特許第5905758号(P5905758)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5905758
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】燃料噴射ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F02M 53/00 20060101AFI20160407BHJP
   F02D 1/02 20060101ALI20160407BHJP
【FI】
   F02M53/00 J
   F02D1/02 K
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-73992(P2012-73992)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-204498(P2013-204498A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 康博
(72)【発明者】
【氏名】南光 政樹
【審査官】 中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−106355(JP,A)
【文献】 特開2005−009348(JP,A)
【文献】 特開平05−010226(JP,A)
【文献】 実開昭60−070735(JP,U)
【文献】 実開昭62−093133(JP,U)
【文献】 特開平08−128335(JP,A)
【文献】 特開2006−336493(JP,A)
【文献】 特開2014−020324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 1/00−1/18
F02M 39/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプヘッドとポンプハウジングとから形成されるラック室の内部に燃料噴射量を調整するコントロールラックが配置されるエンジンの燃料噴射ポンプであって、
前記コントロールラックは、ラックガイドに摺動可能に支持されており、
前記ラック室、前記コントロールラック、及び前記ラックガイドを加熱する加熱手段を、前記ポンプヘッド又はラック室に設け、
前記エンジンの冷却水温度が、前記コントロールラックに付着している水滴が凍結する所定温度以下の場合に、前記加熱手段による加熱を開始し、所定時間経過後に、前記加熱手段による加熱を終了するように構成した
ことを特徴とする燃料噴射ポンプ。
【請求項2】
前記加熱手段は、グロープラグから構成され、前記ポンプヘッドに取り外し自在に設けられる請求項1に記載の燃料噴射ポンプ。
【請求項3】
前記加熱手段は、プレートヒーターから構成され、前記ラック室の内壁に設けられる請求項1に記載の燃料噴射ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料噴射装置の燃料噴射ポンプに関し、より詳細にはコントロールラックの凍結防止の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポンプヘッドとポンプハウジングとから形成されるラック室内にコントロールラックが配置されたエンジンの燃料噴射ポンプが公知となっている。コントロールラックを操作することにより、燃料噴射ポンプがエンジンに供給する燃料の量を調整することができる。
このような燃料噴射ポンプにおいて、常温状態のエンジンを始動する際に供給する燃料の量よりも低温状態のエンジンを始動する際に供給する燃料の量を増加させて、エンジンの始動性を向上させるものがある。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1に記載の燃料噴射ポンプは、エンジンの温度状態に応じてコントロールラックを移動させているリンクのストッパー位置を切り替える。これにより、コントロールラックの移動量を変更させてエンジンの始動性を向上させる。しかし、エンジンから浸入したブローバイガスに含まれる水分が凝縮してコントロールラックに付着している場合、コントロールラックの周囲の温度が氷点よりも下回ると水分がコントロールラック上で凍結する。この結果、コントロールラックが氷滴により動かなくなりエンジンに燃料が供給できなくなる可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−128335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、コントロールラックに付着した水分が凍結することによるエンジンの始動不良を防止する燃料噴射ポンプの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1においては、ポンプヘッドとポンプハウジングとから形成されるラック室の内部に燃料噴射量を調整するコントロールラックが配置されるエンジンの燃料噴射ポンプであって、前記コントロールラックは、ラックガイドに摺動可能に支持されており、前記ラック室、前記コントロールラック、及び前記ラックガイドを加熱する加熱手段を、前記ポンプヘッド又はラック室に設け、前記エンジンの冷却水温度が、前記コントロールラックに付着している水滴が凍結する所定温度以下の場合に、前記加熱手段による加熱を開始し、所定時間経過後に、前記加熱手段による加熱を終了するように構成したものである。
【0007】
請求項2においては、請求項1に記載の燃料噴射ポンプにおいて、前記加熱手段は、グロープラグから構成され、前記ポンプヘッドに取り外し自在に設けられるものである。
【0008】
請求項3においては、請求項1記載の燃料噴射ポンプにおいて、前記加熱手段は、プレートヒーターから構成され、前記ラック室の内壁に設けられるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0010】
請求項1に係る発明によれば、ラック室の内部で水分が凍結して氷滴が生成されても加熱手段によって溶解させることができる。これにより、コントロールラックに付着した水分が凍結することによるエンジンの始動不良を防止する。
【0011】
また、ラック室の内部で水分が凍結する可能性がある場合にラック室の内部が加熱される。これにより、コントロールラックに付着した水分が凍結することによるエンジンの始動不良を防止する。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、ラック室の内部に加熱手段を容易に設けることができる。また、加熱手段が故障しても容易に交換することができる。これにより、コントロールラックに付着した水分が凍結することによるエンジンの始動不良を防止する。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、ラック室の内部を全体的に加熱することができる。これにより、コントロールラックに付着した水分が凍結することによるエンジンの始動不良を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る燃料噴射ポンプ1の構成を示した一側面断面図。
図2】本発明に係る燃料噴射ポンプ1の構成を示した他側面断面図。
図3】本発明に係る燃料噴射ポンプ1の制御構成を示すブロック図。
図4】本発明に係る燃料噴射ポンプ1におけるラック室内の温度とブローバイガスに含まれる水分の状態との関係を示すグラフを表す図。
図5】本発明に係る燃料噴射ポンプ1の制御態様を表すフローチャートを示す図。
図6】本発明に係る燃料噴射ポンプ1の別実施形態の構成を示した他側面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明の好適な一実施形態に係る燃料噴射ポンプ1の構成について図1から図3を用いて説明する。なお、本発明には、各実施形態に示す構成を相互に組み合わせた構成も含まれる。
【0016】
燃料噴射ポンプ1は、燃料をディーゼルエンジン40(図3参照)の図示しない燃料噴射ノズルに供給するものである。本実施形態の燃料噴射ポンプ1は、ディーゼルエンジン40の各気筒に燃料を分配して供給する、いわゆる分配型の燃料噴射ポンプ1である。図1に示すように、燃料噴射ポンプ1は、ポンプハウジング2とポンプヘッド3とから構成される。
【0017】
ポンプハウジング2は、燃料噴射ポンプ1の下半部を成す構造体である。ポンプハウジング2の下部には、カム室4が形成される。ポンプハウジング2の上面には、略直方体形状に下方に凹んだ窪みが形成される。ポンプハウジング2には、ガバナ装置24を取り付けるためのガバナフランジ2aがポンプハウジング2と一体的に形成される。ポンプハウジング2には、カム軸6、カム6a、タペット8、ベベルギヤ10、伝達軸11等が組み付けられる。
【0018】
ポンプヘッド3は、燃料噴射ポンプ1の上半部を成す構造体である。ポンプヘッド3はポンプハウジング2の上に固定される。ポンプハウジング2の上面のうち前記窪みを形成している部分と、ポンプヘッド3の下面と、によって取り囲まれる空間は、ラック室5を成している。ラック室5はカム室4の上方に配置される。ポンプヘッド3には、プランジャ12、プランジャバレル13、スプリング14、分配軸15、スリーブ17、および調量機構18(図2参照)等が組み付けられる。
【0019】
カム軸6はカム室4に水平に架け渡される長い略円柱形状の部材である。カム軸6は、ベアリング等を介してポンプハウジング2に回転可能に支持される。カム軸6の途中部には、後述のプランジャ12を駆動させるカム6aが固定される。カム軸6の一側端部はガバナフランジ2aよりも突出している。カム軸6の他側端部にはカムギヤ7が固定される。カムギヤ7はディーゼルエンジン40のギヤケース43内の図示しない各種ギヤと連動連結される。これにより、カム軸6は、ディーゼルエンジン40の図示しないクランク軸の回転動力がギヤケース43に収容される各種ギヤを介して伝達される。
【0020】
タペット8は下端部を閉塞した略円筒形状の部材である。タペット8は、ポンプハウジング2に形成されたタペット孔2bに摺動可能に嵌装される。タペット孔2bは、カム室4とラック室5とを上下方向に連通するように形成された孔であり、タペット8により概ね塞がれている。タペット8は、その軸線方向がカム軸6に垂直な方向となるように、カム軸6の上方に配置される。タペット8の下端部には、ローラ9がカム6a上を転動可能に設けられる。
【0021】
伝達軸11は、ポンプハウジング2に支持される略円柱形状の部材である。伝達軸11はその軸線方向がカム軸6に垂直な方向となるように、カム軸6の上方に配置される。伝達軸11はポンプハウジング2に形成された伝達軸孔2cに回転可能に嵌装される。伝達軸孔2cはカム室4とラック室5とを上下方向に連通するように形成された孔であり、伝達軸11により概ね塞がれている。伝達軸11は、ベベルギヤ10・10を介してカム軸6と連動連結される。
【0022】
プランジャ12は、燃料を加圧するものである、プランジャ12は、略円柱形状の部材であり、ポンプヘッド3に固定されたプランジャバレル13に嵌装される。プランジャ12の上面とプランジャバレル13の内周面とで取り囲まれる空間は加圧室13aを構成している。プランジャ12は、その軸線方向がカム軸6に垂直な方向となるようにカム6aの上方に配置される。プランジャ12はプランジャバレル13の内周面に沿って軸線方向に摺動可能、かつ、周方向に回転可能に構成される。
【0023】
プランジャ12の下端部には、タペット8が係止される。さらに、プランジャ12の下端部には、圧縮コイルバネであるスプリング14が嵌装される。スプリング14の上端部はバネ受け16を介してポンプヘッド3に当接され、スプリング14の下端部はタペット8底部に当接される。これにより、タペット8は、スプリング14の付勢力により下方に付勢され、ローラ9を介してカム6aに常に当接される。
【0024】
分配軸15はポンプヘッド3に支持される略円柱形状の部材である。分配軸15はポンプヘッド3に固定されたスリーブ17に回転可能に嵌装される。分配軸15は、その軸線方向がカム軸6に垂直な方向となるように伝達軸11の上方に配置される。分配軸15は、伝達軸11と連動連結される。
【0025】
図2に示すように、調量機構18は、燃料噴射ポンプ1からディーゼルエンジン40の各気筒に供給する燃料の量を調整するための機構である。調量機構18は、ラックガイド19、コントロールラック20、コントロールスリーブ21、およびグロープラグ22を具備する。
【0026】
ラックガイド19は、コントロールラック20を支持する部材である。本実施形態のラックガイド19は、ラック室5の内部であるポンプヘッド3の下面に固定される。ラックガイド19には、コントロールラック20を貫装するための貫装孔が形成される。
【0027】
コントロールラック20は棒状の部材である。コントロールラック20はラックガイド19の貫装孔に貫装される。コントロールラック20はラックガイド19の貫装孔内を摺動可能である。コントロールラック20の一側端部はコントロールスリーブ21に接続され、コントロールラック20の中途部はピン等を介して後述するガバナ装置24のリンク30に接続される。なお、コントロールラック20は、後述のグロープラグ22によって効率よく加熱するために黒色に着色してもよい。
【0028】
コントロールスリーブ21は略円筒形状の部材である。コントロールスリーブ21は、プランジャ12とバネ受け16との間に挟まれた状態でプランジャ12に嵌装される。コントロールスリーブ21は、バネ受け16の内周面に沿って周方向に回転可能である。このときプランジャ12は、コントロールスリーブ21の回転にともなってコントロールスリーブ21と一体的に回転する。
【0029】
加熱手段であるグロープラグ22は、ラック室5の内部を加熱する。すなわち、ロープラグ22は、ラック室5の内部に配置されるコントロールラック20やラックガイド19を加熱する。グロープラグ22は、ポンプヘッド3に形成された取り付け孔3aに外部からラック室5にむけて挿入される。グロープラグ22は、一側端部がラック室5の内部のコントロールラック20近傍に到達するようにポンプヘッド3に固定される。また、グロープラグ22は、他側端部がポンプヘッド3から突出し、外部より容易に交換可能に構成される。グロープラグ22は、通電されると一側端部が発熱する。
【0030】
図3に示すように、制御装置23は、グロープラグ22の制御を行う。制御装置23は、グロープラグ22の制御を行うための種々のプログラムやデータが格納される。制御装置23は、CPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であってもよく、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であってもよい。
【0031】
制御装置23は、ディーゼルエンジン40の各種装置やセンサーに接続される。具体的には、制御装置23は、ディーゼルエンジン40の冷却水の温度を検出する冷却水温度センサー41に接続され、冷却水温度センサー41が検出する冷却水の温度信号を取得することができる。また、制御装置23は、ディーゼルエンジン40の電源スイッチ42に接続され、電源スイッチ42の入り信号を取得することができる。制御装置23は、グロープラグ22に接続され、グロープラグ22の入り切り制御することができる。
【0032】
次に、燃料噴射ポンプ1に取り付けられるガバナ装置24について、図1および図2を参照して説明する。
【0033】
ガバナ装置24は調量機構18を作動させるための装置である。ガバナ装置24は、支持部材25、複数の遠心錘26・26・・、スライド体27、ガバナアーム28、リンク30および、ガバナハウジング29等を備える。これらの部材を収容したガバナハウジング29がボルト等を用いてガバナフランジ2aに取り付けられる。
【0034】
支持部材25は、遠心錘26・26・・を支持する部材である。支持部材25は、カム軸6上のガバナフランジ2aの内側となる位置に固定される。支持部材25はカム軸6の回転にともなってカム軸6と一体的に回転する。支持部材25には、複数の遠心錘26・26・・が支持される。
【0035】
遠心錘26・26・・は、スライド体27を摺動させる錘である。複数の遠心錘26・26・・は、その一端がカム軸6の軸心から離間可能に支持部材25に支持される。複数の遠心錘26・26・・の他端は、カム軸6の先端部に嵌装されるスライド体27の一端に当接される。スライド体27は、遠心錘26・26・・の一端がカム軸6から離間する方向に移動すると、遠心錘26・26・・の他端によって軸方向に押し出される。
【0036】
スライド体27は、ガバナアーム28を押し出す部材である。スライド体27は、ガバナハウジング29に回転自在に支持されるガバナアーム28の一側に当接される。ガバナアーム28の他側には、リンク30が接続される。リンク30は、ガバナフランジ2aに形成されたガバナ連通孔2dを介してコントロールラック20に接続される。
【0037】
以下では、このように構成される燃料噴射ポンプ1の動作態様について説明する。
【0038】
カム軸6が回転すると、カム6aに当接しているタペット8がタペット孔2b内を上下方向に往復運動する。これにともなって、プランジャ12がプランジャバレル13内を上下方向に往復運動する。これにより、燃料は、加圧室13a内に吸入および加圧された後に分配軸15に供給される。
【0039】
分配軸15は、カム軸6が回転することにより、ベベルギヤ10・10および伝達軸11を介して回転する。分配軸15に供給された燃料は、分配軸15の回転によりデリバリバルブ31に供給される。デリバリバルブ31に供給された燃料は図示しない噴射管を通って各気筒の燃料噴射ノズルから噴射される。
【0040】
ガバナ装置24において、カム軸6と一体的に回転する遠心錘26・26・・は、発生する遠心力の大きさに応じてスライド体27を移動させる。スライド体27の移動によってガバナアーム28が支持軸回りに回転される。ガバナアーム28の回転によってリンク30が移動される。リンク30の移動によってコントロールラック20がラックガイド19の貫装孔内を移動される。コントロールラック20の移動によってコントロールスリーブ21およびプランジャ12が周方向に回転される。これにより、燃料噴射ポンプ1から各気筒に供給する燃料の量を調整することを可能としている。
【0041】
次に、ラック室5の内部のブローバイガスに含まれる水分の状態について図2および図4を用いて説明する。
【0042】
図2に示すように、ディーゼルエンジン40が始動されると、カム軸6やプランジャ12の稼動によってポンプハウジング2の内圧が変動する。この結果、ディーゼルエンジン40のギヤケース43とポンプハウジング2との間で空気が移動する。これに伴い、水分を含んだブローバイガスがギヤケース43を介してポンプハウジング2内に浸入する。図4に示すように、ラック室5の内部(コントロールラック20)の温度がブローバイガスの露点温度以下であるとき、ラック室5の内部のブローバイガス中の水分は、凝縮して水滴となりコントロールラック20等に付着する。
【0043】
ディーゼルエンジン40の稼動によりラック室5の内部の温度がブローバイガスの露点温度を上回ると、コントロールラック20等に付着していた水滴は蒸発する(図4における線A)。ディーゼルエンジン40の稼動が停止されてラック室5の内部の温度がブローバイガスの露点温度以下になった場合、ラック室5の内部に残存するブローバイガス中の水分が凝縮してコントロールラック20等に水滴として付着する。ラック室5の内部の温度がさらに低下して氷点下になった場合、コントロールラック20等に付着している水滴が凍結して氷滴となる。
【0044】
一方、ラック室5の内部の温度がブローバイガスの露点温度以下の状態でディーゼルエンジン40が稼動され続けると、ディーゼルエンジン40からラック室5の内部に浸入したブローバイガスに含まれる水分が凝縮してコントロールラック20に重畳的に付着する(図4における線B)。つまり、コントロールラック20に付着する水滴の量は、ディーゼルエンジン40の稼動時間に略比例して増大する。ディーゼルエンジン40の稼動が停止されてラック室5の内部の温度が氷点下になった場合、コントロールラック20等に付着している水滴が凍結して氷滴となる。
【0045】
ディーゼルエンジン40の稼動環境が氷点下である状態でディーゼルエンジン40を始動させる場合、ラック室5の内部の温度も氷点下である可能性が高い。従って、ディーゼルエンジン40の電源スイッチ42が入りにされてから所定時間の間、グロープラグ22が通電される。グロープラグ22は、一側端部が発熱し(図2黒塗り矢印参照)、ラック室5の内部を加熱する。所定時間経過後にコントロールラック20を操作してディーゼルエンジン40を始動させる。
【0046】
以下では、図3および図5を用いて上述の如く構成される燃料噴射ポンプ1における制御装置23の動作態様について説明する。
【0047】
図3に示すように、制御装置23は、電源スイッチ42からの入り信号を取得すると、冷却水温度センサー41からディーゼルエンジン40の冷却水の温度信号を取得する。制御装置23は、取得した信号に基づいてグロープラグ22の入り切りを制御する。
【0048】
図5に示すように、制御装置23は、以下のステップでグロープラグ22の入り切りを制御する。
【0049】
まず、ステップS101において、制御装置23は、制御装置23に接続されている電源スイッチ42からの入り信号を取得する。
【0050】
ステップS102において、制御装置23は、制御装置23に接続されている冷却水温度センサー41から冷却水の温度信号を取得する。
【0051】
ステップS103において、制御装置23は、冷却水温度センサー41からの冷却水の温度信号から、冷却水の温度Tが基準温度Ttよりも低いか否か判定する。すなわち、却水の温度Tに基づいてラック室5の内部のコントロールラック20に付着している水滴が凍結している可能性が高いか否か判定する。
その結果、温度Tが基準温度Ttよりも低いと判定した場合、すなわち、却水の温度Tに基づいてラック室5の内部のコントロールラック20に付着している水滴が凍結している可能性が高いと判定した場合、制御装置23は、ステップをステップS104に移行させる。一方、温度Tが基準温度Ttよりも低くないと判定した場合、すなわち、却水の温度Tに基づいてラック室5の内部のコントロールラック20に付着している水滴が凍結している可能性が高くないと判定した場合、制御装置23は、ステップをステップS204に移行させる。
【0052】
ステップS104において、制御装置23は、グロープラグ22の電源を入りにする。すなわち、制御装置23は、グロープラグ22によってコントロールラック20に付着している氷滴を融解させる。その後、制御装置23は、ステップをステップS105に移行させる。
【0053】
ステップS105において、制御装置23は、グロープラグ22の入り時間が所定時間経過したか判定する。この所定時間はグロープラグ22による過熱により凍結した氷滴を融解させるのに十分な時間に設定される。その結果、グロープラグ22の入り時間が所定時間経過したと判定した場合、制御装置23は、ステップをステップS106に移行させる。一方、グロープラグ22の入り時間が所定時間経過していないと判定した場合、制御装置23は、ステップをステップS105に戻す。
【0054】
ステップS106において、制御装置23は、グロープラグ22の電源を切りにしてディーゼルエンジン40を始動させる。
【0055】
ステップS204において、制御装置23は、ディーゼルエンジン40を始動させる。
【0056】
以上が本実施形態に係る燃料噴射ポンプ1の動作態様についての説明である。なお、本発明の技術的思想は、上述したディーゼルエンジン40および燃料噴射ポンプ1への適用に限るものではなく、その他の構成のエンジンおよび燃料噴射ポンプに適用することが可能である。
【0057】
加えて、図6に示すように、本実施形態の別実施形態として、加熱手段であるグロープラグ22の代わりにプレートヒーター32を使用した燃料噴射ポンプ1がある。
【0058】
加熱手段であるプレートヒーター32は、ラック室5の内部を加熱する。すなわち、ロープラグ22は、ラック室5の内部に配置されるコントロールラック20やラックガイド19を加熱する。プレートヒーター32は、ラック室5の内壁に固定される。プレートヒーター32は、一側面がラック室5の内部のコントロールラック20と相対するように配置される。プレートヒーター32は、通電されるとその一側面が発熱し(図6黒塗り矢印参照)、ラック室5の内部のコントロールラック20を全体的に加熱する。
【0059】
以上の如く、本発明の第一実施形態に係る燃料噴射ポンプ1は、ポンプヘッド3とポンプハウジング2とから形成されるラック室5の内部に燃料噴射量を調整するコントロールラック20が配置されるディーゼルエンジン40の燃料噴射ポンプ1であって、ラック室5及びコントロールラック20を加熱する加熱手段であるグロープラグ22が設けられるものである。このように構成することにより、ラック室5の内部で水分が凍結して氷滴が生成されてもグロープラグ22によって溶解させることができる。これにより、コントロールラック20に付着した水分が凍結することによるディーゼルエンジン40の始動不良を防止する。
【0060】
また、本発明の第一実施形態に係る燃料噴射ポンプ1は、制御装置23を更に備え、ディーゼルエンジン40の電源が入った時にディーゼルエンジン40の冷却水温度Tが基準温度Tt以下の場合、グロープラグ22の加熱を開始し、所定時間経過後に加熱を終了するものである。このように構成することにより、ラック室5の内部で水分が凍結する可能性がある場合にラック室5の内部が加熱される。これにより、コントロールラック20に付着した水分が凍結することによるディーゼルエンジン40の始動不良を防止する。
【0061】
また、グロープラグ22は、ポンプヘッド3に取り外し自在に設けられるものである。 このように構成することにより、ラック室5の内部にグロープラグ22を容易に設けることができる。また、グロープラグ22が故障しても容易に交換することができる。これにより、コントロールラック20に付着した水分が凍結することによるディーゼルエンジン40の始動不良を防止する。
【0062】
また、グロープラグ22に替えてプレートヒーターが設けられ、ラック室5の内壁に設けられるものである。このように構成することにより、ラック室5の内部を全体的に加熱することができる。これにより、コントロールラック20に付着した水分が凍結することによるディーゼルエンジン40の始動不良を防止する。
【0063】
また、コントロールラック20は、黒色に着色されるものである。このように構成することにより、コントロールラック20を効率的に加熱することができる。これにより、コントロールラック20に付着した水分が凍結することによるディーゼルエンジン40の始動不良を防止する。
【符号の説明】
【0064】
1 燃料噴射ポンプ
2 ポンプハウジング
3 ポンプヘッド
5 ラック室
20 コントロールラック
22 グロープラグ
図1
図2
図3
図4
図5
図6