(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の含有量が15質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の一次防錆塗料組成物。
亜鉛末(B)として、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)とともに球状亜鉛系粉末(b−2)をさらに含有することを特徴とする請求項1または2に記載の一次防錆塗料組成物。
亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の含有量が15〜90質量%であり、球状亜鉛系粉末(b−2)の含有量が10〜85質量%であることを特徴とする請求項4に記載の一次防錆塗料組成物。
鱗片状亜鉛系粉末(b−1)が、鱗片状亜鉛粉末および鱗片状亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物。
鱗片状亜鉛系粉末(b−1)のメディアン径(D50)が30μm以下であり、かつ平均厚さが1μm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物。
基板表面に、請求項1〜10のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物を塗装する工程、および塗装された前記塗料組成物を硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程を有することを特徴とする基板の防錆方法。
基板表面に、請求項1〜10のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物を塗装する工程、および塗装された前記塗料組成物を硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程を有することを特徴とする一次防錆塗膜付き基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一次防錆塗料組成物(以下「塗料組成物」ともいう。)、一次防錆塗膜、一次防錆塗膜付き基板およびその製造方法、ならびに基板の防錆方法について、好適な態様を含めて詳細に説明する。
【0029】
〔一次防錆塗料組成物〕
本発明の一次防錆塗料組成物は、シロキサン系結合剤(A)と鱗片状亜鉛系粉末(b−1)を含む亜鉛末(B)とを含有する。また、前記組成物は、前記結合剤(A)以外の他の結合剤等の塗膜形成主要素、前記亜鉛末(B)以外の他の顔料成分、添加剤、有機溶剤等から選択される1種または2種以上をさらに含有してもよい。
【0030】
《1.塗膜形成主要素》
塗膜形成主要素とは、塗膜を形成するために必要な主要素である。例えば、重合油、天然樹脂、合成樹脂、セルロール誘導体等の高分子物質が、塗膜形成主要素に分類される。以下のシロキサン系結合剤(A)や他の結合剤は、塗膜形成主要素に分類される。
【0031】
〈シロキサン系結合剤(A)〉
本発明の塗料組成物は、シロキサン系結合剤(A)を必須成分として含有する。
【0032】
シロキサン系結合剤(A)の重量平均分子量(Mw)は、1000〜6000であり、好ましくは1200〜5000であり、より好ましくは1300〜4000である。Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される標準ポリスチレン換算の値であり、その詳細は実施例に記載したとおりである。
【0033】
Mwが上記範囲にあると、塗料の乾燥時に短時間で常温硬化(例:5〜40℃)が可能であり、また塗膜の防錆性および付着強度が向上するとともに、溶接処理時のブローホール(内泡)の発生が抑えられる。一方、Mwが上記下限値を下回ると、シロキサン系結合剤(A)の硬化反応が遅く、短時間での硬化が求められる場合、塗膜の乾燥時に高温(例:200〜400℃)の加熱硬化が必要になる。Mwが上記上限値を上回ると、シロキサン系結合剤(A)が亜鉛末(B)の表面を覆ってしまい、塗膜の防錆性が劣る。
【0034】
シロキサン系結合剤(A)としては、例えば、アルキルシリケートおよびメチルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物の縮合物が挙げられ;具体的には前記化合物の部分加水分解縮合物が挙げられる。
【0035】
アルキルシリケートとしては、例えば、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、テトラ−n−プロピルオルトシリケート、テトラ−i−プロピルオルトシリケート、テトラ−n−ブチルオルトシリケート、テトラ−sec−ブチルオルトシリケート等の化合物;メチルポリシリケート、エチルポリシリケート等の化合物;が挙げられる。
【0036】
メチルトリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等の化合物が挙げられる。
【0037】
これらの中でも、アルキルシリケートの縮合物が好ましく、テトラエチルオルトシリケートの縮合物がより好ましく、テトラエチルオルトシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(商品名;コルコート(株)製)の部分加水分解縮合物が特に好ましい。
【0038】
シロキサン系結合剤(A)は従来公知の方法によって製造することができる。例えば、アルキルシリケートおよびメチルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種と有機溶剤との混合溶液に塩酸等を添加し攪拌して、部分加水分解縮合物を生成させることにより、シロキサン系結合剤(A)を調製することができる。
【0039】
シロキサン系結合剤(A)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
本発明の塗料組成物において、シロキサン系結合剤(A)の含有量は、全組成物の通常8〜40質量%、好ましくは12〜35質量%、より好ましくは15〜25質量%である。含有量が前記範囲にあると、平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜であっても、鋼板表面の単位面積当りの結合剤量を多くすることができ、また鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の平板面が塗膜表面と略平行に配向する。このため、塗膜の連続性が保たれ、鋼板素地が見えることがない。したがって、鋼板の発錆を防止することができる。
【0041】
本発明の塗料組成物が後述する2液型組成物の場合、主剤成分と顔料ペースト成分とを混合して得られた塗料中のシロキサン系結合剤(A)の含有量を、上記範囲に調整することが好ましい。
【0042】
〈他の結合剤〉
本発明の塗料組成物は、本発明の目的・効果を損なわない範囲で、シロキサン系結合剤(A)以外の他の結合剤を含有してもよい。他の結合剤としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。ポリビニルブチラール樹脂の市販品としては、例えば、エスレックB BM−2(商品名;積水化学工業(株)製)が挙げられる。
【0043】
《2.顔料成分》
顔料成分としては、例えば、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)、球状亜鉛系粉末(b−2)等の亜鉛末(B)、前記(B)以外の導電性顔料(C)、前記(B)および(C)以外の防錆顔料、前記(B)および(C)以外の無機粉末、モリブデン、モリブデン化合物が挙げられる。本発明の塗料組成物は鱗片状亜鉛系粉末(b−1)を必須成分として含有し、前記他の顔料成分を更に含有してもよい。
【0044】
〈亜鉛末(B)〉
本発明の塗料組成物は、亜鉛末(B)を含有する。
【0045】
本発明において「亜鉛末」とは、金属亜鉛の粉末、または亜鉛を主体とする合金(例:亜鉛とアルミニウム、マグネシウムおよび錫から選択される少なくとも1種との合金)の粉末を意味する。
【0046】
本発明の塗料組成物において、亜鉛末(B)とSiO
2換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((B)/(A))は、1.0〜5.0に調整することが好ましく、より好ましくは1.2〜4.5であり、さらに好ましくは1.5〜3.5である。質量比((B)/(A))が前記範囲にあると、防食性、溶接性の面で好ましい。質量比((B)/(A))が前記範囲を上回ると、溶接欠陥が多くなる傾向にあり、質量比((B)/(A))が前記範囲を下回ると、防食性が不足となる傾向にある。
【0047】
本発明の塗料組成物が後述する2液型組成物の場合、主剤成分と顔料ペースト成分とを混合して得られた塗料中の質量比((B)/(A))を、上記範囲に調整することが好ましい。
【0048】
本発明の塗料組成物は、亜鉛末(B)として、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)を含有する。亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の含有量は15質量%以上であることが好ましい。
【0049】
本発明の塗料組成物の一好適態様では、亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の含有量は85質量%を超えることが好ましく、より好ましくは90質量%を超え、さらに好ましくは95質量%を超える。前記(b−1)を前記範囲で用いると、防錆性、上塗り性および溶接・切断性が良好な塗膜を形成することができる点で好ましい。
【0050】
本発明の塗料組成物の一好適態様は、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)とともに球状亜鉛系粉末(b−2)を含有することが好ましい。例えば、亜鉛末(B)の含有量の合計100質量%に対して、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の含有量が15〜90質量%であり、球状亜鉛系粉末(b−2)の含有量が10〜85質量%であることが好ましく、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の含有量が15〜70質量%であり、球状亜鉛系粉末(b−2)の含有量が30〜85質量%であることがより好ましい。前記(b−1)および(b−2)を前記範囲で用いると、高価な鱗片状亜鉛系粉末の使用量を低減しつつ、かつ、後述するような鱗片状亜鉛系粉末の作用を損なうことがなく、防錆性、上塗り性および溶接・切断性が良好な塗膜を形成することができる点で好ましい。
【0051】
後者の好適態様の場合、本発明の塗料組成物は、さらに導電性顔料(C)を含有することが好ましい。前記(b−1)および(b−2)とともに前記(C)を併用することで、防錆性、上塗り性および溶接・切断性が特に良好な塗膜を形成することができる。
【0052】
さらに、溶接・切断時等に塗膜が800℃以上の高温で加熱される場合、鱗片状亜鉛系粉末は比表面積が大きいため金属亜鉛が酸化され、加熱後の防食性が低下することがある。一方、鱗片状亜鉛系粉末とともに球状亜鉛系粉末を併用した場合、塗膜が前記高温で加熱された場合でも球状亜鉛系粉末の内部に金属亜鉛が残存するため、加熱後の防食性を確保することができる。
【0053】
また、鱗片状亜鉛系粉末は金属光沢色を有しており、塗膜を形成する際に、当該粉末の平板面が塗膜表面に向けて配向するため、他の着色顔料を導入した場合でも色相が金属光沢色を帯びやすい傾向がある。したがって、鱗片状亜鉛系粉末を用いる場合、色相設計に制限があることがある。一方、鱗片状亜鉛系粉末とともに球状亜鉛系粉末を併用することで相対的に鱗片状亜鉛系粉末の含有量を減量することできるため、この傾向が緩和され、自由に色相設計をすることが可能となる。
【0054】
鱗片状亜鉛系粉末(b−1)
本発明の塗料組成物は、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)を必須成分として含有する。
【0055】
鱗片状亜鉛系粉末(b−1)は、鋼板の発錆を防止する防錆顔料として作用する。鱗片状亜鉛系粉末(b−1)としては、例えば、鱗片状亜鉛粉末および鱗片状亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種が挙げられる。亜鉛合金としては、例えば、亜鉛とアルミニウム、マグネシウムおよび錫から選択される少なくとも1種との合金が挙げられ、好ましくは亜鉛−アルミニウム合金、亜鉛−錫合金が挙げられる。
【0056】
鱗片状亜鉛系粉末(b−1)は、メディアン径(D50)が30μm以下であり、かつ平均厚さが1μm以下のものが好ましく;メディアン径(D50)が5〜20μmであり、かつ平均厚さが0.2〜0.9μmのものがより好ましい。また、メディアン径(D50)と平均厚さとの比で示されるアスペクト比(メディアン径/平均厚さ)は、10〜150であることが好ましく、より好ましくは20〜100である。
【0057】
メディアン径は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置、例えば「SALD 2200」(商品名;(株)島津製作所製)を用いて測定することができる。平均厚さは、走査電子顕微鏡(SEM)、例えば「XL−30」(商品名;フィリップス社製)を用いて鱗片状亜鉛系粉末(b−1)を観察し、数10〜数100個の粉末粒子の厚さを測定し、平均値を求めることで算出できる。
【0058】
このような形状の鱗片状亜鉛系粉末(b−1)は球状亜鉛系粉末(b−2)と比べて比表面積が大きいので、塗膜中の粒子間の接触が密に保たれる。したがって、塗膜中の亜鉛末(B)の含有量を少なく設定しても(例:36g/m
2以下)、長期暴露後の防錆性に優れた塗膜を形成することができる。また、メディアン径(D50)が前記上限値以下の場合、塗装機内部で塗料の詰りを防止することができる。比表面積は、流動式比表面積自動測定装置、例えば「フローソーブII 2300」(商品名;(株)島津製作所製)を用いて測定することができる。
【0059】
鱗片状亜鉛粉末の市販品としては、例えば、STANDART Zinc flake GTT、STANDART Zinc flake G、STANDART Zinc flake AT(商品名;ECKART GmbH製)が挙げられる。鱗片状亜鉛合金粉末の市販品としては、例えば、STAPA 4 ZNAL7(亜鉛とアルミニウムとの合金;商品名;ECKART GmbH製)、STAPA 4 ZNSN30(亜鉛と錫との合金;商品名;ECKART GmbH製)が挙げられる。
【0060】
鱗片状亜鉛系粉末(b−1)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
本発明の塗料組成物の一好適態様において、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)とSiO
2換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((b−1)/(A))は、1.0〜5.0に調整することが好ましく、より好ましくは1.2〜4.5であり、さらに好ましくは1.5〜3.5である。質量比((b−1)/(A))が前記範囲にあると、乾燥・硬化して得られた塗膜中の粒子間の距離が密に保たれる点で好ましい。
【0062】
本発明の塗料組成物が後述する2液型組成物の場合、上記一好適態様では、主剤成分と顔料ペースト成分とを混合して得られた塗料中の質量比((b−1)/(A))を、上記範囲に調整することが好ましい。
【0063】
球状亜鉛系粉末(b−2)
本発明の塗料組成物の一好適態様は、球状亜鉛系粉末(b−2)を含有する。
【0064】
球状亜鉛系粉末(b−2)は、鋼板の発錆を防止する防錆顔料として作用する。球状亜鉛系粉末(b−2)としては、例えば、球状亜鉛粉末および球状亜鉛合金粉末から選択される少なくとも1種が挙げられる。亜鉛合金としては、例えば、亜鉛とアルミニウム、マグネシウムおよび錫から選択される少なくとも1種との合金が挙げられ、好ましくは亜鉛−アルミニウム合金、亜鉛−錫合金が挙げられる。
【0065】
球状亜鉛系粉末(b−2)における「球状」とは、形状が球の形を成しているものを指し、特に規定された範囲は存在しないが、通常、アスペクト比が1〜3であることが好ましい。球状亜鉛系粉末(b−2)は鱗片状亜鉛系粉末(b−1)と比べて安価であり、その使用により塗料組成物のコストを低減することができる。アスペクト比は、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)と同様な方法で測定することができる。
【0066】
球状亜鉛系粉末(b−2)は、メディアン径(D50)が2〜15μmであることが好ましく、より好ましくは2〜7μmである。メディアン径は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置、例えば「SALD 2200」(商品名;(株)島津製作所製)を用いて測定することができる。
【0067】
球状亜鉛粉末の市販品としては、例えば、F−2000(商品名;本荘ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0068】
球状亜鉛系粉末(b−2)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
〈導電性顔料(C)〉
本発明の塗料組成物は、導電性顔料(C)を含有してもよい。前記(C)を併用することで、亜鉛の電気防食作用が効果的となり防錆性を向上させる点で好ましい。鱗片状亜鉛系粉末(b−1)とともに球状亜鉛系粉末(b−2)を用いる場合、特に亜鉛末(B)100質量%に対して鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の含有量が15〜70質量%であり、球状亜鉛系粉末(b−2)の含有量が30〜85質量%である場合は、特に球状亜鉛系粉末の電気防食効果を高める観点から、前記(C)を併用することが好ましい。
【0070】
上記点について詳しくは以下のとおりである。一次防錆塗料の防錆性を確保するためには、亜鉛粒子がイオン化した際に発生する電子を効率的に鋼板等の基板へ供給させることが、犠牲防食効果を得るために重要である。通常、乾燥塗膜中の亜鉛粒子同士を接触させることによってこの通電効果を得ることができるが、特に鱗片状亜鉛系粉末の形状は粒子同士が接触するのに適している。しかしながら、鱗片状亜鉛系粉末の比率を下げ、球状亜鉛系粉末の比率を高めた場合、粒子同士の接触が損なわれ、この効果が発揮しづらくなることがある。この場合、導電性顔料を塗膜にさらに含有させることによって、亜鉛粒子間を導電性顔料が接続する役割を果たし、これらの通電効果を補うことができる。その結果、効果的な犠牲防食効果を得ることができ、良好な防錆性を発揮させることができる。
【0071】
導電性顔料(C)としては、例えば、酸化亜鉛、亜鉛末以外の金属粉末、炭素粉末が挙げられる。これらの中でも、安価で導電性の高い酸化亜鉛が好ましい。
【0072】
酸化亜鉛の市販品としては、例えば、酸化亜鉛1種(堺化学工業(株)製)、酸化亜鉛3種(ハクスイテック(株)製、堺化学工業(株)製)が挙げられる。
【0073】
金属粉末としては、例えば、Fe−Si粉、Fe−Mn粉、Fe−Cr粉、磁鉄粉、リン化鉄が挙げられる。金属粉末の市販品としては、例えば、フェロシリコン(商品名;キンセイマテック(株)製)、フェロマンガン(商品名;キンセイマテック(株)製)、フェロクロム(商品名;キンセイマテック(株)製)、砂鉄粉(キンセイマテック(株)製)、フェロフォス2132(オキシデンタル ケミカルコーポレーション製)が挙げられる。
【0074】
炭素粉末としては、着色顔料として用いられるカーボンブラックが挙げられる。炭素粉末の市販品としては、例えば、三菱カーボンブラックMA−100(商品名;三菱化学(株)製)が挙げられる。
【0075】
導電性顔料(C)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
導電性顔料(C)を用いる場合、導電性顔料(C)の含有量は、亜鉛末(B)100質量部に対して、好ましくは5〜100質量部、より好ましくは10〜50質量部、更に好ましくは15〜35質量部である。前記(C)の含有量が前記範囲にあると、塗膜の電気防食効果を高め、防錆性を向上させる点で好ましい。
【0077】
特に、亜鉛末(B)100質量%に対して鱗片状亜鉛系粉末(b−1)を15〜70質量%で用い、かつ球状亜鉛系粉末(b−2)を30〜85質量%で用いる場合、塗料組成物中の導電性顔料(C)の含有量を亜鉛末(B)100質量部に対して15〜35質量部にすることが好ましい。
【0078】
また、導電性顔料(C)の含有量は、塗料組成物中の不揮発分に対して、0質量%を超えて35質量%以下が好ましく、10〜20質量%がより好ましい。前記(C)の含有量が前記範囲にあると、亜鉛末(B)の含有量を少なく抑えつつ防食性を維持できる点で好ましい。
【0079】
〈他の防錆顔料〉
本発明の塗料組成物は、補助的に塗膜の防錆性を確保する目的で、亜鉛末(B)および導電性顔料(C)以外の防錆顔料を含有してもよい。防錆顔料としては、例えば、リン酸亜鉛系化合物、リン酸カルシウム系化合物、リン酸アルミニウム系化合物、リン酸マグネシウム系化合物、亜リン酸亜鉛系化合物、亜リン酸カルシウム系化合物、亜リン酸アルミニウム系化合物、亜リン酸ストロンチウム系化合物、トリポリリン酸アルミニウム系化合物、シアナミド亜鉛系化合物、ホウ酸塩化合物、ニトロ化合物、複合酸化物が挙げられる。
【0080】
防錆顔料の市販品としては、例えば、リン酸亜鉛系(アルミニウム)化合物:LFボウセイCP−Z(商品名;キクチカラー(株)製)、亜リン酸亜鉛系(カルシウム)化合物:プロテクスYM−70(商品名;太平化学産業(株)製)、亜リン酸亜鉛系(ストロンチウム)化合物:プロテクスYM−92NS(商品名;太平化学産業(株)製)、トリポリリン酸アルミニウム系化合物:Kホワイト#84(商品名;テイカ(株)製)、シアナミド亜鉛系化合物:LFボウセイZK−32(キクチカラー(株)製)が挙げられる。
【0081】
防錆顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0082】
〈他の無機粉末〉
本発明の塗料組成物は、亜鉛化合物粉末(ただし、酸化亜鉛、リン酸亜鉛系化合物、亜リン酸亜鉛系化合物、シアナミド亜鉛系化合物を除く。)、鉱物粉末、アルカリガラス粉末、および熱分解ガスを発生する無機化合物粉末から選択される少なくとも1種の無機粉末を含有していてもよい。
【0083】
亜鉛化合物粉末は、亜鉛末(B)のイオン化(Zn
2+の生成)の程度等の、酸化反応の活性度を調整する作用があると考えられている。本発明の塗料組成物が亜鉛化合物粉末を含有する場合、前記組成物に適切な防錆性を付与することができる。亜鉛化合物粉末としては、例えば、塩化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸亜鉛等の粉末が挙げられる。亜鉛化合物粉末の市販品としては、例えば、「Sachtolich HD (硫化亜鉛;商品名;Sachleben Chemie GmbH製)」、「塩化亜鉛((株)長井製薬所製)」が挙げられる。
【0084】
鉱物粉末としては、例えば、チタン鉱物粉、シリカ粉、ソーダ長石、カリ長石、珪酸ジルコニウム、珪灰石、珪藻土が挙げられる。鉱物粉末の市販品としては、例えば、ルチルフラワーS(キンセイマテック(株)製)、イルメナイト粉(キンセイマテック(株)製)、A−PAX(キンセイマテック(株)製)、セラミックパウダーOF−T(キンセイマテック(株)製)、アプライト(キンセイマテック(株)製)、シリカMC−O(丸尾カルシウム(株)製)、バライトBA(堺化学(株)製)、ラジオライト(昭和化学工業(株))、セライト545(ジョンマンビル社製)が挙げられる。
【0085】
アルカリガラス粉末は、当該ガラス粉末に含まれるアルカリ金属イオンが亜鉛を活性化させる、鋼板の溶接時にアークを安定化させるという作用を有する。アルカリガラス粉末としては、一般に普及している板ガラスや瓶ガラスを5μm程度まで粉砕してガラス粉末を調製し、酸洗浄で当該ガラス粉末のpHを8以下に調整したものが挙げられる。アルカリガラス粉末の市販品としては、例えば、「APS−325」((株)ピュアミック製)が挙げられる。
【0086】
熱分解ガスを発生する無機化合物粉末とは、熱分解(例:500〜1500℃での熱分解)によってガス(例:CO
2、F
2)を発生する無機化合物の粉末である。前記無機化合物粉末は、これを含有する塗料組成物から形成された塗膜を有する鋼板を溶接する際に、溶接時の溶融プール内において、結合剤等に含まれる有機分から発生したガスから生じた気泡を、前記無機化合物粉末由来のガスとともに、溶融プール内から除去する作用を有する。前記無機化合物粉末としては、例えば、フッ化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウムが挙げられる。前記無機化合物粉末の市販品としては、例えば、蛍石400メッシュ(キンセイマテック(株)製)、NS#400(日東粉化工業(株)製)、炭酸マグネシウム(富田製薬(株)製)、炭酸ストロンチウムA(本荘ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0087】
〈モリブデン、モリブデン化合物〉
本発明の塗料組成物は、モリブデン(金属モリブデン),モリブデン化合物の一方または双方を含有することができる。これらは、亜鉛の酸化防止剤(いわゆる白錆抑制剤)として作用する。
【0088】
本発明の塗料組成物を塗装した基板を屋外に暴露した場合に、塗膜中の亜鉛または亜鉛合金が水や酸素、炭酸ガスと反応することで、塗膜表面に粉状の白錆(酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛等の混合物)が生成することがある。白錆が生成した当該塗膜の表面に上塗り塗料からなる上塗り塗膜が形成された場合、塗膜間の付着性が低下してしまうことがある。このような問題に対しては、上塗り塗料を塗装するに先だって、防錆塗膜表面の白錆を適当な手段により除去する除去作業を必要とするが、顧客の要求や特定の用途によっては、このような除去作業は全く許されないことがある。
【0089】
白錆の発生を低減することができるという観点からは、本発明の塗料組成物は、亜鉛の酸化防止剤(いわゆる白錆抑制剤)として、モリブデン(金属モリブデン),モリブデン化合物の一方または双方を含有することが好ましい。
【0090】
モリブデン化合物としては、例えば、三酸化モリブデン等のモリブデン酸化物、硫化モリブデン、モリブデンハロゲン化物、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、珪モリブデン酸、モリブデン酸のアルカリ金属塩、リンモリブデン酸のアルカリ金属塩、珪モリブデン酸のアルカリ金属塩、モリブデン酸のアルカリ土類金属塩、リンモリブデン酸のアルカリ土類金属塩、珪モリブデン酸のアルカリ土類金属塩、モリブデン酸のマンガン塩、リンモリブデン酸のマンガン塩、珪モリブデン酸のマンガン塩、モリブデン酸の塩基性窒素含有化合物塩、リンモリブデン酸の塩基性窒素含有化合物塩、珪モリブデン酸の塩基性窒素含有化合物塩が挙げられる。
【0091】
モリブデン化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
モリブデン,モリブデン化合物の一方または双方を用いる場合、モリブデンおよびモリブデン化合物の含有量の合計は、亜鉛末(B)100質量部に対して、好ましくは0.05〜5.0質量部、より好ましくは0.3〜3.0質量部、さらに好ましくは0.5〜2.0質量部である。含有量が前記範囲にある場合、充分な亜鉛の酸化防止作用が得られるとともに、亜鉛末(B)の防錆能力の活性の低下を防ぎ塗膜の防錆性を維持することができる。
【0093】
《3.添加剤》
本発明の塗料組成物は、添加剤を含有してもよい。添加剤とは、塗料や塗膜の性能を向上させ、または保持するために用いられる材料である。添加剤としては、例えば、沈降防止剤、乾燥剤、流動性調整剤、消泡剤、分散剤、色分れ防止剤、皮張り防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤が挙げられる。
【0094】
添加剤は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0095】
〈沈降防止剤〉
沈降防止剤としては、例えば、有機ベントナイト系、酸化ポリエチレン系、ヒュームドシリカ系、アマイド系等の沈降防止剤が挙げられる。沈降防止剤の市販品としては、例えば、TIXOGEL MPZ(商品名;Rockwood Clay Additives GmbH製)、ディスパロン4200−20(商品名;楠本化成(株)製)、ディスパロンA630−20X(商品名;楠本化成(株)製)、AEROSIL 200(商品名;日本アエロジル(株)製)が挙げられる。
【0096】
沈降防止剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0097】
沈降防止剤の含有量は、本発明の塗料組成物が後述する2液型組成物の場合、顔料ペースト成分中において、通常0.5〜5.0質量%、好ましくは1.5〜4.0質量%である。沈降防止剤の含有量が前記範囲にあると、顔料成分の沈殿が少なく、顔料ペースト成分と主剤成分とを混合する際の作業性の点で好ましい。
【0098】
《4.有機溶剤》
本発明の塗料組成物は、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)等の亜鉛末(B)の分散性が向上すること、また塗装工程において鋼板へのなじみ性が良く、鋼板との密着性に優れた塗膜が得られることから、有機溶剤を含有することが好ましい。
【0099】
有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族系溶剤、グリコール系溶剤等の塗料分野で通常使用されている有機溶剤を用いることができる。
【0100】
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールが挙げられる。エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。ケトン系溶剤としては、例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサンノンが挙げられる。芳香族系溶剤としては、例えば、ベンゼン、キシレン、トルエンが挙げられる。グリコール系溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0101】
有機溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0102】
本発明の塗料組成物において、有機溶剤の含有量は、通常30〜90質量%、好ましくは40〜85質量%、より好ましくは45〜80質量%である。本発明の塗料組成物は、このような有機溶剤型組成物であることが好ましい。
【0103】
本発明の塗料組成物が後述する2液型組成物の場合、主剤成分と顔料ペースト成分とを混合して得られた塗料中の有機溶剤の含有量を、上記範囲に調整することが好ましい。
【0104】
《顔料体積濃度(PVC)》
本発明の塗料組成物は、顔料体積濃度(PVC)が35〜60%であるという要件を満たす。PVCは、好ましくは37〜55%、より好ましくは40〜52%である。本発明において顔料体積濃度(PVC)とは、本発明の塗料組成物の不揮発分全体中の、顔料成分と添加剤中の固体粒子とが占める割合(体積基準)を、百分率で表した濃度を指す。
【0106】
「不揮発分」とは、本発明の塗料組成物の下記条件下における加熱残分を意味し、通常は、シロキサン系結合剤(A)等の塗膜形成主要素、顔料成分および添加剤中の固体粒子からなる。塗料組成物の加熱残分は、JIS K5601 1−2の規格(加熱温度:125℃、加熱時間:60分)に従い測定することができる。
【0107】
「顔料成分」としては、例えば、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)、球状亜鉛系粉末(b−2)等の亜鉛末(B)、前記(B)以外の導電性顔料(C)、前記(B)および(C)以外の防錆顔料、前記(B)および(C)以外の無機粉末、モリブデン、モリブデン化合物が挙げられる。「添加剤」としては、例えば、沈降防止剤、乾燥剤、流動性調整剤、消泡剤、分散剤、色分れ防止剤、皮張り防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤が挙げられる。
【0108】
PVCの算出にあたり、各成分の質量とその密度から、各成分の体積を算出する。また、シロキサン系結合剤(A)については、SiO
2換算のシロキサン系結合剤(A)の質量とその密度から、その体積を算出する。
【0109】
本発明の塗料組成物は、上述したように、顔料成分として、防錆顔料、無機粉末、モリブデンおよびモリブデン化合物から選択される少なくとも1種を含有してもよい。これらの含有量は、PVCが上記範囲となる限り特に限定されない。
【0110】
本発明の塗料組成物のPVCを上記範囲に設定することにより、従来の塗装機・塗装条件を用いて平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜を形成することができる。また、PVCを上記範囲に設定することにより、塗膜中の顔料成分の粒子間距離が適切に保たれるため、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の平板面が塗膜表面と略平行に配向し、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の厚さ方向が基板表面の垂直方向になる。鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の平均厚さは通常1μm以下と非常に薄いため、結果的に薄い塗膜を得ることができる。
【0111】
(1)これに伴い塗装面積当りの塗料使用量を削減できるため、塗装面積当りのVOC発生量が通常95g/m
2以下と環境への影響が少ない。これに伴い塗装面積当りの亜鉛末(B)の含有量も通常36g/m
2以下で資源保護面でも優れている。(2)また、塗膜の長期暴露後の防錆性が優秀であり、現在普及している無機ジンク一次防錆塗料と比較しても遜色ない。(3)また、塗膜の上塗り付着性も優秀であり、各種上塗り塗料を本発明の一次防錆塗膜上に塗装することができる。(4)また、塗膜が薄いため、鋼板の溶接・切断工程において、処理速度を速くすることができる。
【0112】
PVCが60%を上回る場合、塗膜中の顔料成分の粒子間距離が適切に保たれないため、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の平板面が塗膜表面と略平行に配向しなくなる。そのため顔料成分同士に重なりが生じたり、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の平板面が塗膜表面の垂直方向に配向する現象が生じる。そのため従来の塗装機・塗装条件を用いて平均乾燥膜厚が10μm以下の塗膜形成が困難となり、薄膜化を達成することができない。PVCが35%を下回る場合、塗膜の防錆性が不良となる。
【0113】
《一次防錆塗料組成物の調製》
本発明の一次防錆塗料組成物は、2液型組成物として通常用いられる。すなわち、前記塗料組成物は、通常、主剤成分(ビヒクル)と顔料ペースト成分とから構成される。使用前は主剤成分と顔料ペースト成分とを別容器に保存しておき、使用直前にこれらを充分に撹拌・混合して、一次防錆塗料を調製することが好ましい。
【0114】
主剤成分は、シロキサン系結合剤(A)および有機溶剤を通常含有する。主剤成分は、シロキサン系結合剤(A)と有機溶剤とを混合して調製してもよく;アルキルシリケートおよびメチルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種と有機溶剤との混合溶液に塩酸等を添加し攪拌して、部分加水分解縮合物を生成させることにより調製してもよい。また、主剤成分は、シロキサン系結合剤(A)以外の他の結合剤等の塗膜形成主要素を含有してもよい。
【0115】
顔料ペースト成分は、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)等の亜鉛末(B)および有機溶剤を通常含有する。顔料ペースト成分は、例えば、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)等の亜鉛末(B)と有機溶剤と必要に応じてその他の成分とを常法に従って混合して調製される。その他の成分は、例えば、導電性顔料(C)、防錆顔料、無機粉末、モリブデン、モリブデン化合物等の顔料成分、ならびに沈降防止剤等の添加剤から選択される少なくとも1種である。
【0116】
主剤成分と顔料ペースト成分との配合比は、混合後のシロキサン系結合剤(A)、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)等の亜鉛末(B)および有機溶剤の含有量、ならびにPVCが上述した範囲となるよう適宜設定することができる。
【0117】
〔一次防錆塗膜および一次防錆塗膜付き基板〕
本発明の一次防錆塗膜は、上述の一次防錆塗料組成物から形成され;また、本発明の防錆塗膜付き基板は、鋼板等の基板と、前記基板表面に形成された、上述の一次防錆塗料組成物からなる一次防錆塗膜とを有する。
【0118】
上記一次防錆塗膜の平均乾燥膜厚は、通常10μm以下、好ましくは5〜9μmである。また前記平均乾燥膜厚は、用途によっては10μmを超えていてもよい。以下では、平均乾燥膜厚が10μm以下の一次防錆塗膜を「薄膜型一次防錆塗膜」ともいう。平均乾燥膜厚は電磁式膜厚計を用いることによって測定される。
【0119】
上記一次防錆塗膜において、塗装面積当りの亜鉛末(B)の含有量を、通常36g/m
2以下、好ましくは10〜30g/m
2に設定することができる。塗装面積当りの亜鉛末(B)の含有量は、塗料に配合した亜鉛末(B)の含有量から塗膜中の単位体積当りの亜鉛末(B)の含有量を計算し、上記のようにして測定して得られた平均乾燥膜厚を用いて算出することができる。
【0120】
〔基板の防錆方法および一次防錆塗膜付き基板の製造方法〕
本発明の基板の防錆方法および一次防錆塗膜付き基板の製造方法は、鋼板等の基板表面に、上述の一次防錆塗料組成物を塗装する工程(塗装工程)、および塗装された前記塗料組成物を硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程(硬化工程)を有する。
【0121】
塗装工程では、本発明の塗料組成物(2液型組成物の場合は、主剤成分と顔料ペースト成分とを混合してなる塗料)を、エアスプレー、エアレススプレー等の従来公知の方法により鋼板等の基板表面に塗装し、未硬化の塗膜を形成する。塗装機としては、一般的に造船所、製鉄所等で塗料を塗装する場合、主にライン塗装機が用いられる。ライン塗装機は、ライン速度、塗装機内部に設置されたエアスプレー、エアレススプレー等の塗装圧力、スプレーチップのサイズ(口径)の塗装条件によって、膜厚の管理をしている。
【0122】
硬化工程における硬化温度(乾燥温度)は、通常5〜40℃、好ましくは10〜30℃であり;乾燥時間は、通常3〜15分、好ましくは5〜10分である。本発明では、Mwが上記範囲にあるシロキサン系結合剤(A)を用いていることから、このような常温程度において短時間で塗料を硬化させることができる。したがって、本発明の塗料組成物は、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等における鋼板加工工程で行われる鋼板の前処理での使用に適している。
【0123】
ところで、従来の一次防錆塗料組成物を用いて、薄膜型一次防錆塗膜を形成するには、塗装機の吐出流量を、現状の塗装機では安定的に塗装できる限界以下の流量に設定する必要があり、均一に塗装することができない。よって、塗料を大量の有機溶剤で希釈して塗料の固形分濃度を下げて塗装する必要があり、結果としてVOC発生量が増えてしまう。したがって、従来の一次防錆塗料組成物では、(i)VOC発生量を抑えることなしに薄膜型一次防錆塗膜を形成することは困難である、(ii)VOC発生量を考慮せずに前記塗膜が得られたとしても、鋼板表面の単位面積当りの結合剤量が減少することになり、塗膜の連続性が失われ、鋼板素地が見える場所が発生し、当該場所では短期間のうちに鋼板が発錆する、(iii)VOC発生量を考慮せずに前記塗膜が得られたとしても、塗膜中の亜鉛含有量が減少するため、長期暴露後の防錆性も著しく低下する。以上より、従来の一次防錆塗料組成物を用いる場合、平均乾燥膜厚が例えば15〜30μmになるように上記塗装条件が設定されている。
【0124】
これに対して、本発明の一次防錆塗料組成物は、上述したようにPVCが特定範囲に設定され、塗膜中の顔料成分の粒子間距離が適切に保たれるため、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の平板面が塗膜表面と略平行に配向し、鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の厚さ方向が基板表面の垂直方向になる。鱗片状亜鉛系粉末(b−1)の平均厚さは通常1μm以下と非常に薄いため、結果的に薄い塗膜を得ることができる。したがって、塗装機の塗料の吐出流量を下げなくても、安定的に薄膜型一次防錆塗膜を形成することでき、したがって、上記(i)〜(iii)の問題もない。
【0125】
また、本発明では、薄膜型一次防錆塗膜付き基板を溶接処理した場合でも、溶接ビードにピット(貫通孔)やブローホール(内泡)、ガス溝、ワームホール等の欠陥が発生する確率が極めて低い。すなわち、本発明の薄膜型一次防錆塗膜付き基板は、防錆性の向上と溶接性の向上とを同時に達成することができる。なお、従来の一次防錆塗膜のように平均乾燥膜厚が10μm以上であっても、本発明の一次防錆塗膜は、優れた防錆性を発揮することができる。
【実施例】
【0126】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。以下の実施例等の記載において、特に言及しない限り、「部」は「質量部」を示す。
【0127】
〔調製例1〕アルキルシリケートの縮合物の調製
エチルシリケート40(コルコート(株)製)31.5g、工業用エタノール10.4g、脱イオン水5g、および35質量%塩酸0.1gを容器に仕込み、50℃で表1記載の時間攪拌した後、イソプロピルアルコール53gを加えて、アルキルシリケートの縮合物1〜6を含有する溶液を調製した。
【0128】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で縮合物1〜6の重量平均分子量(Mw)を測定した。なお、GPCの測定条件は、以下のとおりである。縮合物サンプルを少量取りテトラヒドロフランを加えて希釈し、さらにその溶液をメンブレムフィルターで濾過して、GPC測定サンプルを得た。
・装置:日本ウォーターズ社製 2695セパレ−ションモジュール
(Aliance GPC マルチシステム)
・カラム:東ソー社製 TSKgel Super H4000
TSKgel Super H2000
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:0.6ml/min
・検出器:Shodex RI−104
・カラム恒温槽温度:40℃
・標準物質:ポリスチレン
【0129】
【表1】
【0130】
〔調製例2−1〕顔料ペースト成分1の調製
沈降防止剤として0.9部のTIXOGEL MPZ(商品名;Rockwood Clay Additives GmbH製)と、有機溶剤として4.6部のキシレン、2.3部の酢酸ブチルおよび2.3部のイソブチルアルコールとをポリエチレン製容器に仕込み、ガラスビーズを加えてペイントシェーカーにて3時間振とうした。次いで、鱗片状亜鉛粉末として18.2部のSTANDART Zinc flake GTT(商品名;ECKART GmbH製)を加えて、さらに5分間振とうして顔料成分を分散させた。その後、80メッシュの網を用いてガラスビーズを除去して顔料ペースト成分1を調製した。
【0131】
〔調製例2−2〕顔料ペースト成分2の調製
沈降防止剤として2.0部のTIXOGEL MPZ(商品名;Rockwood Clay Additives GmbH製)と、有機溶剤として58.0部のキシレン、10.0部の酢酸ブチルおよび10.0部のイソブチルアルコールとをポリエチレン製容器に仕込み、ガラスビーズを加えてペイントシェーカーにて3時間振とうした。次いで、球状亜鉛粉末として110.0部のF−2000(商品名;本荘ケミカル(株)製)を加えて、さらに5分間振とうして顔料成分を分散させた。その後、80メッシュの網を用いてガラスビーズを除去して顔料ペースト成分2を調製した。
【0132】
〔調製例2−3〕顔料ペースト成分3の調製
調製例2−2において、有機溶剤として170.0部のキシレン、10.0部の酢酸ブチルおよび10.0部のイソブチルアルコールを用いたこと以外は調製例2−2と同様にして、顔料ペースト成分3を調製した。
【0133】
〔調製例2−4〕顔料ペースト成分4の調製
調製例2−1において、鱗片状亜鉛粉末としてSTANDART Zinc flake G(商品名;ECKART GmbH製)を用いたこと以外は調製例2−1と同様にして、顔料ペースト成分4を調製した。
【0134】
〔調製例2−5〕顔料ペースト成分5の調製
調製例2−1において、鱗片状亜鉛粉末としてSTANDART Zinc flake AT(商品名;ECKART GmbH製)を用いたこと以外は調製例2−1と同様にして、顔料ペースト成分5を調製した。
【0135】
〔調製例2−6〕顔料ペースト成分6の調製
沈降防止剤として1.3部のTIXOGEL MPZ(商品名;Rockwood Clay Additives GmbH製)と、有機溶剤として6.3部のキシレン、3.1部の酢酸ブチルおよび4.1部のイソブチルアルコールとをポリエチレン製容器に仕込み、ガラスビーズを加えてペイントシェーカーにて3時間振とうした。次いで、鱗片状亜鉛粉末として20.0部のSTANDART Zinc flake GTT(商品名;ECKART GmbH製)を加えて、さらに5分間振とうして顔料成分を分散させた。その後、80メッシュの網を用いてガラスビーズを除去して顔料ペースト成分6を調製した。
【0136】
〔調製例2−7〕顔料ペースト成分7の調製
調製例2−6において、鱗片状亜鉛粉末であるSTANDART Zinc flake GTT(商品名;ECKART GmbH製)にかえて球状亜鉛粉末であるF−2000(商品名;本荘ケミカル(株)製)を用いたこと以外は調製例2−6と同様にして、顔料ペースト成分7を調製した。
【0137】
〔調製例2−8,2−9〕顔料ペースト成分8,9の調製
調製例2−6,2−7において、亜鉛粉末とともに4.0部の酸化亜鉛3種(酸化亜鉛;ハクスイテック(株)製)を加えたこと以外は前記調製例と同様にして、顔料ペースト成分8,9を調製した。
【0138】
〔調製例2−10〕顔料ペースト成分10の調製
沈降防止剤として1.5部のTIXOGEL MPZ(商品名;Rockwood Clay Additives GmbH製)と、有機溶剤として7.5部のキシレン、3.8部の酢酸ブチルおよび5.0部のイソブチルアルコールとをポリエチレン製容器に仕込み、ガラスビーズを加えてペイントシェーカーにて3時間振とうした。次いで、鱗片状亜鉛粉末として4.8部のSTANDART Zinc flake GTT(商品名;ECKART GmbH製)、球状亜鉛粉末として19.2部のF−2000(商品名;本荘ケミカル(株)製)、および導電性顔料として4.8部の酸化亜鉛3種(酸化亜鉛;ハクスイテック(株)製)を加えて、さらに5分間振とうして顔料成分を分散させた。その後、80メッシュの網を用いてガラスビーズを除去して顔料ペースト成分10を調製した。
【0139】
〔調製例2−11〕顔料ペースト成分11の調製
調製例2−10において、導電性顔料の配合量を8部に変更したこと以外は調製例2−10と同様にして、顔料ペースト成分11を調製した。
【0140】
[実施例1A〜11A、比較例1A〜16A]
主剤成分としてアルキルシリケートの縮合物1〜6の溶液と、顔料ペースト成分として顔料ペースト成分1〜5とを、縮合物1〜6の溶液と顔料ペースト成分1〜5中の含有成分との比率が表1A〜表3A記載の割合(質量基準)にて混合し、一次防錆塗料を調製した。
【0141】
[実施例1B〜2B、比較例1B〜2B]
主剤成分としてアルキルシリケートの縮合物1の溶液と、顔料ペースト成分として顔料ペースト成分6〜9とを、縮合物1の溶液と顔料ペースト成分6〜9中の含有成分との比率が表1B記載の割合(質量基準)にて混合し、一次防錆塗料を調製した。
【0142】
[実施例1C〜6C、比較例1C〜4C]
主剤成分としてアルキルシリケートの縮合物1の溶液と、顔料ペースト成分として顔料ペースト成分10または11とを、縮合物1の溶液と顔料ペースト成分10または11中の含有成分との比率が表1C記載の割合(質量基準)にて混合し、一次防錆塗料を調製した。
【0143】
[実施例7C〜14C]
主剤成分としてアルキルシリケートの縮合物1の溶液と、鱗片状亜鉛粉末、球状亜鉛粉末、導電性顔料、沈降防止剤および有機溶剤を含有する顔料ペースト成分とを、含有成分の比率が表2C記載の割合(質量基準)にて混合し、一次防錆塗料を調製した。顔料ペースト成分の調製は、調製例2−10に準じた。
【0144】
[実施例15C〜19C、比較例5C〜11C]
主剤成分としてアルキルシリケートの縮合物1の溶液と、鱗片状亜鉛粉末、球状亜鉛粉末、沈降防止剤および有機溶剤を含有する顔料ペースト成分とを、含有成分の比率が表3C記載の割合(質量基準)にて混合し、一次防錆塗料を調製した。顔料ペースト成分の調製は、調製例2−10に準じた。
【0145】
[実施例1D〜4D、比較例1D〜2D]
アルキルシリケートの縮合物1の溶液(縮合物1のMw=1500)を50g分取し、これを攪拌しながら、エスレックB BM−2(積水化学工業(株)製)3.1gを加えた溶液を調製した。同様にして、縮合物1を含有する溶液41.0gに対して前記「エスレック」3.8gを加えた溶液、縮合物1を含有する溶液38.0gに対して前記「エスレック」4.0gを加えた溶液をそれぞれ調製した。
【0146】
次いで、表1D記載の主剤成分と、表1D記載の配合割合で調製された顔料ペースト成分とを、各々の含有成分の比率が表1D記載の割合(質量基準)にて混合し、一次防錆塗料を調製した。
【0147】
上記各成分の詳細は、以下のとおりである。
・アルキルシリケートの縮合物1〜6の溶液:調製例1で得られた各溶液(調製例1で得られた各溶液100gにおいて、アルキルシリケートの縮合物1〜6のSiO
2換算の含有量=エチルシリケート40の質量(31.5g)×エチルシリケート40のSiO
2換算の質量濃度(約40質量%)=12.6g;SiO
2の比重=2.2g/cm
3)
・ポリビニルブチラール樹脂:エスレックB BM−2(積水化学工業(株)製)
・鱗片状亜鉛粉末:
STANDART Zinc flake GTT(ECKART GmbH製;比重=7.1g/cm
3;メディアン径(D50)=17μm、平均厚さ=0.7μm、アスペクト比(メディアン径/平均厚さ)=24;比表面積=1.67m
2/g)(D50は、(株)島津製作所製レーザー散乱回折式粒度分布測定装置「SALD 2200」を用いて3サンプルのメディアン径を測定した値の平均値である。なお、サンプルに対して、亜鉛粉末中に少量の中性洗剤を添加し5分間超音波分散することにより前処理を行った。さらに装置の循環水としてイオン交換水に中性洗剤を少量添加したものを用い、この循環水に前処理したサンプルを投入しメディアン径の測定を実施した。測定時の分散時間は1分とした。
【0148】
平均厚さは、セロハンテープ上にサンプルを付着させ、その表面を走査電子顕微鏡(SEM)「XL−30」(商品名;フィリップス社製)を用いて観察し、サンプルの厚み方向が観察方向に対し垂直となっているサンプルを無作為に30点抽出し、粒子の厚さを計測し、平均値を算出することにより求めた。比表面積は、「フローソーブII 2300」(商品名;(株)島津製作所製)を用いて測定した。
【0149】
STANDART Zinc flake G(ECKART GmbH製;比重=7.1g/cm
3;メディアン径(D50)=8.5μm、平均厚さ=0.4μm、アスペクト比(メディアン径/平均厚さ)=21)
STANDART Zinc flake AT(ECKART GmbH製;比重=7.1g/cm
3;メディアン径(D50)=20μm、平均厚さ=0.4μm、アスペクト比(メディアン径/平均厚さ)=50)
・球状亜鉛粉末:F−2000(本荘ケミカル(株)製;比重=7.1g/cm
3;メディアン径(D50)=5μm;比表面積=0.54m
2/g)
・酸化亜鉛:酸化亜鉛3種(ハクスイテック(株)製)
・沈降防止剤:TIXOGEL MPZ
(Rockwood Clay Additives GmbH製;比重=1.7g/cm
3)
〔顔料体積濃度(PVC)の算出〕
PVCの算出の一例(実施例1A)をあげると、以下のとおりである。
【0150】
【数2】
【0151】
〔評価方法・評価基準〕
従来の一次防錆塗料(比較例13Aの塗料)からなる塗膜の平均乾燥膜厚が15μmとなるようにライン塗装機(装置名:SP用コンベア塗装機、竹内工作所(株)製)のライン条件(ライン速度:10m/min、塗装圧力:0.2Mpa)を調整した。このライン条件で、実施例および比較例で得られた一次防錆塗料を用いて、以下の(1)〜(3)に記載した条件に基づき試験板を作成し、以下の(1)〜(3)に記載した評価を行った。
【0152】
(1)一次防錆塗膜の防錆性(発錆・白錆)
サンドブラスト処理板(JIS G3101,SS400、寸法:150mm×70mm×2.3mm)のブラスト処理面に、ライン塗装機を用いて一次防錆塗料を塗装した。次いで、JIS K5600 1−6の規格に従い、温度23℃、相対湿度50%の恒温室内で1週間乾燥させて、一次防錆塗膜と前記処理板とからなる試験板を作成した。下記表には、この一次防錆塗膜の平均乾燥膜厚を記載した。平均乾燥膜厚は、電磁式膜厚計「LE−370」(商品名;(株)ケット科学研究所製)を用いて測定した。
【0153】
また、800℃加熱後の防錆性評価用の試験板は、上記と同様にして作成した試験板を、マッフル炉「FM48」(商品名;ヤマト科学(株)製)にて800℃で3分加熱したものを用いた。
【0154】
この試験板を屋外暴露台(中国塗料(株)大竹研究所敷地内)に設置し、2ヶ月間または3ヶ月間放置した。ここで、試験板は、試験板の塗装面が南側を向き、かつ、試験板が水平に対して45度となるように傾いた状態で固定されている。
【0155】
2ヶ月間または3ヶ月間放置後の試験板全面に対する、発錆した試験板表面および白錆が形成された試験板表面の面積比率(%)を測定して、発錆の状態および白錆の発生状態を評価した。評価基準は下記のとおりである。
【0156】
[発錆の状態の評価基準(ASTM D610)]
10:発錆を認めない、または発錆の面積比率は0.01%以下
9:極僅かな発錆、または発錆の面積比率は0.01%を超え0.03%以下
8:僅かな発錆、または発錆の面積比率は0.03%を超え0.1%以下
7:発錆の面積比率は0.1%を超え0.3%以下
6:明瞭な点錆、または発錆の面積比率は0.3%を超え1%以下
5:発錆の面積比率は1%を超え3%以下
4:発錆の面積比率は3%を超え10%以下
3:発錆の面積比率は10%を超え1/6(16%)以下
2:発錆の面積比率は1/6(16%)を超え1/3(33%)以下
1:発錆の面積比率は1/3(33%)を超え1/2(50%)以下
0:発錆の面積比率はほぼ1/2(50%)を超え100%まで
[白錆の発生状態の評価基準]
10:白錆を認めない、または白錆の面積比率は0.01%以下
9:極僅かな白錆、または白錆の面積比率は0.01%を超え0.03%以下
8:僅かな白錆、または白錆の面積比率は0.03%を超え0.1%以下
7:白錆の面積比率は0.1%を超え0.3%以下
6:明瞭な白錆の点、または白錆の面積比率は0.3%を超え1%以下
5:白錆の面積比率は1%を超え3%以下
4:白錆の面積比率は3%を超え10%以下
3:白錆の面積比率は10%を超え1/6(16%)以下
2:白錆の面積比率は1/6(16%)を超え1/3(33%)以下
1:白錆の面積比率は1/3(33%)を超え1/2(50%)以下
0:白錆の面積比率はほぼ1/2(50%)を超え100%まで
(2)上塗り塗膜の付着性
サンドブラスト処理板(JIS G3101,SS400、寸法:150mm×70mm×2.3mm)のブラスト処理面に、ライン塗装機を用いて一次防錆塗料を塗装した。次いで、JIS K5600 1−6の規格に従い、温度23℃、相対湿度50%の恒温室内で1週間放置して、下記表記載の平均乾燥膜厚を有する一次防錆塗膜を形成した。この一次防錆塗膜上に、ハイソリッドのエポキシ塗料(商品名:ノバ2000、中国塗料(株)製)をエアスプレーガンで塗装した後、1週間放置して膜厚320μmの硬化塗膜(上塗り塗膜)を形成した。
【0157】
上塗り塗膜の表面に直径16mm(面積2cm
2)、長さが20mmの軟鋼製の円筒形治具の底面をエポキシ系の接着剤で貼り付けて24時間放置した後、プルゲージ(モトフジ製)で治具の頭部を上塗り塗膜表面の垂直方向に引っ張り、治具を上塗り塗膜表面から剥離して、付着強度(凝集破壊および/または界面剥離に要した力)を測定した。
【0158】
(3)溶接性試験
2枚のサンドブラスト処理板(JIS G3101,SS400、下板寸法:600mm×100mm×12mm、上板寸法:600mm×50mm×12mm)の表面に、ライン塗装機を用いて一次防錆塗料を塗装した。次いで、JIS K5600 1−6の規格に従い、温度23℃、相対湿度50%の恒温室内で1週間乾燥させて、下記表記載の平均乾燥膜厚を有する、
図1(a)に示されるような上板および下板を準備した。
図1(a)〜(c)において、サンドブラスト処理板のうちの密な斜線部は塗装箇所を示す。
【0159】
次いで、炭酸ガス自動アーク溶接法により、
図2(a)〜(c)に示されるように、所定のトーチ角度およびトーチシフトを保ちつつ、上板と下板とを両層(初層側、終層側)同時に溶接した。このときの溶接条件を表2に示す。
【0160】
【表2】
【0161】
次いで、溶接性は次のように評価した。
【0162】
まず、溶接部のうち、溶接前の仮付け部を含む溶接始端部および終端部の長さ各50mmの範囲を除く長さ500mmの範囲に発生したピット数(個)およびガス溝長さ(mm)を確認した。さらに、表2に記載の溶接条件に基づいて、初層側の溶接線にレーザーノッチ(V字型カット)を入れ、終層側の溶接部を溶接線に沿ってプレスで破断し、破断面に発生しているブローホールの合計面積(ブローホールの幅×長さ×個数)を評価面積で割り、ブローホール発生率(%)を算出した。
【0163】
【表1A】
【0164】
【表2A】
【0165】
【表3A】
【0166】
〔実施例・比較例評価〕
表1A〜表3Aより、以下の点が示される。
【0167】
平均乾燥膜厚は、PVCが60%以下の場合は10μm以下であったのに対して、PVCが65%以上の場合(比較例7A〜13A)は10μmを超えた。すなわちPVCを60%以下に設定することで、従来の塗装条件でも10μm以下の塗膜が得られることが判明した。
【0168】
発錆防止性は、PVCが35%以上の場合は良好であったのに対して、PVCが30%以下の場合(比較例1A〜6A)は不良であった。従来の一次防錆塗料を平均乾燥膜厚が8μmとなるよう塗装して得られた試験片の場合(比較例14A)、発錆防止性が劣り、不良であった。アルキルシリケートの縮合物2、3を含有する一次防錆塗料の場合(比較例15A、16A)、発錆防止性が不良であった。
【0169】
上塗り性については、PVCが60%以下の場合、付着強度が2.4MPa・s以上となり充分な強度であったのに対して、PVCが65%以上の場合(比較例7A〜12A)、付着強度が1.0MPa・s以下となり不充分な強度であった。
【0170】
溶接性については、PVCが60%以下の場合、ブローホール発生率が10%以下で良好であったのに対して、PVCが65%以上の場合(比較例7A〜14A)、ブローホール発生率が10%を超え不良であった。アルキルシリケートの縮合物3を含有する一次防錆塗料の場合(比較例16A)、ブローホール発生率が10%を超え不良であった。
【0171】
【表1B】
【0172】
〔実施例・比較例評価〕
表1Bより、以下の点が示される。
【0173】
球状亜鉛粉末とともに導電性顔料を用いた場合の発錆防止性の評価は3であり、導電性顔料を用いない場合(評価3)と比べて特に向上しなかった。一方、鱗片状亜鉛粉末とともに導電性顔料を用いた場合の発錆防止性の評価は10であり、導電性顔料を用いない場合(評価9)と比べて向上した。
【0174】
【表1C】
【0175】
【表2C】
【0176】
【表3C】
【0177】
【表4C】
【0178】
〔実施例・比較例評価〕
表1Cより、鱗片状亜鉛粉末および球状亜鉛粉末の併用系において、発錆防止性については、PVCが35%以上の場合は良好であったのに対して、PVCが35%未満の場合は不良であり;溶接性については、PVCが60%以下の場合、ブローホール発生率が10%以下で良好であったのに対して、PVCが60%を超える場合、ブローホール発生率が10%を超え不良であった。
【0179】
表2Cおよび表3Cより、鱗片状亜鉛粉末および球状亜鉛粉末の使用割合を変動させた場合においても、PVCが35〜60%にあれば、塗膜特性および溶接性の評価で良好な結果が得られた。
【0180】
表4Cの実施例18C,2Cの対比および実施例19C,3Cの対比より、鱗片状亜鉛粉末および球状亜鉛粉末の併用系において、さらに導電性顔料を用いると、発錆防止性および溶接性がさらに向上した。
【0181】
【表1D】
【0182】
〔実施例・比較例評価〕
表1Dより、以下の点が示される。
【0183】
亜鉛末(B)とSiO
2換算のシロキサン系結合剤(A)との質量比((B)/(A))が1.0〜5.0の範囲にある場合、塗膜特性および溶接性の評価で良好な結果が得られた。一方、前記質量比が1.0未満の場合、発錆防止性が不良であり、前記質量比が5.0を超える場合、ブローホール発生率が10%を超え不良であった。