【文献】
伊藤 和博 Kazuhiro Ito,最近の研究, Materia Japan,社団法人日本金属学会 梶原 義雅,2005年 2月20日,第44巻,131-137
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸素含有量が200質量ppm以上、45000質量ppm以下、炭素含有量が50質量ppm以上、1000質量ppm以下および不可避化合物と不可避不純物とからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のMo−Si−B系合金粉末。
酸素含有量が840質量ppm以上、21600質量ppm以下、炭素含有量が80質量ppm以上、220質量ppm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のMo−Si−B系合金粉末。
請求項1〜6のいずれか一項に記載のMo−Si−B系合金粉末と、IVA、VA、VIA族元素よりなる群から選択される少なくとも1種以上の粉末による混合粉末であることを特徴とする金属材料原料粉末。
前記IVA、VA、VIA族元素よりなる群から選択される粉末がMo粉末であり、前記Mo粉末の重量に対する、前記Mo−Si−B系合金粉末の重量配合比率を0.25以上、4.0以下としたことを特徴とする請求項7または8のいずれか一項に記載の金属材料原料粉末。
前記IVA、VA、VIA族元素よりなる群から選択される粉末が、さらにW、Ta、Nb、Hfの少なくとも1種の粉末を含み、前記IVA、VA、VIA族元素よりなる群から選択される粉末に対するMo−Si−B系合金粉末の体積比率が、前記IVA、VA、VIA族元素よりなる群から選択される粉末がW、Ta、Nb、Hf粉末を含まない場合の前記Mo粉末と前記Mo−Si−B系合金粉末の体積比率と等しくなるように、前記W、Ta、Nb、Hf粉末を前記Mo粉末及び前記Mo−Si−B系合金粉末と混合したことを特徴とする請求項9に記載の金属材料原料粉末。
前記IVA、VA、VIA族元素よりなる群から選択される粉末がMo粉末であり、前記Mo粉末の重量に対する、前記Mo−Si−B系合金粉末の重量配合比率を0.25以上、1.3以下としたことを特徴とする請求項7または8のいずれか一項に記載の金属材料原料粉末。
前記IVA、VA、VIA族元素よりなる群から選択される粉末が、さらにW、Ta、Nb、Hfの少なくとも1種の粉末を含み、前記IVA、VA、VIA族元素よりなる群から選択される粉末に対するMo−Si−B系合金粉末の体積比率が、前記IVA、VA、VIA族元素よりなる群から選択される粉末がW、Ta、Nb、Hf粉末を含まない場合の前記Mo粉末と前記Mo−Si−B系合金粉末の体積比率と等しくなるように、前記W、Ta、Nb、Hf粉末を前記Mo粉末及び前記Mo−Si−B系合金粉末と混合したことを特徴とする請求項11に記載の金属材料原料粉末。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
【0025】
前記のように、本発明に係るMo−Si−B系合金粉末は、X線回折で得られるピークデータにおけるMo
5SiB
2の(600)の半値全幅を所定の範囲に制御したものであるが、以下、本発明のMo−Si−B系合金の条件について、詳細に説明する。
【0026】
<X線回折のピークデータ>
本発明に係るMo−Si−B系合金粉末は、X線回折のピークデータにおいて、Mo
5SiB
2の(213)、(211)、(310)、(114)、(204)回折ピークを有する。
【0027】
ただし、前記(600)の半値全幅が0.08deg.未満、また、半値全幅が0.7deg.を超えると、焼結した材料の相対密度および高温での0.2%耐力を高める効果は得られない。そのため、(600)回折ピークの半値全幅は、0.08deg.以上、0.7deg.以下であるのが好ましく、0.2deg.以上、0.4deg.以下であるのがより好ましい。
【0028】
ここで、X線回折の(600)の半値全幅に着目した理由は、一般的に結晶の歪みの影響が現れやすい(100)の高次の格子面であるからである。また、高次の格子面には、さらに結晶の歪みの影響が現れやすい傾向がある。さらに、本発明で着目した(600)のピークは、他のMo
3Siなどの化合物やMoのピークと重なることはなく、半値全幅の解析に適するピークであった。
【0029】
また、より好ましくは、(204)面のピーク強度が、前記(114)のピーク強度比より大きいものであればよく、
図4に示すようなICDD記載のMo
5SiB
2のピーク強度比と一致している必要はない。
【0030】
なお、詳細は後述するが、前記半値全幅は例えば合金粉末の生成時の加熱処理温度を制御することや加熱処理後の解砕(粉砕とも言う)処理条件を制御することにより、制御可能である。
【0031】
<Mo、Si、Bの組成>
本発明に係るMo−Si−B系合金は、Mo
5SiB
2の(600)の半値全幅を所定の範囲に制御したものであるため、少なくともMo
5SiB
2を含んでいる。
【0032】
ただし、Mo−Si−B系合金は、Mo
5SiB
2の完全な成分比である必要は必ずしもなく、例えば後述する不可避化合物として、Mo
3SiやMo
2B等を含めたMo、Si、Bの少なくとも2種以上を含む化合物が本願発明のMo−Si−B系合金粉末の配合に起因し含まれることがあり得るが、Mo
5SiB
2が主成分であれば、本願の効果を得ることが可能である。
【0033】
具体的には、Si含有量が4.2質量%以上、5.9質量%以下、B含有量が3.5質量%以上、4.5質量%以下であってもよい。前記のMo
3SiやMo
2B等の不可避化合物は、例えば、Mo
5SiB
2をMo−Si−B系合金の主成分とした場合、Mo
5SiB
2最強線ピーク(213)の強度に対し、MoB(002)のピーク強度が2%、Mo
3Si(211)面ピーク強度が6%程度であれば本願発明の作用効果である焼結体合金の密度や高温0.2%耐力に影響しない。
【0034】
不可避不純物としては、Fe、Ni、Crなどの金属成分や、C、N、Oがある。
【0035】
<粉末粒度>
本発明に係るMo−Si−B系合金の粉末粒度は、焼結体を作製する際に用いられる他の粉末、例えばMo粉末と混合した際に均一な混合・分散を可能とするため、BET法(Brunauer,Emmet and Teller's method)で0.05m
2/g以上、1.0m
2/g以下であるのが望ましい。
【0036】
これは、粒度が0.05m
2/g未満の場合、1次粒子に顕著に大きい粒子が混在する状態となるため、本願発明の合金粉末と共に配合される、例えばMo粉末との均一な混合・分散に支障を与え、十分な合金特性が得られなくなるためである。
【0037】
また、1.0m
2/gを超えると、逆に1次粒子が小さ過ぎて凝集してしまい、大きな2次粒子を形成し易くなるためである。
【0038】
即ち、凝集粒子の存在は十分な成形密度が得られ難くなる。また凝集が強くなると本願発明の合金粉末と共に配合されるMo粉末との均一な混合・分散に支障を与え、十分な合金特性が得られなくなる。
【0039】
<酸素含有量>
本発明に係るMo−Si−B系合金粉末における酸素は、Mo粉末と混合して焼結する際に、Mo粉末と合金粉末の焼結を促進し粒界強度を高め、焼結した材料の高温曲げ強さを高める効果があることがわかった。本願発明者の調査の結果、酸素含有量が200質量ppm以上、45000質量ppm以下の酸素が含まれていることが好ましい。さらに焼結の促進と空孔の残存を防止させるためには、840質量ppm以上、21600質量ppm以下とした方がより好ましい。
【0040】
なお、詳細は後述するが、酸素含有量は、Mo−Si−B系合金粉末の加熱処理工程条件や原料粉末のうちの特にMoB粉末の予備還元処理にて制御可能である。
【0041】
<炭素含有量>
本発明に係るMo−Si−B系合金粉末における炭素は、例えばMo粉末と配合し焼結体を製造した場合、合金の原料粉末に存在する酸素を除去する効果だけでなく、Mo母相の焼結を促進し粒界強度を高め、焼結した材料の高温曲げ強さを高める効果がある。しかし、Mo−Si−B系合金粉末の酸素を過度に除去すると、Mo−Si−B系合金粉末とMo粉末間の焼結を促進する効果が低くなる。そのため、炭素含有量が50質量ppm以上、1000質量ppm以下であるのが好ましく、さらに焼結を促進する範囲として、80質量ppm以上、220質量ppm以下であるのがより好ましい。
【0042】
なお、詳細は後述するが、炭素含有量は、本願発明のMo−Si−B系合金粉末の原料中に不可避不純物として存在したことにより起因したものでもよいし、炭素源を意図的に添加したものでもよい。
【0043】
即ち、炭素はMo−Si−B系粉末合金と化学的に結合している状態でなくともよく、遊離炭素であってもよい。不可避不純物としての炭素は、混合装置、加熱処理装置や解砕装置の金属またはセラミック製の部材などから混入する可能性がある。遊離炭素として添加する場合は、カーボンブラック、黒鉛、カーボンファイバー、フラーレン、ダイヤモンドなどの単体の他、有機質材料、溶剤、およびこれらの2種以上の組合せを用いることができる。
【0044】
これら酸素および炭素をMo−Si−B系合金粉末に含ませると焼結体の相対密度および高温での0.2%耐力が向上するメカニズムは以下のように考えることができる。
【0045】
高い酸素量を有するMo−Si−B系合金粉末をMo粉末と混合して焼結すると、Mo−Si−B系合金粉末中の酸素がMo粉末と反応して三酸化モリブデンMoO
3を生成する。MoO
3の融点は約800℃であることが知られていることから、後述する合金焼結温度に到達する前にMoO
3が融点に達し、Mo粉末間、Mo粉末とMo−Si−B系合金粉末間に浸透して粉末の濡れ性を向上させて焼結を促進すると考えられる。
【0046】
形成されたMoO
3相は、水素雰囲気により焼結中に徐々に還元され最終的にはMo相になるため、焼結材料中にMoO
3が検出されたり、焼結材料の室温硬度や高温強度を低下させたりする可能性は非常に低い。部分的にはMoO
3が気化する場合もあると考えられるが、MoO
3が抜けた跡にはMoのフレッシュな表面が現れるため、この場合も焼結が促進されるようになると考えられる。
【0047】
また、この効果を得るために焼結合金の原料としてMoO
3粉末を必要量添加することも一案と考えられるが、このMoO
3粉末が異種の物であるMoとMo−Si−B系合金粉末間に存在せねば、焼結促進効果が得られ難く、またMoO
3粉末として添加した場合、微量である為に全体に均一に分散し難いことも考えられる。よって、焼結性を向上させ、焼結体の密度を向上させるには、Mo−Si−B系合金粉末に酸素がある方がより好ましいと考えられた。
【0048】
また、Mo−Si−B系合金中の炭素は、MoO
3の還元に寄与する重要な成分であると考えられる。炭素成分は後述のように、合金を焼結する前の混合工程で添加することもできるが、成分分散の均一性の観点からは本発明のようにMo−Si−B合金粉末中に予め炭素成分が含まれているほうがよい。
【0049】
なお、MoO
3は400℃から生成され、Mo
2Cは1100℃以上にて生成されることから、Moは酸化物が生成される前に炭化物が生成される可能性は非常に低く、前記の濡れ性の効果が得られる。
【0050】
前記より、Mo粉末とMo−Si−B系合金粉末の間に選択的に作用させるためにMo−Si−B系合金粉末に酸素および炭素を含ませることが望ましいと考えられる。
【0051】
以上が本発明のMo−Si−B系合金粉末の条件である。
【0052】
<製造方法>
次に、本発明のMo−Si−B系合金粉末の製造方法について説明する。
【0053】
本発明のMo−Si−B系合金粉末の製造方法については、前記した条件を満たす合金が製造できるものであれば、特に限定されるものではないが、
図1に示す方法を例示することができる。
【0054】
まず、原料粉末を所定の比率で混合して混合粉末を生成する(
図1のS1)。
【0055】
原料としては、Mo粉末、MoSi
2粉末およびMoB粉末が挙げられるほか、必要に応じて炭素粉末を添加して合金粉末の炭素量を制御する。
【0056】
なお、MoB粉末は酸素との反応性がMo粉末やMoSi
2に比べて顕著であり、保管中における酸素量が他の粉末と比べて大きく変動する可能性がある。
【0057】
原料の酸素量に起因する合金粉末の酸素量を安定化するために、MoB粉末を予備還元処理することが望ましい(
図1のS0)。
【0058】
その理由は、MoBは長期保管した場合や湿度の高い環境に曝した場合に、酸素含有量が10質量%程度になることがあるからである。本発明の製造方法であれば、この程度の酸素含有量であっても原料として用いることができるが、予備還元処理を行うことにより、Mo−Si−B系合金粉末の酸素量を安定させることができる。
【0059】
Mo−Si−B系合金粉末の原料粉末として使用するMoB粉末の酸素含有量は、5質量%以内が好ましい。より好ましくは2質量%以内、さらに好ましくは1質量%以内である。この工程はMoBを還元することが目的であるため水素雰囲気を用いる。
【0060】
予備還元の温度は、900℃より低いと還元効果が十分ではなく、1300℃よりも高いと加熱処理時に粉末を設置するボートにMoB粉末が焼きつくため歩留まりを低下させる問題がある。
【0061】
そのため、予備還元の温度は、900℃から1300℃が望ましく、これにより、安定した還元効果が得られ、かつ高い回収率を得られる。
【0062】
また、より安定した還元効果と回収率を得るためには、予備還元の温度は1100℃以上、1200℃以下がより望ましい。
【0063】
次に、混合粉末を水素、もしくは、アルゴンまたは窒素等の不活性ガスを含む雰囲気にて加熱処理を行う(
図1のS2)。加熱時の圧力は大気圧とした。
【0064】
具体的には、1350℃以上、1750℃以下で加熱処理を行うのが望ましい。
【0065】
これは、加熱温度が1350℃よりも低いと長時間の加熱を行ってもMoB等の不純物の量が増大し、これを原料として焼結した場合、機械的強度の低下を招くためであり、また、加熱温度が1750℃よりも高いと焼結が進行するため粒子が大きくなるとともに、結晶性がよくなり前記Mo
5SiB
2の(600)の半値全幅が小さくなりすぎてしまう。さらに、後述する解砕工程における処理時間の増大を招く恐れもあるためである。即ち、本願発明の半値全幅制御の第一の制御ポイントが加熱処理条件である。
【0066】
次に、熱処理工程により得られた粉末は、軽度に凝集した状態となるため解砕処理する(
図1のS3)。
【0067】
最後に、解砕処理工程で得られた粉末を篩分して、前記粒度の粉末を抽出する(
図1のS4)。
【0068】
ここで、加熱処理された粉末は凝集しており、解砕、篩分する必要があるが、特に解砕条件にて粉末に大きな外力が加わると粉末に歪が生じ、本願発明範囲の半値全幅の粉末が得られなくなる場合がある。基本的には、前記の加熱処理工程にて、結晶性を制御し、第二の半値全幅制御の第二の制御ポイントである解砕工程では、本願発明の範囲外の半値全幅となるような歪を与えない条件とすることが望ましい。例えば、解砕方法としては乳鉢での解砕やMoにて内面被覆されたボールミルにて容器回転数を少なくかつ処理時間を短くするなどで対処すればよい。
【0069】
なお、場合によっては前記の加熱工程にて上限温度域で長時間処理した場合は、この解砕条件を調整することにより、歪を与えても本願発明の粉末を得られる。使用する解砕装置は公知のもの、例えば乳鉢やボールミルでもよく、条件を適宜調整すればよい。
【0070】
以上の工程が、本発明のMo−Si−B系合金粉末の製造方法である。
【0071】
このように、本発明に係るMo−Si−B系合金は、Mo
5SiB
2の(600)の半値全幅を所定の範囲に制御することにより、歪が導入された粉末となるため焼結が促進され高密度な焼結体を得ることができ、かつ、結晶性を維持する範囲内で前記歪を与えることによりMo
5SiB
2本来の特性である高温強度を発揮することができるため、従来よりも接合対象物の高融点化に対応した摩擦撹拌接合用工具に要求される高温での0.2%耐力等の物性を充足することができる。
【0072】
<Mo−Si−B系合金粉末と金属粉末の混合粉末>
本発明のMo−Si−B系合金粉末は、IVA、VA、VIA族元素よりなる群から選択される少なくとも1種の粉末、例えばMo、W、Ta、Nb、Hfのうちの少なくとも1種の粉末と混合して焼結することにより、耐熱性部材として用いることができる。
【0073】
この際、IVA、VA、VIA族元素よりなる群から選択される少なくとも1種の粉末重量に対する、前記Mo−Si−B系合金粉末の重量配合比率は、Moに対して0.25以上、4.0以下となるようにすることが好ましい。
【0074】
例えば、Moに対するMo−Si−B系合金粉末の配合比率が0.25よりも小さいときは、0.2%耐力がMoの値に近づき低くなり、本発明の用途の一つである摩擦攪拌接合用工具には適さなくなる。一方4.0よりも大きいときは、成形性が悪くなり焼結体の密度が低下し焼結できなくなる。Mo−Si−B系合金は非常に硬い材料であるため、重量比率がこれより高くなるとMo粒子を介して焼結することよりもMo−Si−B系合金粉末同士で焼結することのほうが高頻度となり、それによって気孔を形成する可能性が高くなる。ただし、前記のMoに対するMo−Si−B系合金粉末の配合比率が1.3を超える場合には、焼結体の硬度が高くなるため耐摩耗材料としてさらに優れた効果を発揮するが脆くなるため、延性も必要とする用途での範囲としては0.25以上1.3以下とするのがより好ましい。
【0075】
また、Moの他に、例えば、W、Ta、Nb、Hfのうち少なくとも1種の粉末を混合する場合には、Moに対するMo−Si−B系合金粉末の配合比率が0.25〜4.0の場合のMoとMo−Si−B系合金の体積比率に等しくなるように、W、Ta、Nb、Hfを混合すればよい。
【0076】
ここで、本願発明における各種特性の測定条件を記す。
【0077】
<本願発明粉末のX線回折の条件>
装置:(株)リガク製X線回折装置(型番:RAD-IIB)
管球:Cu(KαX線回折)
発散スリット及び散乱スリットの開き角:1°
受光スリットの開き幅:0.3mm
モノクロメーター用受光スリットの開き幅:0.6mm
管電流:30mA
管電圧:40kV
スキャンスピード:1.0°/min
【0078】
<本願発明粉末の酸素含有量、炭素含有量>
次に、Mo−Si−B系合金粉末の酸素含有量の測定は、LECO製酸素分析装置「TC600」を用いて行い、炭素含有量の測定は、堀場製作所製炭素硫黄分析装置「EMIA−810」を用いて行った。
【0079】
<本願発明粉末の粒度>
粉末粒度の測定は、スペクトリス製表面積測定装置「モノソーブ」を用いて行った。
【0080】
<本願発明粉末を用いて作製された焼結体の相対密度の算出方法>
相対密度は、次のようにして求めた。ここでいう相対密度とは、作製した試料(バルク)について測定した密度を理論密度で除して%で表した値である。
【0081】
以下、具体的な測定方法について説明する。
【0082】
(バルク密度の測定)
バルク密度はアルキメデス法により求めた。具体的には、空中と水中での重量を測定し、下記計算式を用いてバルク密度を求めた。
バルク密度=空中重量/(空中重量−水中重量)×水の密度
【0083】
(理論密度の測定)
まず、以下の手順でMo−Mo
5SiB
2合金の理論密度を求めた。
(1)ICP−AESにより、バルク中のMo、Si、Bの質量%を測定し、その値をmol%に換算した。
(2)
図2に示す三元系状態図上にSi、Bのmol%の組成点をプロットした(
図2の黒丸参照)。なお、バルクの組成は大部分がMoかMo
5SiB
2なので、Mo
5SiB
2の組成点とMo100%の組成点を結ぶ直線上にプロット点が乗る。
(3)
図2に示すように、前記プロット点とMo100%の組成点の間の距離をX、Mo
5SiB
2の組成点との間の距離をYとして、XとYの比率を100%換算する。このとき、XはMo
5SiB
2のmol比率、YはMoのmol比率となる。
(4)Moの原子量をa(=95.94g/mol)、Mo
5SiB
2の原子量をb(=105.9g/mol)とし、Moの密度をMa(=10.2g/cm
3)、理想的に組成調整されたMo
5SiB
2のバルク材の密度をMb(=8.55g/cm
3)とする。
(5)ここでMo
5SiB
2とMoの質量比は以下のように表される。
Mo
5SiB
2:Mo=X・b:Y・a
これより、合金全体の質量は以下のように表される。
合金全体の質量=X・b+Y・a
【0084】
また、合金全体の体積は以下のように表される。
合金全体の体積=(X・b/Mb)+(Y・a/Ma)
よって、合金の密度は、合金全体の質量/合金全体の体積で求められ、
理論密度Mt=(X・b+Y・a)/[(X・b/Mb)+(Y・a/Ma)]となる。
【0085】
<本願発明粉末を用いて作製された焼結体の硬度測定>
耐熱合金の硬度測定は(株)アカシ製マイクロビッカース硬度計(型番:AVK)を用い、大気中20℃にて測定荷重20kgを加えることにより、ビッカース硬度を測定した。測定点数は5点とし、平均値を算出した。
【0086】
<本願発明粉末を用いて作製された焼結体の0.2%耐力>
耐熱合金の0.2%耐力は、以下の手順により測定した。
【0087】
まず、焼結体を長さ:約25mm、幅:約2.5mm、厚さ:約1.0mmとなるように加工し、表面を#600のSiC研磨紙を用いて研磨した。
【0088】
次に、試料をピン間隔が16mmとなるようにインストロン社製高温万能試験機(型番:5867型)にセットし、Ar雰囲気下1200℃で、クロスヘッドスピード1mm/minでヘッドを試料に押し付けて3点曲げ試験を行い、0.2%耐力を測定した。
【実施例】
【0089】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
【0090】
(実施例1)
<粉末のX線回折による半値全幅の評価>
まず、(600)の半値全幅の異なる、Mo−Si−B系合金粉末を作製してMo粉末と混合して焼結体を製造し、相対密度と0.2%耐力を測定した。具体的な手順は以下の通りである。
【0091】
まず、Mo−Si−B系合金粉末を作製した。
【0092】
具体的には、まず、純度99.99質量%以上、Fsss法による平均粒度が4.8μmで酸素含有量が580ppmのMo粉末を43.4質量%、Fsss法による平均粒度が8.1μmで酸素含有量が8250ppmのMoSi
2粉末を14.3質量%、Fsss法による平均粒度が8.1μmのMoB粉末を42.3質量%の割合で配合し、乳鉢で混合し、混合粉末を作製した。
【0093】
ただし、前記MoB粉末の酸素含有量は78200質量ppmあったため、還元するために水素雰囲気で1150℃の加熱処理を行い、19800質量ppmにまで酸素量を低減させてから前記粉末混合に供した。
【0094】
次に、得られた混合粉末を水素雰囲気にて1250℃〜1800℃で1時間加熱処理し、合金粉末を得た。この工程における加熱処理温度を変えることで、Mo
5SiB
2の(600)の半値全幅を制御することができる。前記温度範囲1250℃〜1800℃であれば、最も低い温度の1250℃において前記半値全幅が最も大きくなり、温度を高くするほど前記半値全幅が小さくなる傾向を示し、最も高い温度の1800℃においては、前記半値全幅が最も小さくなる。
【0095】
次に、得られた合金粉末50gを乳鉢により15分〜120分解砕処理した。乳鉢はメノウ製のものを用い、回転数を7rpmとした。乳棒もメノウ製のものを用い回転数を120rpmとした。Mo
5SiB
2の(600)の半値全幅は、この工程における解砕時間を変えることでも制御することができる。前記解砕時間15分〜120分の範囲であれば、最も解砕時間の短い15分において前記半値全幅が最も小さくなり、解砕時間を長くするほど前記半値全幅が大きくなる傾向を示し、最も解砕時間の長い120分においては、前記半値全幅が最も大きくなる。
【0096】
このようにして加熱温度と解砕時間によりMo
5SiB
2の(600)の半値全幅を制御した粉末を、最後に#60の篩を用いて篩分し、Mo
5SiB
2の(600)の半値全幅が0.05deg.〜0.8deg.のMo−Si−B系合金粉末を作製した。
【0097】
次に、作製したMo−Si−B系合金粉末を44質量%、Mo粉末を54質量%、およびMoSi
2粉末を2質量%混合し、一軸式プレス機を用いて、温度20℃、成形圧3ton/cm
2の条件下で圧縮成形し、成形体を得た。
【0098】
次に、1800℃の常圧水素焼結により焼結体を作製した。
【0099】
作製したMo−Si−B系合金粉末の半値全幅、焼結体の相対密度および高温(1200℃)での0.2%耐力を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
表1において、粉末4のものに対して、以下の条件でX線回折を行った結果を、
図3に示す。
【0102】
この図に示した通り、作製したMo−Si−B系合金粉末は、Mo
5SiB
2の(213)、(211)、(310)、(114)、(204)回折ピークを有し、このピークは
図4に示すMo
5SiB
2のICDD記載のピークとも一致しており、得られた合金がMo
5SiB
2を主成分として含むことが明らかとなった。
【0103】
また、(204)のピーク強度が、前記(114)のピーク強度比より大きいこともわかった。
【0104】
さらに、半値全幅を評価するために、スキャンスピードを0.5°/minとし、他の条件は前記と同様とし、2θ=100deg.〜135deg.のスロースキャンを行い、
図5のピークデータを得た。この図における(600)の半値全幅は、
図6に示すようにピーク強度の半分の位置でピークの全幅を抽出し半値全幅を求めた。その結果、0.21deg.となり、また同様に、本発明の粉末は全て0.08deg.以上、0.7deg.以下の範囲内にあることがわかった。ただし、製造条件の一つである加熱温度が1750℃を超える比較例に示した粉末Aの場合や、比較例に示した粉末Bのように1350℃未満の場合には、前記(600)の半値全幅は、本発明の範囲外となり相対密度が低く、高温(1200℃)での0.2%耐力も低下することがわかった。
【0105】
一方、他の製法の比較例である粉末Cは、まずMo粉末(Fsss:4.8μm)を90.6質量%、Si粉末(Fsss:10μm)を5.3質量%、B粉末(Fsss:15μm)を4.1質量%混合した粉末を用意し、ガスアトマイズ法によりMo−Si−B系合金粉末を作製した例である。また、さらに別の製法の比較例である粉末Dは、Mo粉末(Fsss:4.8μm)を90.6質量%、Si粉末(Fsss:10μm)を5.3質量%、B粉末(Fsss:15μm)を4.1質量%混合した粉末を容器に投入し、アルゴンガス置換を行って鋼球をメディアとして使用し振動ボールミルにてMA処理を行った例である。これら既存方法で作製した粉末も、実施例1と同様の焼結条件で焼結体を作製した。粉末Aについては、Mo
5SiB
2の(600)の半値全幅が0.08deg.よりも小さくなり、粉末Bについては、0.7deg.よりも大きくなり、いずれの場合も相対密度が低くなり、高温での0.2%耐力も著しく低下することがわかった。
【0106】
これらの結果からから明らかなように、Mo
5SiB
2の(600)の半値全幅が0.08deg.以上、0.7deg.以下の範囲内とすることにより、Mo−Si−B系合金粉末を用いた焼結体の相対密度と高温での0.2%耐力を上昇させられることがわかった。
【0107】
<粉末粒度の影響の評価>
次に、加熱条件と開催条件の調整により、粉末粒度の異なるMo−Si−B系合金粉末をMo粉末と混合して焼結体を製造し、相対密度と0.2%耐力を測定した。具体的な手順は以下の通りである。
【0108】
まず、Mo−Si−B系合金粉末は、Mo
5SiB
2の(600)の半値全幅が0.08deg.〜0.7deg.の範囲で、かつ粉末粒度をBET法で測定した比表面積で表し、0.03m
2/g〜1.5m
2/gとしたものを作製した。ここで、粉末粒度は加熱温度、加熱時間および解砕時間で制御することができる。加熱温度を高くし、加熱時間を長くし、または、解砕時間を短くすると粉末粒径が大きくなり、BET法で得られる粒度の値は小さくなる。一方、加熱温度を低くし、加熱時間を短くし、または粉砕時間を長くすると粉末粒径は小さくなり、BET法で得られる粒度の値は大きくなる。
【0109】
このようにして作製した粒度がBET法で0.03〜1.5m
2/gのMo−Si−B系合金粉末を、前記と同様にMo−Si−B系合金粉末を44質量%、Mo粉末を54質量%、およびMoSi
2粉末を2質量%混合し、一軸式プレス機を用いて、温度20℃、成形圧3ton/cm
2の条件下で圧縮成形し、成形体を得た。
【0110】
次に、1800℃の常圧水素焼結により焼結体を作製した。
【0111】
作製したMo−Si−B系合金粉末の組成、焼結体の相対密度および高温(1200℃)での0.2%耐力を表2に示す。
【0112】
【表2】
【0113】
表2から明らかなように、0.05m
2/g以上、1.0m
2/g以下の範囲のMo−Si−B系合金粉末を用いた焼結体は、相対密度、高温(1200℃)での0.2%耐力の両方が、範囲外のものよりも高く、特に0.2%耐力は100MPa以上高かった。
【0114】
この結果から、粉末粒径を制御することにより、Mo−Si−B系合金粉末を用いた焼結体の相対密度と0.2%耐力を上昇させられることがわかった。
【0115】
<酸素含有量、炭素含有量の影響の評価>
次に、Mo−Si−B系合金粉末の酸素含有量を190ppm〜45300ppm、炭素含有量を40ppm〜1050ppmとして、前記と同様にMo−Si−B系合金粉末を44質量%、Mo粉末を54質量%、およびMoSi
2粉末を2質量%混合し、一軸式プレス機を用いて、温度20℃、成形圧3ton/cm
2の条件下で圧縮成形し、成形体を得た。ここで用いたMo−Si−B系合金粉末は、Mo
5SiB
2の(600)の半値全幅が0.08deg.〜0.5deg.の範囲で、かつ粉末粒度をBET法で0.05m
2/g〜1.0m
2/gとしたものである。ここで、Mo−Si−B系合金粉末の酸素含有量は、用いる原料粉末、特にMoB粉末の酸素含有量に影響を受けるため、MoB粉末の予備還元処理での加熱温度、または前記予備還元処理で投入する炭素粉末の量によって制御可能である。また、Mo−Si−B系合金粉末の炭素含有量は、前記MoB粉末の予備還元処理で投入する炭素粉末の量によって制御可能である。
【0116】
次に、1800℃の常圧水素焼結により焼結体を作製した。
【0117】
作製したMo−Si−B系合金粉末の酸素含有量、炭素含有量、焼結体の相対密度および0.2%耐力を表3に示す。
【0118】
【表3】
【0119】
表3から明らかなように、酸素含有量が200質量ppm以上、45000質量ppm以下、炭素含有量が50質量ppm以上、1000質量ppm以下の範囲のMo−Si−B系合金粉末を用いた焼結体は、範囲外の粉末を用いた焼結体と比べて相対密度が5%以上、0.2%耐力が100MPa以上高くなっていた。さらに前記範囲の中でも、酸素含有量が840質量ppm以上、21600質量ppm以下、炭素含有量が80質量ppm以上、220質量ppm以下の範囲のMo−Si−B系合金粉末を用いた焼結体は、0.2%耐力がさらに高くなることがわかった。
【0120】
この結果から、酸素含有量と炭素含有量を制御することにより、Mo−Si−B系合金粉末を用いた焼結体の相対密度と高温(1200℃)での0.2%耐力を上昇させられることがわかった。
【0121】
<本願発明粉末を用いた焼結体作成時の原料粉末の重量配合比率>
次に、Mo粉末に対するMo−Si−B系合金粉末の重量配合比率を0.2〜1.5として焼結体を製造し、相対密度と高温(1200℃)での0.2%耐力を測定した。具体的な手順は以下の通りである。
【0122】
まず、Mo−Si−B系合金粉末は、Mo
5SiB
2の(600)の半値全幅が0.08deg.〜0.5deg.の範囲で、かつ粉末粒度をBET法で0.05m
2/g〜1.0m
2/gとしたものを作製した。
【0123】
作製したMo−Si−B系合金粉末を、Mo粉末に対する重量配合比率で0.2〜5.0として、前記と同様にMo−Si−B系合金粉末、およびMo粉末を混合し、一軸式プレス機を用いて、温度20℃、成形圧3ton/cm
2の条件下で圧縮成形し、成形体を得た。
【0124】
次に、Mo粉末に対するMo−Si−B系合金粉末の重量配合比率が、1.5未満の場合は、1800℃の常圧水素焼結により焼結体を作製し、1.5以上の場合には焼結温度1750℃、圧力50MPaとしてホットプレスにより焼結体を製作した。
【0125】
作製した焼結体における、Mo粉末に対するMo−Si−B系合金粉末の重量配合比率、相対密度、室温硬度、高温(1200℃)での0.2%耐力および抗折力を表4に示す。
【0126】
【表4】
【0127】
表4から明らかなようにMo粉末に対するMo−Si−B系合金粉末の重量配合比率が0.25以上、4.0以下の範囲とすることにより、焼結体の相対密度が範囲外のものよりも高くなった。また、0.25以上、1.3以下の範囲では、高温での0.2%耐力が範囲外のものよりも高く、1.3を超え4.0以下の範囲では、室温硬度が範囲外のものよりも高く、曲げ試験におけるたわみ量が小さいため、0.2%耐力が測定できなかったが、抗折力で強度を評価したところ、範囲外のものよりも高強度であることがわかった。ただし、Mo粉末に対するMo−Si−B系合金粉末の重量配合率が、0.2と0.25のものについては、曲げ試験で破断せずに試験機の測定限界を超えたため抗折力を測定できなかった。
【0128】
この結果から、適切な重量配合比率とすることにより、Mo−Si−B系合金粉末を用いた焼結体の相対密度、高温での0.2%耐力、および抗折力を上昇させられることがわかった。
【0129】
<原料MoB粉末の予備還元処理の評価>
なお、以上の実施例においてMo−Si−B系合金粉末の製造に用いたMoB粉末は、酸素量7.82%のものを用いたが、これでも予備還元処理を施すことにより本発明の目的を十分に達成することができることを示した。しかしMoB粉末は、保管中に空気中の水分を吸着しながら酸化が進行し、酸素含有量が10質量%程度まで高くなってしまうこともある。そこで次に、MoBを予備還元する加熱処理の効果について詳述する。具体的には、酸素含有量9.8%のMoB粉末を800℃〜1450℃の温度で1時間加熱処理を行い、その後15分間乳鉢で解砕処理を行った後、酸素含有量を測定した。その結果を表5に示す。
【0130】
【表5】
【0131】
表5からわかるように、MoBを還元する加熱処理の加熱温度は、900℃から1300℃とすることにより、酸素量低減効果が得られ、800℃ではほとんど酸素量が低減せず、1450℃では粉末がボートに焼付き回収率が60%程度となって実用には不向きであることがわかった。
【0132】
この結果から、MoBを還元する加熱処理の加熱温度は、900℃以上、1300℃以下とすることが望ましいことがわかった。
【0133】
(実施例2)
実施例1においては、Mo粉末、MoB粉末、およびMoSi
2粉末を混合し、混合粉末を水素雰囲気中で加熱してMo−Si−B系合金粉末を作製した結果について詳細に説明した。
【0134】
次に、実施例2として前記混合粉末を、アルゴン、または、窒素などの不活性ガス雰囲気中で加熱してMo−Si−B系合金粉末を作製した結果について説明する。
【0135】
具体的には、Mo粉末は、実施例1と同じものを用いたが、MoB粉末については酸素量730ppm、MoSi
2粉末については酸素量2830ppmのものを用い、加熱時の雰囲気をアルゴン、窒素とし、それ以外は、実施例1に記載した方法と同様にしてMo−Si−B系合金粉末を製作した。ただし、原料MoB粉末の酸素量が十分低かったため、予備還元工程は実施しなかった。
【0136】
得られたMo−Si−B系合金粉末について評価した結果を表6に示す。
【0137】
【表6】
【0138】
表6に示したように、Mo
5SiB
2(600)の半値全幅、Si量、B量、BET法により測定した粒度は、前記実施例で示した水素雰囲気で合成した場合と同等であり、得られたMo−Si−B系合金粉末を用いて作製した焼結体の特性も同等であった。即ち、この結果により、MoB、MoSi
2粉末として酸素量の低い原料粉末を使用し、アルゴンまたは窒素等の不活性ガス雰囲気中で加熱してMo−Si−B系合金粉末を製作することにより、水素雰囲気中でなくとも、必要な特性を満足したMo−Si−B系合金粉末を製作できることがわかった。