特許第5905726号(P5905726)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5905726
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】内燃機関の異常判定装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20160407BHJP
【FI】
   F02D45/00 330
   F02D45/00 322D
   F02D45/00 345Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-4618(P2012-4618)
(22)【出願日】2012年1月13日
(65)【公開番号】特開2013-142382(P2013-142382A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2014年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134212
【弁理士】
【氏名又は名称】提中 清彦
(72)【発明者】
【氏名】原井 大輔
【審査官】 戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−277947(JP,A)
【文献】 特開平04−183950(JP,A)
【文献】 特開平04−054255(JP,A)
【文献】 特開2010−013961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の共通のクランク軸に連結された各気筒の燃焼状態に関連するクランク角度間隔における回転速度を取得する回転速度情報取得手段と、
前記回転速度情報取得手段により取得される各気筒の実際の回転速度が、目標回転速度に維持されるように、取得された実際の回転速度と、目標回転速度と、を比較して、その偏差を縮小するように、該当気筒への燃料供給量を、基本燃料供給量に対してフィードバック補正値により増減補正するフィードバック補正制御手段と、
前記フィードバック補正値と、異常判定閾値と、に基づいて、内燃機関の異常の有無を判定する異常判定手段と、
を備えた内燃機関の異常判定装置であって
前記フィードバック補正値が、前記実際の回転速度と目標回転速度の偏差と、感度定数と、に基づいて設定され、
前記フィードバック補正値がフィードバック感度変更閾値以上となったときに、前記感度定数が現在の値と異なる値に変更されると共に、前記フィードバック補正値がリセットされ、
前記異常判定手段は、前記感度定数の変更が複数回行われたことを条件に、前記フィードバック補正値と、異常判定閾値と、に基づいて、内燃機関の異常の有無を判定することを特徴とする内燃機関の異常判定装置。
【請求項2】
前記感度定数は、基準値を中心に大小交互に変更されることを特徴とする請求項に記載の内燃機関の異常判定装置。
【請求項3】
前記異常判定閾値は、前記フィードバック感度変更閾値より大きな値であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の異常判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の異常判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関の燃料噴射状態延いては燃焼状態等を把握し、例えば最適な燃焼状態を得ることができるようにするための技術が種々提案されていると共に、近年では、例えば車載式故障診断装置(OBD:On Board Diagnostics)等における故障診断項目の一つとして、故障や劣化による燃料噴射弁(インジェクタ)の噴射異常延いては異常燃焼状態等を検出することなどが行われている。
【0003】
このような燃料噴射弁の燃料供給異常(噴射異常)や異常燃焼状態等を検出する技術として、本願出願人は、例えば、特許文献1において、例えばアイドル運転中などの内燃機関が所定回転速度にて運転されているときに、ある一定のクランク角度間隔(例えば30度)進むのに要した時間(図6の時間A,時間Bを参照)を各気筒毎に計測し、その気筒間における偏差が縮小されるようにフィードバック制御を実行し、例えば長い時間を要した気筒(図6の#3気筒(図では、♯3と表示)を参照)に対して燃料噴射量を増量補正する(図7参照)と共に、図8に示すように、その増量補正量(フィードバック量)が所定の閾値(故障判定値)を超えた場合には、該当気筒において燃料噴射量異常や燃焼異常が発生しているとして故障検出するといった技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−013961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている燃料噴射量の異常検出装置では、燃料噴射ポンプ、燃料噴射ノズル、各燃料配管の製造バラツキなどのハードウェア的な特性バラツキ、回転速度の検出応答性などを含めた燃料噴射量のフィードバック制御における制御感度、気筒間の燃焼バラツキなどによって、或いはこれらが組み合わされ、更には外乱などの相乗的な作用によって、燃料噴射量のフィードバック制御が共振してしまうおそれがあり、実際には故障などの異常が発生していない場合でも、異常であると誤検出してしまうといったおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる従来の実情に鑑みなされたもので、簡単かつ低コストな構成でありながら、精度良く内燃機関の燃料供給状態延いては燃焼状態の異常の有無を判定することができる内燃機関の異常判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明に係る内燃機関の異常判定装置は、図1に示すように、
内燃機関の共通のクランク軸に連結された各気筒の燃焼状態に関連するクランク角度間隔における回転速度を取得する回転速度情報取得手段と、
前記回転速度情報取得手段により取得される各気筒の実際の回転速度が、目標回転速度に維持されるように、取得された実際の回転速度と、目標回転速度と、を比較して、その偏差を縮小するように、該当気筒への燃料供給量を、基本燃料供給量に対してフィードバック補正値により増減補正するフィードバック補正制御手段と、
前記フィードバック補正値と、異常判定閾値と、に基づいて、内燃機関の異常の有無を判定する異常判定手段と、
を備えた内燃機関の異常判定装置であって
前記フィードバック補正値が、前記実際の回転速度と目標回転速度の偏差と、感度定数と、に基づいて設定され、
前記フィードバック補正値がフィードバック感度変更閾値以上となったときに、前記感度定数が現在の値と異なる値に変更されると共に、前記フィードバック補正値がリセットされ、
前記異常判定手段は、前記感度定数の変更が複数回行われたことを条件に、前記フィードバック補正値と、異常判定閾値と、に基づいて、内燃機関の異常の有無を判定することを特徴とする。
【0010】
本発明において、前記感度定数は、基準値を中心に大小交互に変更されることを特徴とすることができる。
【0011】
本発明において、前記第2の閾値は、前記第1の閾値より大きな値であることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡単かつ低コストな構成でありながら、精度良く内燃機関の燃料供給状態延いては燃焼状態の異常の有無を判定することができる内燃機関の異常判定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る内燃機関の異常判定(診断)装置の構成を説明するブロック図である。
図2】同上実施の形態に係る内燃機関の異常判定(診断)装置のシステム全体の構成を概略的に示した図である。
図3】同上実施の形態に係る内燃機関の異常判定(診断)装置が実行する異常判定(診断)制御のフローチャートの一例である。
図4】同上実施の形態の異常判定(診断)制御のフローチャートを実行した場合のフィードバック補正値(Σ偏差×感度定数)の変化の様子(実際に異常や故障がある場合で、感度定数が変更される場合)を示すタイムチャートの一例である。
図5】同上実施の形態の異常判定(診断)制御のフローチャートを実行した場合のフィードバック補正値(Σ偏差×感度定数)の変化の様子(異常や故障がない正常な範囲にある場合)を示すタイムチャートの一例である。
図6】同上実施の形態において取得される回転速度に関連する情報(ある一定のクランク角度を進むのに要する時間)を説明するためのタイムチャートである。
図7図6において気筒間における回転速度の偏差(バラツキ)の大きかった#3気筒の燃料噴射量を増量して当該偏差を縮小するためのフィードバック制御による回転速度の偏差の変化の様子を説明するためのタイムチャートである。
図8図6において気筒間における回転速度の偏差(バラツキ)の大きかった#3気筒の燃料噴射量を増量して当該偏差を縮小するためのフィードバック制御を実行したことによるフィードバック補正値或いは補正量(燃料増量)の増加の様子と、フィードバック補正値或いは補正量(燃料増量)と故障判定値との比較の様子を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る一実施の形態を、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0015】
本発明の一実施の形態に係る内燃機関の異常判定装置の概略的な全体構成を、図2に基づいて説明する。
【0016】
図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る内燃機関の異常判定装置の異常判定の対象となる内燃機関(エンジン)1としては、例えばディーゼル燃焼機関等とすることができる。本実施の形態の内燃機関(エンジン)1には、各気筒(図2では、♯1〜♯4の直列式4気筒の内燃機関を例示しているが、他の複数気筒の燃焼機関に適用可能である)の燃焼室2に臨んで燃料噴射弁3(例えば、電磁弁により開閉駆動されるユニットインジェクタ)が配設されている。但し、ユニットインジェクタ等の燃料噴射弁3に限定されるものではなく、他の方式による燃料供給装置を用いることもできる。
【0017】
各燃料噴射弁3は、エンジン制御ユニット(ECU:Engine Control Unit)10からの制御信号に基づいて、運転状態(アクセル踏込量、内燃機関1の回転速度など)に応じて設定される燃料供給量が当該燃料噴射弁3から噴射供給されるように、開弁時期、開弁期間などが制御され、図示しない燃料ポンプ延いてはコモンレール(図示せず)から所定圧力で給送される燃料を、所定のタイミングで、所定の噴射量、噴射期間、噴射率等をもって、対応する気筒の燃焼室2に噴射供給するようになっている。
【0018】
また、内燃機関1のピストン4の往復直線運動を回転運動に変換するためのクランク軸5に一体的に回転連結された回転パルサー6が取り付けられており、当該回転パルサー6の外周には、例えば6度(degree)毎に凹凸歯が形成されている。
【0019】
この一方、前記回転パルサー6の凹凸歯に対向して電磁式の回転センサ(ピックアップセンサ)7が配設されており、前記回転パルサー6がクランク軸5と伴に回転されて前記凹凸歯が回転センサ7を通過する際の電磁誘導によって回転センサ7から、ECU10に対してクランク角度信号(回転信号)が出力されるようになっている。但し、当該構成に限定されるものではなく、ホール素子やホトトランジスタ等を用いた他のクランク角度信号生成装置を用いることもできる。
【0020】
そして、ECU10では、当該クランク角度信号や内蔵タイマーの計時結果等に基づいて、内燃機関1の回転速度(所定時間当たりの回転数)等を取得することができるようになっている。
【0021】
また、本実施の形態では、例えば、クランク軸延いては回転パルサー6の1回転(所定の気筒の圧縮上死点位置など)を検出するための突起及びピックアップを設けたり、或いは前記回転パルサー6の凹凸歯の一部を欠歯しておくことで、ECU10では、クランク軸延いては回転パルサー6の1回転(所定の気筒の圧縮上死点(TDC)など)を検出することができるようになっている。
【0022】
このように所定の気筒の圧縮上死点が検出できれば、ECU10では、前記回転パルサー6及び回転センサ7により取得される所定角度(例えば6度)毎のクランク角度信号に基づいて、所定クランク角度(例えば4気筒の場合は、180度)毎の燃焼順序(例えば、第1気筒(♯1)→第3気筒(♯3)→第4気筒(♯4)→第2気筒(♯2)→第1気筒(♯1))に応じた各気筒の圧縮上死点を取得することができる。
【0023】
ここにおいて、本実施の形態におけるECU10では、内燃機関1がアイドル運転を行っている場合に、内燃機関1の実際の回転速度が、目標アイドル回転速度に維持されるように、取得された回転速度と、目標アイドル回転速度と、を比較して、その偏差を縮小するように、燃料噴射弁3から噴射供給される燃料噴射量を基本燃料噴射量に対して増減補正する所謂フィードバック制御(アイドル回転フィードバック制御)を行うようになっている。なお、基本燃料噴射量は、内燃機関1の回転速度、負荷、機関温度などに基づいて予め定められた燃料噴射量である。
【0024】
ここで、本願出願人等は、図6図7図8に示したように、例えばアイドル運転中などの内燃機関が所定回転速度にて運転されているときに、ある一定のクランク角度間隔(例えば30度)進むのに要した時間(図6の時間A,時間Bを参照)を各気筒毎に計測し、その気筒間における偏差が縮小されるようにフィードバック制御を実行し、例えば長い時間を要した気筒(図7の#3気筒を参照)に対して燃料噴射量を増量補正すると共に、図8に示すように、その増量補正量(フィードバック補正量)が所定の閾値(故障判定値)を超えた場合には、該当気筒において燃料噴射量異常や燃焼異常が発生しているとして故障検出するといった技術を特許文献1において提案している。
【0025】
しかしながら、かかる従来の燃料噴射量の異常検出方法では、燃料噴射ポンプ、燃料噴射ノズル、各燃料配管の製造バラツキなどのハードウェア的な特性バラツキ、回転速度の検出応答性などを含めた燃料噴射量の制御感度、気筒間の燃焼バラツキなどによって、或いはこれらが組み合わされ、更には外乱などの相乗的な作用によって、燃料噴射量のフィードバック制御が共振してしまうおそれがあり、そのような場合には、実際には故障などの異常が発生していない場合であっても、異常であると誤検出してしまうといったおそれがある。
【0026】
このため、本実施の形態に係るECU10では、以下のようにして、より精度良く、燃料噴射弁3延いては内燃機関1の異常の有無を判定することができるように、図3のフローチャートを実行する。ここにおいて、以下で述べるECU10において実行される図3のフローチャートによる処理が、本発明に係る内燃機関の異常判定装置における回転速度情報取得手段、フィードバック補正制御手段、異常判定手段として機能するものである。
【0027】
すなわち、ECU10では、図3のフローチャートに示したように、
ステップ(図では、Sと記す)1において、内燃機1が故障判定許可可能な運転状態であるか否かを判断する。YESであれば、ステップ2へ進み、NOであればステップ1へ戻る。ここで、故障判定許可可能な運転状態とは、内燃機関1が所定の定常運転状態である場合が含まれ、より具体的には、例えば内燃機関1がアイドル運転中でアイドル回転フィードバック制御などが実行され略一定の回転速度で運転されているような運転状態が一例として挙げられる。
【0028】
ステップ2では、ある一定のクランク角度間隔(例えば30度)を進むのに要した時間(図6の時間A,時間Bなどを参照。本発明に係る回転速度に関連する情報に相当。)を各気筒毎に計測し、気筒間における偏差を算出し、気筒毎に取得された偏差が異常領域にあるか否かを判断する。なお、ある一定のクランク角度間隔は、燃料供給状態や燃焼状態の気筒間におけるバラツキの影響が現れやすい膨張行程を含むことが好ましく、これにより診断精度を高めることができる。
【0029】
YESの場合で、気筒毎に取得された偏差が異常領域にある場合には、気筒間における燃焼変動が所定以上に大きく、内燃機関1に何らかの異常が生じていると判断して、ステップ3へ進む。
【0030】
ステップ3では、異常処理を実行して本フローを終了する。異常処理としては、例えば、警告灯や警告音を発して、異常がある旨を運転者等に報知して修理等の処置を促すと共に、異常レベルに応じて、内燃機関1に重大な損傷が生じるおそれがある場合は内燃機関1の運転を停止したり、自走を許可可能な異常レベルの場合には損傷等が大きくならない程度に内燃機関1の出力を抑制して近隣のサービス工場までの走行を許可するなどの処理を行うことができる。
【0031】
この一方、ステップ2にて、気筒毎に取得された偏差が異常領域にないと判断された場合には、ステップ4へ進む。
【0032】
ステップ4では、ステップ2にて取得したある一定のクランク角度間隔(例えば30度)進むのに要した時間の気筒毎の偏差が縮小されるようにフィードバック制御を実行する。ステップ4が、本発明に係るフィードバック補正制御手段に相当する。
例えば、直前燃焼気筒におけるある一定のクランク角度間隔に要した時間と、今回データを取得した燃焼気筒おけるある一定のクランク角度間隔に要した時間と、の偏差が縮小されるように、次回の該当気筒の燃料噴射量(燃料供給量)を補正する。
具体的には、図6図7などに示したように、直前燃焼気筒に対して、今回データを取得した燃焼気筒の方が、ある一定のクランク角度間隔進むのに長い時間を要した場合に、該当気筒に関し、次回の目標燃料噴射量を前回の燃料噴射量に対して増量補正する。
【0033】
すなわち、例えば、以下の式に従って、次回の目標燃料噴射量(燃料供給量)を設定することができる。
次回の目標燃料噴射量=基本燃料噴射量×(1.0+Σ([時間偏差(+Δ)]×[感度定数(N)]))
基本燃料噴射量は、内燃機関1の回転速度や負荷などの運転状態に応じて設定される燃料噴射量で、アイドル回転フィードバック制御が実行されている場合には、そのフィードバック補正量が考慮された燃料噴射量となる。
Σ([時間偏差(+Δ)]×[感度定数(N)])は、後述するNが変更されない間において、ステップ4を通過する度に設定される[時間偏差(+Δ)]×[感度定数(N)]を合計した値(本発明に係るフィードバック補正値に相当する)である。
なお、[時間偏差(+Δ)]は、本発明に係る「回転速度情報の気筒間における偏差」に相当している。
【0034】
このようにして、本実施の形態では、ステップ2にて取得したある一定のクランク角度間隔(例えば30度)進むのに要した時間の気筒毎の偏差が縮小されるように各気筒に対して燃料噴射量のフィードバック制御が実行される(図4のAを参照)。
【0035】
続くステップ5では、次回の目標燃料噴射量における補正噴射量(基本燃料噴射量×Σ([時間偏差(+Δ)]×[感度定数(N)])が正常領域にあるか否かを判断する。
すなわち、Σ[時間偏差(+Δ)]×[感度定数(N)]の値(フィードバック補正値)が、第1の閾値(フィードバック感度変更閾値)と比較して正常領域にあるか否かを判断する。
第1の閾値の範囲内に収まっており正常領域ある場合には、Σ[時間偏差(+Δ)]×[感度定数(N)]の値を保持したまま、ステップ1へリターンする。
【0036】
一方、第1の閾値の範囲から外れて正常領域にない場合には、製品誤差等のレベルを越えて気筒間の燃焼変動バラツキが大きく、該当する気筒に何らかの異常が生じているおそれがあると判断して、ステップ6へ進む。
【0037】
ステップ6では、ステップ5での判定繰り返し回数(N)が、最大値以下であるか否かを判断し、YESの場合はステップ7へ進み、NOの場合はステップ8へ進む。
【0038】
ステップ7では、判定繰り返し回数(N)を1加算(インクリメント)すると共に、Nの大きさに応じて感度定数(図4のA,Bなどの傾きに相当)を変更し、更に、Σ[時間偏差(+Δ)]×[感度定数(N)]の値をリセットする。
【0039】
すなわち、例えば、
N=1の場合は、感度定数(1)=1.10(10%増量)(本発明に係る基準値に相当)とし、
N=2(=1+1)の場合は、感度定数(2)=1.05(5%増量)とし、
N=3(=2+1)の場合は、感度定数(3)=1.15(15%増量)とし、
N=4(=3+1)の場合は、感度定数(4)=1.10(10%増量)とするなど、Nの大きさに応じて、感度定数(増量分)が変更されるようになっている(図4のA,Bなどの傾きを参照)。なお、感度定数は、Nの大きさに応じて、例えば10%増量(本発明に係る基準値に相当)を中心として大小交互に変動するように変更する構成とすることができる。このあと、ステップ1へリターンする。
【0040】
一方、ステップ8は、判定繰り返し回数(N)が最大値を超えた場合であるので、感度変更を行った後においても、目標燃料噴射量における補正量(Σ[時間偏差(+Δ)]×[感度定数(N)]の値)が正常領域を外れている場合であるので、補正量(Σ[時間偏差(+Δ)]×[感度定数(N)]の値)と第2の閾値(故障(異常)判定閾値)とを比較して故障領域(異常領域)にあるか否かを判断する。なお、第2の閾値>第1の閾値とすることができ、これにより、真に異常が発生している場合において、フィードバック制御の共振に起因する誤診断を抑制しながら異常(故障)診断の診断処理のために内燃機関1への損傷等が大きくなることを効果的に抑制することが可能となっている。
YESであれば、内燃機関1には何らかの異常があるとして、S9にて異常処理を行って、本フローを終了する。
【0041】
なお、異常処理としては、例えば、警告灯や警告音を発して、異常がある旨を運転者等に報知して修理等の処置を促すと共に、異常レベルに応じて、内燃機関1に重大な損傷が生じるおそれがある場合は内燃機関1の運転を停止したり、自走を許可可能な異常レベルの場合には損傷等が大きくならない程度に内燃機関1の出力を抑制して近隣のサービス工場までの走行を許可するなどの処理を行うことができる。
【0042】
ステップ8にて、NOと判定された場合は、ステップ1へリターンして上記フローチャートを繰り返す。
【0043】
このように、本実施の形態では、ある所定期間における気筒間の回転偏差を縮小するように燃料噴射量を各気筒毎にフィードバック制御し、そのフィードバック補正量と閾値とを比較することで特定気筒の異常(故障)診断をするものにおいて、燃料噴射量のフィードバック補正の感度変更(増量度合い、すなわち図4に示すような積分増量分の傾きの変更)を行った後においても、目標燃料噴射量の増量補正(Σ[時間偏差(+Δ)]×[感度定数(N)]、フィードバック補正値)が所定以上に大きくなった場合に、故障領域(異常領域)にあると判断するようにしたので、従来のような燃料噴射量のフィードバック制御の共振等に起因する誤診断の発生を抑制することができ、精度良く燃料噴射系の部品等に故障(異常)等が生じていると判断することができる。
【0044】
すなわち、従来のように、所定期間における気筒間の回転偏差を縮小するように燃料噴射量を各気筒毎にフィードバック制御し、単純に、そのフィードバック補正量と閾値とを比較することで特定気筒の異常(故障)診断をするものでは、燃料噴射ポンプ、燃料噴射ノズル、各燃料配管の製造バラツキなどのハードウェア的な特性バラツキ、回転速度の検出応答性などを含めた燃料噴射量の制御感度、気筒間の燃焼バラツキなどによって、或いはこれらが組み合わされ、更には外乱などの相乗的な作用によって、燃料噴射量のフィードバック制御が共振してしまうおそれがあり、このような場合には異常が無くても異常であると誤診断してしまうおそれがある。
【0045】
一方で、かかる共振の発生による誤診断は、回転偏差を縮小するための燃料噴射量のフィードバック制御の感度(積分増量分の大きさ)を変更することで回避することができる可能性が高いため、本実施の形態では、燃料噴射量のフィードバック制御の感度を複数の度合いに変更し、それでもなお目標燃料噴射量の補正量(Σ[時間偏差(+Δ)]×[感度定数(N)]、フィードバック補正値)が所定以上に大きくなった場合は、燃料噴射量のフィードバック制御の共振等が原因ではなく、真に燃料噴射系の部品等に故障(異常)が生じている可能性が高いとして異常(故障)であると診断するようにしたものである。
【0046】
このような構成の本実施の形態によれば、簡単かつ低コストな構成でありながら、精度良く内燃機関の燃料供給状態延いては燃焼状態の異常の有無を判定することができる内燃機関の異常判定装置を提供することができる。
【0047】
なお、本実施の形態では、時間偏差(+Δ)を、直前燃焼気筒に対して、今回データを取得した燃焼気筒の方が、ある一定のクランク角度間隔進むのに長い時間を要した場合を代表して説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、直前燃焼気筒に対して、今回データを取得した燃焼気筒の方が、ある一定のクランク角度間隔進むのに短い時間を要した場合の時間偏差(-Δ)により、該当気筒に関して前回の燃料噴射量に対して次回の目標燃料噴射量を減量補正するといった構成とすることも可能である。
また、直前気筒に対してその時間偏差が±Δとなる場合に、該当気筒に関し前回の燃料噴射量に対して次回の目標燃料噴射量を増量補正或いは減量補正するといった構成とすることも可能である。
【0048】
なお、本実施の形態に係る内燃機関の異常判定装置は、ECU10、回転パルサー6、回転センサ7といった従来の内燃機関に一般的に備えられているデバイスだけで構成することができ、別途新たなデバイスが不要であるという利点がある。
【0049】
また、本実施の形態において、内燃機関1は、例えばディーゼル燃焼を行うディーゼルエンジンとすることができるが、これに限定されるものではなく、ガソリンその他の物質を燃料とする内燃機関とすることができ、更に移動式・定置式の内燃機関とすることができる。
【0050】
以上で説明した実施の形態は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 内燃機関(エンジン)
2 燃焼室
3 燃料噴射弁
4 ピストン
5 クランク軸
6 回転パルサー
7 回転センサ
10 ECU(Engine Control Unit)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8