特許第5905877号(P5905877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5905877難燃樹脂フィルム及びそれを用いた太陽電池バックシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5905877
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】難燃樹脂フィルム及びそれを用いた太陽電池バックシート
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20160407BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20160407BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20160407BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20160407BHJP
【FI】
   C08J5/18CEZ
   C08L71/12
   C08L27/12
   C08K5/521
【請求項の数】6
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2013-516353(P2013-516353)
(86)(22)【出願日】2012年5月18日
(86)【国際出願番号】JP2012062852
(87)【国際公開番号】WO2012161134
(87)【国際公開日】20121129
【審査請求日】2015年5月15日
(31)【優先権主張番号】特願2011-113503(P2011-113503)
(32)【優先日】2011年5月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-113501(P2011-113501)
(32)【優先日】2011年5月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-36569(P2012-36569)
(32)【優先日】2012年2月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046314
【氏名又は名称】旭化成ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】江口 豊
(72)【発明者】
【氏名】坂田 稔
(72)【発明者】
【氏名】古河 弘昭
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−209601(JP,A)
【文献】 特開2004−292660(JP,A)
【文献】 特開2000−309700(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/126670(WO,A1)
【文献】 特開2001−207072(JP,A)
【文献】 特開昭58−164634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00−5/22
C08L 1/00−101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物から得られる難燃樹脂フィルムであって、
前記樹脂組成物が、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂、(b)リン系難燃剤及び(c)フッ素含有樹脂を含み、
前記樹脂組成物において、前記(a)及び(b)成分の合計100質量部に対して、(a)成分の含有量が75〜98質量部、(b)成分の含有量が25〜2質量部であり、
前記樹脂組成物中のフッ素元素含有量が100〜1000質量ppmであり、
厚みが20〜500μmである難燃樹脂フィルム。
【請求項2】
前記(c)成分のフッ素含有樹脂がオレフィン−フルオロエチレン共重合体である請求項1に記載の難燃樹脂フィルム。
【請求項3】
前記(c)成分のオレフィン−フルオロエチレン共重合体がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体である請求項2に記載の難燃樹脂フィルム。
【請求項4】
前記(c)成分のフッ素含有樹脂がポリテトラフルオロエチレンである請求項1に記載の難燃樹脂フィルム。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、(d)エラストマーをさらに含み、
前記樹脂組成物において、前記(a)及び(b)成分の合計100質量部に対して、(d)成分の含有量が1〜25質量部である請求項1〜4のいずれか一項に記載の難燃樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の難燃樹脂フィルムを含む太陽電池バックシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃樹脂フィルム及びそれを用いた太陽電池バックシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりポリフェニレンエーテル系樹脂は、優れた電気絶縁性に加え耐熱性、耐加水分解性及び難燃性を有することから家電・OA機器や自動車部品に使用されている。
【0003】
このような現状において、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の難燃性(特に燃焼時の滴下防止性)を改善するために該樹脂組成物にフッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)を添加する方法(例えば、特許文献1及び2参照)が提案されている。
【0004】
また、近年の樹脂製フィルムは、様々な用途に応じた電気絶縁性、耐熱性、耐加水分解性、難燃性などの性能を有することが要求されるようになってきている。ポリフェニレンエーテル系樹脂をシート化したフィルムは、電気絶縁性、耐熱性、耐加水分解性、難燃性等の優れた特性を生かし、その用途を広げつつある(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
また、ポリフェニレンエーテル系樹脂フィルムは、最近、耐久性(耐加水分解性)、低熱収縮性、電気絶縁性等の特徴を生かし、太陽光発電のバックシートに適用することが提案されている(例えば、特許文献4及び5参照)。
【0006】
近年、化石燃料に替わるエネルギー源として太陽電池が注目を浴びている。太陽電池は、一般に、太陽光発電を行う太陽電池素子を、透明なガラス板と、バックシートとで挟みこんだ積層構造を有する。また、太陽電池素子の間隙を埋めるために封止材が用いられている。このようにモジュール化されたパッケージは「太陽電池モジュール」と呼ばれている。太陽電池素子において、太陽光が当たる面(表面)は透明な強化ガラス等で覆われており、太陽光が当たらない面(裏面)はバックシートで覆われている。
【0007】
封止材は、太陽電池素子を封止するために優れた接着性を発揮することが求められている。このような封止材としては、エチレンビニルアセテート(以下、「EVA」ともいう。)等が用いられている。ガラスや太陽電池素子やバックシートをラミネートによって一体化する際に、太陽電池素子は、その間隙に封止材を埋めて加熱プレスすることで封止される。これによって、太陽電池モジュールとした際に太陽電池素子が流動することを防止できる。この加熱プレス工程は、一般に150℃程度の熱を与えるため、バックシートもある程度の耐熱性が要求される。
【0008】
さらに太陽電池モジュールは屋外で使用されるため、太陽電池モジュールを構成する各部材は、充分な耐候性及び耐久性を有することが要求される。かかる観点から、バックシートについても、優れた耐熱性や耐候性を有するプラスチック材料などが用いられている。
【0009】
これらバックシートに用いられている従来のプラスチック材料としては、例えばポリエステル系樹脂が挙げられる。しかしながら、ポリエステル系樹脂は耐候性に影響する耐加水分解性が十分でないとの課題が指摘されている。
【0010】
この課題に対して、特定の固有粘度(IV)を有する二軸延伸されたポリエステルシートにおいて、耐加水分解性の改良を目的としたシートが提案されている(例えば、特許文献6参照)。さらには、根本的な耐加水分解性を改良する目的で、ポリカーボネートと無機酸化物とからなるガスバリア性透明蒸着シートを積層したシートが提案されている(例えば、特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−005879号公報
【特許文献2】特開2010−195935号公報
【特許文献3】特表2010−519389号公報
【特許文献4】特開2010−245380号公報
【特許文献5】特開2010−278428号公報
【特許文献6】特開2007−70430号公報
【特許文献7】特開2006−324556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のポリテトラフルオロエチレンを添加した樹脂組成物は、高い難燃性(特に燃焼時の滴下防止性)を有する反面、該樹脂組成物からなる射出成形品は、流動末端で表面外観(特にウエルド部が目立つ)が劣る場合があるため、その改善が求められている。
【0013】
さらに、ポリテトラフルオロエチレン単品は、顆粒又は綿のような形状で有るにも関わらず、少しの圧力で凝集が起こる場合がある。そのため、ポリテトラフルオロエチレンを添加して樹脂組成物を製造する方法において、ポリテトラフルオロエチレンは、通常の樹脂添加用フィーダーでは均一に樹脂コンパウンド装置に供給することが困難で、扱い難い。また、ポリテトラフルオロエチレンを添加して樹脂組成物を製造する方法として、樹脂コンパウンド装置にポリテトラフルオロエチレンを他の原料樹脂と共に供給して樹脂組成物を製造する方法が挙げられる。しかしながら、当該製造方法では、ポリテトラフルオロエチレンを樹脂組成物中に均一なフィブリル状に分散させることが困難である。そのため、樹脂組成物を製造する方法として、ポリテトラフルオロエチレンを他の原料樹脂の一部を予め樹脂コンパウンド装置を用いて加熱溶融混合し、ポリテトラフルオロエチレンをフィブリル状に分散させた樹脂マスターバッチを作成し、該樹脂マスターバッチを再度他の原料樹脂と共に樹脂コンパウンド装置で加熱溶融混合し、樹脂組成物を製造する方法が提案されている。
【0014】
しかしながら、当該製造方法では、樹脂マスターバッチ作成時に用いた原料樹脂が樹脂組成物の製造工程において二度の熱履歴を受けるため、熱分解や架橋反応を起こすおそれがある。その結果、最終的に得られる樹脂組成物は、機械的物性が低下する場合がある。さらに、当該製造方法は、コストの面でマスターバッチを作成する加工賃の分、一度に全ての原料を添加する製造方法と比べ劣っている。またさらに、当該製造方法は、フィブリル状に分散したポリテトラフルオロエチレンが、樹脂コンパウンド装置の異物除去用金網に詰まり、生産性及び収率の低下する場合がある。
【0015】
また、特許文献1及び2には、ポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素含有樹脂を用いた場合の具体的な効果等について全く記載されていない。
【0016】
上述したとおり、特許文献3には、ポリフェニレンエーテル系樹脂からなるフィルムが開示されている。
【0017】
しかしながら、現在、ポリフェニレンエーテル系樹脂からフィルムを製膜する方法は、高温下で製膜を行う必要があるため、架橋反応によるゲル化物や炭化物、分解生成物によるシルバーストリークスが起こり、良好な外観を持ったフィルムを得ることは困難である。また、当該方法は、サージングが起き易いため、得られるフィルムの厚み変動が大きく、均一な厚みや薄いフィルムを得ることが難しいばかりかドローダウンも多く発生し、収率が低下する。さらに、当該方法で得られるフィルムはダイラインにより表面に凹凸が見られるために外観が劣る。特に当該方法で得られる薄いフィルムは、燃焼時に滴下し本来の優れた燃焼性を発揮することができていない。
【0018】
一方、特許文献1及び2には、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)を添加した樹脂組成物をシート又はフィルムに適用することは全く検討されていない。一般的に、フッ素含有樹脂を添加した樹脂組成物からなるフィルムは、フィルム製膜時の大きな配向により原料樹脂組成物中でフィブリル状に分散していたフッ素含有樹脂も配向し、異方性が大きくなる。そのため、当業者は、通常、フッ素系樹脂を添加した樹脂組成物をフィルムに適用しない。
【0019】
以上から、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の燃焼時の滴下防止方法としては、ポリテトラフルオロエチレンを樹脂組成物に添加する方法以外の具体的な解決策を現状では何ら見出せていない。さらにポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の表面外観、生産性及び収率の向上を同時に実現する方法についても具体的な解決策を現状では何ら見出せていない。またさらに、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を用いたフィルムにおいて、フィルム製膜性の改善、得られるフィルムの表面外観改良及び燃焼時の滴下防止する方法としては、原料の樹脂組成物の検討も含めた解決策を何ら見出せていない。
【0020】
一方、上述したとおり、近年、太陽電池モジュール構成部材は、難燃性を有することが要求されてきている。そして、太陽電池モジュール構成部材のバックシート(太陽電池バックシート)を構成するプラスチックシートも、例えば、UL94のVTM試験(薄物材料垂直燃焼試験)で最も難燃性レベルの高いVTM−0のランクを有することが要求されてきている。
【0021】
特許文献4に記載されたポリエチレンテレフタレートフィルムを用いたバックシートは、ポリエチレンテレフタレートフィルム自体に難燃性が付与されておらず、上記高度の難燃化の要求に十分に応えることができないおそれがある。同様に特許文献5に記載されたシートも、構成するポリカーボネートが難燃性に劣り、このままでは上記高度の難燃化の要求に応えられない。
【0022】
一方、バックシートは、それぞれの要求性能に応じて複数のフィルムを多層化して構成されている。バックシートを構成するそれぞれのフィルムも薄肉化されてきている。近年、バックシートを構成するフィルムとしては、20μm〜500μmの厚みの領域で、異物が少なく厚み精度の高いフィルムが要求されてきている。
【0023】
なお、本発明では、20μm〜500μmの厚みを有する単層の製膜品を「フィルム」として呼称する。
【0024】
本発明は、表面外観を改善した難燃樹脂組成物を提供すること、また同時に難燃樹脂組成物の生産性及び収率をも改善することを目的とする。
【0025】
さらに、本発明は、高い難燃性を有し、かつ優れた表面外観及び高い厚み精度を有する難燃樹脂フィルムを提供すること、並びに該難燃樹脂フィルムを含む太陽電池バックシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定量のポリフェニレンエーテル系樹脂と特定量のリン系難燃剤と、フッ素含有樹脂とを含有する樹脂組成物を用いることにより、上記課題を解決した難燃樹脂組成物、難燃樹脂フィルム、並びに該難燃樹脂フィルムを含む太陽電池バックシートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0027】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]
樹脂組成物から得られる難燃樹脂フィルムであって、
前記樹脂組成物が、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂、(b)リン系難燃剤及び(c)フッ素含有樹脂を含み、
前記樹脂組成物において、前記(a)及び(b)成分の合計100質量部に対して、(a)成分の含有量が75〜98質量部、(b)成分の含有量が25〜2質量部であり、
前記樹脂組成物中のフッ素元素含有量が100〜1000質量ppmであり、
厚みが20〜500μmである難燃樹脂フィルム。
[2]
前記(c)成分のフッ素含有樹脂がオレフィン−フルオロエチレン共重合体である[1]に記載の難燃樹脂フィルム。
[3]
前記(c)成分のオレフィン−フルオロエチレン共重合体がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体である[2]に記載の難燃樹脂フィルム。
[4]
前記(c)成分のフッ素含有樹脂がポリテトラフルオロエチレンである[1]に記載の難燃樹脂フィルム。
[5]
前記樹脂組成物が、(d)エラストマーをさらに含み、
前記樹脂組成物において、前記(a)及び(b)成分の合計100質量部に対して、(d)成分の含有量が1〜25質量部である[1]〜[4]のいずれかに記載の難燃樹脂フィルム。
[6]
[1]〜[5]のいずれかに記載の難燃樹脂フィルムを含む太陽電池バックシート。
[7]
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂、(b)リン酸エステル系難燃剤及び(c)エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体を含み、
前記(a)及び(b)成分の合計100質量部に対して、(a)成分の含有量が75〜98質量部、(b)成分の含有量が25〜2質量部であり、
フッ素元素含有量が100〜1000質量ppmである難燃樹脂組成物。
[8]
(d)エラストマーをさらに含み、
前記(a)及び(b)成分の合計100質量部に対して、(d)成分の含有量が1〜25質量部である[7]に記載の難燃樹脂組成物。
[9]
[7]又は[8]に記載の難燃樹脂組成物を含む樹脂ペレット。
[10]
[7]又は[8]に記載の難燃樹脂組成物を含む射出成形品。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、難燃性、表面外観及び生産性に優れる難燃樹脂組成物が得られる。また、本発明によれば、例えば、前記難燃樹脂組成物をシート化することで、優れた表面外観、高い厚み精度及び優れた難燃性を有する難燃樹脂フィルムを提供することができると共に、この難燃樹脂フィルムを含む太陽電池バックシートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0030】
≪難燃樹脂フィルム≫
本実施形態の難燃樹脂フィルムは、樹脂組成物から得られる難燃樹脂フィルムであって、
前記樹脂組成物が、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂、(b)リン系難燃剤及び(c)フッ素含有樹脂を含み、
前記樹脂組成物において、前記(a)及び(b)成分の合計100質量部に対して、(a)成分の含有量が75〜98質量部、(b)成分の含有量が25〜2質量部であり、
前記樹脂組成物中のフッ素元素含有量が100〜1000質量ppmであり、
厚みが20〜500μmである。
【0031】
≪難燃樹脂組成物≫
本実施形態の難燃樹脂組成物は、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂、(b)リン酸エステル系難燃剤及び(c)エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体を含み、
前記(a)及び(b)成分の合計100質量部に対して、(a)成分の含有量が75〜98質量部、(b)成分の含有量が25〜2質量部であり、
フッ素元素含有量が100〜1000質量ppmである。
【0032】
<(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂>
はじめに(a)成分であるポリフェニレンエーテル系樹脂について説明する。(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、本実施形態の難燃樹脂組成物又は難燃フィルムにおいて難燃性、耐熱性を付与する上で重要な成分である。
【0033】
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、例えば、下記式(1)で表される結合単位を含むポリフェニレンエーテル(以下「PPE」とも記す。)が挙げられる。
【0034】
【化1】
(ここで、R、R、R及びRは、それぞれ、水素、ハロゲン、炭素数1〜7までの第一級又は第二級低級アルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基又は少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選択されるものであり、互いに同一でも異なっていてもよい)
【0035】
PPEは、上記式(1)で表される結合単位を含んでいれば、ホモ重合体であってもよく、共重合体であってもよい。
【0036】
このPPEの具体例としては、特に限定されず、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体のごときポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。中でもポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、さらにポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。
【0037】
例えば、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとからなる共重合体における各単量体ユニットの比率は、特に限定されないが、ポリフェニレンエーテル全量100質量部に対して、2,6−ジメチルフェノールに由来するユニットが、60〜95質量部であることが好ましく、80〜90質量部であることがより好ましい。
【0038】
かかるPPEの製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の製造方法、例えば、米国特許第3306874号記載のHayによる第一銅塩とアミンとのコンプレックスを触媒として用い、例えば2,6−キシレノールを酸化重合する方法が挙げられ、その他にも米国特許第3306875号、同第3257357号及び同第3257358号、特公昭52−17880号公報及び特開昭50−51197号公報及び同63−152628号公報等に記載された方法が挙げられる。
【0039】
本実施形態に用いる(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上のポリフェニレンエーテル系樹脂をブレンドした混合物であっても構わない。また、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、全部又は一部が変性されたポリフェニレンエーテル系樹脂であっても構わない。
【0040】
変性されたポリフェニレンエーテル系樹脂とは、分子構造内に炭素−炭素二重結合又は炭素−炭素三重結合を少なくとも1個と、カルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、水酸基又はグリシジル基を少なくとも1個と、を有する、少なくとも1種の変性化合物で変性されたポリフェニレンエーテル系樹脂を指す。
【0041】
上記変性されたポリフェニレンエーテル系樹脂の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、以下の(1)〜(3)のいずれかの方法が挙げられる。
(1)ラジカル開始剤の存在下、又は非存在下で、100℃以上、かつポリフェニレンエーテル系樹脂のガラス転移温度未満の範囲の温度で、ポリフェニレンエーテル系樹脂を溶融させることなく変性化合物と反応させる方法。
(2)ラジカル開始剤の存在下、又は非存在下で、ポリフェニレンエーテル系樹脂のガラス転移温度以上360℃以下の範囲の温度でポリフェニレンエーテル系樹脂を変性化合物と溶融混練し反応させる方法。
(3)ラジカル開始剤の存在下、又は非存在下でポリフェニレンエーテル系樹脂のガラス転移温度未満の温度で、ポリフェニレンエーテル系樹脂と変性化合物とを溶液中で反応させる方法。
【0042】
また、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂の還元粘度(ηsp/c:0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)は、特に限定されないが、0.15〜0.70dl/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.20〜0.60dl/gの範囲、さらに好ましくは0.25〜0.60dl/gの範囲である。なお、ここで(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂の還元粘度は、還元粘度が異なる複数のポリフェニレンエーテル系樹脂をブレンドして(a)成分として用いた場合、ブレンドしたポリマーについての還元粘度である。
【0043】
さらに、本実施形態に用いる(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂として、ポリフェニレンエーテル樹脂/ポリスチレン樹脂=30〜99.9質量%/70〜0.1質量%のいずれか1つの構成比でポリフェニレンエーテル樹脂にポリスチレン樹脂を添加した混合物も用いることができる。
【0044】
本実施形態に用いる(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂おいて、ポリスチレン樹脂の添加量は上記範囲において任意に設定できるが、高難燃性、高耐熱性の付与が必要な場合、ポリスチレン樹脂添加量は、好ましくは0.1〜20質量%、さらに好ましくは0.1〜1質量%、特に好ましくは0質量%である。
【0045】
本実施形態の難燃樹脂フィルムに用いる樹脂組成物又は本実施形態の難燃樹脂組成物において、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量は、難燃樹脂組成物としての難燃性、耐熱性及びフィルム成形時のドローダウンの観点、又は難燃フィルムの難燃性、耐熱性、低熱収縮性、電気絶縁性、耐加水分解性等の観点から、(a)及び(b)成分の合計100質量部に対して75〜98質量部であり、好ましくは75〜95質量部、より好ましくは80〜95質量部である。
【0046】
<(b)リン系難燃剤>
つぎに本実施形態に用いる(b)リン系難燃剤について説明する。(b)リン系難燃剤は、(a)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂の助燃効果と相まって、本実施形態の難燃樹脂組成物又は難燃フィルムの難燃性付与に大きく寄与するものである。
【0047】
(b)リン系難燃剤は、(a)成分に配合可能であれば、特に限定されないが、例えば、有機リン酸エステル化合物、ホスファゼン化合物、赤リン、ホスフィン酸塩類、ホスフォン酸塩類、ホスホルアミド化合物等が挙げられる。(b)リン系難燃剤を配合させることで、本実施形態の難燃フィルムの難燃性及び成形流動性を特に向上させることができる。中でも、難燃性付与効果、ノンハロゲンの観点から、(b)成分は、リン酸エステル系難燃剤を含むことが好ましい。さらに(b)成分は、下記一般式(I)及び下記一般式(II)で示される縮合リン酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分として含むことがより好ましい。ここで「主成分」とは、当該成分が90質量%以上含まれることをいう。
【0048】
【化2】
【0049】
【化3】
【0050】
上記式(I)及び(II)中、Q1、Q2、Q3、Q4は、各々置換基であって各々独立に炭素数1から6のアルキル基を表し、R5、R6は各々置換基であってメチル基を表し、R7、R8は各々独立に水素原子又はメチル基を表す。nは0以上の整数を有し、n1、n2は各々独立に0から2の整数を示し、m1、m2、m3、m4は各々独立に0から3の整数を示す。
【0051】
なお、上記式(I)及び(II)で示される縮合リン酸エステルは複数の分子鎖よりなり、それぞれの分子の各々については、nは0以上の整数、好ましくは1〜3の整数であり、全体としてnは1以上の平均値を有することが好ましい。
【0052】
この中で、式(I)におけるm1、m2、m3、m4、n1、n2が0であって、R7、R8がメチル基である縮合リン酸エステル;式(I)におけるQ1、Q2、Q3、Q4、R7、R8がメチル基であり、n1、n2が0であり、m1、m2、m3、m4が1〜3の整数である、縮合リン酸エステルであって、nの範囲は1〜3の整数、特にnが1であるリン酸エステルを50質量%以上含むものがより一層好ましい。上記縮合リン酸エステルは、成形加工時に揮発性が低いため好ましい。
【0053】
(b)成分としては、一般に市販されているリン系難燃剤を用いることができる。一般に市販されているリン系難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、縮合リン酸エステル系難燃剤として、大八化学(株)の商品名「CR−741」、「CR733S」、「PX−200」等を挙げることができる。
【0054】
(b)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0055】
本実施形態の難燃樹脂フィルムに用いる樹脂組成物又は本実施形態の難燃樹脂組成物において、(b)成分の含有量は、難燃樹脂組成物としての難燃性、機械的物性、フィルム成形時のサージングやドローダウンの観点から、(a)及び(b)成分の合計100質量部に対して25〜2質量部であり、好ましくは25〜5質量部であり、より好ましくは20〜5質量部の範囲である。この(b)成分の含有量が2質量部以上であれば、難燃樹脂フィルム又は難燃樹脂組成物の難燃性を改良でき、25質量部以下であれば難燃樹脂組成物の耐熱性、耐衝撃性、フィルム成形時のサージングやドローダウンを改良できる。
【0056】
<(c)フッ素含有樹脂>
つぎに本実施形態に用いる(c)成分について説明する。(c)成分は、フッ素原子を含有する樹脂(フッ素含有樹脂)であり、難燃樹脂組成物の表面外観を向上させ、難燃樹脂フィルムの成形時の加工性や厚み精度を向上させる効果に寄与するものである。
【0057】
特に、(c)成分は、フルオロエチレンの単独重合体、フルオロエチレンの共重合体、及びオレフィンとフルオロエチレンとの共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。このような(c)成分を含有することにより、難燃樹脂組成物としては優れた燃焼時の滴下防止性、優れた表面外観、及び金網詰まりが起きないことでの生産性及び収率の改善効果を付与し、難燃樹脂フィルムの製膜加工性も改善でき、さらに難燃樹脂フィルムを用いた太陽電池バックシートの難燃性(燃焼時の滴下防止性)をも向上させることができる。
【0058】
かかる(c)成分の具体例として、ポリモノフルオロエチレン、ポリジフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等を挙げることができる。これらの中でも、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。また、必要に応じて上記含フッ素モノマーと共重合可能なモノマーとを併用して共重合した共重合体でもよく、オレフィンとフルオロエチレンとの共重合体であるオレフィン−フルオロエチレン共重合体であってもよい。中でも(c)成分としては、オレフィン−フルオロエチレン共重合体であることが好ましい。オレフィン−フルオロエチレン共重合体の具体例としては、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−トリフルオロエチレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられ、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体が好ましい。
【0059】
これらの(c)フッ素含有樹脂の製造方法としては、特に限定されず、例えば、米国特許第2,393,697号明細書及び米国特許第2,534,058号明細書に開示された製造方法が挙げられる。具体的には、例えばテトラフルオロエチレンを、水性媒体中で過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等のラジカル開始剤を用いて、7〜70kg/cm2の加圧下、0〜200℃の温度で重合し、次いで懸濁液、分散液又は乳濁液から凝析により、又は沈殿によりポリテトラフルオロエチレン粉末が得られる。
【0060】
このポリテトラフルオロエチレンの市販品としては、特に限定されず、例えば、三井・デュポンフロロケミカル(株)のテフロン(登録商標)、ダイキン工業(株)のポリフロン(登録商標)、旭硝子(株)のフルオン(登録商標)PTFEなどを挙げることができる。ポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」とも記す。)の水性分散液の市販品としては、特に限定されず、例えば、三井・デュポンフロロケミカル(株)製のテフロン(登録商標)31JRなどを代表として挙げることができる。
【0061】
さらにポリジフルオロエチレンとしては、特に限定されず、例えば、クレハ(株)製のKFポリマー(登録商標)、アルケマ(株)製のカイナー(登録商標)、ソルベイ−ソレクシス(株)製のハイラー(登録商標)等が挙げられる。また、ポリモノフルオロエチレンとしては、特に限定されず、例えば、デュポン(株)製のテドラー(登録商標)等が挙げられる。
【0062】
また、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体としては、特に限定されず、例えば、三井・デュポンフロロケミカル(株)製のテフロン(登録商標)FEP、ダイキン工業(株)製ネオフロン(登録商標)FEP等を挙げることができる。
【0063】
さらに、本実施形態に用いる(c)成分として、樹脂組成物中での分散性を向上させ、さらに良好な燃焼時の滴下抑制効果を得るために、フッ素系樹脂と他の樹脂との混合物を使用することも可能である。
【0064】
例えば、ポリテトラフルオロエチレンと他の樹脂との混合物の製造方法としては、以下の(1)〜(5)のいずれかの方法が挙げられる。
(1)ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液と、有機重合体の水性分散液又は溶液とを混合し、共沈殿を行い共凝集混合物を得る方法(特開昭60−258263号公報、特開昭63−154744号公報などに記載された方法)。
(2)ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液と、乾燥した有機重合体粒子とを混合する方法(特開平4−272957号公報に記載された方法)。
(3)ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液と、有機重合体粒子溶液とを均一に混合し、かかる混合物からそれぞれの媒体を同時に除去する方法(特開平06−220210号公報、特開平08−188653号公報などに記載された方法)。
(4)ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液中で有機重合体を形成する単量体を重合する方法(特開平9−95583号公報に記載された方法)。
(5)ポリテトラフルオロエチレンの水性分散液と有機重合体分散液とを均一に混合後、さらに該混合分散液中でビニル系単量体を重合し、その後混合物を得る方法(特開平11−29679号などに記載された方法)。
【0065】
これら混合形態のポリテトラフルオロエチレンの市販品としては、特に限定されず、例えば、三菱レイヨン(株)の「メタブレンA3800」(商品名)などを挙げることができる。
【0066】
また、本実施形態に用いる(c)成分として、フッ素系樹脂と他の樹脂との共重合体を使用することも可能である。具体的にはエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。これら共重合体の市販品としては、特に限定されず、例えば、ダイキン工業(株)製のネオフロン(登録商標)ETFE、EFEP、旭硝子(株)製のフルオンLM−ETFE(登録商標)などを挙げることができる。
【0067】
本実施形態では上記(c)成分としてオレフィン−フルオロエチレン共重合体を用いる場合、そのMFR値と比重とを特定の範囲に制御することが好ましい。
【0068】
このオレフィン−フルオロエチレン共重合体のMFR値は、好ましくは10〜40g/10分であり、より好ましくは13〜37g/10分であり、更に好ましくは15〜35g/10分の範囲である。オレフィン−フルオロエチレン共重合体の比重は、好ましくは1.74〜1.79であり、より好ましくは1.74〜1.76の範囲である。
【0069】
上記オレフィン−フルオロエチレン共重合体は、MFR値を、例えば、10〜40g/10分に制御し、比重を、例えば、1.74〜1.79にすることで、難燃樹脂組成物中に均一、かつ微分散することができ、得られる難燃樹脂組成物の表面外観をより一層改善でき、また難燃樹脂組成物加工時の金網詰まりを改善でき、さらに難燃樹脂組成物の燃焼時の燃焼時間の改善及び滴下を防止することができる。
【0070】
なお、本実施形態の難燃樹脂フィルムに用いる樹脂組成物又は本実施形態の難燃樹脂組成物において、(c)フッ素含有樹脂の含有量は、後述のフッ素元素含有量を考慮して調整される。
【0071】
〈フッ素元素含有量〉
本実施形態の難燃樹脂組成物又は本実施形態の難燃樹脂フィルムに用いる樹脂組成物は、フッ素元素含有量が、100〜1000質量ppmであり、好ましくは100〜800質量ppmであり、さらに好ましくは120〜500質量ppmである。
【0072】
当該フッ素元素含有量が100〜1000質量ppmであると、難燃樹脂組成物中に(c)フッ素含有樹脂が均一、かつ微分散することができ、難燃樹脂組成物加工時の金網詰まりを改善でき、難燃樹脂フィルム成形時のサージングやドローダウンが抑制され、得られる難燃樹脂フィルムは薄くても均一な厚み(高い厚み精度)を有する。特に、(c)フッ素含有樹脂として、オレフィン−フルオロエチレン共重合体を用いた場合、フッ素元素含有量が100〜1000質量ppmであると、得られる難燃樹脂フィルムの難燃性がより一層向上する傾向にある。
【0073】
前記フッ素元素含有量を100〜1000ppmに制御する方法としては、例えば、用いる(c)フッ素含有樹脂のフッ素元素含有率に基いて、樹脂組成物中の(c)フッ素含有樹脂の配合量を調整する方法が挙げられる。具体的には、例えば、(c)成分として、ポリテトラフルオロエチレン(フッ素元素含有率76質量%)を用いる場合、樹脂組成物中のポリテトラフルオロエチレン含有量を0.013〜0.132%にすれば、難燃樹脂組成物又は難燃樹脂フィルムに用いる樹脂組成物中のフッ素元素含有量を100〜1000ppmにすることができる。また、例えば、(c)成分として、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体を用いる場合、各グレードでエチレン/テトラフルオロエチレン比が異なるため、まず(c)成分の比重を参考に(c)成分中のフッ素元素分析を行う。次に、該分析に基づき(c)成分中のフッ素元素の含有率を算出する。そして、該フッ素元素の含有率を参酌して、(c)成分の配合量を調整することにより、難燃樹脂組成物又は難燃樹脂フィルムに用いる樹脂組成物中のフッ素元素含有量を100〜1000ppmにすることができる。
【0074】
なお、本実施形態において、フッ素元素含有量は、樹脂組成物又は樹脂フィルムを分析することにより求めることが可能である。その場合、JPCA−ES01−2003に従い求めればよい。
【0075】
<(d)エラストマー>
本実施形態の難燃樹脂組成物又は本実施形態の難燃樹脂フィルムに用いる樹脂組成物は、(d)エラストマーをさらに含むことが好ましい。
【0076】
本実施形態の難燃樹脂組成物又は本実施形態の難燃樹脂フィルムに用いる樹脂組成物において、(d)成分の含有量は、(a)及び(b)成分の合計量100質量部に対して、1〜25質量部であることが好ましく、1〜11質量部であることがより好ましく、1〜9質量部であることがさらに好ましい。
【0077】
(d)成分を前記特定の範囲で含有させることで、難燃樹脂組成物、難燃樹脂フィルム及び該難燃樹脂フィルムを含む太陽電池バックシートの耐衝撃性及び成形加工性を特に向上させることができる。ただし、(d)成分を添加した場合は、(c)成分の添加量を適宜調整し、(a)〜(d)全成分中、すなわち難燃樹脂組成物又は難燃樹脂フィルムに用いる樹脂組成物中にフッ素元素を100〜1000質量ppm含むようにする。
【0078】
(d)エラストマーとしては、特に限定されず、例えば、熱可塑性エラストマーが挙げられる。具体的には、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とからなるエラストマーが挙げられる。中でも(d)エラストマーとしては、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体が好ましく、それらを水素添加してなる水添ブロック共重合体(以下、単に「水添ブロック共重合体」とも略記する)が耐熱性と耐衝撃性との観点からより好ましい。
【0079】
かかる水添ブロック共重合体とは、例えばA−B、A−B−A、B−A−B−A、(A−B−)4−Si、A−B−A−B−A等の構造を有し、結合したビニル芳香族化合物を5〜95質量%、好ましくは10〜80質量%含んだブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体である。ここで、Aは、上記重合体ブロックAを表し、Bは、上記重合体ブロックBを表す。
【0080】
次に、ブロック構造について説明する。ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAとは、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック又はビニル芳香族化合物を好ましくは50質量%を超え、更に好ましくは70質量%以上含有するビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物との共重合体ブロックの構造を有するものである。共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBとは、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック又は共役ジエン化合物を好ましくは50質量%を超え、更に好ましくは70質量%以上含有する共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物との共重合体ブロックの構造を有するものである。
【0081】
これらのビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックA、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBは、それぞれの重合体ブロックにおける分子鎖中の共役ジエン化合物又はビニル芳香族化合物の分布がランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加又は減少するもの)、一部ブロック状又はこれらの任意の組み合わせで成っていてもよく、該ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック及び該共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックがそれぞれ2個以上ある場合は、各重合体ブロックはそれぞれ同一構造であってもよく、異なる構造であってもよい。
【0082】
このブロック共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、特に限定されず、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等のうちから1種又は2種以上を選択でき、中でもスチレンが好ましい。また、共役ジエン化合物としては、特に限定されず、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等のうちから1種又は2種以上が選ばれ、中でも、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。そして共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックは、そのブロックにおける結合形態のミクロ構造を任意に選ぶことができ、例えば、ブタジエンを主体とする重合体ブロックにおいては、1,2−ビニル結合が2〜90%が好ましく、より好ましくは8〜80%である。また、イソプレンを主体とする重合体ブロックにおいては、1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合との合計量が好ましくは2〜80%、より好ましくは3〜70%である。
【0083】
本実施形態で用いる(d)成分の構成要素である水添ブロック共重合体の数平均分子量は、5,000〜1,000,000であるものが好ましく、特に好ましくは20,000〜500,000の範囲のものであり、分子量分布〔重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比〕は10以下であるものが好ましい。さらに、この水添ブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。なお、本実施形態において、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定しポリスチレン換算した値とする。
【0084】
上記のような構造をもつ水添ブロック共重合体は、上記したブロック共重合体の共役ジエン化合物を主体とした重合体ブロックBの脂肪族系二重結合の水素添加反応を実施することにより得ることができる。上記のような構造をもつ水添ブロック共重合体は、本実施形態で用いる(d)成分の水添ブロック共重合体として利用できる。かかる脂肪族系二重結合の水素添加率は、少なくとも20%を超えることが好ましく、更に好ましくは50%以上、特に好ましくは80%以上である。
【0085】
かかる水素添加率は例えば核磁気共鳴装置(NMR)等を用いて知ることができる。
【0086】
また、本実施形態に用いる水添ブロック共重合体として、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体に、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、エステル基、エポキシ基、オキサゾリル基、アミノ基の中から選ばれる少なくとも1種の官能基を付与したブロック共重合体も利用できる。
【0087】
この水添ブロック共重合体として、結合したビニル芳香族化合物の量が55〜95質量%である水添ブロック共重合体と、結合したビニル芳香族化合物の量が1〜55質量%未満である水添ブロック共重合体との混合物も用いることができる。また、該混合物中に含まれる結合したビニル芳香族化合物の含有量が20〜55質量%であるものを(d)成分として用いることがPPEとの混和性と靭性とのバランスの面から好ましい。
【0088】
(d)成分として水添ブロック共重合体を用いたい場合、該水添ブロック共重合体の含有量は、難燃樹脂組成物又は難燃樹脂フィルムとしての靭性、難燃性、耐熱性、フィルム成形時のドローダウンの観点から、(a)及び(b)成分の合計100重量部に対して、1〜25質量部であり、好ましくは1〜11質量部、より好ましくは1〜9質量部である。
【0089】
<その他の成分>
さらに本実施形態の難燃樹脂組成物又は本実施形態の難燃樹脂フィルムに用いる樹脂組成物には、上記の成分の他に本発明の特徴及び効果を損なわない範囲で必要に応じて他の付加的成分を添加してもかまわない。このような他の成分としては、例えば、酸化防止剤、金属不活性化剤、可塑剤(ミネラルオイル、低分子量ポリエチレン、エポキシ化大豆油、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル類等)、難燃助剤、耐候(光)性改良剤(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等)、スリップ剤、無機又は有機の充填材や強化材(ポリアクリロニトリル繊維、アラミド繊維等)、各種着色剤(カーボンブラック、酸化チタン等)、離型剤等が挙げられる。
【0090】
中でも、250℃以上の温度で加工が必要な場合は各種安定剤を使用することが好ましい。当該安定剤としては、特に限定されず、公知のものを使用できる。当該安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系安定剤、リン系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤等の有機安定剤や、酸化銅、酸化亜鉛等の無機安定剤が挙げられる。当該安定剤の配合量は、(a)及び(b)成分の合計100質量部に対して、5質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0091】
本実施形態の難燃樹脂組成物、難燃樹脂フィルム及び太陽電池バックシートは、例えば、屋外に設置される太陽電池モジュールに利用する場合、特に耐候(光)性が要求される。このような場合、本実施形態の難燃樹脂組成物又は本実施形態の難燃樹脂フィルムに用いる樹脂組成物には、(a)及び(b)成分の合計100質量部に対して、紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系安定剤から選ばれる少なくとも1種の耐候改良剤を0.01〜5質量部配合することが好ましい。
【0092】
さらに本実施形態の難燃樹脂組成物又は本実施形態の難燃樹脂フィルムに用いる樹脂組成物には、本願効果を妨げない範囲で、必要に応じてさらに他の樹脂を含んでいても構わない。他の樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリアリレンサルファイド(PAS)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)等が挙げられる。こられの樹脂は、1種単独、又は2種以上混合して使用できる。
【0093】
またさらに、本実施形態の難燃樹脂フィルムに用いる樹脂組成物又は本実施形態の難燃樹脂組成物は、相溶化剤を含んでいても構わない。相溶化剤としては、(a)〜(d)成分、又はこれら3者と相互作用する多官能性の化合物であればよく、特に制限されない。この相互作用は化学的(例えば、グラフト化)であっても、物理的(例えば、分散相の表面特性の変化)であってもよい。相溶化剤としては、特に限定されず、例えば、無水マレイン酸が挙げられる。
【0094】
本実施形態の難燃樹脂フィルムに用いる樹脂組成物又は本実施形態の難燃樹脂組成物には、必要に応じてさらに無機充填剤を添加することができる。無機充填剤としては、添加することで難燃樹脂フィルム又は難燃樹脂組成物の強度を付与することができれば特に限定されず、例えば、ガラス繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭素繊維、炭化ケイ素、セラミック、窒化ケイ素、マイカ、ネフェリンシナイト、タルク、ウオラストナイト、スラグ繊維、フェライト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、ガラスバルーン、石英、石英ガラス、溶融シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、などの無機化合物が挙げられる。中でも、成形加工性、寸法精度や、難燃樹脂フィルムとした際の安定性の観点から、ガラス繊維、ガラスフレーク、マイカ、タルクがより好ましい。これら無機充填剤の形状は限定されるものではなく、繊維状、板状、球状などが任意に選択できるが、難燃樹脂フィルムの成形加工性、寸法精度や、難燃樹脂フィルムとした際の安定性の観点から、板状、球状が好ましい。また、これらの無機充填剤は、2種類以上併用することも可能である。さらに、必要に応じて、シラン系、チタネート系などのカップリング剤で表面処理及びウレタン樹脂、エポキシ樹脂等で収束処理した無機充填剤も好適に使用することができる。
【0095】
<難燃樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の難燃樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されず、例えば、種々の溶融混練機を用いて上記各成分を溶融混練する方法が挙げられる。これらの方法を行う溶融混練機としては、特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機を含む多軸押出機、ロール、ニーダー、ブラベンダープラストグラフ、バンバリーミキサー等による加熱溶融混練機が挙げられる。中でも本実施形態の難燃樹脂組成物の製造方法としては、二軸押出機を用いて上記各成分を溶融混練する方法が好ましい。該二軸押出機の具体例としては、特に限定されなないが、WERNER&PFLEIDERER社製のZSKシリーズ、東芝機械(株)製のTEMシリーズ、日本製鋼所(株)製のTEXシリーズなどが挙げられる。
【0096】
押出機を用いた本実施形態の難燃樹脂組成物の製造方法の好ましい態様を以下に述べる。押出機のL/D(バレル有効長/バレル内径)は、好ましくは20以上60以下の範囲であり、より好ましくは30以上50以下の範囲である。押出機は原料の流れ方向に対し上流側に第1原料供給口、これより下流に第1真空ベント、その下流に第2〜第4原料供給口を設け、さらにその下流に第2真空ベントを設けたものが好ましい。中でも、第1真空ベントの上流にニーディングセクションを設け、第1真空ベントと第2原料供給口との間にニーディングセクションを設け、また第2〜第4原料供給口と第2真空ベントとの間にニーディングセクションを設けたものがより好ましい。第2〜第4原料供給口への原料供給方法は、特に限定されないが、例えば、押出機第2〜第4原料供給口開放口よりの単なる添加供給方法よりも、押出機サイド開放口から強制サイドフィーダーを用いて供給する方法が安定で好ましい。特に、本実施形態の難燃樹脂組成物が粉体を多く含む場合、樹脂の熱履歴による架橋物や炭化物の生成を低減するためには、押出機サイドから供給する強制サイドフィーダー用いて供給する方法がより好ましく、強制サイドフィーダーを第2〜第4原料供給口に設け、前記粉体を分割して供給する方法がより好ましい。また、液状の原料を添加する場合は、プランジャーポンプ、ギアポンプ等を用いて押出機中に前記液状の原料を添加する方法が好ましい。そして、押出機第2〜第4原料供給口の上部開放口は同搬する空気を抜くため開放口とすることもできる。この際の溶融混練温度、スクリュー回転数は特に限定されないが、通常溶融混練温度300〜350℃、スクリュー回転数100〜1200rpmの中から任意に選ぶことができる。
【0097】
さらに樹脂の酸素存在下の熱履歴による架橋物や炭化物の生成を低減したい場合は、各原料の押出機への添加経路の酸素濃度、具体的にはストックタンク→配管→リフィルタンクを保有した重量式フィーダー→配管→供給ホッパー→二軸押出機の個々の工程ラインの酸素濃度を1.0体積%未満に保持することが好ましい。この酸素濃度を維持する方法としては、不活性ガスを、気密性を高めた個々の工程ラインに導入する方法が挙げられる。通常、窒素ガスを、気密性を高めた個々の工程ラインに導入することにより、前記酸素濃度を1.0体積%未満に維持することができる。
【0098】
二軸押出機の原料供給ラインは、気密性を高めた供給経路に窒素ガスを供給することにより、酸素濃度を1.0体積%未満に制御することが好ましい。該酸素濃度は、前記原料供給経路に設置した酸素濃度計(例えば、新コスモス電機(株)製 デジタル酸素濃度計XO−326ALA)で測定することができる。なお、これら全ての原料供給経路は酸素濃度を1.0体積%未満とするため気密性が高められていることが好ましい。原料を落下して供給する経路の空間部分は、原料自体の体積により排除されるガスが発生するため、ガス抜き用の排気管を設けることが好ましい。すなわち、連続的に供給する窒素ガスにより気密性を高めた原料供給経路の圧力が高くならないようにガス抜き用の排気管を設置することが好ましい。具体的には、ストックタンクから原料が落下する重量式フィーダーのリフィルタンク内部の空間の上部、重量式フィーダーから原料が落下するホッパーの空間の上部にガス抜き用の排気管を設置する。かかる酸素濃度を1.0体積%未満とすることにより、得られる難燃樹脂組成物の黒点異物の総数を低減化できる傾向を示し、中でも酸素濃度を0.3体積%未満にすることがより好ましい。
【0099】
上記した製造方法は、パウダー状ポリフェニレンエーテル系樹脂を使用した難燃樹脂組成物を二軸押出機により製造する際に、二軸押出機のスクリュー残留物を劇的に低減化する効果をもたらし、さらにはこの方法で得られる難燃樹脂組成物に含まれる黒点異物や炭化物等を低減化する効果をもたらす。
【0100】
かかる難燃樹脂組成物中の黒点異物や炭化物の個数は、難燃樹脂組成物をクロロホルムに溶解後、得られた溶液をろ過し、ろ紙上の異物数として測定できる。また、クロロホルム不溶分が多く、異物のろ過ができない場合、難燃樹脂組成物中の黒点異物や炭化物の個数は、熱プレス成形により難燃樹脂組成物の平板を作成し、該平板中の異物の個数を数えることで測定できる。この異物の個数は、樹脂成形体として使用されるときの機械的強度、表面外観(表面の凸凹、薄い色では褐色〜黒色のブツが目立つ等)の観点から、好ましくは0〜40個、より好ましくは0〜30個、さらに好ましくは0〜20個である。
【0101】
本実施形態の難燃樹脂組成物の製造方法としては、各原料供給口の酸素濃度を1.0体積%未満に制御した押出機を用い、下記1〜3のいずれかの方法で各成分の溶融混練を行う方法が挙げられる。
1.上記した(a)成分の一部又は全量、(c)成分、又は必要に応じて(d)成分を第一供給口より供給し、次いで(a)成分の残量を第二供給口、(b)成分を第三供給口より溶融混練状態下に供給し、さらに溶融混練を続けて行う方法。
2.(a)成分〜(c)成分の全量、又は必要に応じて(d)成分の全量を第一供給口より供給し、溶融混練を行う方法。
3.(a)成分、(c)成分を第1原料供給口より供給し、次いで必要に応じて(d)成分を第二供給口、(b)成分を第三供給口より溶融混練状態下に供給し、溶融混練を行う方法等が挙げられる。
【0102】
特に、上記1の製造方法で得られる難燃樹脂組成物は、上記2又は3の製造方法で得られる難燃樹脂組成物と比べ、(a)成分〜(d)成分が各々優れた均一分散形態をとることができ、これら成分の配合効果をより一層顕著に発現させることができる。具体的には、上記1の製造方法は、樹脂の熱履歴による架橋物や炭化物の生成を抑制でき、難燃樹脂フィルム成形時のドローダウン、メッシュ詰まり、目ヤニを著しく低減することができ、難燃性、表面外観に優れた難燃樹脂組成物が得られるため、より好ましい。
【0103】
本実施形態の樹脂ペレットは、上述の難燃樹脂組成物を含む。また、本実施形態の樹脂ペレットは、例えば、上述した製造方法により得られた難燃樹脂組成物をペレット化することにより得られる。
【0104】
本実施形態の射出成形品は、上述の難燃樹脂組成物を含む。また、本実施形態の射出成形品は、例えば、難燃樹脂組成物を射出成形することにより得ることができる。当該射出成形の方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0105】
<難燃樹脂フィルムの製造方法>
本実施形態の難燃樹脂フィルムは、例えば、上述した難燃樹脂組成物を成形することにより製造することができる。
【0106】
本実施形態の難燃樹脂フィルムは、例えば、上記各成分を押出フィルム成形機に直接投入し、混練とフィルム成形とを同時に実施して得ることもできる。
【0107】
また、本実施形態の難燃樹脂フィルムは、例えば、上述した難燃樹脂組成物をTダイ押出成形することにより製造することができる。この場合、無延伸のまま用いてもよいし、1軸延伸してもよいし、2軸延伸することによっても得られる。難燃樹脂フィルムの強度を高めたい場合は、延伸することにより達成することができる。また、多層Tダイ押出成形方法により、本実施形態の難燃樹脂フィルムと他の樹脂フィルムとの多層シートを得ることができる。
【0108】
本実施形態の難燃樹脂フィルムは、例えば、押出しチューブラー法、場合によってはインフレーション法とも呼ばれる方法によっても製造することができる。押出しチューブラー法又はインフレーション法において、円筒から出てきたパリソンがすぐに冷却してしまわないように、50〜290℃の温度範囲の中から適宜選択して、パリソンを温度制御することが難燃樹脂フィルム厚みを均一にする上で好ましい。多層ダイスを用いたインフレーション方法により、本実施形態の難燃樹脂フィルムと他の樹脂フィルムとの多層シートを得ることもできる。上記のフィルム成形時においても酸素濃度を1%未満に制御した成形機を用いることが、樹脂の酸素存在下の熱履歴による黒点異物や炭化物を低減することができるので好ましい。
【0109】
かかる難燃樹脂フィルム中の黒点異物や炭化物の個数は、難燃樹脂フィルムをクロロホルムに溶解後、得られた溶液をろ過し、ろ紙上の異物数として測定できる。この異物数は難燃樹脂フィルムとして使用されるときの機械的強度、加工性(折り曲げ性、フィルムと封止材との密着性など)、表面外観の観点から、好ましくは0〜60個であり、より好ましくは0〜40個、さらに好ましくは0〜30個である。
【0110】
<難燃樹脂フィルムの厚み>
本実施形態の難燃樹脂フィルムの厚みは、20〜500μmであり、好ましくは50〜250μmである。難燃樹脂フィルムとして使用されるときの機械的強度と加工性(折り曲げ性など)との観点から、難燃樹脂フィルムの厚み下限値は20μm、難燃樹脂フィルムの上限値は500μmである。
【0111】
次に、難燃樹脂フィルムの厚み精度について説明する。難燃樹脂フィルムとして使用されるときの機械的強度、加工性(折り曲げ性、フィルムと封止材との密着性など)、加工後の難燃樹脂フィルムの厚み精度の観点から、難燃樹脂フィルム厚みの標準偏差は、好ましくは0〜15であり、より好ましくは0〜12、さらに好ましくは0〜9である。難燃樹脂フィルム厚みの標準偏差は、例えば、後述の実施例に記載のマイクロゲージを用いた測定方法により得ることができ、難燃樹脂フィルムが他の層(例えば、封止材、ガスバリア層など)と密着している場合には、電子顕微鏡などを用いて難燃樹脂フィルム層を写真撮影してフィルム厚みを測定する方法などにより得ることができる。
【0112】
<用途>
本実施形態の難燃樹脂フィルムは、太陽電池バックシートに用いることができる。また耐熱性、難燃性、電気絶縁性等の特性が要求される他の用途にも用いることができる。他の用途としては、例えば、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、データ系磁気テープ、APS写真フィルム、フィルムコンデンサー、絶縁フィルム、モーターやトランスなどの絶縁材料、スピーカー振動板、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、TABテープ、発電機スロットライナ層間絶縁材料、トナーアジテーター、リチウムイオン電池などの絶縁ワッシャーなど電子・電気部品材料、家電OA用材料、自動車用材料、工業用材料などの絶縁フィルムに好適に用いることができる。
【0113】
≪太陽電池バックシート≫
本実施形態の太陽電池バックシートは、上述の難燃樹脂フィルムを含む。
【0114】
本実施形態の太陽電池バックシートにおいて、難燃樹脂フィルムの厚みは、太陽電池バックシートの性能等を考慮して、適宜選択することができるが、20μm〜500μmであることが好ましい。
【0115】
本実施形態の太陽電池バックシートに用いる難燃樹脂フィルムとしては、フィルム表面の高い平滑性(寸法精度)、欠点、異物が少ないフィルムが好ましい。難燃樹脂フィルムの表面平滑性が高いと、太陽電池バックシートは、難燃性や耐候性を均一に保つことができる。一方、難燃樹脂フィルムに欠点や異物が多いと、太陽電池バックシートは、要求される部分放電電圧が低下する傾向にある。
【0116】
難燃樹脂フィルムの表面平滑性は、クロロホルム等の上述の難燃樹脂フィルムに可溶な溶媒に対しての不溶分率(%)で評価することができる。すなわちこの不溶分率が1%以下であると上述の難燃樹脂フィルムの表面平滑性が良好であると判断できる。好ましくは、前記不溶分率が0.5%以下の場合である。さらに分解反応等で生成した異物は、上述のクロロホルムのろ過成分からろ紙上に残る。この難燃樹脂フィルム中の異物は、太陽電池バックシートの部分放電電圧の低下につながるから実質上観察されないことが好ましい。
【0117】
本実施形態の太陽電池バックシートを構成する難燃樹脂フィルムは、厚み20μm〜500μmの範囲において、UL94に準じた燃焼試験でVTM−0であることが好ましい。このような難燃樹脂フィルムを含む本実施形態の太陽電池バックシートは、必然的に難燃性の向上が期待され、UL94に準じた燃焼試験で、VTM−0を達成できる傾向にある。
【0118】
なお、本実施形態において、UL94に準じた燃焼試験は、詳細には、後述の実施例に記載された難燃性試験である。
【0119】
本実施形態の太陽電池バックシートは、例えば、後述するように、上述の難燃樹脂フィルムからなる層と、必要に応じてガスバリア層、耐光層等の層とを積層する。そして、太陽電池モジュールは、例えば、後述するように、本実施形態の太陽電池バックシートと、光透過性基板と、封止材層と、太陽電池素子とを積層し、加熱真空ラミネート法により製造することができる。当該真空ラミネート法における加熱温度は、一般的に140〜160℃の温度範囲をとるため、この温度範囲で太陽電池バックシートを構成する各層は溶融あるいは変形しないことが好ましい。
【0120】
本実施形態の太陽電池バックシートでは、難燃樹脂フィルムに含まれる(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂が非晶性の樹脂である。そのため、本実施形態の太陽電池バックシートの耐熱性は、太陽電池バックシートを構成する難燃樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)で評価することができる。前記難燃樹脂フィルムのDSC測定によるガラス転移温度は、140℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。前記樹脂フィルムのガラス転移温度の上限は、特に限定されないが、例えば、205℃以下である。前記難燃樹脂フィルムのガラス転移温度が140℃以上であると、難燃樹脂フィルムが加熱真空ラミネート工程において溶融、変形することを抑制できる。前記難燃樹脂フィルムのガラス転移温度は、主に(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(b)リン系難燃剤との配合量(質量部)によって制御することができる。(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂の配合量が多くなると、前記難燃樹脂フィルムのガラス転移温度は上がり、耐熱性が向上した太陽電池バックシートとすることができる。前記難燃樹脂フィルムのガラス転移温度は、DSC測定におけるチャートの変移点を観測することにより測定される。
【0121】
<太陽電池バックシートを構成するその他の層>
本実施形態の太陽電池バックシートは、上記難燃樹脂フィルムからなる層のみの単層であってもよいし、2層以上からなる多層構造を有していてもよい。多層構造としては、例えば、上記難燃樹脂フィルムからなる層に、異なる成分の層を1又は2以上積層された構造等が挙げられる。このような多層構造としては、上記難燃樹脂フィルムからなる層と、ガスバリア層とを含む構造であることが好ましく、さらに耐光層を含む構造であることがより好ましい。
【0122】
一般に太陽電池バックシートは、太陽電池モジュール構成材料として使用される際に、屋外に長期間暴露されるため、降雨や霜等に対する耐水性に優れることが求められる。特に太陽電池バックシートは水蒸気に代表されるガスバリア性が要求される。したがって、本実施形態の太陽電池バックシートは、水蒸気を遮断するために、上記難燃樹脂フィルムからなる層を基材として、さらにガスバリア層を有することが好ましい。より具体的には、ガスバリア層が上記難燃樹脂フィルムからなる層に積層された構造とすることで、太陽電池バックシートのガスバリア性を向上させることができる。ガスバリア層は必ずしも上記樹脂組成物からなる層に直接積層されてなくてもよく、例えば、他の層を介して上記難燃樹脂フィルムからなる層に積層されていてもよい。
【0123】
このガスバリア層としては、特に限定されず、例えば、太陽電池バックシートのガスバリア層として広く使用される無機酸化物蒸着薄膜層等が用いられる。具体的には、酸化アルミナ蒸着層、酸化ケイ素蒸着層等が挙げられる。
【0124】
さらに、太陽電池バックシートは、太陽電池モジュール構成材料として使用される際に、太陽光にその一部が暴露されるため、太陽電池バックシートも耐光性に優れることが求められることがある。かかる観点から、本実施形態の太陽電池バックシートは、上記難燃樹脂フィルムからなる層を基材として、さらに耐光層を含むことが好ましい。より具体的には、難燃樹脂フィルムからなる層に積層された耐光層を、さらに有する構造とすることで、太陽電池バックシートの耐光性を向上させることができる。耐光層は、必ずしも難燃樹脂フィルムからなる層に直接積層されなくてもよく、例えば、難燃樹脂フィルムからなる層に積層された上記ガスバリア層の上に積層されていてもよい。
【0125】
この耐光層としては、特に限定されず、例えば、太陽電池バックシートの耐光層として広く用いられている耐光コーティングやフッ素樹脂フィルム等が挙げられる。
【0126】
太陽電池バックシートは、太陽光の通過を必ずしも前提としないため、後述する光透過性基板に求められる光透過性は必ずしも必要とされない。そこで、本実施形態の太陽電池バックシートは、太陽電池モジュール構成材料とした際の機械的強度を向上させるためや、温度変化による歪や反りを防止するために、補強板をさらに積層させてもよい。補強板として、例えば、鋼板、プラスチック板、FRP(ガラス繊維強化プラスチック)板等を好ましく使用することができる。
【0127】
<太陽電池バックシートの製造方法>
本実施形態の太陽電池バックシートは、上記難燃樹脂フィルムからなる層のみの単層である場合には、上記難燃樹脂組成物を原料とし押出フィルム成形することにより得ることもできるし、上記難燃樹脂フィルムを構成する原料成分を押出フィルム成形機に直接投入し、ブレンドとフィルム成形とを同時に実施して得ることもできる。
【0128】
また、本実施形態の太陽電池バックシートは、上記難燃樹脂フィルムからなる層に他の層が積層されたものである場合には、各層をラミネートすることなどにより製造することができる。
【0129】
≪太陽電池モジュール≫
本実施形態の太陽電池モジュールは、光透過性基板と、封止材層と、太陽電池素子と、上述した太陽電池バックシートと、を含む。
【0130】
また、本実施形態の太陽電池モジュールは、光透過性基板と、少なくとも1層の封止材層と、太陽電池素子と、上述した太陽電池バックシートと、が少なくともこの順に積層されていることが好ましい。上述した太陽電池バックシートは、電気絶縁性に加え、低熱収縮性、耐加水分解性に優れているため、当該太陽電池バックシートを用いた本実施形態の太陽電池モジュールには、充分な耐久性、耐候性を付与することができる。本実施形態の太陽電池モジュールにおいて、太陽電池素子を2枚の封止材層で挟み込んだ構造であってもよい。例えば、封止材層は単層でもよいし、複数層でもよい。さらに、光透過性基板と、第1の封止材層と、太陽電池素子と、第2の封止材層と、上述した太陽電池バックシートと、がこの順に積層された構造であってもよい。
【0131】
光透過性基板は、太陽光を有効に活用するために、光学ロスが小さく、透明性が高い基板であることが好ましい。太陽電池モジュールとした際、その最表層に位置するため、耐候性、撥水性、耐汚染性、機械強度をはじめとする、太陽電池モジュールの屋外暴露における長期信頼性を確保するための性能を具備することが好ましい。
【0132】
光透過性基板の材料としては、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、環状オレフィン(共)重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等からなる樹脂製の基板や、ガラス基板等が挙げられ、中でも、耐候性、耐衝撃性、コストのバランスの観点からガラス基板が好ましい。
【0133】
また、特に耐侯性が良好であるフッ素樹脂も好適に用いられる。具体的には、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)ポリモノフルオロエチレン(PVF)、ポリジフルオロエチレン(PVDF)、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリ三フッ化塩化エチレン樹脂(CTFE)が挙げられる。また、後述する封止材層等の他の層を構成する材料との接着性を改善するために、コロナ処理、プラズマ処理を光透過性基板に行うことが好ましい。また、機械的強度向上のために、延伸処理が施してあるシート、例えば2軸延伸のポリプロピレンフィルムを用いることも可能である。
【0134】
光透過性基板としてガラス基板を用いる場合には、赤外部の吸収の少ない白板ガラスを使用するのが一般的であるが、青板ガラスであっても厚さが薄いものであれば太陽電池モジュールとした際の出力特性への影響は少ない。また、ガラス基板の機械的強度を高めるために熱処理により強化ガラスを得ることができるが、熱処理無しのフロート板ガラスを用いてもよい。また、ガラス基板の受光面側に反射を抑えるために反射防止のコーティングを施してもよい。
【0135】
封止材層を構成する材料としては、特に限定されず公知の封止材を用いることができる。例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−脂肪族不飽和カルボン酸共重合体、エチレン−脂肪族カルボン酸エステル共重合体、あるいはこれらのケン化物等を含む封止材が挙げられる。上述した第1の封止材層と第2の封止材層とを用いる場合は、同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。
【0136】
太陽電池素子としては、半導体の光起電力効果を利用して発電できるものであれば特に制限はなく、例えば、シリコン(単結晶系、多結晶系、非結晶(アモルファス)系)、化合物半導体(3−5族、2−6族、その他)等を用いることができ、中でも、発電性能とコストとのバランスの観点から、多結晶シリコンが好ましい。
【0137】
本実施形態において太陽電池モジュールの製造方法は、特に限定されないが、例えば、光透過性基板、第1の封止材層、太陽電池素子、第2の封止材層、太陽電池バックシートの順に重ねて真空ラミネートすることによりモジュール化する方法を挙げることができる。
【0138】
また、上述の太陽電池バックシートに含まれる難燃樹脂フィルムは、封止材として一般に用いられるエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等との接着強度が強く、太陽電池モジュールを作製する際の真空ラミネート工程で特別の接着剤を使用する必要がなくコスト、生産効率からも優位である。
【実施例】
【0139】
本発明を実施例によって、さらに詳細に説明するが、これらの実施例により限定されるものではない。
【0140】
(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂
a1:2,6−キシレノールを酸化重合して得たポリフェニレンエーテル(以下「PPE」とも記す。)。該PPEは、還元粘度(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)が0.50であり、DSC法によるガラス転移点(Tg)が215℃であった。
a2:2,6−キシレノールを酸化重合して得たPPE。該PPEは、還元粘度(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)が0.40であり、DSC法によるガラス転移点(Tg)が215℃であった。
a3:2,6−キシレノールを酸化重合して得たPPE。該PPEは、還元粘度が0.35であり、DSC法によるガラス転移点(Tg)が213℃であった。
a4:アタクチックポリスチレン(PSジャパン社製、商品名 ポリスチレン685)。
a5:ハイインパクトポリスチレン(PSジャパン社製、商品名 ポリスチレンH9405)。
【0141】
(b)リン系難燃剤
b1:ビスフェノールAのビスジフェニルホスフェートを主成分とする縮合リン酸エステル(大八化学(株)製、商品名 CR−741)。
【0142】
(c)フッ素含有樹脂
c1:ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業(株)社製、商品名ポリフロン(登録商標)FA−500)。
c2:ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業(株)社製、商品名ポリフロン(登録商標)FA−500)/ハイインパクトポリスチレン(PSジャパン社製、ポリスチレンH9405)=90質量%/10質量%を、予めニーダーを用いて溶融混練を行って得られたポリテトラフルオロエチレンマスターバッチ。
c3:テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(ダイキン工業(株)社製、商品名ネオフロン(登録商標)FEP NP−101)。
c4:エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(旭硝子(株)社製、商品名フルオン(登録商標)LM−720AP)。
c5:エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(旭硝子(株)社製、商品名フルオン(登録商標)LM−730AP)。
c6:エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(旭硝子(株)社製、商品名フルオン(登録商標)LM−740AP)。
c7:エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ダイキン工業(株)社製、商品名ネオフロン(登録商標)ETFE EP−546)。
c8:エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ダイキン工業(株)社製、商品名ネオフロン(登録商標)ETFE EP−610)。
c9:エチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(ダイキン工業(株)社製、商品名ネオフロン(登録商標)EFEP RP−5000)。
【0143】
各エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体及びエチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体のメルトフローレイト(MFR)は、ASTM−D3159に準拠して測定した。また、各エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体及びエチレン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体の比重は、ISO−1183に準拠して測定した。これらの測定結果を表1〜8に示す。
【0144】
(d)水添ブロック共重合体
d1:ポリスチレン−水素添加されたポリブタジエン−ポリスチレンのブロック構造を持ち、結合スチレン量が35%、数平均分子量が197000、ポリブタジエン部の水素添加率が99.3%の水添ブロック共重合体。
d2:ポリスチレン−水素添加されたポリブタジエン−ポリスチレンのブロック構造を持ち、結合スチレン量が65%、数平均分子量が85000、ポリブタジエン部の水素添加率が99.2%の水添ブロック共重合体。
d3:ポリスチレン−水素添加されたポリブタジエン−ポリスチレンのブロック構造を持ち、結合スチレン量が30%、数平均分子量が61000、ポリブタジエン部の水素添加率が99.4%の水添ブロック共重合体。
【0145】
[実施例1〜63及び比較例1〜16]
各樹脂組成物の製造及び物性評価と、各フィルムの製造及び特性評価とを、以下の方法に従って実施した。
【0146】
〈樹脂組成物の製造及び物性評価〉
樹脂組成物の製造には、二軸押出機ZSK−40(WERNER&PFLEIDERER社製)を用いた。該二軸押出機において、原料の流れ方向に対し上流側に第1原料供給口、これより下流に第2原料供給口及び第3原料供給口を設け、さらにその下流に真空ベントを設けた。また、第2原料供給口への原料供給方法は、押出機サイド開放口から強制サイドフィーダーを用いて供給する方法とし、第3原料供給口への原料供給方法は、押出機上部開放口からギアポンプを用いて供給する方法とした。さらに押出機の重量式フィーダーから原料が落下するホッパーの空間の上部にガス抜き用の排気管を設置した。またさらに原料供給ラインに窒素ガスを供給した。これらの経路に設置した酸素濃度計(新コスモス電機(株)製 デジタル酸素濃度計XO−326ALA)で酸素濃度を測定し、原料供給口における酸素濃度を1.0体積%未満に制御した。但し、実施例40では第1原料供給口における酸素濃度を1.4体積%とし、実施例49では第1原料供給口における酸素濃度を1.6体積%、第2原料供給口における酸素濃度を2.0体積%とした。また、押出機ダイス部に#120メッシュ(平織り、網目0.132mm)の金網を挟んだ。
【0147】
上記のように設定した押出機を用い、(a)ポリフェニレンエーテル系樹脂、(b)リン系難燃剤、(c)フッ素含有樹脂、(d)水添ブロック共重合体等の各原料成分を、表1〜8に示した組成で各原料供給口に導入し、押出温度300〜320℃、スクリュー回転数300rpm、吐出量80kg/時間の条件にて溶融混練することにより、樹脂組成物をペレットとして得た。当該樹脂組成物について、下記(1)〜(6)に記載の方法により各物性等を評価した。当該評価結果を表9〜16に示す。
【0148】
〈フィルムの製造及び特性評価〉
上記で得られた樹脂組成物のペレットを用いて以下のとおりフィルムを製造した。フィルムの製造には、シリンダー温度(270〜340℃)に設定したスクリュー径65mmのベント付き単軸押出機を用いた。上記樹脂組成物の製造における二軸押出機の場合と同様に、該単軸押出機の原料供給ラインに窒素ガスを供給し、原料供給口における酸素濃度を1.0体積%未満に制御した。但し、実施例41では原料供給口における酸素濃度を1.8体積%とした。詳細な製造条件としては、吐出量60kg/hr、Tダイスリットの厚み0.50mm、ダイスリットの幅650mm、圧延ロール表面温度100〜150℃とした。当該製造条件下、引き取り速度を調整し、厚み20〜500μmのフィルムを製造した。
得られたフィルムについて、下記(7)〜(15)に記載の方法により各特性の評価を行った。当評価結果を併せて表9〜16に示す。
【0149】
〈樹脂組成物の物性評価方法及びフィルムの特性評価方法〉
(1)押出機金網詰まり(生産性及び収率)
上記の樹脂組成物のペレット製造終了(3時間運転後)毎に押出機ダイス部を開け、上記#120メッシュ(平織り、網目0.132mm)の金網を取り出した。該取り出した金網において、樹脂組成物が通過した金網面に付着していた異物の状態を観察し、押出機金網詰まりについて以下の基準で評価した。
【0150】
(基準)
A:金網の目の0%以上10%以下の範囲にフィブリル又はゲル状の異物が付着していた場合。
B:金網の目の10%を超え50%以下の範囲にフィブリル又はゲル状の異物が付着していた場合。
C:金網の目の50%を超えた範囲にフィブリル又はゲル状の異物が付着していた場合。
【0151】
(2)ペレット中の異物の測定
上記得られた樹脂組成物のペレット中の異物の測定を下記溶解法及びプレス法により行った。
【0152】
溶解法:サンプル管(50ml)中で、樹脂組成物のペレット1gをクロロホルム20mlに溶解して溶液を得た。該溶液をシェーカーにて60分間振とうした。該振とう後の溶液を直径70mmのろ紙(アドバンテック社製 定量ろ紙No.3)で吸引ろ過した。該吸引ろ過後のろ紙を1時間室温で風乾し、該ろ紙上における最大径10μm以上の異物の数を測定した。このとき、クロロホルム不溶分(ゲル状物質)が多く、ろ紙でろ過出来なかった場合を「測定不能」とした。
【0153】
プレス法:樹脂組成物のペレット1gを厚さ1mmの金型に入れ320℃に設定した過熱プレス機で3分間プレスし、平板を得た。この平板の表/裏を目視にて観察し異物の数を測定した。
【0154】
(3)フッ素元素含有量の測定
JPCA−ES01−2003記載の方法で、上記得られた樹脂組成物のペレット中のフッ素元素含有量の測定を行った。
【0155】
(4)難燃性
上記得られた樹脂組成物のペレットを、220〜320℃に設定したスクリューインライン型射出成形機に供給し、金型温度60〜90℃の条件で成形し、厚み1.6mm難燃性測定試験片を作成した。UL−94 5thEd.に従い、前記作成した厚み1.6mm難燃性測定試験片を用いてVB試験を行った。
【0156】
(5)シャルピー衝撃強さ
上記得られた樹脂組成物のペレットを用いて、JIS K7152−1及びK7313−2に準拠し、JIS K7139試験片を成形、切削し、シャルピー衝撃強度測定用試験片を作成した。該シャルピー衝撃強度測定用試験片を用いて、JIS K7111−1に準拠しシャルピー衝撃強さを測定した。
【0157】
(6)ウエルド表面外観
上記得られた樹脂組成物のペレットを用いて、両端にランナーを設けたJIS K7139試験片金型でウエルド試験片を作成した。ポリテトラフロロエチレンマスターバッチ添加した樹脂組成物(実施例37)を用いたウエルド試験片におけるウエルド表面外観を基準(B)とし、以下のとおり各ウエルド試験片におけるウエルド表面外観を以下のとおり評価した。
【0158】
(基準)
A:ウエルド部の境目が実施例37より目立たなかった場合。
B:ウエルド部の境目が実施例37と同等であった場合。
C:ウエルド部の境目が実施例37より目立っていた場合。
【0159】
(7)不溶分率の測定
沈殿管(50ml)中で、上記得られたフィルム約1g(W1)をクロロホルム20mlに溶解して溶液を得た。該溶液をシェーカーにて60分間振とうした。該振とう後の溶液を、遠心分離機を用いて遠心分離し、さらにデカンテーションを行って沈殿物を取出した。該沈殿物を160℃、常圧で1時間、真空下でさらに2時間処理し、該沈殿物から溶媒を除去した。該沈殿物から溶媒を除去した残渣物の重量(g)(W2)を測定した。不溶分率の計算は以下のように行った。
【0160】
不溶分率(%)= (W2/W1)×100
【0161】
(8)異物数の測定
サンプル管(50ml)中で、上記得られたフィルム1gをクロロホルム20mlに溶解して溶液を得た。該溶液をシェーカーにて60分間振とうした。該振とう後の溶液を、直径70mmのろ紙(アドバンテック社製 定量ろ紙No.3)で吸引ろ過した。該吸引ろ過後のろ紙を1時間室温で風乾し、該ろ紙上における最大径10μm以上の異物の数を測定した。このとき、クロロホルム不溶分(ゲル状物質)が多く、ろ紙でろ過出来なかった場合を「測定不能」とした。
【0162】
(9)難燃性試験
UL−94 5thEd.に従い、上記得られたフィルムを用いてVTM試験を行った。ただし、上記得られたフィルムのうち、厚みが400μm以上のフィルムの場合、試験片作成(シートを丸めること)が困難なため、VB試験を行った。また、場合により、厚みが400μm以上のフィルムを製造した樹脂組成物と同様の組成の樹脂組成物を用いて厚み60μmのフィルムを製造し、得られたフィルムについてVTM試験を行った。
【0163】
(10)ガラス転移温度測定
上記得られたフィルムにおける樹脂組成物成分のガラス転移温度を、Perkin−Elmer社製DSC測定機によって測定した。該測定において、温度範囲を50℃から300℃とし、雰囲気を窒素雰囲気とし、昇温速度を20℃/分とした。
【0164】
(11)加熱収縮率の測定
上記得られたフィルムを、100mm×100mmのサイズにカットして各試験片を作製した。各試験片のMD方向の寸法をマイクロメーターで測定した。次に、JIS−C2318に準拠し、各試験片を150℃の熱オーブン中に30分間静置し加熱収縮させ、23℃、50%RHに制御した実験室に24時間放置した。その後、各試験片のMD方向の寸法を再度マイクロメーターで測定した。各試験片の加熱収縮前後のMD方向の寸法変化(収縮率)を算出した。このとき、フィルムの変形が大きく正確な寸法測定が出来ない場合を「測定不能」とした。
【0165】
(12)厚み精度測定
上記得られた所定厚みのフィルムの両端を切り、幅300×長さ500mmのフィルムを作成した。このフィルムの四隅及びその中間からフィルムの中心に向かい20mmの場所の厚みをマイクロゲージ(株式会社ミツトヨ製デジマチックインジケーターID−C112BS)にて測定(計8箇所)し、フィルムの厚みの標準偏差を算出した。該標準偏差が小さいほど、厚み精度に優れると評価した。
【0166】
(13)表面外観(目ヤニ、ダイライン)
上記フィルムの製造において、Tダイリップをワイピングし、3時間フィルム引取りを行った後、リップに付着した目ヤニを観察し、表面外観(目ヤニ、ダイライン)を下記基準により評価とした。
【0167】
(基準)
A:目ヤニ発生がなかった場合。
B:フィルムに殆どダイラインは観察されなかったが、目ヤニが発生した場合。
C:フィルムにダイラインが顕著に観察されるほど目ヤニ発生が多かった場合。
【0168】
(14)表面外観(光沢)
上記得られたフィルムについて、JIS−Z8741に準じた方法でデジタル変角光沢計(日本電色工業製:VGS−1D型)を用いて入射光反射光変角60°の光沢度を測定した。該測定値に基づき下記の基準によりフィルムの表面外観(光沢)を評価した。
【0169】
(基準)
AA:光沢度95%以上。
A:光沢度70%以上〜95%未満。
B:光沢度60%以上〜70%未満。
C:光沢度60%未満。
【0170】
(15)バックシート加工性
厚み5mm透明ガラス板と、封止材として厚み500μmのエチレン−酢酸ビニル共重合体(ETIMEX製、VISTRASOLAR)と、さらに上記得られたフィルムとを、縦100mm、横50mmの寸法で、この順番に積層し、150℃で30分間減圧下で熱プレスし、バックシート加工性を下記の基準により評価した。
【0171】
(基準)
A:フィルムと封止材との間にボイドが観察されず、フィルムと封止材とが密着した場合。
B:フィルムと封止材との間にボイドが観察された場合。
C:フィルムが融けた状態で変形した場合。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】
【0172】
表9〜表16から、本実施形態により得られる難燃ポリフェニレンエーテル系樹脂は、難燃性、表面外観に優れかつ押出加工時の金網詰まりが少ないことがわかった。
【0173】
また、実施例1〜63のいずれの厚みのフィルムにおいても、フィルム外観が優れ、かつVTM−0もしくはVTM−1の難燃性を有し、耐熱性が十分高かったため、バックシートの加工性も優れていた。
【0174】
尚、実施例14と実施例37とは、(c)成分としてPTFEを用いた全く同じ組成で製法の異なる樹脂組成物及びそれからなる樹脂フィルムの実施例であるが、この両者のフィルム特性において厚み精度に差があったことから、表面外観やバックシート加工性にも差が生じていた。
【0175】
また、実施例43及び実施例44で得られた樹脂組成物は、バックシートに用いる材料としては適さないが、V−0の難燃性と良好なウエルド外観とを両立していた。
【0176】
本出願は、2011年5月20日出願の日本特許出願(特願2011−113501号)、2011年5月20日出願の日本特許出願(特願2011−113503号)及び2012年2月22日出願の日本特許出願(特願2012−036569号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明の樹脂組成物又は難燃樹脂フィルムは、難燃性に優れるともに、高い厚み精度を有し、異物が少ないという特徴を有する。この難燃樹脂フィルムを太陽電池バックシートに供することにより、優れたバックシート加工性と難燃性とを有する太陽電池バックシートを得ることができる。