ174bの端部が設けられるとともに、該受光用光ファイバ174aの他方の端部は、光電素子172aと接続し、前記照射用光ファイバ174bの他方の端部は、光源部172bと接続する。
【0135】
また、前記温度制御器182は、ウェル収容孔として前記検査カートリッジ容器184の前記ウェル96と嵌合する形状および大きさの先細りの嵌合孔が中央に穿設された温度制御ブロック198と、前記温度制御ブロック198と接触して設けられた前記加熱冷却部としてのペルチェ素子が設けられたペルチェ素子部197と、該ペルチェ素子部197の下側に設けられたフィン203と、該フィン203の下側に設けられたファン収容枠体102とを有するのみで、前記嵌合孔の底には光ファイバの端部は設けられておらず、また、フィン203等を光ファイバは通っていない。
【0136】
図12図13は、前記蓋192を示す。該蓋192は、前記測定用ロッド172およびノズル200が装着可能な装着用開口部193と、前記ウェル96の開口部に嵌合する嵌合部194とを有するものである。本検体検査装置によれば、蓋移動機構を設けることなく蓋でウェル96の開口部を閉塞することができるので、装置の構造を簡単化することができる。また、検体に汚染されるおそれがある蓋は、検査カートリッジ容器に収容するので検査終了後にチップのように検査カートリッジ容器とともに処分することができるので、安全性の高い管理を行なうことができる。
【0137】
続いて、さらにまた別(第5)の検体検査装置について、図14に基づいて説明する。
【0138】
本検体検査装置280は、例えば、長さ250〜400mm(X軸方向)、幅140〜200mm(Y軸方向)、高さ300〜500mm(Z軸方向)程度の筐体内に設けられた、検体および該検体の検査に用いる1または2以上の検査用器具としての複数種類(この例では3種類)のチップが収容されたチップ収容部220a,220b,220cが一列状に配列されかつ該検体を識別しまたは管理する検体情報および検査内容を示す検査情報が可視的記録媒体としてのシール224上に表示され平行に並んで配列された2つの検査カートリッジ284と、検体および検体の検査に用いる1または2以上の試薬溶液等が収容されまたは収容可能な複数(この例では、10個)の収容部としてのウェル322が一列状に設けられかつ該検体を識別しまたは管理する検体情報および検査内容を示す検査情報が可視記録媒体としてシール324上に表示された透光性の部材で形成され平行に並んで配列された2つの検査カートリッジ容器384と、2つの該検査カートリッジ容器384に収容された検体と前記試薬とを反応させて所定の光学状態(例えば、発光)を得るための自動検査部(285,289)と、該自動検査部による検査の結果として生じた前記光学状態を測定する光測定部、デジタル・カメラ228と、前記検査カートリッジ容器284,384の前記シール224,324の空欄に検査結果を印字可能な熱転写プリンタ機構と、前記自動検査部(285,289)、光測定部、デジタル・カメラ228、および熱転写プリンタ機構について制御を行うためのCPU等の集積回路が設けられたボードとを有する。個々で、符号285aは、主として、前記ノズル230をZ軸方向に移動させるZ軸移動機構が設けられたユニットを示す。
【0139】
ここで、2本のカートリッジ容器284は、前記検査用器具として複数種類(この例では3種類)のチップである、分注チップ225、担体封入チップ226および穿孔用チップ227が各々チップ収容部220a,220b,220cに収容されまたは収容可能である。分注チップ225については、既に、前記ノズルヘッド285のノズル230に装着されているので、前記収容部220aは空になっている。
【0140】
該2本のカートリッジ容器284には、その基板284aには、チップ収容部220a,220b,220cの開口部が設けられている。その基板284aの媒体取り付け部としてのシール貼着領域には、検体情報欄224aおよび検査内容を示す検査情報欄224bが設けられたシール224が着脱可能に貼られている。ここで、前記検体情報欄224aにはQRコードが予め印刷され、かつ手書きの記入欄が設けられ、検査情報欄224bには、検査情報が予め印刷され、かつ手書きの記入欄や印字用の空欄が設けられている。同様に、2本のカートリッジ容器384には、その基板384aには、10個の試薬溶液や検体溶液が収容されたウェル322a−322jが設けられている。その基板384aの媒体取り付け部としてのシール貼着領域には、検体情報欄324aおよび検査内容を示す検査情報欄324bが設けられたシール324が着脱可能に貼られている。ここで、前記検体情報欄324aにはQRコードが印刷されかつ手書きの記入欄が設けられ、検査情報欄324bには、検査情報が印刷されかつ手書きの記入欄や印字用の空欄が設けられている。なお、前記検査カートリッジ容器384は、その基板384aに前記試薬溶液(核酸増幅反応中の反応溶液の蒸発を防止するための組成物を含む)を収容した形態で、プレパック試薬として、ユーザーに提供することができる。前記プレパック試薬には、前記担体封入チップ226(本発明における反応容器に該当する)等のチップを含めてもよい。
【0141】
なお、該検体検査装置に配列された全カートリッジ容器284,384は、同一の検査に用いられる場合には、検査情報については共通する内容をもつことになる。また、1列状に(X軸方向に沿って)配列された検査カートリッジ容器284,384列は共通の検体情報をもつことになるが、他の列の検査カートリッジ容器284,384列が異なる検体に対応する場合には、前記検体情報とは異なる検体情報をもつことになる。
【0142】
前記自動検査部(285,289)としては、2本のノズル230,230が設けられ、各ノズル230には、分注チップ225が各々着脱可能に装着され、各分注チップ225は前記2列のカートリッジ容器284、384に沿って移動可能に設けられている。なお、符号244a,244bは、ノズルヘッド285をX軸方向に移動させるためのレールであリ、移動機構289に属するものである。
【0143】
なお、ここでは、デジタル・カメラ228はX軸方向に沿った回転軸をもつ回転機構228aによって一定角度回転可能に設けることによって、1台で、2列の検査カートリッジ容器284,384をカバーすることができる。また、前記光測定部、熱転写プリンタ機構、光測定部についても、Y軸方向に移動可能に設けることによって、1台で、2列の検査カートリッジ容器に対応することができるようにして、装置規模をコンパクトに形成している。本実施の形態によれば、複数の検査を並行して処理することができるので、効率が良くかつ迅速な処理を行なうことができることになる。
【0144】
以上説明した各実施の形態は、本発明をより良く理解させる為に具体的に説明したものであって、別形態を制限するものではない。したがって、発明の主旨を変更しない範囲で変更可能である。例えば、前記実施の形態では、DNAの場合についてのみ説明したが、その他の核酸であるRNA等の検査であっても当然適用され得る。また、以上の説明で用いた数値、回数、形状、個数、量等についてもこれらの場合に限定されるものではない。
【0145】
また、前記検査カートリッジ容器の構成として収容すべきチップ、蓋、ロッド等の種類、チップ、蓋、ロッドの構造もしくは個数、ウェルの個数もしくは容量、または、検体情報および検査情報の内容等については例を示すものであって、これらは、検体や検査内容に応じて適宜変更することができる。
【0146】
また、以上の各構成要素、例えば、各ノズルヘッド、各種チップ、各蓋、各ノズル、各温度制御器、各光測定部、各検査カートリッジ容器、または磁力手段等は、適当に変形しながら任意に組み合わせることができる。
【0147】
例えば、前記担体封入チップを用いるとともに、温度制御がされるウェルを有する検査カートリッジ容器、および前記温度制御器を用いることができる。また、前述した試薬や検体や処理工程は例を示すものであって、他の試薬や検体や処理工程を使用することももちろん可能である。
【0148】
以上の例では、1列または2列の検査カートリッジ容器を検体検査装置に装填して用いる場合のみを説明したが、該場合に限られることなく、3列以上についても適用することができることはいうまでもない。また、2列の検査カートリッジ容器を装填して用いる場合にも、この例に限られることなく、第1の検査カートリッジ容器を並べて装填して用いることももちろん可能である。
【実施例】
【0149】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0150】
〔実施例1〕蒸発防止組成物
1.蒸発防止用オイル(低温凝固タイプ)の調製
60−80℃で加熱融解させた、所望量(0.5, 0.75, 1.00, 1.25又は1.50 g)の固体パラフィン(パラフィン和光特級、mp: 44-46℃)を液状パラフィン(流動パラフィン、シグマ特級)10.00 gと混合して、蒸発防止用オイルを調製した。以下の実験には、この蒸発防止用オイルをサンプルとして用いた。
【0151】
なお、固体パラフィンと液状パラフィンは以下の性能を備えていることも確認した。
【0152】
・核酸増幅反応容器中に、水(50μL)と固体パラフィン又は液状パラフィン(50, 100, 200μL)を充填し、核酸増幅反応中の重量減を測定したところ、水重量残存率を99%±0.3%に抑制することができた。
・水に不溶である(完全分離)。
・液相比重が水より小さい。
・核酸増幅反応への阻害がない。
・液相(単体)の分光透過率(520nm、 25℃)が90 %以上である。
・蛍光(特に、検出光波長周辺)がない。
・特殊な廃棄の必要がない。
【0153】
2.蒸発防止用オイルの融解(凝固)判定
2−1.目視による透明化(白濁化)の確認及び、スパチュラ等の接触による凝固の確認
1で調整した、低温凝固タイプの蒸発防止用オイルの融点(凝固点)を以下の方法で定量した。
【0154】
・ アプライドバイオシステム社製PCR容器MicroAmp(以下、試料容器)に水及びA-1からA-5までの5種類の蒸発防止用オイルを20uLずつ注入した。
・上記試料容器を、その外形に適合するヒートブロックに装着し、アズワン社製恒温装置上で温度調節をした。
・60から5℃ずつ温度を低下させ、各温度域での試料の性状を目視及び、スパチュラ等の接触により評価した。
【0155】
結果を表1に示す。表1中、Sは固体、Lは液体を示す。蒸発防止用オイル(サンプルID: A-1, A-2, A-3, A-4, A-5)は、液状のときには白濁せず、白濁したときには固体になっており、液体から固体への相変化がシャープであった。
【0156】
【表1】
〔実施例2〕核酸増幅反応容器のぬれ張力が蛍光検出に及ぼす影響の検証
核酸増幅反応中に反応液の蒸発を防止するためのミネラルオイルの、反応容器内壁へのぬれ性が蛍光検出の及ぼす影響を検証するため、以下の実験を行った。
【0157】
1.核酸増幅反応容器の調整
ロッシュ社製白色PCRチューブの内壁を、撥水撥油処理剤(株式会社フロロテクノロジー)でコーティングすることにより(膜厚1μm以下)、容器内壁のぬれ張力を低下させる処理をおこなった。未処理のものと併せ、容器内壁のぬれ張力の異なる2種類の核酸増幅反応容器を調整した。JISK6768に規定された方法に準じて、この2種の反応容器に対するミネラルオイル(アプライドバイオシステム社製)のぬれを評価したところ、未処理容器に大しては、ミネラルオイルがぬれ広がったのに対し、処理品の内壁は、ミネラルオイルをはじく事が確認できた。
【0158】
2.未処理容器の蛍光測定
1で調整した2種の反応容器中に、0.5uMの蛍光物質(FAM)を含む水溶液(蛍光水溶液)20uLを注入し、円形開口部内の蛍光強度分布を測定した。蛍光検出は、励起480nm、検出520 nmを同軸で行う光ファイバーで行い、この光ファイバーは反応容器の円形開口部の中心通り、開口部を横断するようなx軸に沿って走査した。ついで、この反応容器に、ミネラルオイル(アプライドバイオシステム社製)を20uL注入し、同様の蛍光測定を行った。結果を図16−1に示す。
【0159】
蛍光水溶液の上層にミネラルオイルを積層させると、反応容器開口部面内の蛍光強度分布に変化が生じ、最大の蛍光強度が得られる領域(有効領域)が有意に減少した。
【0160】
3.処理容器の蛍光測定
1で調整した低ぬれ張力の容器について、2と同様の計測を行った結果を図16−2に示す。反応容器開口部面内の蛍光強度分布は、ミネラルオイル注入によっても大きな変化は無く、未処理品に見られた、有効領域の減少は認められなかった。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明は、PCRを利用して遺伝子解析を行う医学分野、農学分野、理学分野、薬学分野等に利用可能である。
【符号の説明】
【0162】
1:反応容器
2:反応溶液
3:油性成分
4:コーティング
10、70、80、180、280
検体検査装置
14、84、184、284、384 検査カートリッジ容器
15、85、185、285 ノズルヘッド
17、77、177、277 光測定部
24、94、224 シール
25、125、225 分注チップ
26、226 担体封入チップ(固相内蔵チップ)
28、228 デジタル・カメラ
30、100、200、230 ノズル
92、192 蓋
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16