【実施例】
【0030】
本発明の理解を助けるために、本発明を実施するまでの予備検討結果を参考例として示し、さらに実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものでないことはいうまでもない。
【0031】
(参考例1)表面プラズモン共鳴法によるRAGE-リガンド結合解析
本参考例では、RAGEのリガンドとして公知のAGE2/3、HMGB1(High mobility group box 1)及びβ‐アミロイドペプチドの3種について、sRAGEとの結合能を解析した。解析には、表面プラズモン共鳴法によりBIACORE
TM(GEヘルスケアジャパン株式会社)を用いた。
【0032】
1)材料について
(a) sRAGEの作製方法
本実施例では、ヒト1回膜貫通型受容体であるRAGE(Accession No. NM_001136.3)のうち、細胞外領域のみで構成されるsRAGE(RAGEを構成するアミノ酸のうち23番-331番アミノ酸残基を有する蛋白質)を作製するために、細胞外領域をコードする遺伝子のみを増幅するプライマーを設計し、Cap Site cDNA dt (human liver由来)cDNAライブラリー(Nippon gene社)を鋳型にPCR反応を行い、sRAGE DNAを増幅した。当該増幅したsRAGE DNAとpASK-IBA32 vector(C末端にHis tagを付加)(IBA社)をライゲーションし、pASK-IBA32-sRAGE発現プラスミドを構築した。発現プラスミドを大腸菌株BL21(DE3)に形質転換し、テトラサイクリン誘導によりHis-sRAGE蛋白質を発現させた。発現誘導した大腸菌の破砕上清よりNi-NTAアガロースを用いて精製を行い、His tagged recombinant human sRAGE蛋白溶液を得た。
【0033】
(b) HMGB1の作製方法
HMGB1(Accession No. NM_002128.4)をコードする遺伝子を特異的に増幅するプライマーを設計し、Cap Site cDNA dt (human liver由来)cDNAライブラリー(Nippon gene社)を鋳型にPCR反応を行い、HMGB1 DNAを増幅した。増幅したHMGB1 DNAをpFastBac HTA vector(N末端にHis tagを付加)(Invitrogen社)とライゲーションし、pFastBac HTA-HMGB1プラスミドを構築した。Bac-to-Bac
(R) Baculovirus Expression System (Invitrogen社)を用いてHMGB1発現用バクミドを構築し、SF9昆虫細胞にトランスフェクションを行い、HMGB1発現バキュロウイルスを得た。このウイルスをさらにSF9昆虫細胞に感染させ、72時間後に感染SF9細胞破砕上清よりNi-NTAアガロースを用いて精製を行い、His tagged recombinant human HMGB1蛋白溶液を得た。
【0034】
(c)AGE2及びAGE3のAGE化蛋白質の作製方法
BSAを50 mg/mlの濃度になるよう0.2 Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)に溶解した。BSA溶液10 mlに、各10 mlのAGE溶液(AGE2は0.2 M D-glyceraldehyde、AGE3は0.2 M D-glycoaldehydeに溶解したもの)を加え、それぞれをフィルターにより滅菌した。37℃で7 日間静置し、反応終了後、それぞれを透析膜に入れ、500 mlのPBSに対して4℃で4 回透析し、各サブタイプ(AGE2/3)のAGE化蛋白質(AGE化ウシ血清アルブミン(Bovine Serum Albumin:BSA))を得た。
【0035】
2)表面プラズモン共鳴法
BIACORE
TM Sensor chip CM5 (GEヘルスケアジャパン株式会社) に、アミノカップリング法を用いて上述のsRAGEを固定化した。各リガンド物質をBIACORE
TMのマイクロ流路系にアナライトとして500 μg/mlの濃度で添加した。その結果、AGE2/3では非常に高い結合親和性を示し、HMGB1では高い結合親和性を示したが、β‐アミロイドペプチドについては低い結合親和性であった(
図3参照)。
【0036】
(参考例2)マイクロタイタープレートを用いたAGE-BSAとRAGEの結合実験
本参考例では、AGEとsRAGEの結合能を、マイクロタイタープレートを用いて測定した。AGEには、産生経路により複数のサブタイプがある(非特許文献4参照)。本参考例では、AGE1、AGE2、AGE3、AGE4、及びAGE5について、RAGEとの結合能を確認した。各AGE化蛋白質は、ウシ血清アルブミン(Bovine Serum Albumin:BSA)に付加し、AGE化BSAとした。本参考例において、sRAGEは、参考例1の手法に従って作製した。
【0037】
1)各サブタイプ(AGE1-AGE5)のAGE化蛋白質(AGE化BSA)の作製方法
BSAを50 mg/mlの濃度になるよう0.2 Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)に溶解した。BSA溶液10 mlに、各10 mlのAGE溶液(AGE1は1 M グルコース液、AGE2は0.2 M D-glyceraldehyde、AGE3は0.2 M D-glycoaldehyde、AGE4は0.2 M methylglyoxal、AGE5は0.2 M glyoxal(0.2 Mリン酸緩衝液、pH 7.4)に溶解したもの)を加え、それぞれをフィルターにより滅菌した。AGE1は37℃で8 週間、AGE2〜5は7 日間静置した。反応終了後、それぞれを透析膜に入れ、500 mlのPBSに対して4℃で4 回透析し、各サブタイプ(AGE1-AGE5)のAGE化BSAを得た。
【0038】
2)AGEとsRAGEの結合親和性測定方法
96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに、各種AGE(AGE化BSA)溶液(0.05 ml)を0.3125〜20μg/ml濃度で加え、4℃、16 時間インキュベートした。洗浄液(0.05% Tween20を含む10 mM Tris緩衝生理食塩水、pH 7.5)(0.2 ml)で3回洗浄後、10% BSA (0.1 ml)で4℃、16時間インキュベートし、ブロッキングを行った。3回洗浄後、ペプチド試料ならびにHis tagを付加したsRAGEを2.7μg/ml含む10 mM Tris緩衝生理食塩水(0.05 ml)をさらに加え、4℃で16時間インキュベートした。3 回洗浄後、Ni-NTA-HRP(自家調製)(0.05 ml)を加え、室温にて1 時間反応させた。その後、0.15 % H
2O
2及び2.5 mM 2,2'-Azinobis(3-ethylbenzothiazoline- 6-sulfonic Acid Ammonium Salt)(東京化成工業)(0.05 ml)を含む0.1 Mクエン酸緩衝液(pH 4.0)を反応させ、405 nmの吸光度を測定した。
【0039】
上記の結果、AGE1についてはsRAGEとの結合親和性はほとんど認められなかったが、AGE2及びAGE3については強い結合親和性を認めた。AGE4及びAGE5については、AGE2及びAGE3に比べてやや弱いものの、結合親和性を認めた。
【0040】
(実施例1)β‐アミロイドペプチドのRAGEとAGEの結合親和性に及ぼす影響
本実施例では、β‐アミロイドペプチドのRAGEとAGEの結合親和性に及ぼす影響を確認した。β‐アミロイドペプチドとしてのアミロイド1(Aβ1-40)(配列表の配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、1-40の部分)と、その代謝ペプチドであるアミロイド2(PyrAβ3-42:配列番号2)を用いた(
図6参照)。比較対照のため、陰性コントロールとしてTris緩衝液(Tris-Buffered Saline:TBS)、他のリガンドとして全長HMGB1、他の蛋白質として、マクロファージ遊走阻止因子(macrophage migration inhibitory factor: MIF)についても同様の測定を行った。
【0041】
1)材料について
アミロイド1(Aβ1-40)及びアミロイド2(PyrAβ3-42)は、(株)ペプチド研究所(箕面市)から購入した。対照としてのHMGB1は、参考例1の1)(b)に記載の方法で作製したものを用い、MIFについてはウシ脳より精製(Nishibori et al., Japanese Journal of Pharmacology, 1996 Jul;71(3):259-62.)したものを用いた。
【0042】
2)測定方法について
参考例2の測定方法において、アミロイド1及び2(各々265μg/ml)、全長HMGB1(500μg/ml)、MIF(24μg/ml)を加えたのち、His tagを付加したsRAGEを2.7μg/ml含む10 mM Tris緩衝液をさらに加え、4℃で16時間インキュベートし、その他の方法は同手法により行った。
【0043】
上記の結果、アミロイド1は、RAGEとAGEの結合親和性を強固に増強しうることが確認された。また、その効果に関してはAGEのサブタイプ(AGE2、AGE3、AGE4、及びAGE5)において、ほとんど差を認めなかった。一方、RAGEのリガンドであるHMGB1ホールは、緩衝液(TBS)の場合よりも低い値を示し、RAGEとAGEの結合親和性を抑制する作用を有すると考えられた。また、アミロイド1の代謝ペプチドであるアミロイド2及び他の蛋白質であるMIFについては、緩衝液(TBS)の場合とほぼ同様の値を示し、AGEのサブタイプについて、AGE2及びAGE3ではやや高く、AGE4及びAGE5でやや低い結合親和性を示す傾向についても同様であった。
【0044】
(実施例2)sRAGEとAGEの結合抑制剤のスクリーニング
本実施例では、以下のa)〜e)の工程を含む方法により、sRAGEとAGEの結合抑制剤のスクリーニングを行った。
a)AGE化蛋白質を固定した固相を準備する工程;
b)候補物質を含む溶液を固相に加える工程;
c)β‐アミロイドペプチドを含む溶液を固相に加える工程;
d)sRAGEを含む溶液を固相に加える工程;
e)上記d)の工程の後、固相に固定したAGE化蛋白質に結合したsRAGEの量を測定してRAGEとAGEの結合親和性を測定し、RAGEとAGEの結合を抑制しうる候補物質を選別した。
候補物質は、化合物ライブラリーより選択した。β-アミロイドペプチドとして、アミロイド1(Aβ1-40)を用いた。AGEとしてAGE2を用いた。
【0045】
1)材料について
以下の測定系で測定した。
(1) BSA+sRAGE
(2) AGE2+sRAGE
(3) AGE2+sRAGE+DMSO
(4) AGE2+sRAGE+DMSO+アミロイド1(Aβ1-40)
(5) AGE2+sRAGE+DMSO+アミロイド1(Aβ1-40)+化合物A
(6) AGE2+sRAGE+DMSO+アミロイド1(Aβ1-40)+化合物B
(7) AGE2+sRAGE+DMSO+アミロイド1(Aβ1-40)+化合物C
sRAGE及びAGE2は、参考例1に従い調製したものを用いた。アミロイド1(Aβ1-40)は実施例1と同様に(株)ペプチド研究所(箕面市)から購入した。AGEとsRAGEの結合親和性測定方法は、参考例2に従った。
【0046】
2)測定方法について
参考例2の測定方法において、アミロイド1(各々270μg/ml)、各化合物(10μM)を加えたのち、His tagを付加したsRAGEを27mg/ml含む10 mM Tris緩衝液をさらに加え、4℃で16時間インキュベートし、その他の方法は参考例2と同手法により行った。
【0047】
3)結果
上記の結果、候補化合物のうち、以下の化合物A〜Cは、RAGEとAGEの結合を抑制しうることが確認された(
図8)。これにより、本発明の方法によると、RAGEとAGEの結合抑制剤をスクリーニングしうることが確認された。本発明のスクリーニング方法により選別された化合物Aは以下の式(I)で示す構造式からなり、2-[3-(1,3-Dihydro-1,3,3-trimethyl-2H-indol-2-ylidene)-1-propenyl]-3-ethyl-benzothiazolium iodideともいう。化合物Bは、3,3',4',5,5',7-Hexahydroxyflavone 3-O-α-L-rhamnopyranosideであり、以下の式(II)で示す構造式からなり、別名 Myricetinともいう。化合物Cは、以下の式(III)で示す構造式からなり、protoporphyrin IXともいう。
【化1】
【化2】
【化3】