【文献】
窪田 三郎 ほか,高温過熱水蒸気による有機物質の分解処理,富山県工業技術センター研究報告,2001年 7月 2日,No.15,II-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を適用した樹脂材料の炭化処理方法及び炭化処理装置の実施形態を、図面に基づいて説明する。この炭化処理方法及び炭化処理装置は、例えば、アルミニウム合金部品の鋳造時に、溶融アルミニウム合金を濾過して不純物を除去する濾過フィルタの製造に用いられるものである。
【0011】
<第1参考形態>
図1は、本発明の第1
参考形態
の炭化処理装置の構成を示す図である。
炭化処理装置1は、ボイラ10、過熱水蒸気発生装置20、加熱容器30、コンベア40、ノズル50等を備えて構成されている。
炭化処理装置によって処理されるワークWは、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維などをメッシュ状に形成した芯材に、フェノール樹脂を含浸させ表面をコーティングしたものである。
但し、これは一例であって、各
参考形態及び実施形態
の炭化処理装置は、加熱により炭化処理が可能な他の樹脂材料にも適用が可能である。
【0012】
ボイラ10は、給水手段から供給される水を加熱して飽和水蒸気を発生するものである。
【0013】
過熱水蒸気発生装置20は、ボイラ1から供給される飽和水蒸気を再加熱して過熱水蒸気を発生するものである。
過熱水蒸気発生装置20として、飽和水蒸気が通される流路内にシーズヒータ等の熱源を設置したものを用いることができる。
【0014】
加熱容器30は、ワークWが搬入されるとともに、過熱水蒸気発生装置20が発生した過熱水蒸気が導入されるボックス状の容器である。
加熱容器30の水平方向における両端部には、ワークWが搬入される入口31、及び、ワークWが搬出される出口32がそれぞれ形成されている。
入口31及び出口32には、例えばエアカーテン等の過熱水蒸気の漏出を低減する手段が設けられている。
また、入口31及び出口32には、加熱容器30内に噴出された過熱水蒸気の排気Eを排出する排気手段31a、32aがそれぞれ設けられている。
【0015】
コンベア40は、加熱容器30を貫通して配置された例えばベルトコンベア等の搬送手段であって、ワークWが載せられ搬送されるものである。コンベア40は、ワークWを入口31から加熱容器30内に搬入し、所定の炭化処理時間にわたって加熱容器30内に滞留させ、その後出口32から搬出する。
【0016】
ノズル50は、加熱容器30内に設けられ、過熱水蒸気発生装置20が発生した過熱水蒸気を、コンベア40によって搬送されるワークWに対して噴出させるものである。
ノズル50は、例えばコンベア
40の上部に設けられ、下向きに過熱水蒸気を噴出させる。
ノズル50は、例えば、複数の噴出孔をコンベア40の搬送方向及び幅方向に配列することによって、いわゆるシャワーヘッド状に構成されている。
【0017】
本
参考形態の過熱水蒸気による処
理装置においては、加熱容器30内に噴出される過熱水蒸気の温度は例えば450〜550℃であって、処理時間(ワークWが加熱容器30内に滞留する時間)は、例えば、5分程度である。
本
参考形態の過熱水蒸気による処
理装置によれば、窒素雰囲気下で例えば650℃以上の高温で炭化処理を行なうものに対して、処理温度の低下及び処理時間を短縮でき、冷却時間も実質的に不要であり、発煙もほとんど生じなかった。また、窒素の供給装置なども不要である。
また、本
参考形態の過熱水蒸気による処
理装置によって得られた製品(溶融金属フィルタは、従来技術によって得られたものよりも表面の荒れが少なく、カスが溶融金属中へ混入することを防止できる。
【0018】
<第2
参考形態>
次に、本発明の第2
参考形態
の炭化処理装置について説明する。
なお、上述した第1
参考形態と実質的に共通する箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図2は、第2
参考形態
の炭化処理装置の構成を示す図である。
第2
参考形態の炭化処理装置1Aは、第1
参考形態の炭化処理装置1における加熱容器30に代えて、以下説明する加熱容器30Aを備えている。また、第2
参考形態においては、コンベア40は設けられていない。
加熱容器30Aは、図示しない開閉扉からワークWの出し入れを行なう。
第2
参考形態においては、開閉扉から加熱容器30AにワークWを入れ、開閉扉を閉じた状態でノズル50に過熱水蒸気を供給して炭化処理を行ない、その後過熱水蒸気の供給を停止して開閉扉から処理済のワークWを取り出すバッチ式処理を行なう。
以上説明した第2
参考形態においても、上述した第1
参考形態の効果と実質的に同様の効果を得ることができる。
【0019】
<第
1実施形態>
次に、本発明の第
1実施形態
の炭化処理装置について説明する。
図3は、第
1実施形態の炭化処理装置の構成を示す図である。
第
1実施形態の炭化処理装置1Bは、第1
参考形態における加熱容器30の内側に、内側加熱容器60を設けて、二重構造としたものである。
【0020】
内側加熱容器60は、例えば六面体のボックス状に形成されている。内側加熱容器60の上面、側面、下面は、それぞれ加熱容器30の上面、側面、下面と間隔を隔てて対向して配置されている。
ノズル50は、内側加熱容器60の上部に設けられ、過熱水蒸気は内側加熱容器60の内側に吹きこまれる。
また、内側加熱容器60は、上部ベルト入口61、上部ベルト出口62、下部ベルト入口63、下部ベルト出口64、排気孔65等が設けられている。
【0021】
上部ベルト入口61は、コンベア40のベルトが上方側で内側加熱容器60に入る際に通過する開口である。
上部ベルト入口61は、内側加熱容器60の入口31側の壁面部に形成されている。
上部ベルト出口62は、コンベア40のベルトが上方側で内側加熱容器60から出る際に通過する開口である。
上部ベルト出口62は、内側加熱容器60の出口32側の壁面部に形成されている。
【0022】
また、上部ベルト入口61及び上部ベルト出口62には、コンベア40に載せられたワークWの通過を許容するドアDが設けられている。
ドアDは、例えば上方に設けられたヒンジ回りに回動可能とされた金属等の板状体として構成されている。
ドアDは、ワークWと当接した場合に回動してワークWの通過を許容する。
【0023】
下部ベルト入口63は、コンベア40のベルトが下方側で内側加熱容器60に入る際に通過する開口である。
下部ベルト入口63は、上部ベルト出口62の下方に形成されている。
下部ベルト出口64は、コンベア40のベルトが下方側で内側加熱容器60から出る際に通過する開口である。
下部ベルト出口64は、上部ベルト入口61の下方に形成されている。
【0024】
排気孔65は、内側加熱容器60の下面に形成された開口である。内側加熱容器60内に供給された過熱水蒸気は、ワークWを加熱し炭化処理した後、排気孔65から内側加熱容器60の外側であって、加熱容器30の内側の領域に排出される。
【0025】
内側加熱容器60の内部には、内側加熱容器60の庫内を加熱するヒータ70が設けられている。
ヒータ70は、過熱水蒸気と協働して内側加熱容器60内を加熱し、ワークWに熱を与えるものである。
【0026】
加熱容器30の下部には、排気管80が設けられている。排気管80は、加熱容器30から出た過熱水蒸気等を図示しない処理装置を介して外部へ排出する管路である。
排気管80は、加熱容器30の底面部に形成された排気孔に接続されている。
排気管80は、加熱容器30の底面から下方に延び、屈曲部81においてほぼ水平方向に向きを変えている。
【0027】
屈曲部81は、例えば、排気管80の他部から脱着可能なエルボ管などによって構成されている。
屈曲部81は、排気に含まれるタール等の異物や、これらの異物に起因する臭いが外部に排出されることを防止するトラップ部として機能する。
排気管80に流入したタール等は、停滞することなく自重によって屈曲部81に到達し、ここでトラップされる。
トラップされたタール等は、屈曲部81を取り外して清掃することによって、容易に除去することができる。
【0028】
加熱容器をこのような二重構造とした場合、ワークWに照射される過熱水蒸気の温度を、例えば約600℃以上とした高温のプロセスを容易に行なうことが可能となる。
なお、このように、例えば約600℃以上の高温の過熱水蒸気を用いる場合、装置の材料が高温の水蒸気によって腐食する水蒸気酸化を防止するため、少なくとも過熱水蒸気に直接曝される箇所を、例えばショットブラストにより冷間加工が施されたCr−Niオーステナイト系ステンレス鋼によって形成することが好ましい。
ショットブラスト加工を施すことによって、冷間加工層内のCrの拡散が加速されて、耐酸化性に優れた被膜が形成され、耐水蒸気酸化特性を著しく向上させて装置の耐久性、信頼性を向上することができる。
【0029】
また、第
1実施形態においては、ボイラ10から出た飽和水蒸気を、過熱水蒸気発生装置20を経由せずにノズル50に供給するバイパス管路Bが設けられている。
このようなバイパス管路Bを設けることによって、例えば加熱容器30内で作業を行う場合、ボイラ10から出た飽和水蒸気を、過熱水蒸気発生装置20をバイパスさせて直接ノズル50から噴出させることによって、過熱水蒸気発生装置20の冷却を待たずに迅速に庫内を冷却し作業を開始することができ、また、作業終了後に直ちに過熱水蒸気の供給を開始して炭化処理を再開することができる。
【0030】
第
1実施形態においても、第1
参考形態と同様にワークWをコンベア40を用いて庫内に供給し、内側加熱容器60の内部で過熱水蒸気及びヒータ70で加熱することによって、ワークWを炭化処理する。
【0031】
以上説明した第
1実施形態によれば、上述した第1
参考形態の効果と実質的に同様の効果に加え、加熱容器を二重構造として内側加熱容器60にヒータ70を設けたことによって、ワークWの処理をより高温で行なうことが容易となり、例えば約650℃以上での処理が可能となって処理時間が短縮される。
また、コンベア40のベルトが往復とも内側加熱容器60内を通過することによって、ベルトの冷却を抑制することができる。
また、内側加熱容器60内を例えば650℃程度とした場合であっても、加熱容器30内は例えば約300〜400℃程度となるため、外側の加熱容器30では特殊な耐熱材料を用いる必要がない。
さらに、庫内で発生するタール等を排気管80から排出するとともに、屈曲部81にトラップすることによって、外部へのタールや異物の放出を抑制するとともに、メインテナンスを容易にすることができる。
【0032】
<第
2実施形態>
次に、本発明の第
2実施形態
の炭化処理装置について説明する。
図4は、第
2実施形態の炭化処理装置の模式的断面図であって、
図4(a)は水平面で切って見た模式的断面図を示し、
図4(b)は
図4(a)のb−b部矢視断面を模式的に示している。
第
2実施形態の炭化処理装置1Cは、第2
参考形態の炭化処理装置1Aにおけるバッチ処理用の加熱容器30Aの内部に、内側加熱容器60Aを備えている。
【0033】
第
1実施形態と同様に、過熱水蒸気を噴出するノズル50は、内側加熱容器60Aの内部にヒータ70と隣接して設けられている。
また、内側加熱容器60Aの下部には、過熱水蒸気を加熱容器30A内に排出する排気孔65が形成されている。
また、加熱容器30Aの下部には、第
1実施形態と実質的に同様の排気管80が設けられている。
【0034】
また、
図4(b)に示すように、加熱容器30A、内側加熱容器60Aには、観音開きのドア33、ドア66がそれぞれ設けられている。
ドア33は、加熱容器30Aの前面の開口側部に設けられたヒンジ回りに回動して開閉するようになっている。
加熱容器30Aの開口周縁部とドア33の周縁部との間は、例えば耐熱性を有するゴム製等のパッキンが設けられている。
ドア66は、ドア33の内面側に固定され、ドア33と同伴して回動することによって、内側加熱容器30Aの前面の開口を開閉するようになっている。
内側加熱容器60Aの開口周縁部とドア66の周縁部との間は、例えば金属製のガスケットが設けられている。
【0035】
例えば内側加熱容器60A内部の温度が600℃以上である場合には、このような温度下で使用できるゴム系のパッキン材の入手は困難である。金属製のガスケットの場合には、微量の過熱水蒸気がリークすることもあり得るが、本実施形態の場合には、リークした過熱水蒸気は加熱容器30A内に留まり外部へ直接排出されることはないため、問題はない。
以上説明した第
2実施形態においても、上述した各
参考形態
及び第1実施形態の効果と実質的に同様の効果を得ることができる。
【0036】
次に、上述した各実施形態の炭化処理方法及び炭化処理装置によって得られた炭化フェノール樹脂の実施例1乃至4について、既存の炭化処理方法及び炭化処理装置によって得られた炭化フェノール樹脂の比較例と比較して説明する。
実施例1乃至4、比較例の炭化フェノール樹脂を得た炭化処理プロセスは、以下の表1の通りである。
ワークサイズは、例えば、約100mm×約100mm×t1mmであって、フェノール樹脂はメッシュ状に構成されている。
加熱容器の庫内サイズは、例えば幅約212mm×奥行約220mm×高さ約100mmであって、過熱水蒸気の蒸気量は例えば約6kg/時間とした。
過熱水蒸気の発生には、新熱工業株式会社製のアクアスチームヒータ2.7kW及び庫内ヒータ5.1kWを用いた。また、ボイラには、直本工業株式会社製NBC−3300R(20kW)を用いた。
また、比較例では、熱媒として、過熱水蒸気に代えて窒素ガスを用いた。
【表1】
【0037】
実施例1乃至4、比較例の炭化フェノール樹脂から1本の樹脂を取外し、それを2等分に切断し、その一片に、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のX線光電子分光分析装置「Theta probe」によって300μmφのX線を照射し、定性分析及び炭素に限定した分析を行った結果を以下説明する。
図5は、実施例1の炭化フェノール樹脂のXPS分析結果を示す図である。
図6は、実施例2の炭化フェノール樹脂のXPS分析結果を示す図である。
図7は、実施例3の炭化フェノール樹脂のXPS分析結果を示す図である。
図8は、実施例4の炭化フェノール樹脂のXPS分析結果を示す図である。
図9は、比較例の炭化フェノール樹脂のXPS分析結果を示す図である。
なお、
図5乃至
図9において、上段のグラフ及び表は、定性分析結果を示し、下段のグラフ及び表は、炭素に限定した分析結果を示している。
【0038】
図5乃至
図9の上段に示す定性分析結果の表において、元素O1sの値はサンプル内の酸素結合の存在度合を示しており、値が小さいほど炭化が進行していると評価される。また、元素C1sの値は、サンプル内の炭素結合の存在度合(炭化度)を示しており、値が大きいほど炭化が進行していると評価される。
また、
図5乃至
図9の下段に示す炭素に限定した分析結果の表において、C−O、C=O、O−C=Oの値が小さいほど炭化が進行していると評価される。
【0039】
XPSによる定性分析結果のまとめを表2に示す。
【表2】
【0040】
XPSによる炭素に限定した分析結果のまとめを表3に示す。
なお、表3においては、C−C結合の存在度合を1とした場合の比較を示している。
【表3】
【0041】
以上説明した実施例1乃至実施例4においては、窒素ガスを熱媒とした既存技術に係る比較例(炭化度47.2%)に対して、少なくとも88.8%以上という高い炭化度を1/4以下の短時間で得ることができた。
特に、実施例1、2においては、比較例に対して低温のプロセスであるにも関わらず、より良好な炭化度を得ることができた。
一方、比較例のように窒素ガスを用いたプロセスでは、これ以上温度を高めても、また、処理時間を延長しても、炭化度を大幅に改善することは困難であり、本発明によれば、従来の工業的なプロセスよりも大幅に短時間かつ同等以下の処理温度により、より良質な炭化樹脂材料が得られることがわかる。
【0042】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)実施形態においては、例えば、フェノール樹脂を炭化しているが、本発明は、例えばエポキシ樹脂等の炭素を含有する他の樹脂材料であっても炭化処理が可能である。
例えばベンゼン核にH
2基、OH基を有するものであれば、フェノールに限らず他の樹脂材料であっても同様の炭化処理が可能である。
例えば、糸状あるいはメッシュ状のアクリロニトリル等の合成繊維を炭化して、炭素繊維を得ることも可能である。この場合、フェノール樹脂などのように、ガラス繊維等にコーティングすることなく、アクリロニトリルを直接炭化することによって炭素繊維を得ることができる。
(2)実施形態においては、ワークは例えば溶融金属フィルタであったが、本発明はこれに限らず、他の製品にも適用が可能である。