(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料供給部が複数設けられている場合には、燃料供給タイミングを同じに設定すると燃料圧が大きく低下してしまい、ある燃料供給タイミングにおける燃料供給後の次の燃料供給タイミングにおいて、燃料圧が定常値に戻らないという事象が生じうる。このため、燃料供給部毎に燃料供給タイミングをずらすことによって燃料圧の大きな低下を防止する対策が講じられてきているが、本来、燃料供給タイミングの設定の裕度を考慮すると、複数の燃料供給部において燃料供給タイミングが同じとなっても、燃料圧の大きな低下を抑制でき、燃料圧の定常値への戻りが悪化しないことが好ましい。
【0005】
そこで、本発明では、複数の燃料供給部を有しており、その複数の燃料供給部に同じタイミングで燃料を供給する場合であっても、燃料圧の大きな低下を抑制し、燃料圧の定常値への戻りを早くすることができる、燃料供給構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、燃料タンク内の燃料を吸入しエンジンの燃料供給部へ燃料を供給する燃料ポンプと、前記燃料供給部と前記燃料ポンプとを接続する燃料ホースと、を備える燃料供給構造において、前記燃料供給部は複数設けられており、前記燃料ホースは、燃料供給上流側に設けられる共通ホース部と、燃料供給下流側に設けられ、前記共通ホース部から分岐して複数個からなる個別ホース部と、を有しており、前記共通ホース部及び複数個からなる前記個別ホース部の少なくともいずれか1つのホース部の内、少なくとも一部分が弾性体でできていることを特徴とする。
【0007】
前記構成によれば、燃料ホースの少なくとも一部分が弾性体でできているので、燃料供給時の燃料圧の変動を弾性体によって抑制することができる。その結果、燃料供給時の燃料圧の大きな低下を抑制し、燃料圧の定常値への戻りを早くすることができる。
【0008】
本発明は、更に、次のような構成を備えるのが好ましい。
(1)複数個からなる前記個別ホース部は、前記共通ホース部の燃料供給下流端から燃料供給方向の延長方向に延びる個別延長ホース部と、前記共通ホース部の燃料供給下流端から前記延長方向とは異なる方向に延びる個別分岐ホース部と、を含み、前記個別分岐ホース部の少なくともいずれか1つのホース部の内、少なくとも一部分が弾性体でできている。
(2)複数の前記個別ホース部の内、燃料供給量の最も少ない個別ホース部の少なくとも一部分が弾性体でできている。
(3)前記弾性体でできているホース部又はその一部分は、略直線状に配設されている。
(4)前記弾性体でできているホース部、又は、前記弾性体でできている一部分を有するホース部は、前記弾性体でできている部分を有しないホース部に比べて、内径が大きくなるように形成されている。
(5)前記燃料ホース全体の内、前記弾性体でできているホース部以外のホース部、及び、前記弾性体でできている一部分を有するホース部の当該一部分を除く部分は、樹脂でできている。
【0009】
前記構成(1)によれば、共通ホース部と比べて燃料圧の変動が大きい個別分岐ホース部の少なくともいずれか1つのホース部の内、少なくとも一部が弾性体でできているので、燃料供給時の燃料圧の変動をより効果的に抑制することができる。
【0010】
前記構成(2)によれば、燃料供給量の最も少ない個別ホース部には、燃料供給後も比較的多い量の燃料が残っているので、この残燃料を弾性体で押し出すことによって、燃料供給量の多い個別ホース部に燃料を送ることができる。その結果、燃料ポンプからの燃料補給までに、個別ホース部間で燃料の融通を行うことができ、燃料供給時の燃料圧の変動をより効果的に抑制することができる。
【0011】
前記構成(3)によれば、弾性体でできているホース部又はその一部分を略直線状とすることによって、燃料供給時の燃料圧の変動をより効果的に抑制することができる。また、ホース部又はその一部分を略直線状とすることによって、当該部を弾性体で形成することを容易とできる。
【0012】
前記構成(4)によれば、弾性体でできている部分を有するホース部の内径を、弾性体でできている部分を有しないホース部の内径より大きくすることによって、燃料供給時の燃料圧の変動を吸収しやすくなるので、燃料供給時の燃料圧の変動をより効果的に抑制することができる。
【0013】
前記構成(5)によれば、燃料ホースの弾性体でできている部分以外を樹脂とすることによって、燃料ホースの強度を容易に確保することができる。
【発明の効果】
【0014】
要するに本発明によると、燃料供給時の燃料圧の大きな低下を抑制し、燃料圧の定常値への戻りを早くすることができる、燃料供給構造を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る自動二輪車1の左側面図である。なお、本実施形態で用いる方向の概念は、自動二輪車1の運転者から見た方向の概念と一致するものとして説明する。
【0017】
図1に示されるように、自動二輪車1は前輪2と後輪3とを備え、前輪2は略上下方向に延びるフロントフォーク4の下部にて回転自在に支持されている。フロントフォーク4は、ステアリングシャフト5に支持されている。ステアリングシャフト5は、ヘッドパイプ6によって回転自在に支持されている。フロントフォーク4の上端部に設けられたアッパーブラケット7には、左右に延びるバー型のステアリングハンドル8が取り付けられている。従って、運転者がステアリングハンドル8を左右に揺動させることによって、ステアリングシャフト5を回転軸として、前輪2が操舵される。
【0018】
車体フレーム9は、ヘッドパイプ6から後方に延設されている。車体フレーム9の後下端部には、スイングアーム10の前端部がピボットボルト11で軸支されており、スイングアーム10の後端部には後輪3が回転自在に支持されている。車体フレーム9の上方であって、ステアリングハンドル7の後方には、燃料タンク12が配置され、燃料タンク12の後方には、運転者用のシート13が配置されている。燃料タンク12の下方には、エンジン14が搭載されている。エンジン14の後部には、出力スプロケット15が配置されており、出力スプロケット15の動力が後輪3へと伝達される。
【0019】
シート13の下方であり、エンジン14の後方には、エンジン14への給気を浄化するエアクリーナ16が配置されている。エアクリーナ16は、車体前方より導入した空気を、エアクリーナ16内に配置されたクリーナエレメント(図示せず)によって清浄化した後、エンジン14に送るようになっている。
【0020】
図2は、
図1の自動二輪車1の燃料供給構造の斜視図である。燃料タンク12内又は外には燃料ポンプ21が設けられており、燃料ポンプ21の吐出部21aに取り付けられたポンプ側コネクタ22に、燃料ホース30の一端が接続されている。
【0021】
燃料ホース30は、燃料供給上流側に設けられる共通ホース部31と、燃料供給下流側に設けられ、共通ホース部31から分岐して複数個からなる個別ホース部32、33と、を有している。個別ホース部32、33は、共通ホース部31の燃料供給下流端から燃料供給方向の延長方向に延びる個別延長ホース部32と、共通ホース部31の燃料供給下流端から燃料供給方向の延長方向とは異なる方向に延びる個別分岐ホース部33とを含んでいる。
【0022】
共通ホース部31の燃料供給上流端は、ポンプ側コネクタ22に接続されている。共通ホース部31の燃料供給下流端は、分岐コネクタ34に接続されており、分岐コネクタ34は、共通ホース部31から供給された燃料を分岐させるようになっている。個別延長ホース部32及び個別分岐ホース部33の燃料供給上流端は、それぞれ、分岐コネクタ34に接続されている。個別延長ホース部32の燃料供給下流端は、供給側コネクタ35を介して、エアクリーナ16のインジェクタ16aに接続されている。また、個別分岐ホース部33の燃料供給下流端は、供給側コネクタ36を介して、エンジン14のスロットルボディ23のインジェクタ23aに接続されている。
【0023】
上述した構成によって、燃料タンク12内の燃料は、燃料ポンプ21によって加圧され、共通ホース部31を通過する。次に、共通ホース部31を通過した燃料は、分岐コネクタ34によって2つに分岐され、一方の燃料は、個別延長ホース部32を通って、エアクリーナ16のインジェクタ16aに供給される。また、他方の燃料は、個別分岐ホース部33を通って、スロットルボディ23のインジェクタ23aに供給される。したがって、本実施形態では、燃料供給部は、エアクリーナ16及びスロットルボディ23の2箇所に設けられている。
【0024】
(比較例1)
図3は、燃料ホース30がすべて樹脂でできている場合の、時間に対する燃料圧の変動を示すグラフである。グラフの横軸が時間を、縦軸が燃料圧を示している。個別延長ホース部32における燃料圧の変動が実線の曲線S
Aで示されており、個別分岐ホース部33における燃料圧の変動が破線の曲線S
Bで示されている。そして、インジェクタ16aの燃料噴射タイミングは、T
A1及びT
A2で示されており、インジェクタ23aの燃料噴射タイミングは、T
B1及びT
B2で示されている。ここで、燃料噴射条件は以下のとおりである。まず、エンジン14の回転数は12000rpmであり、燃料の噴射量の比率は、エアクリーナ16のインジェクタ16aが75%、スロットルボディ23のインジェクタ23aが25%である。また、インジェクタ23aの燃料噴射タイミング(T
B1、T
B2)は、インジェクタ16aの燃料噴射タイミング(T
A1、T
A2)の前半部分と重なるように設定されている。そして、インジェクタ16aの1回の噴射時間(T
A1又はT
A2)は0.006S程度であり、インジェクタ23aの1回の噴射時間(T
B1又はT
B2)は、インジェクタ16aの1回の噴射時間の約半分である、0.003S程度である。
【0025】
図3に示されるように、第1燃料噴射(T
A1、T
B1)によって燃料圧が低下し、その後、燃料ポンプ21による燃料補給によって燃料圧が上昇するが、第1燃料噴射(T
A1、T
B1)による燃料圧の低下が大きいため、燃料圧がインジェクタの要求圧力値(P
M)に達するのに時間を要するようになっている。そして、燃料ポンプ21が燃料補給する際に、燃料供給構造に設けられたレギュレータ(図示せず)の制御で、燃料圧を、インジェクタの要求圧力値(P
M)を大きく超える圧力まで増加させることとなる。その結果、レギュレータは、インジェクタの要求圧力値(P
M)を超えた燃料圧を、インジェクタの要求圧力値(P
M)に近づけるため、さらに燃料圧を下げる制御を行うこととなる。その結果、燃料圧がインジェクタの要求圧力値(P
M)を下回る状態で、次の第2燃料噴射(T
A2、T
B2)が行われるようになっている。すなわち、燃料供給時の燃料圧の低下が大きく、燃料圧の、インジェクタの要求圧力値(P
M)への戻りが遅くなる結果、レギュレータがうまく燃料圧を制御できなくなり、燃料圧がインジェクタの要求圧力値(P
M)に満たない状態で燃料噴射が行われるという事象が生じてしまっている。
【0026】
(実施例1)
図4は、燃料ホース30がすべて弾性体(ゴム)でできている場合の、時間に対する燃料圧の変動を示すグラフである。グラフの横軸が時間を、縦軸が燃料圧を示している。個別延長ホース部32における燃料圧の変動が実線の曲線S
Aで示されており、個別分岐ホース部33における燃料圧の変動が破線の曲線S
Bで示されている。
図4において、燃料供給構造は、
図3とは燃料ホース30全体が弾性体でできている以外は、同じ構成を有しており、燃料噴射条件も
図3と同じである。
【0027】
図4に示されるように、燃料ホース30全体を弾性体とすることによって、燃料圧の変動が小さくなり、その結果、燃料噴射タイミング(第1燃料噴射時(T
A1、T
B1)、第2燃料噴射時(T
A2、T
B2))において、燃料圧がインジェクタの要求圧力値(P
M)近傍に位置する状態で、燃料噴射が行われるようになっている。
【0028】
(実施例2)
図5は、個別分岐ホース部33が弾性体(ゴム)でできている場合の、時間に対する燃料圧の変動を示すグラフである。グラフの横軸が時間を、縦軸が燃料圧を示している。個別延長ホース部32における燃料圧の変動が曲線S
Aで示されており、個別分岐ホース部33における燃料圧の変動が曲線S
Bで示されている。
図5において、燃料供給構造は、
図3とは個別ホース部33が弾性体でできている以外は、同じ構成を有しており、燃料噴射条件も
図3と同じである。なお、共通ホース部31及び個別延長ホース部32は、樹脂でできている。
【0029】
図5に示されるように、個別分岐ホース部33を弾性体とすることによって、燃料圧の変動が小さくなり、その結果、燃料噴射タイミング(第1燃料噴射時(T
A1、T
B1)、第2燃料噴射時(T
A2、T
B2))において、燃料圧がインジェクタの要求圧力値(P
M)近傍に位置する状態で、燃料噴射が行われるようになっている。
【0030】
以上のように、個別分岐ホース部33又は燃料ホース30全体を弾性体とすることによって、燃料供給時(燃料噴射時)の燃料圧の変動を弾性体によって抑制することができる。その結果、燃料供給時の燃料圧の低下を抑制し、燃料圧の、インジェクタの要求圧力値(P
M)への戻りを早くすることができ、燃料圧がインジェクタの要求圧力値(P
M)近傍に位置する状態で、燃料噴射を行うことができるようになっている。
【0031】
前記構成の燃料供給構造によれば、次のような効果を発揮できる。
【0032】
(1)燃料ホース30の少なくとも一部分(本実施形態では、個別分岐ホース部33)が弾性体でできているので、燃料供給時の燃料圧の変動を弾性体によって抑制することができる。その結果、燃料供給時の燃料圧の低下を抑制し、燃料圧の定常値(インジェクタの要求圧力値(P
M))への戻りを早くすることができる。さらに、燃料供給部が複数ある場合(本実施形態では、エアクリーナ16とスロットルボディ23)でも、複数の燃料供給部で燃料供給タイミング(燃料噴射タイミング)を同じとすることが可能となり、燃料供給部における燃料供給タイミングの設定の裕度を大きくすることができる。
【0033】
(2)共通ホース部31と比べて燃料圧の変動が大きい個別分岐ホース部33が弾性体でできているので、燃料供給時の燃料圧の変動をより効果的に抑制することができる。なお、供給側コネクタ35を介してインジェクタ16aと接続される個別延長ホース部32も共通ホース部31と比べて燃料圧の変動が大きいので、個別分岐ホース部33と同様、個別延長ホース部32が弾性体でできていることによって、燃料供給時の燃料圧の変動をより効果的に抑制することができる。
【0034】
(3)個別延長ホース部32に比べて燃料供給量の少ない個別分岐ホース部33が弾性体でできているので、燃料供給後も比較的多い量の燃料が残っている個別分岐ホース部33の弾性体によって、個別分岐ホース部33の残燃料を、燃料供給量の多い(個別分岐ホース部33より少ない量の燃料が残っている)個別延長ホース部32に送ることができる。その結果、燃料ポンプ21からの燃料補給までに、個別ホース部間で燃料の融通を行うことができ、燃料供給時の燃料圧の変動をより効果的に抑制することができる。なお、上記理由により、共通ホース部31に比べ、個別ホース部32、33を弾性体とすることがより好ましい。
【0035】
(4)弾性体でできている部分は、曲線状であるよりも直線状である方が、ホースの全周囲に亘って、収縮、膨張が容易となるので、弾性体である個別分岐ホース部33を略直線状とすることによって、燃料供給時の燃料圧の変動をより効果的に抑制することができる。また、燃料ホース30の一部(個別分岐ホース部33)を略直線状とすることによって、当該ホース部を弾性体で形成することを容易とでき、また、弾性体であるホース部の取り付けを容易とできる。さらに、弾性体であるホース部33を略直線状とすることで、その製作費用を曲線状のものと比べて低減することができる。
【0036】
(5)燃料ホース30全体の内、弾性体でできている部分以外(本実施形態では、共通ホース部31及び個別延長ホース部32)を樹脂とすることによって、燃料ホース30の強度を容易に確保することができ、曲線を含めた成形により、複雑な燃料ホース30の車体への取り回しに対応することができる。
【0037】
[他の実施形態]
上記実施形態では、燃料ホース30全体又は個別分岐ホース33全体が弾性体でできている例が示されているが、共通ホース部31及び個別ホース部32、33の少なくともいずれか1つのホース部の内、少なくとも一部分が弾性体でできていれば良い。ホース部の一部が弾性体でできていることによって、燃料供給時の燃料圧の変動を弾性体によって抑制することができる。その結果、燃料供給時の燃料圧の低下を抑制し、燃料圧の定常値への戻りを早くすることができる。
【0038】
また、弾性体でできているホース部、又は、弾性体でできている一部分を有するホース部は、弾性体でできている部分を有しないホース部に比べて、内径が大きくなるように形成されていることが好ましい。上記構成を有することによって、弾性体でできている部分における燃料供給時の燃料圧の変動を吸収しやすくなるので、燃料供給時の燃料圧の変動をより効果的に抑制することができる。
【0039】
なお、弾性体でできている部分の長さを適宜調整することによって、燃料供給時の燃料圧の変動を調整できるので、エンジン特性に合わせて、燃料供給時の燃料圧の変動をより効果的に抑制することができる。
【0040】
上記実施形態では、自動二輪車の燃料供給構造を例として説明したが、本発明は、自動二輪車の燃料供給構造に限定されず、エンジンを備える車両等の燃料供給構造に適用することができる。
【0041】
特許請求の範囲に記載された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、各種変形及び変更を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 自動二輪車
2 前輪 3 後輪 4 フロントフォーク 5 ステアリングシャフト
6 ヘッドパイプ 7 アッパーブラケット 8 ステアリングハンドル
9 車体フレーム 10 スイングアーム 11 ピボットボルト
12 燃料タンク 13 シート 14 エンジン 15 出力スプロケット
16 エアクリーナ
21 燃料ポンプ 22 ポンプ側コネクタ 23 スロットルボディ
30 燃料ホース
31 共通ホース部 32 個別延長ホース部 33 個別分岐ホース部
34 分岐コネクタ 35 供給側コネクタ 36 供給側コネクタ