(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来の技術には以下に示す問題点がある。特許文献1に記載の防水シートのように、ゴムアスファルト層に他の樹脂組成物からなる層を積層した防水シートは、複雑な形状に施工することが難しいため、例えば凹凸があるような場所では、施工数が多くなり、工事期間の長期化や工事コストの増加を招く。
【0007】
また、特許文献2に記載されているゴムアスファルト組成物は、施工現場で主剤を混合する際の計量の精度によっては、ゴム含有率が変化してしまうため、施工後の物性が均一にならない場合がある。更に、特許文献3に記載されているゴムアスファルト組成物は、ポリマーラテックス中に加熱溶融したアスファルトを添加して混合するため、高度な製造設備と技術を要するという問題点もある。
【0008】
一方、ゴム成分としてポリクロロプレンラテックスを使用する場合、低温下での安定性を付与するために低温安定剤を添加すると、ゴムアスファルト組成物としたときに、被着体上にシートや防水塗膜を形成する際の成膜性が低下するという問題点がある。
【0009】
そこで、本発明は、低温下での安定性及び被着体上での成膜性が共に優れるゴムアスファルト組成物が得られるポリクロロプレンラテックス、ゴムアスファルト組成物及びその施工方法、シート並びに防水塗膜を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るポリクロロプレンラテックスは、アニオン系のポリクロロプレンラテックスであって、固形分100質量部あたり、カリウムイオンを0.7〜1.5質量部含有し、かつナトリウムイオンを0.2質量部以下に抑制している。
なお、ここで規定するカリウムイオン量及びナトリウムイオン量は、ポリクロロプレンラテックスを硫硝酸で酸分解し、誘導結合プラズマ発光分光装置(ICP−AES)により測定した値である。
このポリクロロプレンラテックスは、ゲル含有量を70〜95質量%とすることができる。
また、単量体の初期添加量を全単量体の10〜50質量%として乳化重合を開始し、単量体の転化率が1〜40%の間まで重合が進行した点から重合終了転化率に達する以前までの間に、重合温度よりも低い温度に冷却した残りの単量体を重合系内へ連続的に添加して乳化重合したものでもよい。
【0011】
本発明に係るゴムアスファルト組成物は、前述したポリクロロプレンラテックス:10〜40質量%及びアニオン系のアスファルト乳剤:60〜90質量%を含有する主剤と、多価金属塩を主成分とする水溶液からなる凝固剤とで構成されている。
【0012】
本発明に係るゴムアスファルト組成物の施工方法は、前述したポリクロロプレンラテックス:10〜40質量%及びアニオン系のアスファルト乳剤:60〜90質量%を含有する主剤と、多価金属塩の水溶液を主成分とする凝固剤とを、それぞれ異なる噴射口から被着体に向けて噴射し、被着体の表面にて凝固反応を生じさせると共に乾燥させて防水塗膜を形成する。
【0013】
本発明に係るシートは、前述したゴムアスファルト組成物を乾燥させて得たものである。
【0014】
本発明に係る防水塗膜は、前述したゴムアスファルト組成物を被着体に付着させた後、乾燥させて得たものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ラテックス中のナトリウムイオン量及びカリウムイオンの量を、特定の範囲にしているため、低温下での安定性及び被着体上での成膜性が共に優れるゴムアスファルト組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0017】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係るポリクロロプレンラテックスについて説明する。本実施形態のポリクロロプレンラテックスは、2−クロロ−1,3−ブタジエン(以下、クロロプレンという。)の単独重合体又はクロロプレンと他の単量体との共重合体を乳化させたアニオン系のラテックス(エマルジョン)である。そして、本実施形態のポリクロロプレンラテックスでは、固形分100質量部あたり、カリウムイオンを0.7〜1.5質量部含有すると共に、ナトリウムイオンを0.2質量部以下に抑えている。
【0018】
[カリウムイオン:0.7〜1.5質量部]
ポリクロロプレンラテックス中のカリウムイオン量が、固形分100質量部あたり0.7質量部未満の場合、低温安定性が低下する。ポリクロロプレンラテックスの低温安定性を改善するためには、低温安定剤を添加する必要があるが、その場合、ゴムアスファルト組成物としたときの成膜性が低下する。ここで、ポリクロロプレンラテックスにおける「低温安定性」とは、0℃以下の環境下においても、増粘又は凝集を起こさず、流動性が保たれていることをいう。
【0019】
一方、カリウムイオン量が、固形分100質量部あたり1.5質量部を超えると、ポリクロロプレンラテックス及びこれを含有するゴムアスファルト組成物中の電解質の量が多くなりすぎるため、安定性が低下し、凝集物が発生する。また、安定性低下の度合いが大きい場合は、凝固することもある。なお、ポリクロロプレンラテックス中のカリウムイオンの含有量は、固形分100質量部あたり、1.0〜1.3質量部であることが好ましく、これにより、低温安定剤を添加することなく、ポリクロロプレンラテックスの低温安定性を更に向上させることができる。
【0020】
[ナトリウムイオン:0〜0.2質量部]
ポリクロロプレンラテックス中のナトリウムイオン量は、少ないほど好適であり、0であることが最も望ましい。しかしながら、ポリクロロプレンラテックスには、乳化剤に由来するナトリウムイオンが含有されることがある。そこで、本実施形態のクロロプレンラテックスにおいては、ナトリウムイオン量を固形分100質量部あたり0.2質量部以下に抑制する。
【0021】
なお、ポリクロロプレンラテックス中のナトリウムイオン量が、固形分100質量部あたり0.2質量部を超えると、低温安定性が低下する。そして、前述したように、低温安定性が低いラテックスをゴムアスファルト組成物に使用するためには、低温安定剤の添加が必要となるため、シートや防水塗膜を形成する際の成膜性が低下する。
【0022】
このクロロプレンラテックス中のナトリウムイオンの含有量は、固形分100質量部あたり0.1質量部以下であることが望ましい。これにより、低温安定剤を添加することなく、ポリクロロプレンラテックスの低温安定性を更に向上させることができる。
【0023】
[イオン含有量の調整方法]
前述したカリウムイオン及びナトリウムイオンの含有量は、例えばクロロプレンの乳化重合を促進させるために使用する還元剤や緩衝塩の種類及びその添加量を変更することにより調整することができる。その際、還元剤や緩衝塩としては、例えば、ピロ亜硫酸カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、リン酸カリウム及びリン酸水素カリウムなどのカリウム塩を使用することができる。
【0024】
なお、カリウムイオン量及びナトリウムイオン量は、ポリクロロプレンラテックスを硫硝酸で酸分解し、誘導結合プラズマ発光分光装置(ICP−AES)により測定することができる。
【0025】
[ゲル含有量]
本実施形態のポリクロロプレンラテックスは、ゲル含有量が70〜95質量%であることが望ましい。ここで、「ゲル含有量」とは、クロロプレンラテックスに含まれるトルエン溶媒に不溶な成分の割合をいい、下記数式(1)により算出することができる。
【0027】
なお、上記数式(1)における「a」は、ポリクロロプレンラテックスを凍結乾燥した後の質量(固形分量)である。また、上記数式(1)における「b」は、クロロプレンラテックスに含まれるゲル(トルエン不溶成分)の質量であり、以下に示す方法で測定された値である。
【0028】
先ず、凍結乾燥したラテックスの全量を、23℃で20時間かけてトルエンに溶解する。その際、固形分濃度が0.6質量%になるよう調整する。次に、ラテックスを溶解させたトルエン溶液を、遠心分離機により固液分離し、更に200メッシュの金網を用いて不溶分、即ちゲルを分離する。引き続き、分離されたゲルを、風乾後、110℃の雰囲気下で1時間乾燥し、その質量(ゲル量)bを測定する。
【0029】
ゲル含有量が70〜95質量%のポリクロロラテックスをゴムアスファルト組成物に使用すると、高温条件下で施行しても、シートや防水塗膜に液ダレが生じなくなる。なお、クロロプレンラテックスにおけるゲル含有量の調整は、連鎖移動剤の添加量や単量体の転化率を変更すればよい。
【0030】
[固形分濃度]
本実施形態のポリクロロプレンラテックスは、固形分濃度が40〜60質量%であることが望ましい。これにより、ゴムアスファルト組成物に使用した場合に、シートや防水塗膜を形成する際の乾燥時間を短縮できると共に、加工性を向上させることができる。
【0031】
[製造方法]
本実施形態のポリクロロプレンラテックスは、クロロプレンを単独で又はクロロプレンと他の単量体とを重合することにより得られる。その重合方法としては、乳化重合、溶液重合、懸濁重合及び塊状重合などが挙げられるが、特に乳化重合法が好ましい。
【0032】
そして、単量体の初期添加量を全単量体の10〜50質量%として乳化重合を開始し、単量体の転化率が1〜40%の間まで重合が進行した点から重合終了転化率に達する以前までの間に、重合温度よりも低い温度に冷却した残りの単量体を重合系内へ連続的に添加して乳化重合することが望ましい。これにより、重合系内の除熱効率が高くなり、効率よくポリクロロプレンラテックスを製造することができる。
【0033】
乳化重合する際の乳化・分散剤は、一般に使用されているロジン酸のアルカリ金属塩などを用いることができるが、ラテックス中のナトリウムイオン量及びカリウムイオン量の調整の観点から、不均化ロジン酸のカリウム塩を使用することが好ましい。
【0034】
また、前述したロジン酸のアルカリ金属塩と、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型又はリン酸エステル型の乳化・分散剤とを併用することもできる。併用可能な乳化・分散剤としては、例えば、カルボン酸型のものでは、脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、n−アシルサルコシン塩及びn−アシルグルタミン酸塩などが挙げられる。
【0035】
スルホン酸型のものとしては、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル(分岐型)ベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩−ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩及びn−メチル−n−アシルタウリン塩などが挙げられる。
【0036】
硫酸エステル型のものとしては、アルキル硫酸エステル塩、アルコールエトキシサルフェート及び油脂硫酸エステル塩などが挙げられる。また、リン酸エステル型のものとしては、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩などが挙げられる。
【0037】
更に、ロジン酸のアルカリ金属塩と併用可能なその他の乳化・分散剤としては、例えばアルキルアリルスルホン酸、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどがある。
【0038】
なお、本実施形態のポリクロロプレンラテックスにおいては、アニオン系の乳化・分散剤を使用することが好ましく、その中でも、ナトリウムイオン含有量を低減させるためには、カリウム塩を使用することが望ましい。ただし、前述したロジン酸のアルカリ金属塩以外の乳化・分散剤は、その使用量が少ないため、ポリクロロプレンラテックス中のナトリウムイオン含有量にはそれほど影響しない。このため、汎用性のあるナトリウム塩を用いてもよい。
【0039】
乳化重合の際使用する連鎖移動剤は、特に限定されるものではなく、通常のクロロプレンの乳化重合に使用されるものを使用することができる。具体的には、n−ドデシルメルカプタンやtert−ドデシルメルカプタンなどの長鎖アルキルメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドやジエチルキサンドゲンジスルフィドなどのジアルキルキサントゲンジスルフィド類、及びヨードホルムなどの公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0040】
また、重合開始剤には、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素及び過酸化ベンゾイルなどの有機過酸化物類を使用することができる。
【0041】
一方、重合条件も特に限定されるものではないが、重合温度は0〜55℃、単量体転化率は50〜100%とすることが望ましい。また、単量体転化率が100%に達する前に重合を停止させる場合、重合禁止剤としては、例えば、チオジフェニルアミン、4−ターシャリーブチルカテコール、2,2−メチレンビス−4−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール及びジエチルヒドロキシルアミンなどを使用することができる。
【0042】
更に、本実施形態のポリクロロプレンラテックスは、重合後にpH調整剤、凍結安定剤、酸化亜鉛などの金属酸化物、炭酸カルシウムやシリカなどの無機充填剤、ジブチルフタレートやプロセスオイルなどの可塑剤・軟化剤、更に各種老化防止剤や加硫促進剤、イソシアネート類などの硬化剤、増粘剤などを、本発明の効果を阻害しない範囲で任意に配合することができる。
【0043】
以上詳述したように、本実施形態のポリクロロプレンラテックスは、カリウムイオン及びナトリウムイオンの含有量をそれぞれ特定の範囲にしているため、ゴムアスファルト組成物にしたときの成膜性を低下させることなく、低温安定性を向上させることができる。
【0044】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係るゴムアスファルト組成物について説明する。本実施形態のゴムアスファルト組成物は、前述した第1の実施形態のポリクロロプレンラテックスを使用したものであり、「主剤」と「凝固剤」とで構成されている。
【0045】
[主剤]
本実施形態のゴムアスファルト組成物の主剤は、第1の実施形態のポリクロロプレンラテックスを10〜40質量%と、アニオン系のアスファルト乳剤を60〜90質量%を含有している。なお、「アニオン系のアスファルト乳剤」とは、アニオン系の分散剤を用いて、アスファルトを水中に分散したものである。
【0046】
本実施形態のアスファルト組成物の主剤に配合されるアスファルトには、天然のアスファルト及び石油由来のアスファルトがある。例えば、天然のアスファルトとしては、ギルンナイト、グラハマライト及びトリニダットなどがあり、石油由来のアスファルトとしては、原油の蒸留により得られる各種針入度のストレートアスファルト、ストレートアスファルトに空気を吹き込んで酸化重合して得られるブローンアスファルト及びセミブローンアスファルトなどがある。なお、これらは単独で使用することもできるが、2種以上混合して使用してもよい。
【0047】
また、アスファルトを分散するアニオン系分散剤としては、例えば、脂肪酸、高級アルコール硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸、カルボン酸、スルホン酸及びそれらのアルカリ金属塩が挙げられる。なお、これらは単独で使用することもできるが、2種以上混合して使用してもよい。そして、これらのアニオン系の分散剤を用いることにより、アスファルト乳剤におけるアスファルト粒子の分散性を向上させることができる。また、アニオン系のアスファルト乳剤は、後述する多価金属イオンやその他の化学物質によって分解されやすいため、防水材用乳剤として好適である。
【0048】
一方、アニオン系分散剤の使用量は、アスファルトの固形分100質量部あたり、0.2〜0.5質量部とすることが望ましい。これにより、アスファルト粒子を、必要かつ充分に水中に分散させることができる。また、アニオン系のアスファルト乳剤の固形分濃度は、40〜60質量%に調整することが好ましい。これにより、得られるゴムアスファルト組成物を使用してシートや防水塗膜を形成する際に、乾燥時間を短くできると共に、加工性を向上させることができる。
【0049】
ここで、主剤中のアニオン系のアスファルト乳剤量が60質量%未満の場合、即ち、ポリクロロプレンラテックス含有量が40質量%を超えると、安価なアスファルト乳剤の使用量が少なくなるため、原料価格が高くなる。また、主剤中のアニオン系のアスファルト乳剤量が90質量%を超えると、即ち、ポリクロロプレンラテックス含有量が10質量%を未満の場合、得られるシートや防水塗膜に含まれるクロロプレンゴムの含有量が少なくなり過ぎて、引張り強度が低下したり、低温下でひび割れが起きたりする。
【0050】
よって、本実施形態のゴムアスファルト組成物では、主剤におけるポリクロロプレンラテックスの含有量を10〜40質量%、アニオン系のアスファルト乳剤の含有量を60〜90質量%とする。なお、主剤に配合されるポリクロロプレンラテックスの構成は、前述した第1の実施形態と同様である。
【0051】
また、主剤には、ポリエチレン及びエチレン−酢酸ビニル共重合体などの高分子重合体、石油樹脂などの粘着付与剤、プロセスオイル、可塑剤、加硫促進剤、老化防止剤、分散安定剤、低温安定剤、粘度調節剤などが添加されていてもよい。更に、主剤に、有機合成繊維、天然繊維、木粉、パルプ、ガラス繊維、タルク、炭酸カルシウム、石膏、シリカ、砂などの無機充填剤や粉末加硫ゴムなどの各種充填剤を配合することもできる。
【0052】
更にまた、主剤には、必要に応じて、消泡剤、特にシリコーン系、アルコール系、脂肪酸系、脂肪酸エステル系などのエマルジョンタイプの消泡剤を1質量%の割合で添加することもできる。
【0053】
[凝固剤]
本実施形態のゴムアスファルト組成物の凝固剤は、多価金属塩を主成分とする水溶液である。凝固剤の主成分である多価金属塩は、易水溶性でゴムアスファルト組成物の凝固性能に優れていることが必要であり、例えば、塩化カルシウム、硝酸カルシウム及びミョウバンなどが使用できる。また、凝固剤に含まれる多価金属塩以外の成分としては、例えば硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0054】
なお、凝固剤(水溶液)に含まれる多価金属塩の濃度は、特に限定されるものではなく、得られるゴムアスファルト組成物の施工条件や施工場所に合わせて適宜調整すればよい。
【0055】
[主剤と凝固剤の配合比]
本実施形態のゴムアスファルト組成物は、前述した主剤と凝固剤とを混合することによって、固化する。主剤と凝固剤との配合比は特に限定するものではないが、主剤:凝固剤=9:1〜7:3とすることが好ましい。配合比がこの範囲であれば、ゴムアスファルト組成物を短時間で固化させることができると共に、その表面に余剰の凝固剤が析出することを防止できる。
【0056】
[施工方法]
次に、前述の如く構成されるゴムアスファルト組成物の使用方法、即ち、本実施形態のゴムアスファルト組成物を用いた防水工法について説明する。本実施形態のゴムアスファルト組成物は、剥離紙上にキャストして乾燥させた後、剥離紙を剥離してシートとすることができる。このシートは、建築物や構築物にそのまま敷設したり、接着剤や粘着剤、その他の固定手段を用いて取り付けたりすることで、これら建築物や構築物に防水性を付与することができる。
【0057】
また、本実施形態のゴムアスファルト組成物は、スプレーガンや噴霧器などの噴射装置を用いて、ラテックス状態のまま被着体の表面に付着させ、その後乾燥させることにより、被着体表面に防水塗膜を形成することもできる。その際、2以上の噴射口を有する噴射装置を用いて、主剤と凝固剤とを、それぞれ異なる噴射口から噴射することにより、噴射口付近でのゴムアスファルト組成物の凝固を抑制することができる。
【0058】
本実施形態のゴムアスファルト組成物から形成されるシートや防水塗膜の厚さは、施工場所や使用環境に合わせて適宜設定することができるが、1〜15mmの範囲とすることが好ましい。これにより、防水性能を維持しつつ、取り扱いが良好となる。
【0059】
以上詳述したように、本実施形態のゴムアスファルト組成物は、カリウムイオン含有量及びナトリウムイオン含有量をそれぞれ特定の範囲にしたクロロプレンラテックスを使用しているため、低温下での安定性及び被着体上での成膜性の両方が優れている。そして、本実施形態のゴムアスファルト組成物から形成されるシート及び防水塗膜は、建築分野や土木分野における壁や床、天井などの防水用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。本実施例においては、下記に示す方法で、実施例及び比較例のポリクロロプレンラテックスを製造し、その特性を評価した。
【0061】
<実施例1>
[ポリクロロプレンラテックスの製造]
内容積が10リットルの反応器に、窒素気流下で水:100質量部、不均化ロジン酸カリウム(荒川化学工業社製 ロンヂスK−25):2.5質量部、水酸化カリウム:0.8質量部、ナフタリンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物のナトリウム塩(花王社製 デモールN):0.8質量部及び亜硫酸カリウム:0.5質量部を仕込み、溶解した後、攪拌しながらクロロプレン:100質量部及びn−ドデシルメルカプタン:0.14質量部を添加した。
【0062】
次に、過硫酸カリウムを開始剤として使用し、窒素雰囲気下において45℃で重合し、重合率が90%に達したところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止した。引き続き、減圧下で未反応単量体を除去し、ポリクロロプレンラテックスを得た。更に、減圧下で水分を蒸発させて濃縮を行い、ポリクロロプレンラテックスの固形分が60質量%となるように調整した。
【0063】
そして、得られたポリクロロプレンラテックスについて、カリウムイオン及びナトリウムイオンの含有量を測定した。具体的には、ポリクロロプレンラテックス1.0gを、硫硝酸で酸分解し、塩酸酸性にした後、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES VISTA−PRO)により、アルカリ金属塩量を定量した。
【0064】
[ゴムアスファルト組成物の調整]
(アスファルト乳剤)
固形分濃度が60質量%、pH11.0のアニオン系アスファルト乳剤(市販品)を使用した。
【0065】
(主剤)
前述した方法で製造したポリクロロプレンラテックス:25質量部と、アニオン系のアスファルト乳剤:75質量部を、MAZELAマゼラZ(東京理化機器社製 攪拌機)を用いて、室温にて、回転速度を250rpmにして30分間混合した後、室温下で30分静置して主剤とした。
【0066】
(凝固剤)
凝固剤は、塩化カルシウム(和光純薬社製)を純水に溶解させて、1質量%水溶液に調整して使用した。
【0067】
[評価]
次に、前述した方法で製造したポリクロロプレンラテックスについて、(a)低温安定性及び(b)凝集性を評価すると共に、ゴムアスファルト組成物について、(c)成膜性を評価した。各項目の具体的評価方法を、以下に示す。
【0068】
(a)ポリクロロプレンラテックスの低温安定性
ポリクロロプレンラテックスを、5℃の雰囲気下で1週間、又は、0℃の雰囲気下で1日間放置した後、それぞれのポリクロロプレンラテックスの状態を目視にて確認した。その結果、ポリクロロプレンラテックスの状態が変わらなかったものを○、粘度が上昇したものを△、凝固または凝固物が発生したものを×として評価した。
【0069】
(b)ポリクロロプレンラテックスの凝集性
ポリクロロプレンラテックス1gを、0.1質量%塩化カルシウム水溶液50g中に滴下して析出したゴムを、110℃で3時間乾燥し、ポリクロロプレンラテックスのゴム凝集率を求めた。
【0070】
(c)ゴムアスファルト組成物の成膜性
濾紙を0.1質量%塩化カルシウム水溶液(凝固剤)に浸し、1分間風乾した後、アスファルト乳剤75質量%とポリクロロプレンラテックス25質量%とからなるゴムアスファルト組成物の主剤1gを表面に均一に塗布した。更に、主剤からなる塗布層の表面に、スプレーを用いて1質量%塩化カルシウム水溶液(凝固剤)を0.1g塗布し、3分後に表面の成膜状態を確認した。その結果、目視観察によって表面の成膜率が100%のものを○、80%以上のものを△、80%未満のものを×として評価した。
【0071】
<実施例2〜10、比較例1〜4>
配合を変えて、実施例1と同様に、ポリクロロプレンラテックス及びゴムアスファルト組成物を作製し、評価した。なお、実施例2におけるポリクロロプレンラテックスは、その製造時に、クロロプレン30質量部とn−ドデシルメルカプタン0.042質量部を加えて重合を開始し、重合率が10%となった時点で、さらにクロロプレン70質量部とn−ドデシルメルカプタン0.098質量部を加えて重合して得られたものである。
【0072】
以上の結果を、下記表1〜3にまとめて示す。なお、下記表1〜3に示す「ロンヂス3RN」は、荒川化学工業社製のロジン酸のナトリウム塩であり、「エマルゲン220」は、花王社製のポリオキシエチレンセチルエーテルである。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
上記表3に示すように、カリウムイオン量が本発明の範囲から外れている比較例1,2のポリクロロプレンラテックス、及びナトリウムイオン量が本発明の範囲を超えている比較例3のポリクロロプレンラテックスは、凝集しやすく、低温安定性が劣っていた。一方、ナトリウムイオン量が本発明の範囲を超えている比較例4のポリクロロプレンラテックスは、安定剤を添加しているため、低温安定性は良好であったが、成膜性が劣っていた。
【0077】
これに対して、上記表1,2に示すように、ナトリウムイオン及びカリウムイオンの量を、本発明の範囲内とした実施例1〜10のクロロプレンラテックスは、低温安定性及び凝集性に共に優れていた。また、実施例1〜10のクロロプレンラテックスを使用したゴムアスファルト組成物は、成膜性に優れていた。
【0078】
以上の結果から、本発明によれば、低温下での安定性及び被着体上での成膜性が共に優れるゴムアスファルト組成物が得られることが確認された。