特許第5905655号(P5905655)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5905655
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20160407BHJP
   C08G 64/30 20060101ALI20160407BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20160407BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20160407BHJP
   C08K 5/134 20060101ALI20160407BHJP
   C08K 5/1575 20060101ALI20160407BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08G64/30
   C08J5/00CFD
   C08K5/101
   C08K5/134
   C08K5/1575
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2007-115670(P2007-115670)
(22)【出願日】2007年4月25日
(65)【公開番号】特開2008-274007(P2008-274007A)
(43)【公開日】2008年11月13日
【審査請求日】2010年3月1日
【審判番号】不服2014-17417(P2014-17417/J1)
【審判請求日】2014年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】三宅 利往
(72)【発明者】
【氏名】木下 真美
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 瑞穂
(72)【発明者】
【氏名】北薗 英一
(72)【発明者】
【氏名】小田 顕通
【合議体】
【審判長】 小野寺 務
【審判官】 平塚 政宏
【審判官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−70391(JP,A)
【文献】 特開2004−27104(JP,A)
【文献】 特開2005−179419(JP,A)
【文献】 特開2003−292800(JP,A)
【文献】 特開平9−176474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08G 64/00 - 64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるカーボネート構成単位からなるポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、ステアリン酸モノグリセリドである離型剤(B成分)0.01〜0.5重量部、およびヒンダードフェノール系熱安定剤(C成分)0.0005〜0.1重量部を含有してなるポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
【請求項2】
上記式(1)で表されるカーボネート構成単位がイソソルビド(1,4;3,6ージアンヒドローDーソルビトール)由来のカーボネート構成単位である請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
ヒンダードフェノール系熱安定剤(C成分)が下記式(2)で表わされる構造(以下「−X」基と表わす)を含むヒンダードフェノール系熱安定剤である請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】
(上記式(2)において、Rは水素原子または炭素原子数1〜10のアルキル基であり、Rは炭素原子数4〜10のアルキル基であり、Rは水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基、炭素原子数6〜10のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基および炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表し、nは1〜4の整数である。)
【請求項4】
ヒンダードフェノール系熱安定剤(C成分)が下記式(3)、下記式(4)、および下記式(5)で表わされる化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】
(上記式(3)において、「−X」は前記式(2)で示される基であり、Rは炭素原子数8〜30の酸素原子を含んでも良い炭化水素基である。)
【化4】
(上記式(4)において、「−X」は前記式(2)で示される基であり、Rは水素原子または炭素原子数1〜25のアルキル基であり、mは1〜4の整数、kは1〜4の整数である。)
【化5】
(上記式(5)において、「−X」は前記式(2)で示される基であり、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基であり、lは1〜4の整数である。)
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂(A成分)が、Cl含有量0〜50ppmで、かつ水分量0〜500ppmである請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
該ポリカーボネート樹脂組成物より形成された0.03μm以下の算術平均表面粗さ(Ra)を有する、厚み2mmの平滑平板において、JIS K7105で測定されたヘーズが0〜3%であることを満足する請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
該ポリカーボネート樹脂組成物より形成された0.03μm以下の算術平均表面粗さ(Ra)を有する、厚み2mmの平滑平板において、b値が0〜14であることを満足する請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1記載のポリカーボネート樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。さらに詳しくは生物起源物質である糖質から誘導され得る部分を含有し、耐熱性と熱安定性のいずれも良好なポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物であり、各種透明性成形材料やポリマーアロイ材料の素材として有用なポリカーボネート樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、芳香族もしくは脂肪族ジオキシ化合物を炭酸エステルにより連結させたポリマーであり、その中でも2,2ービス(4ーヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)より得られるポリカーボネート樹脂(以下「PCーA」と称することがある)は、透明性、耐熱性に優れ、また耐衝撃性等の機械特性に優れた性質を有することから多くの分野に用いられている。
【0003】
一般的にポリカーボネート樹脂は石油資源から得られる原料を用いて製造されるが、石油資源の枯渇が懸念されており、植物などの生物起源物質から得られる原料を用いたポリカーボネート樹脂の製造が求められている。
【0004】
生物起源物質を原料として使用されたバイオマス材料の代表例がポリ乳酸であり、バイオマスプラスチックの中でも比較的高い耐熱性、機械特性を有するため、食器、包装材料、雑貨などに用途展開が広がりつつあるが、更に、工業材料としての可能性も検討されるようになってきた。しかしながら、ポリ乳酸は、工業材料として使用するに当っては、その耐熱性が不足し、また生産性の高い射出成形によって成形品を得ようとすると、結晶性ポリマーとしてはその結晶性が低いため成形性が劣るという問題がある。こういった意味からもバイオマス材料の工業材料への展開を考えた場合、ポリカーボネート樹脂のような非晶性を有するバイオマス材料が求められている。
【0005】
生物起源物質を原料として使用されたポリカーボネート樹脂としては、ポリ乳酸樹脂の他に、糖質から製造可能なエーテルジオール残基から得られる原料を用いたポリカーボネート樹脂が検討されている。
【0006】
例えば、下記式(a)
【化1】
に示したエーテルジオールは、たとえば糖類およびでんぷんなどから容易に作られ、3種の立体異性体が知られているが、具体的には下記式(b)
【化2】
に示す、1,4:3,6ージアンヒドローDーソルビトール (本明細書では以下「イソソルビド」と呼称する)、下記式(c)
【化3】
に示す、1,4:3,6ージアンヒドローDーマンニトール(本明細書では以下「イソマンニド」と呼称する)、下記式(d)
【化4】
に示す、1,4:3,6ージアンヒドローLーイジトール(本明細書では以下「イソイディッド」と呼称する)である。
【0007】
イソソルビド、イソマンニド、イソイディッドはそれぞれDーグルコース、Dーマンノース、Lーイドースから得られる。たとえばイソソルビドの場合、Dーグルコースを水添した後、酸触媒を用いて脱水することにより得ることができる。
【0008】
これまで上記のエーテルジオールの中でも、特に、モノマーとしてイソソルビドを中心に用いてポリカーボネートに組み込むことが検討されてきた。特にイソソルビドのホモポリカーボネートについては特許文献1、2、非特許文献1、2に記載されている。このうち特許文献1では、溶融エステル交換法を用いて203℃の融点を持つホモポリカーボネートを報告している。また非特許文献1では、酢酸亜鉛を触媒として用いた溶融エステル交換法において、ガラス転移温度が166℃のホモポリカーボネートを得ているが、熱分解温度(5%重量減少温度)が283℃と熱安定性は充分でない。非特許文献2においては、イソソルビドのビスクロロフォーメートを用いた界面重合を用いてホモポリカーボネートを得ているが、ガラス転移温度が144℃と耐熱性(殊に吸湿による耐熱性)が充分でない。一方、耐熱性が高い例として、特許文献2では昇温速度10℃/分での示差熱量測定によるガラス転移温度が170℃以上であるポリカーボネートを報告しているが、これらの文献に記載されているポリカーボネート樹脂は工業材料への展開を考えた樹脂組成物の検討が一切されていない。
【0009】
工業材料への展開を考えた場合、樹脂組成物にまず求められるものは、
1.樹脂そのものが充分な耐熱性と熱安定性を有している事
2.優れた成形加工性を有する事
である。更に、成形品への着色などの二次加工を施す場合を考えると、
3.成形による着色(黄変)および不透明化を抑制できる事
も重要な要素として挙げられる。
【0010】
しかしながら、従来のイソソルビドをモノマーとして持つホモポリカーボネート樹脂は、耐熱性と熱安定性が同時に良好なものがなく、また、ポリカーボネート樹脂のみで成形を実施すると離型性が悪く、更に成形時の着色が大きいという問題があった。
【0011】
【特許文献1】英国特許出願公開第1079686号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/013463号パンフレット
【非特許文献1】“Journal of Applied Polymer Science”,2002年, 第86巻, p.872〜880
【非特許文献2】“Macromolecules”,1996年,第29巻,p.8077〜8082
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記問題点を解決し、高い生物起源物質含有率を示し、かつ耐熱性と熱安定性のいずれも良好なポリカーボネート樹脂を用い、優れた成形加工性を有し、成形時に着色(黄変)および不透明化を抑制できる工業材料として有用なポリカーボネート樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成すべく、鋭意検討を行った結果、下記式(1)
【化5】
で表されるカーボネート構成単位からなるポリカーボネート樹脂(A成分)、特定の離型剤、および特定のヒンダードフェノール系熱安定剤からなるポリカーボネート樹脂組成物が、高い生物起源物質含有率を示し、かつ耐熱性と熱安定性のいずれも良好で、優れた成形加工性を有し、かつ成形時に着色(黄変)および不透明化を伴わない事を見出し本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明によれば、
1.下記式(1)で表されるカーボネート構成単位からなるポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部に対して、ステアリン酸モノグリセリドである離型剤(B成分)0.01〜0.5重量部、およびヒンダードフェノール系熱安定剤(C成分)0.0005〜0.1重量部を含有してなるポリカーボネート樹脂組成物、
【化6】
.式(1)で表されるカーボネート構成単位がイソソルビド(1,4;3,6ージアンヒドローDーソルビトール)由来のカーボネート構成単位である前項1記載のポリカーボネート樹脂組成物、
.ヒンダードフェノール系熱安定剤(C成分)が下記式(2)で表わされる構造(以下「−X」基と表わす)を含むヒンダードフェノール系熱安定剤である前項1記載のポリカーボネート樹脂組成物、
【化7】
(上記式(2)において、Rは水素原子または炭素原子数1〜10のアルキル基であり、Rは炭素原子数4〜10のアルキル基であり、Rは水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基、炭素原子数6〜10のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基および炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表し、nは1〜4の整数である。)
.ヒンダードフェノール系熱安定剤(C成分)が下記式(3)、下記式(4)、および下記式(5)で表わされる化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物である前項記載のポリカーボネート樹脂組成物、
【化8】
(上記式(3)において、「−X」は前記式(2)で示される基であり、Rは炭素原子数8〜30の酸素原子を含んでも良い炭化水素基である。)
【化9】
(上記式(4)において、「−X」は前記式(2)で示される基であり、Rは水素原子または炭素原子数1〜25のアルキル基であり、mは1〜4の整数、kは1〜4の整数である。)
【化10】
(上記式(5)において、「−X」は前記式(2)で示される基であり、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基であり、lは1〜4の整数である。)
.ポリカーボネート樹脂(A成分)が、Cl含有量0〜50ppmで、かつ水分量0〜500ppmである前項1記載のポリカーボネート樹脂組成物、
.該ポリカーボネート樹脂組成物より形成された0.03μm以下の算術平均表面粗さ(Ra)を有する、厚み2mmの平滑平板において、JIS K7105で測定されたヘーズが0〜3%であることを満足する前項1記載のポリカーボネート樹脂組成物、
.該ポリカーボネート樹脂組成物より形成された0.03μm以下の算術平均表面粗さ(Ra)を有する、厚み2mmの平滑平板において、b値が0〜14であることを満足する前項1記載のポリカーボネート樹脂組成物、および
.前項1記載のポリカーボネート樹脂組成物から形成された成形品、
が提供される。
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、上記式(1)のカーボネート構成単位からなるポリカーボネート樹脂であり、ASTM D6866 05に準拠して測定された生物起源物質含有率が83%〜100%が好ましく、84%〜100%がより好ましい。特に好ましくは上記式(1)のカーボネート構成単位のみからなるホモポリカーボネート樹脂である。
【0016】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度の下限が0.20以上が好ましく、より好ましくは0.22以上であり、また上限は0.45以下が好ましく、より好ましくは0.37以下であり、さらに好ましくは0.34以下である。比粘度が0.20より低くなると本発明のポリカーボネート樹脂組成物より得られた成形品に充分な機械強度を持たせることが困難となる。また比粘度が0.45より高くなると溶融流動性が高くなりすぎて、成形に必要な流動性を有する溶融温度が分解温度より高くなってしまい好ましくない。また、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、250℃におけるキャピロラリーレオメータで測定した溶融粘度が、シェアレート600secー1で0.4×10〜2.4×10Pa・sの範囲にあることが好ましく、0.4×10〜1.8×10Pa・sの範囲にあることがさらに好ましい。溶融粘度がこの範囲であると機械的強度に優れ、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いて成形する際に成形時のシルバーの発生等が無く良好である。
【0017】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、そのガラス転移温度(Tg)の下限が150℃以上が好ましく、より好ましくは155℃以上であり、また上限は200℃以下が好ましく、より好ましくは190℃以下であり、さらに好ましくは168℃以下であり、特に好ましくは165℃以下である。Tgが150℃未満だと耐熱性(殊に吸湿による耐熱性)に劣り、200℃を超えると本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いて成形する際の溶融流動性に劣る。TgはTA Instruments社製 DSC (型式 DSC2910)により測定される。
【0018】
また、本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、その5%減量開始温度の下限が330℃以上が好ましく、より好ましくは340℃以上であり、さらに好ましくは350℃以上であり、また上限は400℃以下が好ましく、より好ましくは390℃以下であり、さらに好ましくは380℃以下である。5%重量減少温度が上記範囲内であると、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いて成形する際の樹脂の分解がほとんど無く好ましい。5%重量減少温度はTA Instruments社製 TGA (型式 TGA2950)により測定される。
【0019】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は、下記式(a)
【化12】
で表されるエーテルジオールおよび炭酸ジエステルとから溶融重合法により製造することができる。エーテルジオールとしては、具体的には下記式(b)、(c)および(d)
【化13】
【化14】
【化15】
で表されるイソソルビド、イソマンニド、イソイディッドなどが挙げられる。
【0020】
これら糖質由来のエーテルジオールは、自然界のバイオマスからも得られる物質で、再生可能資源と呼ばれるものの1つである。イソソルビドは、でんぷんから得られるDーグルコースに水添した後、脱水を受けさせることにより得られる。その他のエーテルジオールについても、出発物質を除いて同様の反応により得られる。
【0021】
特に、カーボネート構成単位がイソソルビド(1,4;3,6ージアンヒドローDーソルビトール)由来のカーボネート構成単位を含んでなるポリカーボネート樹脂が好ましい。イソソルビドはでんぷんなどから簡単に作ることができるエーテルジオールであり資源として豊富に入手することができる上、イソマンニドやイソイディッドと比べても製造の容易さ、性質、用途の幅広さの全てにおいて優れている。
【0022】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(A成分)は重合触媒の存在下、エーテルジオールと炭酸ジエステルとを混合し、エステル交換反応によって生成するアルコールまたはフェノールを高温減圧下にて留出させる溶融重合を行うことによって得ることができる。
【0023】
反応温度は、エーテルジオールの分解を抑え、着色が少なく高粘度の樹脂を得るために、できるだけ低温の条件を用いることが好ましいが、重合反応を適切に進める為には重合温度は180℃〜280℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは180℃〜260℃の範囲である。
【0024】
また、反応初期にはエーテルジオールと炭酸ジエステルとを常圧で加熱し、予備反応させた後、徐々に減圧にして反応後期には系を1.3×10ー3〜1.3×10ー5MPa程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる方法が好ましい。反応時間は通常1〜4時間程度である。
【0025】
炭酸ジエステルとしては、水素原子が置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基またはアラルキル基、もしくは炭素数1〜4のアルキル基などのエステルが挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、mークレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが挙げられ、なかでも反応性、コスト面からジフェニルカーボネートが好ましい。
【0026】
炭酸ジエステルはエーテルジオールに対してモル比で1.02〜0.98となるように混合することが好ましく、より好ましくは1.01〜0.98であり、さらに好ましくは1.01〜0.99である。炭酸ジエステルのモル比が1.02より多くなると、炭酸エステル残基が末端封止として働いてしまい充分な重合度が得られなくなってしまい好ましくない。また炭酸ジエステルのモル比が0.98より少ない場合でも、充分な重合度が得られず好ましくない。
【0027】
重合触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、二価フェノールのナトリウム塩またはカリウム塩等のアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物、などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。なかでも、含窒素塩基性化合物とアルカリ金属化合物とを併用して使用することが好ましい。
【0028】
これらの重合触媒の使用量は、それぞれ炭酸ジエステル成分1モルに対し、好ましくは1×10ー9〜1×10ー3当量、より好ましくは1×10ー8〜5×10ー4当量の範囲で選ばれる。また反応系は窒素などの原料、反応混合物、反応生成物に対し不活性なガスの雰囲気に保つことが好ましい。窒素以外の不活性ガスとしては、アルゴンなどを挙げることができる。更に、必要に応じて酸化防止剤等の添加剤を加えてもよい。
【0029】
本発明で用いる離型剤(B成分)は、ステアリン酸モノグリセリドである
【0033】
本発明で用いる離型剤(B成分)の量はポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.01〜0.5重量部であり、0.03〜0.5重量部が好ましく、0.03〜0.3重量部がより好ましく、特に0.03〜0.2重量部が好ましい。離型剤がこの範囲内にあると、不透明化を抑制しつつ離型性の向上を達成することができる。
【0034】
本発明で用いるヒンダードフェノール系熱安定剤(C成分)は、下記式(2)で表わされる構造を含むヒンダードフェノール系熱安定剤が好ましい。
【化16】
【0035】
上記式(2)中、Rは水素原子または炭素原子数1〜10のアルキル基であり、水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基がより好ましく、特にメチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、tertブチル基が好ましい。
【0036】
は炭素原子数4〜10のアルキル基であり、炭素原子数4〜6のアルキル基が好ましく、特にイソブチル基、tertブチル基、シクロヘキシル基が好ましい。
【0037】
は水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基、炭素原子数6〜10のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基および炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基であり、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基および炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基が好ましく、特に水素原子または炭素原子数1〜10のアルキル基が好ましい。nは1〜4の整数であり、1〜3の整数が好ましく、特に2が好ましい。
【0038】
上記式(2)で表わされる構造を「−X」基と表わした時、本発明で用いられるヒンダードフェノール系熱安定剤は、下記式(3)、(4)および(5)で表わされる化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物が好ましい。
【0039】
【化17】
【化18】
【化19】
【0040】
上記式(3)において、Rは炭素原子数8〜30の酸素原子を含んでも良い炭化水素基であり、炭素原子数12〜25の酸素原子を含んでも良い炭化水素基がより好ましく、特に炭素原子数15〜25の酸素原子を含んでも良い炭化水素基が好ましい。
【0041】
上記式(4)において、Rは水素原子または炭素原子数1〜25のアルキル基であり、水素原子または炭素原子数1〜18のアルキル基がより好ましく、特に炭素原子数1〜18のアルキル基が好ましい。mは1〜4の整数であり、1〜3の整数が好ましく、特に2が好ましい。kは1〜4の整数であり、3〜4が好ましく、特に4が好ましい。
【0042】
上記式(5)において、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基であり、炭素原子数1〜4のアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。lは1〜4の整数であり、1〜3の整数が好ましく、特に2が好ましい。
【0043】
上記式(3)の好ましい具体例として、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ベンゼンプロパン酸3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシアルキルエステル(アルキルは炭素数7〜9で側鎖を有する)、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが挙げられる。
【0044】
上記式(4)の好ましい具体例として、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が挙げられる。
【0045】
上記式(5)の好ましい具体例として、3,9−ビス[2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニロキシ]−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンが挙げられる。
【0046】
これらの中で、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,9−ビス[2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニロキシ]−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンが特に好ましい。
かかるC成分の化合物は、1種または2種以上の混合物であってもよい。
【0047】
本発明で用いるヒンダードフェノール系安定剤(C成分)の量はポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.0005〜0.1重量部であり、0.001〜0.1重量部がより好ましく、0.005〜0.1重量部がさらに好ましく、0.01〜0.1重量部が特に好ましい。ヒンダードフェノール系熱安定剤がこの範囲内にあると、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形する際の分子量低下や色相悪化などを抑える事ができる。
【0048】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、更にリン系熱安定剤を加えても良い。リン系熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステルなどが例示される。具体的にはホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4ージーtertーブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,6ージーtertーブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4ージーtertーブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6ージーtertーブチル4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6ージーtertーブチル4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。
【0049】
更に他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4ージーtertーブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
【0050】
ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
【0051】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4ージーtertーブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4ージーtertーブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4ージーtertーブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6ージーtertーブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6ージーtertーブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6ージーtertーブチルフェニル)−3,3’―ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4ージーtertーブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4ージーtertーブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6ージーtertーブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6ージーtertーブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等が挙げられ、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4ージーtertーブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4ージーtertーブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。ホスホネイト化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。上記リン系安定剤は、1種のみならず2種以上を混合して用いることができる。
【0052】
リン系熱安定剤の配合量はポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.001〜0.5重量部が好ましく、0.005〜0.5重量部がより好ましく、0.005〜0.3重量部がさらに好ましく、特に0.01〜0.3重量部が好ましい。
【0053】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造する際に、使用するポリカーボネート樹脂(A成分)に含まれるCl含有量は0〜50ppmが好ましく、0〜30ppmがより好ましく、特に0〜10ppmが好ましい。ポリカーボネート樹脂中のCl含有量は、全有機ハロゲン分析装置((株)ダイアインスツルメンツ製TOX−100型)を用いて石英管燃焼方式による酸化分解・電量滴定により測定することができる。
【0054】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造する際に、ポリカーボネート樹脂(A成分)に含まれる水分量は0〜500ppmが好ましく、0〜300ppmがより好ましい。ポリカーボネート樹脂中の水分量は、水分気化装置及び微量水分測定装置(三菱化学(株)製)を用いてカールフィッシャー滴定法にて測定することができる。
【0055】
かかる範囲のCl含有量および水分量を有するポリカーボネート樹脂を使用して、溶融押出法等により本発明の樹脂組成物を製造する際に、色相が良好な樹脂組成物を得ることができる。
【0056】
Cl含有量をかかる範囲内にするためには、前記のポリカーボネート樹脂の製造方法を用いることが好ましく、ハロゲン系溶媒に溶解し、メタノールでの再沈による精製を行ったり、ピリジンなどの酸結合剤を用いて、ハロゲン系溶媒中にて重合を行う溶液法によるポリカーボネートの製造方法を用いることは好ましくない。
【0057】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物を製造する際に、ポリカーボネート樹脂の水分量をかかる範囲内にするために、ポリカーボネート樹脂を乾燥する事が好ましい。乾燥条件としては100〜120℃で、10〜48時間程度が好ましい。
【0058】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造に当たっては、その製造法は特に限定されるものではない。しかしながら本発明の樹脂組成物の好ましい製造方法は押出機を用いて各成分を溶融混練する方法である。
【0059】
押出機としては特に二軸押出機が好適であり、原料中の水分や溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。
【0060】
また、押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど) などを挙げることができる。
【0061】
さらにB成分、C成分およびその他添加剤(以下の例示において単に“添加剤”と称する)の押出機への供給方法は特に限定されないが、以下の方法が代表的に例示される。
(i)添加剤をA成分の樹脂とは独立して押出機中に供給する方法。
(ii)添加剤とA成分の樹脂粉末とをスーパーミキサーなどの混合機を用いて予備混合した後、押出機に供給する方法。
(iii)添加剤とA成分の樹脂とを予め溶融混練してマスターペレット化する方法。
(iv)他の予備混合の方法として、樹脂と添加剤を溶媒中に均一分散させた溶液とした後、該溶媒を除去する方法。
【0062】
押出機より押出された樹脂組成物は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。更に外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。更にかかるペレットの製造においては、光学ディスク用ポリカーボネート樹脂や光学用環状ポリオレフィン樹脂において既に提案されている様々な方法を用いて、ペレットの形状分布の狭小化、ミスカット物の低減、運送または輸送時に発生する微小粉の低減、並びにストランドやペレット内部に発生する気泡(真空気泡)の低減を適宜行うことができる。これらの処方により成形のハイサイクル化、およびシルバーの如き不良発生割合の低減を行うことができる。またペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1〜5mm、より好ましくは1.5〜4mm、さらに好ましくは2〜3.3mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1〜30mm、より好ましくは2〜5mm、さらに好ましくは2.5〜3.5mmである。
【0063】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、通常前記の如く製造されたペレットを射出成形して各種製品を製造することができる。更にペレットを経由することなく、押出機で溶融混練された樹脂を直接シート、フィルム、異型押出成形品、ダイレクトブロー成形品、および射出成形品にすることも可能である。
【0064】
射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0065】
また、本発明の樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、およびフィルムなどの形で利用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の樹脂組成物を回転成形やブロー成形などにより成形品とすることも可能である。
【0066】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物により形成された成形品は、透明性および色相に優れる。ポリカーボネート樹脂組成物より形成された、その表面粗さ(Ra)が0.03μm以下の厚み2mmの平滑平板において、ヘーズが0〜%の範囲が好ましい。ヘーズはJIS K7105に従って測定することができる。また該平滑平板において、b値が0〜14の範囲が好ましく、0〜13の範囲がより好ましく、0〜12の範囲がさらに好ましく、0〜11の範囲が特に好ましい。b値は日本電色(株)製分光彩計SE−2000(光源:C/2)を用いて測定することができる。
【0067】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、用途に応じて各種の機能付与剤を添加してもよく、例えば可塑剤、光安定剤、重金属不活性化剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤などである。さらに、本発明のポリカーボネート樹脂には、用途に応じて各種の有機および無機のフィラー、繊維などを複合化して用いることもできる。フィラーとしては例えばカーボン、タルク、マイカ、ワラストナイト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイトなどを挙げることができる。繊維としては例えばケナフなどの天然繊維のほか、各種の合成繊維、ガラス繊維、石英繊維、炭素繊維などが挙げられる。
【0068】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、例えばポリ乳酸、脂肪族ポリエステルの他、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリアクリル、ABS、ポリウレタンなど、各種の生物起源物質からなるポリマーならびに合成樹脂、ゴムなどと混合しアロイ化して用いることもできる。
【発明の効果】
【0069】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は生物起源物質から誘導される部分を含有し、耐熱性と熱安定性のいずれも良好で、成形性に優れ、得られた成形品は色相、透明性および機械的特性が良好であることから、光学用シート、光学用ディスク、情報ディスク、光学レンズ、プリズム等の光学用部品、各種機械部品、建築材料、自動車部品、各種の樹脂トレー、食器類をはじめとする様々な用途に幅広く用いることができる。
【実施例】
【0070】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明する。但し、本発明はこれら実施例に何ら制限されるものではない。また、実施例中の部は重量部であり、%は重量%である。なお、評価は下記の方法によった。
【0071】
(1)比粘度 ηsp
ペレット(ただし参考例2はパウダー)を塩化メチレンに溶解、濃度を約0.7g/dLとして、温度20℃にて、オストワルド粘度計(装置名:RIGO AUTO VISCOSIMETER TYPE VMRー0525・PC)を使用して測定した。なお、比粘度ηspは下記式から求めた。
ηsp=t/t−1
t :試料溶液のフロータイム
:溶媒のみのフロータイム
(2)生物起源物質含有率
ASTM D6866 05に従って、放射性炭素濃度(percent modern carbon;C14)による生物起源物質含有率試験から、生物起源物質含有率を測定した。
(3)ガラス転移温度
ペレット(ただし参考例2はパウダー)を用いてTA Instruments社製 DSC (型式 DSC2910)により測定した。
(4)5%重量減少温度
ペレット(ただし参考例2はパウダー)を用いてTA Instruments社製 TGA (型式 TGA2950)により測定した。
(5)Cl含有量
ペレット(ただし参考例2はパウダー)中のCl含有量を(株)ダイアインスツルメンツ製の全有機ハロゲン分析装置 TOX−100型を用いて石英管燃焼方式による酸化分解・電量滴定により測定した。
(6)水分量
ペレット中の残留水分量を三菱化学(株)製 水分気化装置及び微量水分測定装置を用いてカールフィッシャー滴定法にて測定した。
(7)成形板の色相(b値)
実施例に記載の方法で成形した3段型プレート(算術平均表面粗さRa;0.03μm)の厚み2.0mm部のb値を日本電色(株)製分光彩計SE−2000(光源:C/2)を用いて測定した。b値はJIS Z8722に規定する三刺激値X、Y、Zからハンターの色差式から誘導されるもので、数値が低いほど色相が無色に近いことを示す。
(8)成形板の透明性(Haze)
実施例に記載の方法で成形した3段型プレート(算術平均表面粗さRa;0.03μm)の厚み2.0mm部のHazeをJIS K7105に従って測定した。Hazeは成形品の濁り度で、数値が低いほど濁りが少ないことを示す。
(9)曲げ弾性率
ペレットを120℃で12時間乾燥した後、日本製鋼所(株)製 JSWJ−75EIIIを用いてシリンダ温度250℃、金型温度90℃にて曲げ試験片を成形した。曲げ試験をISO178に従って行った。
(10)荷重たわみ温度(0.45MPa)
上記(9)にて作成した曲げ試験片を用いてISO75で規定される低荷重下(0.45MPa)の荷重たわみ温度を測定した。
【0072】
参考例1 ポリカーボネート樹脂の製造
イソソルビド7307重量部(50モル)とジフェニルカーボネート10709重量部(50モル)とを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを4.8重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10−4モル)、および水酸化ナトリウムを5.0×10−3重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.25×10−6モル)仕込んで窒素雰囲気下常圧で180℃に加熱し溶融させた。
【0073】
撹拌下、反応槽内を30分かけて徐々に減圧し、生成するフェノールを留去しながら13.3×10−3MPaまで減圧した。この状態で20分反応させた後に200℃に昇温した後、20分かけて徐々に減圧し、フェノールを留去しながら4.00×10−3MPaで20分間反応させ、さらに、220℃に昇温し30分間、250℃に昇温し30分間反応させた。
【0074】
次いで、徐々に減圧し、2.67×10−3MPaで10分間、1.33×10−3MPaで10分間反応を続行し、さらに減圧し、4.00×10−5MPaに到達したら、徐々に260℃まで昇温し、最終的に260℃、6.66×10−5MPaで1時間反応せしめた。反応後のポリマーをペレット化し、比粘度が0.32のペレットを得た。このペレットの生物起源物質含有率は85%であり、ガラス転移温度は165℃、5%重量減少温度は355℃、Cl含有量は1.8ppmであった。
【0075】
参考例2 ポリカーボネート樹脂の製造
イソソルビド7307重量部(50モル)を温度計、撹拌機付き反応器に仕込み、窒素置換した後、あらかじめよく乾燥したピリジン40000重量部、塩化メチレン148800重量部を加え溶解した。撹拌下25℃でホスゲン6435重量部(65モル)を100分要して吹込んだ。ホスゲン吹込み終了後、約20分間そのまま撹拌して反応を終了した。反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈し、ピリジンを塩酸で中和除去後、導電率がイオン交換水と殆ど同じになるまで繰り返し水洗し、その後塩化メチレンを蒸発してパウダーを得た。このパウダーは比粘度が0.35、ガラス転移温度は169℃、5%重量減少温度は357℃、Cl含有量は490ppmであった。
【0076】
実施例1〜、比較例1〜
表1に記載の樹脂組成物を以下の要領で作成した。表1の割合の各成分を計量して、均一に混合し、かかる混合物を押出機に投入して樹脂組成物の作成を行った。押出機としては径15mmφのベント式二軸押出機((株)テクノベル社製KZW15−25MG)を使用した。押出条件は吐出量14kg/h、スクリュー回転数250rpm、ベントの真空度3kPaであり、また押出温度は第1供給口からダイス部分まで250℃とし、ペレットを得た。
【0077】
得られたペレットを100℃で12時間乾燥した後、算術平均粗さ(Ra)が0.03μmとしたキャビティ面を持つ金型を使用し、射出成形機[日本製鋼所(株)製 JSWJ−75EIII]により、シリンダー温度250℃、金型温度90℃で射出成形し、幅55mm、長さ90mm、厚みがゲート側から3mm(長さ20mm)、2mm(長さ45mm)、1mm(長さ25mm)である3段型プレートを成形し、離型性及び厚み2mmの成形板の形状を目視にて評価した。また、成形板の色相およびHazeを評価した。なお、実施例1で得られた成形板の曲げ弾性率は3640MPaであり機械的強度が良好で、荷重たわみ温度は151℃であり耐熱性も優れたものであった。
また、表1に記載の使用した原材料等は以下の通りである。
【0078】
(A成分)
PC−1:参考例1にて製造したポリカーボネート樹脂ペレットを押出機投入前に100℃で24時間乾燥したものを用いた。なお、乾燥後のポリカーボネート樹脂ペレットの水分量は240ppmであった。
PC−2:参考例2にて製造したポリカーボネート樹脂ペレットを押出機投入前に100℃で24時間乾燥したものを用いた。なお、乾燥後のポリカーボネート樹脂ペレットの水分量は180ppmであった。
(B成分)
B−1:ステアリン酸モノグリセリド(理研ビタミン(株)リケマールS−100A)
B−2:ステアリン酸トリグリセリド(理研ビタミン(株)リケマールSL−900)
(C成分)
C−1:オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Irganox1076)
C−2:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製Irganox1010)
C−3:3,9−ビス[2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニロキシ]−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(住友化学(株)社製SumilizerGA−80)
(その他の成分)
P−1:ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト((株)アデカ製 アデカスタブPEP−36)
P−2:トリフェニルホスファイト((株)アデカ製 アデカスタブTPP)
【0079】
【表1】