(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
まず本発明に係る色素増感光電変換素子用電極基板及び色素増感光電変換素子の製造方法の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
はじめに、色素増感光電変換素子用電極基板及び色素増感光電変換素子の製造方法の説明に先立ち、この製造方法により得られる色素増感光電変換素子100について
図1を参照しながら説明する。
図1は本発明に係る色素増感光電変換素子の製造方法の実施形態により得られる色素増感光電変換素子を示す断面図である。
【0020】
図1に示すように、色素増感光電変換素子100は1つの色素増感光電変換セル50を備えており、色素増感光電変換セル50は、電極7及び電極7上に設けられた酸化物半導体層3を含む第1基板1と、第1基板1に対向する第2基板2とを有している。本実施形態では、第2基板2は対極で構成されている。また酸化物半導体層3には光増感色素が担持されている。第1基板1と第2基板2とは環状の封止部4を介して互いに接着されている。第1基板1と第2基板2との間には電解質5が配置されている。ここで、電解質5は酸化物半導体層3に含浸されている。
【0021】
第1基板1は、電極7及び酸化物半導体層3と、電極7に対して第2基板2と反対側に設けられる透明基板6とを備えている。ここで、電極7は透明導電層からなる。本実施形態における「第1基板1」が本発明における「対向基板」の一例に相当する。
【0022】
第2基板2は、導電性基板8と、導電性基板8のうち第1基板1側に設けられて第2基板2の表面における還元反応を促進する導電性の触媒層9とを備えている。
【0023】
次に、上記第1基板1、第2基板2、酸化物半導体層3、封止部4、電解質5及び光増感色素について詳細に説明する。
【0024】
(第1基板)
第1基板1は、上述したように、透明導電層からなる電極7及び酸化物半導体層3と、電極7に対して第2基板2と反対側に設けられる透明基板6とを備えている。
【0025】
透明基板6を構成する材料は、例えば透明な材料であればよく、このような透明な材料としては、例えばホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、白板ガラス、石英ガラスなどのガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、及び、ポリエーテルスルフォン(PES)などが挙げられる。透明基板6の厚さは、色素増感光電変換素子100のサイズに応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、例えば50〜40000μmの範囲にすればよい。
【0026】
電極7を構成する材料としては、例えばスズ添加酸化インジウム(ITO)、酸化スズ(SnO
2)、及び、フッ素添加酸化スズ(FTO)などの導電性金属酸化物が挙げられる。電極7は、単層でも、異なる導電性金属酸化物で構成される複数の層の積層体で構成されてもよい。電極7が単層で構成される場合、電極7は、高い耐熱性及び耐薬品性を有することから、FTOで構成されることが好ましい。電極7の厚さは例えば0.01〜2μmの範囲にすればよい。
【0027】
酸化物半導体層3は、酸化物半導体粒子で構成されている。酸化物半導体粒子は、例えば酸化チタン(TiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO
3)、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)、酸化スズ(SnO
2)、酸化インジウム(In
3O
3)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化タリウム(Ta
2O
5)、酸化ランタン(La
2O
3)、酸化イットリウム(Y
2O
3)、酸化ホルミウム(Ho
2O
3)、酸化ビスマス(Bi
2O
3)、酸化セリウム(CeO
2)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)又はこれらの2種以上で構成される。酸化物半導体層3の厚さは、例えば0.1〜100μmとすればよい。
【0028】
(第2基板)
第2基板2は、上述したように導電性基板8と触媒層9とを備えている。
【0029】
導電性基板8は、例えばチタン、ニッケル、白金、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ステンレス等の耐食性の金属材料で構成される。また、導電性基板8は、基板と電極を分けて、上述した樹脂フィルム上にITO、FTO等の導電性酸化物からなる導電層を電極として形成した積層体で構成されてもよく、上述したガラス上にITO、FTO等の導電性酸化物からなる導電層を形成した積層体でもよい。導電性基板8の厚さは、色素増感光電変換素子100のサイズに応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、例えば0.01mm〜0.1mmとすればよい。
【0030】
触媒層9は、白金、炭素系材料又は導電性高分子などから構成される。
【0031】
(封止部)
封止部4としては、例えば変性ポリオレフィン樹脂、ビニルアルコール重合体などの熱可塑性樹脂、及び、紫外線硬化樹脂などの樹脂が挙げられる。変性ポリオレフィン樹脂としては、例えばアイオノマー、エチレン−ビニル酢酸無水物共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体およびエチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられる。これらの樹脂は単独で又は2種以上を組み合せて用いることができる。
【0032】
(電解質)
電解質5は、例えばヨウ素とヨウ化物塩を混合することで形成される酸化還元対(I
−/I
3−など)などと有機溶媒とを含んでいる。有機溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、プロピオニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、バレロニトリル、ピバロニトリル、グルタロニトリル、メタクリロニトリル、イソブチロニトリル、フェニルアセトニトリル、アクリロニトリル、スクシノニトリル、オキサロニトリル、ペンタニトリル、アジポニトリルなどを用いることができる。酸化還元対としては、例えばI
−/I
3−のほか、臭素/臭化物イオン、亜鉛錯体、鉄錯体、コバルト錯体などのレドックス対が挙げられる。また電解質5は、有機溶媒に代えて、イオン液体を用いてもよい。イオン液体としては、例えばピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等の既知のヨウ素塩などが用いられる。このようなヨウ素塩としては、例えば、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイド、1−エチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド、ジメチルイミダゾリウムアイオダイド、エチルメチルイミダゾリウムアイオダイド、ジメチルプロピルイミダゾリウムアイオダイド、ブチルメチルイミダゾリウムアイオダイド、又は、メチルプロピルイミダゾリウムアイオダイドが好適に用いられる。
【0033】
また、電解質5は、上記有機溶媒に代えて、上記イオン液体と上記有機溶媒との混合物を用いてもよい。
【0034】
また電解質5には添加剤を加えることができる。添加剤としては、LiI、I
2、4−t−ブチルピリジン、グアニジウムチオシアネート、1−メチルベンゾイミダゾール、1-ブチルベンゾイミダゾールなどが挙げられる。
【0035】
さらに電解質5としては、上記電解質にSiO
2、TiO
2、カーボンナノチューブなどのナノ粒子を混練してゲル様となった擬固体電解質であるナノコンポジットゲル電解質を用いてもよく、また、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド誘導体、アミノ酸誘導体などの有機系ゲル化剤を用いてゲル化した電解質を用いてもよい。
【0036】
(光増感色素)
光増感色素としては、例えばビピリジン構造、ターピリジン構造などを含む配位子を有するルテニウム錯体や、ポルフィリン、エオシン、ローダミン、メロシアニンなどの有機色素などの光増感色素や、ハロゲン化鉛系ペロブスカイト結晶などの有機−無機複合色素などが挙げられる。ハロゲン化鉛系ペロブスカイトとしては、例えばCH
3NH
3PbX
3(X=Cl、Br、I)が用いられる。上記色素の中でも、ビピリジン構造又はターピリジン構造を含む配位子を有するルテニウム錯体が好ましい。この場合、色素増感光電変換素子100の光電変換特性をより向上させることができる。
【0037】
次に、上述した色素増感光電変換素子用電極基板20について
図2を参照しながら説明する。
図2は、本発明に係る色素増感光電変換素子用電極基板20の一実施形態を示す断面図である。
【0038】
色素増感光電変換素子用電極基板20は、第2基板2と、導電性基板8に設けられた封止部4を形成する封止材4Aとを備えている。封止材4Aは、導電性基板8の触媒層9側の表面(一方の面)において、触媒層を囲むように環状に設けられている。本実施形態においては、封止材4Aは触媒層9と接触しているが、触媒層9を囲むように設けられる限り、触媒層9と離間していてもよい。また、封止材4Aは、導電性基板8のうち触媒層9側の表面だけでなく、側面、及び、触媒層9側と反対の表面(他方の面)にも連続して設けられている。
【0039】
上記色素増感光電変換素子用電極基板20によれば、封止材4Aが、導電性基板8の触媒層9側の表面だけでなく、側面と触媒層9側と反対の表面まで連続して設けられているため、封止材4Aと導電性基板8との接触面積が大きくなる。
【0040】
次に、上述した色素増感光電変換素子100の製造方法について
図2〜
図6を参照しながら説明する。
図3は、本発明に係る色素増感光電変換素子の製造方法の一実施形態に用いる第1基体を示す断面図、
図4は、
図3の第1基体と
図2の色素増感光電変換素子用電極基板とを対向させている状態を示す断面図、
図5は、
図3の第1基体と
図2の色素増感光電変換素子用電極基板とを封止材を介して積層してなる積層体を示す断面図、
図6は、
図5の積層体において第1基体と色素増感光電変換素子用電極基板とを封止材を介して貼り合せている状態を示す断面図である。
【0041】
<基体準備工程>
まず第1基板1、及び、
図2に示すように、色素増感光電変換素子用電極基板20を準備する。
【0042】
<電解質形成工程>
次に、
図3に示すように、第1基板1の酸化物半導体層3に電解質5を塗布して、酸化物半導体層3に電解質5を含浸させて配置する。こうして第1基体10を準備する。なお、本実施形態では、第1基体10には、封止部4を形成する環状の封止材4Aは固定されていない。
【0043】
<封止部形成工程>
次に、
図4に示すように、第1基体10と、色素増感光電変換素子用電極基板20とを互いに対向させた後、
図5に示すように、互いに接触させる。このとき、封止材4Aを第1基板1の電極7に接触させるとともに、封止材4Aの内側に酸化物半導体層3を配置させる。この時点ではまだ封止材4Aは溶融していない状態にある。言い換えると、封止材4Aは第1基板1の電極7に接着されていない状態にある。こうして積層体50Aを準備する。
【0044】
次に、積層体50Aを、チャンバ(図示せず)の内部に配置させる。そしてこの状態で、チャンバの内部空間を減圧する。その後、
図6に示すように、加熱部材40を色素増感光電変換素子用電極基板20の触媒層9側とは反対の表面の封止材4Aに接触させ、封止材4Aを加圧しながら溶融させる。
【0045】
こうして封止材4Aを第1基板1に接着させて封止部4を形成し、第1基板1及び第2基板2同士を貼り合せる。その後、チャンバの内部空間の減圧操作を停止し、チャンバの内部空間を大気開放させる。
【0046】
以上のようにして1つの色素増感光電変換セル50からなる色素増感光電変換素子100が得られる。
【0047】
上記製造方法では、上記色素増感光電変換素子用電極基板20を用いているので、色素増感光電変換素子100を作成する際に、封止材4Aを溶融して封止部4を形成すると、導電性基板8の触媒層9側の表面だけでなく、側面と、触媒層9側と反対側の表面まで連続して封止部4が形成される。このため、封止部4と導電性基板8との接触面積が増え密着力が向上する。その結果、電解質5の漏えいや、水分が電解質5に侵入することを防止できる。したがって、得られる色素増感光電変換素子100の耐久性を向上させることができる。
【0048】
また、上記製造方法によれば、第1基体10及び色素増感光電変換素子用電極基板20を互いに対向させた状態で封止材4Aを介して接触させて積層体50Aを準備した後、この積層体50Aがチャンバ内で減圧下に置かれる。このとき、積層体50Aは、封止材4Aが第1基体10の第1基板1に接触するように準備される。このため、封止材4Aが溶融される際に電解質5が蒸発しても、その封止材4Aと第1基体10との間に電解質5の蒸気層が形成されることが十分に抑制される。その結果、封止材4Aと第1基体10とを十分に接着させることが可能となる。また電解質5が蒸発しても、電解質5は積層体50A内に閉じ込められ、外部に漏れにくくなっている。このため、得られる色素増感光電変換素子100の耐久性を向上させることができる。
【0049】
また上記製造方法では、色素増感光電変換素子用電極基板20のみに封止材4Aが固定され、第1基体10には封止材4Aが固定されていない。この場合、第1基体10及び色素増感光電変換素子用電極基板20のいずれにも封止材4Aが固定される場合に比べて、以下の効果が得られる。すなわち、第1基体10及び色素増感光電変換素子用電極基板20のうち色素増感光電変換素子用電極基板20にのみ封止材4Aが固定されればよいので、第1基体10及び色素増感光電変換素子用電極基板20の両方に封止材4Aが固定される場合に比べて、第1基体10において第1基板1に封止材4Aを固定しなくて済む分、積層体50Aを準備するのに要する時間が短縮される。また積層体50Aを準備する際に、第1基体10及び色素増感光電変換素子用電極基板20に固定される封止材4A同士を位置合わせすることが不要となる。従って、色素増感光電変換素子100を効率的に製造することができる。また第1基体10及び色素増感光電変換素子用電極基板20に固定される封止材4A同士を位置合わせすることが不要となるので、封止部形成工程で封止材4Aを加熱溶融する際に、封止材4A同士の位置合わせが不十分なまま加熱溶融する場合に比べて、所望の厚さの封止部4を形成することが可能となり、色素増感光電変換素子100において、封止部4と第1基板1との間、及び、封止部4と第2基板2との間において、高い接着性を確保することができる。このため、色素増感光電変換素子100の耐久性をより向上させることができる。さらに封止材4Aを第1基体10に固定しないことで、封止材4Aを第1基体10に固定する際に生じる不純物が、その第1基体10の表面に付着することを十分に防止できる。
【0050】
さらに上記製造方法では、第1基体10及び色素増感光電変換素子用電極基板20のうち封止材4Aが固定されていない第1基体10の第1基板1の表面において、封止材4Aを第1基体10に固定する工程において生じる不純物による酸化物半導体層3の汚染が十分に抑制される。このため、酸化物半導体層3での光電変換が不純物により阻害されることがより十分に抑制され、得られる色素増感光電変換素子100の光電変換特性をより十分に向上させることができる。例えば、封止材4Aを第1基体10に形成する際に用いるキャリアフィルムの成分が酸化物半導体層3に転写されることが十分に抑制される。その結果、後工程の色素吸着が阻害されることがより十分に抑制され、得られる色素増感光電変換素子100の発電効率をより向上させることができる。
【0051】
次に、上述した準備工程、電解質形成工程、及び封止部形成工程について詳細に説明する。
【0052】
<準備工程>
上述したように、まず第1基板1と、色素増感光電変換素子用電極基板20とを準備する。
色素増感光電変換素子用電極基板20は以下のようにして得ることができる。
【0053】
即ちまず導電性基板8を準備する。そして、導電性基板8の上に触媒層9を形成する。触媒層9の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法などが用いられる。これらのうちスパッタ法が膜の均一性の点から好ましい。こうして第2基板2が得られる。
【0054】
第2基板2に対しては封止材4Aを固定する。第2基板2の上に封止材4Aを固定するには、環状の封止材4Aを2つ用意し、第2基板2の導電性基板8の触媒層9側の表面、及び、触媒層9側と反対側の表面に配置し、2つの環状の封止材4Aを加熱により溶融させて2枚のシートを導電性基板8の側面側で一体化しつつ、導電性基板8に接着させればよい。こうして色素増感光電変換素子用電極基板20が得られる。
【0055】
一方、第1基板1は以下のようにして得ることができる。
第1基板1は、透明基板6の上に電極7を形成し、電極7の上に酸化物半導体層3を形成することによって形成することができる。
【0056】
電極7の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法、スプレー熱分解法及びCVD法などが用いられる。
【0057】
電極7の上に酸化物半導体層3を形成するには以下のようにすればよい。すなわち、電極7上に、酸化物半導体層形成用ペーストを印刷した後、焼成することで酸化物半導体層3を形成する。
【0058】
酸化物半導体層形成用ペーストは、上述した酸化物半導体粒子のほか、ポリエチレングリコールなどの樹脂及び、テレピネオールなどの溶媒を含む。酸化物半導体層形成用ペーストの印刷方法としては、例えばスクリーン印刷法、ドクターブレード法、バーコート法などを用いることができる。
【0059】
酸化物半導体層形成用ペーストの焼成温度は酸化物半導体粒子により異なるが、通常は350℃〜600℃であり、焼成時間も、酸化物半導体粒子により異なるが、通常は1〜5時間である。
【0060】
酸化物半導体層3の表面に光増感色素を吸着させるためには、酸化物半導体層3を、光増感色素を含有する溶液の中に浸漬させ、その光増感色素を酸化物半導体層3に吸着させた後に上記溶液の溶媒成分で余分な光増感色素を洗い流し、乾燥させることで、光増感色素を酸化物半導体層3に吸着させればよい。但し、光増感色素を含有する溶液を酸化物半導体層3に塗布した後、乾燥させることによって光増感色素を酸化物半導体層3に吸着させてもよい。
【0061】
<電解質形成工程>
電解質5を形成する方法としては、酸化物半導体層3に電解質5を滴下などにより塗布すればよい。ここで、電解質5の滴下量は特に制限されるものではないが、酸化物半導体層3の体積1mm
3あたり0.5〜4.0μLであることが好ましい。この場合、酸化物半導体層3の体積1mm
3あたりの電解質5の滴下量が0.5μL未満である場合に比べて、電解質5が十分に酸化物半導体層3に含浸されることになり、色素増感光電変換素子100の光電変換特性をより向上させることができる。また酸化物半導体層3の体積1mm
3あたりの電解質5の滴下量が0.5〜4.0μLである場合には、電解質5の滴下量が4.0μLを超える場合に比べて、第1基体10において、電解質5が酸化物半導体層3から溢れ出しにくくなり、積層体50Aを準備する際に、封止材4Aと第1基板1との間に電解質5が入り込むことがより十分に抑制される。なお、酸化物半導体層3の体積は、内部の空孔を含む体積を言う。
【0062】
酸化物半導体層3の体積1mm
3あたりの電解質5の滴下量はより好ましくは1.4〜3.0μLであり、特に好ましくは2.3〜2.8μLである。
【0063】
<封止部形成工程>
積層体50Aは大気圧下で準備する。ここで、大気圧とは、0℃に換算した場合に101325Paである圧力を言う。
【0064】
封止部形成工程においては、積層体50Aが配置されるチャンバの内部の空間は減圧される。この場合、この空間は通常、50Pa以上1013hPa未満の範囲の圧力まで減圧される。ここで、この圧力は50〜800Paとすることが好ましく、300〜800Paとすることがより好ましい。
【0065】
また上記のようにチャンバの内部空間を減圧する場合、第1基板1及び第2基板2のうち少なくとも一方が可撓性を有することが好ましい。
【0066】
この場合、第1基板1及び第2基板2のいずれも可撓性を有しない場合に比べて、色素増感光電変換素子100が大気圧下に置かれた場合に、第1基板1及び第2基板2のうち可撓性を有する電極が大気圧によって撓み、第1基板1と第2基板2との間隔を狭めることが可能となる。その結果、第1基板1及び第2基板2のいずれも可撓性を有しない場合に比べて、光電変換特性がより向上する。
【0067】
また上述したように、第1基体10と色素増感光電変換素子用電極基板20との貼合せは、封止材4Aを加圧しながら加熱することにより行われる。
【0068】
このとき、封止材4Aの加圧時の圧力は特に制限されるものではないが、通常、1〜50MPaであり、好ましくは2〜30MPaであり、より好ましくは3〜20MPaである。
【0069】
また封止材4Aを溶融させるときの温度は、封止材4Aを構成する材料の融点以上であればよい。封止材4Aを溶融させるときの温度は、(封止材4Aの融点+200℃)以下であることが好ましい。上記温度が(封止材4Aの融点+200℃)を超えると、封止材4Aが熱によって分解するおそれがある。
【0070】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態においては、第1基体10には封止材4Aが固定されていないが、
図7に示すように、第1基体10Aには、環状の封止材4Aが固定されていてもよい。この場合、封止材4Aは第1基体10の酸化物半導体層3を包囲するように固定される。また積層体50Aにおいては、第1基体10に固定される封止材4Aと第2基板2に固定される封止材4Aとが接触した状態で重なり合わされることになる。
【0071】
また上記実施形態では、第1基板1が酸化物半導体層3を有しており、色素増感光電変換素子用電極基板20の第2基板2が、触媒層9を有しているが、第1基板1が触媒層9を有し、色素増感光電変換素子用電極基板20の第2基板2が酸化物半導体層3を有していてもよい。この場合、第1基板1の電極7の上に触媒層が設けられ、導電性基板8の上に酸化物半導体層3が設けられる。
【0072】
また上記実施形態では、色素増感光電変換素子用電極基板20の封止材4Aは、導電性基板8の触媒層9側と反対の表面において、環状に設けられているが、
図8に示すように、色素増感光電変換素子用電極基板20Aでは、導電性基板8の触媒層9側と反対の表面の全面に設けられていてもよい。この場合、封止部形成工程後に、導電性基板8の触媒層9側と反対の表面の封止部4の一部を除去し、外部に電力を取りだすための端子を設けてもよい。
【0073】
さらに上記実施形態では、積層体50Aが大気圧下で準備され、その後に、積層体50Aがチャンバの内部に配置されているが、チャンバの内部空間の圧力が減圧状態でない限り、積層体50Aは、チャンバ内で準備されてもよい。
【0074】
さらに上記実施形態では、電解質5が酸化物半導体層3に含浸されているが、電解質5は必ずしも酸化物半導体層3に含浸されていなくてもよい。
【0075】
また上記実施形態では、色素増感光電変換素子が1つの色素増感光電変換セル50で構成されているが、色素増感光電変換素子は、色素増感光電変換セル50を複数備えていてもよい。
【実施例】
【0076】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
はじめに、6.0cm×6.0cm×0.05mmのチタンからなる基板を導電性基板として準備した。そして、導電性基板上に、スパッタリング法により、厚さ10nmの白金触媒層を形成し、第2基板としての対極を得た。
【0078】
次に、アイオノマーであるハイミラン(商品名、三井・デュポンポリケミカル社製、融点:98℃)からなる6.2cm×6.2cm×50μmのシートの中央に、5.0cm×5.0cm×50μmの開口を形成した四角環状の樹脂シートを2枚準備した。そして、この2枚の樹脂シートを、導電性基板の触媒層側の表面、及び、触媒層側と反対側の表面における環状の部位にそれぞれ配置した。そして、この樹脂シートを150℃で1分間加熱し溶融させることによって環状部位に接着し、導電性基板の触媒層側の表面の環状部位、側面、及び、触媒層側と反対の表面の環状部位に一体的に封止材を固定した。こうして、色素増感光電変換素子用電極基板を得た。
【0079】
一方、8.0cm×8.0cm×4.0mmのFTO基板を電極として準備した。続いて、FTO基板の上に、ドクターブレード法によって酸化チタンペースト(Solaronix社製、Ti nanoixide T/sp)を、その厚さが15μmとなるように塗布した後、このペーストを塗布したFTO基板を、熱風循環タイプのオーブンに入れて500℃で0.5時間焼成し、FTO基板上に厚さ15μmの酸化物半導体層を形成し、構造体を得た。
【0080】
次に、この構造体を、アセトニトリルとt−ブタノールとを1:1の体積比で混合した混合溶媒中に光増感色素であるN719を0.2mM溶かした色素溶液中に一昼夜浸漬して酸化物半導体層に光増感色素を担持させた。こうして第1基板としての作用極を得た。
【0081】
次いで、作用極を、FTO基板の酸化物半導体層側の表面が水平になるように配置し、メトキシアセトニトリルからなる揮発性溶媒を主溶媒とし、ヨウ化リチウムを0.1M、ヨウ素を0.05M、4−tert−ブチルピリジンを0.5M含む揮発系電解質を酸化物半導体層に滴下して含浸させた。このとき、酸化物半導体層の体積1mm
3あたりの電解質の滴下量は2.4μLとした。
【0082】
こうして第1基体を得た。
【0083】
次に、第1基体と色素増感光電変換素子用電極基板とを互いに対向させ、大気圧下で、封止材を第1基体に接触させ、積層体を得た。
【0084】
そして、積層体を、グローブボックス内に配置し、グローブボックスの内部空間を減圧した。その後、封止材と同じ大きさの真鍮製の枠を加熱し、真鍮製の枠を封止材上に配置し、プレス機を用いて、5MPaで封止材を加圧しながら200℃で加熱して溶融させて封止部を形成した。こうして1つの色素増感光電変換セルからなる色素増感光電変換素子を得た。
【0085】
(比較例1)
色素増感光電変換素子用電極基板を得る際に、樹脂シートを、導電性基板の触媒層側の表面のみにしか設けなかったこと以外は実施例1と同様にして色素増感光電変換セルからなる色素増感光電変換素子を得た。
【0086】
[耐久性評価]
耐久性は、色素増感光電変換素子の光電変換効率の保持率を調べるものである。耐久性は、具体的には以下のようにして評価した。即ちまず実施例1及び比較例1で得られた色素増感光電変換素子の初期変換効率(η
0)を測定した。その後、その製造直後から85℃の高温環境下で1000時間静置して光電変換効率(η)を測定した。そして、こうして測定された光電変換効率(η)と、上記のようにして測定された初期変換効率(η
0)とに基づいて、光電変換効率の保持率を下記式に基づいて算出した。結果を表1に示す。
光電変換効率の保持率=100×η/η
0
【0087】
【表1】
【0088】
表1に示す結果より、実施例1の色素増感光電変換素子は、比較例1の色素増感光電変換素子に比べて、耐久性の点で優れていることが分かった。よって、本発明の色素増感光電変換素子用電極基板及び色素増感光電変換素子の製造方法によれば、色素増感光電変換素子の耐久性を十分に向上させることができる色素増感光電変換素子用電極基板及び色素増感光電変換素子を製造できることが確認された。
【解決手段】導電性基板と、導電性基板の一方の面に設けられる触媒層又は酸化物半導体層と、導電性基板の一方の面の触媒層又は酸化物半導体層の囲むように環状に設けられる封止材と、を備え、封止材は、導電性基板の一方の面から側面及び他方の面まで連続して設けられる、色素増感光電変換素子用電極基板。