特許第5905897号(P5905897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルケマ フランスの特許一覧

特許5905897(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンを含む冷凍剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5905897
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンを含む冷凍剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20160407BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20160407BHJP
【FI】
   C09K5/04 Z
   C09K5/04 F
   F25B1/00 396Z
【請求項の数】13
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-540420(P2013-540420)
(86)(22)【出願日】2011年11月8日
(65)【公表番号】特表2014-502303(P2014-502303A)
(43)【公表日】2014年1月30日
(86)【国際出願番号】FR2011052589
(87)【国際公開番号】WO2012069725
(87)【国際公開日】20120531
【審査請求日】2013年7月29日
(31)【優先権主張番号】1059728
(32)【優先日】2010年11月25日
(33)【優先権主張国】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(72)【発明者】
【氏名】ラシェド, ウィザム
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−532395(JP,A)
【文献】 特表2008−531836(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/129461(WO,A2)
【文献】 特表2010−522816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/04
C09K 3/00
C09K 3/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンを、−12℃以下の沸点を有する少なくとも一種のハイドロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、エーテル、ヒドロフルオロエーテルまたはフルオロオレフィン化合物との混合物として含み、この化合物が1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、ジフルオロメタン、プロパンおよびこれらの混合物の中から選択される伝熱流体。
【請求項2】
下記から成る請求項1に記載の伝熱流体:
(1)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、ジフルオロメタンおよびプロパンの中から選択される一つの化合物、または
(2)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン,1,1−ジフルオロエタン、ジフルオロメタンおよびプロパンの中から選択される2つの化合物。
【請求項3】
下記の混合物から成る請求項1または2に記載の伝熱流体:
(1)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
(2)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
(3)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、3,3,3−トリフルオロプロペン、
(4)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、
(5)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1−ジフルオロエタン、
(6)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、ジフルオロメタン、
(7)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、プロパン、
(8)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
(9)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、2、3,3,3−テトラフルオロプロペン、
(10)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、1,1−ジフルオロエタン、
(11)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと,1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、3,3,3−トリフルオロプロペン;
(12)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1,1,2−テトラフルオロエタ
(13)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、プロパン;
(14)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと1,3,3,3−テトラフルオロプロペン;
(15)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと2,3,3,3一テトラフルオロプロペン;
(16)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと1,1−ジフルオロエタン;
(17)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンとプロパン;
(18)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、3,3,3−トリフルオロプロペンと、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン;
(19)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、3,3,3−トリフルオロプロペンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン;
(20)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、3,3,3−トリフルオロプロペ
(21)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、3,3,3−トリフルオロプロペンと、1,1−ジフルオロエタン;
(22)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、3,3,3−トリフルオロプロペンと、プロパン;
(23)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン;
(24)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、プロパン;
(25)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1,1−ジフルオロエタン;
(26)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、プロパン;
(27)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1,1−ジフルオロエタン;
(28)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1−ジフルオロエタンと、プロパン;
(29)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン;
(30)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン;
(31)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、3,3,3−トリフルオロプロペン;
(32)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1−ジフルオロエタン;
(33)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、ジフルオロメタン;
(34)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1,1,2−テトラフルオロエタン。
【請求項4】
−5℃の温度での液体の飽和圧力と蒸気の飽和圧力との差が液体の飽和圧力の10%以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の伝熱流体。
【請求項5】
下記(重量比率)から成る請求項4に記載の伝熱流体:
(1)1〜8%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、92〜99%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、または、
(2)1〜12%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、88〜99%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、または、
(3)1〜9%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、91〜99%の1,1,1,2−テトラフルオロエタン、または、
(4)1〜6%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、94〜99%のジフルオロメタン、または、
(5)1〜17%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、83〜99%の1,1−ジフルオロエタン、または、
(6)1〜26%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、74〜99%のプロパン、または、
(7)1〜10%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、90〜99%の3,3,3−トリフルオロプロペン、または、
(8)1〜10%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、1〜98%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、または、
(9)1〜8%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、1〜98%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、または
(10)1〜15%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、1〜98%の1,1−ジフルオロエタン、または、
(11)1〜8%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1〜98%の3,3,3−トリフルオロプロペン、または、
(12)1〜8%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、1〜98%の3,3,3−トリフルオロプロペン、または、
(13)1〜8%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1〜98%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、または、
(14)1〜20%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜30%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、50〜98%のプロパン、または、
(15)1〜20%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1〜98%のプロパン、または、
(16)1〜13%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1〜98%の1,1−ジフルオロエタン、または、
(17)1〜15%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1〜98%の1,1−ジフルオロエタン、または、
(18)1〜20%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1〜98%のプロパン。
【請求項6】
下記(重量比率)から成る請求項1〜5のいずれか一項に記載の伝熱流体:
(1)10〜50%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、50〜90%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、または、
(2)55〜95%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、5〜45%の1,1,1,2−テトラフルオロエタン、または、
(3)1〜98%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1〜50%の1,1,1,2−テトラフルオロエタン、または、
(4)1〜98%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンへと、1〜98%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1〜40%の1,1,1,2−テトラフルオロエタン。
【請求項7】
潤滑剤、安定剤、界面活性剤、トレーサ、蛍光剤、香料、溶解助剤およびこれらの混合物の中から選択される少なくとも一つの添加剤を含む請求項1〜6のいずれか一項に記載の伝熱流体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の伝熱流体を含む、蒸気圧縮回路を有する伝熱装置。
【請求項9】
移動式または静止型のヒートポンプ加熱装置、空調装置、冷蔵装置および冷凍装置およびランキンサイクルの中から選択される請求項8に記載の装置。
【請求項10】
伝熱流体の蒸発、伝熱流体の圧縮、伝熱流体の凝縮および伝熱流体の膨張を連続して有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の伝熱流体を用いて流体または物品を加熱または冷却する方法。
【請求項11】
冷却される流体または物品の温度が−15〜15℃である請求項10に記載の流体または物品の冷却方法。
【請求項12】
加熱される流体または流体の温度が30〜90℃である請求項10に記載の流体または物品の加熱方法。
【請求項13】
初期伝熱流体を収容した蒸気圧縮回路を有する伝熱装置の環境への影響を減らすための方法であって、蒸気圧縮回路中の上記の初期伝熱流体を最終伝熱流体で置換する工程を含み、この最終伝熱流体は初期伝熱流体より低いGWPを有し、この最終伝熱流体が請求項1〜7のいずれか一項に記載の伝熱流体であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エン(hexafluorobut-2-ene)を少なくとも一種の他のハイドロカーボン化合物またはハイドロカーボン誘導体との混合物として含む組成物と、その熱伝達流体としての使用とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
フルオロカーボン化合物をベ―スにした流体は蒸気圧縮伝熱システム、特に空気調和、ヒートポンプ、冷蔵および冷凍装置で広く使用されている。これらの装置に共通する熱力学的サイクルの原理は、低圧での流体の気化(流体が熱を吸収)と、蒸発された流体の高圧への圧縮と、蒸発した流体の高圧での液体への凝縮(流体が熱を放出)と、サイクルの終わりの流体の膨張とを含む。
【0003】
一方、熱伝達流体(純粋な化合物または混合物)は流体の他の熱力学的特性と、追加の拘束条件とによって選択される。すなわち、特に重要な判定規準の一つは環境に対する流体の影響を考慮しなければならない点である。特に、塩素化物(クロロフルオロカーボンおよびヒドロクロロフルオロカーボン)はオゾン層を破壊するという欠点を有する。そのために、ハイドロフルオロカーボン、フルオロエーテルおよびフルオロオレフィンのような一般に非塩素化物が好まれる。
【0004】
しかし、現在使われる熱伝達流体より地球温暖化ポテンシャル(GWP)が小さく、しかも、性能レベルが他の熱伝達流体と同じか、改良されたものを開発する必要がある。
【0005】
特許文献1(国際公開第WO2007/053697号公報)には各種用途、特に熱伝達流体として使用されるフルオロオレフィン−ベースの組成物が記載されている。この文献には書類は1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンも記載されている。
【0006】
特許文献2(国際公開第WO2008/134061号公報)には(Z)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロ−2−ブテンとギ酸メチル、ペンタン、2−メチルブタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、トランス−1,2−ジクロロエチレンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンとの共沸(アゼオトロープ)組成物または共沸様(azeotrope-like)組成物が記載されている。
【0007】
特許文献3(国際公開第WO2008/154612)には(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンとギ酸メチル、n−ペンタン、2−メチルブタンe、トランス−12−ジクロロエチレン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン、n−butaneまたはイソブタンとの共沸組成物または共沸様組成物が記載されている。
【0008】
特許文献4(国際公開第2010/055146号公報)にもフルオロオレフィンとその製造方法が記載されている。特に(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンも記載されている。
【0009】
特許文献5(国際公開第WO2010/100254号公報)にはテトラフルオロブテンと、オプションとしてのヘキサフルオロブテンとの混合物と、熱伝熱を含む各種な用途と、その使用とが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第WO2007/053697号公報
【特許文献2】国際公開第WO2008/134061号公報
【特許文献3】国際公開第WO2008/154612号公報
【特許文献4】国際公開第2010/055146号公報
【特許文献5】国際公開第WO2010/100254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、GWPがさらに低く、通常の熱伝達流体を代替できる他の熱伝達流体を開発するというニーズが依然としてある。特に、共沸様(azeotrope-like)で、および/または、通常の熱伝達流体(例えばイソブタン)に匹敵する優れたエネルギー性能レベルを有し、および/または、公知の熱伝達流体、例えば1,3,3,3−テトラフルオロプロペンより改善されたエネルギー性能レベルを有し、GWPが低い、他の熱伝達流体を開発するのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は第1に、(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと少なくとも一種のハイドロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、エーテル、ヒドロフルオロエーテルまたは−12℃以下の沸点を有するフルオロオレフィン化合物との混合物としての組成物に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施例では、上記化合物は1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,1,2−フルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、プロパンおよびジメチルエーテルおよびこれらの混合物の中から選択される。
【0014】
本発明の一実施例では、上記組成物は下記の混合物から成る:
(1)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、ジメチルエーテルおよびプロパンの中から選択される一つの化合物、または
(2)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、プロパン、ジメチルエーテルおよびイソブタンの中から選択される2つの化合物。
【0015】
本発明の一実施例では、上記組成物は下記の混合物から成るのが好ましい:
(1)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
(2)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
(3)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、3,3,3−トリフルオロプロペン、
(4)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、
(5)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1−ジフルオロエタン、
(6)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、ジフルオロメタン、
(7)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、プロパン、
(8)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
(9)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、2、3,3,3−テトラフルオロプロペン、
(10)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、1,1−ジフルオロエタン、
(11)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エと、1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、3,3,3−トリフルオロプロペン、
(12)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、イソブタン、
【0016】
(13)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、プロパン、
(14)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、イソブタンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
(15)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、イソブタンと、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
(16)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、イソブタンと、1,1−ジフルオロエタン、
(17)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、イソブタンと、プロパン、
(18)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、3,3,3−トリフルオロプロペンと、2、3,3,3−テトラフルオロプロペン、
(19)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エと、3,3,3−トリフルオロプロペンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
(20)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エと、3,3,3−トリフルオロプロペンと、イソブタン、
(21)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、3,3,3−トリフルオロプロペンと、ジフルオロエタン、
(22)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、3,3,3−トリフルオロプロペンと、プロパン、
(23)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、
(24)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、プロパン、
【0017】
(25)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1,1−ジフルオロエタン、
(26)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、プロパン、
(27)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1,1−ジフルオロエタン、
(28)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1,1−ジフルオロエタンと、プロパン、
(29)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、ペンタフルオロエタンと、テトラフルオロプロペン、
(30)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、ペンタフルオロエタンと、1,3,3,2−テトラフルオロプロペン、
(31)(E −1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エと、2,3,3,3−ペンタフルオロエタンと、3,3,3−トリフルオロプロペン、
(32)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、ペンタフルオロエタンと、1,1−ジフルオロエタン、
(33)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、ペンタフルオロエタンと、ジフルオロメタン、
(34)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、ペンタフルオロエタンと、1,1,1,2−テトラフルオロエタン。
【0018】
本発明の一実施例では、−5℃の温度での組成物の液体の飽和圧力と蒸気の飽和圧力との差が液体の飽和圧力の10%以下で、組成物が下記から成るのが好ましい:
(1)1〜8%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンへと、92〜99%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、または、
(2)1〜12%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、88〜99%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、または、(3)1〜9%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、91〜99%の1,1,1,2−テトラフルオロエタン、または、
(4)1〜6%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、94〜99%のジフルオロメタン、または、
(5)1〜17%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、83〜99%の1,1−ジフルオロエタン、または、
(6)1〜26%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、74〜99%のプロパン、または、
(7)1〜10%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、90〜99%の3,3,3−トリフルオロプロペン、または
(8)1〜10%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、1〜98%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、または、
(9)1〜8%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、1〜98%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、または、
【0019】
(10)1〜15%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、1〜98%の1,1−ジフルオロエタン、または、
(11)1〜8%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1〜98%の3,3,3−トリフルオロプロペン、または、
(12)1〜8%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、1〜98%の3,3,3−トリフルオロプロペン、または、
(13)1〜8%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1〜98%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、または、
(14)1〜20%のE)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜30%の1,1,1,2−テトラフルオロエタンと、50〜98%のプロパン、または、
(15)1〜20%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1〜98%のプロパン、または、
(16)1〜13%のE)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1〜98%の1,1−ジフルオロエタン、または、
(17)1〜15%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の1,3,3,3−テトラフルオロプロと、1〜98%の1,1−ジフルオロエタン、または、
(18)1〜20%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1〜98%のプロパン。
【0020】
本発明の一実施例の組成物は下記から成るのが好ましい:
(1)10〜50%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、50〜90%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、好ましくは30〜40%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、60〜70%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、または、
(2)55〜95%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、5〜45%の1,1,1,2−テトラフルオロエタン、または、
(3)1〜98%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1〜50%の1,1,1,2−テトラフルオロエタン、好ましくは2〜60%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、2〜93%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、5〜50%の1,1,1,2−テトラフルオロエタン、特に好ましくは5〜45%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、11〜86%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、9〜44%の1,1,1,2−テトラフルオロエタン、または、
(4)1〜98%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、1〜98%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、1〜40%の1,1,1,2−テトラフルオロエタン、好ましくは2〜40%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、20〜93%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペンど、5〜40%の1,1,1,2−テトラフルオロエタン、特に好ましくは2〜35%の(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、33〜89%の1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、9〜32%の1,1,1,2−テトラフルオロエタン。
【0021】
本発明はさらに、熱伝達流体としての上記組成物の使用にも関するものである。
本発明はさらに、上記組成物と、潤滑剤、安定剤、界面活性剤、トレーサ、蛍光剤、香料、溶解補助剤およびこれらの混合物の中から選択される一つ以上の添加剤とを含む伝熱組成物にも関するものである。
【0022】
本発明はさらに、熱伝達流体として上記組成物を含むか、上記伝熱組成物を含む蒸気圧縮回路を有する伝熱装置にも関するものである。
【0023】
本発明の一実施例では、上記伝熱装置は移動式または静置式のヒートポンプ加熱装置、空調装置、冷蔵装置、冷凍装置およびランキンサイクル装置の中から選択される。
【0024】
本発明はさらに、熱伝達流体を収容した蒸気圧縮回路によって流体または物品を加熱または冷却する方法にも関するものである。本発明方法は熱伝達流体の蒸発、熱伝達流体の圧縮、熱伝達流体の凝縮および熱伝達流体の膨張を順次有し、熱伝達流体は上記組成物である。
【0025】
本発明の一実施例では、上記方法が流体または物品を冷却する方法であり、流体または物品を冷却する温度は−15℃〜15℃、好ましくは−10℃〜10℃、特に好ましくは−5℃〜5℃であり、また、上記方法は流体または物品を加熱する方法であり、流体または物品を流体を加熱する温度は30℃〜90℃、好ましくは35℃〜60℃、特に好ましくは40℃〜50℃である。
【0026】
本発明はさらに、初期熱移動流体を収容した蒸気圧縮回路を含む伝熱装置の環境へのインパクトを減らすための方法にも関するものであり、この方法では蒸気圧縮回路中の上記の初期熱移動流体を、初期熱移動流体よりGWPが低い最終熱伝達流体に置換する階段を有し、この最終熱伝達流体は上記組成物である。
【0027】
本発明を使用することによって従来方法の欠点を解決でき、特に、通常の熱伝達流体をGWPが低い熱伝達流体で置換することができる。
【0028】
特に、本発明の一実施例では、本発明は共沸様(azeotrope-like)熱伝達流体を提供する。本発明の一実施例では、本発明は、通常の熱伝達流体と比較して(特に1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと比較して)エネルギー性能レベルが優れ、および/または、エネルギー性能レベルが改善され且つ公知の熱伝達流体と比較してGWPが低い熱伝達流体を提供する。
【0029】
これは、トランス型の1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと、沸点が−12℃以下であるハイドロカーボン、ハイドロフルオロカーボンまたはフルオロオレフィン化合物の少なく一つとを含む混合物によって達成される。上記化合物は1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、3,3,3−トリフルオロプロペン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、ジフルオロメタン、プロパンおよびこれらの混合の中から選択するのが好ましい。
【0030】
本発明組成物は、特許文献3(国際公開第WO2008/154612号公報)に記載の組成((E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンと組み合わせられる化合物が−12℃以上の沸点を有する)と比較してキャバシティーが改良される。
【0031】
本発明の組成物はさらに、(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンの全部または一部を(Z)(1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エンで置換した類似組成物よりキャバシティーが大きい。
【0032】
以下、本発明をより詳細に説明する。本明細書で使用する化合物は下記の化合物である:
(1)(E)−1,1,1,4,4,4−ヘキサフルオロブテ−2−エン:HFO−E−1336mzz、
(2)1,3,3,3−テトラフルオロプロペン:HFO−1234ze、
(3)2,3,3,3−テトラフルオロプロペン:HF0−1234y1、
(4)3,3,3−トリフルオロプロペン:HFO−1243zf、
(5)1,1,1,2−テトラフルオロエタン:HFC−134a、
(6)1,1−ジフルオロエタン:HFC−152a、
(7)ジフルオロメタン:HFC−32、
(8)ペンタフルオロエタン:HFC−125、
(9)プロパン:HC−290、
(10)イソブテン:HC−600a、
(11)ジメチルエーテル:DME。
【0033】
本明細書全体で各化合物の比率は特に断らない限り重量パーセントである。
【0034】
HFO−1234zeはシスまたはトランス型またはこれらの2つの型の混合物にすることができるが、好ましくはトランス(E)型である。
【0035】
本発明では、GWP(温室効果を要約した判定基準)は下記文献に記載の二酸化炭素に対して且つ100年の期間に対して定義される。
【非特許文献1】"The scientific assessment of ozone depletion, 2002, a report of the World Meteorological Association's Global Ozone Research and Monitoring Project"
【0036】
「伝熱化合物」、「熱伝達流体」(または冷媒)という用語は、低温、低圧で蒸発することによって熱を吸収し、蒸気圧縮回路中で高温、高圧で凝縮することによって熱を放出することができる化合物、流体を意味する。一般に、熱伝達流体は1、2、3または3つ以上の伝熱化合物から成ることができる。
「伝熱組成物」という用語は、熱伝達流体を含む組成物を意味し、必要に応じて伝熱化合物ではない一種以上の特定用途の添加剤をさらに含むことができる。この添加剤は潤滑剤、安定剤、界面活性剤、トレーサ、蛍光剤、香料および溶解補助剤の中から特に選択できる。
【0037】
安定剤は伝熱組成物の最大で5重量%存在することができる、安定剤としてはニトロメタン、アスコルビン酸、テレフタル酸、トルトリアゾールまたはベンゾトリアゾールのようなアゾール、トコフェロールのようなフェノール化合物、ヒドロキノン、t−ブチル・ヒドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、エポキシード(フッ素化またはパーフッ素化されたアルキルまたはアルケニルまたは芳香族)、例えばn−ブチルグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブチルフェニル・グリシジルエーテル、亜リン酸エステル、ホスホナート、チオールおよびラクトンを特に挙げることができる。
【0038】
潤滑剤としては特に無機オイル、シリコーン油、天然パラフィン、ナフテン、合成ゴム・パラフィン、アルキルベンゼン、ポリアルファオレフィン、ポリアルケングリコール、ポリオール・エステルおよび/またはポリビニルエーテルを挙げることができる。
【0039】
(検出可能な)トレーサとしては重水素化した、または、重水素化していないハイドロフルオロカーボン、重水素化したハイドロカーボン、パーフルオロカーボン、フルオロエーテル、臭素化物、ヨード化物、アルコール、アルデヒド、ケトン、亜酸化窒素およびこれらの組合せを挙げることができる。トレーサは熱伝達流体中に組み込まれる伝熱化合物とは異なる。
【0040】
溶解補助剤としてはハイドロカーボン、ジメチルエーテル、ポリオキシアルキレンエーテル、アミド、ケトン、ニトリル、クロロカーボン、エステル、ラクトン、アリルエーテル、フルオロエーテルおよび1,1,1−トリフルオロアルカンを挙げることができる。溶解補助剤は熱伝達流体を構成する伝熱化合物とはは異なる。
【0041】
蛍光剤としてはナフタルイミド、ペリレン、クマリン、アントラセン、フェナンスレン、キサンテン、チオキサンテン、ナフトキサンテン、フルオレセインおよびその誘導体およびこれらの組合せを挙げることができる。
【0042】
香料としてはアルキルアクリレート、アリルアクリレート、アクリル酸、アクリルエステル、アルキルエーテル、アルキルエステル、アルキン、アルデヒド、チオール、チオエーテル、ジスルフィド、アリルイソチオシアネート、アルカノン酸、アミン、ノルボルネン、ノルボルネン誘導体、シクロヘキセン、複素環芳香族化合物、アスカリドール、o−メトキシ(メチル)フェノールおよびこれらの組合せを挙げることができる。
【0043】
本発明の熱移動方法は、熱伝達流体を収容した蒸気圧縮回路を有する装置を使用して行う。この熱移動方法は流体または物品を加熱または冷却する方法にすることができる。
【0044】
熱伝達流体を収容した蒸気圧縮回路は、少なく一つの蒸発器(エバポレータ)、圧縮機(コンプレッサ)、凝縮器、減圧弁とこれらの要素間で熱伝達流体を輸送するラインとを含む。蒸発器および凝縮器は熱伝達流体と他の流体または物品との間で熱を交換することができる熱交換器から成る。
【0045】
コンプレッサとしては特に、一段または多段の遠心ミニコンプレッサを有する遠心圧縮機を使用することができる。ロータリーコンプレッサ、レシプロコンプレッサまたはスクリュー圧縮機を使用することもできる。コンプレッサはモーターまたは(例えば移動式用途様の車両の排ガスで駆動される)ガスタービンまたは歯車装置で駆動できる。
【0046】
上記装置は電気発生様タービンを有することもできる(ランキンサイクル)。上記装置はさらに、必要に応じて熱伝達流体回路と加熱または冷却される流体または物品との間で熱を(状態変化有りまたは無しで)交換するのに使用する少なくとも一つの熱交換流体回路を有することができる。上記装置はさらに、必要に応じて同一または異なる2つ(それ以上)の熱伝達流体を収容した蒸気圧縮回路を有することもできる。これらの蒸気圧縮回路は例えば一緒に連結できる。
【0047】
蒸気圧縮回路は従来の蒸気圧縮サイクルに従って運転される。この蒸気圧縮サイクルでは液相(または液体/蒸気2位相状態)から気相への熱伝達流体の状態変化が比較的低い圧力で行われ、気相の流体は比較的高い圧力まで圧縮され、気相の熱伝達流体は比較的高い圧力で液相へ状態変化(凝縮)し、圧力を下げてサイクルを再び始める。
【0048】
冷却方法の場合には、環境と比較して相対的に低い温度で、熱伝達流体が蒸発する間に、冷却される流体または流体からの熱が(直接または熱交換を介して間接的に)熱伝達流体によって吸収される。この冷却方法は空調和プロセス(車両、例エバ運送車両または事務用装置)、冷蔵プロセスおよび冷凍プロセスまたは低温プロセスを含む。
【0049】
加熱方法の場合には、加熱される流体または物品に、環境と比較される相対的高い温度で、熱伝達流体が凝縮する間、熱が熱伝達流体から(直接または熱交換を介して間接的に)与えられる。この場合、伝熱を実行する装置は「ヒートポンプ」とよばれている。
【0050】
本発明の熱伝達流体を使用することができる任意タイプの熱交換器を使用することができ、特に並流または向流熱交換器が好ましく使用できる。
【0051】
本発明で使用する熱伝達流体は、HFO−E−1336mzzを、101.325kPaの圧力で−12℃以下の沸点を有する少なくとも一種のハイドロカーボン、エーテル、ヒドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボンまたはフルオロオレフィン化合物(好ましくはハイドロフルオロカーボンまたはフルオロオレフィン化合物)と一緒に含む組成物である。
【0052】
沸点は2008年4月のNF EN 378−1規格に従って測定される。
【0053】
HC−600aは−12℃以上の沸点を有するので、本発明には含まれない。
【0054】
上記化合物はHFO−1234yf、HFO−1234ze、HFO−1243zf、HFC−134a、HFC−32、HFC−152a、HFC−125、DMEおよびHC−290の中から選択するのが好ましい。
【0055】
上記組成物は二成分または三成分の化合物の混合物にすることができる。三成分混合物の場合、熱伝達流体はHFO−E−1336mzzと、HFO−1234yf、HFO−1234ze、HFO−1243zf、HFC−134a、HFC−32、HFC−152a、HFC−125、DMEおよびHC−290の中から選択される2つの化合物と一緒に含むか、または、HFO−E−1336mzzと、HFO−1234yf、HFO−1234ze、HFO−1243zf、HFC−134a、HFC−32、HFC−152a、HFC−125、DMEおよびHC−290の中から選択される化合物と一緒に含み、さらに追加の化合物、好ましくはハイドロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、フルオロエーテル、ハイドロカーボン・エーテル、アンモニアおよび炭酸ガスの中から選択される追加の化合物、特に好ましくはHC−600aと一緒に含むことができる。
【0056】
本発明の一実施例では、上記組成物はHC−600aを含まず、任意成分のHC−290を含まず、任意成分のハイドロカーボンも含まない。
【0057】
本発明の一実施例では、上記組成物はフルオロオレフィンおよび/またはハイドロフルオロカーボンのみから成る。
【0058】
上記組成物のいくつかは共沸様(azeotrope-like)である利点がある。共沸様(azeotrope-like)という用語は、一定温度で、液体の飽和圧力と蒸気の飽和圧力とが実質的に同一(液体の飽和圧力に対する最大圧力差が10%、好ましくは5%)である組成物を意味する。そうした熱伝達流体は使い易いという利点を有する。有意な温度グライド(滑り)が無い場合、循環組成物に大きな変化はなく、組成物にもリーク時にも大きな差が無い。
【0059】
特に、下記組成物は基準温度−5℃で共沸様(azeotrope-like)の二成分または三成分混合物である:
(1)1〜8%のHFO−E−1336mzzと、92〜98%のHFO−1234yf、または
(2)1〜12%のHFO−E−1336mzと、88〜99%のHFO−1234ze、または、
(3)1〜9%のHFO−E−1336mzzと、91%〜99%のHFC−134a、または、
(4)1〜6%のHFO−E−1336mzzと、94〜99%のHFC−32の99%、または
(5)1〜17%のHFO−E−1336mzzと、83%〜99のHFC−152a、または、
(6)1〜26%のHFO−E−1336mzzと、74〜99%のHC−290、または、
(7)1〜10%のHFO−E−1336mzzと、90〜99%のHFO−1243zf、または、
(8)1〜10%のHFO−E−1336mzzと、1〜98%のHFC−134aと、1〜98%のHFO−1234yf、または
(9)1〜8%のHFO−E−1336mzzと、1〜98%のHFC−134aと、1〜98%のHFO−1234yf、または
(10)1〜15%のHFO−Ei−1336mzzと、1〜98%のHFC−134aと、1〜98%のHFC−152a、または
(11)1〜98%のHFO−E−1336mzzと、1〜98%のHFO−4243zfと、1〜98%のHFO−1234yf、または
【0060】
(12)1〜98%のHFO−E−1336mzzと、1〜98%のHFC−134aと、1〜98%のHFO−1243zf、または、
(13)1〜98%のHFO−E−1336mzzと、1〜98%のHFO−1234yfと、1〜98%のHFO−1234ze、または、
(14)1〜20%のHFO−E−1336mzzと、1〜30%のHFC−134aと、50〜98%のHC−290、または
(15)1〜20%のHFO−E−1336mzzと、1〜98%のHFO−1234yfと、1〜98%のHC−290、または
(16)1〜98%のHFO−E−1336mzzと、1〜98%のHFO−1234yと、1〜13%のHFC−152a、または
(17)1〜15%のHFO−E−1336mzzと、1〜98%のHFO−1234zeと、1〜98%のHFC−152a、または
(18)1〜20%のHFO−E−1336mzzと、1〜98%のHFO−1234zeと、1〜98%のHC−290。
【0061】
上記に加えて、本発明の特定組成物は、HFO−1234zeと比較して、性能レベルが改善し、特に、適度な温度すなわち冷却される流体または物品の温度が−15℃から15℃、好ましくは−10℃から10℃、特に好ましくは−5℃から5℃、理想的には約−5℃から0℃で、冷却プロセスまたは加熱プロセスではHC−600aの性能レベルに近くなることが分かっている。
【0062】
そうした組成物は特に下記の二成分または三成分混合物である:
(1)10〜50%のHFO−E−1336mzzと、50〜90%のHFO−の1234ze(特に、30〜40%のHFO−E−1336mzzと、60〜70%のHFO−1234ze)、
(2)55〜95%のHFO−E−1336mzzと、5〜45%のHFC−134a、
(3)1〜98%のHFO−E−1336mzzと、1〜98%のHFO−1234zeと、20〜93%のHFC−134a、好ましくは2〜40%のHFO−E−1336mzzと、20〜93%のHFO−1234zeと、5〜40%のHFC−134a、特に好ましくは2〜35%のHFO−E−1336mzzと、33〜89%のHFO−の1234zeと、9〜32%のHFC−134a、
(4)1〜98%のHFO−E−1336mzzと、1〜98%のHFO−1234yfと、1〜50%のHFC−134a、好ましくは2〜60%のHFO−E−1336mzzと、2〜93%のHFO−1234yfと、5〜50%のHFC−134a、特に好ましくは5〜45%のHFO−E−1336mzzと、11〜86%のHFO−1234yfと、9〜44%のHFC−134a。
【0063】
上記の「適度な温度での冷却または加熱」プロセスでは蒸発器の熱伝達流体の入口温度は−20℃〜10℃、好ましくは−15℃〜5℃、特に好ましくは−10℃〜0℃、例えば約−5℃にし、凝縮器での熱伝達流体の凝縮開始温度は25〜90℃、好ましくは30〜70℃、特に好ましくは35〜55℃、例柄は約50℃にするのが好ましい。このプロセスは冷蔵プロセス、空気調和プロセスまたは加熱プロセスにすることができる。本発明組成物はさらに、発泡剤、エアロゾルまたは溶剤として使用できる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
実施例1
各種形態の熱伝達流体の特性を計算するための方法
混合物の密度、エンタルピー、エントロピーおよび液体/蒸気平衡データを計算するためにRK−Soave平衡式を用いる。この平衡式を使用するためには混合物中で使用される純物質の特性と、各2成分混合物間の相互作用係数とに関する知識が必要である。
【0065】
各純粋化合物に必要なデータは以下の通りである:沸点、臨界温度および臨界圧力、沸点から臨界点までの温度を関数とする圧力曲線および温度を関数とする飽和液体および飽和蒸気の密度。
【0066】
HFCに関するデータは「ASHRAE Handbook 2005、第20章」に記載されており、また、Refrop(冷媒の性質を計算するためにNISTによって開発されたソフトウェア)から入手できる。
【0067】
HFOの温度−圧力曲線データは静的方法で測定する。臨界温度および臨界圧力はSetaramから市販のC80カロリメータを使用して測定される。
【0068】
混合物中の各化合物の挙動を表すためにRK-Soave式では二元相互作用係数を使用する。この係数は液体−蒸気平衡の実験データの関数として計算される。
【0069】
液体/蒸気平衡の測定に使われる方法は静的セル分析法である。平衡セルはサファイヤ・チューブから成り、2つの電磁ROLSITMサンプラを備え、それをクライオスタット浴(HUBER HS40)中に浸す。可変速度で回転駆動される磁気攪拌機を用いて平衡に達するように加速する。サンプルの解析はカサロメータ(TCD)を使用したガスクロマトグラフィ(HP5890シリーズII)で実行する。
【0070】
二成分混合物HFC−134a/HFO−1234zeの液体/蒸気平衡測定は下記の等温式で実行した:20℃。
二成分混合物HFC−134a/HFO−1234yfの液体/蒸気平衡測定は下記の等温式で実行した:20℃。
二成分混合物HFO−1243zf/HFO−1234yfの液体/蒸気平衡測定は下記の等温式で実行した:21℃。
二成分混合物HFC−134a/HFO−1243zfの液体/蒸気平衡測定は下記の等温式で実行した:10℃。
二成分混合物HFO−1243ze/HFO−1234yfの液体/蒸気平衡測定は下記の等温式で実行した:18℃。
二成分混合物HC−290/HFO−1234yfの液体/蒸気平衡測定は下記の等温式で実行した:−10℃および55℃。
二成分混合物HFC−152a/HFO−1234yfの液体/蒸気平衡測定は下記の等温式で実行した:10℃。
二成分混合物HFC−152a/HFO−1234zeの液体/蒸気平衡測定は下記の等温式で実行した:15℃。
二成分混合物HFC−134a/HFO−E−1336mzzの液体/蒸気平衡測定は下記の等温式で実行した:45℃。
二成分混合物HFC−32/HFO−E−1336mzzの液体/蒸気平衡測定は下記の等温式で実行した:45℃。
二成分混合物HFC−152a/HFO−E−1336mzzの液体/蒸気平衡測定は下記の等温式で実行した:45℃。
二成分混合物HC−290/HFO−E−1336mzzの液体/蒸気平衡測定は下記の等温式で実行した:45℃。
二成分混合物HFO−1234yf/HFO−E−1336mzzの液体/蒸気平衡測定は下記の等温式で実行した:45℃。
二成分混合物HFO−1243zf/HFO−E−1336mzzの液体/蒸気平衡測定は下記の等温式で実行した:45℃。
二成分混合物HFO−1234ze/HFO−E−1336mzzの液体/蒸気平衡測定は下記の等温式で実行した:45℃。
【0071】
エネルギー性能を評価するために、スクリュー圧縮機と膨張弁とを有する、向流凝縮器および蒸発器を備えた圧縮システムを考える。この圧縮システムを5℃のオーバーヒートで運転する。蒸発温度は−5℃、凝縮温度は50℃である。
【0072】
成績係数(COP)はシステムに供給されたまたはシステムで消費された動力に対するシステムをよって供給される有効動力として定義される。
【0073】
ローレンツ成績係数(COPLorenz)は基準の成績係数である。これは温度の関数で、各種流体のCOPを比較するのに使われる。このローレンツ成績係数は下記のように定義される(温度TはKである):
【0074】
空調および冷蔵の場合のローレンツCOPは以下の通りである:
【0075】
各組成物に対してローレンツ・サイクルの成績係数を対応温度の関数として計算する。
【0076】
以下の表で、「温度(℃)」は温度を示し、「液体飽和圧力」は液体の飽和圧力を示し、「蒸気飽和圧力」は蒸気の飽和圧力を示し、「圧力差(%)」は液体の飽和圧力と蒸気の飽和圧力との間の差の液体の飽和圧力に対する比(%)を示し、「温度蒸発出口」は蒸発器出口での流体の温度を示し、「温度圧縮機出口」は圧縮機での流体の温度を示し、「T凝縮機出口」は凝縮器出口で流体の温度を示し、「温度減圧弁入口」は減圧弁入口での流体の圧力を示し、「蒸発器圧力(バー)」は蒸発器中での流体の圧力を示し、「凝縮器圧力(バー)」は凝縮器中での流体の圧力を示し、「比(w/w)」は圧縮比を示し、「グライド」は温度のグライド(滑り)を示し、「%CAP」は最初の行に示した基準流体に対する流体の容積キャパシティーを示し、「%COP/COPローレンツ」は対応するローレンツ・サイクルのCOPに対するシステムのCOPの比を示す。
【0077】
実施例2
共沸様混合物用のデータ
【0078】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0079】
実施例3
適度な温度の冷蔵の結果、HFO−1234zeとの比較
【0080】
【表7】
【表8】