特許第5905788号(P5905788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5905788熱可塑性樹脂発泡体の製造方法及び熱可塑性樹脂発泡体の製造装置
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  • 特許5905788-熱可塑性樹脂発泡体の製造方法及び熱可塑性樹脂発泡体の製造装置 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5905788
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂発泡体の製造方法及び熱可塑性樹脂発泡体の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/06 20060101AFI20160407BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20160407BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20160407BHJP
【FI】
   C08J9/06CES
   B29C67/22
   B29K23:00
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-158320(P2012-158320)
(22)【出願日】2012年7月17日
(65)【公開番号】特開2014-19768(P2014-19768A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100119091
【弁理士】
【氏名又は名称】豊山 おぎ
(72)【発明者】
【氏名】西島 聡
(72)【発明者】
【氏名】寺地 信治
(72)【発明者】
【氏名】横山 順一
(72)【発明者】
【氏名】大元 正信
(72)【発明者】
【氏名】須藤 新吾
(72)【発明者】
【氏名】松本 英志
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−123460(JP,A)
【文献】 特開昭57−126630(JP,A)
【文献】 特開2001−129879(JP,A)
【文献】 特開2007−320055(JP,A)
【文献】 特開昭52−096674(JP,A)
【文献】 特公昭43−022674(JP,B1)
【文献】 特開平05−031815(JP,A)
【文献】 特開平10−156855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−42
B29C 67/20
B29C 44/00−60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂及び熱分解型発泡剤を含む熱可塑性樹脂組成物からなり、架橋された未発泡体を加熱して発泡する熱可塑性樹脂発泡体の製造方法において、
前記未発泡体をその発泡度が20%を超えない範囲となるように近赤外線により加熱して発泡させ、その後熱風により加熱して発泡することを特徴とする熱可塑性樹脂発泡体の製造方法。
【請求項2】
前記近赤外線により加熱することによる前記未発泡体の単位時間あたりの昇温速度が、前記未発泡体を前記熱分解型発泡剤の分解開始温度と同じ温度の熱風により前記分解開始温度よりも30℃低い温度から前記分解開始温度まで加熱する場合の前記未発泡体の単位時間あたりの昇温速度よりも速いことを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法。
【請求項3】
前記未発泡体の表面温度が前記熱分解型発泡剤の分解開始温度よりも高くなるまで前記近赤外線により前記未発泡体を加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂発泡体の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂及び熱分解型発泡剤を含む熱可塑性樹脂組成物からなる未発泡体を加熱して発泡させる発泡炉を備えた熱可塑性樹脂発泡体の製造装置であって、
前記発泡炉は、熱風を加熱手段とするものであり、
前記発泡炉の上流側に、近赤外線により前記未発泡体をその発泡度が20%を超えない範囲となるように加熱して発泡させる加熱炉を備えていることを特徴とする熱可塑性樹脂発泡体の製造装置。
【請求項5】
前記近赤外線により加熱することによる前記未発泡体の単位時間当たりの昇温速度が、前記未発泡体を前記熱分解型発泡剤の分解開始温度と同じ温度の熱風により前記分解開始温度よりも30℃低い温度から前記分解開始温度まで加熱する場合の前記未発泡体の単位時間当たりの昇温速度よりも速くなるよう設定されていることを特徴とする請求項に記載の熱可塑性樹脂発泡体の製造装置。
【請求項6】
前記加熱炉は、前記未発泡体の表面温度が前記熱分解型発泡剤の分解開始温度よりも高くなるまで前記近赤外線により前記未発泡体を加熱するものであることを特徴とする請求項4又は5に記載の熱可塑性樹脂発泡体の製造装置。
【請求項7】
前記加熱炉及び前記発泡炉は、それぞれ前記未発泡体の送入口と送出口とを有し、前記加熱炉の前記送出口と前記発泡炉の送入口とが連結されていることを特徴とする請求項4から6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂発泡体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂発泡体の製造方法及び熱可塑性樹脂発泡体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱可塑性樹脂発泡体の製造においては、発泡樹脂製品の品質及び製造効率の向上を図るために諸種の製造方法が開発されている。
熱可塑性樹脂発泡体の製造方法としては、熱風等の対流加熱を用いる方法や近赤外線等による輻射加熱を用いる方法等があり、それぞれ異なる装置によって適用されている。
熱風加熱を用いた熱可塑性樹脂発泡体の製造方法によれば、不活性ガスの噴射ノズルを備えた加熱炉内に、ベルトに載せられたシート状の熱可塑性樹脂組成物を送り込み、不活性ガスを熱媒体として、熱可塑性樹脂組成物を加熱して発泡させ、その後冷却して熱可塑性樹脂発泡体を得る。
【0003】
また、近赤外線等による輻射加熱を用いて発泡させる場合、駆動ロールと輻射ヒータを備えた加熱装置にシート状の熱可塑性樹脂組成物を送り込み、遠赤外線ヒータ若しくは近赤外線ヒータによりシート状の熱可塑性樹脂組成物を上下両面から加熱する。このような近赤外線加熱を用いた熱可塑性樹脂組成物の発泡方法としては、例えば下記特許文献1に記載された方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−129879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、熱風加熱による場合は、空気を介して未発泡体を加熱するものであるため、加熱装置の外気温との差による熱損失が大きく、又、熱可塑性樹脂組成物への加熱効率が悪いため、発泡の完了までに長時間掛かる。したがって、熱可塑性樹脂発泡体の製造効率が悪いという問題があった。
また、発泡の完了までの時間を短縮するために、より高温にした熱風により加熱する場合は、急速加熱ができたとしても、表層の発泡のみが過度に進行し、表層と芯層との発泡バランスの悪い熱可塑性樹脂発泡体しか得られないという問題があった。
また、近赤外線ヒータ等の輻射加熱を用いた場合、熱可塑性樹脂組成物が搬送される際に蛇行やブレが生じてしまうことにより、近赤外線ヒータ等と熱可塑性樹脂組成物との間の距離にばらつきが生じる。したがって、昇温速度が部分的に変化してしまい、厚さ方向の発泡状態にバラつきが生じやすく、全体が均質に発泡された熱可塑性樹脂発泡体が得られ難いという問題があった。
本発明は、上記課題に鑑み、効率良く発泡状態が均質な熱可塑性樹脂発泡体を製造する方法及び熱可塑性樹脂発泡体の製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、熱可塑性樹脂及び熱分解型発泡剤を含む熱可塑性樹脂組成物からなり、架橋された未発泡体を加熱して発泡する熱可塑性樹脂発泡体の製造方法において、前記未発泡体を近赤外線により加熱し、その後熱風により加熱して発泡することを特徴とする。
本発明では、熱風による発泡の前に、前記近赤外線により前記未発泡体を加熱するため、前記未発泡体の表層及び芯層を近赤外線により熱損失を抑えて効率良く加熱し、その後、熱風により均質に加熱することができる。
【0007】
請求項2の発明は、前記近赤外線により加熱することによる前記未発泡体の単位時間あたりの昇温速度が、前記未発泡体を前記前記熱分解型発泡剤の分解開始温度と同じ温度の熱風により前記分解開始温度よりも30℃低い温度から前記分解開始温度まで加熱する場合の前記未発泡体の単位時間あたりの昇温速度よりも速いことを特徴とする。
本発明では、未発泡体を前記熱分解型発泡剤の分解開始温度と同じ温度の熱風により分解開始温度よりも30℃低い温度から分解開始温度まで加熱する場合の昇温速度よりも、高い昇温速度となるように近赤外線で加熱する。そのため、前記未発泡体の昇温ないし発泡に要する時間を可及的に短くして熱可塑性樹脂発泡体を効率よく製造することができる。
【0008】
請求項3の発明は、前記未発泡体をその発泡度が20%を超えない範囲で前記近赤外線により加熱することを特徴とする。
ここで、発泡度とは、未発泡体の発泡度を0%とし、最終発泡倍率に対する実際の発泡倍率の割合を百分率で表したものである。また、発泡倍率は、加熱した後の前記未発泡体を直ちに水中浸漬により急冷却させて発泡の進行を停止させ、水中から取り出して24時間、常温(20℃±15℃;JISZ8703)にて乾燥させた後に、JISZ8807に準拠して求めた密度から算出されるものである。
本発明では、未発泡体の発泡度が20%を超えない範囲で近赤外線により加熱するため、未発泡体の表面形状が不均一となることによる局所的な変形が発生することを回避することができる。その結果、前記局所的に変形された箇所において近赤外線の熱源と未発泡体の表面との間の距離が近くなり過ぎて、前記変形された箇所において過度な発泡又は焼けが発生することを回避することができる。そして、未発泡体に過度な発泡又はやけが生じる前から熱風により加熱するため、未発泡体を均質に発泡させることができる。
【0009】
請求項4の発明は、前記未発泡体の表面温度が前記熱分解型発泡剤の分解開始温度より高くなるまで前記近赤外線により前記未発泡体を加熱することを特徴とする。
本発明によれば、未発泡体の表面温度が前記熱分解型発泡剤の分解開始温度よりも高くなるまで前記近赤外線により前記未発泡体を加熱することにより、その後熱風による前記未発泡体の発泡を速やかに開始させることができる。
【0010】
請求項5の発明は、熱可塑性樹脂及び熱分解型発泡剤を含む熱可塑性樹脂組成物からなる未発泡体を加熱して発泡させる発泡炉を備えた熱可塑性樹脂発泡体の製造装置であって、
前記発泡炉は、熱風を加熱手段とするものであり、前記発泡炉の上流側に、近赤外線により前記未発泡体を加熱する加熱炉を備えていることを特徴とする。
本発明によれば、発泡炉の上流側において、前記未発泡体を前記近赤外線により加熱する加熱炉を有しているため、未発泡体を熱損失を抑えて効率良く加熱することができ、発泡状態が均質な熱可塑性樹脂発泡体を製造することができる。
【0011】
請求項6の発明は、前記近赤外線により加熱することによる前記未発泡体の単位時間当たりの昇温速度が、前記未発泡体を前記熱分解型発泡剤の分解開始温度と同じ温度の熱風により前記分解開始温度よりも30℃低い温度から前記分解開始温度まで加熱する場合の前記未発泡体の単位時間当たりの昇温速度よりも速くなるよう設定されていることを特徴とする。
本発明では、未発泡体を前記熱分解型発泡剤の分解開始温度の熱風により分解開始温度よりも30℃低い温度から分解開始温度まで加熱する場合よりも高い昇温速度で近赤外線により加熱する。そのため、前記未発泡体の昇温及び発泡に要する時間を可及的に短くして熱可塑性樹脂発泡体を効率よく製造することができる。
【0012】
請求項7の発明は、前記近赤外線は、前記未発泡体をその発泡度が20%を超えない範囲で加熱することを特徴とする。
本発明では、前記加熱炉において、未発泡体の発泡度が20%を超えない範囲で加熱するため、未発泡体の表面形状が不均一となることによる局所的な変形が発生することを回避することができる。その結果、前記局所的に変形された箇所において近赤外線の発生源と未発泡体の表面との間の距離が近くなり過ぎて、前記変形された箇所において過度な発泡又は焼けが発生することを回避することができる。そして、未発泡体に過度な発泡又は やけが生じる前から熱風により加熱するため、未発泡体を均質に発泡させることができる。
【0013】
請求項8の発明は、前記加熱炉は、前記未発泡体の表面温度が前記熱分解型発泡剤の分解開始温度よりも高くなるまで前記近赤外線により前記未発泡体を加熱するものであることを特徴とする。
本発明では、前記未発泡体の表面温度が前記熱分解型発泡剤の分解開始温度よりも高くなるまで前記近赤外線により前記未発泡体を加熱することにより、熱風による前記未発泡体の発泡を速やかに開始させることができる。
【0014】
請求項9の発明は、前記加熱炉及び前記発泡炉は、それぞれ前記未発泡体の送入口と送出口とを有し、前記加熱炉の前記送出口と前記発泡炉の送入口とが連結されていることを特徴とする。
本発明では、前記加熱炉の前記送出口と前記発泡炉の前記挿入孔とが連結しているため、加熱炉で加熱された未発泡体を冷却させることなく発泡炉に挿入することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱可塑性樹脂発泡体を効率的かつ均質に製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】は、本発明の一実施形態として示した熱可塑性樹脂発泡体の製造方法を用いた製造装置を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1を参照して本発明の実施形態について説明する。
本実施形態において、熱可塑性樹脂発泡体は、熱可塑性樹脂及び熱分解型発泡剤を含む熱可塑性樹脂組成物からなり、架橋された未発泡体を、その発泡度が20%を超えない範囲でかつ表面が分解開始温度よりも高くなるまで近赤外線により加熱し、その後熱風により加熱して発泡させたものである。
なお、分解開始温度とは、熱分解型発泡剤がごくわずかでも分解し始める温度をいい、発泡剤の種類、粒径、添加する助剤により異なるが、例えば、アゾジカルボンアミドで助剤を添加しない場合は約160℃〜205℃である。
【0018】
前記未発泡体は、熱可塑性樹脂発泡体の原料となる熱可塑性樹脂組成物をシート状にした未架橋の原反シート10aを架橋して得られたものである。原反シート10aは、熱可塑性樹脂、熱分解型発泡剤及び必要に応じて添加された発泡助剤等の添加剤を含んでいる。
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、ポリプロピレン等のポリオレフィン系熱可塑性樹脂が挙げられる。これらは単独で用いても、2種類以上適宜混合して使用してもよいが、ポリエチレン、ポリプロピレンがよく利用される。
【0019】
熱分解型発泡剤(以下、単に「発泡剤」という)としては、加熱により分解ガスを発生するものであれば特に限定されないが、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ベンゼンスルホニルヒドラジド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、トルエンスルホニルヒドラジド、4 , 4 − オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)が挙げられる。これらは単独で用いてもまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。その中でもADCAが特に好適に用いられる。
なお、発泡剤は、樹脂の溶融温度以上の分解温度を持たなくてはならないこと、よく利用される熱可塑性樹脂であるポリエチレン、ポリプロピレンの融点が105℃、145℃であること、コスト的に安いことを考慮すると、上記発泡剤のうち、ADCAを用いることが望ましい。
【0020】
原反シート10aの架橋にあたっては、化学架橋または電子線架橋のいずれも用いることができるが、本実施形態においては化学架橋を用いている。化学架橋に用いられる有機過酸化物としては、特に限定されないが、ジアシルパーオキサイド化合物、ジアルキルパーオキサイド化合物、パーオキシケタール化合物、アルキルパーエステル化合物、パーカボネート化合物等が用いられている。
具体的には、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ジ(4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレラート、ジ−(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等が挙げられる。これらの有機過酸化物は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0021】
図1に示す熱可塑性樹脂発泡体の製造装置1は、本発明の一実施態様の熱可塑性樹脂発泡体10cの製造方法に用いられるものである。この図に示すように、熱可塑性樹脂発泡体の製造装置1は、押出機2と、架橋機3と、加熱炉4と、発泡炉5と、冷却ロール6,6,6と、巻取り機7とを備えている。
【0022】
押出機2は、ホッパー8と、ホッパー8から投入される熱可塑性樹脂材料、発泡剤、架橋剤及び添加剤を混練溶融して一方向に押し出す不図示のシリンダ及びスクリューと、混練溶融された熱可塑性樹脂材料等をシート状に形成する金型9とを備え、熱可塑性樹脂組成物よりなる未架橋の原反シート10aを作製するものである。
【0023】
スクリューを備える押出機2として、1軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、3本以上のスクリューを備えた多軸スクリュー押出機などがいずれも好適に用いられる。1軸スクリュー押出機としては、一般的なフルフライト型スクリューに加え、不連続フライト型スクリュー、ピンバレル、ミキシングヘッドなどを有する押出機なども用いられる。また、上記2軸スクリュー押出機としては、噛み合い同方向回転型押出機、噛み合い異方向回転型押出機、非噛み合い異方向回転型押出機などが好適に使用し得る。なお、押出機の後段に真空ベントを設けることは、熱可塑性樹脂組成物中に揮発物が残存するのを防ぐのに効果的である。
【0024】
なお、スクリューを備える押出機の他、一般的にプラスチック成形加工で使用されうる溶融混練装置であればよく、例えばニーダー、ローター、連続混練機などが例示される。
【0025】
架橋機3は、原反シート10aを所定の温度で接触加熱し、架橋するためのものであり、原反シート10aの加熱の手段として、1)伝導伝熱による加熱、2)不活性ガス加熱媒体もしくは油浴による対流伝熱による加熱、3)自然対流における輻射伝熱による加熱が例示される。
【0026】
1)伝導伝熱による加熱には、プレス加熱、金型内加熱、ダブルベルト挾持加熱、ロールによる加熱等がある。以下、これらを詳述する。
【0027】
1−1)プレス加熱は、熱可塑性樹脂組成物よりなる未架橋の原反シート10aを加熱プレス板間に挟み込み、所定時間加熱後、上記原反シートをプレス板間から取り出して、冷却プレス板間に挟んで冷却することにより架橋済みの原反シート10bを得る方法である。これは簡易でありよく実施されるが、バッチ処理となる。
【0028】
1−2)金型内加熱は、賦形された熱可塑性樹脂組成物よりなる未架橋の原反シート10aの形状と同形状の金型内に押出機2から上記原反シート10aを送り込み、金型のヒータで加熱し、次いで冷却し、架橋済みの原反シート10bを得る方法である。通常、金型内では上記原反シート10aの摩擦係数が高いため、上記原反シート10aを円滑に移動させることが難しい。これを克服するのによく使われる手段として、金型の潤滑剤供給から潤滑剤を注入するか、もしくは金型内表面にテフロン(登録商標。以降同様)等の低摩擦係数の材料をコーティングし、摩擦係数を低減させる方法が採られる。
【0029】
1−3)ダブルベルト挾持加熱は、駆動ロールで同方向に駆動される上下無端ベルトで、送出機から送り出される熱可塑性樹脂組成物よりなる未架橋の原反シート10aを挟み込んで固定ヒータで加熱し、次いで冷却する方法である。ベルトは好ましくはスチールベルトもしくは長繊維含浸テフロンベルトである。
【0030】
1−4)ロール加熱法は、所定温度に加熱され、かつ多段に設置されたロール間に熱可塑性樹脂組成物よりなる未架橋の原反シート10aを送り込んで加熱しついで冷却する方法である。
【0031】
2)対流伝熱による加熱には、不活性ガスを利用した熱風加熱方法、および、油浴による方法がある。
【0032】
2−1)不活性ガスを利用した熱風加熱は、多数の上下ガス噴射ノズルを備えた熱風加熱炉内に、ベルト上に載せられた熱可塑性樹脂組成物よりなる未架橋の原反シート10aを送り込み、不活性ガスを熱媒体として、発泡性樹脂組成物を加熱しついで冷却する方法である。この際、大気中の空気が炉内に入り込まないように加熱炉両端をエアーカーテン装置によるエアーカーテンで遮断することが好ましい。
【0033】
2−2)油浴による加熱は、油浴中に熱可塑性樹脂組成物よりなる未架橋の原反シート10aを送り込み、熱処理する方法である。オイルとしてはシリコーンオイル、ポリエチレングリコール等がよく用いられる。
【0034】
3)輻射伝熱による加熱は、駆動ロールと輻射ヒータを備えた加熱装置へ熱可塑性樹脂組成物よりなる未架橋の原反シート10aを送り込み、遠赤外線ヒータもしくは近赤外線ランプヒータにより、上記原反シート10aを上下両面から加熱する方法である。
この方法では、熱風加熱法の場合のような不活性ガスを用いる必要はない。
【0035】
なお、加熱手段としては、上記の例示手段、1)伝導伝熱による加熱、2)不活性ガス加熱媒体もしくは油浴による対流伝熱による加熱、3)自然対流における輻射伝熱による加熱のうちいずれか1つを適宜選択すればよく、また必要に応じてこれら手段を2以上組合せることも可能である。
【0036】
これらの加熱手段は、架橋に適した所定の温度に設定されており、架橋されて未発泡の原反シート10b(未発泡体)を送出するようになっている。
【0037】
架橋機3と加熱炉4との間には、水平方向に送出された原反シート10bの送出方向を鉛直方向上向きに変更し、更に所定の高さで反転させて原反シート10bの送出方向を鉛直方向下向きに変更するローラー13A,13Bが適宜設けられている。そして、原反シート10bが鉛直方向下向きに送出されている箇所に対応して加熱炉4と発泡炉5とが設けられている。
具体的には、加熱炉4と発泡炉5とは、原反シート10bが鉛直方向下向きに送出されるよう向きを変えた位置近傍すなわち、ローラー13Bの直下に原反シート10bの通路14に沿ってこの順で配置されている。
【0038】
加熱炉4は、中央に原反シート10bの通路14が設けられ、加熱手段としての近赤外線ヒータ15,15・・が、原反シート10bの両面にそれぞれ対向するように通路14を挟むように配置されている。
近赤外線ヒータ15は、複数の棒状のヒータランプ(不図示)が所定のピッチで平行に配列されてユニット状に構成されたものである。不図示のヒータランプは、波長が2.5μm以下の電磁波である近赤外線を放出するようになっている。
【0039】
近赤外線ヒータ15,15の各ヒータランプの表面と、原反シート10bの表面との間の距離は、例えば、原反シート10bの厚さが0.5mm〜10mmの場合、3cm〜25cmの範囲、好ましくは5cm〜20cmの範囲に設定されている。
なお、上記の場合、近赤外線ヒータ15,15の表面と、原反シート10bの表面との間の距離が、3cmより小さくなると、原反シート10bの搬送中に近赤外線ヒータ15,15の表面と原反シート10bの表面とが接触してしまうおそれがあり、25cmより大きいと近赤外線が拡散して効率良く昇温させることが困難となる。
【0040】
近赤外線ヒータ15,15のワット密度及び出力は、この近赤外線ヒータ15,15による原反シート10bの昇温速度、すなわち単位時間あたりの原反シート10bの昇温度数が、原反シート10bをこの原反シート10bに含まれた発泡剤の分解開始温度と同温(実質的な同温を含む)の熱風により、分解開始温度よりも30℃低い温度から分解開始温度まで加熱する場合の原反シートの単位時間あたりの昇温速度(以下「基準昇温速度」という)よりも高くなるように設定されている。
【0041】
また、近赤外線ヒータ15,15による加熱時間は、原反シート10bの表面温度が発泡剤の分解開始温度よりも高くなる範囲で、かつ、原反シート10bの発泡度が20%を超えない範囲となるように設定されている。
【0042】
発泡炉5は、熱風のみを加熱手段としたものであり、加熱炉4における加熱の後に原反シート10bが前記熱風によって発泡を開始できるように加熱炉4の下流側に設置されている。
発泡炉5内には、この炉内を通過する原反シート10bに対して熱風ノズル(不図示)が配置されているとともに検温装置が設置されている。そして、熱風ノズルは、熱風を送出することにより加熱炉4内の空気を均一に加熱して発泡炉5全体を(分解開始温度以上、分解開始温度+100℃以下の範囲で)均一に昇温させて、原反シート10bの外表面及び内部の発泡を進行させることができるようになっている。
【0043】
発泡炉5と加熱炉4との距離は、加熱炉4の送出口4bから送出された原反シート10bの表面温度が、発泡炉5の送入口5aに送入されるまでの間に発泡剤の分解開始温度よりも大幅に下がって発泡炉5における発泡の開始を遅らせることがないように近接して配置されている。具体的には、発泡炉5は、送出口4bから送出された直後の原反シート10bの表面温度が約10℃以上低下させない距離で、加熱炉4に近接して配置されていることが好ましい。
発泡炉5は、原反シート10bを熱可塑性樹脂発泡体(以下「発泡体シート」という)10cに発泡させた後、送出口5bから送出するようになっている。
【0044】
冷却ロール6,6,6は、内部を冷却水が循環するようになっており、発泡炉5から送り出されてきた発泡体シート10cに当接し、発泡体シート10cをガイドしながら冷却するようになっている。巻取り機7は、冷却された発泡体シート10cを連続的にロール状に巻き取るようになっている。
【0045】
次に、上記製造装置1を用いた発泡体シート10cの製造方法について説明する。
まず、押出機2のホッパー8に、熱可塑性樹脂材料、発泡剤、架橋剤及びその他必要に応じて添加した添加剤を投入し、押出機2により発泡剤及び架橋剤の分解開始温度よりも低い温度でこれら熱可塑性樹脂材料、発泡剤、架橋剤及び添加剤を混練溶融して金型9に向けて押し出し、熱可塑性樹脂組成物からなる原反シート10aを成形する。
【0046】
そして、押出機2により成形された未架橋の原反シート10aを架橋機3に案内し、架橋に適した所定の温度で接触加熱する。この際、原反シート10aの発泡を抑制しつつ、必要な架橋度が発現するように温度を設定する。架橋機3から搬出された架橋済みの原反シート10bは、ローラー13Aを介して水平方向から鉛直方向上方に向かって送出され、更にローラー13Bで鉛直方向下方に向かって折り返され、加熱炉4に送り込まれる。
【0047】
加熱炉4では、基準昇温速度よりも高い昇温速度で、原反シート10bの表面温度が発泡剤の分解開始温度よりも高くなるまで、かつ、原反シート10bの発泡度が20%を超えない範囲で、近赤外線ヒータ15,15・・によって原反シート10bが加熱される(近赤外線により加熱する工程)。
そして、原反シート10bは、発泡度が20%を超える前に、すなわち、原反シート10bの表面形状が近赤外線による加熱によって局所的に変形してしまう前に、加熱炉4の送出口4bから送出される。これにより、原反シート10bに局所的な変形が生じて近赤外線ヒータ15,15と原反シート10bの表面との間の距離が近くなり過ぎ、前記変形された箇所において過度な発泡若しくは焼けが発生することが回避される。
また、原反シート10bは、その表面温度が発泡剤の分解開始温度よりも高くなった時点で加熱炉4から送出され発泡炉5に送入される。したがって、加熱炉4と発泡炉5との間で原反シート10bの温度が低下しても、加熱炉4と発泡炉5との間が近接しているため、発泡炉5に送入された際に原反シート10bが分解開始温度よりも大幅に温度低下することが回避される。
【0048】
上記のようにして加熱炉4で加熱された原反シート10bは、近赤外線ヒータ15,15により、表面の温度が内部温度よりも早く加熱されているため、送出口4bから送出された時点で表面と内部とで温度に差異が生じている。しかし、加熱炉4の通過直後に配置された発泡炉5内は、熱風が原反シート10bの表面が送入時以上に変質せずかつ原反シート10bの内部の発泡が進行する温度に設定されている。したがって、発泡炉5は、熱風ノズルと原反シート10bとの距離の変化又は熱風ノズルと原反シート10bの各部との距離の相違に関係なく、原反シート10b全体を漸次昇温させ、表面を全体として均一に発泡させる(熱風により加熱して発泡する工程)。
【0049】
このようにして発泡炉5において原反シート10bに含まれた発泡剤の分解が終了し、原反シート10bが所望の発泡体シート10cとなった時点で発泡体シート10cは発泡炉5から送出され、冷却ロール6,6,6で冷却された後、巻取り機7でロール状に連続的に巻き取られる。
【0050】
このように、熱可塑性樹脂発泡体の製造装置1によれば、熱風による発泡の前に、近赤外線ヒータ15,15により原反シート10bを加熱するため、熱損失を抑えて効率良く原反シート10bを加熱することができるという効果が得られる。
また、熱可塑性樹脂発泡体の製造装置1によれば、加熱炉4における近赤外線ヒータ15,15による原反シート10bの表面の昇温速度を、基準昇温速度よりも速くなるよう設定しているため、原反シート10bを原反シート10bに含まれた発泡剤の分解開始温度の前後まで速やかに昇温させることができる。したがって、熱可塑性樹脂発泡体の製造装置1によれば、発泡体シート10cの製造効率を高めることができるという効果が得られる。
【0051】
また、原反シート10bの発泡度が20%を超える前に原反シート10bを発泡炉5に移動させ、原反シート10bを熱風により発泡させる。したがって、原反シート10bを効率的でかつ過度な変質又はやけ等を生じさせずに全体として均一に発泡させることができるという効果が得られる。
【0052】
また、原反シート10bの表面温度が、発泡剤の分解開始温度よりも高くなるまで加熱炉4で加熱しているため、原反シート10bを加熱炉4から発泡炉5に移動させた際に表面温度が10℃以下の範囲で冷却されても、原反シート10bが分解開始温度よりも大幅に冷却されることを防ぎ、発泡炉5において熱風により前記未発泡体を速やかに発泡開始させることができるという効果が得られる。
【0053】
なお、製造装置1において、加熱炉4と発泡炉5とは、原反シート10bの温度が大幅に下がらない程度に間隔をおいて設置された構成としたが、加熱炉4と発泡炉5とは、加熱炉4の送出口4bと発泡炉5の送入口5aとを直接連結させるようにして、直結した構成であってもよい。
また、加熱炉4においては、原反シート10bの表面温度が発泡剤の分解開始温度よりも高くなるまで加熱されることが望ましいが、加熱炉4における加熱方法これに限られるものではなく、原反シート10bの発泡度が20%を超えない範囲、すなわち前記分解開始温度まで近赤外線ヒータ15,15により加熱されれば本発明の作用及び効果を得ることができる。
【0054】
また、製造装置1は、押出機2及び架橋機3を設けた構成としたが、本発明の製造装置1に押出機2及び架橋機3は、必須ではなく、原反シート10bを予め別途作製しロール状に巻回しておいたものを送出し機(不図示)によって連続的に所定の速度で加熱炉4へ送り込むようにしたものであってもよい。
【0055】
以下、本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0056】
<原反シート10b>
熱可塑性樹脂として低密度ポリエチレン(東ソー(株)社製、ペトロセン186R、融点111℃)100重量部に対し、発泡剤として分解温度が210℃であるアゾジカルボンアミド(ADCA)15重量部と、有機過酸化物としてジクミルパーオキサイド(日本油脂社製、パークミルD、1分半減期温度175℃,なお、1分半減期温度とは、有機過酸化物の半減期が1分となる分解温度をいう)1.5重量部とを、ラボプラストミル((株)東洋精機製作所製、R60)を用いて、135℃で3分間混練した後、140℃で3分間プレスし未架橋の原反シート10aを得た。
【0057】
更に、原反シート10aを180℃で4分間プレスして架橋させ、その後30℃〜31.5℃に冷却固化させて、一辺が5cm×5cmで厚みが0.4cmの原反シート10bを得た。
【0058】
<加熱炉4>
加熱炉4としては、内寸が幅56cm×奥行き56cm×高さ45cmである断熱仕様のボックスを用いた。そして、近赤外線ヒータ((株)ハイベック社製、ヒータランプとして、波長が1.2μm、ワット密度が4.2W/mm、有効加熱範囲が幅24cm×15.6cmのものを用い、ヒータランプ同士の間のピッチを2.6cmとしてヒータランプ6本を配列した縦×横:17cm×35cmのユニット状としたもの)を一対用意し、前記ボックスの高さ方向の中央部に33.4cmの距離をおいて対向配置させた。
【0059】
<発泡炉5>
内寸が幅56cm×奥行き56cm×高さ45cmである断熱仕様のボックス内に、熱風発生器((株)竹網社製、15kW)の熱風を供給可能にしたものを発泡炉5として用いた。発泡炉5は加熱炉の下流側に2cmの間隔を設けて配置した。
【0060】
[実施例1]
原反シート10bの上端縁にシールテープを結び、この原反シート10bを加熱炉4内の近赤外線ヒータ15,15の表面から原反シート10bの表面までの距離が16.5cmとなる位置に設置した。
近赤外線ヒータ15,15の出力を100%にして原反シート10bを加熱し、原反シート10bの表面温度が30.5℃から230℃になるまで昇温させた。なお、230℃とは、ADCAの分解開始温度(210℃)より高い温度である。この場合、原反シート10bの表面が180℃から210℃まで上昇するまでの昇温速度は、約3.2℃/秒であった。
加熱された原反シート10bの表面温度は、熱電対を用いて検温した。
【0061】
原反シート10bは、その表面温度が230℃になった時点で発泡炉内が230℃に加熱された熱風加熱による発泡炉に速やかに移動させた。
加熱炉4と発泡炉5との間での原反シート10bの発泡度は17%であった。
また、原反シート10bが発泡炉5に送り込まれる直前の原反シート10bの表面温度は230℃であった。
その後、原反シート10bは、その発泡が完了した時点で発泡炉5から取出し、発泡体シート10cを得た。なお、原反シート10bの発泡完了の確認は、最終発泡倍率(30倍)に発泡された発泡体シート10cの切り出しサンプルとの目視比較により行った(以下、実施例2及び比較例1〜9において同様)。
【0062】
[実施例2]
原反シート10bの上端縁にシールテープを結び、この原反シート10bを、加熱炉4内の近赤外線ヒータ15,15の表面から原反シート10bの表面までの距離が16.5cmとなる位置に設置した。
近赤外線ヒータ15,15の出力を100%にして原反シート10bを加熱し、原反シート10bの表面温度が30.5℃から230℃になるまで昇温させた。なお、230℃とは、ADCAの分解開始温度(210℃)より高い温度である。この場合、原反シート10bの表面が180℃から210℃まで上昇するまでの昇温速度は、約3.2℃/秒であった。加熱された原反シートの表面温度は、熱電対を用いて検温した。
【0063】
原反シート10bの表面温度が230℃になった時点で炉内が250℃に加熱された発泡炉5に速やかに移動させた。
加熱炉4と発泡炉5との間での原反シート10bの発泡度は17%であった。
また、原反シート10bが発泡炉5に送り込まれる直前の原反シートの表面温度は232℃であった。なお、原反シートの表面温度が2℃上昇したのは、発泡炉5の送入口5aから漏れた熱風の影響を受けたためと考えられる。
その後、原反シート10bの発泡が完了した時点で発泡炉5から取出し、発泡体シート10cを得た。
【0064】
[比較例1]
原反シート10bの上端縁にシールテープを結び、この原反シート10bを加熱炉内の近赤外線ヒータの表面から原反シート10bの表面までの距離が16.5cmとなる位置に設置した。
近赤外線ヒータの出力を45%にして原反シート10bが発泡し終えるまで熱風加熱を用いずに加温した。この場合、原反シート10bの表面が180℃からADCAの分解開始温度(210℃)まで上昇するまでの昇温速度は、約1.04℃/秒であった。
【0065】
[比較例2]
原反シート10bの上端縁にシールテープを結び、この原反シート10bを加熱炉内の近赤外線ヒータの表面から原反シート10bの表面までの距離が16.5cmとなる位置に設置した。
近赤外線ヒータの出力を50%にして原反シート10bが発泡し終えるまで熱風加熱を用いずに加温した。この場合、原反シート10bの表面が180℃から210℃まで上昇するまでの昇温速度は、約1.28℃/秒であった。
【0066】
[比較例3]
原反シート10bの上端縁にシールテープを結び、この原反シート10bを加熱炉内の近赤外線ヒータの表面から原反シート10bの表面までの距離が16.5cmとなる位置に設置した。
近赤外線ヒータの出力を75%にして原反シート10bが発泡し終えるまで熱風加熱を用いずに加温した。この場合、原反シート10bの表面が180℃から210℃まで上昇するまでの昇温速度は、約2.22℃/秒であった。
【0067】
[比較例4]
原反シート10bの上端縁にシールテープを結び、この原反シート10bを加熱炉内の近赤外線ヒータの表面から原反シート10bの表面までの距離が16.5cmとなる位置に設置した。
近赤外線ヒータの出力を90%にして原反シート10bが発泡し終えるまで熱風加熱を用いずに加温した。この場合、原反シート10bの表面が180℃から210℃まで上昇するまでの昇温速度は、約3.2℃/秒であった。
【0068】
[比較例5]
原反シート10bの上端縁にシールテープを結び、この原反シート10bを加熱炉内の近赤外線ヒータの表面から原反シート10bの表面までの距離が16.5cmとなる位置に設置した。
近赤外線ヒータの出力を100%にして原反シート10bが発泡し終えるまで熱風加熱を用いずに加温した。この場合、原反シート10bの表面が180℃から210℃まで上昇するまでの昇温速度は、約3.2℃/秒であった。
【0069】
[比較例6]
原反シートの上端縁にシールテープを結び、230℃に加熱した熱風加熱による発泡炉に設置して原反シートを加熱した。原反シートの発泡が完了した時点で発泡炉から取出し、発泡体シートを得た。
なお、原反シート10bの表面が180℃から210℃に到達するまで昇温速度は、約0.63℃/秒であった。
【0070】
[比較例7]
原反シート10bの上端縁にシールテープを結び、250℃に加熱した熱風加熱による発泡炉に設置して原反シート10bを加熱した。原反シート10bの発泡が完了した時点で発泡炉から取出し、発泡体シートを得た。
なお、原反シート10bの表面が180℃から210℃に到達するまでの昇温速度は、約1.79℃/秒であった。
【0071】
(結果)
実施例1,2及び比較例1〜7によって原反シート10bから発泡体シート10cに成形されるまでに要した時間及び発泡均一性の結果は、表1,2のとおりである。なお、比較例6,7は、分解開始温度よりも20℃又は40℃高温で加熱したものである。したがって、比較例6,7よりも低い、ADCAの分解開始温度(210℃)の熱風で加熱した基準昇温速度は、比較例6,7の昇温速度よりも更に遅い。
実施例1,2によれば、比較例6,7よりも高い昇温速度となるように設定されたため、比較例6,7の場合に比べて、発泡完了までに要する時間を飛躍的に短縮することができた。なお、比較例6,7は、加熱炉4と発泡炉5との間を原反シート10bが移動する間に表面の温度が低下するのを見越して、ADCAの分解開始温度よりも高い温度で加熱しているものであり、また、比較例6,7の昇温速度は、基準昇温速度よりも速いため、実施例1,2によれば、基準昇温速度の熱風で加熱するよりも更に早く発泡を完了させることができることは言うまでもない。また、実施例1,2では、原反シート10bの表面温度が前記分解開始温度よりも高くなった時点で、かつ、発泡度が20%を超えない範囲で原反シート10bを加熱炉4から発泡炉5に移動させたため、均質な発泡体シート10cが得られた。
これに対し、比較例1〜5の場合は、近赤外線ヒータのみを用いて加熱し、熱風のみによる加熱を用いずに原反シート10bを加熱したため、発泡の均質性が得られなかった(均一性が×)。
これは、近赤外線ヒータ15,15により、表面の温度が内部温度よりも早く加熱されているため、表面と内部とで温度に差異が生じているためと考えられる。
なお、近赤外線加熱の出力を(100%より)低くして、実施例1および実施例2より発泡所要時間を長くして加熱しても、やはり均一性は改善されなかった。
近赤外線加熱の出力を、比較例1の場合より低くして、均一性が改善されたとしても発泡所要時間はさらに長くなり、本発明が解決しようとする課題に反することは言うまでもない。
【0072】
以上のとおり、実施例1,2のように、発泡剤の分解開始温度前後に到達するまでを近赤外線ヒータ15,15を用いて基準昇温速度よりも高い昇温速度で加熱し、分解開始温度前後に到達した後熱風による発泡をした場合には、発泡体シート10cの製造所要時間を最短にしつつ、かつ、均質な発泡体を得ることができる(均一性が○)ことが分かった。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【符号の説明】
【0075】
1 熱可塑性樹脂発泡体の製造装置
4 加熱炉
5 発泡炉
10b 未発泡体
10c 発泡シート(熱可塑性樹脂発泡体)
図1